あの場所まで
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#54 [ミツバ]
灰色のズボンに白いポロシャツ、白い帽子。
紗代里は目を見開いた。
「…おじい…ちゃん…」
隣に腰掛ける老人は紛れもなく、紗代里の祖父だった。
:09/07/05 15:19 :D904i :zokoJNWk
#55 [ミツバ]
「さよちゃんが捜すから、来てしまったよ」
祖父はしわくちゃの顔に優しい瞳で紗代里の頭を撫でた。
紗代里は目の前にいる祖父が霞んでしまうほど、涙が溢れ出した。
嗚咽が零れる。
:09/07/05 15:29 :D904i :zokoJNWk
#56 [ミツバ]
「おじいちゃん、ごめんね。寂しかったよね、会いに行けなくてごめんね」
手のひらに温もりを感じる。
「私、自分の事ばっかりで全然おじいちゃん所に行けなかった。死んじゃってから何度も何度も後悔したの。遊びにおいでって毎年夏になる度言ってくれたの断った。会えなくなるなんて思ってもなかったんだよ…」
:09/07/05 15:37 :D904i :zokoJNWk
#57 [ミツバ]
紗代里は泣きながら祖父に想いの全てを話した。
「いいんだよ」
祖父は変わらない表情で紗代里に告げた。
「おじいちゃんは紗代里が生まれてきてから、本当に楽しい事ばかりだった。お父さんとお母さんに感謝してるよ」
祖父は撫で続ける。
:09/07/05 15:40 :D904i :zokoJNWk
#58 [ミツバ]
「…ほんと…に?」
なんとか声を振り絞って紗代里は祖父に訊ねた。
「本当だよ。さよちゃんも親になってこの嬉しさをお父さん達にあげるんだよ」
紗代里は泣きながら、何度も頷いた。
「あの優しそうな彼はきっとさよちゃんを幸せにしてくれるね」
:09/07/05 15:48 :D904i :zokoJNWk
#59 [ミツバ]
祖父は優介が歩いて行った方を向いてそう言った。
また紗代里の方へ向き直り、祖父は告げた。
「幸せになりなさい」
最後まで祖父は孫を案じ、そして誰よりも可愛がった。
:09/07/05 15:52 :D904i :zokoJNWk
#60 [ミツバ]
ボタボタと涙が溢れ止まらない。
「あり、が、とう…」
言葉にするのがやっとのことだった。
紗代里にはもう涙で祖父の顔は見えなくなっていた。
:09/07/05 15:56 :D904i :zokoJNWk
#61 [ミツバ]
「さよちゃん、ありがとうね─」
あの独特のイントネェーションを耳に残し、温もりも消えた。
そして雨は止み、満開の紫陽花の葉は水滴を弾き大地へ返っていった。
:09/07/05 16:00 :D904i :zokoJNWk
#62 [ミツバ]
─────完─────
:09/07/05 16:01 :D904i :zokoJNWk
#63 [ミツバ]
:09/07/07 12:18 :D904i :jjdZsMgw
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