星とぽんず。
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#101 [七瀬]
 
 
『がんばれ!がんばれ!
林原ー!』

あたしは、我を忘れて
かなり応援した。

今、振り返ると、
顔から火が出そう。

でも、それだけ
林原を応援したい気持ちがあった。


あたしの、叫びが通じたのか、林原は相手と互角に張り合っている。

⏰:09/06/02 04:15 📱:N703iD 🆔:crs90Bzo


#102 [七瀬]
 
 
‥でも、
結果は負けだった。


『お疲れ、林原』

あたしが駆け寄ると、


林原は、「負けちゃったな」って笑った。


やっぱり身長差が
かなり大きかったみたいで一瞬の隙を突かれた。

でも‥頑張ったよ、林原。

⏰:09/06/03 04:33 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#103 [七瀬]
 
暑い中、体を動かしたからか、林原の頬は赤く、少し息も荒かった。


『‥すごいよ。
あんな大きな相手に立ち向ってくなんて』


「でも、今回だけは勝ちたかったなー」

林原は悔しそう。


でも、きっとあたしが
いちばん悔しい。
 

⏰:09/06/03 04:40 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#104 [七瀬]
 
隣を見ると、さっきの
林原の対戦相手が。

やっぱ、身長差が違いすぎる。

不公平だよ。


あたしは、
無意識に睨んでいた。



「‥‥ぷっ‥はははは」

すると、
いきなり笑いだした。
 

⏰:09/06/03 15:58 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#105 [七瀬]
 
 
な‥なになに!?
なんで笑ってんの!??

頭が着いていかない。


あれ‥

この声って、まさか‥‥



「久しぶりだね。
ぽんずちゃん」

相手が面を外した瞬間、
あたしは、『あっ!』と、自然に声が漏れていた。

⏰:09/06/03 16:01 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#106 [七瀬]
 
『‥‥あ‥歩志!?』

「驚きすぎ」

そうやって、
まだクスクス笑うアイツとは対象的に驚きを隠せないあたし。


だ‥だってだって!

『なんで、歩志がここにいんの?なんで、剣道してんの!?』

「質問攻めだね」

びっくりするじゃん。

⏰:09/06/03 16:07 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#107 [七瀬]
 
 
「まず、最初の質問から、答えてくと、俺は剣道部だから、ここにいんの。」

うんうんと首を縦に振る。


「‥で、2つ目の質問にも、答えなきゃダメかな?
同じ答えなんだけど」

あ‥そういう皮肉混じりな言葉が歩志らしい。


『‥けっこう』
 

⏰:09/06/03 16:11 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#108 [七瀬]
 
「理解してくれたなら、なにより」


あー‥‥やばい。
やばすぎ。


その顔とか、
その声とか。

久しぶりすぎて、
しかも、いきなりで。

免疫ないよ、あたし。

だから、
そんな笑顔見せんな〜っ‥ 

⏰:09/06/03 16:15 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#109 [七瀬]
 
いきなりの不意打ちに、
かなりどきどきなあたし。



「だから、負けたくないって言ったの」


『‥林原』

いけない。
興奮しすぎて、忘れてた。林原のこと。


「でも、今日初めて対戦したけど、林原くん強いねー」

⏰:09/06/03 16:20 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#110 [七瀬]
 
「嫌味かよ」

なんか‥ヤな雰囲気‥‥


「違うよ。もし俺と林原くんの身長差が10pしか変わらなかったら、負けてたね、俺。」

「‥やっぱ、嫌味じゃねーかよ」



それから、林原が牛乳を飲んでたのを、あたしはしばしば目的することになる。 

⏰:09/06/03 16:24 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#111 [七瀬]
 
 
 
『歩志が、剣道部だったなんて‥‥ほんっと意外!』

「‥‥‥‥」


『‥あれ、林原?
聞いてる?』

「‥‥‥‥‥‥」


今、あたしは林原と
二人で電車に乗っている。

歩志とは、方向が逆だから駅で別れた。

⏰:09/06/03 16:31 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#112 [七瀬]
 
 
さっきから、
林原はなんも話さない。


『はやしば‥』

「お前さ」


『ん?』

やっと、しゃべってくれたので、あたしは少し身を乗り出した。
 

⏰:09/06/03 16:34 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#113 [七瀬]
 
