あの場所まで
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#120 [ミツバ]
:09/07/10 09:50 :D904i :TpxPxFlc
#121 [ミツバ]
伊波勇太22歳は照りつける日差しの中闘っていた。
子どもたちの声援が響く。
少しだけペンキの剥げた深緑色した体育館の舞台よりも広めな舞台の上に彼はいた。
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#122 [ミツバ]
6人が舞台の上にいた。
「こいっ悪者ども」
全身赤色の正義の味方はマントをひらりと翻し、拳を握りしめ言った。
「やってしまえっ」
如何にも悪役面の敵は武器である大袈裟な杖を振りかざした。
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:09/07/10 10:13 :D904i :TpxPxFlc
#123 [ミツバ]
「キッーーー」
一斉に全身真っ黒の雑魚キャラは両手を上げて正義の味方に走り出した。
「がんばれー」
「負けるなぁ」
子どもたちの声はさらに大きくなった。
次々になぎ倒し、杖を持つ親だまにも勝った時会場は一斉に湧いた。
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#124 [ミツバ]
舞台の幕が下りた。
「お疲れさま」
「いやぁ暑いな」
「伊波、お疲れさん」
赤色のタイツの頭を外しながら近づく。
「佐伯さんっお疲れさまでした」
勇太は対照的な真っ黒の全身タイツを脱ぐのを一旦止め、頭を下げた。
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#125 [ミツバ]
「お前の動きが一番良かったよ」
佐伯は無精ひげを生やし、ガチガチの筋肉がチラリと見えた。
「ありがとうございます」
勇太は誰からも好かれるあの容姿に見とれた。
男臭さに惚れ惚れするほど佐伯は格好良かった。
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#126 [ミツバ]
佐伯は握手会のため、勇太の前を立ち去った。
幕の外はまだ子どもたちの声が騒がしい。
勇太も備え付けのシャワーを浴びて、帰る支度をした。
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:09/07/10 11:54 :D904i :TpxPxFlc
#127 [ミツバ]
日当を受け取り、勇太はオフィスから出た。
どんっと鈍い音が膝から聞こえ、じんわりと痛みが体を走った。
下を向くと鼻水を垂らしながら泣くぐりぐり頭の男の子がいた。
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:09/07/10 12:17 :D904i :TpxPxFlc
#128 [ミツバ]
「うっ…うっ」
勇太のズボンに糸を引きながら男の子はゆっくり離れた。
「ちょっ…おまえ…迷子か?」
一瞬顔を引きつったものの瞬時に勇太は悟った。
こんな所で一人で泣いてるなんて、親とはぐれたと相場は決まっている。
:09/07/23 09:45 :D904i :Kyi.5K4c
#129 [ミツバ]
コクンとゆっくり頷いて、グシュグシュと手の甲を使って男の子は涙と鼻水を拭いた。
「全く男の子がだらしないぞ」
勇太は男の子の両脇に手を添え、勢い良く抱きかかえ、ニカッと笑いかけながらそのまま自分の肩へと乗せた。
「メソメソすんな。名前は?」
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:09/07/23 09:51 :D904i :Kyi.5K4c
#130 [ミツバ]
「…ゆーた」
「おっおまえも"ゆーた"か。俺と同じ名前だな。よし、迷子センター連れて行ってやるからな」
ゆーたと名乗る男の子を乗せたまま勇太は歩き出そうと一歩踏み出した瞬時、ぐいっと頭の毛を引っ張られた。
「いってぇぇぇ。何すんだ」
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:09/07/23 10:00 :D904i :Kyi.5K4c
#131 [ミツバ]
ハゲたんじゃないかと思う程勢いが良かった。
ゆーたは徐に口を開いた。
「レッドレンジャーに会いたい」
この期に及んで、そんな事言われると思ってもいなかった勇太はあんぐりと口を開けた。
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:09/07/23 10:04 :D904i :Kyi.5K4c
#132 [ミツバ]
「おいおい。ゆーたはママを探してんだろ?」
「おれは、レッドレンジャーを探してたんだ。…そしたら…うわーん」
ゆーたはしどろもどろになりながら話すと、また泣き出した。
「わかったよ、すぐそこにいるから泣くな」
勇太はなだめるように言った。
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:09/07/23 10:09 :D904i :Kyi.5K4c
#133 [ミツバ]
今時の子供はたくましいんだかわからない。
勇太はそんな事を考えながら再び、佐伯、もといレッドレンジャーがいる騒がしい舞台へと歩き始めた。
自分もいつかは佐伯のように子供から好かれる役をこなし、悪と戦いたいと思い今のバイトを始めた。
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:09/07/23 10:14 :D904i :Kyi.5K4c
#134 [ミツバ]
しかし、そんな簡単に主役を貰えるわけはない。
初めてから3ヶ月、やっと舞台の役が来たかと思えば雑魚キャラ。
夢を見るのを辞め、本格的に就職活動を始めなくてはならない。
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:09/07/23 10:18 :D904i :Kyi.5K4c
#135 [ミツバ]
「おい、ゆーた。レッドレンジャーはかっこいいか?」
何気なく勇太は聞いた。
「一番かっこいいッ」
ゆーたはこれから間近で会える正義の味方に興奮しながら鼻息荒く言った。
(うらやましいよ、佐伯さん)
