記憶を売る本屋さん
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#1 [我輩は匿名である]
初めて小説書きます。

たまに文章おかしいかもですが、頑張ります(*^^*)

荒らしはお断りです!

⏰:10/03/22 13:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#2 [我輩は匿名である]
ある街に、1つの都市伝説が伝えられている。

『道を歩いていると、身体の2倍ぐらいの大きさのリュックを背負って、

 まるで仙人のような顎ひげを伸ばし、サングラスを掛けた

 色黒の老人が、1冊の本を手渡してくる。

 言葉巧みに、半ば強引に。

 本を渡されるのは極少数だが、本を読むと最後。

 突然家を飛び出して捜索願を出される者もいれば、

 最悪の場合、自ら生を投げ出す者もいる。』

 それゆえ、「本をもらった人は殺される」と噂されている…。

⏰:10/03/22 13:48 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#3 [我輩は匿名である]
「最近あの話聞かないな」

下駄箱で靴を履き替えながら、ふと、秋月直人は言った。

「何だよ、突然」

友人の月城薫は、きょとんとして言葉を返す。

「だって、俺達が高校受験に励むぐらいから、1回も聞いてねぇだろ」

「まぁ、言っても半年ぐらいだけどな」

薫は大した事なさそうに笑って、上靴を下駄箱に放り込んだ。

⏰:10/03/22 13:53 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#4 [我輩は匿名である]
確か最後に聞いた話は、19歳の女性が行方不明になり、

1週間後に電車にはねられて亡くなった。

彼女の自室から、タイトルのない、黒い四六版サイズの本が発見さ

れたという話だった。

「いいじゃん、その方が平和で」

「まぁそうだけどよ」

「それに」

薫は身体ごと直人に向ける。

「死なない人だっているんだろ?」

その一言に、直人はぽかんとする。

そんな話、聞いた事がない。

たまたま、今まで耳にしなかっただけかもしれないが。

⏰:10/03/22 14:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#5 [我輩は匿名である]
出だし面白い!
期待してます!

⏰:10/03/22 14:10 📱:P01A 🆔:☆☆☆


#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」

「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」

「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」

直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。

薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。

「教室に弁当箱忘れた」

「何だよもう…。取って来い!」

直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。

「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」

「ちっ」

悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。

「俺その辺で待ってるからな」

「んー…」

ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。

⏰:10/03/22 14:12 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#7 [我輩は匿名である]
>>5さん

ありがとうございますっ(>∀<)!!

長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪

⏰:10/03/22 14:14 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。

好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。

しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。

かろうじて校門が視界に入る角度で。

心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。

「(…今…校門に…)」

周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。

校門を見るまでは。

「(…まさか…な…)」

恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。

校門周辺には、誰もいなかった。

「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。

「気のせいじゃないよぅ〜?」

背後でしゃがれた声がした。

⏰:10/03/22 14:24 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。

下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。

足が、全身が小刻みに震えだす。

「なぁ、君、本は好きかぃ?」

声が尋ねてくる。

「…い…いや…きっ、嫌い…」

さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。

だから『あの老人』が来たんだ、と。

噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。

「嫌い」としか言えなかった。

しかし、声は諦めてくれない。

「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。

 1回読んでみなさいな、ねぇ?」

話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。

⏰:10/03/22 14:31 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。

服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。

「お…俺の為の本…?」

呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。

「そうそう」

肩に置かれていた手が離れる。

背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。

時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。

「ほれ」

直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。

それは、1冊の本だった。

⏰:10/03/22 14:38 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。

タイトルも著者名も、何も書かれていない。

直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。

「きっと君の役に立つと思うよぉ?」

声は笑っているかのようだった。

耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。

ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。

怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。

背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。

直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。

これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。

捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。

直人は息を殺して、本のページに指をかける。

⏰:10/03/22 14:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#12 [我輩は匿名である]
「直人!」

薫の声が、直人を呼ぶ。

その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。

「ごめん、お待たせ」

「あっ…あぁ…遅かったな…」

無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。

その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。

「…どうかした?顔真っ青だけど」

「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」

よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。

「腹痛?大丈夫か?」

言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。

「…お前、心配してないだろ」

「してるしてる」

⏰:10/03/22 14:58 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。

直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。

「弁当箱、あったか?」

「無いとおかしいだろ」

「ま、まぁな」

変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。

「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」

薫は話を変えた。

彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。

名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。

窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。

「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」

「まぁな」

2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。

⏰:10/03/22 15:06 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。

結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。

今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。

万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。

ごくっと唾を飲む。

「(よし…やるか!)」

自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。

「うわっ…!」

ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。

わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。

⏰:10/03/22 15:13 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」

聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。

視界には、知らない玄関が映っていた。

「えっ、どこ!?」

そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。

それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。

「…どこだ…?ここ…」

直人は絶句した。見た事も無い場所だった。

立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。

前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。

服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。

⏰:10/03/22 15:27 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#16 [我輩は匿名である]
「何、あいつ。古っ」

そんな事より、どうやったらこの身体は思うとおりに動いてくれるのか。

喋りたくても喋れない。止まりたくても止まらない。見たい物も見れない。

たださっさと、沈む夕日に向かって歩くだけだ。

「あらぁ、カナメ君。どこ行くの?」

道の少し先にいる、40歳前後のおばさんが、こっちに向かって話しかけてきた。

「なんか、トイレットペーパーがなくなったから、買って来てって」

少年の声がした。さっき「行って来ます」と言った、あの声だ。

驚いたことに、その声を発したのは、この身体だった。

直人は状況が飲み込めず、ただ唖然とする。

「トイレットペーパーねぇ。4年前は買うのも大変だったのに、あれなんだったんだろうねぇ。

オイルショックだか何だか知らないけど、迷惑なもんだよ」

女性は呆れたように苦笑いする。

⏰:10/03/22 15:37 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#17 [我輩は匿名である]
「オイルショック…?」

直人にはその言葉が引っかかった。

歴史は別に得意ではないが、それが40〜50年ほど前に起きた、

という事は、中学の時にテストで出たので覚えている。

そして、オイルショックの際、原油価格がどうこうで、トイレットペーパーが無くなると噂が広まり、

買い求めるために行列ができた程、という話も聞いた。

しかし、女性の話が本当ならば、今ここは、1970年代後半ぐらいという事になる。

なぜ?

直人はただ、家であの赤い本を開いただけなのに、なぜこんなわけの分からない状況になっているのか?

これではまるで、タイムスリップではないか。

本を開けただけで、そんな事が起こるはずが無い!

⏰:10/03/22 15:44 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#18 [我輩は匿名である]
大体この身体は誰だ?言う事を聞かないし、干渉する事もできない。

『彼』は、直人の存在に気付いていない。

それでも『彼』が目にした物は、自分が見ているかのように、直人にも鮮明に見えた。

そして、ある事に気付いた。

誰も携帯電話を持っていない。

今の時代、歩いていれば必ず、携帯電話を使っている人とすれ違う。

電話している人、メールを打っている人、様々だが、ここには誰も、そんな仕草をしている人はいない。

それだけではない。マンションもほとんど見当たらず、何よりコンビニが1件もない。

直人はぞっとした。

⏰:10/03/22 15:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#19 [我輩は匿名である]
「何だよこれ…どうやったら元に戻れるんだよ!?」

不安のあまり、叫んだ。心の中で。

本を開いたからここに来た。しかし、今は本を持っていない。戻る方法がわからない。

まさか、一生このままなのか…?

「うわぁ!?」

直人の考え事は、その声にかき消された。

裏道のような細い路地。

人1人通るのがやっとの道に、髪の長い少女がうずくまるようにしてしゃがみこんでいたのだ。

白いワンピースに、赤い靴。

「こわっ。ホラー映画かよ」。直人は思った。

「こ、こんなところで何してるの?」

この身体の主が、少女に尋ねる。

⏰:10/03/22 16:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#20 [我輩は匿名である]
声をかけられ、少女はこっちを向く。

人に怯えたような、死んだような瞳だった。

「…どこの子?この辺…じゃ、ないよな?」

この身体の主も、直人と同じように「怖い」と思ったのだろう。

声の調子が少し変わり、緊張しているのが分かる。

「…何も」

少女は小さな声で、それだけ言った。

身体の主は、困ったように「え…」と口ごもる。

それを見てか、少女はこう付け足した。

「帰りたくないから、ここにいるの。…それだけ」

どうやら家出をしてきたようだ。しかも、手ぶらで。

「でも、夜になると冷えるよ?」

「いいの。誰も心配してないし。…親もいないし」

⏰:10/03/22 16:11 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#21 [我輩は匿名である]
少女は顔を背け、膝元に顔をうずめる。

こういうの、めんどくせぇ。直人はため息をつく。

「…君、名前は?」

身体の主は、不意にそんな事を尋ねた。

思わず、少女が顔を上げる。

「俺、ナガツキ カナメ。“長”い“月”に、必要の“要”。今年で16歳」

長月 要。この身体の主は、そういう名前だそうだ。

「…イシカワ、アキラ」

「え?」

「私の名前。イシカワ アキラ。“石”に“川”に、水晶の“晶”」

少女は短く、それだけ答えた。歳は直人と、つまり要と同じぐらいに見える。

⏰:10/03/22 16:18 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。

「高校生?」

「…うん、この間入ったばかり」

「じゃあ、俺と同じだ」

要の声は、明るかった。

気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。

「家、どの辺?」

「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」

少女の話に、要は何も言わなかった。

「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」

⏰:10/03/22 16:29 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」

突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。

要も直人もびくっとする。

要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。

「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」

「心配?」

晶が小さく笑って立ち上がる。

「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」

視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。

とりあえず、1歩下がって事態を見守る。

「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」

「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」

晶はフンとそっぽを向く。

⏰:10/03/22 16:36 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」

女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。

その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。

「そこにいるじゃない」

晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。

「マジかよ」直人は呆然とする。

要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。

しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。

「はい、友達です」と。

それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。

「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」

さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。

⏰:10/03/22 16:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。

「ごめんね、いきなり」

女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。

「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」

要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。

「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?

 まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」

晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。

急に視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 16:45 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」

直人は思わず大きな声を出した。

そして、慌てて自分ののどを押さえる。

「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」

久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。

部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。

「お兄ちゃん!うるさい!!」

バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。

かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。

「…恵理だ…」

いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。

やっと戻ってきた。心の底からホッとした。

⏰:10/03/22 16:50 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。

時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。

ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。

「時間が…経ってない…!?」

本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。

それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…

といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。

直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。

左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。

直人は本を手に取り、他のページを見てみる。

他のページは全て、白紙だった。

「…何なんだ…?この本…」

直人は呟き、最初のページに戻る。

⏰:10/03/22 16:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#28 [我輩は匿名である]
  1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
          隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
          話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
          その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
          石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。

縦書きで、これだけ書かれていた。

「…誰かの日記か…?」

しかし、日記にしては文章がかたい。

⏰:10/03/22 17:10 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。

「これ、40年前の今日だ…」

携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。

やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。

どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。

しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。

ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。

⏰:10/03/22 17:15 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#30 [我輩は匿名である]
次の日。

昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。

「…お前、昨日なんかあったのか?」

「…へ?」

薫に聞かれて、直人はふと我に返る。

「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

直人は薫にくってかかる。

いつもの直人に戻った。薫は思った。

…薫に相談してみるべきか、直人は考える。

薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。

とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。

1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。

⏰:10/03/22 17:22 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#31 [我輩は匿名である]
「…本」

直人はドキッとする。

いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。

「…なんで…」

「当たりか」

「お前、何か知ってんのか…!?」

直人は机に手をついて、薫に問いかける。

「……別に何も知らねぇよ」

薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。

「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」

「…うん…」

直人はしぶしぶ頷く。

⏰:10/03/22 17:28 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」

「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」

「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」

薫は呆れたように息をつく。

「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」

昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。

なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。

「…何だ、これ」

「本」

「見りゃ分かる。…何も書いてないな」

表紙を見て、薫は首をひねる。

⏰:10/03/22 17:34 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」

直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。

このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。

そう思うと、開く気が引けてきてしまった。

「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」

直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。

「うわっ!ばかやろう!!」

直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。

「…あれ?」

何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。

「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」

「うるせぇ!!」

言い合いをしながら、2人で本に目をやる。

⏰:10/03/22 17:42 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。

「(はぁ…良かった…)」

直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。

「変だろ?そんだけしか…」

とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。

そして、自分の目を疑った。

本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。

眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。

薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。

「…おい…」

「…石川…晶…」

薫が小声で呟いた。

⏰:10/03/22 17:52 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。

「…なんだよ?まだ読んでたのに」

目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。

「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」

直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。

「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」

薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。

さっきのは、気のせいだったのだろうか?

「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。

 その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」

「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」

「あぁ」

直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。

背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。

⏰:10/03/22 17:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#36 [我輩は匿名である]
続き楽しみにしてます^^

⏰:10/03/22 21:06 📱:W65T 🆔:XgEtkN3Q


#37 [我輩は匿名である]
著者です。パソコン付けるのめんどくさいので、ケータイから失礼します。

>>36さん
ありがとうございます
今からまたちょっと進めます

⏰:10/03/22 22:25 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#38 [我輩は匿名である]
結局、タイムスリップの事は薫には話せなかった。

それどころか、薫にはあの本の話し自体しない方がいいかもしれない、とさえ思った。

制服のままベッドに寝転んで、直人は本を見つめる。
なぜ薫と見た時は何も起きなかったのだろう?

直人は起き上がり、あぐらをかく。

そして、何気なく開いてみた。

「えっ!?」

昨日と同じように、直人はあのまばゆい光に包まれた。

⏰:10/03/22 22:27 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#39 [我輩は匿名である]
「なんでぇーっ!?」

そう言った時には、すでに声が出なくなっていた。

気付けば、後ろの方でチャイムが鳴り、周りは下校中らしい生徒で溢れていた。
「実力試験、どうだった?」
隣にいた友人らしい男子が話しかけてくる。

「全然だめ。勉強しておけば良かったなぁ…」

この声は長月要だ。直人はすぐに気付いた。

「また来たのかよ!?」

覚悟が出来ていなかった直人は、呆然とする。

しかしまぁ、勝手に元に戻れるのならと考えると、昨日よりは気が楽だ。

⏰:10/03/22 22:28 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#40 [我輩は匿名である]
「あ!」

要と直人が声を上げたのは、同時だった。

視線の先には、制服姿で1人で歩く石川晶がいた。

「ちょっと知り合い見つけたから、先帰ってて」

「へ?あぁ…」

要は「ごめんな」と手を合わせて、走りだす。

「石川さん!」

要の声に、晶は振り向く。

要を見て、憂うつそうな顔がパッと明るくなる。

「長月くん!」

「今帰り?」

「うん、ちょっとブラブラしてから帰ろうかと思って」

⏰:10/03/22 22:29 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。

「そっかぁ。送って行こうか?」

「でも…、逆方向じゃない?」

「いいよ、今日何も予定ないし」

「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」

晶はにっこりと笑う。

昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。

「ここから何分ぐらい?」

「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」

「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」

⏰:10/03/22 22:36 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」

「電車で通ってるのか」

「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」

「散歩っていっても、何もないよな、この辺」

「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」

晶は苦笑する。

「本当に嫌いなんだな」

直人は話を聞いていて思った。

施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。

「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」

⏰:10/03/22 22:38 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」

「嫌い。大っ嫌い」

晶の表情が曇る。

「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」

「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」

「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」

⏰:10/03/22 22:39 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。

不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。

「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」

「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」

要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。

「長月くん、優しいね」

「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」

晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。

「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」

晶は淋しそうな表情で言う。

⏰:10/03/22 22:41 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」

要は答える。

「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。

それに、石川さんはひねくれてない」

「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。

要よりはひねくれているが、

これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。

「…ありがとう」

晶は少し下を向いて、要に礼を言った。

⏰:10/03/22 22:42 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」

直人は変に冷静になって、そんな事を考える。

この環境に慣れてきたらしい。

「あっ、晶ちゃーん」

後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。

要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。

「…誰?」

「来て!」

「へ!?」

晶は要の手を掴んで走りだした。

視界がガクガク揺れる。

⏰:10/03/22 22:43 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」

「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」

走っているからか、語尾が強い。

晶はそこまで言って、要に顔を向けた。

「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」

晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。

角を曲がって、2人は走るのを止めた。

膝に手をついて、呼吸を整える。

⏰:10/03/22 22:45 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」

「大丈夫…。…すごい走ったね…」

それだけ話して、しばらく会話はなかった。

疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。

視界はなかなか地面から切り替わらない。

2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。

そして、晶に向き直した。

「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」

「…え…?」

晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。

⏰:10/03/22 22:46 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」

何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。

晶もショックを隠せない。

「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」

要はそう、はっきりと断言する。

直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、

凛々しい顔をしているのだろう。

「…そんな…」

晶は顔を背ける。

⏰:10/03/22 22:47 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?

…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」

「…さぁ、わからない」

要は首を傾けて見せる。

「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。

…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」

要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。

「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」

話の途中で、晶が顔を背けた。

髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。

しかし、肩が震えているのだけはわかった。

⏰:10/03/22 22:48 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#51 [我輩は匿名である]
「…私…親にも見捨てられて…

施設でも馴染めなくて…ずっと1人ぼっちだった…。

中学でも友達って呼べる子はいなくて…」

要はずっと黙っている。

「誰かに『優しくしてもらった』と思った事がなくて…、

そんな事言われても…私っ…どうしたらいいのかわからないし…、

そんな子の傍にいても…長月くん、きっと疲れるよ…」

「…そんな事ないよ」

要がやっと、口を開く。

⏰:10/03/22 22:49 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#52 [我輩は匿名である]
「昨日と今日しか会ってないし、まだあんまり喋ってもないけど、

横にいて、楽しいと思えた。…今も」

晶は顔を背けたまま聞いている。

「だから友達は、石川さんだけでも、俺には十分だ」
それからしばらくの間、どちらも黙り込んだままだった。

「あーもううっとうしいなぁお前ら!

付き合うのか付き合わないのか、どっちかにしやがれ!

おい長月要!お前ももうちょっと粘れよ!

こいつ完璧にお前に気があるじゃねーか!」

直人にはどうしても耐えられないらしい。

⏰:10/03/22 22:51 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#53 [我輩は匿名である]
誰にも聞かれないからといって、大声で好き放題に騒いでいる。

「…もう帰ろう、冷えるよ。近くまで送るから」

要が晶に歩み寄り、そっと手で背中をさすった。

晶は何もいわずに頷く。

彼女の足元に、とても小さな染みが出来ている。

直人がそれに気付いた瞬間、視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 22:52 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#54 [我輩は匿名である]
「…えっ、今ので終わりかよ!」

直人は納得がいかず、飛び起きる。

せっかくいいムードだったのに。

その後あの2人がどうなったのが気になって、

直人は本を見つめる。

前回よりも、少し文章が増えている。

⏰:10/03/23 13:24 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#55 [我輩は匿名である]
4月11日 長月要が下校中、石川晶を見つけ、施設まで送る事になった。
その途中、石川晶と同じ施設に住んでいる彼女の同級生の
園田美代が彼らに声をかけた。
石川晶が長月要を連れて、彼女の目の届かない所まで移動。
「私だけの友達でいてほしい」という石川晶の言葉に、
長月要は「俺がいる事で悲しい顔をしなくていいのなら」と返事。
石川晶は静かに涙を流し、2人はそのまま養護施設へ向かった。

「…これで終わりかっ!」

何だか悔しくなって、直人は本を閉じてまた寝転んだ。

⏰:10/03/23 13:25 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#56 [我輩は匿名である]
どうしてここまで入れ込んできているのか、わからない。

しかし、あの2人には幸せになってほしい。

そう思った。

「直人ー!ご飯ー!」

ドアの向こうから母親の声がする。

「あーい」

直人は大きく返事をし、再び起き上がって部屋を出た。

⏰:10/03/23 13:25 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#57 [我輩は匿名である]
同じ頃、1人の女子生徒が、重い足取りで家路についていた。

直人達のクラスメイトの、あの金髪女である。

「おぅい、お嬢さん」

その声に、金髪女は足を止める。

「お嬢さん、本は読まんかなぁ?」

後ろから、しゃがれた男の声がした。

金髪女は黙って振り返る。

「…別に」

「ほぉう。まま、わしがやる本読んでみないか?」

見るからに怪しげな老人。

さすがに金髪女も不審だと思ったのだろう。

「いらない」と言って背を向けた。

それを見て、老人はニタッと笑う。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#58 [我輩は匿名である]
「人と付き合うのが怖い」

老人のその一言に、金髪女は再び足を止める。

「何でかわからんがぁ、人と接するのが怖い。君、そうだろうぅ?」

金髪女は何も言わずに振り向く。

そこには、青い本を差し出している小汚い老人がいた。

「この本読んだら、何で人と付き合えない理由、わかるかもねぇ」

金髪女は、話に食い付いたようにハッとする。

そして、ちょっと間考えた後、それを受け取った。

「…命は粗末にしない方がいいよぅ?お嬢さん」

「…は?」

金髪女は睨み付けたが、老人は構わずに背を向け、去っていった。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#59 [我輩は匿名である]
昨日はボーッとしていた直人が、

今日は朝っぱらから腕を組んで考え込んでいる。

薫はそれを見ながら、忙しい奴だな、と思った。

「(…ま、邪魔せずにいてやるか)」

朝礼が始まるまで、あと10分ある。

薫は暇つぶしに、あるところへ行ってみようと教室を出た。

この高校では屋上が解放されている。

転落防止のための高い柵が設置されており、

生徒でも入れるようになっているらしいのだ。

たまたまそんな話を耳にした薫は、

1度屋上に上ってみたいと思ったらしい。

⏰:10/03/23 13:28 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#60 [我輩は匿名である]
階段を上って、静かにドアを開ける。

