月蝕
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#1 [まぐろ]
月と太陽は似て非なり。

月と太陽はふたりぼっち。


月は太陽のおかげで。
太陽は月のために。

けれど決して
相容れることはない。


.

⏰:09/09/23 00:30 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#2 [まぐろ]
満ち欠ける月を見て、思う。

“月は独りじゃない”

輝かせてもらえるから。
輝く理由があるから。



…だから、お願いです。

⏰:09/09/23 00:37 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#3 [優奈]
なんか古風な感じでいいですねっ

たのしみにしてます
がんばってください

⏰:09/09/23 00:41 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#4 [まぐろ]
燦燦と輝く陽を見て、思う。

“強くて優しい、光”

月を輝かせてくれる。
本当は…月なんて
必要ないのに。


…だけど、お願いです。

⏰:09/09/23 00:43 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#5 [まぐろ]
ポーンッ…と、小気味よい音を聞き、思考を中断して視線を空から移す。

生憎の曇り空、太陽も月も今日は見ることができないだろう。

言い知れぬ虚しさを感じつつ、音のした足元を見る。


…鮮やかな色の、
小さな毬だった。

⏰:09/09/23 00:52 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#6 [まぐろ]
それを手に取り、見つめる。

誰の物だろう、と見回すと、たどたどしい歩きで私に近寄る、幼い少女の姿があった。

毬の持ち主であろう少女は私を見るなり、無邪気に笑ってみせる。


花が咲いたような笑顔に、釣られて頬が少し緩んだ。

⏰:09/09/23 01:01 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#7 [まぐろ]
「ありがとう!」


私から毬を受け取り、ぺこりとお辞儀する。
なかなか礼儀正しい子だ。


「どういたしまして」


そっと頭を撫でてやると、照れ臭そうにも嬉しそうにまた笑う。


「えへへ、ありがとう!
“おつきさま”!」

⏰:09/09/23 01:06 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#8 [まぐろ]
「…!」


ドクリ。
心臓が大きく跳ねた。

撫でる手から動揺が伝わったのか、少女は不思議そうに私を見上げる。


「おつきさま…?」



そう、子供は時に残酷だ。
物事の善し悪しを理解できず、ただ目前のものを善とする。

…それでいいのだ。
まだ、理解できないのだから。

⏰:09/09/23 01:12 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#9 [まぐろ]
それなのに、子供相手に動揺を露にしてしまった自分が情けない。

…なんでもない、と曖昧に笑うと、毬の少女は首を傾げてから、またたどたどしい足取りで走っていった。




やはり、慣れないようだ。
月の描かれた、藍色の着物が恨めしい。


ため息を吐き、再び空を仰ぐ。
…もうじき日が暮れる。

暗くなる前に帰らないと、彼が心配するだろう。


…月は、きっと見えない。

.

⏰:09/09/23 01:30 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#10 [まぐろ]
.



私が“おつきさま”

彼が“おひさま”



.

⏰:09/09/23 01:33 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#11 [まぐろ]
「今日は随分とお帰りが早いですね。月夜(ツクヨ)さん」



屋敷へ帰ると、彼の従者である澪(ミオ)が待ち構えていた。
澪は私を見るなり少し顔を歪め、苦々しく言い放つ。

まるで、帰ってくるなと言わんばかりの言葉。



「…弟に、心配かけたくないので」



澪は彼…私の双子の弟の従者であり、私のではない。

嫌われていても、仕方ない。

⏰:09/09/23 01:46 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#12 [まぐろ]
やれやれ、と首を振る澪の色素の薄い髪が靡いた。
それを綺麗だと思ってしまった自分を恥じる。



「…頼りない姉君ですね。
僕としては貴女など…、帰って来なくても構いませんが」



「…そう、だね。
澪は彼がいればいいのだから。私はいらない」


「…」



沈黙は肯定だろう。
何も言わない澪を横切って自室へ向かった。
…重苦しい空気は、嫌い。

⏰:09/09/23 02:12 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#13 [まぐろ]
襖を開けると同時に、瞠目した。


