黒猫の棲むところ
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#536 [イリア]
猫さんに手を引かれ、
大きなテントの裏口に回る。
するとさっきの川が見え、
その近くに人溜まりができていた。
:09/03/28 12:53
:W61P
:☆☆☆
#537 [イリア]
猫「――……チ、また来てやがる」
七「?…誰がですか?」
猫「この劇団のファンだよ、
移動劇団ッつっても噂は流れる。
人気があるって、大変だね本当。」
そう言うと猫さんは
私と繋がれていた手を離した。
:09/03/28 12:53
:W61P
:☆☆☆
#538 [イリア]
「――……ッッ??!//黒猫さん??!!//」
人溜まりの中から声がした。
猫さんは見たことのない笑顔で
ヒラヒラと手をふる。
:09/03/28 12:54
:W61P
:☆☆☆
#539 [イリア]
七「――……何ですか、その笑顔。」
猫「クス、役者ってね、
イメージが大切なんだよ」
:09/03/28 12:54
:W61P
:☆☆☆
#540 [イリア]
何十人もの人だかりが
一気に私たちのほうに流れてくる。
「キャァッ!!//やっぱり
本物のほうが綺麗だわ!!///」
「噂通りのお方!!///」
「お綺麗ですねぇ//
何か贈り物をしたいのだけど、
お好きなものは何かしら?///」
:09/03/28 12:55
:W61P
:☆☆☆
#541 [イリア]
次々とファンの人の声がする。
よく見ると向こうのほうで
狼さんもファンの人に囲まれている。
――……麗さんの姿はない。
麗さんどうしたんだろ…
もう先に来てると思ったのに…
:09/03/28 12:56
:W61P
:☆☆☆
#542 [イリア]
私がそんなことを考えてる間にも
ファンの人たちの質問は続く。
「私、前に一度違う街で
この劇団の講演を見たことあって//
そのときから黒猫さんの大ファンで!!//
覚えています?あれは去年の今頃、
セパナ会館での講演で…//」
:09/03/28 12:57
:W61P
:☆☆☆
#543 [イリア]
猫「―…『夢の街、スレライナ』」
猫さんはそう言うと
妖艶に微笑んだ。
:09/03/28 12:57
:W61P
:☆☆☆
#544 [イリア]
「そうです!!//流石だわ!!//
私あのときの黒猫さんの最後の台詞、
あれを聞いたとき本当に鳥肌が…//」
:09/03/28 12:58
:W61P
:☆☆☆
#545 [イリア]
:09/03/28 12:59
:W61P
:☆☆☆
#546 [イリア]
猫『コレが本物の、我らの故郷。
スレライナのあるべき姿だ。
王、兵、そして群集。
殺戮(サツリク)と哀話(アイワ)。
壁を創(ツク)ったのは誰だ??』
:09/03/28 12:59
:W61P
:☆☆☆
#547 [イリア]
いつもよりずっと澄んだ声。
思わず聞き惚れる。
しばらくすると
またファンの人たちが叫び始める。
:09/03/28 13:00
:W61P
:☆☆☆
#548 [イリア]
「キャァッ!!//それです!!//
あぁもうどうしましょう!!//
明日の講演が待ちきれないわ//」
猫「―…クスッ、有難う。
僕も今から、待ち切れません。」
誰だよ僕って。
ちょっと性格違い過ぎません?
:09/03/28 13:01
:W61P
:☆☆☆
#549 [イリア]
猫さんの声に、また人だかりが増える。
っていうか、あきらか私邪魔だよね。
そう思い、一歩後ろに下がる。
少しの間、離れていよう。
そう思った、そのとき。
:09/03/28 13:02
:W61P
:☆☆☆
#550 [イリア]
狐「はいはいはい!!」
狼さんの周りの人だかりで、
狐さんの声がした。
狐「お客様、これから僕らは
最後の練習に入ります。
一度、ご退席願えますか?」
ニコッと笑い、狐さんが言う。
:09/03/28 13:02
:W61P
:☆☆☆
#551 [イリア]
「狐さんだわ//」
「どうしてあれほどのお顔なのに、
監督をしていらっしゃるのかしら??//」
「是非一度、演技している姿
拝見してみたいものですわ////」
遠くから声が聞こえる。
あぁやっぱ狐さんもモテるんだな。
かっこいいもんなー
:09/03/28 13:03
:W61P
:☆☆☆
#552 [イリア]
猫「―…ッて、いうことだから…」
「あの!!//練習風景
少しだけ見せて頂けません??///
そうしたら私たち、
すぐに帰…「それは嫌だな…」
:09/03/28 13:03
:W61P
:☆☆☆
#553 [イリア]
ん?猫さんのファンに対する
初めての否定的な言葉。
ついに本性だすのかな?