同時に、春の暖かい空気が薫を包み込む。

「(…意外と人いないんだな)」

まだ朝だからか、誰もいないようだ。

ちょっとうれしく思いながら、薫は2、3歩進んでみる。

「こんにちは」

突然、女の声がした。

薫はびっくりして周囲を見回すが、誰もいない。

「ははっ。こっちこっち」

よく聞けば、上から聞こえるような気がする。

⏰:10/03/23 13:29 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#61 [我輩は匿名である]
薫はドアの屋根になっている所をを見上げる。

そこには、寝転がって肘をついてこっちを見る少女がいた。

薫のネクタイと同じ赤いリボンをしており、同級生のようだ。

薫を見てニコニコ笑っている少女を見て、薫は一瞬の間にいろんな事を思った。

「彼女には会ったことがある」

1番強く感じたのは、それだった。

少女もまた、黙って薫を見下ろしている。

まさか。薫は思った。

「…どこかで会った事ある?」

先にそう切り出したのは、少女の方だった。

⏰:10/03/23 13:30 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#62 [我輩は匿名である]
「…ない、はず。でも…俺もそんな気がする」

驚きながらも、薫は答える。

「あんた、名前は?」

「私?私は、カヅキ キョウコ」

少女の名前に、薫はハッと目を見開く。

「キョウコ!?昨日今日の“今日”に、子どもの“子”か!?」

少女もまたびっくりしつつ、「違うよ」と返事をした。

「“響く子”って書いて、“響子”。カヅキは“香る月”」

「…そ、そうか」

落ち着け。薫は自分に言い聞かせる。

「自分も名前が変わっているじゃないか」と。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#63 [我輩は匿名である]
「あなたは?」

香月響子が聞き返してくる。

「あぁ…俺は、月城薫。あんたの“月”に、…えー、

シンデレラ城の“城”に、骨董品の“薫”」

言いながら、もっと良い言い方はなかったのか。

「シンデレラ城」と言った後に、薫は自分に呆れた。

響子もそれを聞いて笑っている。

「可愛いね、シンデレラ城って」

「そ、それしか出て来なかったんだよ!」

恥ずかしくなって、薫は少し顔を赤くして言い返す。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#64 [我輩は匿名である]
「…月城くん、何組?」

「8組」

「遠いね。私4組」

「あー…遠いな」

もう少し近ければ…。薫は小さくため息をつく。

「なぁ、香月。いつも朝はここにいるか?」

「ん?うん、いるよ」

響子は頷く。

「月城くんも来る?」

「…そうしようかな」

薫は小さく笑って答える。

それを聞いて、響子もまた、嬉しそうに笑い返した。

⏰:10/03/23 13:32 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#65 [我輩は匿名である]
タイミングを見計らったかのように、学校中に予鈴が鳴り響く。

「あ。教室に帰らないと」

そう言うと、響子は後ろにある梯子を降りて、薫の横に来た。

「行くか」

「うん」

2人は一緒に歩きだしたが、1歩踏み出した所で響子が足を止めた。

振り返って見ると、響子は眉間にしわを寄せて、頭の側面を押さえている。

「どうした?大丈夫か?」

「うん…ちょっと、急に頭痛くなって。でも、大丈夫。行こ」

今度は先に響子が歩きだした。

薫は心配に思いながらも、彼女について階段を降りていった。

⏰:10/03/23 13:33 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#66 [我輩は匿名である]
直人はある事を考えていた。

一昨日、昨日と、1日に1度しか“あっち”に行けなかった。

1日に2回本を開けば、2日分進む事が出来るのだろうか、と。

その方が早く話を進められるのだが。

担任の話そっちのけで、直人はずーっと本の事を考えていた。

「おい」

すぐ横で薫の声がして、直人はやっと顔を上げた。

クラスメイト達がぞろぞろと教室を出て行っている。

⏰:10/03/23 13:33 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#67 [我輩は匿名である]
「次、生物室だろ」

「はっ!忘れてた!」

「早くしろ」

ちょっと苛立ったように薫に言われて、慌てて生物の用意をする。

そして、教科書とノートの間に、あの本を忍ばせて教室を飛び出した。

「まだ何か考えてんのか」

呆れたように薫が言う。

「んー…あの本の事で、ちょっとさ。

あれ、開いたら急に、昔の世界に飛ばされんだよ」

他の生徒に聞こえないように、直人は小声で言った。

言ってしまった。とも思った。

⏰:10/03/23 13:34 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#68 [我輩は匿名である]
「…昔の世界?」

薫は聞き返す。

「んー、しかも、知らない男の中から、そいつの目で見える物を見て、…見てるだけなんだけど」

どう言えばちゃんと伝わるのかわからず、

直人は「あー!」と、もどかしそうに頭をかく。

「落ち着け」

「なんつーかなぁ…、タイムスリップだよ、タイムスリップ。

そんな簡単なもんかわかんねえけど、とりあえず1977年に飛んじゃうわけ!」

「1977年…?」

「そう!1977年!」

⏰:10/03/23 13:35 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#69 [我輩は匿名である]
つい直人は声を大きくしてしまい、薫に「しーっ!」と注意されてしまった。

「おかしいだろ?何でそれで自殺とかに行き着くのか、意味わかんねぇんだよなぁ…」

「まぁなぁ…」

直人の話が何となくわかったのか、薫も首をひねる。

前方に「生物室」と札が出ているのが見える。

「まだ話終わってないのに」と、直人は舌打ちする。

「後で続き聞かせてくれよ。気になるから」

「当たり前だろ。こんな中途半端で終われるか」

2人はそんな事を言いながら、生物室に入ってそれぞれの席に着いた。

⏰:10/03/23 13:36 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#70 [我輩は匿名である]
先生に起立、礼をしてから、直人は本をスタンバイする。

今から開く気らしい。

教科書の適当なページとノートを広げ、

あの本だけは机のすぐ下に持って、誰にも見えないように隠す。

光った時に、大っぴらに光が漏れないようにするためだ。

同じ長机についている他のクラスメイトの様子を伺い、直人はゆっくり開く。

身体と机の僅かな隙間から光が漏れる…。

⏰:10/03/23 13:36 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#71 [我輩は匿名である]
目の前に広がっていたのは、木の木目のようなものだった。

なんだこれ。直人はつまらなそうに呟く。

「石川さん、昨日あんだけ泣いてたけど、大丈夫だったかなぁ…」

要が小さく独り言を言う。

視線が木目から窓に移る。
木目はどうやら、要の部屋の天井だったらしい。

細い三日月が見えた。もう夜のようだ。

「今度、行ってみようかな」

「どこに」

直人が思わず言った瞬間、周りが真っ暗になった。

⏰:10/03/23 13:37 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#72 [我輩は匿名である]
「もう終わりかよ!」

直人は大声で突っ込んで、その勢いで立ち上がる。

授業中だった事も忘れて。

クラスメイトが一斉にこっちを向く。

「…2回目の授業から爆睡とは、良い度胸だなぁ?水無月直人」

先生の顔が引きつっている。

クラスメイト達が笑いだす。

「…は…はは…。す、すいません…」

直人は無理やり笑って誤魔化して、静かに椅子に座った。

あの本は授業中に読むものではない。

直人はため息をついて、気付かれないように教科書の下に本を滑り込ませた。

⏰:10/03/23 13:37 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#73 [我輩は匿名である]
昼休みになってもまだ、薫は笑いをこらえていた。

生物が終わってからずっとこうだ。

直人もいい加減腹が立ってきた。

「お前、いい加減にしろよ」

「無理無理。お前の顔見る度に思い出して仕方ねぇよ」

この野郎…。殴りたくなってきた。

「で?今日のタイムスリップはどうだった?」

ナメようにニヤつきながら、薫は直人に尋ねる。

「どうもこうもねーよ!見てみろよこれ!!」

他の目を気にせずに騒ぎながら、本を開いて見せてみる。

⏰:10/03/23 13:38 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#74 [我輩は匿名である]
4月12日 今日は何もなかった。
長月要は昨日の石川晶の様子が心配らしく、
会いに行ってみようかと考えていた。


「こんだけだぜ!?」

「わかったから、もうちょっと静かに喋れ。

他の奴に気付かれたらめんどくさいだろ」

⏰:10/03/23 13:39 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#75 [我輩は匿名である]
確かにそうだ。

直人はちょっとムスッとして頷く。

「…この、長月要ってのは?」

「タイムスリップしたら、必ずこいつの身体の中に入り込む。

で、俺はそっから見てるだけで、何も出来ねぇんだよ。」

「ふぅん…」

薫は本を見つめながら、何かを考えている。

「何で長月要なんだろうな?」

ふと、薫が言った。

⏰:10/03/23 13:40 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#76 [我輩は匿名である]
「へ?」

「いやぁ…何で入り込むのが、その長月要って奴の身体なのかって」

「…あぁ…」

今まで考えた事はなかった。

「誰だ?」とか「何でタイムスリップ?」とか思った事はあっても、

何故その先がいつも彼の中なのか?

薫に言われて初めて疑問に思った。

「何だ、今まで考えた事なかったのか?」

「うん…。そうだな、何でいつもあいつの中なんだろ?」

直人は腕を組んで考える。

⏰:10/03/23 14:03 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#77 [我輩は匿名である]
「まぁ、とりあえず食べようぜ」

薫は話を変えて、机の上に弁当箱を出した。

直人も「そうだな」と、弁当箱を出す。

「ところで、お前委員会どうするんだ?」

「委員会?」

卵焼きを口に頬張りながら、直人は聞き返す。

「今日の6時間目のホームルームで、委員会決めるって、

今日先生言ってただろ」

「マジで…」

何せ今日の朝礼の時間は上の空だった直人は、

そんな話全く聞いていなかった。

⏰:10/03/23 14:04 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#78 [我輩は匿名である]
「か、薫は?」

「風紀委員」

「即答かよ」

確かに、規則等をきっちり守る薫にはぴったりだ。

「めんどくせぇなぁ…。俺は後半でいいや」

「言うと思った」

基本めんどくさがりな直人に、薫は笑った。

⏰:10/03/23 14:09 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#79 [我輩は匿名である]
家に帰って、直人はまた、自分の部屋で本と睨めっこしていた。

今日考えていた事。1日に何回タイムスリップできるのか。

それを実行する時がきた。

ベッドの上で、ふぅっと息をつく。

「…せぇの!!」

変に掛け声を出しながら、素早く本を開く。

・・・・・・。

何も起こらない。

「…ちぇっ、やっぱダメか」

ちょっとドキドキして損した。直人はふてくされたように寝転んだ。

⏰:10/03/23 14:15 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#80 [我輩は匿名である]
次の日。土曜日である今日、直人は朝からパソコンにへばりついていた。

