らららんらんらら
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#1 [ぴぃ]
:10/03/19 19:29
:SH02A
:ZxHG/PDo
#2 [ぴぃ]
らららんらんらら。
うん、そうだね
そういう具合で生きることができたらきっと楽なんだろうね
けれど実際今の私にはいろいろな余裕がないからそんなに楽観的になれなくて
現実から逃げたいけど、逃げられないことがちゃんとわかっている
だから嫌なんだ、この時期は
:10/03/19 19:34
:SH02A
:ZxHG/PDo
#3 [ぴぃ]
「相沢ー…相沢ゆい。HR終わったらちょっと来い」
3年生を送り出した別れの3月が過ぎ、桜の花も見ごろになり、出会いの4月がやって来た。この時期になるとわたしはもれなく憂鬱になる。
「河田先生、わたし予定があるので10分だけ待ってください」
中高一貫のこの学校。固い絆で結ばれているのだろう、河田先生の連続担任記録が5年目に突入した。
さすがにここまでくると河田先生もピンと来たようで、深くは追求せずに了承してくれた。
:10/03/19 19:47
:SH02A
:ZxHG/PDo
#4 [ぴぃ]
何故こんなにもこの時期に集中してやって来るのだろうか。わたしならどちらかというと3月とか…もしくはイベント事のときにというのがセオリーな気がする。
とそこまで考えて、ああ、新学期もイベントに含めているのかしらと思い至る。
わたしの憂鬱の原因
それは告白されること
する方のことを考えればひどい女なんだと思う。けれど1日に何度も断らなくてはならない身としては、慣れているといっても精神的に辛いのだ。
:10/03/19 20:01
:SH02A
:ZxHG/PDo
#5 [ぴぃ]
彼氏をつくるつもりはない。しばらく会っていない父のせいで、男の人には失望し続けてきた。いまさら男の人を信じる気にはなれないのだ。
顔だけよくても奥に潜む性格はわからないし、母のように蔑ろにされるのではという恐怖もある。
あとから絶望するなら最初から興味を持たなければいい。それがわたしなりの自分を守る方法。
:10/03/19 21:04
:SH02A
:ZxHG/PDo
#6 [ぴぃ]
「用事終わりました」
勝手知ったる国語科準備室。利用している教員は河田先生のみなので、かなり自由に使わせてもらっている。
「…遅れてきたうえに、入ってすぐコーヒーメーカーに直行する生徒は相沢ぐらいだよ」
優しい顔で苦笑する河田先生は今年で28になる国語教師。人あたりがよくて信頼もあり、男女ともに人気がある。
河田先生も男だけれど5年経つうちに徐々に心も開け、多くの相談もしてきた。河田先生は今一番信頼できる男の人。
:10/03/19 21:34
:SH02A
:ZxHG/PDo
#7 [ぴぃ]
「いいじゃないですか、わたしここのコーヒー好きなんですもん。それにこっちは呼ばれた側だし」
わざわざ足を運んだのだからコーヒーくらいごちそうになってもバチはあたらないでしょ。それに…
「先生わたしに隠してることあるでしょう」
わたしが呼ばれた原因はそこにある。河田先生の笑顔が引き攣ったことでこの予想が的中していることを確信した。
:10/03/19 21:41
:SH02A
:ZxHG/PDo
#8 [ぴぃ]
今なら怒らないかもしれないからとりあえず言ってみて、と笑顔で促す。
「やめてくれ、美人の笑顔ほど怖いものはない……。」
先生は目を反らして、代わりに1枚のプリントを押し付けてきた。読めということなのだろうと軽く目を通したが、その内容に絶句した。
プリントに書かれていたのは、明日行われる入学式での新入生案内係について。その案内係の欄には、しっかりと「相沢ゆい」と記入されていた。
:10/03/19 22:04
:SH02A
:ZxHG/PDo
#9 [ぴぃ]
「…河田せ
「ほんっっっとうにすまん!お前がこういう係やりたくないってのはわかってるんだけど。これ成績優秀者から選ばれるんだわ」
うん。やりたくない。理由は新入生からの目が痛いから。わざわざ目立ちに行くようなことは極力したくない。
「あ、ほらリコとかいいじゃないですか!成績も上位だし案内係とか向いてそう!」
同じクラスの神谷莉子とは、小学校からの大親友。…なんだけど、わたしとは正反対でかっこいい男の人が大好き。小柄で顔もかわいいから手におえない。
:10/03/19 22:37
:SH02A
:ZxHG/PDo
#10 [ぴぃ]
我ながら名案だと思ったのだが、河田先生は浮かない表情でわたしの持ったプリントを指さした。
「もちろん神谷も係に選ばれてるんだよ」
