黒猫の棲むところU
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#198 [イリア]
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狐「 ど こ 行 っ て た の ☆ ? 」
:09/11/30 20:26 :W61P :☆☆☆
#199 [イリア]
狐「ねぇ何?何なの?時計見える?いま何時?9時48分だって。ねえ、猫(ネコ)くん開演は何時からだっけ?」
猫「10時」
:09/11/30 20:26 :W61P :☆☆☆
#200 [イリア]
狐「流石っ!我がアスタリスク劇団きっての花形男優っ!そんな講演開始時間を間違えるなんてねぇ、そんな ま さ か っ ☆ 笑
ところでそんな講演時間まで後何分?はい狼(ロウ)くん」
狼「12分」
:09/11/30 20:27 :W61P :☆☆☆
#201 [イリア]
狐「あっはっはっ。流石だね!ヒューっ!それでさ、その舞台の主役は誰だったかな?準主役は誰だったかな?ん?え?何でそんなびしょ濡れなの?何でそんなボロボロなの?何でそんな―……」
おちゃらけ気味だった狐さんの瞳が、暗くなる。
:09/11/30 20:27 :W61P :☆☆☆
#202 [イリア]
狐「―……何でそんな、重傷なの。そこの人たち…」
そう言って、互いに支え合いようやく立っている男たちを睨む。
:09/11/30 20:27 :W61P :☆☆☆
#203 [イリア]
男「…ヘッ…問答無用で俺たちが悪役かよ…狐さんよお……」
狐「君たち、元オリオン組だよね…ま、何となくどんな状況かは分かるよ。後でたっぷり話は聞かせてもらう。たっぷりとね。」
:09/11/30 20:28 :W61P :☆☆☆
#204 [イリア]
そう冷たく言い放つと、狐に指示され、他の大道具の人たちに連れられて男たちは私たちの視界から消えた。
:09/11/30 20:29 :W61P :☆☆☆
#205 [イリア]
狐「―……お疲れ様。本当は休ませてあげたいんだけど、代わりはいないんだ。……残り11分、出れる?」
猫「当然」
狼「当たり前だ」
:09/11/30 20:30 :W61P :☆☆☆
#206 [イリア]
そう言うと猫さんと狼さんは、足早に部屋を後にする。
部屋に残ったのは、私と麗さんと狐さんと、衣装さん数人だけ。
:09/11/30 20:30 :W61P :☆☆☆
#207 [イリア]
麗「衣装は?流石にシャワー浴びる時間はないわね、タオル貰える?」
七「れっ…麗さんも出るんですか?!」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
だってさっきまで、あんな…
精神的にきついんじゃあ……汗
:09/11/30 20:30 :W61P :☆☆☆
#208 [イリア]
麗「……当たり前でしょ、狐の言葉聞いてた?代わりなんていないの。私の代わりなんて、いる訳ないでしょ」
さっきまでとか違う、昨日までの高飛車な言い方。
:09/11/30 20:31 :W61P :☆☆☆
#209 [イリア]
七「……代わりはいなくても…でも、さっきまであんなことがあって…そこまでしてやらなくてはいけない、舞台なんですか…?!」
麗さんが私を見据える。タオルで口元を隠しているので表情までは分からない。
:09/11/30 20:31 :W61P :☆☆☆
#210 [イリア]
麗「―…あんたって本当、初心者。別に私たちが意味もなく、劇団稼業してると思ってる?ただでさえ妖との問題で忙しいってのに。本当は大人しくしときたいわよ。」
七「……?……じゃあ何で、わざわざ目立つようなことするんですか……?」
:09/11/30 20:32 :W61P :☆☆☆
#211 [イリア]
麗「…あいつら(妖)は……獣だからね、私たち(半妖)が身を潜めてると誰彼構わず襲い出す。血がそうさせる、止められないの。
……わざと、目立ってるのよ。関係ない人間への、被害を減らすため…そして何より、凶悪な妖の情報を集めるため……ま、他にも色々あるけどね……」
麗さんが止まっていた手を動かし、また濡れた髪をタオルでふく。
:09/11/30 20:33 :W61P :☆☆☆
#212 [イリア]
麗「て、あんたと話してる暇なんてないの!!あと何分?衣装かして!!」
狐「きゃー☆麗ちゃんったら、すっかり先輩っぽくなっちゃって☆生きてるうちに君の心の成長が見れて、僕 し あ わ …」
:09/11/30 20:33 :W61P :☆☆☆
#213 [イリア]
麗「邪魔、狐」
衣装「さぁさ!レディーのお着替えの時間ですわよ!男性の方は、ご退室願いますわ!!」
狐「ちぇ、別に麗ちゃんの裸なんて見慣れてるって。小さい頃、誰がお風呂にいれてあげてたと思って……」
麗「あんたに入れてもらった覚えはない!!」
:09/11/30 20:34 :W61P :☆☆☆
#214 [イリア]
ガンッ!!!
