月蝕
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#52 [まぐろ]
「よかった…気づいて」
安堵の息を吐き、簪を見る。
簪には、花が飾られている。特徴的な、綺麗な花。
私はその花の実物を目にしたことがないが、本当に綺麗なのだと太陽が教えてくれた。
:09/10/02 21:30 :SH705i :☆☆☆
#53 [まぐろ]
確か…この花は“さくら”といったか。
春になると、その“さくら”が綺麗に咲き誇るのだと。
いつか、見に行こう、と…。
その約束の証として、私にこの簪を渡したのだ。
私を、つなぎ止めるために。
:09/10/02 21:34 :SH705i :☆☆☆
#54 [まぐろ]
「…」
そんなの、いい。
彼の気持ちだけで充分。
首を振って、そしてもう簪を落とさないように着物の帯に差した。
これからどこへ行こうか。
…どこに行こうと私は縛られたままだが。
帰る場所なんて、ここしかないのだから。
:09/10/02 21:40 :SH705i :☆☆☆
#55 [まぐろ]
ザッ…
歩き出そうとした時、背後から土を踏む音が鳴った。
「お待ちください」
同時に聞こえた声に、少しだけ身を縮める。
いつもより、真剣な声。
「…澪?」
ゆっくりと振り返る。
そこには、眉間に皺を寄せた澪がいた。
:09/10/02 21:43 :SH705i :☆☆☆
#56 [まぐろ]
「何か、用かしら?」
澪同様、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。
…また、あの重い空気。
「月夜さん」
開かれた口から発せられた私の名。
今日はどんな冷たい言葉を言われるのだろう。
やはり慣れない言葉なのだろうか。
:09/10/02 21:49 :SH705i :☆☆☆
#57 [まぐろ]
「月夜さん」
もう一度、名を呼ばれた。
鼓動が速くなる。
覚悟なんてとうに出来ている。
彼は私が嫌いなのだ。
何を言われても仕方ない。
固く目を瞑った。
「僕は貴女を、
…愛しています」
:09/10/02 21:52 :SH705i :☆☆☆
#58 [まぐろ]
思わず、目を見開いた。
澪は今、何を言った?
見上げると、瞳に哀しみの色を浮かべて私を見つめる澪の姿。
…どうして?
「…だから、いなくなりなさい。
僕と、太陽の前から」
そして、彼は私に背を向けた。
:09/10/02 21:57 :SH705i :☆☆☆
#59 [まぐろ]
.
月の光は太陽の光。
だから、大丈夫。
.
:09/10/02 21:59 :SH705i :☆☆☆
#60 [まぐろ]
.
何故、光が二つあっては
いけないのだろう。
一体、誰が答えを
知っているというのか。
.
:09/10/02 22:07 :SH705i :☆☆☆
#61 [まぐろ]
告げてしまった言葉には
嘘も、後悔もなかった。
それなのに、何故僕はこんなにも無力なのか。
何故、彼女を救えないのか。
…太陽と共に逃がしてやれないのか。
“いなくなれ”としか言えない自分に嫌気がさす。
:09/10/02 22:11 :SH705i :☆☆☆
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