月蝕
最新 最初 全
#1 [まぐろ]
月と太陽は似て非なり。
月と太陽はふたりぼっち。
月は太陽のおかげで。
太陽は月のために。
けれど決して
相容れることはない。
.
:09/09/23 00:30 :SH705i :☆☆☆
#2 [まぐろ]
満ち欠ける月を見て、思う。
“月は独りじゃない”
輝かせてもらえるから。
輝く理由があるから。
…だから、お願いです。
:09/09/23 00:37 :SH705i :☆☆☆
#3 [優奈]
:09/09/23 00:41 :SH705i :☆☆☆
#4 [まぐろ]
燦燦と輝く陽を見て、思う。
“強くて優しい、光”
月を輝かせてくれる。
本当は…月なんて
必要ないのに。
…だけど、お願いです。
:09/09/23 00:43 :SH705i :☆☆☆
#5 [まぐろ]
ポーンッ…と、小気味よい音を聞き、思考を中断して視線を空から移す。
生憎の曇り空、太陽も月も今日は見ることができないだろう。
言い知れぬ虚しさを感じつつ、音のした足元を見る。
…鮮やかな色の、
小さな毬だった。
:09/09/23 00:52 :SH705i :☆☆☆
#6 [まぐろ]
それを手に取り、見つめる。
誰の物だろう、と見回すと、たどたどしい歩きで私に近寄る、幼い少女の姿があった。
毬の持ち主であろう少女は私を見るなり、無邪気に笑ってみせる。
花が咲いたような笑顔に、釣られて頬が少し緩んだ。
:09/09/23 01:01 :SH705i :☆☆☆
#7 [まぐろ]
「ありがとう!」
私から毬を受け取り、ぺこりとお辞儀する。
なかなか礼儀正しい子だ。
「どういたしまして」
そっと頭を撫でてやると、照れ臭そうにも嬉しそうにまた笑う。
「えへへ、ありがとう!
“おつきさま”!」
:09/09/23 01:06 :SH705i :☆☆☆
#8 [まぐろ]
「…!」
ドクリ。
心臓が大きく跳ねた。
撫でる手から動揺が伝わったのか、少女は不思議そうに私を見上げる。
「おつきさま…?」
そう、子供は時に残酷だ。
物事の善し悪しを理解できず、ただ目前のものを善とする。
…それでいいのだ。
まだ、理解できないのだから。
:09/09/23 01:12 :SH705i :☆☆☆
#9 [まぐろ]
それなのに、子供相手に動揺を露にしてしまった自分が情けない。
…なんでもない、と曖昧に笑うと、毬の少女は首を傾げてから、またたどたどしい足取りで走っていった。
やはり、慣れないようだ。
月の描かれた、藍色の着物が恨めしい。
ため息を吐き、再び空を仰ぐ。
…もうじき日が暮れる。
暗くなる前に帰らないと、彼が心配するだろう。
…月は、きっと見えない。
.
:09/09/23 01:30 :SH705i :☆☆☆
#10 [まぐろ]
.
私が“おつきさま”
彼が“おひさま”
.
:09/09/23 01:33 :SH705i :☆☆☆
#11 [まぐろ]
「今日は随分とお帰りが早いですね。月夜(ツクヨ)さん」
屋敷へ帰ると、彼の従者である澪(ミオ)が待ち構えていた。
澪は私を見るなり少し顔を歪め、苦々しく言い放つ。
まるで、帰ってくるなと言わんばかりの言葉。
「…弟に、心配かけたくないので」
澪は彼…私の双子の弟の従者であり、私のではない。
嫌われていても、仕方ない。
:09/09/23 01:46 :SH705i :☆☆☆
#12 [まぐろ]
やれやれ、と首を振る澪の色素の薄い髪が靡いた。
それを綺麗だと思ってしまった自分を恥じる。
「…頼りない姉君ですね。
僕としては貴女など…、帰って来なくても構いませんが」
「…そう、だね。
澪は彼がいればいいのだから。私はいらない」
「…」
沈黙は肯定だろう。
何も言わない澪を横切って自室へ向かった。
…重苦しい空気は、嫌い。
:09/09/23 02:12 :SH705i :☆☆☆
#13 [まぐろ]
襖を開けると同時に、瞠目した。
「お帰り、月夜」
誰もいるはずのない自室の窓辺に、彼がいたから。
彼は窓の縁に座って穏やかに微笑み、私を見つめている。
「…また澪が煩いでしょうね」
苦笑を浮かべながら、言う。すると彼はムッとして目を逸らし、立ち上がる。
:09/09/23 02:22 :SH705i :☆☆☆
#14 [まぐろ]
「家族が話すことは悪いことじゃない。澪は馬鹿なんだ。頭が堅い…馬鹿澪」
「澪は貴方のことを思って言ってるのよ?」
徐々に機嫌が悪くなっていく彼。
ため息を堪えて、彼に言い聞かせる。
「だから…俺達は家族、」
「普通の、ではないって…分かってるでしょう。太陽」
:09/09/23 02:29 :SH705i :☆☆☆
#15 [まぐろ]
彼の名を呼ぶと、彼…太陽は眉を寄せた。
緋色の着物を握り締めているようで、シワができている。
描かれた太陽が、眩しい。
「…望んだわけじゃ、ない。
この名前だって…!」
月夜…、と私に縋り付く太陽。
この話をすると、彼はどうしようもないくらい不安定になる。
落ち着いてほしくて、肩に置かれた彼の頭を優しく撫でた。
:09/09/23 02:42 :SH705i :☆☆☆
#16 [まぐろ]
.