麗さんが出ていく狐さんに向かって、近くにあった箱を投げつける。
……こ、怖い……汗
狐さんの「急いでね〜〜」という、いつも通りのおちゃらけた声が遠くに聞こえる。
:09/11/30 20:35 :W61P :☆☆☆
#215 [イリア]
衣装「サイズ、大丈夫ですね?」
麗「えぇ、ありがと」
振り向くとそこには、美しい衣装を纏(マト)った綺麗な人が立っていた。
:09/11/30 20:35 :W61P :☆☆☆
#216 [イリア]
衣装「お化粧のほうなんですけど、麗さん。時間が……」
麗「仕方ないわ、前半はすっぴんで。今回の劇場は客と少し離れてるし、バレやしない。休憩の時にするから、用意だけしといて。」
衣装「はい。」
扉の向こうから、麗さんを呼ぶ声がする。
:09/11/30 20:36 :W61P :☆☆☆
#217 [イリア]
衣装「時間です!麗さん早く!」
麗「……えぇ」
そう言うと衣装さんたちは、足早に部屋を出ていった。
:09/11/30 20:36 :W61P :☆☆☆
#218 [イリア]
七「…頑張ってくださいね、麗さ…」
言葉につまる。
目の前の綺麗な人は……微かにだけど、震えていた。
:09/11/30 20:37 :W61P :☆☆☆
#219 [イリア]
七「……麗さ…っ!」
麗「もひとつ、あったわ」
私の声が、麗さんによって遮られる。
:09/11/30 20:38 :W61P :☆☆☆
#220 [イリア]
七「……え?」
麗「…どうしても舞台を休めない理由」
:09/11/30 20:38 :W61P :☆☆☆
#221 [イリア]
麗さんは震える手を固く結び、足を進める。
扉に手をかけ、ゆっくりと私のほうに振り返る。
:09/11/30 20:39 :W61P :☆☆☆
#222 [イリア]
:09/11/30 20:39 :W61P :☆☆☆
#223 [イリア]
【 ……プロだからね 】
さっき猫さんが男たちに言った言葉と、麗さんの言葉が被る。
:09/11/30 20:40 :W61P :☆☆☆
#224 [イリア]
麗「……プロだから……私たちを待っている観客がいるから……代わりなんて、いないのよ」
麗さんが扉を押し開き、向こう側に消える。
:09/11/30 20:41 :W61P :☆☆☆
#225 [イリア]
何か、言えることはないんだろうか。
震える体で、『プロ』の仕事をしにいく彼女に。
仲間を想い、たった一人で戦い続けてきた彼女に。
:09/11/30 20:41 :W61P :☆☆☆
#226 [イリア]
扉に向かって走る。
向こう側を見ると、麗さんが小走りで長い廊下を進んでいた。
七「――……麗さん…!」
少し驚いたように、その人は私に振り返る。
:09/11/30 20:42 :W61P :☆☆☆
#227 [イリア]
麗「……」
七「…私…初めてだから…」
麗「……?」
七「―……舞台、見るの初めてだから!その舞台のヒロインが麗さんで良かったです!!」
:09/11/30 20:42 :W61P :☆☆☆
#228 [イリア]
麗さんはずっと私を見てくれている。
私が喋ってるときにちゃんとこっちを見てくれたのは、出会ってから初めてなんじゃないだろうか。
七「…あ…それだけです……時間ないのに呼びとめてすいませんでした……汗」
麗「――……それで」
:09/11/30 20:43 :W61P :☆☆☆
#229 [イリア]
七「?」
麗「その初めて見る舞台のヒーローが、猫で良かったです?」
ボッ////
顔が熱くなるのが分かる。
:09/11/30 20:44 :W61P :☆☆☆
#230 [イリア]
七「いいいいいい、今はそんな話じゃなくて、私は麗さんの演技が……っ///」
麗「……クス、分かりやすい…」
え………
:09/11/30 20:44 :W61P :☆☆☆
#231 [イリア]
七「…笑った……」
麗「……何よ、文句でもある訳?」
七「いえいえ、別にそんなっ…」
狐「麗ちゃん??!!何してんの2分前!!スタンバイよろしく!!!!」
狐さんの声に、麗さんがまた走り出す。
:09/11/30 20:45 :W61P :☆☆☆
#232 [イリア]
麗「…あぁ…あと、言い忘れてた」
七「?」
麗「今回の舞台、恋愛ものじゃないの。だから主役は猫だけど、私はヒロインじゃないわ」
七「…あ…」
:09/11/30 20:45 :W61P :☆☆☆
#233 [イリア]
麗「――……だから、猫とはキスできないわね、残念だけれど。」
そう言って麗さんは、意地悪く微笑む。
:09/11/30 20:46 :W61P :☆☆☆
#234 [イリア]
七「………!!麗さん…///」
麗「……ほんと、分かりやすい…」
またまた顔が赤くなる。
いや別に、私は猫さんと麗さんがキスしたって、別に……///
麗さんが、足を動かす。
:09/11/30 20:47 :W61P :☆☆☆
#235 [イリア]
:09/11/30 20:48 :W61P :☆☆☆
#236 [イリア]
?
