月蝕
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#1 [まぐろ]
月と太陽は似て非なり。
月と太陽はふたりぼっち。
月は太陽のおかげで。
太陽は月のために。
けれど決して
相容れることはない。
.
:09/09/23 00:30 :SH705i :☆☆☆
#2 [まぐろ]
満ち欠ける月を見て、思う。
“月は独りじゃない”
輝かせてもらえるから。
輝く理由があるから。
…だから、お願いです。
:09/09/23 00:37 :SH705i :☆☆☆
#3 [優奈]
:09/09/23 00:41 :SH705i :☆☆☆
#4 [まぐろ]
燦燦と輝く陽を見て、思う。
“強くて優しい、光”
月を輝かせてくれる。
本当は…月なんて
必要ないのに。
…だけど、お願いです。
:09/09/23 00:43 :SH705i :☆☆☆
#5 [まぐろ]
ポーンッ…と、小気味よい音を聞き、思考を中断して視線を空から移す。
生憎の曇り空、太陽も月も今日は見ることができないだろう。
言い知れぬ虚しさを感じつつ、音のした足元を見る。
…鮮やかな色の、
小さな毬だった。
:09/09/23 00:52 :SH705i :☆☆☆
#6 [まぐろ]
それを手に取り、見つめる。
誰の物だろう、と見回すと、たどたどしい歩きで私に近寄る、幼い少女の姿があった。
毬の持ち主であろう少女は私を見るなり、無邪気に笑ってみせる。
花が咲いたような笑顔に、釣られて頬が少し緩んだ。
:09/09/23 01:01 :SH705i :☆☆☆
#7 [まぐろ]
「ありがとう!」
私から毬を受け取り、ぺこりとお辞儀する。
なかなか礼儀正しい子だ。
「どういたしまして」
そっと頭を撫でてやると、照れ臭そうにも嬉しそうにまた笑う。
「えへへ、ありがとう!
“おつきさま”!」
:09/09/23 01:06 :SH705i :☆☆☆
#8 [まぐろ]
「…!」
ドクリ。
心臓が大きく跳ねた。
撫でる手から動揺が伝わったのか、少女は不思議そうに私を見上げる。
「おつきさま…?」
そう、子供は時に残酷だ。
物事の善し悪しを理解できず、ただ目前のものを善とする。
…それでいいのだ。
まだ、理解できないのだから。
:09/09/23 01:12 :SH705i :☆☆☆
#9 [まぐろ]
それなのに、子供相手に動揺を露にしてしまった自分が情けない。
…なんでもない、と曖昧に笑うと、毬の少女は首を傾げてから、またたどたどしい足取りで走っていった。
やはり、慣れないようだ。
月の描かれた、藍色の着物が恨めしい。
ため息を吐き、再び空を仰ぐ。
…もうじき日が暮れる。
暗くなる前に帰らないと、彼が心配するだろう。
…月は、きっと見えない。
.
:09/09/23 01:30 :SH705i :☆☆☆
#10 [まぐろ]
.
私が“おつきさま”
彼が“おひさま”
.