:09/03/28 13:04
:W61P
:☆☆☆
#554 [イリア]
「―…あら、ごめんなさい……
私たち少し調子に―…「だって」」
また猫さんがファンの人の声に
声を被せる。
:09/03/28 13:05
:W61P
:☆☆☆
#555 [イリア]
猫「―…明日の楽しみが、
なくなるでしょ?
それに僕、まだ台詞
全部覚えられてなくて…
…恥ずかしいから、嫌だな。」
:09/03/28 13:05
:W61P
:☆☆☆
#556 [イリア]
その甘い声に、私もファンの人たちも
顔を赤くする。
僕って誰!!!
僕って誰???!!!////
っていうか台詞なら
もう覚えてるでしょ??!!///
:09/03/28 13:06
:W61P
:☆☆☆
#557 [イリア]
「あらまぁ////そうでしたの////」
ファンの人たちが、
また甘ったるい声を出す。
「劇団トップ人気の黒猫さんでも
そんなこともあるのねぇ///」
「それはやっぱり、まだ18歳だもの//」
「ほら!私たち、お邪魔にならないよう
早く帰らなくちゃ!!//」
:09/03/28 13:07
:W61P
:☆☆☆
#558 [イリア]
改めてさっきの、狼さんが
言っていた言葉の意味が分かる。
七「――……悪魔だ…///」
「…ところで貴女、
―…一体、どなた?」
:09/03/28 13:08
:W61P
:☆☆☆
#559 [イリア]
私に声が向けられる。
突然のことに驚いた。
七「……ふぇっ??!!あ、私ですか?
えーと私は………」
猫さんのマネージャー?
いやぁ、そんなこと言ったら
何か色々ややこしいよな。
:09/03/28 13:09
:W61P
:☆☆☆
#560 [イリア]
猫「新しいスタッフなんだ。
大道具の白(ハク)って奴に惚れて
この劇団に入ったみたい。
動機不十分だよねー」
猫さんがアハハと、幼い顔で笑う。
:09/03/28 13:10
:W61P
:☆☆☆
#561 [イリア]
すいません、ハクって誰ですか。
「あらぁ、そうなの//」
「いやね、黒猫さんと一緒に
歩いてきたもんだから、
私ったら、てっきり…//」
またガヤガヤと騒ぎだす。
猫さんは私の耳元で囁(ササヤ)いた。
:09/03/28 13:11
:W61P
:☆☆☆
#562 [イリア]
猫「あんた、ちょっと離れてて。
こいつら、俺とあんたのこと
疑ってるみたいだから。」
七「……はぁ」
猫「狼のほうが片づいたら
狐が来て追っ払ってくれるから」
:09/03/28 13:12
:W61P
:☆☆☆
#563 [イリア]
そう言われて私は猫さんと離れ
人だかりの少ないほうに歩き始めた。
――…それにしても。
:09/03/28 13:12
:W61P
:☆☆☆
#564 [イリア]
何だよさっきの猫さんの態度。
いくら何でも、サービス精神
旺盛(オウセイ)すぎでしょ!!
:09/03/28 13:13
:W61P
:☆☆☆
#565 [イリア]
訳もなくイライラする。
あの声で舞台の上に立ってるのかな。
そんなのファンができて当然じゃん。
:09/03/28 13:13
:W61P
:☆☆☆
#566 [イリア]
七「……猫さんにとっては私も
うるさいファンの一人なのかな…」
:09/03/28 13:13
:W61P
:☆☆☆
#567 [イリア]
そう考えると、
どうしようもなく切なくなる。
無意識に頬に冷たい涙が伝う。
七「……?…涙?