 
「‥さっきから、八田の話ばっか」

ぶっきらぼうな口調。


少しの沈黙のあと、

『‥ごめん』と、だけ謝った。


そりゃ、林原といるときに歩志の話ばっかじゃ、

聞いてる林原にとっちゃ気分は良くないよね。
 

⏰:09/06/03 16:37 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#114 [七瀬]
 
 
「あのさ、ストレートに聞くけど、いい?」

また、しばしの沈黙も経て声が聞こえた。

相変わらずの
ぶっきらぼうな声。


『え‥う、うん‥‥』


なんだろう。
 

⏰:09/06/03 16:41 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#115 [七瀬]
 
 
「八田と、付き合ってんの?」


‥‥‥‥。


『‥ぇぇええ!??』


‥っと、
いけないいけない。

電車の中の人々の
視線が痛い。


あたしは、口をつぐんだ。 

⏰:09/06/03 16:45 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#116 [七瀬]
 
 
林原は
小さなため息を落とす。

「‥どうなわけ?」


『‥“どうなわけ”って、あたしたちは別に‥』

付き合ってるわけじゃ‥


「ほんとか?」

林原の、
目があたしを捕らえる。
 

⏰:09/06/03 16:57 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#117 [七瀬]
 
 
『ほんとだよ‥。
付き合ってない‥』

なぜか、声が小さくなってしまう。

目線を下げると、ひざの上のこぶしを強く握りしめてたことに気付く。


「松田‥」

『‥ってゆーか、付き合うもなにも、あたしと歩志はそんな関係じゃないし!』 

⏰:09/06/03 21:09 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#118 [七瀬]
 
 
夏休みに入るまえ、

歩志に
「好き」って言われた。


あたしは、疑った。

聞き間違えなんじゃないかって、自分の耳を。

からかってるんじゃないかって、歩志を。


でも、あたしの耳は
ちゃんと機能してて‥
 

⏰:09/06/03 21:12 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#119 [七瀬]
 
 
あたしは、
すごくうれしかった。

歩志を見てると、
胸がいちいちうるさくって困った。

毎日、学校に行くのが
楽しみで楽しみで
仕方なかった。


でも‥


‥‥歩志は、からかってただけだったんだ。
 

⏰:09/06/03 21:16 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#120 [七瀬]
 
 
だって、

あれからまったくといっていいほど、変化がない。


歩志はいつも通りだし‥


ただ違うのは、
あたしの気持ちだけ。


歩志にとって、
あの“好き”は、
ただの冗談だったんだ。
 

⏰:09/06/03 22:31 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#121 [七瀬]
 
でも、その気まぐれが
あたしを、期待させるんだよ‥。

だって、今でも
歩志に会うと心臓が忙しくなるから。


今日だって‥‥




「じゃあ、まだ俺にもチャンスあるってことで」
 

⏰:09/06/03 22:34 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#122 [七瀬]
 
 
『え?』

林原の思いもよらぬ言葉があたしを一気に現実に引き寄せた。


「だから、まだ俺にもあるんだろ?松田を振り向かせるチャンス」

あ‥あんたは、
そんなことをあっさりと‥


あまりの林原の、潔さに、思わず頷いてしまった。
 

⏰:09/06/03 22:38 📱:N703iD 🆔:Mpz7J7ZI


#123 [七瀬]
 
 
 
『今日も暑いなぁ‥』

一人つぶやく。


あれから毎日、学校に行っている。


先に言っとくけど、

別に毎日補習
ってわけじゃないからね! 

⏰:09/06/05 16:06 📱:N703iD 🆔:79.tk/8A


#124 [七瀬]
 
剣道部を見に行ってる。

先週の水曜日から。


補習なんて、
そっちのけで。

お母さんに言ったら
殺されるね。確実に。笑

水曜は補習に行ってることになってるから。


なんで暑い中、たかが剣道部を見に、毎日学校、通ってるのかって?
 

⏰:09/06/06 09:35 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#125 [七瀬]
 
うん、それはね。


あたし、
帰宅部卒業しましたー。

イェーイ!