「お帰り、月夜」


誰もいるはずのない自室の窓辺に、彼がいたから。

彼は窓の縁に座って穏やかに微笑み、私を見つめている。



「…また澪が煩いでしょうね」



苦笑を浮かべながら、言う。すると彼はムッとして目を逸らし、立ち上がる。

⏰:09/09/23 02:22 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#14 [まぐろ]
「家族が話すことは悪いことじゃない。澪は馬鹿なんだ。頭が堅い…馬鹿澪」


「澪は貴方のことを思って言ってるのよ?」



徐々に機嫌が悪くなっていく彼。
ため息を堪えて、彼に言い聞かせる。


「だから…俺達は家族、」


「普通の、ではないって…分かってるでしょう。太陽」

⏰:09/09/23 02:29 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#15 [まぐろ]
彼の名を呼ぶと、彼…太陽は眉を寄せた。
緋色の着物を握り締めているようで、シワができている。

描かれた太陽が、眩しい。


「…望んだわけじゃ、ない。
この名前だって…!」


月夜…、と私に縋り付く太陽。
この話をすると、彼はどうしようもないくらい不安定になる。

落ち着いてほしくて、肩に置かれた彼の頭を優しく撫でた。

⏰:09/09/23 02:42 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#16 [まぐろ]
.



お日様は、
いつだってお月様の
憧れなんです。



.

⏰:09/09/23 16:25 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#17 [まぐろ]
私の膝を枕にすると、いつのまにかで眠っていた彼。
体を丸めて、まるで猫のようだ。


柔らかな彼の…私達双子の唯一の共通点である、漆黒の髪に指を通す。

双子といえど、それ以外に共通しているものは見受けられない。


それに指を絡めたまま、窓から見える藍色の空を見上げた。

⏰:09/09/23 16:34 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#18 [まぐろ]
空に輝くものは、ない。

きっと今の私は、闇と同化してしまうに違いない。
そして…


「…月、」



描かれた月は、どこまでも冷たい。
藍色の空に浮かぶ、無感情な月…。

太陽が羨ましい。

⏰:09/09/23 16:39 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#19 [まぐろ]
けれど分かっている。
私は日輪になどなれない。

緋色の着物なんて似合わない。


「…月と、太陽」


だから、いい。
あなたに憧れるのは、私。
置いていかれるのは、私。
だけど、いい。

太陽が笑ってくれるなら。

⏰:09/09/23 16:44 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#20 [まぐろ]
「月夜さん、」


「!」



突然の声にハッとする。
襖の外から、…澪だ。
私を嫌いな彼が部屋に来るのは、決まって太陽がいる時。

また太陽を連れ戻しに来たのだ。



「…どうぞ」


了承の意を発すると、静かに襖が開いた。

⏰:09/09/23 16:48 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#21 [まぐろ]
一応、主人の姉であると思ってか、控えめに入ってくる澪。

太陽の姿を目に捉えると、大きくため息をついた。



「、まったくこの人は…」



起きてください、と彼の横に膝をついて揺さぶる。

…無理に起こしてしまうなんて、可哀相ではないか。

⏰:09/09/23 16:51 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#22 [まぐろ]
「…寝かせてあげても、いいのではないかしら」


「…」



眉間に皺を寄せる澪。
その眼光は鋭く、私は睨まれてるのだと分かった。

でも、これはあんまりだ。
太陽を思っていない。



「澪は、厳しすぎる」

⏰:09/09/23 16:56 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#23 [まぐろ]
ん、と太陽が寝返りをうったが…起きる様子はない。


「…月夜さん」



澪の、咎めるような口調。
それに思わず俯いてしまった。
…こんな空気、嫌いなのに。


「…僕は、太陽に厳しくする必要があると思っているんです」


しっかりとした、意志の強い言葉だ。

⏰:09/09/23 17:00 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#24 [まぐろ]
「だって…」