一縷の望みが断たれた。それはもうこの世の終わりのような顔をしていたのだろう、先生はとっておきのカステラを出してきてくれて、わたしにすすめてくれる。
「…こんなので機嫌治すほど子どもじゃありませんよ」
甘いカステラを一切れ頬張って少し優しい気持ちになれたわたしは、先生のために明日は頑張ってあげようと思った。
:10/03/19 23:05
:SH02A
:ZxHG/PDo
#11 [ぴぃ]
やっぱり間違いだった。
新入生でごった返している玄関でわたしはリコと新入生を誘導する。二人一組ということだったので、迷わずリコを選んだのだ。一人じゃなかったことがせめてもの救いだと思ったのだが、わたしとリコが一緒にいることで余計に新入生の目をひいてしまっていた。
「ゆいー?大丈夫?」
リコが心配そうに尋ねて来たときにはすでにわたしのテンションは底辺に達していた。
「無理。けど仕事は最後までやるから…」
リコはイケてる新入生をチェックするのに忙しいみたいで仕事が手についてないから、わたしがやらないと。
:10/03/20 03:56
:SH02A
:tScNu55g
#12 [ぴぃ]
新入生に冊子を手渡し、道を聞かれれば答える。わたしは男の人に興味はないけれど、根本的には世話やきなのだ。
それに、キラキラした後輩がこんなにもたくさんいるのは嬉しい。赤い顔で挨拶してきてくれる女の子なんか本当にかわいいと思う。
「みんな女の子ならいいのになー…」
「…それはわたしが困る」
玄関の混雑具合も収まったころ、時間はすでに8:45と入学式の15分前になっていた。
:10/03/20 18:48
:SH02A
:tScNu55g
#13 [ぴぃ]
「そろそろ体育館行っていいのかなぁ」
リコが一息つきながら言ったので、あとはわたしが見てるから先に行ってイイ男探してきな、と促した。
数分後、気がつけば他の係の人もいなくなっていて、急に静かになった玄関で気持ちのいい風を受けながら用意してあった椅子に座る。
ずっとそうしているわけにもいかないので、資料や備品を軽く片付けて体育館に向かうことにした。
―――ぶわっ
そのとき大きな風が吹いた。
:10/03/21 20:12
:SH02A
:nFfU3EwY
#14 [ぴぃ]
せっかく片付けた資料が風に吹かれて宙に舞う。そしてその資料の向こう側には、今までいなかったように思うが…1人の生徒が立っていた。
「あなたは…新入生かな」
見慣れない生徒だった。
色素の薄い髪と透けるような白い肌が印象的な、とても綺麗な男の子だった。
「この先が体育館よ。まあ、わたしも入るんだけど」
あのあと散らばった資料を拾うのを手伝ってもらい、もう時間になるからと一緒に体育館までやって来た。
:10/03/22 02:25
:SH02A
:IHJ3loaE
#15 [ぴぃ]
はかなげで大人しそうな見た目の通り、この男の子は自分から進んで話して来るようなことはなかった。ここまでの道のりでわかったことは名前が美月奏(ミヅキカナデ)ということくらいだ。
初対面の人と2人きりになることは得意ではないが、美月くんのふわふわした印象はその不安を取り除いてくれた。
ほとんどが無言であっても、その静寂がなぜか心地好かった。こんなに珍しいことはない。
「それじゃあね、美月くん。また機会があれば会いましょう」
いつもなら男の子にそんなことを言うことはないのだが、このときはなぜか、思わず口から言葉がこぼれてしまった。
:10/03/22 02:46
:SH02A
:IHJ3loaE
#16 [ぴぃ]
「はい、相沢先輩」
初めて見た美月くんの笑顔は、今まで出会ったどの人の笑顔よりも美しく、そして切なかった。
入学式が終わり、係の仕事も終わったところでリコがしまりのない顔で近づいて来た。
「今年の新入生はなかなかだよぉー。見所ある子多数って感じ」
それはよかった。ああ、これからあの未来ある若者たちがリコの毒牙にかかるとは…嘆かわしい。まあ、わたしには全く関係がないのだけれど。
「ゆいもこれから忙しくなるよ。わたしに近づいて来た子たちの中にも結構いたよ、あの一緒にいた美人は誰ですかって」
予想はできていたけれど正直うんざりだ。特別な関係になりたいとか、そんな面倒臭いことを言ってこなければまだ相手もできるのだけれど。
:10/03/22 03:09
:SH02A
:IHJ3loaE
#17 [ぴぃ]
「ああそういえば、すっごい綺麗な子もいたなー。結構終了間際に入ってきた」
美月のことだとすぐにわかった。別に隠すほどのことでもなかったのだけれど、なんとなく、そんな人いた?と知らないふりをしてしまった。
