死に至る病
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#101 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「いやはや、信じられない胃袋をお持ちですな貴女は。…しかしながら、私にもプライドがある。店長としてお客様を満足させたい、もうひとつは男としてのプライドです。
ここまでやられて、はい負けましたとは言えません」

店長は店員に食器を突き出して、客にも聞こえる大声で言った。


「大至急、シェフ以外のスタッフ総出で材料をかき集めてこいっ! シェフは残った材料でスイーツをなんでもいいから作れ、限りある材料で料理人魂をみせろ!」

「しかし店長、」

「店長命令だ、責任は私にある。さあ、皆いけ! このお嬢ちゃんに一泡ふかせてやるぞ!」

⏰:09/08/06 00:26 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#102 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「「は……はいっ!」」


生き生きした店長の笑顔に、店員はそれ以上なにも問わなかった。

それぞれが急いで動きだす。

客はすごい見物だと店を出ずに勝負を見るため席ついた。

⏰:09/08/06 00:29 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#103 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
やがて、ひとりの店員が買い物袋を持って店に帰ってきた。

それに続き、次々と店員が材料を持って帰ってきた。

ベルトコンベアーのように運ばれてくるスイーツに、女子高生はひるむことなくフォークをつきたてていく。


彼女に送られる声援が止まない。

⏰:09/08/06 00:31 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#104 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しかし、明らかにペースが落ちてきていた。

店長はにやりと笑うと、女子高生に言った。

「もうお腹がいっぱいではありませんかな? 失礼ながら、やせ我慢はよろしくないかと」

「まさかです。まだ腹二分目だって満たされてないですよぅ」

店長は表情を歪める。

⏰:09/08/06 00:32 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#105 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「はったりですな。ここまで大事になれば、引くに引けますまい。そろそろ貴女を楽にしてあげますよ。
……持ってこい!

店長が指を鳴らすと、店員がワゴンに巨大な何かを乗せてきた。

それは、目を疑うほどのばかでかい、ショートケーキだった。

バケツ二個分はある。


思わぬ最終兵器に、客のテンションは最高潮に達した。

⏰:09/08/06 00:33 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#106 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
女子高生は驚きつつ、勝ち誇ったように店長をみた。

「もしや、これが最後のスイーツですねぇ? もう材料がないとか…?」

「……」

店長はしぶる。

その通りだった。
これが最後の切り札。

もう材料が底をつき、負けじとスタッフ全員で悩みぬいた末の手段が巨大ケーキだったのだ。

⏰:09/08/06 00:35 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#107 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ただのショートケーキではない。

スポンジ間にはフルーツぎっしり、チョコたっぷり、さらにはこしあん、栗、ピーナッツ、クッキーまでつまっていたりする。

胃もたれ確定、胸焼けひっしの殺人スイーツだった。

しかし女子高生はペースを落とすどころか、凄まじい勢いで巨大ショートケーキをけずりはじめた。

みるみるうちに小さくなっていく巨大ケーキは頼りない。


そして、彼女は最後の一口を食べた…。

⏰:09/08/06 00:36 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#108 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「キミには負けましたな」

店長が言った。

女子高生は何も言わず、店長と握手した。

「おかげで私のプライドはズタズタなわけでして、ははは、本当に参った」

「…美味しかったですよぅ。どれも本当に美味しかった」

彼女は頭を下げた。

⏰:09/08/06 00:40 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#109 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「律儀ですな。お客様に失礼を働いたのは私ですのに。……ささやかながら、貴女にお土産をプレゼントさせてください」

そう言って、店長は一枚のカードを取り出した。

そこにはプレミアカード、と英語で表記されている。

このファミレスの有料プレミア会員にだけ与えられるものだと知っていた彼女は、驚きの声をあげた。

どうやら喜んでもらえたようだった。

⏰:09/08/06 00:40 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#110 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ありがとう」

「また、いつでもお越しになってください。そうだ、最後にぜひ貴女のお名前をおしえてはくれませんかな。私は堤です、貴女は?」

「わたしは狩山直央です」

「直央さんですか、いい名前ですな」

「…それじゃあ高山さん、また会いましょう」

店長は直央の姿が見えなくなるまで、小さな背中を見守っていた。

⏰:09/08/06 08:25 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#111 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
>>110
5行目に高山さんとありますが訂正します。

堤さんです(><)

⏰:09/08/06 09:15 📱:N03A 🆔:hRVRSZQ.