はい、お察しの通りです。


剣道部のマネージャーに
なりました。


つい3日前のできごと。
 

⏰:09/06/06 19:12 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#126 [七瀬]
 
林原から、
電話がかかってきた。


あまりのできごとだし、

ってか、初めて林原と電話するし‥

『なんで、あたしんちの、番号知ってんの!?』

これが、第一声。


「んー、なんでだろ」

しかも、あっさりスルー。 

⏰:09/06/06 19:15 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#127 [七瀬]
 
それはまあ、小学生の時からの付き合いだし、

こんな田舎だし?


今まで、一度も電話したことないって方が不思議か。



『‥マネージャー!??』


が、そんなあたしの疑問は林原の一言で吹き飛ばされた。
 

⏰:09/06/06 19:19 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#128 [七瀬]
 
「そ。マネージャー。
ど?なってみない?」


『む‥むりむりむり!
あたし、洗濯とかできないし!』

今、思えば、
めんどくさかっただけかも。
あたし、責任感0だし。


「ははっ、大丈夫だよ。
洗濯なんて、しなくていーから」
 

⏰:09/06/06 19:23 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#129 [七瀬]
 
『え、そうなの?』

マネージャー=洗濯って、イメージしかなかったあたしは少女マンガの見すぎかもしれない。


『じゃあ、なにすんの?』

ま、とりあえず洗濯しなくていーみたいだし、話を聞こうじゃないですか。

あたしは、
電話に耳を傾けた。

⏰:09/06/06 19:27 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#130 [七瀬]
 
「んーと、とりあえず部活ある日は毎日来ないといけないな」


うんうん。
それでそれで?

「あとは、お茶沸かしたり全員の健康チェックぐらいじゃね?」

なんだ、簡単じゃん。


『やる!』

なんも考えず、言っちゃった。

⏰:09/06/06 19:31 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#131 [七瀬]
 
だって、
これで補習免れるしぃ〜。


それに


暇で暇でたまらなかった、憂うつな日々もちょっとは色づくんじゃないか。

そう思った。

‥もちろんアイツもいるしね。


剣道部の
マネージャー‥かぁ。

⏰:09/06/06 19:41 📱:N703iD 🆔:5FlLND6Q


#132 [七瀬]
 
ま、それほど
大変じゃなさそーだし。


適当にがんばるよ。

テキトーにね。



『これから、マネージャーします。松田柚子です。
よろしくお願いしまーす』


そんなこんなで、
初挨拶も、こんな感じで緩かったと思う。
 

⏰:09/06/12 22:28 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#133 [七瀬]
 
 
工業高校。

剣道部‥


前を見ても、
うしろを見ても、

右を見ても、左を見ても。



見渡すかぎり

男 男 男‥
 

⏰:09/06/12 22:31 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#134 [七瀬]
 
 
‥あたしが
言いたいのはね。



「‥‥‥‥‥‥」


空気空気!!

『‥お願いしまーす』


なにこのシーン‥
ってした空気!
 

⏰:09/06/12 22:33 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#135 [七瀬]
あたし、女だよ!?

かわいー‥‥くはないけど一応女の子だよ!??


こんな男臭いところで、
紅一点。

ふつうは、もっと盛り上がるもんなんじゃないの‥?


なんなのなんなの!!

この雰囲気といい、
みんなの表情といい。

もっと希望に溢れた顔をしても、おかしくないはず。

⏰:09/06/12 22:37 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#136 [七瀬]
 
 
「‥よろしくおねがいしまーす」

なに、その返事!


やっと返ってきた返事は、希望のカケラもなかった。


あんたら、
ほんとに運動部か!?

もっと、
でかい声は出せんのか?

そんなに、あたしが
気に食わんのか‥‥?

⏰:09/06/12 22:43 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#137 [七瀬]
 
 
「メン!」


‥どうやら、あたしが
気に食わんかったらしい。


練習に入ると、さっきとは比べものにならないくらいみんな、腹の底から、大きな声を出していた。


‥うん。
こいつらは確かに運動部だった。

そして‥正直者だった。

⏰:09/06/12 22:47 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#138 [七瀬]
 
 
もー!なんなのさ!

かわいい子が良かったな、って?