すでに午前中に本を開いて、昨日と同様何もなかったことに落胆し、ネットで調べてみる事にしたのだ。

『都市伝説 本』で調べると、すぐに多くのサイトがヒットした。

中でも『都市伝説ネット』なるサイトがあり、直人はそれをクリックする。

そんな名前なのだから、きっといろんな情報が載っているに違いない。

「…ビンゴ」

縦に並べられた数多くの都市伝説の中に、『読むと死ぬ!?呪いの本』という項目があった。

内容を見てみると、直人が今まで、耳にたこができるほど聞いてきた噂話が最初に載せられていた。

その下には、情報交換をするための掲示板が用意されている。

直人は掲示板の入り口をクリックする。

⏰:10/03/23 14:27 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#81 [我輩は匿名である]
どうやらあの都市伝説は、直人達が住むこの町以外でもあるらしく、

イニシャルではあるがいろんな市の名前が書かれている。

「…ん?」

まず、直人はあるスレッド名を見て、マウスを動かす手を止める。

『例の本はいつの間にか消えるらしい』

何のことだ?直人はそのスレッドを開いた。

『A市で、本をもらったという少年が、2ヵ月後に行方不明になった。

 クラスメイトに、例の老人から本をもらったと少年は言いふらしていたそうだが、

 行方不明後、警察が男子の部屋を捜索した際、不審な本は見当たらなかったという』

これが本題だった。

⏰:10/03/23 14:33 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#82 [我輩は匿名である]
これに対し、『警察が見つけられなかっただけでは?』『本を持って行方をくらましたのでは?』など、

いろんな意見が載せられていたが、同じような話を聞いた、というレスの方が圧倒的に多い。

「…ふぅん…」

直人は掲示板に戻り、他の記事を探す。

そして、また違うスレッド名を見て、「あ…」と声を漏らした。

『本の中身は自分の前世?』

直人は信じられず、なかなか指を動かせない。

しかし、文の最後に『?』が付いている事から、

本当の話ではないかもしれないと自分に言い聞かせて、スレッドを開いた。

⏰:10/03/23 14:40 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#83 [我輩は匿名である]
『自分はあの老人に本をもらい、最後まで読みました。

 途中から、急に本の中の話に入れ込むようになり、

 最終的に、自分に起きている事だと感じられました。

 ある時、身体の持ち主の顔が、鏡で見えました。

 本当の世界の自分と、同じ顔をしていました。

 だから、もしかしてこの人は、僕の前世の事では、と思ったのです。

 僕の話はこれで終わりです。

 今から僕は、人を殺しに行きます。』

そう書かれていた。

決定的な事はないようだが、『自分と同じ顔』それが引っかかる。

長月要は、俺と同じ顔をしているのだろうか。

⏰:10/03/23 14:44 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#84 [我輩は匿名である]
そしてもう1つ。『今から僕は、人を殺しに行きます。』

よくこんな書き込みが、削除されずに残っているな。

そうも思ったが、直人は違う事を考えていた。

もしかしたら、本は自分を死に駆り立てるだけでなく、

人を狂わせることもできるのではないか、と。

もしそうであれば、自分はどうなってしまうのだろう…。

あの本の、本当の恐怖を知った気がした。

もしかして、薫が言っていた『死なない人もいる』とは、
こういう人の事だったのかもしれない。

「(薫は…ここを見てたのか…?)」

薫はオカルトには興味がないため、こんなサイトを見ているとは思えない。

ただ誰かに聞いただけかもしれない。

⏰:10/03/23 14:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#85 [我輩は匿名である]
しかし、直人には一昨日の、薫の怖い顔が忘れられずにいた。

「石川晶」と呟いた事も。

気のせいかと思おうとしても、どうしても思えないのだ。

「(…あいつ…やっぱり何か知ってるんじゃないか…?

 一昨日俺が悩んでた時も、本をもらったって話す前から分かってたみたいだったし…。

 それにあの時…薫は笑ってた…。いつもの感じじゃなくて…何か変だった)」

いつもの笑顔ではなかった、あの時の薫の顔。

直人はブンブンと、大きく頭を振る。

「(待て待て!今までずっと仲良くやって来たあいつだぞ!?

 隠し事なんか、1つもした事なかったじゃねーか!)」

「今までは」。直人は少しうつむく。

⏰:10/03/23 15:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#86 [我輩は匿名である]
もう何が何なのか、分からなくなってきた。

出きる事なら、あの老人に本を返したい、とさえ思った。

親友を疑うのは、初めてだったのだ。

それだけじゃない。自分は、本をもらった事を隠していた。たった1日でも。

直人は大きくため息をつく。

もう、本を読むのはやめよう。『いつの間にか消える』んだろう?

前世の事なんか、どうでもいい。俺には関係ない。

直人はパソコンの電源を切り、本を引き出しにしまいこんだ。

⏰:10/03/23 15:05 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#87 [我輩は匿名である]
本を引き出しに封印してから3日。

朝たまたまニュースが映っていた為、歯を磨きながらボーっと聞いていた。

そして、ぎょっとした。

少年が1歳年上の男性を刺し殺したという。そこまではよくあるニュースである。

しかし、直人が驚いたのは、その後の話だった。

その少年は、少し前に『都市伝説に関する掲示板に、殺人予告をしていた』というのだ。

この間の土曜日に見た、あの書き込みだ。

呆然として、歯ブラシを落としそうになる。

「そんな…」

あの書き込みは、本当だったのか。

直人はしばらく、テレビから目を離す事が出来なかった。

⏰:10/03/23 15:14 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#88 [我輩は匿名である]
テレビを見すぎて、遅刻ぎりぎりに学校に滑り込んだ直人は、教室に入ってすぐに薫を探す。

しかし、鞄はあるのに、姿が見当たらない。

「(どこ行ったんだよ…こんな時に…)」

トイレだろうか?そう思って教室を出る。

すると、薫がちょうど、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。

「(いた!…ん?)」

彼の隣に、見知らぬ女子生徒がいる。しかも、2人で楽しそうに話しているではないか。

もしや。直人は確信した。「彼女だ!!」と。

「(先越された…)」

ドアの影から、恨めしそうに薫に視線を送る。

それに気付いたのか、薫がこっちを向いて、顔を引きつらせる。

⏰:10/03/23 15:20 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#89 [我輩は匿名である]
「また明日」とドアの近くで言葉を交わし、女子生徒は自分のクラスへ歩いていった。

「よぉ。おはよ」

「よぉ。じゃない!!彼女か、彼女ができたんだな!」

「ちょっと待て、まだ彼女じゃない」

「まだって何だ!考えがいやらしいぞ、お前!!」

「どこがいやらしいんだ!?普通だろ!!」

「そのうち彼女にするつもりなんだろうが!!」

「約束したんだよ!!ずっと前に!!」

薫はそう言ってから、「しまった」というように口に手を当てる。

直人はそれを見逃さなかった。

⏰:10/03/23 15:25 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#90 [我輩は匿名である]
「…ずっと前って、いつだ?」

直人の問いに、薫は目をそらして黙り込む。

おかしい。これは絶対に何かある。直人は思った。

「…お前、本は読んでるか?」

「話変えんなよ」

「変わってねぇよ」

どう考えても変わっただろ。直人は言い返したかったが、我慢して飲み込んだ。

「やめたよ、読むの」

「やめた?」

「あぁ」

⏰:10/03/23 15:29 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#91 [我輩は匿名である]
直人は「もうめんどくさくなったから」と付け足した。

ポケットに手を入れて壁にもたれかかる直人を、薫はじっと見つめる。

「…じゃあ、お前にはわからないよ」

「…何が」

「さっきの、『約束』の意味」

「それが、本とどう関係あんだよ」

「まぁ、めんどくさがりなお前なら、読むのやめてもどうって事ないんだろうけど」

薫の遠まわしな言い方の連続に、直人のイライラは頂点に達した。

直人は薫の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。

周りにいた女子が、小さく悲鳴を上げる。

⏰:10/03/23 15:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#92 [我輩は匿名である]
「何するんだよてめぇ!!」

「さっきからスカした顔しやがって!調子こいてんじゃねぇぞ!!」

「おい!何してるんだ!!」

いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、担任の教師達がぞろぞろと廊下に来始めていた。

他の生徒達は慌てて教室に戻る。

直人たちの担任が、2人の間に割って入り、引き離す。

「何やってんだ!朝っぱらから!」

「…すいません」

2人は一応頭を下げ、教室に入った。

「(…何なんだよ…あいつ…!)」

席についても、直人の苛立ちはおさまらない。

ただ腕を組んで、窓の方をじっと見ていた。

⏰:10/03/23 15:45 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#93 [我輩は匿名である]
その日、2人はそれ以上口をきかなかった。

今週は放課後の掃除当番に当たっている直人は、憂うつな気持ちで机を運んでいた。

さっさと家に帰ろうと思い、誰とも喋らずに、ただひたすら。

そして、1番後ろの机を運び終わった時、足の上に1冊の本が落ちてきた。

「痛っ!何だよ…」

今日はツイてない。そう思いながら、足元の本を見下ろす。

そこには、直人が封印したあの赤い本とそっくりの青い本が、ぽつんと落ちていた。

「…これ…」

拾い上げてよく見てみる。著者も、タイトルも何も書かれていない本。

これは間違いなく、あの『呪いの本』だ。

⏰:10/03/23 15:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#94 [我輩は匿名である]
しかし、一体誰の…?

「(まさか、薫…?)」

しかし、薫の席は真ん中の列の前から2番目。ここは窓際の1番後ろ。

どう考えても、薫の机から落ちたものではない。

「…それ、返して」

後ろで声がした。

振り向くと、あの金髪女が不機嫌そうに立っている。

「…これ、お前の?」

「そう。だから返して」

この青い本は、金髪女の物だった。直人はぽかんとする。

⏰:10/03/23 15:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#95 [我輩は匿名である]
本を返さずに突っ立っている直人に、金髪女は無理やり本を奪い取る。

「…中、見た?」

「いや、見てないけど…」

「あっそ」

終始むすっとした表情で言って、金髪女は背を向ける。

「なぁ!」

直人は反射的に、金髪女の腕を掴む。

「…何」

金髪女が、迷惑そうに振り向く。

「ちょっと、話があるんだけど」

「…私に?」

「うん、お前に!」

⏰:10/03/23 16:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。

もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。

「水無月…」

他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。

同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。

「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」

金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。

恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。

ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。

そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。

⏰:10/03/23 16:08 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」

「うぁ!?びっくりした…」

直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。

「わ、悪かったな、何か。…ごめん」

とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。

「…それはいいから。何。あの本の事?」

「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」

直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。

トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。

「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」

「そうなんだ、俺も、それぐらい」

直人の言葉に、金髪女が反応した。

⏰:10/03/23 16:15 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」

「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」

「やめた…?何で」

「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」

情けないな、と、直人は自分で思った。

「怖い?」

「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、

 今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…

 あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」

⏰:10/03/23 16:18 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。

「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。

しばらくの間、沈黙が続いた。

「…私は」

沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。

「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」

「…はぁ」

「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。

 だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」

「…そんな…」

「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」

⏰:10/03/23 16:25 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。

直人は黙り込む。

「…あんたは、何で今まで本読んでたの」

「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」

直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。

「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」

「…なる」

「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」

「…そうだけど…」

「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」

そういう問題か。

⏰:10/03/23 16:30 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」

「変わってんのはお前だろ」

「お前じゃない。カンザキ アスカ」

「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」

「当たり前でしょ。ほら」

目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。

初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。

「…サンキュ、神崎」

「何が」

「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」

「あっそ。じゃ」

飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。

⏰:10/03/23 16:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、

あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。

飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。

「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」

直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。

そして、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/23 16:43 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。

「…久しぶりだな…この感覚」

直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。

公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。

しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。

「どこだ?これ」

そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。

「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」

直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。

⏰:10/03/23 16:51 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。

どうやら晶のようだ。

まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?

