黒猫の棲むところⅡ

麗「て、あんたと話してる暇なんてないの！！あと何分？衣装かして！！」

狐「きゃー☆麗ちゃんったら、すっかり先輩っぽくなっちゃって☆生きてるうちに君の心の成長が見れて、僕しあわ …」

麗「邪魔、狐」

衣装「さぁさ！レディーのお着替えの時間ですわよ！男性の方は、ご退室願いますわ！！」

狐「ちぇ、別に麗ちゃんの裸なんて見慣れてるって。小さい頃、誰がお風呂にいれてあげてたと思って……」

麗「あんたに入れてもらった覚えはない！！」

ｶﾞﾝｯ!!!

麗さんが出ていく狐さんに向かって、近くにあった箱を投げつける。

……こ、怖い……汗

狐さんの「急いでね～～」という、いつも通りのおちゃらけた声が遠くに聞こえる。

衣装「サイズ、大丈夫ですね？」

麗「えぇ、ありがと」

振り向くとそこには、美しい衣装を纏(ﾏﾄ)った綺麗な人が立っていた。

衣装「お化粧のほうなんですけど、麗さん。時間が……」

麗「仕方ないわ、前半はすっぴんで。今回の劇場は客と少し離れてるし、バレやしない。休憩の時にするから、用意だけしといて。」

衣装「はい。」

扉の向こうから、麗さんを呼ぶ声がする。

衣装「時間です！麗さん早く！」

麗「……えぇ」

そう言うと衣装さんたちは、足早に部屋を出ていった。

七「…頑張ってくださいね、麗さ…」

言葉につまる。
目の前の綺麗な人は……微かにだけど、震えていた。

七「……麗さ…っ!」

麗「もひとつ、あったわ」

私の声が、麗さんによって遮られる。

七「……え？」

麗「…どうしても舞台を休めない理由」

麗さんは震える手を固く結び、足を進める。

扉に手をかけ、ゆっくりと私のほうに振り返る。