そういうこと‥



‥思ったより、
楽しくないかも。

林原の言ってたとおり、
特になにもすることがなく、ただその光景を、ボンヤリ眺めながら

そう思った。

⏰:09/06/12 22:50 📱:N703iD 🆔:WolmTlXQ


#139 [七瀬]
 
 
今日だって、
なーんにもすることがなく、見てるだけ。


この三日間、
ずっとこういう状態。

あたしがしたことといえばお茶を沸かしたことくらい。


『‥はぁ』

ため息は減るどころか
増えるばかり。

⏰:09/06/13 15:23 📱:N703iD 🆔:XsbPLW1s


#140 [七瀬]
 
 
 
「松田、どう?」

いつものように、眺めていると、


『んー‥ビミョー』

休憩時間に入ったみたいで林原が声を掛けてきた。


「微妙?」

『うん‥なんか思ったのと違うかも』
 

⏰:09/06/14 20:50 📱:N703iD 🆔:A0QwqCZY


#141 [我輩は匿名である]
 
「ふーん‥珍しいな」

林原は、丸い目を
よりいっそう丸くした。


「松田が、弱音吐くなんて」


『‥ん〜‥なんでだろ‥
暑いし、なーんもすることないし‥』

「要するにヒマ?」

『‥うん。忙しいと、それはそれで困るけど』
 

⏰:09/06/20 18:21 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#142 [七瀬]
 
「じゃあ行くか!
久しぶりに!!」


『‥へ?』

な‥なにいきなり。


「だから」

ひとつ間を置いて
林原は言った。


「気分転換」

ものすごく
目を輝かせながら。

⏰:09/06/20 18:26 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#143 [七瀬]
 
 
『ほんと久しぶりだね〜』

この部屋。
この雰囲気。


「だろ?長くご無沙汰だったもんな」

机の上には、
カルピスとコーラ。

そして、
あたしの大嫌いだったあれ。
 

⏰:09/06/20 18:31 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#144 [七瀬]
 
「よしっ!じゃあ歌うか!」

そういって、
今は、嫌いじゃないそれを手にとった林原。


『うんっ!』

あたしも、
マイクを握った。


るんるん気分で。
 

⏰:09/06/20 18:34 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#145 [七瀬]
 
 
『あぁ〜、
ストレス発散したぁ』

あれから、
もう一杯カルピスをおかわりして、

カルピスの氷が溶けて、水っぽくなるまで歌った。


『明日から、
またがんばれそう!』

両手を伸ばして、
背伸びをした。

⏰:09/06/20 18:38 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#146 [七瀬]
 
「それはよかった」


にこって笑う林原に
負けないくらいの笑顔で

『ありがとう!林原』

言ってやった。


ドキドキさせられっぱなしなんて、やだし。


自分でも、よくわからない対抗心を抱きながら、
林原とバイバイした。

⏰:09/06/20 18:43 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#147 [七瀬]
 
 
「ねー、ぽんずちゃーん」

林原とカラオケに行った
翌日のことだった。


『んー?
どうしたの?歩志』

あたしは、お茶を沸かしにやかんに水をくんでいるところだった。


「昨日、カラオケ行ったでしょー。林原くんと」
 

⏰:09/06/20 21:07 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#148 [七瀬]
 
 
『‥行ったけど』

なんで知ってんだ、
コイツ。


「やっぱり。林原くんが、言ってたもん」

林原が‥。



「妬いちゃうかも」

ポツリと林原は言った。
 

⏰:09/06/20 21:11 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#149 [七瀬]
 訂正

×ポツリと林原は言った。〇ポツリと歩志は言った。 
すいません><
 

⏰:09/06/20 21:12 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#150 [七瀬]
 
『‥はははっ、
歩志、なに言ってん‥』


振り向いた瞬間

『‥の』


どきっとした。


だって、

ニヤッと口角を上げた意地悪な顔をしながらも

真剣なまなざしをした
歩志がいたから。

⏰:09/06/20 21:16 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#151 [七瀬]
 
 
『‥‥‥』

しばらく、
なにも言えなかった。

ただ捕らわれたように、
その瞳を見ていた。



「なーんてね」

歩志が、おどけたように
舌を出すまで。
 

⏰:09/06/20 21:18 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#152 [七瀬]
 
 
「‥‥明日」

『‥え?』


「あーしーた。
午後4時30分。駅前に来て」

歩志は、
いつもの口調で言った。



「じゃあ、
ぜんぶ許したげる」
 

⏰:09/06/20 21:23 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#153 [七瀬]
 
 
許す‥‥?