どんだけ女々しいんだよ私…」
:09/03/28 13:14
:W61P
:☆☆☆
#568 [イリア]
ファンの人たちの声、聞きたくない。
私はそう思い、森の中に足を進める。
危険かもとは思ったが、
まぁ奥まで入らなかったら
大丈夫だろう。
:09/03/28 13:14
:W61P
:☆☆☆
#569 [イリア]
ザワザワザワ…
森が風で揺れてる。
少し肌寒い。
:09/03/28 13:14
:W61P
:☆☆☆
#570 [イリア]
「――……ッめ…たら」
?
誰かの声が聞こえる。
こんなところで…誰…?
そう思い、声のするほうに歩く。
すぐに知ってる顔が見えた。
:09/03/28 13:16
:W61P
:☆☆☆
#571 [イリア]
七「――…麗さん…」
そこには麗さんと、
麗さんを囲う男性4人。
ファンの人かな?
でも何か様子が――……
私は木の影に隠れ、様子を窺(ウカガ)う。
:09/03/28 13:16
:W61P
:☆☆☆
#572 [イリア]
男「だからぁ、いいじゃん
俺たちだってさー
もうアスタリスク劇団の一員だよー?」
男「今日の晩飯んとき
正式に発表されるみたいだけどー
アスタリスク劇団とオリオン劇団、
次の舞台から合併なるんだってぇ」
:09/03/28 13:16
:W61P
:☆☆☆
#573 [イリア]
:09/03/28 13:17
:W61P
:☆☆☆
#574 [イリア]
男「だからぁ?
だからどうってことないけどー
まぁ仲良くしようってことぉ〜
…こないだみたいにさー」
こないだ?
こないだって何?
:09/03/28 13:17
:W61P
:☆☆☆
#575 [イリア]
麗「――……ッッ!!
意味の分からないことを言うな!!
私は別に何も――……ッッ!!」
男「キスしたじゃぁ〜ん」
男が笑いながら言った。
:09/03/28 13:17
:W61P
:☆☆☆
#576 [イリア]
:09/03/28 13:18
:W61P
:☆☆☆
#577 [イリア]
男「あんときはさぁ
途中で邪魔入ったし
あんだけで終わったけど〜…
あんただってさ、他の奴らに
知られたくないだろ?
…仲良くしよって、そういうこと。」
:09/03/28 13:18
:W61P
:☆☆☆
#578 [イリア]
ギャハハハハハ……
男たちの下品な笑い声が響く。
麗さんの体の痣(アザ)。
最近元気がないって言った
狼さんの言葉。
――…………まさか。
:09/03/28 13:19
:W61P
:☆☆☆
#579 [イリア]
思わず飛び出そうになる。
でも向こうは体の大きい男性4人。
私が出ていっても、何もならない。
:09/03/28 13:20
:W61P
:☆☆☆
#580 [イリア]
誰か。
誰か呼んでこよう。
誰か。
私は走ってさっきの場所に戻る。
:09/03/28 13:20
:W61P
:☆☆☆
#581 [イリア]
狐さんは猫さんのファンの
説得をしていた。
狼さんはファンの人たちを
狐さんに帰されたのか、
食事の準備を手伝っている。
:09/03/28 13:20
:W61P
:☆☆☆
#582 [イリア]
七「――ハァ…ッッ!!狼さん!!!!!」
狼「ん?何だ新入り、
そんなに慌てて。
ところでお前、麗知らないか?
一緒に来てたんじゃ……」
七「いいから!!早く来て!!!!!」
:09/03/28 13:21
:W61P
:☆☆☆
#583 [イリア]
私は狼さんの腕を引っ張ると
森のほうに走り出す。
遠くで人だかりに囲まれた猫さんが
一瞬こっちを見た気がしたが、
今はそんなこと関係ない。
:09/03/28 13:21
:W61P
:☆☆☆
#584 [イリア]
狼「……うぉ!!何だ何だ!!!!
何かあったのか?」
七「――ハァ…麗さんが…ッッ!!」
狼「麗?」
その言葉に狼さんがピクッと反応する。
:09/03/28 13:22
:W61P
:☆☆☆
#585 [イリア]
狼「麗に何かあったのか?
場所は?場所はどこだ?」
七「…ハァ…ハァ…今、向かってます!!