「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」

行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。

「こんにちはー」

すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。

要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。

「こいつ、何とか美代って奴!」

晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。

⏰:10/03/23 16:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」

要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。

「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」

「長月くん!!」

晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。

「ちょっと来て!!!」

「へ…」

要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。

美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。

⏰:10/03/23 17:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」

「いやぁ…」

本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。

「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。

 前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」

直人は分かりきったように断言する。

「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」

「…お?」

自分で言った事を、要も言った。

話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。

⏰:10/03/23 17:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。

「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」

「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」

「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」

晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。

「…照れるじゃん」

「やめろよ、照れるから」

直人と要は同時に言った。

「ハモった…」

「でも、元気なんだったら、良かった」

⏰:10/03/23 17:13 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」

「そっか。じゃあちょうど良かったかな」

「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」

晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。

その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。

「今のって…」

「ちょっと待ってて」

晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。

「…やっぱりあんただったの」

晶の声が曇る。

⏰:10/03/23 17:19 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」

直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。

来てみると、美代が後をつけてきていた。

「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」

「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」

「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」

美代は「お願い!」と手を合わせる。

「悪いけど」

要が口を開く。

「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」

要は意外にも、きっぱりとそう断った。

⏰:10/03/23 17:23 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」

「ちぇっ、つまんないの」

美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。

「2度と来んなよ」

直人は美代の背中を睨みつける。

「…これで大丈夫だろ」

「…うん…」

困り果てたように、晶は力なく返事した。

「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」

「…うん、わかった」

晶は笑って、大きく頷いた。

⏰:10/03/23 17:28 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#111 [我輩は匿名である]
「そうだ、あいつに会わなくて済むように、今度いつ会うか決めとこう。場所も」

少し考えてから、要はそう提案した。

晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。

いい考えだと、直人も頷く。

「うん、そうしよう!」

「よし、じゃあ…いつがいいかな?日曜日の方が、長い時間いれるよね」

「うん。じゃあ、次の日曜日にしよう!場所は…あ、初めて会った、あの場所がいい!」

晶は、自分がしゃがんでいた、あの場所を言っていた。

あそこなら、美代も知らないだろう。

「わかった。昼からでいいかな?」

「うん。ご飯食べてから」

⏰:10/03/23 17:35 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ、2時ごろ、2時ぴったりにしよう」

「うん!」

晶は楽しそうに、笑って大きく頷く。

待ち合わせなど、した事がないのかもしれない。

まるでデートの待ち合わせをしているような2人。

それを見ていて、直人も何だか嬉しくなってきた。

「じゃあ、次の日曜日の2時に、あの場所で」

「うん!絶対だよ!」

「うん」

要が頷くのを見てから、晶は手を振りながら帰っていった。

晶が見えなくなってから、直人の視界も暗くなった。

⏰:10/03/23 17:39 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#113 [我輩は匿名である]
次の日曜日、つまり4月21日。2人が初めてデートする日。

「(…この日は、忘れずに読まないとな)」

直人は40年前の今日の話に一通り目を通す。

やはり、読んでいない日の事は書かれていなかった。

「(毎日ちゃんと読めって事か)」

直人は少し反省する。

ただ、話が急激に変わっていない事にはホッとした。

『自分に起きている事のように感じられる』

ネットで見たあの一言が、ふと頭の中をよぎった。

少しだけ、今の自分がそうなりつつある気がした。

⏰:10/03/23 17:53 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#114 [我輩は匿名である]
要と晶の間を見守るのもいいが、直人はもう1つ肝心な事を思い出した。

「(…薫に謝ったほうがいいかなぁ…)」

直人は考えながら、携帯電話を開く。

しかし、誰からもメールはない。

「(…いや、意外と明日はいつも通りかもしれないな)」

直人はそんな変な期待を抱き、携帯電話を閉じた。

⏰:10/03/23 17:57 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#115 [我輩は匿名である]
しかし、それはどうやら甘かったようだ。

朝少し早めに学校に着いたが、すでに薫は鞄だけを残し、教室内にはいなかった。

「はぁ…」

机に座って、何て謝ろうか考える。

すると。

「ねぇねぇ、水無月くん」

隣の席の女子が話しかけてきた。大橋怜奈。そんな名前だった気がする。

「…何か用…?」

「水無月くんって、月城くんと仲良いよね?」

こんな時に。お前は嫌味を言いたいのか。直人はその気持ちを抑えて「まぁ」とだけ返事をする。

⏰:10/03/23 18:02 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#116 [我輩は匿名である]
「月城くんって、彼女いるの?」

何だこの女。直人は答えず、「何で?」と聞き返す。

「なんか、友達が月城くんの事好きらしくて」

「(…モテるんだな、あいつ)」

直人は若干ショックを受けつつ、「いないんじゃない?」と適当に返事をする。

「ふぅん、そっか」

「あ!」

昨日薫が女を連れていたのを、今思い出した。

しかし、すでに怜奈は席を離れ、教室を出てしまっていた。

「あぁ〜やっちまった…」

直人は頭を抱えて、机に突っ伏した。

⏰:10/03/23 18:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#117 [我輩は匿名である]
その頃、薫は屋上で響子と一緒に話をしていた。

「あらぁ、喧嘩しちゃったんだ」

「まぁな。昔からよく喧嘩はしてたけど、昨日は珍しく、両方本気だったな」

「2人とも怪我しなかった?」

「あぁ、俺が壁に頭ぶつけたぐらいで」

「えっ!?ダメじゃん!!大丈夫!?」

響子はびっくりしながら大声を出す。

「大丈夫だよ。ちょっとたんこぶ出来てたみたいだけど、治ったみたい」

「そう…。気をつけないとダメだよ」

「…うん」

薫はフッと、小さく笑う。

⏰:10/03/23 18:12 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#118 [我輩は匿名である]
「…なぁ、香月」

「ん?」

「…“霜月優也”って名前に心当たりないか?」

薫は真剣な表情で、響子に尋ねる。

その真剣さに、響子も本気で頭をひねってみるが、どうやらないようだ。

「…知らない、と思う」

「…そうか」

薫は残念そうにため息をついた。

「その人がどうかしたの?」

「…いや、何でもない」

「何それ!?気になるじゃない!!」

「いいよ、忘れて」

「無理!!」

⏰:10/03/23 18:16 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#119 [我輩は匿名である]
響子が問う正そうと必死になっていると、チャイムが鳴った。

「あ、チャイム。かーえろ」

薫はさっさと、逃げるように歩き出す。

「あっ、ちょっと待ってよ!」

響子も慌てて走り出す。

しかし、一昨日よりも少し強い頭痛が、響子を襲った。

「痛っ…!」

響子は頭を抑えてしゃがみこむ。

その声に気付き、薫が急いで駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」

「う…うん…。大丈夫…一瞬だけだったから」

⏰:10/03/23 18:21 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#120 [我輩は匿名である]
響子は弱々しく笑って、顔を上げる。

しかし、薫の心配は晴れない。

「…保健室行くか?」

「いいよ、そこまでしなくても、もう治ったから。…ごめんね、心配かけて」

響子は「行こ」と、歩き出す。

その背中を、薫は止まったまま見つめる。

「…俺に謝るな、…今日子」

薫の独り言が聞こえたのか、響子が振り向く。

「何か言った?」

「……いや、何にも言ってないよ」

薫はそう言って、響子と並んで屋上を後にした。

⏰:10/03/23 18:27 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#121 [我輩は匿名である]
「悪かった!!!」

昼休みになるやいなや、直人は薫の元に謝りに行った。

急に手を合わせて謝ってきたため、薫はきょとんとする。

「…そのぉ〜、昨日は俺ちょっとイライラしてて、おまけに女連れてるし、何かモテるみたいだし?

なんか余計に腹立ってきて、っていうか今もあんまりスッキリしてないけど」

「謝る気あるのか?お前」

謝っているのか皮肉っているのかわからない直人に、薫も言い返す。

「っていうか、『モテるみたい』ってどこ情報?」

「俺情報」

「はぁ?」

⏰:10/03/23 18:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#122 [我輩は匿名である]
「いや、あの…今日の朝、大橋に『友達が月城くんの事好きらしいんだけど、彼女いるのかなぁ?』って聞かれたから…」

ちょっと困った顔で話し始めた直人に、薫は眉をひそめる。

「で、お前、何て言ったんだ?」

「い…いないんじゃねーの…って、言いました」

謝るように頭を垂れて、直人は答えた。

薫は呆れ笑いしながらため息をつく。

「…まぁ、いないのは事実だしな」

「『今は』だろ?」

直人もおちょくるように言い返す。

「つーか、あの子誰?」

「4組の香月 響子」

⏰:10/03/23 18:42 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#123 [我輩は匿名である]
「いつから仲良くなっちゃったわけ?」

「直人が本をもらった次の次の日」

「何でまた」

「屋上に行ったらいたんだよ。それで」

「屋上?何で屋上なんか」

「何となく、行ってみたかったんだよ」

直人のまるで尋問のような問いかけに、薫は1つ1つ短く答えていく。

「俺からも聞くけどさぁ」

「何?」

今度は薫が、弁当箱を開けながら尋ねる。

「大橋って誰?」

「…お前、それはちょっとひどいだろ」

⏰:10/03/23 18:47 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#124 [我輩は匿名である]
直人はちょっと呆れ返る。

「あいつ。1番こっち向いてる奴」

気付かれないように、直人は女子の1グループを指をさす。

こっそり目をやって、薫は「あぁ」と思い出すように声を漏らした。

「知ってただろ?」

「風紀委員同じだった」

「…それ余計にひどくないか?」

「他の女に興味ないの」

薫のその一言に、直人はあんぐりする。

「調子に乗るなよお前…」

「何だ?またやんのか?次は手ぇ抜かねぇぞ」

真顔で2人はにらみ合う。

が、今度は流石におかしかったのか、2人とも笑い出した。

⏰:10/03/23 18:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#125 [我輩は匿名である]
「あーあ、喧嘩なんかするもんじゃないな」