#112 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
夜更新します(*^_^*)

⏰:09/08/07 17:21 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#113 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ぎらぎら照りつける太陽。

雲一つない青空に、忙しい蝉の合唱。

天気予報では雨だったぶん、なんだか得をした気分で嬉しかった。


「渉ちゃん、早く早くぅ」

午前の授業が終わったとたん、僕は直央に手を引かれて中庭にでた。

⏰:09/08/07 21:58 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#114 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
彼女の片手には大きな鞄、そのなかには重箱の弁当が入っていた。

直央は昨日の約束を律儀に守ってきてくれたのだ。

きけば、この量を誰の助けも借りずたった一人で作り上げたのだという。

誇らしげに語る直央が愛しくて、僕は胸が幸せにあふれるのを感じた。

⏰:09/08/07 22:18 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#115 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
芝生に踏み込むと、太陽の眩しさに僕は目を細めた。


中庭のベンチは人気スポットで、昼休みになると生徒が我先にと競争になる。

そのなかでも一番人気なのが、木陰の下にあるところだった。

涼しくて、風当たりもよくて、弁当の味も三割増しになる。

⏰:09/08/07 22:19 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#116 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「わーい、一番乗りだよぅ!」


直央は例のベンチに腰掛けた。

隣を手でばしばし叩いて、早くここに座れと急かした。


僕はちょっと笑って、座った。


「やっぱりここは最高だな。木陰だし、ほら、他のベンチより背もたれが豪華じゃないか?」

僕は言った。

⏰:09/08/07 22:24 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#117 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「え〜、そうかなぁ。ベンチは他のと変わんないよぉ」

直央は首を傾げた。


まあ、どっちでもいいや。

僕は空に両手をかざして、大きく背伸びをした。


それにしても、いい気持ちだ。

青空の下はいい。

⏰:09/08/07 22:24 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#118 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
やっぱり人間はお日様の光を浴びて幸福を感じるようできてるんだな、なんて思ったり。

「おーい渉ちゃ〜ん、寝ちゃダメですよぉ。まだお弁当食べなきゃいけないよぅ〜、お昼寝はそのあと〜っ」

「はいはい」


直央はベンチに重箱を置くと、僕に開いてみるよう言った。

⏰:09/08/07 22:25 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#119 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
重箱は桃色の可愛らしいキャラクター物(直央が好きなやつだ。名前はド忘れした)で、ものすごい大きい。


中身はなんだろう。

直央の自慢げな表情からして、かなりの自信作に違いない。

⏰:09/08/07 22:39 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#120 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
もしかしたら、僕の大好物のハンバーグが入ってたりして。

ここは王道に肉じゃがもありえる。

美味しい予想が浮かぶ。


しかし僕は同時に、なにか大切な事を忘れている気がしてならなかった。

⏰:09/08/07 22:40 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#121 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「どーしたのぅ?」

僕がなかなか蓋を開けないので、直央が不安そうに言った。

「いや…、なんだったかな…」

「なにがっ?」

「何でもない。……うーん…」


思い出せない。

⏰:09/08/07 22:43 📱:N03A 🆔:Nti4.WFk


#122 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「おーいっ!」

僕が悩んでいると、直央が誰かに反応してぶんぶんと手を振った。

そっちを見る。

直央に気づいた男女は、こちらに向かって歩いてきた。

見慣れた顔。

天野湊(あまのみなと)と野村りこ(のむらりこ)だった。

⏰:09/08/08 13:41 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#123 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
二人とも弁当箱を片手にしていた。

きっと食べる場所を探していたのだろう。


「よっす、直央ちゃんに渉。イイトコ陣取ったねー。あたしらいつもの場所が一年生に取られちゃってさ。困ってたんだ」

りこはポニーテールを揺らしながら言った。

彼女の白いワイシャツに木漏れ日が映って、ゆらゆらと泳いで揺れていた。

⏰:09/08/08 18:56 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#124 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこは僕のいとこだ。

僕達が小さい頃から家族ぐるみで仲がとても良かった。

今でもしょっちゅう遊びにきたり泊まりをしたりする。

この間はキャンプに行った。

同い年ということもあり、一人っ子の僕にとって、りこは兄弟同然だった。

⏰:09/08/08 19:13 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#125 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
小さい頃、男まさりのりこには散々喧嘩で負かされてた。

駆け足も速くて、テレビゲームも強くて、恥ずかしいがりこに憧れてた。

それがいつしか立場逆転、りこはある日突然女の子らしくなった。

理由は恋の病。

相手はりこの隣に立つ、天野湊だった。

⏰:09/08/08 19:14 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#126 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
二人は小学校からずっと一緒で、幼なじみというやつだった。