言葉が、途切れた。

それを不思議に感じ、俯いていた顔を上げる。
目前の澪は真っすぐに私を見つめ、そして…


冷たく、笑った。




「もうじき、貴女はいなくなるのですからね」

⏰:09/09/23 17:04 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#25 [まぐろ]
一瞬を、こんなにも永く感じたのは初めてだ。

…何も言えなかった。
言葉が出なかった。



「…貴女がいなくなったら、太陽は今まで通りではいられなくなるでしょうから」



起きない太陽に呆れを見せ、言いながら彼を担ぎ上げる。
何か言い返したいのに、やはり声が出ない。

⏰:09/09/23 17:09 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#26 [まぐろ]
口から出るのは、震える吐息のみ。

…それに気づいたのか、澪は薄く笑い、失礼しますと部屋を出た。



「…」



“いなくなる”



慣れるわけが、ない。

⏰:09/09/23 17:11 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#27 [まぐろ]
.



月蝕が起こったら、
もう…

お日様には
会えないのですか?



.

⏰:09/09/23 17:13 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#28 [まぐろ]
.



目を覚ますと
そこにあった温もりは
消えていた。



.

⏰:09/09/26 08:30 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#29 [まぐろ]
「…んー…」



重い瞼を無理矢理こじ開けながら、辺りを見回す。

眠る直前まで確かに傍にあった、優しい温もりを感じない。

見ると俺は、冷たい布団に横たわっていた。



…もう、慣れてしまったが。

⏰:09/09/26 08:34 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#30 [まぐろ]
「…澪」


「はい?」



気配を感じなくとも、俺が呼ぶと必ず現れるそいつ。
今日も例外でなく、縁側にいたでろう澪は障子を開けた。


複雑なことに、俺はこいつを嫌いになれない。
…たとえ月夜が澪を嫌っていても。

⏰:09/09/26 08:39 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#31 [まぐろ]
「…月夜さんはもうお休みになりましたよ」


月夜のことを考えている俺に、思い出したように言う。薄く笑っている澪の表情が少し暗く見えた。



「澪、追い出されたのか?」


まさか、と澪は笑った。

⏰:09/09/26 08:46 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#32 [まぐろ]
「あの優しい方が、そんなことをするはずがありませんよ」



馬鹿にしたように笑う澪に苛立ちを感じながらも心中で同意する。

月夜は優しい。
誰よりも優しくて、強い。

俺に持てないものを簡単に持つことができる。

…とても重いものを。

⏰:09/09/26 08:55 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#33 [まぐろ]
「…その優しい月夜に、嫌味ばかり言う澪は悪魔か?」


俺の言葉に、心外だとばかりにため息を吐く澪。
…間違ったことは言っていないのだが。


「太陽…僕をそんな風に思っていたのですか!」


正直に、頷いてやった。

⏰:09/09/26 08:59 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#34 [まぐろ]
「…まあ、仕方ないですね。僕が彼女に言ったことは、あまりに酷なことばかりです、でも」


澪は目を伏せ、額に手を当てて苦笑する。
俺は黙って言葉の続きを待った。


「…いなくなって、しまえばいいんですよ」


その言葉に、他意はない。
悪意も、なかった。

⏰:09/09/26 09:05 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#35 [まぐろ]
重い空気が漂った。



澪の真意は分かっている。
けれどきっと、澪の思う通りに事は進まない。

そんなに、甘くない。



「…“お月様”」



ぽつりと呟く。
彼女は、明るい日輪の方が
似合っているのに。

⏰:09/09/26 09:09 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#36 [まぐろ]
「…じゃあさ!澪」



少し声を張り上げて、笑顔を作る。
伏せていた澪の目が、俺の目を見た。


「?」



眉を寄せ、首を傾げる澪に
提案する。

決して、叶わないことを。

⏰:09/09/26 09:15 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#37 [まぐろ]
「…月夜と、澪と俺…三人で

ここから逃げようか?」



澪も、分かっている。
これは冗談だ。

すると澪は哀しく笑って、俺に背を向けた。


「貴方も、酷なことをしますね…。悪魔みたいですよ」


俺は、笑うしかなかった。

⏰:09/09/26 09:20 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#38 [まぐろ]
.