「ホント、つまんねぇ喧嘩だったなぁ」

2人は息をつきながら弁当箱をつつく。

「…ところで、どうしても聞きたい事があるんだけど」

改まって、直人が口を開く。

もうわかっていたのか、薫も堪忍したように笑う。

「『俺が本を持っているのか』、か?」

「うーん、まぁ、そうかな。それが1番聞きたいのかも」

たくさん聞きたい事があったのに、今はそれしか出てこなかった。

しばらく考え、薫は答える。

「あぁ、持ってる」

⏰:10/03/23 18:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#126 [我輩は匿名である]
「…やっぱりそうか」

「内容はまだ言えないけど、直人よりもずっと前にな」

「いつ?」

「中1の時」

「そんな早くから?」

「あぁ。読み終えるのに2年半かかった」

「そんなに…?」

全然知らなかった。ポーカーフェイスもいいところだ。

「死にたくならなかったのか?」

「いや、全然。元々俺には『目的』があったから」

⏰:10/03/23 19:01 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#127 [我輩は匿名である]
目的。直人は聞きたかったが、これはきっと答えないだろう。なぜかそんな気がした。

「その代わり」

薫が続ける。「初めて人を『殺してやりたい』と思った」

直人はドキッとした。

「なっ、何言い出すんだよ…!?」

「この間まで、ずっと考えてた。『あの女は今、どんな姿をしているのか』ってな」

「女なのか…?」

「あぁ。…でも、そんな事考えてる場合じゃないんだよな、俺」

その言葉の意味が、分からなかった。

聞きたかったが、どうしても聞けない。

薫の表情が、悲しそうに見えた。

⏰:10/03/23 19:06 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#128 [我輩は匿名である]
「…そっか、…悪かったな、いろいろ聞いて」

まだまだ話を聞きたい自分を抑えて、直人は話を終わらせた。

「何だよ、もういいのか?」

「あぁ、またぼちぼち聞いてくよ」

直人はいつも通り笑ってみせる。

「…本、読み続けるのか?」

薫がふと、そんな事を聞いてきた。

「…あぁ、実は一昨日まで怖くて読みたくなくなってたんだけど、読み始めたからには全部読もうと思ってる」

「…そうか」

薫はそれだけ言って、もう何も聞いては来なかった。

⏰:10/03/23 19:11 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#129 [我輩は匿名である]
直人はその日から毎日欠かさず本を読んだが、

特に大きな変化はなく過ぎていった。

薫の様子が気になったが、本人が本について何も語らないため、

直人も無理に聞く事は避けていた。

「…よし」

日曜日、直人は朝からジャージ姿で本を構えていた。

変化がない日々におさらばだ。

直人は鼻からふうっと深く息を吐き、

心を落ち着かせてから、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#130 [我輩は匿名である]
要はすでに、あの場所に着いていた。

デートは初めてなのか、そわそわしている。

「そんなにウロウロしないで、落ち着けよ」

直人はそう言いつつも、自分も少しドキドキしている。

美代がついて来ていないかが不安なところだが。

「…あ」

要が声を漏らす。

晶が走ってきている。

念のため後ろを確認するが、誰もついて来ていないようだ。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#131 [我輩は匿名である]
「お待たせ」

「時間ちょうどだな。どうする?喫茶店でも行こうか」

「うん」

喫茶店。カフェじゃなくてか。直人は時代の変化をふと感じる。

「紅茶が美味しい所があるって聞いたんだ。行ってみよう」

「そうなんだ。私、紅茶大好きだよ」

「そりゃ良かった。…あの子はついて来てないよな?」

「大丈夫。見つからないように出て来たから」

「施設の人にも言ってきた?」

「昨日から言ってた」

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#132 [我輩は匿名である]
「万全だな」

直人と要は同時に言う。

晶はフフンと、誇らしげに笑っている。

「楽しみにしてたんだもん、邪魔されたくないもんね」

「うん。今日はいっぱいいろんな話をしよう」

「うん!」

晶は笑顔で大きく頷く。

「…ねぇ」

「ん?」

「…長月くんって、何かよそよそしいから…呼び方変えてもいい?」

晶はおずおずと申し出る。

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#133 [我輩は匿名である]
「いいねぇ、こういうの」

直人は2人が恋人同士に見えて仕方がない。

「本当だな。俺も何か考えていい?」

「うん、喫茶店に着くまでに決めよ」

晶にそう言われて、直人も一緒に考える。

「…やっぱ、呼び捨てかなぁ…でも、要なら“晶ちゃん”とか呼びそうだな」

「…要くん」

「…じゃあ、晶ちゃん」

やっぱりな。直人は予想通りの展開にちょっと笑う。

⏰:10/03/24 10:48 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#134 [我輩は匿名である]
また、2人もちょっと恥ずかしそうに笑い合う。

「なんか、友達って感じになったな」

「うん。…嬉しい」

晶は少し頬を赤くして小さく笑う。

「…可愛いな。最初は危なそうな奴だと思ってたけど、普通の女の子じゃん」

「友達って、俺が初めてなんだっけ」

「うん」

「何か嬉しいな。1番乗りだもんな」

「ははっ。喜んでもらえて私も嬉しい」

そんな、聞いている方が照れるようなやりとりをしているうちに、要の言っていた喫茶店に到着した。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#135 [我輩は匿名である]
焦げ茶色のレンガで建てられた、ちょっと洋風の喫茶店。

中には多くの客が入っていたが、運良くまだ席が空いている。

店員に席へ案内され、2人は向かい合って座る。

「何頼む?」

「ミルクティーがいい」

「…それだけ?」

「私、あんまりお金持ってなくて」

「ちょっとぐらいなら、出せるよ」

要は若干不安そうながらも、ちょっとちょっと強めに言い張った。

おお、男前。直人は感心する。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#136 [我輩は匿名である]
「えっ、いいよいいよ。ミルクティーだけで十分」

「でも…」

「さっきお昼食べたばっかりだし、本当に大丈夫」

「そう?まぁ何か食べたくなったら言ってね」

「うん、ありがとう」

「…俺、ちょっとトイレ行って来る。もし注目聞かれたら俺もミルクティー頼んどいてもらっていい?」

「うん、わかった」

要は「ごめんな」と言って、トイレに席を立つ。

⏰:10/03/24 10:50 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#137 [我輩は匿名である]
「…ん?トイレ?」

直人はハッとする。

トイレには鏡がある。と言う事は、要の顔が映る。

『本当の世界の自分と同じ顔』

ネットでの書き込みを思い出した。

「えっ?ちょっと待てよ、俺そんな、まだ覚悟できてねーって!」

「はぁ…緊張してきた…」

直人が喚いている間に、要は息を深く吐きながらトイレに入ってしまっていた。

「ダメだダメだ!しっかりしろっ!」

要は目を閉じて、パチパチと両手で頬をたたく。

そして、鏡の前で目を開いた。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#138 [我輩は匿名である]
「…!?」

直人は息を呑んだ。

やはりあの書き込みは本当だった。

どちらかというと釣り上がった感じの目に、筋の通った鼻。

そして何より、左頬の下の方にあるほくろ。

その全てが、直人と全く同じだ。

髪型は違っても、顔は直人そのものだった。

要が何か独り言を言っているが、全く耳に入ってこない。

あの書き込みが本当だということは、やはり長月要は…。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#139 [我輩は匿名である]
いや、待てよ。直人は精一杯考える。

今は1977年。あっちは2017年。今要は16歳で1961年生まれ。

俺も16歳で、2001年生まれである。

2001-1977=24
24+16=40

つまり、要の寿命は40歳?早死に?

と言うことは、あと24年分も読み続けなければならないのか?

その前に、俺は何でこんな計算をしてるんだ?

あーもうわけがわからない!

でも、顔がここまでそっくりだと、他人とも思えない。

しかし、母親姓は北里だったはずだ。

⏰:10/03/24 10:53 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#140 [我輩は匿名である]
つまり、ご先祖様ではない。

薫か誰かに聞いてみるべきか?

いや、でも聞いてばっかりじゃなく、自分で暴いてみたい気もする。

でも、今はそんな事考えている場合でもない。

せっかくのデートなのに、こんな事は帰ってから考えろ!

しかし、頭がボーッとしてそんな気にもなれない。

自分の体なら、頭をぐちゃぐちゃに掻き乱しているところだ。

⏰:10/03/24 10:57 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#141 [我輩は匿名である]
>>0-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400

⏰:10/03/24 10:59 📱:W52SH 🆔:8y8n9HLE


#142 [我輩は匿名である]
「あーダメだダメだ!集中しろ、俺!

…とりあえず、あの2人はどうなったんだ…?」

直人は考えるのを無理に止めて、集中する。

目の前では、晶が笑っている。

考えて込んでいる間に、だいぶ時間が経っていたようだ。

何の話なのかわからないが、2人は楽しそうだ。

「だったら、結構楽しいんじゃない?学校」

「まぁ…ね。でも、やっぱり要くんといる時が1番楽しいよ」

「晶ちゃん…」

⏰:10/03/24 10:59 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#143 [我輩は匿名である]
「私には、…要くんだけだから」

晶はそう言って、ミルクティーのカップに口をつける。

「…俺なんかでいいのか?俺、弱虫だし…頭も良くないし、

何にも役に立たないと思う」

「そんな事関係ないよ」

晶はそっと、要に笑いかける。

「弱虫でも、頭が良くなくてもいい。私は…今の要くんが好き」

晶の突然の告白。

要も直人も、信じられずにぽかんとする。

⏰:10/03/24 11:00 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#144 [我輩は匿名である]
>>141さん

すみません、ありがとうございます

⏰:10/03/24 11:01 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#145 [我輩は匿名である]
「あ…はは、ごめんね、急に変な事言って」

晶は冗談っぽく笑って、何気なく店内の時計に目をやる。

直人の気付かない間に結構話していたらしく、

もう時計の針が4時を回っていた。

「…ここから帰ったら、何分くらいかかるかな?」

「えっ…うーん、30分か、40分くらいかな?どうかした?」

「5時には帰って来いって言われてたの、忘れてた」

「え!?じゃあそろそろ行かないと」

「うん、ごめんね。早く言っとけば良かったね」

⏰:10/03/24 11:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#146 [我輩は匿名である]
「ううん。じゃあ行こっか」

伝票を手に、要が先にレジへ向かう。

晶は慌てて鞄を持って後を追う。

「待って、財布が…」

「いいよ、俺出すから」

「え、でも…」

晶が財布を探している間に、会計は終わってしまった。

要は「行くよ」と言って喫茶店を出る。

⏰:10/03/24 11:03 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#147 [我輩は匿名である]
晶が何か言いたそうだが、要はなぜか晶の顔を見ないで、黙って歩いている。

「…さっきの告白で、困ってるんだな」

直人はぼそっと呟く。

結構大口をたたいてきたが、自分が彼の立場に立ったら、

きっと同じように、すぐには返事出来ないんだろうな、と。

待ち合わせ場所に戻るまで、2人は何も話さなかった。

今までの直人なら、気まず過ぎてあーしろこーしろと騒ぐところだが、

そんな気にもなれない。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#148 [我輩は匿名である]
30分程の間黙って歩くと、あの場所に着いてしまった。

「着いちゃったね」

「うん」

到着してやっと、2人は言葉を交わす。

「今日はありがとう。楽しかった」

「…うん、俺も」

「…じゃあね」

晶は元気なく笑い返して、要に背中を向け、歩きだす。

「…このままで良いのかよ」

心の底からモヤモヤして、直人は要に言う。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#149 [我輩は匿名である]
要もまた、悩んでいるように両手を握りしめていた。

しかし、その間にも晶はどんどん離れていく。

直人はもう、我慢できなくなった。

「待てよ!!」

「待って!!」

直人と要が叫んだのは、同時だった。

晶が驚いたように振り向く。

「さっき、急に『好きだ』って言われて…

俺、びっくりして…信じられなくて、何にも言えなかったんだ」

要の声が少し震えている。

⏰:10/03/24 11:05 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#150 [我輩は匿名である]
晶は体ごとこちらに向き直る。

「でも俺…っ、俺も…」

要はなかなか言いだせない。

直人はある事気付いた。

これが本当なら…。

直人もちょっとドキドキしながら叫ぶ。

「俺も、晶ちゃんが好きだ!」

それは、要の声となって晶に伝えられた。

やっぱり。直人は思った。

⏰:10/03/24 11:06 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#151 [我輩は匿名である]
「要くん…」

「俺、来週も待ってるよ!今日と同じ時間、ここで待ってるから!

