黒猫の棲むところ

「…まぁ何でもいいけど。
あんたさ、名前は？」

「あ…七衣です。」

「ふぅん…」

「あの…貴方は…？」

「俺？俺は名前なんていらないし」

「えー…でも、呼びづらいですよ…」

「…呼び名くらいはある
団員や客からは…」

そう言うと彼は、
少しずつ顔をあげてきた私の目を見て
こう言った。

「黒猫、って呼ばれてる」

「……黒猫？」

黒猫って…
さっきの傷だらけの
猫を思い出す。
感じは似てる気もするが、

でも…
まさか、ね。

「正確には、それをもじって
クロ、とかネコ、とかだけど。
まぁあんたも好きに呼べばいい」

「…あ、はい…
それでさっきから言ってる
劇団とか団員…て…？」

？「それは僕が説明しよう！」

ｶﾞｻﾞｯ　という音と同時に、
男性が一人、勢いよく
林の陰から飛び出してきた。

七「えッ??!!」

猫「…うぜー…」

？「やぁ、初めまして
可愛らしいお嬢さん♪
時にネコくん、
今うぜーって言った？
団長の僕に対して、
今うぜーって
言ったあああぁぁあ!!!!!!」

猫「うっせーんだよ狐(ｷﾂﾈ)!!
いい大人がそんくらいで
半べそかいてんじゃねえ!!」

狐「ふん、君も狼(ﾛｳ)くんも
いい大人、いい大人って…
僕はまだ25ですぅー
ピチピチなんですぅー
結婚なんてまだまだまだ…」

猫「誰もてめぇの結婚論なんて
聞いちゃいねーんだよ、カス」

狐「うわ、今度はカスって
言ったあああぁぁあ!!!!!
ふんだ、もういいもんね。
次の舞台の主役は君じゃなく
狼くんに任せるもんね」

猫「好きにしろ」

狐「ふん、強がっちゃって…
時にお嬢さん」

七「…え？あ、はい！」

狐「僕と結婚しない？」

ﾎﾞｺﾂ！

黒猫さんが、
狐と呼ばれた人を殴った。