俺の姉は、
月なんかじゃない。

脆くて弱い、
ただの人間だった。



.

⏰:09/09/26 09:22 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#39 [まぐろ]
.



私はまだ、
世界を知らない。



.

⏰:09/09/30 07:54 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#40 [まぐろ]
「ねっ!見てあざみー!!」


がやがやと賑わうデパートの一角で、あたしは手招きをしながら友達の名を呼んだ。

もう片方の手には、しっかりと売り物のピアスを握って。


「何ー?
桜(サクラ)、まだ買う気?」

⏰:09/09/30 07:59 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#41 [まぐろ]
あざみは面倒そうにあたしを一瞥して、その手中のものに興味を注いだ。


「…ピアス?
あんたにしちゃ、珍しく地味なデザインだけど」


「そうそう!なんか惹かれちゃったんだよね〜」



彼女の言う通り、いつもは大きめの派手なものを買うのに、何故かこの小さい地味なピアスが欲しかった。

⏰:09/09/30 08:08 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#42 [まぐろ]
…といっても、使用する気は更々ない。
第一、こうまで地味だと服とも合わせづらい。

だから、ただ買うだけ。


「ふーん?
ま、私はこじんまりとしてて好きだけど。コレ」


「あざみもピアス開ければいいのにー!」


「…うちの高校、ピアス禁止なの知ってる?」

⏰:09/09/30 08:14 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#43 [まぐろ]
あれ?そうだっけ?とおどけてみせると、呆れたようにため息を吐かれた。

変なとこで真面目だもん、あざみは。

校則なんてあってないようなものだしさ…先生も諦めちゃうし。


そう言うと、あざみはあたしの頭を軽く叩いて苦笑した。

⏰:09/09/30 08:18 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#44 [まぐろ]
「桜って、本当に無鉄砲。
羨ましいよ」

「えー…それ褒めてないからヤだ!」


ピアスを手にレジへ行く。
値段は手頃だから、財布の心配もないだろう。

小さいやつはやっぱり安くていいな…。


会計を済ませて、あたし達はデパートを出た。

⏰:09/09/30 08:23 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#45 [まぐろ]
「わー、日が落ちるのが早くなったね!」


「もう秋だしね。やだなあ、寒いの」



夕日で染まる赤い空を二人で見上げる。
ふと、さっき買ったピアスの存在を思い出し、鞄から取り出した。


「…桜?」

⏰:09/09/30 08:29 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#46 [まぐろ]
ごそごそ鞄を探って、掴んだものを空に翳す。

あたしの不可解な行動を怪訝そうに見るあざみ。


でも、あたしは何故かそうせずにいられなかった。


「…月と太陽」


左右が違うピアス。
対になってる月と太陽。
それを、空に浮かべたかった。

⏰:09/09/30 08:32 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#47 [まぐろ]
.



あたしはいつか、
世界を知る。



.

⏰:09/09/30 08:34 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#48 [まぐろ]
.



私の光は、
すぐ傍にあった。



.