今日は緊張して上手く喋れなかったけど、今度はもっといっぱい話そう!」

要は勢いが出てきたのか、言いたい事を言い切った。

晶も安心したように笑顔を見せる。

「うん!じゃあまた来週会おうね!」

そう言って、晶は大きく手を振る。

要も同じように振り返す。

そして、晶が帰っていくまで、ずっとそこでたたずんでいた。

⏰:10/03/24 11:07 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#152 [我輩は匿名である]
直人はじっと本を見つめながら、さっきの事を考えていた。

「…あいつが困って、そん時に俺が叫んだら、あいつも同じように叫ぶのか?」

晶を呼び止める時。晶に気持ちを伝える時。

直人が叫ぶと同時に、要も同じように叫ぶ。

若干の口調の違いもあるが、ほぼ変わらない。

直人は複雑な気持ちで本を閉じ、部屋を出る。

一気にいろんな事がなだれ込んできた1日だった。

⏰:10/03/24 11:08 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#153 [我輩は匿名である]
その気持ちは、月曜になっても晴れなかった。

直人は浮かない顔で学校への道を歩く。

うっとうしい事に、今日は雨。

「水無月くん」

誰かが話し掛けてきた。

どっかで聞いた声だな。

そう思って振り向くと、見た事がある女子がすぐ後ろに走ってきていた。

「おはよう」

「…えー…」

名前が出て来ない。

⏰:10/03/24 11:09 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#154 [我輩は匿名である]
「…ごめん、誰だっけ」

「大橋よ!

お!お!は!し!れ!な!」

「朝からうるせぇよ…」

耳元で大声で名乗られて、直人は煩わしそうに顔を背ける。

「水無月くん、嘘ついたでしょ」

「何の話?」

「あれ」

怜奈は前方を指さす。

彼らの20メートル程先を、薫と響子が一緒に歩いている。

⏰:10/03/24 11:10 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#155 [我輩は匿名である]
「(あらー…)」

「あの人、彼女でしょ」

ずけずけ聞いてくる怜奈を、直人は迷惑そうに見下ろす。

「何でそこまで聞くんだよ?お前、探偵?」

「探偵だったらもっと上手くやるわよ。

友達が好きみたいって、この間言ったでしょ?」

「友達思いなんだねぇ」

適当に返事をしながら、直人もちょっと気になって、前の2人の様子を伺う。

⏰:10/03/24 11:53 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#156 [我輩は匿名である]
「今日は眼鏡なんだね」

見られているとも知らずに、響子は薫に言う。

「雨の日は視力落ちるからな」

薫は珍しく、茶色いフレームの眼鏡をかけていた。

「目悪いの?」

「そこまで悪くないよ。0.8ぐらい。だからあんまり度も入ってない」

薫はそう言って、響子に眼鏡を貸す。

⏰:10/03/24 19:01 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#157 [我輩は匿名である]
響子は試しにそれをかけてみるが、合わないのか、すぐに薫に返した。

「きつい!」

「ははっ。香月は目良いんだな」

「1.2あるからね」

「へぇ、やるじゃん」

薫は眼鏡をかけ直しながら感心する。

⏰:10/03/24 19:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#158 [我輩は匿名である]
「…何かわかんねーけど、いちゃついてるみたいだな」

朝っぱらから見せ付けてくれる。

直人は呆れたようにあくびをする。

「…ふぅん…」

怜奈は何か考えるように、冷めた目で2人を見ている。

直人はそれに気付かなかった。

⏰:10/03/24 19:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#159 [我輩は匿名である]
「いつも一緒に来てんのか?」

直人の思いがけない問いに、焼きそばパンにかじりついたまま、薫は目を丸くする。

「はぎ?ほふげん(何?突然)」

「未来の彼女。今日一緒に来てただろ?」

「…はんげひっけんは?(何で知ってんだ?)」

「…何言ってるかは大体わかるけど、とりあえず飲み込んでから喋れ」

直人に言われて、薫は口に入っている分のパンを、適当に噛み砕いて飲み込む。

詰まりそうになったのか、その上から更にペットボトルのお茶を流し込む。

⏰:10/03/24 19:05 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#160 [我輩は匿名である]
「今日はたまたま、見つけたから一緒に来ただけ。大体何で知ってんだよ?」

「今日、俺達ちょっと後ろ歩いてたから」

「ちょっと待て、俺“達”って誰だ」

「大橋怜奈。何か横にいたから」

あいつか。薫も朝の直人同様、めんどくさそうな顔をする。

「…うっとうしいな…。お前は相手にしてねぇよ…」

「お前を好きなの、あいつの友達だぞ?」

直人は間違いを正すように言い直す。

「…どうだかな…」

薫は何か考えながら、ペットボトルを片手に、じっと怜奈を見ていた。

⏰:10/03/24 19:06 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#161 [我輩は匿名である]
「今日は何もなしか」

本を閉じて、直人はため息をつき、

いつものようにベッドに寝転び、窓から満月を見上げる。

また次の日曜日までお預けかな。

「(気になるのになぁ…)」

晶は今ごろ、どうしているのだろう。

また美代に手を焼いていないだろうか。

ボーッと考えた後、直人はハッとした。

「俺、何深く考えてんだ…?」

まるで要じゃないか。

直人は机に肘をつき、頭を抱えた。

⏰:10/03/24 23:45 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#162 [我輩は匿名である]
おもしろいです
続き待ってます

⏰:10/03/26 16:31 📱:W61SA 🆔:my01452g


#163 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-160

⏰:10/03/28 00:17 📱:W53H 🆔:TqXP9qoY


#164 [我輩は匿名である]
>>161さん

読んでいただいてありがとうございます
でかけていて更新出来ませんでした
ちょっとずつ進めますね

>>162さん
見やすくしていただいて、ありがとうございます

⏰:10/03/28 14:54 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#165 [我輩は匿名である]
すみません、レスがずれました

上は>>162さんへ、163さんへ、です

⏰:10/03/28 14:57 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#166 [我輩は匿名である]
夢中でいっきに読みました!面白いです応援しています

⏰:10/03/28 17:04 📱:L01A 🆔:HX1T/pzw


#167 [我輩は匿名である]
なんかレスするごとに大変な事に…(´Д`)

>>166さん
長いのに一気に読んでいただいてありがとうございます
頑張るので、ぼちぼち読んで下さい

⏰:10/03/28 20:15 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#168 [我輩は匿名である]
一方、薫はベッドの上で、何かを深く考えているような顔で寝転がっていた。

不意に、枕元に置いていた携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、響子から電話がかかってきている。

「もしもし」

「あ、月城くん?ごめんね、いきなり電話しちゃって。今…時間大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。…どうかした?」

「うん…」

響子は少し悩んでいるようだった。

その声を聞いて、薫も不安を抱く。

⏰:10/03/28 20:17 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#169 [我輩は匿名である]
「この間、私に『霜月優也って聞いたことないか』って聞いたでしょ?」

「…あぁ、聞いた」

薫の表情が変わる。

「…何か知ってるのか?」

「…気のせいだと思ってたんだけどね」

響子が話しだす。

「この間から私、たまに頭痛くなるでしょ?その頭痛くなった日に、寝ると必ず夢を見るようになって…」

「どんな夢?」

響子が少し言葉を区切ったのを感じ、薫が尋ねる。

⏰:10/03/28 20:18 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#170 [我輩は匿名である]
「…1番最初は、私がどこかで洗濯物を干してたら、誰かが手伝ってくれた。…たったそれだけ。

そして次は、病院のような所でもう1回会って、名前を教えてもらうの。

その時教えてもらった名前が、“霜月優也”だった。名刺に書いてあったから、間違いないと思う。

そして、今日昼寝してたらまた見たの。今日は、私とその人が食事に行ってた。

その人が誘ってくれたんだと思う。…今まで見たのは、そこまで」

薫はまた「そうか」とだけ返事をした。

“そこまで”という事は、その続きがある事をわかっているのかもしれない。

そう思った。

⏰:10/03/29 11:40 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#171 [我輩は匿名である]
「でもね、1つだけ、変なのよ」

響子が補足する。

「何が?」

「その人の顔だけ、どうしても思い出せないんだ」

その言葉に、薫は眉をひそめる。

「…全くか?」

「…うん、全然。それに、私の名前も、香月響子じゃなかった。…何だったかな…」

「…長谷部 今日子」

薫は静かに呟く。

響子もそれを聞き逃さなかった。

⏰:10/03/29 11:41 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#172 [我輩は匿名である]
「…そう、そんな名前だった」

「…やっぱりそうか」

薫はそれだけ言ってしばらく黙り込んだ。

「(…やっぱり…今日子だったんだな…)」

両方の目尻から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「…月城くん?」

響子の声を聞いて、薫は肘でゴシゴシと涙を吹く。

「ん?」

「月城くん…何か知ってるよね?…私の夢の事とか」

響子に聞かれて、薫はしばらく考えてから「あぁ、知ってる」と答えた。

⏰:10/03/29 11:50 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#173 [我輩は匿名である]
「…教えて。あの夢は一体何?“私”はどうなるの?」

響子は薫に尋ねる。

彼女も気になっているのだろう。

薫はしばらく考え込む。

そして答えた。

「…教える事は出来ない」と。

「俺の口から教えれる事は、俺が知ってる事だけだ。

長谷部今日子が見た事、耳にした事、感じた事…それは夢を辿っていくしか知る事が出来ない。

…だから、本当に全てを知りたいなら、俺から話すべきではないと思う」

⏰:10/03/29 14:26 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#174 [我輩は匿名である]
言い終わってから、薫は呆れたように笑う。

