吸血鬼死重奏
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#65 [渚坂]

何度となく魔王へと変貌した誰太君を見てきたが、このざわざわするような感覚にはまだ慣れない。


「いいか、俺がアイツを止めるから。お前は逃げとけよっ!!」

言い終わると同時に、綾辻は魔王へと向かって走り出した。

「ちょっと、綾辻!」

私が彼を呼び止めようとして右手が空を掻いた時、すでに綾辻は戦闘態勢に入っていた。

⏰:09/07/25 10:45 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#66 [渚坂]

力強く地面を蹴る彼の足は、転がるように前へ前へと速度を速める。そして風を切りながら魔王に向かって走る彼の右手が、蒼白く光りだした。


R.B.は血を吸いたいという欲望を不思議な超能力のようなもへと変換させる特性を持つ。
今綾辻の右手が光り出したのはR.B.によって変換された力が右手に集まりだしたから。

⏰:09/07/25 10:45 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#67 [渚坂]

詳しいことはよく知らないが、力には放出できたり凝縮できたりと使い道は様々らしい。
そして、綾辻はたぶん力を溜めた右手で魔王を殴るつもりなんじゃないだろうか。あれだけ力を凝縮している拳だ。当たったら痛いどころでは済まされないだろう。


「うぉぉおおお!」


だいぶ距離を詰めた綾辻が、体重を乗せながら蒼白く光る右手を魔王に突き出した。

⏰:09/07/25 10:46 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#68 [渚坂]

しかし魔王は自身の体をしなやかに右へずらすことで繰り出された拳をいとも簡単に回避した。

そう、当たれば効果は絶大なのだ。しかし当たらなければ、ただの右手上段突き。悪く言えばまるで綾辻の性格を表したかのような単調な攻撃。


「ちっ……!」

⏰:09/07/25 10:47 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#69 [渚坂]

突きに体重をかけていた綾辻は突きをかわされたことで多少足元が覚束なくなっていたが、間合いを取りながら私にも聞こえるほどの反抗的な舌打ちを零した。


「今度はこちらの番だな」

魔王の低くかすれた声が辺りに響く。誰太君の声はこんなにかすれてはいない。その違和感が私の恐怖心をさらに煽る。

⏰:09/07/25 10:48 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#70 [渚坂]

今度は魔王が地面を蹴り、一瞬にして綾辻との間合いを積めた。そして間髪入れずに魔王の右拳が綾辻の鳩尾へ。その鮮やかすぎる手捌きに、私は叫ぶのも忘れて思わず息を呑んだ。


「ゔ、がぁ――」


たった一撃で綾辻は小さい嗚咽と共に地面へと両膝から崩れ落ちてしまった。

⏰:09/07/25 10:48 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#71 [渚坂]


「情けない。たった一撃で終わってしまうとは……」

ふぅ、とため息をついて魔王は頭を横に振る。振り乱された髪はより一層ぐちゃぐちゃにされ、前髪からのぞく瞳には明らかに落胆の色が見えた。

続いて魔王は自身のひざを曲げ、片膝を着くような形で倒れている綾辻の顔を覗き込む。

⏰:09/08/05 18:50 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#72 [渚坂]


「死んだか?つまらん……」


その一言に私の中で沸き上がっていたある感情が沸点へと達した。一気に体温が上昇し、頭に血が上る。目の前がチカチカして視野はみるみる狭くなっていく。

今では魔王しか目に入らない。

⏰:09/08/05 18:51 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#73 [渚坂]


そして気付いたときには右足が地面を蹴り上げ、体は風を一身に受けていた。

「うわぁぁぁああ!!!!」

よくも綾辻を……。綾辻を!!
もちろん人間の私が“魔王”に勝てるはずがないのは分かってる。

“ヤメナサイ”

“ニゲナサイ”

“ナニガシタイノ?”

心の隅でもう一人の私が制止をかけるのだが、それ以上に熱い感情が私を突き動かす。友達が、私の大切な人を見捨てて逃げるなんで私には出来ない。

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#74 [渚坂]


「そちらから来ていただけるなんて有り難い。遠慮なく血を啜らせていただくぞ」


両手を広げ、ニヤリと笑う口から必要以上に尖った牙をむく魔王。その表情に一瞬だけ背筋が凍る。だけど、立ち止まってなんかいられない……!!

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


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