BLUE LETTERS
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#137 [我輩は匿名である]
 



目覚めたら、そこは仕事場の机の前だった。
何人かの部下達が、慌てて視線を自分達の仕事へと戻して縮こまった。

以前は仕事に関して他人にも、また自分にも厳しかった彼。
ばつが悪そうに、一度髪を乱暴にかいて机に直った。
 

⏰:09/08/07 22:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#138 [我輩は匿名である]
 

ふ、と。

彼は自分に向けられる視線に気付いた。

真っ黒な瞳が印象的な、凛とした雰囲気の青年がこちらをじっと伺っている。

そして青年は彼に恭しく近づいた。
 

⏰:09/08/07 22:03 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#139 [我輩は匿名である]
 




びっ、と冷たくて強い風が彼と青年の頬を叩くようにふいた。

二人は仕事場の屋上にいた。

 

⏰:09/08/07 22:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#140 [我輩は匿名である]
 
誘ったのは青年のほうだった。
しかし青年は何も話さず握った缶コーヒーを徒に玩んでいる。少し緊張しているようでもある。


「佐藤君――」


堪らず口を開いたのは彼のほうだった。
勿論寒さに、ではない。

 

⏰:09/08/07 22:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#141 [我輩は匿名である]
 

「俺、辞めませんから。頼まれたって、先生の傍から離れたりしませんから」


名前を呼ばれ、青年は弾けるように堰を切ったように言った。

 

⏰:09/08/07 22:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#142 [我輩は匿名である]
 
「…この事務所を閉める気はないよ。僕と妻の夢だったんだからね」


その旨を伝えると青年は幾分か安心した表情を浮かべた。
可愛いな、彼は素直にそう感じたが口にはしなかった。

 

⏰:09/08/07 22:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#143 [我輩は匿名である]
 

「でも、君も知っているだろう?今月に入って6人の辞表を受け取った。…先月は4人だ」


「…先生のせいじゃ、」


「僕のせいさ。僕はここの責任者だ。なにがあっても君や部下を守る義務がある」


彼の瞳は、いつもの穏やかな彼からは想像もつかないほど強く頑なものだった。青年は一瞬怯み、そしてまた言葉を失った。
 

⏰:09/08/07 22:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#144 [我輩は匿名である]
 

――青年は昔からそうだった。
議論になると、決まって口を閉ざす。しかしそれは青年が臆病で頭の回りが遅いからではない。寧ろその逆で、青年は実に聡明で、そして心優しい。

青年は探しているのだ。

人を傷付けない言葉、人を慈しむ言葉を。

⏰:09/08/07 22:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#145 [我輩は匿名である]
 
彼にも、そんな青年の不器用な気遣いはきちんと伝わっていて。


「…これから人数が減った分、忙しくなる。君はまだ学生で自分の事だけでも大変なのは理解しているつもりだ。――それでも、僕についてきてくれるかい?」

青年は弾かれるように顔を上げ彼を見た。
黒闇の瞳が一瞬輝き、そして青年は大きくゆっくりとうなづいた。
 

⏰:09/08/07 22:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#146 [我輩は匿名である]
 
それから彼と青年はみんなが帰宅した後も仕事場に残り、仕事を続けていた。

以前の彼は悲しみを仕事をすることで紛らわしていた。
妻を失った、大きすぎる悲しみを。

しかし今は違う。全てを割りきったわけではなかったけれど、少なくとも今、隣にいる青年の存在は彼にとって大きな支えになっていた。
 

⏰:09/08/07 22:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


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