吸血鬼死重奏
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#2 [渚坂]
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#3 [渚坂]
ハァッ…、ハァ……
狂ったメトロノームのように不規則なリズムを刻む呼吸は、俺の思考回路を確実に麻痺させていた。
落ち着いてゆっくりと肺の中のものを吐けばよかったのだ。そうすれば自然と酸素は肺に流れ込む。
小学生でも分かるであろうこの問題を解けないほど、俺に余裕はなかった。
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#4 [渚坂]
鋭利なカミソリのように頬をかすめる風。
いつも見慣れた景色さえ、走馬灯のようにめまぐるしく変化していく。
早く、早く“アイツ”から逃げなければ……。
暗がりの中でも分かる己の首から滴り落ちる赤い液体。
ついさっきまで己の体の中で循環していたコイツさえも今の俺には恐怖を募らせる材料にしか過ぎなかった。
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#5 [渚坂]
意識せずとも転がるように交互に前へ進む足をそのままに、右手でそっと溢れ出る赤い液体に触れてみる。
震える指に絡め取られた生暖かいソレは、ヌルヌルと俺の指を舐めまわし不快感だけを手に残す。
“出血死を考えるほど流れ出でてはいない……”
触れた指に残る液体ごと拳を握り、俺はさらに足を加速させた。
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#6 [渚坂]
どれほど経過したのだろうか、幾分冷静になった思考回路はふと、あることを疑問に思った。
「この傷口……」
すでにゼンマイ時計のように機械的に進む足を止めることなく、もう一度右手を傷口に触れさせる。
「二つある……」
俺の首筋の表面に存在したのは二つの傷口。しかし、この傷口はどこか不自然だ。
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#7 [渚坂]
それを確認すべく、すでに限界を訴えていたゼンマイ時計を意識的に止めた。
頭上に広がる墨汁を垂らしたような漆黒の闇。
そして、それを照らしている微かな月明かりのみを頼りに、さらに深く傷口を探った。
この時、俺は気づいてればよかったんだ。目の前の公園からこちらを見つめていた赤い目を。
ヤツの荒い息づかいを。ヤツが俺を追ってきたってことを。
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#8 [渚坂]
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一曲目
《奏でられた序奏》
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#9 [渚坂]
上は気にしないでください((汗
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#10 [渚坂]
闇が静かに足を忍ばせ、何もかもを飲み込んでしまいそうな静けさが辺りを包み込んだ時、突然それは鳴り響いた。
風呂上がりの牛乳を飲んでいた私は、素早く残りの牛乳を流し込みテーブルの上で無機質な機械音を奏でるソレを耳に押し当てた。
あ、濡れた髪のまま電話しちゃダメだったっけ?
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#11 [渚坂]
「もしもし」
「あ、もしもし由ちゃん!?」
「……お母さん、こんなに夜遅くどうしたの?」
電話の相手は母。
私が寮生活を始めてから、母はこんな風に突然電話をしてくることが増えた気がする。
それだけ愛されてるってことなんだろうけど、なんというか、こっちとしてはちょっと迷惑な訳でして。
真夜中にテンションの高い母の相手をするのは、なかなか疲れる。
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