無題【BL】
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#120 [我輩は人間である]

ケンカを見たコンビニの店員が通報したらしい。警察官の一人は細身のメガネの男性に事情聴取をとっている。
逃げる理由もなかったのであっさり警察官に取り押さえられながら、その店員と目が合った。肩がすぼまって伏せ目がちにそらされて千鶴はどこか寂しさを覚えた。

学校の奴らと同じ。そんなに怖い存在じゃないのに皆が皆、目をそらして壁を作る。関わりたくないと雰囲気で言われているようで千鶴は正直ショックだった。

確かにケンカは強いけど、あれは裏切られた後ちょっとやんちゃしたら意外に自分自身ケンカが強いことがわかってしまって図に乗ってしまっただけ。
ケンカは好きな方ではないし手を出されたりしない限りしようとも思わない。目が合っただけでつっかかる程、血の気だって多くはない。

⏰:10/07/24 00:22 📱:S001 🆔:☆☆☆


#121 [我が輩は人間である]

隣の牢屋には千鶴と同じような年頃の子がいて入る時に睨まれた顔が千鶴には何故か忘れられなかった。
あんな風に自分も睨んでいたのだろうか。だから誰も寄り付かないのか。考えてみれば思い当たる節もあるかもしれない。

牢屋に入るのは何回かあったので大体はすぐに金で片付く。今頃父親に連絡がいっている頃だろう。
それにしてもさっきは少し短気すぎたかなと反省した。柯伽大政に会いたい。
怒ってるんだろうな。突然キレだして。
今まで出会ったことのない類だったから尚更だ。

「水野」

項垂れた顔を上げると思いに答えるように大政が立っていた。

⏰:10/09/03 01:00 📱:S001 🆔:☆☆☆


#122 [我が輩は人間である]

「なんで」
「なんでってこっちのセリフだよ。親父さんから連絡きたからむかえに来た」

大政は至って普通な態度だった。
警察を出てから二人っきり。
何と言っていいかわからず千鶴は顔を俯かせて歩く。そんな様子を見て、大政は大きな溜め息を吐いた。

「反省してんのか?」
「…………」
「聞いてんの?」
「…………」
「おい」
コクンと力なく頷く。
また溜め息が聞こえた。さっきよりも大袈裟と思えるくらいの溜め息で、肩が重い。

⏰:10/09/03 01:18 📱:S001 🆔:☆☆☆


#123 [我が輩は人間である]

「ならいいんだけど。たっく、もうテストどころじゃねえな」
「停学だろ…多分」
「参ったな、お前には」
「…用事あんだろ。もう行けよ…あんたも俺に用なくなったわけだし」
「行けよって、お前のおかげで行っても意味なくなったよ」

街灯に蛾が当たって時折バチバチと鳴りながら帰路を照らす。
並んだ二つの影には千鶴にしか見えない差があった。


階段の前で千鶴は足を止めた。立ち止まった千鶴に大政も階段を登りかけて千鶴の方に顔を向ける。

「ここでいい」
「いや上まで…」
「いいからマジで。さっさと帰れよ…もうこれでさようなら。今までありがと、センセー」

⏰:10/09/03 01:46 📱:S001 🆔:☆☆☆


#124 [我が輩は人間である]

別れの言葉なんて言うはずはなかった。会いたいと思って会えたのに、さようならとか。今日はとことん素直になれないらしい。
千鶴はどよめいた気分のまま階段を上がった。もしかしたら引き止めて、なんて期待していた自分が馬鹿馬鹿しい。
ベットに身を任せてすぐ。正体がわからない感情に胸がきゅうっと縛られた。

⏰:10/09/03 23:30 📱:S001 🆔:☆☆☆


#125 [我が輩は人間である]



「…………」
7時。無意識に時間を確認してしまった。

つい最近まで嫌がおうにも家に上がり込んで来る家庭教師はもういない。
水野ぉ〜と玄関先から呼ぶ声もなければうるさいからと渋々向かえ入れることもなくなった。
強引に勉強を勧める奴もいなくなって最高なはず。ハズなのに。―――