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:09/07/23 10:22 :D904i :Kyi.5K4c
#136 [ミツバ]
前を駆け抜ける子供たちは目を輝かせ彼を見る。
夢も希望も疑う事のない瞳は真っ白な光を降り注ぐ。
照りつける太陽をも蹴散らす正義の味方に熱い視線を向けるのだ。
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:09/07/23 18:05 :D904i :Kyi.5K4c
#137 [ミツバ]
長蛇の列を作っていたらしい列はもう十数人しかいなかった。
佐伯はこの炎天下の中、劇が終わって疲れていながらも自ら進んで握手会に参加している。
一時間以上、あのコスチュームを着ている事になる。
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:09/07/23 18:09 :D904i :Kyi.5K4c
#138 [ミツバ]
勇太は人を上手く避けながら最後尾に付いた。
「ほら、ゆーた。もうすぐだからな」
「うんッ」
もう肉眼で捉えられる距離にまで達した事に興奮気味らしく勢い良く答えた。
「レッドレンジャーと握手したら迷子センター行くんだからな、わかったか?」
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:09/07/23 18:13 :D904i :Kyi.5K4c
#139 [ミツバ]
「おうッ」
ゆーたは目を輝かせ言った。
調子のいいヤツだなと勇太は思いながらも弟が出来たようで内心嬉しかった。
辺りでは女の子も男の子も親に手を引かれ、レッドレンジャーに会ったとはしゃいでいた。
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:09/07/23 18:17 :D904i :Kyi.5K4c
#140 [ミツバ]
列は何事もなくスムーズに流れあっという間に自分たちの番になった。
「おッお兄ちゃん、レッドレンジャーがいるよ」
さっきからいたというのに、えらく興奮しているゆーたはそう口にした。
そんなに会いたくて、母親からはぐれても一人でここを目指してたんだなと勇太は改めて思った。
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:09/07/23 18:23 :D904i :Kyi.5K4c
#141 [ミツバ]
「そういやお前、レッドレンジャーの劇見なかったのか?」
ふと疑問に思い訊ねた。
「…ママが時間間違えたんだ」
明らかにふてくされた声がしたので、おかしくなり勇太は笑った。
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:09/07/23 18:26 :D904i :Kyi.5K4c
#142 [ミツバ]
レッドレンジャーと握手出来る距離まで来て、勇太はゆっくりゆーたを肩から下ろした。
「おや?兄弟かな?仲がいいんだね」
そう言いながらレッドレンジャーは腰を曲げてゆーたに手を伸ばした。
ゆーたは差し出された手をしっかりと握り締める。
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:09/07/23 18:31 :D904i :Kyi.5K4c
#143 [ミツバ]
言うまでもなく目はキラキラと輝いていた。
勇太は笑いながら違いますよと否定した。
すると、はいっとレッドレンジャーは勇太に向き直り手を差し出した。
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:09/07/23 18:33 :D904i :Kyi.5K4c
#144 [ミツバ]
勇太はびっくりしながらも中が佐伯だという事がわかっていたから、素直に手を握った。
「頑張れよ」
表情は見えないが、佐伯のあの笑顔が勇太には見えた。
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:09/07/23 18:35 :D904i :Kyi.5K4c
#145 [ミツバ]
「ありがとうございます。レッドレンジャー」
懐かしい。
勇太は少年に戻ったような心地になった。
昔、自分もゆーたと同じ年頃の頃こうして正義の味方と握手した記憶が鮮明に脳裏に映った。
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#146 [ミツバ]
年を取って忘れていた。
夢見るということ。
正義の味方が自分に夢を与えてくれたように、自分も子供たちのために夢を与えるんだと、ずっと思っていた。
どんな役だって、今出来る精一杯をしなくては誰も心動かない。
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:09/07/23 18:43 :D904i :Kyi.5K4c
#147 [ミツバ]
「暗黒の魔導師とあの変な黒い敵、レッドレンジャーがやっつけてよね」
ゆーたはレッドレンジャーを見上げ両手の拳を握りしめ言った。
「おうッレッドレンジャーに任せろ」
そう言って得意の決めポーズをして見せた。
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:09/07/23 18:50 :D904i :Kyi.5K4c
#148 [ミツバ]
変なと言われた自分の役に苦笑いしたが、そう簡単にやられてたまるかと思った。
這いつくばって、正義の味方に食らいついてやる。
自分自身のために。
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:09/07/23 18:54 :D904i :Kyi.5K4c
#149 [ミツバ]
空は澄んで、青々としていた。
雲が流れ、ジージーとせわしなく鳴く蝉の声に混ざり、目を輝かせている少年の名前を呼ぶ声が遠くから聞こえた。
━━━━━END━━━━━
:09/07/23 18:59 :D904i :Kyi.5K4c
#150 [ミツバ]
:09/07/23 19:02 :D904i :Kyi.5K4c
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