「もうそろそろ行かなきゃ。じゃーねー」

歩志は、出ていった。


許す‥なにを‥‥?


部活が終わるまでの、
一時間と15分。

あたしの頭は、はてなで
いっぱいだった。
 

⏰:09/06/20 21:26 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#154 [七瀬]
 
 
「ねー、お母さん。
浴衣出してくんない?」

その日の
夕方のことだった。


「浴衣?‥ああ。そういえば。今年も行くの?」

「うん、友だちと」



‥あ、まさか。
 

⏰:09/06/20 21:33 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#155 [七瀬]
 
 
『夏祭り‥?』


まさかまさか。

「うん。駅前のー」


まさかまさかまさか!

「わかった。浴衣出しとけばいいのね」


『‥ま、待って!』

ガタンと立ち上がった。
 

⏰:09/06/20 21:36 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#156 [七瀬]
 
 
『あ‥あたしの分も‥出しといてくれない‥かな?』


お母さんは、
目を大きくした。

「あら。去年、まりちゃんと行ったときは歩きにくいからって、着ていかなかったじゃない。どうしたの、急に。」


『‥え、あ、
‥い‥いやあ‥』

確か、そうだった。

⏰:09/06/20 21:40 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#157 [七瀬]
 
 
『そうなんだけど‥』


でも‥

『たっ‥たまには、いーかなーと思って』

「‥そう。わかったわ」



ちょっと、女の子らしいとこ見てもらいたかったのかも。
 

⏰:09/06/20 21:42 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#158 [七瀬]
 
 
あ、やば。
遅れちゃう。


でも

「ゆ〜ず〜!もうそろそろ出たほうが、いいんじゃない?4時半に待ち合わせしてるんでしょー?お友だちと」

『もうちょっと待って〜!すぐ行くから!』


鏡の前で
最終チェックする。

⏰:09/06/20 21:52 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#159 [七瀬]
 
お母さんが出してくれた
浴衣は

おばあちゃんが去年に、あたしとお姉ちゃんに買ってくれたけど、
あたしは一回も着たことがなかった。


浴衣って、歩きにくいし。

かき氷のシロップつけて帰ったら、お母さんに100%怒られるし。

おもいっきり遊べないからって理由で、拒否してた。

⏰:09/06/20 21:56 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#160 [七瀬]
 
 
でも、今日は‥


「ゆーーずー?まだ?」

『はぁい。今行くー』


初めて袖を通した浴衣は、柔らかくて、冷たくて。

新品独特の匂いがした。


山吹色に、うすいピンクは少しおとなっぽすぎたかも。

⏰:09/06/20 22:00 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#161 [七瀬]
 
 
でも、

少しでもかわいいと思ってくれればいいな。


淡い色の浴衣と、淡い願いとともに家を出た。


電車ー。早く着けー。

そんな思いを乗せた電車は長く感じた。
 

⏰:09/06/20 22:02 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#162 [七瀬]
 
 
駅に着くと、見えてくる、ちらほらと灯る明かり。

年に一度の行事、
夏祭り。


駅前‥着いたけど、
どこかな、歩志。

慣れない浴衣と、
おぼつかない足取りで
辺りを見渡す。


「あ、浴衣発見」
 

⏰:09/06/20 22:54 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#163 [七瀬]
 
 
声が聞こえた。


「ってか、遅い」

あの声が。


『歩志!』

振りかえると


「何分待ったと思ってんの」

声はぶっきらぼうだけど、優しい笑顔だった。
 

⏰:09/06/20 22:57 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#164 [七瀬]
 
 
『ご‥ごめん。思ったより時間かかっちゃって』

あわてて駆け寄ると


「待ちすぎて痛いよー」

今度は、声も顔も、
ぶっきらぼうな歩志。


『ほんっとごめ‥』

次の瞬間、
あたしは静止した。

⏰:09/06/20 23:00 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#165 [七瀬]
 