りこは初恋だったんだろうな。

湊もそうかもしれない。

⏰:09/08/08 20:57 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#127 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
今では恋人同士で、すごく仲がいい。

おしどりみたいに、いつも揃って行動している。

微笑ましいな。ほんと。

⏰:09/08/08 21:44 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#128 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ほらほら、ボーッとしてないでもっと向こうに詰める詰める」

りこは僕の隣に座ると、ぞんざいに肩をぐいぐい押した。

ここで食べるつもりらしい。

「ごめんな、渉くん」

申し訳なさそうに、湊もりこの隣に座った。

⏰:09/08/08 22:39 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#129 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
そうしおらしくされるとこっちが悪いことしてるみたいな気分だった。

君は悪くないぞ。


「あれ? あれあれあれ? もしかしてそれって愛妻弁当ってやつだったり?」

りこはにやにやしながら、直央と僕の弁当を箸で指した。

湊も興味深そうに、りこの肩ごしに弁当を見る。

⏰:09/08/08 22:41 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#130 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は全力で否定した。

しかしそんな僕をよそに、直央は顔を赤らめて、両手で頬を包んでいた。


おいおい。

なに恥ずかしがってんだよ。

⏰:09/08/08 22:42 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#131 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「はわわ〜愛妻弁当って…。りこちゃん、わたしいいお嫁さんになれるかなぁ?」

りこは大声で笑った。

「なれるなれる、渉には直央ちゃんしかいないよ。渉ったら、口を開けば直央ちゃんのコトばっかでうるさいんだから!
無愛想で不器用なヤツだけど、直央ちゃんへの気持ちだけはイッチョマエだよ。幸せにしてもらいな」

僕は立ち上がった。

⏰:09/08/08 22:43 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#132 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「な、何だそぅぇぼっ」

僕が反論しようとすると、りこは容赦なくヘッドロックをかけてきた。

りこは耳元で囁いた。

「ホントのコトだろが。いい加減素直になれよなぁ、マジで」

すかさずカウントを数える湊。

⏰:09/08/08 22:46 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#133 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
助けてはくれないらしい。

恐るべきやつらだ。

ようやくりこのヘッドロックから解放されたとき、直央は妄想モードに入っていた。

目を細めて、胸の前で祈るように手のひらを合わせている。

⏰:09/08/08 22:47 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#134 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「どうする渉ちゃんっ、りこちゃんああ言ってるけど〜。結婚しちゃう? ハネムーン行っちゃう? シングルベッドで一緒に寝ちゃうぅ? ……ぽわーんんん…」


幸せそうな、恍惚の表情。

彼女の頭上では、めくるめく妄想が繰り広げられていた。

⏰:09/08/08 22:48 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#135 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
捕まえてみてぇ〜渉ちゃ〜ん。

待てよ〜、直央〜。

あはは、こっちだよぅ〜。



白い煙の中で、僕と直央は花畑で追っかけっこしていた。

まったくこいつは暇さえあればせっせと妄想で、お気楽なやつだよ。

妄想を手でぶんぶん追い払うと、直央ははっと我にかえった。

⏰:09/08/08 22:50 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#136 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ところで渉ちゃん、早くお弁当食べようよぉ。わたしお腹ぺこぺこだよ」

直央は重箱を指差した。

「オッケー。直央が作った弁当、どんなおかずか楽しみだな」

「えへへ。きっと渉ちゃんも大好きなものだよぅ〜」

⏰:09/08/08 22:55 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#137 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
重箱の蓋を開ける。

りこと湊も見ていた。

しかし僕は中身を見るやいなや、すぐに蓋を静かに閉じた。


…目蓋を下ろして深呼吸。

⏰:09/08/08 22:56 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#138 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「な、なにしてんの、渉。なんで開けないのさ」

りこは言った。

「…りこ、おまえ確か甘いもの好きだったよな。甘いものは別腹だって言ってたよな…?」

「うん」

「じゃ、食べろ」

⏰:09/08/08 22:57 📱:N03A 🆔:edlBdonc


#139 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
夜更新します(≧ω≦)

⏰:09/08/09 10:40 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#140 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は重箱をぽんぽんと叩いた。

早起きして弁当を作ってくれた直央のまごころだけもらっておくとしよう。

後はりこに任せた。


りこが怪訝そうにしていると、直央がにこにこしながら重箱の蓋に手をかけて言った。

⏰:09/08/09 20:00 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#141 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「甘いものが好きなら、りこちゃんも一緒に食べよぅ! たくさんあるし。それっぽっちのお弁当じゃ、お腹空いちゃうでしょ?」

