【一緒に】球体関節人形【つくろう】
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#29 [七氏]
しかし、いつもらしくない前野さんの半ば強引な勧誘に誘われ、シブシブ承諾してしまったのだ。「じゃあ稲川ちゃん、明日TV局だよ。忘れないでよ!」そういって前野さんは自宅に一度帰って行った。自宅には、その日の朝まで元気だった父親が原因不明の死を遂げている事を知らずに。この事を知った稲川さんは、人形について少し自分なりに調べてみようと思い立った。従兄弟に続いて今度は前野さんの父親が死に、ますます状況は良くない。それを聞いたTV局の人も「それはますます凄い!」と、不謹慎にも大喜びしている。あの少女人形には何かあるはずだ・・・。稲川さんの耳に不気味な話が入ってきたのはその頃だ。行方不明となっていた、少女人形を製作した本人。彼が見つかったのだ。京都の山奥で一人仏像を彫っているというのである。しかし彼は東京から京都まで、いつどうやって行ったのか?何の目的があったのか?完全に記憶が失われていた。まるで世捨て人のように。その場所にTV番組のレポーターとして小松方正さんがスタッフと共に向かう事になった。小松方正さんを含めた関係者達は取材の前日、同じホテルに全員分を予約している。
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#30 [七氏]
しかし、ホテルに着いた関係者全員が今でも首を傾げるというのは、いざ皆で取材に行こうと皆で待ち合わせ場所に行っても、全員がそろわなかった事だという。同じ日に同じホテルである。インターホンもあるし、連絡はいくらでも取れるはずだ。現にスタッフの一人が、「これから皆で現場に向かうので、1階のロビーまで来て下さいね。」と、確認の電話を全員に入れたらしいのだ。後日稲川さんが小松方正さんに聞いてみたところ、小松さんの場合は集合の電話をもらってまもなく1階のフロントまで行ったのだが、誰もいないのでしばらく待っていたそうだ。それでも誰も来ないので場所を間違えたかと思い、スタッフ達を探しに周ったらしい。あるスタッフによれば、やはり集合の電話をもらってから間もなく1階のロビーまで行ったのだが誰もいない。つまり全員が全員「行き違い」だったのだ。結局この撮影ではスタッフ達が集まらない為に撮影は中止。全員で東京に引き上げたのである。14 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:41しばらくしてから、今度は一度スタッフだけ先行して現地に向かおうという事になった。しかしである。
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#31 [七氏]
TV局の人間が手配した新幹線の切符は、全員が全員、乗る時間、乗る電車、目的地がバラバラで使い物にならないという事態が起きていた。切符の手配をした人にもJRにも、まったく不手際はないのだ。
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#32 [七氏]
そういった混乱がありながらもTV局も今度は強行日程である。全員で到着するなり京都にいる人形の製作者にインタビューをして、日帰りで東京まで帰ってきたそうだ。ところが、東京に戻った彼らを恐ろしい出来事が待ち構えていた。自宅に戻ったこのTV番組のディレクターの奥さんの、首から下が真っ赤に腫れ上がっていた。原因は不明。そして新幹線の切符を手配した女性の息子さんが交通事故に遭って入院していた。更に脚本の構成家、彼の家で飼っている犬が、前足がガクガクになってしまってまったく立てない。同じく原因は不明。誰ともなしにそれらの出来事が起きた時刻を話してみると顔色が変わった。ほぼ同じ時刻だったのだ。稲川さんも含めたTVスタッフ達の間にも重苦しい雰囲気が立ち込めていた。しかし撮影は進んでしまっているし番組も放送の構成をされてしまっている以上続行しなくてはならない。稲川さんの家にもカメラは入って少し撮影して行ったそうだ。そしていよいよ、今度はTV局のスタジオ収録の日がやって来た。収録はそのTV局の最上階にあるリハーサル室で行われる事となった。15 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:42
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#33 [七氏]
スタジオ内のほぼ中央にあるイスに腰掛けて合図を待つ。目の前のカメラを操作している人や照明さんは、稲川さんとは旧知の間柄。和やかに準備は進む。やがて開始の合図が出て収録が始まった。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「ごめ〜ん。カメラ止まっちゃった。」仕方なく別のカメラを持ってきて撮影は再開された。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「・・・また止まっちゃった・・・。」故障が立て続けに起きてしまったのだ。今現在使えるカメラがここには無い、という状況になった為、倉庫においてある古いカメラを持ってくる事となった。用意されたカメラは、太いワイヤーの付いた巨大なカメラ。今から20〜30年前くらいに使われていたようなカメラである。しばらくのセッティングの後、撮影は再び始まった。しかし、この頃になると稲川さんを含めたその場にいる人間たちの間にいいじれぬ恐怖が漂っている。そうでなくても色々な事故や不吉な出来事が起きているお芝居の話であり、今はその話を扱うTV局にも降りかかってきているのだ。
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#34 [七氏]