 
「もう来てくんないかと、思った‥」


だって、
歩志の胸の中にいたから。


「だからさっきから、ドキドキしてた。やっぱ来てくんないかなーって。
だから、心臓痛い」

ちょっと笑って、
そう言った。
 

⏰:09/06/20 23:02 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#166 [七瀬]
 
バカ‥。

まるで、時間も静止しているようだった。


ただ、心臓の音だけが、
ドキドキドキドキ‥と忙しく、鳴っていた。

あたしの方が痛いよ‥。


それが、
あたしの音なのか、

歩志の音なのか。

未だに、わからない。

⏰:09/06/20 23:05 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#167 [七瀬]
 
でも、どっちでもいいや。


年に一度の夏祭り。

中学の友だちだって
お姉ちゃんだって
林原だって

来ているかもしれない。
見られるかもしれない。


でも、
すごく居心地よくって‥。


離れたくなかった。

⏰:09/06/20 23:07 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#168 [七瀬]
 
 
「ってか、誰が祭り行くなんて言った?」

しばらくして、
歩志は離れた。



‥もうちょっと
ああしてたかったかも。


相変わらずの意地悪な顔。 

⏰:09/06/20 23:10 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#169 [七瀬]
 
『‥‥‥』

抱き合っていた恥ずかしさと

歩志のことばで沈黙する。


「まあいいや。
許したげるよ、ぜんぶ」

顔を上げた。
だから、なにを?


「行こっか」
 

⏰:09/06/20 23:11 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#170 [七瀬]
 
 
‥またやられた。


あたしは
黙って歩志についていく。


大きな手に、
手を奪われながら。



なんで、あんなに
自然に手ぇ繋げんの?

ドキドキが止まる気配も
感じずに。

⏰:09/06/20 23:15 📱:N703iD 🆔:15LlxJw2


#171 [我輩は匿名である]
 
 
「暑いね〜」

恥ずかしくって
ずっと下を向いてたら


『う‥うん』

不意に声を掛けられた。


「ね」

『うん?』


「すごい汗だけど。手」
 

⏰:09/06/26 19:09 📱:N703iD 🆔:g7hoY3S6


#172 [我輩は匿名である]
 
『‥っ‥ごめん‥』

バッと
手を離そうとすると


「なんで離そうとするの」

逆に手を
強く握り返された。


「いいじゃん。
 手、あったかくって」


は‥はずかしぃ〜‥‥
 

⏰:09/06/26 19:14 📱:N703iD 🆔:g7hoY3S6


#173 [我輩は匿名である]
 
この何分間で、
いったい、どのくらいドキドキしただろう。

リアルに心臓痛い‥


相変わらず、

休まるようすもなく
激しく跳ねる心臓を胸に

汗で少し蒸れた手を
感じながら


長い

長い長い夜が始まった。

⏰:09/06/26 19:18 📱:N703iD 🆔:g7hoY3S6


#174 [我輩は匿名である]
 
 
「ね〜ね〜、ぽんずちゃん。 あれ見て、あれ!」

珍しくはしゃぐ
歩志の指先には、

『かわい〜』

定番中の定番
金魚すくい。


「やろっか」

『うん!』

あたしたちは、
屋台に向かった。

⏰:09/06/27 17:28 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#175 [我輩は匿名である]
 
「お姉ちゃん。大人2人」

「はい、おおきに。
 600円なります」

お金を渡すと


「勝負しよー」

歩志があたしを
ちらりと見て言った。


『‥いーけど‥‥歩志負けるよ?』
 

⏰:09/06/27 17:32 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#176 [我輩は匿名である]
 
「ふーん‥自信あるんだ」

あったりまえじゃん!

『あたし、こう見えても
金魚すくいはうまいの。
家族にも友だちにも
誰にも負けたことないんだからねー』

事実あたしは
負けという結果を出したことない。

全勝0敗。

これは、この15年間の
あたしの唯一の自慢できることだ。

⏰:09/06/27 17:38 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#177 [我輩は匿名である]
 
「じゃー、どうする?
 負けたら」

へ?