直央の提案に、りこはきらきらと目を輝かせた。

「ホント〜? ありがたいねぇ! …いや実はさ、今日みたいに弁当のおかず少ないと、あたし午後の授業はお腹空いて集中できないんだよね〜!」

「…りこ、悪いって。直央ちゃんは渉くんに作ってきたんだよ」

⏰:09/08/09 20:01 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#142 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
喜ぶりこに、湊は言った。

冷静な一言。

さすがのりこも、残念とばかりに腹の虫が泣きわめく腹を押さえた。

湊はりこのお目付け役だ。

ときたま暴走するりこを、さりげなくせいしたりフォローしたりする。

⏰:09/08/09 20:02 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#143 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ふにゃっとしてるが、あなどってなめてかかると痛い目をみる。

勘も鋭く、彼に嘘はつけない。

僕はお目にかかったことはないが、本気で怒ると、ヤクザ顔負けの凄みがあるらしい。


…ちなみに怒らせたのはりこ。

普段りこに優しい湊を怒らせるなんて、なにしたか気になる。

⏰:09/08/09 20:05 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#144 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は重箱の蓋を開けた。

「いいんだよぅ。遠慮しないで、どんどん食べてね〜」

「そうだぞ、遠慮すんな」


中身を見たりこが、ふおっ、と奇妙な悲鳴をあげて目を丸くした。

⏰:09/08/09 20:07 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#145 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
気持ちはわかる。

一段目の中身はまるまる桃ゼリー(しかも果肉たっぷり)だったのだから、その反応は仕方ないことだった。


「す、スゴいなぁ。一段目からデザートだなんて、さすがは爆食魔狩山直央だよ。桃がたくさん入ってて美味しそう〜」

「えっへん。ちなみに、渉ちゃんはアッサリが好きだから寒天で固めてあるんだぁ。ヘルシーだから女の子には嬉しいよねっ」

⏰:09/08/09 20:08 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#146 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「渉はシアワセ者だよ、こんな美少女に、こんな美味しいもの作ってもらえるなんてさ」

「どんどん食べてねっ。そのかわり、最後まで食べてくれなきゃ怒るよぅ」

「はーい」

驚きつつも、りこは喜んで桃ゼリーを食べはじめた。

直央も一緒に食べながら、いかに桃ゼリーが素晴らしいかを語っていた。

⏰:09/08/09 20:09 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#147 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
のほほんとした光景に、僕と湊は黙って見守っていた。

けれど僕は知っている。

これから待ち受ける、あの重箱の甘ったるい恐ろしさを知っている。

笑ってられるのも今のうち。

別腹がはち切れて、満腹死するまで食べるがよい。

りこめ、いつも僕にプロレス技をかける天罰だと思いたまえ。

⏰:09/08/09 20:16 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#148 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ありゃりゃ…、もう桃ゼリー無くなっちゃったねぇ。ごめん直央ちゃん。つい美味しくて遠慮なしに食べちゃった」

りこは言った。

「大丈夫だよぅ〜。まだまだいっぱいい〜っぱい、あるから」

直央は重箱を解体していくと、そこには僕の予想していた光景があった。

⏰:09/08/09 20:18 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#149 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
二段目は和菓子の詰め合わせ。

三段目はイチゴとクリームたっぷりのショートケーキ。

四段目はチョコケーキ。

五段目はモンブラン。


とどめは、湯がしただけのチョコかと思うくらいどろどろした、アイスココアだった。

⏰:09/08/09 20:20 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#150 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……あ、あはは、こりゃすごい…」

りこは唖然として、引きつった笑顔と渇いた笑い声を上げた。

もう満腹らしい。

りこがバトンタッチと僕にスプーンを渡したその時、彼女の肩を直央が鷲づかみにした。

彼女は恐る恐る振り返った。

⏰:09/08/09 20:22 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#151 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「まだ残ってるよぅ? 最後まで食べてくれるよねっ?」

「な、直央ちゃん、ごめんけどあたしもうお腹いっぱいで、」

りこはそこまで言って、直央からどす黒いオーラがでているのに気づきあわてはじめた。

⏰:09/08/09 20:28 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#152 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
食べ物の痛みはわたしの痛み。

食べ物の敵はわたしの敵。

食い物をないがしろにされると、直央はものすごく怒る。

食べる前に断ればセーフ。

許してくれる。

⏰:09/08/09 20:29 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#153 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しかし手をつければ最後、しゃれにならないほど腹がはち切れるまで食べさせられるのだ。