館内に流れる微量の風にのって、何か声が聴こえた気がする……けど
七「気のせいかな?」
そう言って私も、小走りで劇場に向かった。
:09/11/30 20:48 :W61P :☆☆☆
#237 [イリア]
―――――――
―――
――
...!.....!!!...!
....!...!!.......!!!!!!
劇場につくと、客席は満員。もの凄い歓声に圧倒される。
:09/11/30 22:17 :W61P :☆☆☆
#238 [イリア]
七「――……うわあ」
狐「七衣ちゃんっこっちこっち〜!」
狐さんの声がして振り向くと、椅子の陰に隠れるようにして私を手招きしていた。
そういえば狐さんにも、たくさんファンの人いたっけ。笑
:09/11/30 22:17 :W61P :☆☆☆
#239 [イリア]
狐さんに手を引かれ、劇場の一番後ろに立つ。
七「ここで見るんですか?」
狐「うん、舞台の両端って、意外と見にくいんだよねえ〜だから僕は大概は一番後ろで見てる。七衣ちゃん、中入りたい?」
七「いえ、…今日はここで見ます。」
:09/11/30 22:18 :W61P :☆☆☆
#240 [イリア]
ブー―――………………
劇場内に、舞台の始まりをつげる音が鳴り響く。照明が消えた。真っ暗になる。
喋る人は、誰もいない。
:09/11/30 22:18 :W61P :☆☆☆
#241 [イリア]
パッ
舞台の一点にライトが集中する。
さっきまで誰もいなかったそこには、顔は知らないが、劇団の俳優さんが一人ひざまずいている。
:09/11/30 22:19 :W61P :☆☆☆
#242 [イリア]
『……lady's and gentleman!!今日は我がアスタリスク劇団の竜ヶ森講演にお越し戴き、誠に、誠に有難う御座います!!御来場なさって下さった美しい姫、紳士な御君全員に、夢のような時間が訪れることを祈りつつ……
――……あぁ、残念。私(ワタクシ)はそろそろ、夢から覚める時間のようです。……それでは皆様…――……後程。』
:09/11/30 22:19 :W61P :☆☆☆
#243 [イリア]
―――――ガチャッ……
そう言うと舞台の上の綺麗な男性は―…
…玩具のように、膝から崩れ落ちた。
:09/11/30 22:20 :W61P :☆☆☆
#244 [イリア]
七「…え…っ…?」
その少しの間の演技力に、私以外の観客もざわめきたつ。
また照明が消え、同時に軽やかなステップの音楽が鳴り始める。
タタタッタッタ♪タタタッタッタ♪
:09/11/30 22:20 :W61P :☆☆☆
#245 [イリア]
七「……凄い……今の人、台詞もですけど、演技力…ほんとに人形みたいでした!!それに凄く綺麗な人だし!!この劇団って、ほんと…美人さんが多いですねっ!!」
:09/11/30 22:21 :W61P :☆☆☆
#246 [イリア]
狐「あの子は劇団人気ナンバー3だからねぇ…。あ、後この舞台の演名は『カラクリ・四重奏(カルテット)』捨てられた玩具たちと、大人になれない子ども達の話だよ。ちなみに脚本は ぼ く ☆」
七「凄い凄い凄い!!」
:09/11/30 22:22 :W61P :☆☆☆
#247 [イリア]
興奮する私を横目に、狐さんが優しく笑う。
狐「……怖い思い、させちゃったね」
七「……え…?」
狐「大まかなことは、さっき狼くんから聞いたよ。あの男たちの処分は、責任持って僕がするから……」
七「……あの…っ…」
狐「?」
:09/11/30 22:23 :W61P :☆☆☆
#248 [イリア]
七「…泣いて…たんです、さっき…あの人たち…確かに、麗さんにしたことは許されない…けど…何で…」
狐「……何で、泣いてたかって?」
七「はい…」
狐「…さぁ…はっきりしたことは分かんないけど、……妖は、卑怯だからねえ…」