⏰:09/10/02 21:14 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#49 [まぐろ]
その日は、快晴だった。


空気は暖かくて、小鳥が囀る、そんな昼下がり。
まさに平和そのもの。


「こんな日が…」



“ずっと続けばいい”



そう、願った。
きっと叶う願い事。

⏰:09/10/02 21:16 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#50 [まぐろ]
「ん…」


小さく、伸びをする。

外は好きだ。
縛るものが何もない。

本当は太陽と外を歩きたいが、それを誰も許してはくれないだろう。

外出をやっと許してもらえたのも、二月ほど前だ。

⏰:09/10/02 21:21 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#51 [まぐろ]
ため息を吐くと同時に、
カランッ…と何かが落ちる音を耳にした。

そして、頭部に感じる違和感。


「っあ…!!」


慌てて頭を押さえて振り返ると足元には、金色の簪が落ちていた。

直ぐさまそれを拾い、握り締める。

⏰:09/10/02 21:26 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#52 [まぐろ]
「よかった…気づいて」


安堵の息を吐き、簪を見る。

簪には、花が飾られている。特徴的な、綺麗な花。

私はその花の実物を目にしたことがないが、本当に綺麗なのだと太陽が教えてくれた。

⏰:09/10/02 21:30 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#53 [まぐろ]
確か…この花は“さくら”といったか。
春になると、その“さくら”が綺麗に咲き誇るのだと。

いつか、見に行こう、と…。


その約束の証として、私にこの簪を渡したのだ。


私を、つなぎ止めるために。

⏰:09/10/02 21:34 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#54 [まぐろ]
「…」


そんなの、いい。
彼の気持ちだけで充分。

首を振って、そしてもう簪を落とさないように着物の帯に差した。


これからどこへ行こうか。
…どこに行こうと私は縛られたままだが。

帰る場所なんて、ここしかないのだから。

⏰:09/10/02 21:40 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#55 [まぐろ]
ザッ…


歩き出そうとした時、背後から土を踏む音が鳴った。


「お待ちください」


同時に聞こえた声に、少しだけ身を縮める。
いつもより、真剣な声。


「…澪?」

ゆっくりと振り返る。
そこには、眉間に皺を寄せた澪がいた。

⏰:09/10/02 21:43 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#56 [まぐろ]
「何か、用かしら?」


澪同様、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。
…また、あの重い空気。


「月夜さん」


開かれた口から発せられた私の名。
今日はどんな冷たい言葉を言われるのだろう。

やはり慣れない言葉なのだろうか。

⏰:09/10/02 21:49 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#57 [まぐろ]
「月夜さん」


もう一度、名を呼ばれた。

鼓動が速くなる。
覚悟なんてとうに出来ている。
彼は私が嫌いなのだ。
何を言われても仕方ない。

固く目を瞑った。



「僕は貴女を、

…愛しています」

⏰:09/10/02 21:52 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#58 [まぐろ]
思わず、目を見開いた。


澪は今、何を言った?

見上げると、瞳に哀しみの色を浮かべて私を見つめる澪の姿。

…どうして?



「…だから、いなくなりなさい。
僕と、太陽の前から」



そして、彼は私に背を向けた。

⏰:09/10/02 21:57 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#59 [まぐろ]
.



月の光は太陽の光。

だから、大丈夫。



.

⏰:09/10/02 21:59 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#60 [まぐろ]
.



何故、光が二つあっては
いけないのだろう。

一体、誰が答えを
知っているというのか。



.

⏰:09/10/02 22:07 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#61 [まぐろ]
告げてしまった言葉には
嘘も、後悔もなかった。


それなのに、何故僕はこんなにも無力なのか。
何故、彼女を救えないのか。
…太陽と共に逃がしてやれないのか。


“いなくなれ”としか言えない自分に嫌気がさす。

⏰:09/10/02 22:11 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#62 [まぐろ]
月夜さんに背を向けた僕はそのまま何も言わずに、屋敷へ戻った。

彼女も、僕を呼び止めなかった。


…別に期待をしていたわけじゃない。
彼女に嫌われるように接していたのだから、当然だ。

それでも優しい月夜さんは、僕を拒むことはなかったが。

⏰:09/10/02 22:15 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#63 [まぐろ]
「…神楽家に生まれた月の運命、ですか…」



一部の者のみが知る、彼女の運命。
その他の人間は皆、知らないが故に彼女を崇める。

無知とはなんて恐ろしい。

人々の言葉が、彼女をどれほど苦しめたことか。
…僕が言えた義理ではないが。

⏰:09/10/02 22:20 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#64 [まぐろ]
だけど、どんなに傷ついても…


「生きてさえ、
いてくれるなら…」


空を仰ぐ。
今日は綺麗な月が見れるのかと思うと心が躍る。

…久しぶりに今夜は、太陽と一緒にいさせてあげようか。

当主に気づかれなければ構うことはない。

⏰:09/10/02 22:29 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#65 [まぐろ]
.