泣く泣く食べはじめたりこをからかっていると、どす黒いオーラを僕の背後から感じた。

ふき出る冷嫌なひや汗。

僕は先ほどのりことまったく同じように、恐る恐る振り返った。

⏰:09/08/09 20:30 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#154 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「わたし、渉ちゃんのためにお弁当作ってきたんだけどぉ…。食べるよねっ?」

「お、お、俺は…、」


「食・べ・る・よ・ね……?」


直央が僕の顎をつかみ、いちごを刺したフォーク片手にすごんできた。

後退る僕に合わせて、直央はずりずりと間を詰めてくる。

中庭に僕の悲鳴がこだました。

⏰:09/08/09 20:33 📱:N03A 🆔:0eHX26cc


#155 [chimu◆Hi9o8eIXuA]



なんとか完食した。

僕とりこは異様に膨れた腹を撫でながら、ウンウン唸っていた。

そんな僕らを満足げに見つめながら、直央はアイスココアを優雅にすすっていた。

…もう甘いものはしばらく食べたくないし、見たくもない。

⏰:09/08/10 20:41 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#156 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
トイレに行こうか迷っていると、僕たちの前に女の子が現れた。

両手に数冊の本を持っていた。

肩までに切り揃えられた、艶のある黒髪。

丁寧にアイロンがけされて、パリッとしたブラウスが、彼女の几帳面さを物語っている。

一本の棒のように凛と立って、眉根にしわをよせて、ぶすっとしていた。

⏰:09/08/10 20:48 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#157 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
明らかに不機嫌そうだった。

可愛い顔立ちをしてるのに、すこしもったいないなと思った。


「野村先輩」

彼女は言った。

呼ばれたりこは吐き気に耐えるひどい顔を上げて、ひらひらと手を振った。

酔っぱらいみたいだった。

⏰:09/08/10 21:26 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#158 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「や、早紀ちゃん。…悪いけどオネーサン気分がすぐれなくてさ、……うぇ、うぇぇ……、打ち合わせだったら放課後にしてくれないかな、……ぐぇ」

「いえ、打ち合わせじゃないです。借りていた小説をお返ししたくてきました」

早紀さんは手にしていた小説をりこに返すと、踵をかえしてさっさと中庭を出ていった。

あっさりした人だった。

⏰:09/08/10 21:53 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#159 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は早紀さんから返却されたりこの小説を手に取って、ぱらぱらとおおざっぱに中身を見た。

トリックだとかアリバイだとか殺人だとか血だとか、そんな単語がいくつもあった。

ちなみに小説のタイトルは「緊急病院殺人事件」。


「りこ、おまえってミステリー小説なんか読むのか?」

いくぶんか回復したらしいりこは、むっくり起き上がって言った。

⏰:09/08/10 22:01 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#160 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「読むもなにも、あたしはミステリーマニアだからね。ついでにいうと、早紀ちゃんもそう。二人でミステリー同好会しちゃってるくらい愛してるよ」

「ミステリー同好会ってなになにぃ〜? 気になるなぁ」

直央が訊いた。


「ふふん」

りこはひとつ咳払いをし、足を組みなおした。

⏰:09/08/10 22:25 📱:N03A 🆔:1ut1iRZA


#161 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ミステリー同好会とは、本格ミステリーを読み、ミステリーの素晴らしさを布教し、オリジナリティあふれる良質トリック及びアリバイを作りだし勝負しあう、ミスマニのミスマニによるミスマニのための同好会なのだっ」

やたらと長い説明だった。

直央はすごいすごいと惜しみない拍手をした。


言い終わると同時に、息切れしたりこは再び倒れこんだ。

⏰:09/08/11 08:36 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#162 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
その拍子に、ブラウスからふくれた腹がのぞいた。

僕と直央は顔を見合せにんまり笑いあうと、りこの腹をくすぐってやった。



中庭に響く、僕らの笑い声。

⏰:09/08/11 08:37 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#163 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

楽しい時ほど、時間は早く過ぎる。



「よかったらさ、今日の放課後あたしん家でミステリー同好会の打ち合わせするから、よってかない?」

りこは湊に支えられながら、僕たちに言った。

⏰:09/08/11 09:31 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#164 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は頷いた。



僕と直央は毎日一緒に帰宅しているから、直央が寄り道するなら必然と僕もそうなる。

寄り道が嫌なら断って自分一人帰ればいい。


けれど僕達はとある事情があって、直央が帰宅するまで別れてはいけないことになっていた。

⏰:09/08/11 09:32 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#165 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
これは絶対で、逆らえない。