:09/11/30 22:23 :W61P :☆☆☆
#249 [イリア]
七「……?」
狐「ううん…何でもない。とりあえずあの男たちはいま折檻(セッカン)してるから。この舞台が落ち着いたら、詳しく聞き出すよ…もしかしたら」
七「?」
:09/11/30 22:23 :W61P :☆☆☆
#250 [イリア]
狐「――……雨原一族のことも、聞けるかもね……?」
:09/11/30 22:24 :W61P :☆☆☆
#251 [イリア]
狐さんの瞳が曇る、
なんて、返事すればいいのか。
こんなとき私は、何の言葉も思いつかない。
そうだ私、なにも覚えていないんだった。
:09/11/30 22:25 :W61P :☆☆☆
#252 [イリア]
狐「…さっ!暗い話は終わり☆僕からしだしといて何だけど!舞台に集中しよっかあ〜ちなみに僕の密かな楽しみは、みんながどれだけ台詞を間違えたかを数えることなんだけ」
七「……あ。」
狐「ん?」
:09/11/30 22:25 :W61P :☆☆☆
#253 [イリア]
七「……お使い……結局、ペン買ったのに、店に置いてきちゃった…」
私の顔を見て、狐さんが笑った。
狐「七衣ちゃん、初めてのお使い失敗だね…ククク、次頑張って?」
七「……はい…」
:09/11/30 22:25 :W61P :☆☆☆
#254 [イリア]
それからは舞台を集中して見た。
狼さんは子どもの頃の色んな事情が重なって、大人になれなかった役。
麗さんは、捨てられた玩具。女の子が小さい頃クリスマスに親から貰い、捨てられた今も女の子とした『ずっと一緒』という約束を信じている可哀想なお人形。さっきまで震えてたのが嘘みたいな、初心者から見て、完璧な演技だった。
そして――…………
:09/11/30 22:26 :W61P :☆☆☆
#255 [イリア]
『……嗚呼、人間。貴方は私達を捨てたのに、何故【大人】にならない?【大人】とゆう【物】になるため、私達を捨てたのではなかったのか。
【成長】の【仮定】として、ただの【人間】の【都合】で、感情を持つカラクリ……
私達を【造り】、【殺した】のではなかったのか。そして―……』
:09/11/30 22:27 :W61P :☆☆☆
#256 [イリア]
黒猫『――……【愛した】のでは、なかったのか。』
綺麗な声に、聞き惚れる。
:09/11/30 22:28 :W61P :☆☆☆
#257 [イリア]
:09/11/30 22:28 :W61P :☆☆☆
#258 [イリア]
シン、とした会場に猫さんの声が響く。
艶やかに笑う舞台の上の猫さんを見て、
客席から息を飲む気配がした。
:09/11/30 22:29 :W61P :☆☆☆
#259 [イリア]
ザッッ
一瞬で赤いカーテンが落ち、舞台の上の人たちが見えなくなる。照明が落ち、真っ暗になった。
:09/11/30 22:29 :W61P :☆☆☆
#260 [イリア]
.....!!!!!......ワァッッッ....!!!!
客席に活気が戻った。
鳴り止まない拍手。
私も赤くなるまで手を叩く。
狐さんが手元のノートを見ながら話しかけてくる。
:09/11/30 22:29 :W61P :☆☆☆
#261 [イリア]
狐「終わったよーん。ちぇ、猫くんは今回もノーミスか。後は……陰宮(カゲミヤ)くんがワンミス………狼くんは四回……あら、珍しい……で、麗ちゃんは六回………今回のドベは依海(イウミ)ちゃんだな……後で反省会だ………よし!カーテンコールで終了だ。僕らも戻ろうか、七衣ちゃん。」
なんか…大変だな、監督って。汗
:09/11/30 22:30 :W61P :☆☆☆
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