当たり前のように停学を言い渡され、以前のような勉強だらけの生活から一変して平穏な暮らしへと徐々に戻っていく一方、千鶴の中にあるモヤモヤした気持ちは環境と一緒にそうは変わってくれなかった。

むしろ、積もっていくだけでどんなに消そうとしても消せない。
柯伽大政がいなくなって一週間が経とうとしていた。

⏰:10/09/04 00:41 📱:S001 🆔:☆☆☆


#126 [我が輩は人間である]

小腹が減ってきて、冷蔵庫を開けると中はもぬけのからに近いような状態だった。
外に目を向けると雨。しかも結構な降り加減だ。
そろそろ食料も尽きてくるなと思ってた時に買い物にでも行けばよかったと思ったが、それも今となっては後の祭り。財布と携帯、それと忘れるところだったビニール傘を取ってマンションの廊下へ出た。


カギをかけて階段を降りていると、下から誰かが登ってくる音がしてきた。
ここに住んでいる住人の中でも千鶴は悪い意味での有名人なので、すれ違う時に軽蔑した目を向けられると思うとそれだけで気まずいのに。

まともに目を合わすのは嫌なので頭を下げるように顔を下へ向けようとしたその先に、最も気まずい相手が数階段先に立っていた。

⏰:10/09/16 19:38 📱:S001 🆔:☆☆☆


#127 [我が輩は人間である]

「ごめんごめん。遅れた」

柯伽はスーツについた水滴をはらいながら階段を登って目の前まで来ると平然としたような口調で謝った。
せっかくのリクルートスーツが雨で濡れて少し色が変わっている。

「なん、で…」
「次があるだろ?次のテストまで職務続行になったから。連絡しなくてごめんな。これでも早めに済ませてきたんだぞ」
「もういいっつったじゃん」
「お前がな。俺はよくない。それになんか…お前勉強好きになってきたって調子に乗ってきたってのに、俺の都合に合わせて終わりにさせようとしたのも申し訳ないって言うか…」

違う。そうじゃない。勉強じゃなくて。
恋心などとうの前に気付いていたんだ。
でも確信してしまうとまた一つ寂しさに消えてしまうから。だからあの時振り切ったのに。

⏰:10/09/18 02:32 📱:S001 🆔:☆☆☆


#128 [我が輩は人間である]

「だからこれから頑張ろう、な?ってお前どこ行く気だったんだ?」

一向に顔を上げない千鶴に柯伽は顔を覗き込んだ。
そして、驚いた。
目が合った瞬間に逃げ出そうとする千鶴の腕をとっさに掴むと、
「水野、」
「も…離せよ」
喉から絞り出すような、震えた声が返ってきた。

目の端には水滴がたまっていて今にも零れ落ちそうだった。どこか苦しそうに眉間に眉を寄せて唇を噛み締めていた。
逃さぬよう掴んだ手に力をいれる。反抗するように千鶴は腕を上下に振った。

「なんか辛いことがあるなら聞くぞ?」

至って冷静を保ったように柯伽は言った。家庭教師といっても教師だ。そしてあっちは生徒であって教え子なのだ。
今、自分が落ち着いてなくてどうする!
そう心の中で言い聞かせもう一度強く千鶴の腕を引っ張った。

⏰:10/09/18 03:12 📱:S001 🆔:☆☆☆


#129 [我が輩は人間である]

今度は力なく引っ張った方に千鶴の体が動く。それでも俯いていて表情は見えない。

泣いているのだろうか。上擦った声は聞こえてこないが少し体を震わせているのが手を伝ってよくわかる。


二人は暫くそのままでいた。
沈黙を埋めるように雨音が一層強くなっていき、濡れていたスーツもいつの間にか乾いていた。

この場から逃げ出したいのに掴まれた場所は未だ力が緩まなかった。
こっちが静かになれば自然と離してくれると思っていたのにその気配がない。
千鶴は怖くなっていた。
何を考えているのか柯伽の行動が全く読めない。
さっきの柯伽は固まっていた。そして困ったように戸惑いの表情を見せた。

⏰:10/09/18 04:00 📱:S001 🆔:☆☆☆


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