なにがあっても。

りこは僕達の了解を素直に喜び、また後でねと湊と去っていった。

僕も教室に帰らないといけないので、尻のほこりをはらい、直央に手を差し伸べた。

⏰:09/08/11 09:32 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#166 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ランチタイム(Side Story)
「ぷにたん」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「あたしそのキャラクター知ってるよ。名前、なんだったっけ?」

りこはチョコケーキをつっつきながら、直央の重箱の蓋に描かれたキャラクターを指差した。

僕も知ってる。

そいつは最近ちびっこに人気で、テレビアニメからグッズまで大忙しのやつだった。

⏰:09/08/11 12:12 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#167 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央も相当のお熱で、部屋中そいつだらけにしていた。

名前はなんだったかな。


「ぷにたんだよぅ。頬っぺたがぷにぷにして、つぶらなお目が可愛いよねぇ〜」

直央がうっとりと言った。

そうだそうだと、りこが相づちをうつ。

⏰:09/08/11 12:13 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#168 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「それでさ、もしよかったら今日ミステリー同好会の打ち合わせついでに、ぷにたんのぬいぐるみあげるよ。このくらいの、スッゴいおっきーやつ」

りこは両手で大きな円を作ってみせた。

かなりの大きさだった。

⏰:09/08/11 13:57 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#169 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
よかったじゃないか。

そう言おうとしたとき、直央が奇声を上げながら勢いよく立ち上がり、彼女のひじが僕の顎にヒットした。


「ええぇぇっ!? りこちゃんそれ本当だよねっ? 本当にぷにたんなんだよね、くれるんだよね、嘘じゃないよねーっ?」

痛がる僕はお構い無しに、直央は目を輝かせてりこの手をとった。

⏰:09/08/11 14:00 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#170 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
予想以上の喜びっぷりに、りこは驚きながらも嬉しがっていた。

ぷにたんぬいぐるみは、行きつけのゲームセンターで当てた景品なのだという。

結構な額を注ぎ込んだらしいが、目的の景品はちゃんと取れたので、ぷにたんには未練がないとりこは言った。

直央は相当嬉しかったのか、昼休み中ぷにたん…ぷにたん…とつぶやいていた。


今年の直央へのバースデープレゼントは、ぷにたんグッズにしようかな。

⏰:09/08/11 14:17 📱:N03A 🆔:tAjoSozw


#171 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
夜更新します(^-^)

⏰:09/08/13 10:29 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#172 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
4 ミステリー同好会
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

僕達がりこの家についた時には、既に早紀さんはついていた。

りこに案内され、廊下を僕と直央はぴったりならんで歩いた。

りこの部屋は窓がたくさんあって日当たりがよく、ワックスのきいたフローリングがきらきら輝いていた。

窓辺には観葉植物があり、りこはそれに名前をつけて可愛がっている。

さっき水をあげたのか、葉が水滴をつけて揺れていた。

⏰:09/08/13 20:50 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#173 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
部屋中にあふれるりこの匂いと主人に似た明るさが、ここはやっぱりりこの部屋なんだと実感させた。

ここはりこの空間なのだ。

直央は初めての訪問なので、きょろきょろ辺りを見回したりと落ち着きがなかった。


りこは察しのいいやつだから、直央に紅茶を一緒に作ろうと誘った。

⏰:09/08/13 22:18 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#174 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
二人が部屋から出る。

とたんに静まる部屋。

早紀さんと二人きりになったので、気まずかった。

しかし彼女は今までどおり、さらっとした表情で小説を黙々と読んでいた。

⏰:09/08/13 22:22 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#175 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
あまりに静かなので、僕がちょっと動いただけで、早紀さんはじろりと僕を睨んだ。

図書館にいる気分だった。


「一緒にきた人と、お付き合いされてるんですか」

不意に、彼女が喋った。

発言がいきなりだし予想外だったのでうまく聞き取れず、僕はもう一度お願いと言った。

⏰:09/08/13 22:24 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#176 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
彼女は小説にしおりを挟んで、ぱたんと閉じた。

「一緒にきた人と、お付き合いされてるんですか」


ややあって、僕は答えた。

「直央のことだよね? …してないよ。お互いフリーだから、寂しくて身を寄せあってんの」

僕は肩をすくめてみせた。

⏰:09/08/13 22:25 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#177 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「意外です。とても仲がよさそうに見えたので、てっきりそうかと勘違いしてました」

