虹色のオセロ

「母親いないんだ、俺。」

「…え？」

「俺を産んですぐに死んじゃったんだって。」

「そう…なの。」

「俺の母ちゃん、ナナミっつうの。一緒の名前。」

「…うん。」

「だから先生のことママって呼ばせて。」

動機がいまいちよくわからない。

が、とりあえずこの猿は私をママって呼びたいんだね。

それはわかる。

てか…ななみんって呼ばれるより、ママのが恥ずかしくない？

「みんなの前では呼ばないから。」

「あぁ、それなら別に。」

「ママも俺の事は渡辺くんじゃなくて栄之助って呼んでね？」

「ん…はい。わかった。」

「呼んでみて？」

「…栄之助。」

「いいねぇ！俺も呼んでいい？」

「…うん」

「ママ。」

「…はい。」

「ひひっ！」

猿みたいな笑い方で、また私を抱きしめた栄之助。

うっとうしいって思ったけど、別にいいかって思う自分もいる。

その時、自分の中で栄之助は特別だっていうイメージが私に焼き付いた。

可哀相な子とかって同情じゃない。

可愛い笑顔の猿ってイメージなのかな。

自分でもよくわからないけど、栄之助に抱きしめられてるのも苦痛じゃなかった。

レオへの愛情に似てるかも。

そんな事を思っていると、猿は私の頬にキスをした。

笑顔全開のバカ面で。

―――

栄之助のママになったのはいいけど、これと言って何も得する事はなかった。

損する事もないんだけどね。

「来週の授業は実験室でするので覚えておいて下さい。」

私は勉強好きでもなければ嫌いでもない。

１番マシだって思えたのが実験のある理科だったってだけで、別に理科命って訳じゃない。

だから白衣も着ないし、必要な時以外は実験室なんかに来ない。

授業が終わり、職員室に戻る。

「柴田先生、ちょっと。」

学年主任に呼び出された。

「はい。」

「明日バレーボール大会じゃないですか。なので準備頼みますよ。」

…はぁ？

デジャヴ？

この前、保泉も言ってたぞ。

だからジャージに着替えて、栄之助のママになったあと、体育館と運動場に準備しに行ったじゃん。

その翌日、バレーしたじゃん。

学年主任、ボケた？