:09/09/23 01:33 :SH705i :☆☆☆
#11 [まぐろ]
「今日は随分とお帰りが早いですね。月夜(ツクヨ)さん」
屋敷へ帰ると、彼の従者である澪(ミオ)が待ち構えていた。
澪は私を見るなり少し顔を歪め、苦々しく言い放つ。
まるで、帰ってくるなと言わんばかりの言葉。
「…弟に、心配かけたくないので」
澪は彼…私の双子の弟の従者であり、私のではない。
嫌われていても、仕方ない。
:09/09/23 01:46 :SH705i :☆☆☆
#12 [まぐろ]
やれやれ、と首を振る澪の色素の薄い髪が靡いた。
それを綺麗だと思ってしまった自分を恥じる。
「…頼りない姉君ですね。
僕としては貴女など…、帰って来なくても構いませんが」
「…そう、だね。
澪は彼がいればいいのだから。私はいらない」
「…」
沈黙は肯定だろう。
何も言わない澪を横切って自室へ向かった。
…重苦しい空気は、嫌い。
:09/09/23 02:12 :SH705i :☆☆☆
#13 [まぐろ]
襖を開けると同時に、瞠目した。
「お帰り、月夜」
誰もいるはずのない自室の窓辺に、彼がいたから。
彼は窓の縁に座って穏やかに微笑み、私を見つめている。
「…また澪が煩いでしょうね」
苦笑を浮かべながら、言う。すると彼はムッとして目を逸らし、立ち上がる。
:09/09/23 02:22 :SH705i :☆☆☆
#14 [まぐろ]
「家族が話すことは悪いことじゃない。澪は馬鹿なんだ。頭が堅い…馬鹿澪」
「澪は貴方のことを思って言ってるのよ?」
徐々に機嫌が悪くなっていく彼。
ため息を堪えて、彼に言い聞かせる。
「だから…俺達は家族、」
「普通の、ではないって…分かってるでしょう。太陽」
:09/09/23 02:29 :SH705i :☆☆☆
#15 [まぐろ]
彼の名を呼ぶと、彼…太陽は眉を寄せた。
緋色の着物を握り締めているようで、シワができている。
描かれた太陽が、眩しい。
「…望んだわけじゃ、ない。
この名前だって…!」
月夜…、と私に縋り付く太陽。
この話をすると、彼はどうしようもないくらい不安定になる。
落ち着いてほしくて、肩に置かれた彼の頭を優しく撫でた。
:09/09/23 02:42 :SH705i :☆☆☆
#16 [まぐろ]
.
お日様は、
いつだってお月様の
憧れなんです。
.
:09/09/23 16:25 :SH705i :☆☆☆
#17 [まぐろ]
私の膝を枕にすると、いつのまにかで眠っていた彼。
体を丸めて、まるで猫のようだ。
柔らかな彼の…私達双子の唯一の共通点である、漆黒の髪に指を通す。
双子といえど、それ以外に共通しているものは見受けられない。
それに指を絡めたまま、窓から見える藍色の空を見上げた。
:09/09/23 16:34 :SH705i :☆☆☆
#18 [まぐろ]
空に輝くものは、ない。
きっと今の私は、闇と同化してしまうに違いない。
そして…
「…月、」
描かれた月は、どこまでも冷たい。
藍色の空に浮かぶ、無感情な月…。
太陽が羨ましい。
:09/09/23 16:39 :SH705i :☆☆☆
#19 [まぐろ]
けれど分かっている。
私は日輪になどなれない。
緋色の着物なんて似合わない。
「…月と、太陽」
だから、いい。
あなたに憧れるのは、私。
置いていかれるのは、私。
だけど、いい。
太陽が笑ってくれるなら。
:09/09/23 16:44 :SH705i :☆☆☆
#20 [まぐろ]
「月夜さん、」
「!」
突然の声にハッとする。
襖の外から、…澪だ。
私を嫌いな彼が部屋に来るのは、決まって太陽がいる時。
また太陽を連れ戻しに来たのだ。
「…どうぞ」
了承の意を発すると、静かに襖が開いた。
:09/09/23 16:48 :SH705i :☆☆☆
#21 [まぐろ]
一応、主人の姉であると思ってか、控えめに入ってくる澪。
太陽の姿を目に捉えると、大きくため息をついた。
「、まったくこの人は…」
起きてください、と彼の横に膝をついて揺さぶる。
…無理に起こしてしまうなんて、可哀相ではないか。
:09/09/23 16:51 :SH705i :☆☆☆
#22 [まぐろ]
「…寝かせてあげても、いいのではないかしら」
「…」
眉間に皺を寄せる澪。
その眼光は鋭く、私は睨まれてるのだと分かった。
でも、これはあんまりだ。
太陽を思っていない。
「澪は、厳しすぎる」
:09/09/23 16:56 :SH705i :☆☆☆
#23 [まぐろ]
ん、と太陽が寝返りをうったが…起きる様子はない。
「…月夜さん」
澪の、咎めるような口調。
それに思わず俯いてしまった。
…こんな空気、嫌いなのに。
「…僕は、太陽に厳しくする必要があると思っているんです」
しっかりとした、意志の強い言葉だ。
:09/09/23 17:00 :SH705i :☆☆☆
#24 [まぐろ]
「だって…」
言葉が、途切れた。
それを不思議に感じ、俯いていた顔を上げる。
目前の澪は真っすぐに私を見つめ、そして…
冷たく、笑った。
「もうじき、貴女はいなくなるのですからね」
:09/09/23 17:04 :SH705i :☆☆☆
#25 [まぐろ]
一瞬を、こんなにも永く感じたのは初めてだ。
…何も言えなかった。
言葉が出なかった。
「…貴女がいなくなったら、太陽は今まで通りではいられなくなるでしょうから」
起きない太陽に呆れを見せ、言いながら彼を担ぎ上げる。
何か言い返したいのに、やはり声が出ない。
:09/09/23 17:09 :SH705i :☆☆☆
#26 [まぐろ]
口から出るのは、震える吐息のみ。
…それに気づいたのか、澪は薄く笑い、失礼しますと部屋を出た。
「…」
“いなくなる”
慣れるわけが、ない。
:09/09/23 17:11 :SH705i :☆☆☆
#27 [まぐろ]
.