「よく言われる」

「でも、本当に恋人にしか見えません。そうでなかったら手を繋いだり寄りかったりしませんよ」

「直央にとって、それがスキンシップだからね」


「…それを口実に、イチャつきたいだけじゃないですか」

⏰:09/08/13 22:25 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#178 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
口実。


痛いとこつくな、この子。

僕はちょっと笑って、その反面胸がちくちく痛むのを感じていた。

でもそれは僕だけじゃないはずだ。

直央もきっと同じだろう。

⏰:09/08/13 22:28 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#179 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
お互い必要だから、一緒にいる。

お互いが信じてる。

明日を一緒に迎えて、喜びを分かちあって、悲しみに涙を流しあう。

抱きしめたければ優しく抱きしめればいい。

キスしたければ何回でもすればいい。

⏰:09/08/13 22:31 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#180 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
きれいごとかもしれないけど、あたりまえだからしかたない。

これはあたりまえだった。

だけど他人はこのあたりまえをあたりまえと認めず、嫌う。

友達と恋人の境目にはなにもないと決めつけ、きっちりしたカテゴリーにおさめたがる。

真実にしたがる。

僕らにしてみれば、それは無粋でしかないことだった。

⏰:09/08/13 22:32 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#181 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
日差しで暖められたぬるい空気が、僕の眠気を誘う。

「あの人がすごくいい人だというのは、分かります」

早紀さんは今まで下げていた頭をす上げて、くっきりした声で言った。

彼女の声は透明で、頭の中にすっと入ってくる。

なんとなく、この子は嘘をつかないしつけないだろうなと思った。

⏰:09/08/13 22:33 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#182 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「うん。いいやつだよ。すっごくいいやつ。そのせいで傷つくことも多いからよく泣くんだけど、…幸せそうに泣くんだよな、あいつ。他人が傷つくくらいなら自分が傷つくほうがマシ、なんて考えてる。そんなやつ、なかなかいないよな。レアだよレア」

「……桐沢さん、好きでたまらないって感じですね」

「そうかな」


お待たせー、とりこと直央がトレイに紅茶を乗せて帰ってきた。

猫足の木製テーブルに白い陶磁器のカップが置かれる様子を、僕は夢の中のように見ていた。

⏰:09/08/13 22:34 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#183 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央がしずしずと、僕の横に正座でちょこんと座った。

僕の顔を覗き込む。

「眠い?」

直央が訊いた。

僕は頷いた。

すると彼女は正座のまま、自分のももをぽんぽんと叩いてみせた。

⏰:09/08/13 22:35 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#184 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「膝枕したげるよぅ〜」

りこが紅茶をふきだしかけて、口を押さえながら笑った。

つられて僕も笑った。

ほらほら早くぅ、と直央は頬っぺたを膨らませて急かした。

「いーじゃん、してもらいなよ膝枕ー。絶世の美少女の太もも撫でれるなんて生き天国じゃん。直央ちゃんがあんたになついてくれてる間がチャンスだよー。素直になんないと他の男に直央ちゃん持ってかれるよん」

りこは言った。

⏰:09/08/13 22:36 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#185 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ばーか、持っていかせねーよ」

なんて言ってみる。

直央はみるみるうちに真っ赤になり、ぽわーんんんとつぶやいて妄想をしだした。

と思いきや、あっという間に直央は僕の腕をひっつかみ(すごい力で)、横に引っ張った。


体勢を崩して倒れたさきには、直央の膝枕があった。

⏰:09/08/13 22:37 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#186 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ぽふ、と頭に柔らかい感触。

鼻の下を伸ばさずにはいられない、膝枕って男のロマンだよな。

直央は僕の頭を撫でながら、やーんいい匂いがするよぅと言って、猫みたいに頬をすりつけてきた。

「うっしっし、あたしらの前で公開イチャイチャしてくれちゃってさー。直央ちゃんもホンット渉が好きだねぇ。そんなオトコのどこがいーんだか」

「えへへ〜。好きだからしょうがないよぅ。それに、渉ちゃんにはわたししかいないもんね〜。バレンタインチョコはわたしにしかもらえないもんね」

⏰:09/08/13 22:39 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#187 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
反論したかったが、そう言った直央の顔はひどく幸せそうで、なにも反発せずに頷いた。

むせかえるほどの直央の匂い。


「あれー?」

りこはかがんでテーブルの下から意地悪な笑顔で僕を見た。

嫌な予感がした。

⏰:09/08/13 22:40 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#188 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「バレンタインチョコは誰にももらってないぃぃ? 本当かなぁ、桐沢渉くぅーん? …毎年ロッカーいっぱいに本命チョコもらってるのは……あれれ、ワタクシの記憶違いかしらん?」