「もし負けたら‥そーだなあ。俺、タコせん食べたいんだけど」


‥なるほど。
そういうことね。

『あ、あたしはかき氷!』


その勝負、受けて立とうじゃないですか。

⏰:09/06/27 17:41 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#178 [我輩は匿名である]
 
 
「‥楽しみだね」

歩志お得意の
意地悪な笑顔を合図に
勝負のチャイムは鳴った。


ひさびさの金魚すくいで
最初はちょっと
てこずったものの感覚はだいぶ戻ってきた。


横を見ると、

金魚たちが集まりやすい端にいつのまにか移動してる歩志が。

⏰:09/06/27 17:46 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#179 [我輩は匿名である]
 
下を見ると、
あたしに負けないくらいの金魚たち。


なかなかやるな、あいつ。

よーしっ!
あたしも頑張ろ!!

気合いを入れ直す。


なんかわかんないけど、
負けたくなかった。

悔しがるアイツの顔が
見たかったのかも。

⏰:09/06/27 17:49 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#180 [我輩は匿名である]
 
 
20分後


黄色いかき氷を持った
あたしの隣には

タコせんを一口かじる
歩志のすがた。


結局、
勝負は引き分けだった。


「あーあー。おごってもらう気満々だったのに」

『あたしだって』

⏰:09/06/27 17:52 📱:N703iD 🆔:f7P3rAuo


#181 [七瀬]
 
「まあ、今回は引き分けってことで」

あれ、
歩志が珍しく素直‥


「次は負けないけど」


‥‥やっぱり。

『‥ぷっ、ふふふ』


「なに笑ってんの?」
 

⏰:09/07/01 23:06 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#182 [七瀬]
 
『ううん、別に』

「なになに?」

『ほんとなんでもない。
気にしないで』

「よけい気になる‥」

いつもと
まるっきり逆パターン。


「ねーなに?なんなの?」

歩志は
しつこく聞いてくる。
 

⏰:09/07/01 23:09 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#183 [七瀬]
 
『ないしょー!』


‥ざまあみろ。

いつもの、あたしの
気持ちを味あわせてやる。



歩志はやっぱり素直じゃなくて笑えた。


でも、あたしが笑ったのは別の理由。

さかのぼること
30分前。

⏰:09/07/01 23:12 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#184 [七瀬]
――――――――
―――――
―――


『あー、破けたぁ‥』

あたしの紙は、歩志より
先に破けてしまった。


「もう破けたの?」

勝ち誇った顔に
ムカついて

ちょっと邪魔してやることにした。

⏰:09/07/01 23:15 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#185 [七瀬]
 
歩志はずいぶん慎重派。

バッとすくっちゃう
あたしと正反対で

金魚と
にらめっこしていた。


「‥‥」

かーなーり真剣なようすに邪魔できる雰囲気じゃなかった。
 

⏰:09/07/01 23:17 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#186 [七瀬]
 
もぉーっ!
暇だー!暇だ暇だぁー!!


あたしは歩志から離れたところにいき、金魚を眺めていた。


すると


「彼氏?」

横から声が。
 

⏰:09/07/01 23:19 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#187 [七瀬]
 
『ちっ‥違いますよ!』


いきなりだし、
びっくりしながら

声のするほうへ
目を向けると‥


「あ、ほんま?
ごめんなぁ。てっきり彼氏かと思たわ」

金魚すくいのお姉さんだった。
 

⏰:09/07/01 23:22 📱:N703iD 🆔:hNziI84M


#188 [我輩は匿名である]
 
『ど、同級生です』


そう言ったものの

「へぇ〜、友達‥なあ」

その女の人の目は
怪しむように光っている。


な、なにこの人。

いきなり‥いきなり
"彼氏?"だなんて。

あの時のあたし、
かなりテンパってた。笑

⏰:09/07/02 14:54 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#189 [我輩は匿名である]
 
「あんたらみたいな子ら、よう見るわ」

あたしらみたい‥??


「あんたらみたいに仲いい子らってこと」


な‥‥っ!

『ち‥違うって言ってるじゃないですか!!』


「ごめんごめんー」

ほんと、なにこの人!