月蝕が起こったら、
もう…
お日様には
会えないのですか?
.
:09/09/23 17:13 :SH705i :☆☆☆
#28 [まぐろ]
.
目を覚ますと
そこにあった温もりは
消えていた。
.
:09/09/26 08:30 :SH705i :☆☆☆
#29 [まぐろ]
「…んー…」
重い瞼を無理矢理こじ開けながら、辺りを見回す。
眠る直前まで確かに傍にあった、優しい温もりを感じない。
見ると俺は、冷たい布団に横たわっていた。
…もう、慣れてしまったが。
:09/09/26 08:34 :SH705i :☆☆☆
#30 [まぐろ]
「…澪」
「はい?」
気配を感じなくとも、俺が呼ぶと必ず現れるそいつ。
今日も例外でなく、縁側にいたでろう澪は障子を開けた。
複雑なことに、俺はこいつを嫌いになれない。
…たとえ月夜が澪を嫌っていても。
:09/09/26 08:39 :SH705i :☆☆☆
#31 [まぐろ]
「…月夜さんはもうお休みになりましたよ」
月夜のことを考えている俺に、思い出したように言う。薄く笑っている澪の表情が少し暗く見えた。
「澪、追い出されたのか?」
まさか、と澪は笑った。
:09/09/26 08:46 :SH705i :☆☆☆
#32 [まぐろ]
「あの優しい方が、そんなことをするはずがありませんよ」
馬鹿にしたように笑う澪に苛立ちを感じながらも心中で同意する。
月夜は優しい。
誰よりも優しくて、強い。
俺に持てないものを簡単に持つことができる。
…とても重いものを。
:09/09/26 08:55 :SH705i :☆☆☆
#33 [まぐろ]
「…その優しい月夜に、嫌味ばかり言う澪は悪魔か?」
俺の言葉に、心外だとばかりにため息を吐く澪。
…間違ったことは言っていないのだが。
「太陽…僕をそんな風に思っていたのですか!」
正直に、頷いてやった。
:09/09/26 08:59 :SH705i :☆☆☆
#34 [まぐろ]
「…まあ、仕方ないですね。僕が彼女に言ったことは、あまりに酷なことばかりです、でも」
澪は目を伏せ、額に手を当てて苦笑する。
俺は黙って言葉の続きを待った。
「…いなくなって、しまえばいいんですよ」
その言葉に、他意はない。
悪意も、なかった。
:09/09/26 09:05 :SH705i :☆☆☆
#35 [まぐろ]
重い空気が漂った。
澪の真意は分かっている。
けれどきっと、澪の思う通りに事は進まない。
そんなに、甘くない。
「…“お月様”」
ぽつりと呟く。
彼女は、明るい日輪の方が
似合っているのに。
:09/09/26 09:09 :SH705i :☆☆☆
#36 [まぐろ]
「…じゃあさ!澪」
少し声を張り上げて、笑顔を作る。
伏せていた澪の目が、俺の目を見た。
「?」
眉を寄せ、首を傾げる澪に
提案する。
決して、叶わないことを。
:09/09/26 09:15 :SH705i :☆☆☆
#37 [まぐろ]
「…月夜と、澪と俺…三人で
ここから逃げようか?」
澪も、分かっている。
これは冗談だ。
すると澪は哀しく笑って、俺に背を向けた。
「貴方も、酷なことをしますね…。悪魔みたいですよ」
俺は、笑うしかなかった。
:09/09/26 09:20 :SH705i :☆☆☆
#38 [まぐろ]
.