えっ、と直央が小さく叫んだ。


赤い舌を出すりこ。

⏰:09/08/13 22:41 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#189 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は無言で僕の頬っぺたをつねり、力強く横に伸ばした。

本当容赦ない。

止めろよ痛いだろ、と言おうとしても、口から出るのはふごふごもごもごと意味不明なものだった。

「わたしを騙してたなぁ」

直央の瞳は怒りを孕んでいた。

⏰:09/08/13 22:42 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#190 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「じゃむしてにゃいひょ、ごかひだほ。ひゃめろひ」

「う〜、ひどいよぅ」

頬っぺたをつねる手をぱっと放して、のしかかるように直央は僕に抱きついてきた。

彼女の長い髪が視界を隠す。

⏰:09/08/13 22:43 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#191 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
胸板に当たるふたつの柔らかく温かい感触に、高鳴る僕の心臓。

心臓の鼓動が重なる。


直央はゆっくりと唇を開いた。

⏰:09/08/13 22:43 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#192 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「渉ちゃんはわたししかみちゃだめなんだからぁ。…わたし以外に笑っちゃだめ、優しくしちゃだめ、もらったチョコなんて、わたしが全部食べちゃうから」

「嫉妬(やきもち)?」

「そうだよぅ」

⏰:09/08/13 22:46 📱:N03A 🆔:RJ.dOnTs


#193 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
きっぱりと直央は言った。


甘い一言に、頭の奥がじんじんと痺れるのを感じた。

可愛いやつ。

⏰:09/08/14 15:26 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#194 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ハーイ、よい子は注目ー」

りこが言った。

直央は顔を上げた。


そのとき、直央の表情が一変した。

それもそのはず、りこが手にしていたのは、…おっきいぷにたんぬいぐるみだったのだ。

⏰:09/08/14 15:27 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#195 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
更新しますo(^-^)o

⏰:09/08/14 18:59 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#196 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「渉とぷにたん、どっちがいいのかなぁー? んー?」

迷うことなく、直央はぷにたんぬいぐるみへと飛びついた。


枕を失った僕の頭が、重力にしたがってごつんとフローリングに叩きつけられる。

無情の痛さだった。

⏰:09/08/14 18:59 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#197 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
残念なことに彼女の中では、ぷにたん>桐沢渉らしい。

ぷにたんぬいぐるみに頬擦りする直央を見ながら、僕はぷにたん以下なのかと悲しくなった。

ぬいぐるみが人間より優先順位が高いなんて、あってはならないことだと思う。

なんたって悲しいじゃないか。

再び全員がテーブルを囲んだとき、僕と直央の間にぷにたんぬいぐるみがどっかり座っていた。

気に入らない。

⏰:09/08/14 19:00 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#198 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこは背筋を伸ばし、ひとつ咳払いをすると明らかに笑いをねらって真面目くさった声で言った。

「えー、オホン。それでは本題に入りたいと思います。こちらの方が我がミステリー同好会の副会長、森早紀さんであります」

早紀さんは小さく頭を下げた。

「改めまして、初めましてこんにちは。森早紀です。りこさんのごっこに付き合わされているかわいそうな一年生です」

ありゃ、とりこは照れくさそうに顔を小説で隠した。

⏰:09/08/14 19:25 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#199 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
明るい僕達の笑い声が重なる。

直央が右手を高く挙げて、りこに質問があることを示した。

りこがはい狩山さん、と先生みたく指名した。

「会員は何人ですか?」

「現在は三人です。あたし、早紀ちゃん、湊の三人。湊は幽霊会員だから、うーん、ビミョーなとこですけどー。ちなみにまだまだ会員募集中だからさ、この際人助けだと思って入ってみない?」

⏰:09/08/14 19:26 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#200 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「幽霊会員ならなってもいいけど」

僕は言った。

「そんなつれないこと言わないでよ渉クーン。三年になって部活も引退してさ、これから暇がたっぷりあるんだからさぁー。直央ちゃんと一緒にミス会入っておくれよぉぉ。お願いしますぅぅ」

「しつこいぞ、りこ」

⏰:09/08/14 19:27 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#201 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「そんなぁぁ、渉クンには血も涙もない鬼畜だぁぁ。何だよ何だよ、直央ちゃんのお願いならホイホイきくくせにさ。お願いだよ、毎月ぷにたんグッズあげるから」

なんたるごり押し。

今なら洗剤二つつけます、みたいな新聞勧誘のごとくしつこい入会勧誘だった。

⏰:09/08/14 19:28 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


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