虹色のオセロ

「俺思うんだぁ。」

「何？」

「ななみんってあだ名、ダサくね？」

あら、猿のくせに話のわかる奴？

「…じゃあ渡辺くんならどんなあだ名付けてくれんの？」

「ママ。」

…はぁ？

「ママ？」

「先生見てると甘えたくなるのは何で？」

「うぐっ！」

猿は私を抱きしめた。

それも満面の笑みで。

こいつ頭大丈夫？

「ママって呼んでいい？」

「はっ…離して。」

「呼んでいいなら、離してあげる。」

「わかったから…」

すっと離れたバカ猿は言った。

「母親いないんだ、俺。」

「…え？」

「俺を産んですぐに死んじゃったんだって。」

「そう…なの。」

「俺の母ちゃん、ナナミっつうの。一緒の名前。」

「…うん。」

「だから先生のことママって呼ばせて。」

動機がいまいちよくわからない。

が、とりあえずこの猿は私をママって呼びたいんだね。

それはわかる。

てか…ななみんって呼ばれるより、ママのが恥ずかしくない？

「みんなの前では呼ばないから。」

「あぁ、それなら別に。」

「ママも俺の事は渡辺くんじゃなくて栄之助って呼んでね？」

「ん…はい。わかった。」

「呼んでみて？」

「…栄之助。」

「いいねぇ！俺も呼んでいい？」

「…うん」

「ママ。」

「…はい。」

「ひひっ！」

猿みたいな笑い方で、また私を抱きしめた栄之助。

うっとうしいって思ったけど、別にいいかって思う自分もいる。

その時、自分の中で栄之助は特別だっていうイメージが私に焼き付いた。

可哀相な子とかって同情じゃない。

可愛い笑顔の猿ってイメージなのかな。

自分でもよくわからないけど、栄之助に抱きしめられてるのも苦痛じゃなかった。

レオへの愛情に似てるかも。

そんな事を思っていると、猿は私の頬にキスをした。

笑顔全開のバカ面で。

―――

栄之助のママになったのはいいけど、これと言って何も得する事はなかった。

損する事もないんだけどね。

「来週の授業は実験室でするので覚えておいて下さい。」