俺の姉は、
月なんかじゃない。
脆くて弱い、
ただの人間だった。
.
:09/09/26 09:22 :SH705i :☆☆☆
#39 [まぐろ]
.
私はまだ、
世界を知らない。
.
:09/09/30 07:54 :SH705i :☆☆☆
#40 [まぐろ]
「ねっ!見てあざみー!!」
がやがやと賑わうデパートの一角で、あたしは手招きをしながら友達の名を呼んだ。
もう片方の手には、しっかりと売り物のピアスを握って。
「何ー?
桜(サクラ)、まだ買う気?」
:09/09/30 07:59 :SH705i :☆☆☆
#41 [まぐろ]
あざみは面倒そうにあたしを一瞥して、その手中のものに興味を注いだ。
「…ピアス?
あんたにしちゃ、珍しく地味なデザインだけど」
「そうそう!なんか惹かれちゃったんだよね〜」
彼女の言う通り、いつもは大きめの派手なものを買うのに、何故かこの小さい地味なピアスが欲しかった。
:09/09/30 08:08 :SH705i :☆☆☆
#42 [まぐろ]
…といっても、使用する気は更々ない。
第一、こうまで地味だと服とも合わせづらい。
だから、ただ買うだけ。
「ふーん?
ま、私はこじんまりとしてて好きだけど。コレ」
「あざみもピアス開ければいいのにー!」
「…うちの高校、ピアス禁止なの知ってる?」
:09/09/30 08:14 :SH705i :☆☆☆
#43 [まぐろ]
あれ?そうだっけ?とおどけてみせると、呆れたようにため息を吐かれた。
変なとこで真面目だもん、あざみは。
校則なんてあってないようなものだしさ…先生も諦めちゃうし。
そう言うと、あざみはあたしの頭を軽く叩いて苦笑した。
:09/09/30 08:18 :SH705i :☆☆☆
#44 [まぐろ]
「桜って、本当に無鉄砲。
羨ましいよ」
「えー…それ褒めてないからヤだ!」
ピアスを手にレジへ行く。
値段は手頃だから、財布の心配もないだろう。
小さいやつはやっぱり安くていいな…。
会計を済ませて、あたし達はデパートを出た。
:09/09/30 08:23 :SH705i :☆☆☆
#45 [まぐろ]
「わー、日が落ちるのが早くなったね!」
「もう秋だしね。やだなあ、寒いの」
夕日で染まる赤い空を二人で見上げる。
ふと、さっき買ったピアスの存在を思い出し、鞄から取り出した。
「…桜?」
:09/09/30 08:29 :SH705i :☆☆☆
#46 [まぐろ]
ごそごそ鞄を探って、掴んだものを空に翳す。
あたしの不可解な行動を怪訝そうに見るあざみ。
でも、あたしは何故かそうせずにいられなかった。
「…月と太陽」
左右が違うピアス。
対になってる月と太陽。
それを、空に浮かべたかった。
:09/09/30 08:32 :SH705i :☆☆☆
#47 [まぐろ]
.
あたしはいつか、
世界を知る。
.
:09/09/30 08:34 :SH705i :☆☆☆
#48 [まぐろ]
.
私の光は、
すぐ傍にあった。
.