しかし稲川さんは恐怖を我慢して気分を落ち着かせ、冷静に話し始めた。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!突然リハーサル室の扉を叩く音がスタジオ中に響き渡った。カメラは回っている。外の壁には「本番収録中」を知らせる赤いランプが点灯している。それにそもそもここはTV局である。そんな事をする人間はTV局内には一人もいない。しかし扉を叩く音は段々と大きくなって行く。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!16 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:43稲川さんもその音のあまりの大きさに驚きながらも、カメラは回り、本番の撮影中であったため話を続けた。しかし、ふと稲川さんは視線を感じた。番組のディレクターである。彼は稲川さんの様子を見て、観客を見て、スタッフを見た。明らかに困惑しているのである。尚も扉を叩く音は鳴り止まない。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!するとディレクターが真っ青な顔をしながら扉の方に向かって走って行き、扉を勢いよく開けた。バーン!!!誰も居ないのである。
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#35 [七氏]
現在稲川さんたちが居るここのスタジオは通称「Aリハーサル室」と呼ばれており、廊下を挟んだ向かい側にもう一つ「Bリハーサル室」がある。しかしこの時「Bリハーサル室」は使用されておらず、扉には鍵がかかっていた。さらに、この階は廊下が1本道で、奥の突き当たりにエレベーター、そしてエレベーターの横に階段が一つあるだけで他に隠れるような部屋は無いのである。それにも関わらず誰も居ないのだ。パタパタパタッ・・・!と走り去るような音が聞こえるのであればまだ、いい。そんな音すら何も無かったのだ。結果的にこの番組は、その後関係者達やTV局に事故があまりにも多発したために収録は中止。放送もされる事は無かった。しかししばらくすると、今度は東京にあるもっと大きなTV局から稲川さんの元に依頼があった。その少女人形にまつわる色々な怪奇な出来事を、紹介してくれというこの前のTV局とほとんど同じような内容であった。当時稲川さんはこのTV局で放送されていた芸能人の私生活追跡!みたいな番組で突撃レポーターといった役で出演していた。そして時期も丁度夏場であった為、この番組のディレクターが稲川さんに声をかけたのだ。
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#36 [七氏]
稲川さんもあまり深く考え無いようにしていたため、これを承諾した。17 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:45そして収録の日、TV局に着いた稲川さんが楽屋で休んでいると前野さんが例の人形を大事そうに抱えて到着した。その人形を見たとき、稲川さんはある事に気が付いた。人形の髪が伸びているのである。以前稲川さんがその人形を見た時には、おかっぱのセミロングであった髪が、この時点では完全に肩にかかっているのである。一瞬自分の気のせいかとも思った稲川さんだったが、どうにも釈然としなかったらしい。やがて前野さんは、楽屋にいるメイクさんからクシを借りて人形の髪をとかし始めた。その様子をなにか背筋に寒い物を感じながら見ていた稲川さんに、前野さんが話しかけてきた。前野さんは当時51歳であった。「他の人形は売ったっていいんだけど、この人形とだけは絶対に別れられないからね・・・。」尚も前野さんは笑顔で人形の髪をとかしている。その後リハーサルが行なわれ、45分後に本番が始まった。
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#37 [七氏]
この番組は生放送である。しかし本番が始まったとたん、停電になってしまった。他のスタジオや調整ルームに連絡してみると、不思議な事に他の場所は停電になっていなかった。やがて電力も回復し、あらためて本番が始まる事となった。人形には紙風船が付けられてイスに置かれ、床には玉ジャリが敷かれ、背後に黒い大きな幕が垂れ下がっている。そして番組司会の野村さんという人物が「次は火曜日に出演している稲川さんのお話による、人形にまつわる怪奇なお話です。」といった紹介をした後に人形が映り、CMに入る・・・という段取りであったのだが、人形が映った瞬間に背後に下げてあった幕を天井につないでいる何本ものヒモがスパッ!!!と音を立てて一斉に切れ、幕が床に落ちてきたのだ。1本1本、プツンプツンと切れるのではなく、同時に切れたのである。そして落ちてきた幕が人形に当たり、人形はあたかも人間が床に崩れ落ちるかのようにガクガクッと体中の間接を動かしながら床に落ちた。そして次の瞬間、TV局においては絶対に起きてはいけない、というよりは起きないはずの事が起きてしまった。天井に設置してある照明が落ちてきたのだ。
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#38 [七氏]
照明一基とはいえ、一つ一つは大変な重さである。それ故落ちてきたらこれほど危険な物は無いため、絶対に落ちないように鎖で何重にもつなぎ、固定してあるのだ。落とそうにもなかなか落ちない物なのである。それが落ちてきてしまった。さらに、照明が落ちてきた地点とは離れた場所にあったカメラが壊れてしまったのだ。そして、この時スタジオに居たスタッフが一人、後日亡くなったそうだ。原因は不明。この番組にアシスタントとして出演していた女性のタレントも、後日交通事故を起こし、雑誌で一斉に騒がれた為に、その後芸能界から完全に引退してしまった。18 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:46こういった事件が次から次へと起きる事を知った稲川さんは、前野さんに相談を持ちかけた。「もう、この人形を人目にさらすのはやめよう。舞台の事もその後の事件の事も、この人形にまつわる色々な不幸を番組で話すのも、いい加減にやめよう。」という事であった。それほどまでに色々な事が起きすぎていたのだ。
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