⏰:09/07/02 14:58 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#190 [我輩は匿名である]
慣れない
関西弁だからだろうか。 
この人‥なんか苦手だ‥。


「名前なんてゆーん?」

24、5歳くらいだろう。
耳に掛けた長い髪が妙に色っぽい。


『ゆ‥柚子です』

笑うと丸い目が横に細くなって、かわいいからきれいになる。

そんな人だった。

⏰:09/07/02 15:05 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#191 [我輩は匿名である]
 
「柚子ちゃんかぁ。
おいしそーな名前やん!」


『それ、
誉めてるんですか?』

そう言うと

「ははははっ!」

豪快に笑った。


いやいや、
笑い事じゃないし!
 

⏰:09/07/02 15:08 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#192 [我輩は匿名である]
 
「あんた、いーツッコミするなあ」

『は、はぁ‥ありがとうございます‥』

なんかよく、わかんないけど、とりあえずお礼を言っておいた。


「わたしはなぁ、まつりってゆーねん」


『まつりさん‥』

「そ。まつり」

⏰:09/07/02 15:11 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#193 [我輩は匿名である]
 
キラキラ光る屋台が並ぶお祭り。

「ま、家がこーゆう仕事してるから、こんな名前がついたみたい。ちっさいころはいややったわー」

笑いながら言う
まつりさん。


「でも、今ではけっこう気に入ってる。おばあちゃんが付けてくれた名前やし」


『に‥似合うと思います』 

⏰:09/07/02 15:14 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#194 [我輩は匿名である]
自然に口を突いて出た。

『すっごくかわいいと思います』

お世辞でもなく、
その場しのぎでもなく。

あたしのなかの
素直な気持ちだった。


「‥‥」

黙って見ていた
まつりさんも

「ありがとーなぁ」

またあの笑顔で笑った。

⏰:09/07/02 15:18 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#195 [我輩は匿名である]
 
 
『い‥いえ』

なんか言ったあとで
恥ずかしくなってきた。

少しうつむいて
金魚のほうに目を向けていると


「さっき、あそこの彼は友達やってゆーてたやん?」

まつりさんが口を開いた。 

⏰:09/07/02 15:20 📱:N703iD 🆔:j6heonto


#196 [七瀬]
 
『はい‥』

「でも、好きなんやろ」


『‥‥はい‥』

なんでだろ。

さっきみたいに
素直にうなずけたのは。


頑なに否定してたことを
言ってみると、恥ずかしいけど、思ったほどではなかった。

むしろすっきりした。

⏰:09/07/07 06:47 📱:N703iD 🆔:C.9r4c4g


#197 [七瀬]
 
「うんうん。うんうんうんうん!」

認めると、まつりさんは
何度も首を縦に振った。


「やっぱりなぁ‥そう思たわ。いやー、こういう商売何年もしてたら、わかんねん。
ほら、金魚すくいって、お祭りデートの定番みたいやし?」


そして、マシンガンのように止まらなくなった。
 

⏰:09/07/07 06:54 📱:N703iD 🆔:C.9r4c4g


#198 [七瀬]
 
「でもまぁ、提供してるこっちがゆうのもなんやけど、なにがおもろいんかはわからんな、未だに。
金魚いじめて、なにが楽しいねん!みたいな。
一番の被害者は金魚やで!まったく‥」


まったく‥困った。


「ああ‥ごめんごめん」

唖然としてるあたしに気付いたのか、苦笑するまつりさん。

⏰:09/07/07 06:58 📱:N703iD 🆔:C.9r4c4g


#199 [七瀬]
 
あたしもつられて
苦笑した。


「‥でもまぁ、わたしの目から見たら、脈ありやで。脈あり」


『‥ほんとですか』

なーんか信じらんない。


「うん!ほんまほんま!」

『‥‥ほんまかい!』
 

⏰:09/07/07 07:01 📱:N703iD 🆔:C.9r4c4g


#200 [七瀬]
 
あ、


『す‥すいません!』

やば‥まつりさんの口調が移っちゃった。


はっはっは!と、また口を大きく開けてまつりさんは笑う。

「えーよえーよ!
柚子ちゃん、やっぱおもろい!連れて帰りたいわ!」 

⏰:09/07/07 07:04 📱:N703iD 🆔:C.9r4c4g


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