:09/10/02 21:14 :SH705i :☆☆☆
#49 [まぐろ]
その日は、快晴だった。
空気は暖かくて、小鳥が囀る、そんな昼下がり。
まさに平和そのもの。
「こんな日が…」
“ずっと続けばいい”
そう、願った。
きっと叶う願い事。
:09/10/02 21:16 :SH705i :☆☆☆
#50 [まぐろ]
「ん…」
小さく、伸びをする。
外は好きだ。
縛るものが何もない。
本当は太陽と外を歩きたいが、それを誰も許してはくれないだろう。
外出をやっと許してもらえたのも、二月ほど前だ。
:09/10/02 21:21 :SH705i :☆☆☆
#51 [まぐろ]
ため息を吐くと同時に、
カランッ…と何かが落ちる音を耳にした。
そして、頭部に感じる違和感。
「っあ…!!」
慌てて頭を押さえて振り返ると足元には、金色の簪が落ちていた。
直ぐさまそれを拾い、握り締める。
:09/10/02 21:26 :SH705i :☆☆☆
#52 [まぐろ]
「よかった…気づいて」
安堵の息を吐き、簪を見る。
簪には、花が飾られている。特徴的な、綺麗な花。
私はその花の実物を目にしたことがないが、本当に綺麗なのだと太陽が教えてくれた。
:09/10/02 21:30 :SH705i :☆☆☆
#53 [まぐろ]
確か…この花は“さくら”といったか。
春になると、その“さくら”が綺麗に咲き誇るのだと。
いつか、見に行こう、と…。
その約束の証として、私にこの簪を渡したのだ。
私を、つなぎ止めるために。
:09/10/02 21:34 :SH705i :☆☆☆
#54 [まぐろ]
「…」
そんなの、いい。
彼の気持ちだけで充分。
首を振って、そしてもう簪を落とさないように着物の帯に差した。
これからどこへ行こうか。
…どこに行こうと私は縛られたままだが。
帰る場所なんて、ここしかないのだから。
:09/10/02 21:40 :SH705i :☆☆☆
#55 [まぐろ]
ザッ…
歩き出そうとした時、背後から土を踏む音が鳴った。
「お待ちください」
同時に聞こえた声に、少しだけ身を縮める。
いつもより、真剣な声。
「…澪?」
ゆっくりと振り返る。
そこには、眉間に皺を寄せた澪がいた。
:09/10/02 21:43 :SH705i :☆☆☆
#56 [まぐろ]
「何か、用かしら?」
澪同様、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。
…また、あの重い空気。
「月夜さん」
開かれた口から発せられた私の名。
今日はどんな冷たい言葉を言われるのだろう。
やはり慣れない言葉なのだろうか。
:09/10/02 21:49 :SH705i :☆☆☆
#57 [まぐろ]
「月夜さん」
もう一度、名を呼ばれた。
鼓動が速くなる。
覚悟なんてとうに出来ている。
彼は私が嫌いなのだ。
何を言われても仕方ない。
固く目を瞑った。
「僕は貴女を、
…愛しています」
:09/10/02 21:52 :SH705i :☆☆☆
#58 [まぐろ]
思わず、目を見開いた。
澪は今、何を言った?
見上げると、瞳に哀しみの色を浮かべて私を見つめる澪の姿。
…どうして?
「…だから、いなくなりなさい。
僕と、太陽の前から」
そして、彼は私に背を向けた。
:09/10/02 21:57 :SH705i :☆☆☆
#59 [まぐろ]
.
月の光は太陽の光。
だから、大丈夫。
.
:09/10/02 21:59 :SH705i :☆☆☆
#60 [まぐろ]
.
何故、光が二つあっては
いけないのだろう。
一体、誰が答えを
知っているというのか。
.
:09/10/02 22:07 :SH705i :☆☆☆
#61 [まぐろ]
告げてしまった言葉には
嘘も、後悔もなかった。
それなのに、何故僕はこんなにも無力なのか。
何故、彼女を救えないのか。
…太陽と共に逃がしてやれないのか。
“いなくなれ”としか言えない自分に嫌気がさす。
:09/10/02 22:11 :SH705i :☆☆☆
#62 [まぐろ]
月夜さんに背を向けた僕はそのまま何も言わずに、屋敷へ戻った。
彼女も、僕を呼び止めなかった。
…別に期待をしていたわけじゃない。
彼女に嫌われるように接していたのだから、当然だ。
それでも優しい月夜さんは、僕を拒むことはなかったが。
:09/10/02 22:15 :SH705i :☆☆☆
#63 [まぐろ]
「…神楽家に生まれた月の運命、ですか…」
一部の者のみが知る、彼女の運命。
その他の人間は皆、知らないが故に彼女を崇める。
無知とはなんて恐ろしい。
人々の言葉が、彼女をどれほど苦しめたことか。
…僕が言えた義理ではないが。
:09/10/02 22:20 :SH705i :☆☆☆
#64 [まぐろ]
だけど、どんなに傷ついても…
「生きてさえ、
いてくれるなら…」
空を仰ぐ。
今日は綺麗な月が見れるのかと思うと心が躍る。
…久しぶりに今夜は、太陽と一緒にいさせてあげようか。
当主に気づかれなければ構うことはない。
:09/10/02 22:29 :SH705i :☆☆☆
#65 [まぐろ]
.