お日様は、
いつだってお月様の
憧れなんです。
.
:09/09/23 16:25 :SH705i :☆☆☆
#17 [まぐろ]
私の膝を枕にすると、いつのまにかで眠っていた彼。
体を丸めて、まるで猫のようだ。
柔らかな彼の…私達双子の唯一の共通点である、漆黒の髪に指を通す。
双子といえど、それ以外に共通しているものは見受けられない。
それに指を絡めたまま、窓から見える藍色の空を見上げた。
:09/09/23 16:34 :SH705i :☆☆☆
#18 [まぐろ]
空に輝くものは、ない。
きっと今の私は、闇と同化してしまうに違いない。
そして…
「…月、」
描かれた月は、どこまでも冷たい。
藍色の空に浮かぶ、無感情な月…。
太陽が羨ましい。
:09/09/23 16:39 :SH705i :☆☆☆
#19 [まぐろ]
けれど分かっている。
私は日輪になどなれない。
緋色の着物なんて似合わない。
「…月と、太陽」
だから、いい。
あなたに憧れるのは、私。
置いていかれるのは、私。
だけど、いい。
太陽が笑ってくれるなら。
:09/09/23 16:44 :SH705i :☆☆☆
#20 [まぐろ]
「月夜さん、」
「!」
突然の声にハッとする。
襖の外から、…澪だ。
私を嫌いな彼が部屋に来るのは、決まって太陽がいる時。
また太陽を連れ戻しに来たのだ。
「…どうぞ」
了承の意を発すると、静かに襖が開いた。
:09/09/23 16:48 :SH705i :☆☆☆
#21 [まぐろ]
一応、主人の姉であると思ってか、控えめに入ってくる澪。
太陽の姿を目に捉えると、大きくため息をついた。
「、まったくこの人は…」
起きてください、と彼の横に膝をついて揺さぶる。
…無理に起こしてしまうなんて、可哀相ではないか。
:09/09/23 16:51 :SH705i :☆☆☆
#22 [まぐろ]
「…寝かせてあげても、いいのではないかしら」
「…」
眉間に皺を寄せる澪。
その眼光は鋭く、私は睨まれてるのだと分かった。
でも、これはあんまりだ。
太陽を思っていない。
「澪は、厳しすぎる」
:09/09/23 16:56 :SH705i :☆☆☆
#23 [まぐろ]
ん、と太陽が寝返りをうったが…起きる様子はない。
「…月夜さん」
澪の、咎めるような口調。
それに思わず俯いてしまった。
…こんな空気、嫌いなのに。
「…僕は、太陽に厳しくする必要があると思っているんです」
しっかりとした、意志の強い言葉だ。
:09/09/23 17:00 :SH705i :☆☆☆
#24 [まぐろ]
「だって…」
言葉が、途切れた。
それを不思議に感じ、俯いていた顔を上げる。
目前の澪は真っすぐに私を見つめ、そして…
冷たく、笑った。
「もうじき、貴女はいなくなるのですからね」
:09/09/23 17:04 :SH705i :☆☆☆
#25 [まぐろ]
一瞬を、こんなにも永く感じたのは初めてだ。
…何も言えなかった。
言葉が出なかった。
「…貴女がいなくなったら、太陽は今まで通りではいられなくなるでしょうから」
起きない太陽に呆れを見せ、言いながら彼を担ぎ上げる。
何か言い返したいのに、やはり声が出ない。
:09/09/23 17:09 :SH705i :☆☆☆
#26 [まぐろ]
口から出るのは、震える吐息のみ。
…それに気づいたのか、澪は薄く笑い、失礼しますと部屋を出た。
「…」
“いなくなる”
慣れるわけが、ない。
:09/09/23 17:11 :SH705i :☆☆☆
#27 [まぐろ]
.
月蝕が起こったら、
もう…
お日様には
会えないのですか?
.
:09/09/23 17:13 :SH705i :☆☆☆
#28 [まぐろ]
.
目を覚ますと
そこにあった温もりは
消えていた。
.
:09/09/26 08:30 :SH705i :☆☆☆
#29 [まぐろ]
「…んー…」
重い瞼を無理矢理こじ開けながら、辺りを見回す。
眠る直前まで確かに傍にあった、優しい温もりを感じない。
見ると俺は、冷たい布団に横たわっていた。
…もう、慣れてしまったが。
:09/09/26 08:34 :SH705i :☆☆☆
#30 [まぐろ]
「…澪」
「はい?」
気配を感じなくとも、俺が呼ぶと必ず現れるそいつ。
今日も例外でなく、縁側にいたでろう澪は障子を開けた。
複雑なことに、俺はこいつを嫌いになれない。
…たとえ月夜が澪を嫌っていても。
:09/09/26 08:39 :SH705i :☆☆☆
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194