記憶を売る本屋さん
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#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」

「いやぁ…」

本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。

「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。

 前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」

直人は分かりきったように断言する。

「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」

「…お?」

自分で言った事を、要も言った。

話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。

⏰:10/03/23 17:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。

「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」

「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」

「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」

晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。

「…照れるじゃん」

「やめろよ、照れるから」

直人と要は同時に言った。

「ハモった…」

「でも、元気なんだったら、良かった」

⏰:10/03/23 17:13 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」

「そっか。じゃあちょうど良かったかな」

「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」

晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。

その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。

「今のって…」

「ちょっと待ってて」

晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。

「…やっぱりあんただったの」

晶の声が曇る。

⏰:10/03/23 17:19 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」

直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。

来てみると、美代が後をつけてきていた。

「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」

「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」

「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」

美代は「お願い!」と手を合わせる。

「悪いけど」

要が口を開く。

「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」

要は意外にも、きっぱりとそう断った。

⏰:10/03/23 17:23 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」

「ちぇっ、つまんないの」

美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。

「2度と来んなよ」

直人は美代の背中を睨みつける。

「…これで大丈夫だろ」

「…うん…」

困り果てたように、晶は力なく返事した。

「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」

「…うん、わかった」

晶は笑って、大きく頷いた。

⏰:10/03/23 17:28 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#111 [我輩は匿名である]
「そうだ、あいつに会わなくて済むように、今度いつ会うか決めとこう。場所も」

少し考えてから、要はそう提案した。

晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。

いい考えだと、直人も頷く。

「うん、そうしよう!」

「よし、じゃあ…いつがいいかな?日曜日の方が、長い時間いれるよね」

「うん。じゃあ、次の日曜日にしよう!場所は…あ、初めて会った、あの場所がいい!」

晶は、自分がしゃがんでいた、あの場所を言っていた。

あそこなら、美代も知らないだろう。

「わかった。昼からでいいかな?」

「うん。ご飯食べてから」

⏰:10/03/23 17:35 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ、2時ごろ、2時ぴったりにしよう」

「うん!」

晶は楽しそうに、笑って大きく頷く。

待ち合わせなど、した事がないのかもしれない。

まるでデートの待ち合わせをしているような2人。

それを見ていて、直人も何だか嬉しくなってきた。

「じゃあ、次の日曜日の2時に、あの場所で」

「うん!絶対だよ!」

「うん」

要が頷くのを見てから、晶は手を振りながら帰っていった。

晶が見えなくなってから、直人の視界も暗くなった。

⏰:10/03/23 17:39 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#113 [我輩は匿名である]
次の日曜日、つまり4月21日。2人が初めてデートする日。

「(…この日は、忘れずに読まないとな)」

直人は40年前の今日の話に一通り目を通す。

やはり、読んでいない日の事は書かれていなかった。

「(毎日ちゃんと読めって事か)」

直人は少し反省する。

ただ、話が急激に変わっていない事にはホッとした。

『自分に起きている事のように感じられる』

ネットで見たあの一言が、ふと頭の中をよぎった。

少しだけ、今の自分がそうなりつつある気がした。

⏰:10/03/23 17:53 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#114 [我輩は匿名である]
要と晶の間を見守るのもいいが、直人はもう1つ肝心な事を思い出した。

「(…薫に謝ったほうがいいかなぁ…)」

直人は考えながら、携帯電話を開く。

しかし、誰からもメールはない。

「(…いや、意外と明日はいつも通りかもしれないな)」

直人はそんな変な期待を抱き、携帯電話を閉じた。

⏰:10/03/23 17:57 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#115 [我輩は匿名である]
しかし、それはどうやら甘かったようだ。

朝少し早めに学校に着いたが、すでに薫は鞄だけを残し、教室内にはいなかった。

「はぁ…」

机に座って、何て謝ろうか考える。

すると。

「ねぇねぇ、水無月くん」

隣の席の女子が話しかけてきた。大橋怜奈。そんな名前だった気がする。

「…何か用…?」

「水無月くんって、月城くんと仲良いよね?」

こんな時に。お前は嫌味を言いたいのか。直人はその気持ちを抑えて「まぁ」とだけ返事をする。

⏰:10/03/23 18:02 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


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