案内係で疲れきった身体を癒すには、甘いお菓子とおいしいコーヒーをもらうに限る。
「…で、ここにいるわけなんだな」
:10/03/22 18:37
:SH02A
:IHJ3loaE
#18 [ぴぃ]
昼下がりの国語科準備室は日当たりばつぐんですごく気持ちがいい。
棚の中に隠してあったクッキーの詰め合わせをさらに一つまみ。
「嫌なのを堪えて必死に頑張ったんですよ、これじゃ安いくらい」
小言ついでに先生の口にあまり好きではないアーモンド入りのやつを突っ込む。どんな嫌味を言ってやろうかと考えていたけれどこれでチャラにしてあげる。カロリーを補充してゆとりのある心が戻ってきたようだ。
:10/03/26 01:36
:SH02A
:rsPdfj7E
#19 [ぴぃ]
ふと時計を見るともう15時を回っていた。いやだ、今日は早く帰ってゆっくりするつもりだったのに。
「どうせここでゆっくりしていたんだから同じことだろう」
わたしの微妙な表情の変化に気づいて、先生は苦笑した。
わたしの考えはなぜかいつも先生にはつつぬけ。そんなにわかりやすい態度をとっているつもりもないんだけどな。
その後、やはり特にすることもなかったので最後にまたクッキーを一つ食べて帰路についた。
:10/03/29 07:57
:SH02A
:/2/.wxrw
#20 [ぴぃ]
学校から家まで徒歩で15分という道のりでは、寄り道という寄り道もできない。当たり前のようにいつもと同じ風景の中を歩く。
ふと顔を上げると、見慣れない看板が目に入った。
「――"しゅがー"?」
sugar…その看板にはそうかいてあった。そしてわたしの嗅覚はその存在を確かに捕える。
「甘い匂い…ケーキ?パン?」
:10/03/31 10:38
:SH02A
:n24SNUqs
#21 [ぴぃ]
看板の示す方に自然と足が向く。こんな道あったんだ、と自分の家の近所のはずなのに初めて気付いた。
たどり着いた先には、かわいいレトロなレンガ作りの小さなお店があった。間違いなく、このいい匂いはその中から漂って来ていた。
甘いものに目がないゆいは、条件反射のように何も考えずその扉を開けた。
それが今後の生活を左右するとは、夢にも思っていなかったから。
:10/03/31 22:29
:SH02A
:n24SNUqs
#22 [ぴぃ]
カランカランカラン。
「うわ…あ」
そこはゆいにとって夢のような場所だった。キラキラ光る色とりどりの宝石のようなマカロンやゼリー。楽しい形のクッキーに、見ているだけでよだれが出ちゃう夢のようなケーキの山。
しばらくうっとりとショーケースに見とれていたが、急に声を掛けられてふと我に返った。
「何になさいますか?」
:10/04/04 01:58
:SH02A
:lHn0isxo
#23 [ぴぃ]
「あ、わたしはまだ見てるだけで――」
声のした方を向き返事をしたのだけれど、それは途中で区切られてしまった。
驚いた、というのが本音だった。
「ああ、やっぱり。相沢先輩…でしたよね」
それはやはり消えてしまいそうなほど繊細な笑顔で澄んだ声で…
「美月、くん」
:10/04/04 02:06
:SH02A
:lHn0isxo
#24 [ぴぃ]
あれから数分後。
私は今お洒落に紅茶を飲みながら、店内奥にあるカフェでザッハトルテを食べている。
悔しいことに今まで食べたザッハトルテの中で一番好みだ。
「…それにしてもこのお店が美月くんのお家だなんて」
驚きの再会の後、自然な流れでケーキセットをすすめられ、この場所まで案内された。
:10/05/16 18:44
:SH02A
:2MvzU032
#25 [ぴぃ]
食べかけのケーキセットを前に、改めて店内を眺める。
見ているだけで幸せになれるようなかわいいインテリアに、淡い色で統一されたお洒落な内装。
ゆったりとした時間の流れる空間だった。
「父がパティシエで、母がインテリアコーディネーターなんですよ」
向かいの席に目を向けると、美月くんが腰をかけるところだった。
:10/05/16 19:44
:SH02A
:2MvzU032
#26 [ぴぃ]
「そうなんだ。素敵なご両親なのね」
心からそう思ったのだが、美月の表情はやはりどこか淋しそうで。
「母はほとんど仕事で家にいません。父も海外で暮らしていて…」
しまった、と思ったが遅かった。何も知らないことは人を傷つけることにつながる。
謝るのもおかしい気がして、そこからは無言で食べかけのケーキを食べた。
この場に相応しくない優しい甘さが口の中に広がった。
:10/05/16 21:03
:SH02A
:2MvzU032
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