月と太陽。
どちらが欠けたとしても
僕は世界を失うでしょう。



.

⏰:09/10/02 22:31 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#66 [まぐろ]
.



感じたのは、

淡い嫉妬心と
置いて行かれた寂しさ。



.

⏰:09/10/02 22:40 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#67 [まぐろ]
やってしまった、と俺は一人頭を抱える。
畳にごろごろ転がり、ううと唸った。

…遂にたきつけてしまったのだ、澪を。


「あー、俺無責任っ!!
俺の馬鹿…!」


素直に、怖いと思った。
月夜が俺から離れて行くことが。

⏰:09/10/02 22:44 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#68 [まぐろ]
「…」


先程の会話が蘇る。


“…なあ、澪”

“はい?”

“どうしたら…月夜を止められるのかな”


答えを知りたいあまりに、焦って何も考えられなかったのかもしれない。


“っ…そうだ!”

あの瞬間に戻れるなら戻りたい。

⏰:09/10/02 22:50 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#69 [まぐろ]
ただ、月夜に未練を残させればいいと閃いた浅はかな考え。

澪が月夜を大切に思っているのは知っていたから。



“澪!月夜に想いを伝えるんだよ、お前が!”



今思えば最低だ。
二人の気持ちを踏みにじる提案だった。

⏰:09/10/02 22:55 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#70 [まぐろ]
「…澪、言っちゃったかな」


天井を見つめながら呟く。


…ずるい。

どうして俺に出来ないことが他人に出来てしまうんだろうか。

確かに俺は月夜の恋人にはなれない。
だけど、月夜を救うのは俺でありたい。

⏰:09/10/02 23:02 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#71 [まぐろ]
「っじゃあなんで澪を行かせたんだよ…!!」


本当に馬鹿だ、俺。

起き上がり、部屋を出る。
…今日はいい天気のようだが特に気にならない。


「ああ、もう…」


無性に苛立つ。
許されるなら八つ当たりでもしたい。

⏰:09/10/02 23:06 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#72 [まぐろ]
小鳥の囀りにも苛立つ。
そして、前から歩いてくる澪にも勿論…


「…み、お!」


澪の数歩前で足を止めて、睨みつける。
俺の気持ちに感づいたのか澪は息を吐いて、腕を組んだ。

⏰:09/10/02 23:09 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#73 [まぐろ]
「…自業自得ですよ、太陽」


呆れたように笑う澪。
俺は拳を握り締めて押し黙った。


「太陽が嫌だと言うなら、僕はやりません。
自分の言葉に後悔なさるなら、適当な事は言わないことです」


「…っごめ、ん」

⏰:09/10/02 23:15 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#74 [まぐろ]
澪の責める口調に、苛立ちは治まっていく。

そう…悪いのは俺だ。

もう一度、しっかりと謝ろうとすると澪に遮られた。



「謝るのは僕です。
僕では役不足のようです。
きっと彼女は揺らがない。

彼女はいつだって…」


そこまで言って、黙った。

⏰:09/10/02 23:21 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


#75 [まぐろ]
話の続きも気になるが、内容的に、澪は月夜に想いを伝えたように聞こえる。

…それが、哀しかった。


全部、俺が原因だから何も言えないが。

「…そっか」


独りにされたようで、凄く寂しかった。

⏰:09/10/02 23:26 📱:SH705i 🆔:☆☆☆


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