そこ…その大きな木の向こう…ッッ」
私のその言葉を聞くと
狼さんは私を置いて走り出した。
:09/03/28 13:22
:W61P
:☆☆☆
#586 [イリア]
間に合ったかな――………ッッ??
狼さんが木の近くで走るのをやめた。
七「??!どうしたんですか??
麗さん、大丈夫――……ッッ」
狼「…新入り…」
狼さんの声が響く。
:09/03/28 13:23
:W61P
:☆☆☆
#587 [イリア]
狼「―…誰も、いないぞ?」
え……?
私も狼さんの横に着き、
さっきと同じ場所で前を見る。
七「――……嘘……」
:09/03/28 13:24
:W61P
:☆☆☆
#588 [イリア]
するとさっきまで
麗さんと男性がいた場所には、
狼さんの言うとおり、
誰もいなかった。
:09/03/28 13:24
:W61P
:☆☆☆
#589 [イリア]
七「……さっきまで確かに…」
麗「――……何がよ?」
後ろから、麗さんの声。
驚いて後ろを振り向く。
:09/03/28 13:25
:W61P
:☆☆☆
#590 [イリア]
狼「――…麗」
七「…麗さん……」
麗「狼、あんた馬鹿じゃないの?
いきなり走り出すから、
何かと思ってついてきたら…
…私がなに?私はずっと
テントの傍(ソバ)にいたわ。
…あんた、雨原に騙されて…」
七「……違うッッ!!!!」
私が叫ぶ。
:09/03/28 13:25
:W61P
:☆☆☆
#591 [イリア]
七「何で嘘つくんですか??!!
さっき確かにここで、
麗さんと男性4人で…
何か話してたじゃないですか!!
―……麗さん、震えてた!!
何で言えないんですか……ッッ!!」
:09/03/28 13:26
:W61P
:☆☆☆
#592 [イリア]
嫌われてもいい。
一生、口をきいて貰えなくてもいい。
だから、本当のこと
狼さんに話してよ。
こんなに麗さんのこと想ってる、
狼さんに全部話してよ。
:09/03/28 13:27
:W61P
:☆☆☆
#593 [イリア]
麗「――……何この子?きちがい?
…だから嫌なのよ、人間って「麗」」
狼さんの声が、
麗さんの言葉を遮(サエギ)る。
:09/03/28 13:31
:W61P
:☆☆☆
#594 [イリア]
麗「…何?まさかあんたも
こんな子の言うこと信じてるの?」
狼「新入りの言うこと、
あながち嘘には聞こえない。だけど
――……俺は、お前を信じてる」
狼さんの声が響く。
麗さんは狼さんから目を背けた。
:09/03/28 13:31
:W61P
:☆☆☆
#595 [イリア]
麗「…なにその台詞?
明日の舞台にそんな台詞
あったかしら?」
狼「―…お前を、信じてる。
だから今ここで、一つ約束して欲しい」
:09/03/28 13:32
:W61P
:☆☆☆
#596 [イリア]
風が吹いてる。
あぁ、さっきまで雨が降ってたもんな。
:09/03/28 13:33
:W61P
:☆☆☆
#597 [イリア]
狼「――……何かあったら、
絶対俺に言うこと。
どんなことでも、必ず。」
狼さんを見る。
強く意志のある赤い瞳は
猫さんとは違う美しさを持つ。
:09/03/28 13:33
:W61P
:☆☆☆
#598 [イリア]
麗「――……何で私が…」
狼「約束だぞ、麗」
狼さんの気迫に押されたのか、
麗さんがコクリと頷く。
:09/03/28 13:33
:W61P
:☆☆☆
#599 [イリア]
狼「……よし、それじゃあ
今度こそ本当に飯にしよう!!
猫のファンは帰ったかな?
あいつのファンはしつこくて困る、
まったくあんな悪魔の
どこにそんなに惚れるのか…
行くぞ!麗!!
新入りもご苦労だったな!!!!」
:09/03/28 13:34
:W61P
:☆☆☆
#600 [イリア]
そう言って狼さんはまた
白い歯を見せてニカッと笑う。
:09/03/28 13:34
:W61P
:☆☆☆
#601 [イリア]
――……本当にこれでいいのかな…
私はそう考えながら
歩き始めた二人の後を追った。
:09/03/28 13:35
:W61P
:☆☆☆
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