月と太陽。
どちらが欠けたとしても
僕は世界を失うでしょう。
.
:09/10/02 22:31 :SH705i :☆☆☆
#66 [まぐろ]
.
感じたのは、
淡い嫉妬心と
置いて行かれた寂しさ。
.
:09/10/02 22:40 :SH705i :☆☆☆
#67 [まぐろ]
やってしまった、と俺は一人頭を抱える。
畳にごろごろ転がり、ううと唸った。
…遂にたきつけてしまったのだ、澪を。
「あー、俺無責任っ!!
俺の馬鹿…!」
素直に、怖いと思った。
月夜が俺から離れて行くことが。
:09/10/02 22:44 :SH705i :☆☆☆
#68 [まぐろ]
「…」
先程の会話が蘇る。
“…なあ、澪”
“はい?”
“どうしたら…月夜を止められるのかな”
答えを知りたいあまりに、焦って何も考えられなかったのかもしれない。
“っ…そうだ!”
あの瞬間に戻れるなら戻りたい。
:09/10/02 22:50 :SH705i :☆☆☆
#69 [まぐろ]
ただ、月夜に未練を残させればいいと閃いた浅はかな考え。
澪が月夜を大切に思っているのは知っていたから。
“澪!月夜に想いを伝えるんだよ、お前が!”
今思えば最低だ。
二人の気持ちを踏みにじる提案だった。
:09/10/02 22:55 :SH705i :☆☆☆
#70 [まぐろ]
「…澪、言っちゃったかな」
天井を見つめながら呟く。
…ずるい。
どうして俺に出来ないことが他人に出来てしまうんだろうか。
確かに俺は月夜の恋人にはなれない。
だけど、月夜を救うのは俺でありたい。
:09/10/02 23:02 :SH705i :☆☆☆
#71 [まぐろ]
「っじゃあなんで澪を行かせたんだよ…!!」
本当に馬鹿だ、俺。
起き上がり、部屋を出る。
…今日はいい天気のようだが特に気にならない。
「ああ、もう…」
無性に苛立つ。
許されるなら八つ当たりでもしたい。
:09/10/02 23:06 :SH705i :☆☆☆
#72 [まぐろ]
小鳥の囀りにも苛立つ。
そして、前から歩いてくる澪にも勿論…
「…み、お!」
澪の数歩前で足を止めて、睨みつける。
俺の気持ちに感づいたのか澪は息を吐いて、腕を組んだ。
:09/10/02 23:09 :SH705i :☆☆☆
#73 [まぐろ]
「…自業自得ですよ、太陽」
呆れたように笑う澪。
俺は拳を握り締めて押し黙った。
「太陽が嫌だと言うなら、僕はやりません。
自分の言葉に後悔なさるなら、適当な事は言わないことです」
「…っごめ、ん」
:09/10/02 23:15 :SH705i :☆☆☆
#74 [まぐろ]
澪の責める口調に、苛立ちは治まっていく。
そう…悪いのは俺だ。
もう一度、しっかりと謝ろうとすると澪に遮られた。
「謝るのは僕です。
僕では役不足のようです。
きっと彼女は揺らがない。
彼女はいつだって…」
そこまで言って、黙った。
:09/10/02 23:21 :SH705i :☆☆☆
#75 [まぐろ]
話の続きも気になるが、内容的に、澪は月夜に想いを伝えたように聞こえる。
…それが、哀しかった。
全部、俺が原因だから何も言えないが。
「…そっか」
独りにされたようで、凄く寂しかった。
:09/10/02 23:26 :SH705i :☆☆☆
#76 [まぐろ]
.
いつかのその時も
月夜は俺を置いて行く。
.
:09/10/02 23:30 :SH705i :☆☆☆
#77 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑(∩゚∀゚)∩age
:22/11/23 16:13 :Android :yR7K92nk
#78 [わをん◇◇]
:22/11/23 17:05 :Android :yR7K92nk
#79 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)
:22/11/23 17:08 :Android :yR7K92nk
#80 [わをん◇◇]
:22/12/18 02:12 :Android :ELISMLEE
#81 [わをん◇◇]
:22/12/18 02:12 :Android :ELISMLEE
#82 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑
:22/12/26 23:48 :Android :K0o6YEWM
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