吸血鬼死重奏
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#61 [渚坂]
「なんでこんな高校に入っちゃったのよ……」
両手で頭を抱え込み、後悔の念でいっぱいの頭をかき乱す。
「おい、過去を悔やんだって仕方ないだろ。それよりも、この高校に入って俺に出会えた運命に感謝してろ」
……どうして、こうポジティブに考えが進むのだろうか。しかも“運命”とかこっぱずかしいことを大真面目に言うもんだから、なんだか感謝しなきゃいけないような気がしてきたじゃないか。
:09/07/23 16:54 :F905i :kNK/hMlE
#62 [渚坂]
「ほらほら、ついに魔王様のお出ましだ。俺が食い止めるから、いつでも逃げれる用意しとけ」
綾辻がそう言う同時に周りの空気が一変した。
急にざわめき始めた木々たち。頬をかすめる風さえも危なげな刃物のようにピリピリとした鋭利な感覚を肌に残す。彼らも“魔王”に脅えているのだろうか。
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#63 [渚坂]
そして、ちょうど私たちが隠れていた場所の直線上から魔王はその姿を見せた。
私の体が一瞬呼吸を止める。
振り乱された髪。ニヤリと笑う口元からこぼれる尖った八重歯。
獣のようにギラギラと光る紅い瞳。“三國 誰太”は完全に自身の原型を失い、禍々しく容姿を変えていた。
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#64 [渚坂]
そして彼の周りの空気は酷く澱んで見えた。
色に例えるなら紫と黒を混ぜ合わせたような、毒々しい空気が彼をとり巻いていた。
本当の意味で、こういうのを空気が変わると言うのかもしれない……。
:09/07/23 16:57 :F905i :kNK/hMlE
#65 [渚坂]
何度となく魔王へと変貌した誰太君を見てきたが、このざわざわするような感覚にはまだ慣れない。
「いいか、俺がアイツを止めるから。お前は逃げとけよっ!!」
言い終わると同時に、綾辻は魔王へと向かって走り出した。
「ちょっと、綾辻!」
私が彼を呼び止めようとして右手が空を掻いた時、すでに綾辻は戦闘態勢に入っていた。
:09/07/25 10:45 :F905i :igwP.4vA
#66 [渚坂]
力強く地面を蹴る彼の足は、転がるように前へ前へと速度を速める。そして風を切りながら魔王に向かって走る彼の右手が、蒼白く光りだした。
R.B.は血を吸いたいという欲望を不思議な超能力のようなもへと変換させる特性を持つ。
今綾辻の右手が光り出したのはR.B.によって変換された力が右手に集まりだしたから。
:09/07/25 10:45 :F905i :igwP.4vA
#67 [渚坂]
詳しいことはよく知らないが、力には放出できたり凝縮できたりと使い道は様々らしい。
そして、綾辻はたぶん力を溜めた右手で魔王を殴るつもりなんじゃないだろうか。あれだけ力を凝縮している拳だ。当たったら痛いどころでは済まされないだろう。
「うぉぉおおお!」
だいぶ距離を詰めた綾辻が、体重を乗せながら蒼白く光る右手を魔王に突き出した。
:09/07/25 10:46 :F905i :igwP.4vA
#68 [渚坂]
しかし魔王は自身の体をしなやかに右へずらすことで繰り出された拳をいとも簡単に回避した。
そう、当たれば効果は絶大なのだ。しかし当たらなければ、ただの右手上段突き。悪く言えばまるで綾辻の性格を表したかのような単調な攻撃。
「ちっ……!」
:09/07/25 10:47 :F905i :igwP.4vA
#69 [渚坂]
突きに体重をかけていた綾辻は突きをかわされたことで多少足元が覚束なくなっていたが、間合いを取りながら私にも聞こえるほどの反抗的な舌打ちを零した。
「今度はこちらの番だな」
魔王の低くかすれた声が辺りに響く。誰太君の声はこんなにかすれてはいない。その違和感が私の恐怖心をさらに煽る。
:09/07/25 10:48 :F905i :igwP.4vA
#70 [渚坂]
今度は魔王が地面を蹴り、一瞬にして綾辻との間合いを積めた。そして間髪入れずに魔王の右拳が綾辻の鳩尾へ。その鮮やかすぎる手捌きに、私は叫ぶのも忘れて思わず息を呑んだ。
「ゔ、がぁ――」
たった一撃で綾辻は小さい嗚咽と共に地面へと両膝から崩れ落ちてしまった。
:09/07/25 10:48 :F905i :igwP.4vA
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