薫は本当は、全て話したくてしかたがなかった。

自分が霜月優也だという事、霜月優也と長谷部今日子は夫婦だった事…他にもたくさんある。

全て話せば、どれだけ気が楽になるだろう。

それだけじゃない。
自分の口から話せば、自分の事を良く言う事も出来るのに。

自分のばか正直さにため息が出る。

「…そっか」

響子は少しがっかりしたように言った。

⏰:10/03/29 14:27 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#175 [我輩は匿名である]
「…悪い。でも、その方がきっと、香月のためになる。…俺や霜月優也、長谷部今日子のためにも」

「…そう。…なら、私が自分で進めなきゃダメだね」

「ごめん。…ただ、最後にはかなり辛い事が待ってると思う。俺はそうだった。

だから、最後までたどり着く自信がなければ、それ以上は止めた方が良い」

薫の話に、響子は小さく笑う。

「…進まないと、みんなの為にならないでしょ?」

「自分の為にならない事もある」

「大丈夫。どうにかなるよ」

響子は明るく言った。

⏰:10/03/29 14:27 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#176 [我輩は匿名である]
薫も少し笑う。昔とちっとも変わらないな、と。

「ごめんね、いろいろ聞いちゃって」

「いや。…ほとんど役には立たなかったと思うけど」

「そんな事ないよ、…ありがとう。じゃあ、また明日ね」

「あぁ、おやすみ」

薫は静かに携帯電話を閉じる。

スッキリしたような、モヤモヤしたような複雑な気分で、薫はその夜、なかなか眠れなかった。

⏰:10/03/29 14:43 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#177 [我輩は匿名である]
「はぁー…」

掃除当番である薫を待つ間、直人は階段に座って大きく伸びをしていた。

もう金曜日だが、どうやら日曜日にならないと本の話は進まないらしい。

「(つまんねぇなぁ…平日はどうでもいい学校の話だけだもんなぁ…。

学校より、晶との話が進むのかどうかが重要なんだよ。

要の学校話なんか…)」

そんな事を考えていたら、目の前をあの金髪女が通りかかった。

「あっ、おい!金髪女!」

呼び止められて、金髪女の飛鳥が足を止め、こちらをにらみつける。

⏰:10/03/29 15:51 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#178 [我輩は匿名である]
「…何か用?」

「今日はさっさと帰るのか?いつも最後まで残ってるのに」

直人に言われて、飛鳥は顔を背ける。

「何でいつもすぐ家に帰んないの?

「…何でって……」

飛鳥は口ごもる。

直人は「まぁ、こっち来いよ」と手招きする。

少し悩んで、飛鳥は直人の横に腰を下ろした。

といっても、2人の間に人一人分くらいのスペースは空いているが。

⏰:10/03/29 15:51 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#179 [我輩は匿名である]
「…私、家嫌いだから」

「何で」

きょとんとした直人の問いに、飛鳥はうつむく。

「……親は私何か見てない。大切なのは頭の良い弟だけ。

晩ご飯の時も、私は見向きもしない。話もしない。だから、家にいてもつまんないでしょ」

「…よーするに、ネグレクトとか言うやつか?」

「…ご飯はくれるんだし、虐待ではないんじゃないの」

飛鳥は「そういう話じゃないから」とでも言いたげにため息をつく。

⏰:10/03/29 15:52 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#180 [我輩は匿名である]
「…ま、それじゃあ家に帰りたくはないわな。

…いいんじゃねぇの?そんな家にはいてやんなくても」

「でしょ?だから帰んないのよ。ご飯の時間になるまでは」

飛鳥はそう言って少し笑った。

「で、今日は帰んのかよ」

「いろいろ寄ってから帰る」

「なるほどな。…で、本は読んでんのか?」

「読んでるわよ、ちゃんと。最近つまんないけど」

「へぇ、俺と一緒じゃん。つまんねー時ってホントつまんねーよな」

直人はまたため息をつく。

⏰:10/03/29 15:53 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#181 [我輩は匿名である]
いつもの直人ならば、「お前の本ってどんな話?」と

調子に乗って尋ねるところだが、何故かそんな気にはならない。

聞いてはいけないような気がしたのだ。

「…で?お前が人間嫌いな理由はわかったわけ?」

「よくわかんない。本の中の奴も人間嫌いみたいだけど」

「遺伝じゃねぇーの?」

「私の祖先じゃないから」

飛鳥はイラっとしたように顔を引きつらせる。

飛鳥の様子を見て、直人はふと、ある事に気付いた。

⏰:10/03/29 15:53 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#182 [我輩は匿名である]
「…お前さぁ、人間嫌いな割に、俺とはよく喋るよな」

「はぁ?」

飛鳥はますます顔をしかめる。

「あんたが話し掛けて、いろいろ喋りかけてくるからでしょ?」

「まぁそうだけど、お前他の奴に話し掛けられてもシカトするじゃん。でも、俺にはシカトしない」

「…まぁ…」

「言われてみれば」と、飛鳥も不思議そうに首をひねる。

「…もしかしてお前、俺の事、す」

「黙れ」

飛鳥は不機嫌そうに、持っていた鞄で直人の顔をたたいた。

⏰:10/03/29 15:54 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#183 [我輩は匿名である]
階段にバシン!という音が響く。

「いってぇー…」

直人は両手で顔を覆う。

その間に、飛鳥はさっさと鞄を持って階段を降りていった。

「(何なんだあいつは…)」

眉間にしわを寄せて階段を降りていると、下駄箱から声が聞こえてきた。

「えーっ、怜奈、月城くん好きなの!?」

月城って誰だ。飛鳥はまた首をかしげる。

⏰:10/03/29 15:55 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#184 [我輩は匿名である]
「だってさぁ、かっこ良くない?クールだし」

「まぁかっこ良いとは思うけど、冷たそうじゃない?」

「そういえば、この間他の女子と歩いてたよ!私見たもん!」

よく見ると、同じクラスの女子達だ。

めんどうなので、飛鳥は足を止める。

「私も見たよ、それ。目の前でいちゃついてくれちゃって」

「彼女なんじゃないの?」

「違うらしい。だから余計邪魔なのよねぇ」

「怜奈、欲しい物は手に入れないと気が済まないもんね」

⏰:10/03/29 15:56 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#185 [我輩は匿名である]
「もちろん。じゃなきゃ人生楽しくないじゃん」

怜奈は当然のような言い方をする。

急に、飛鳥の背筋がぞくっとして、全身に寒気が走る。

それが何故か、飛鳥にもわからない。

3人は笑いながら、校舎を出ていったが、飛鳥はしばらく、足がすくんで動けなかった。

⏰:10/03/29 15:57 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#186 [我輩は匿名である]
休日はあっという間に過ぎた。

「(あんだけ楽しみにしてたのに、普通に喋って終わりとかありかよ…)」

いつものように、直人は学校の机にうつ伏せになっていた。

月曜の朝はいつもそうだが、今週は特にだらけてしまう。

要と晶は、40年前の昨日、前と同じ喫茶店で、3〜40分ほど楽しげに話して別れた。

話したと言っても、学校の事や要の家の話など、大して重要な話でもなかった。

最近はこんな事が当たり前になってきてしまった。

これでは読む気力が失せてしまう。

2人はまた日曜日に合う約束をしたが、果たして進展はあるのか…。

⏰:10/03/29 17:19 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#187 [我輩は匿名である]
「ねぇ」

まためんどくさい事が。直人は横目で、声がした方を見る。

怜奈がじっとこっちを見ている。

「何だよ、薫ならどっか行っていないぞ」

「そんなの見たらわかるわよ。どこ行ったのか知らない?」

「…知るかよ」

薫はもちろん屋上にいるのだろうが、直人はしらばっくれる。

薫は香月に気があるから、邪魔は入れたくない。そう思ったのだ。

⏰:10/03/29 17:20 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#188 [我輩は匿名である]
「あいつに何か用?」

「先生から伝言」

「伝言?何の?」

「さぁね」

怜奈はぷいっとそっぽを向く。

「(うぜぇ…)」

こういう女は大嫌いだ。直人は腹立たしそうに彼女を睨む。

「勘違い野郎」

直人の後ろで声がした。

⏰:10/03/29 17:20 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#189 [我輩は匿名である]
振り向くと、浮かない表情で飛鳥が立っている。

「俺の事かよ」

「あんた以外に誰がいるわけ」

飛鳥はいつものように憎まれ口をたたくが、どこか元気がなさそうだ。

「…どうかしたのか?」

「…ちょっと」

飛鳥に手招きされて、直人は席を立って、彼女について教室を出る。

「何だよ?」

廊下に出て、飛鳥は周囲を見渡した後、小声で言った。

⏰:10/03/29 17:21 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#190 [我輩は匿名である]
「さっきの女、気を付けた方が良い」

「…大橋の事か?」

「名前は知らないけど」

飛鳥は真剣そうだ。

飛鳥がこんな事を言うとは思わなかった為、直人は少し呆然とする。

「まぁ…確かに薫を好きすぎて若干ウザいけど…」

「あいつ、欲しい物は手に入れないと気が済まないって言ってた。この間聞いたんだ。

だから、諦めるように言った方が良いと思って」

「…あいつそんな事言ってたのか」

⏰:10/03/29 17:22 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#191 [我輩は匿名である]
直人はそう言った後、「ん?」と首を傾げる。

「あいつ、『友達が薫を好き』って言ってたけど」

「そんなの嘘に決まってんじゃん。それ信じ込んでたの?」

飛鳥は呆れている。

言われてみればそうだ。いくら友達思いだといっても、熱心に身辺調査しすぎだ。

「(自分が好きだったのかよ、あいつ…)」

「…とりあえず、あいつには気をつけなよ」

飛鳥はそう言って、教室に向かう。

「あ、ありがとな」

直人は飛鳥に礼を言う。

飛鳥は少し黙って、「別に」とだけ言って教室に入っていった。

⏰:10/03/29 17:22 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#192 [我輩は匿名である]
「やっぱりな」

「知ってたのかよ!?」

「話聞いてたら大体わかるだろ。俺の事が好きっていうの、友達じゃなくて本人だって事ぐらい」

薫は知っていたらしい。

直人はショックで箸を持つ手を止める。

「俺…どんだけバカなんだ…?」

「さぁ?まぁ勉強になったんだからいいじゃん」

薫は笑っているが、少ししてから真顔に戻った。

⏰:10/03/29 17:23 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#193 [我輩は匿名である]
「そういえば、あいつ伝言があるって言ってたけど…」

「聞いたよ、今日委員会があるって。めんどくせぇ…。先帰っといて」

「あぁ、同じ委員会だっけ?頑張れ♪

「からかうな!」

満面の笑みでからかう直人に、薫は怖い顔で言い返した。

⏰:10/03/29 17:23 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#194 [我輩は匿名である]
放課後。

薫は時間どおりに、風紀委員会に出席していた。

隣には怜奈が座っている。

「…俺の事、いろいろ直人に聞きまくってるらしいな」

周りに聞こえないような声で、薫は怜奈に言う。

「そこまで聞きまくってないよ?朝いつもいないから、どこに行ってるんだろうなぁって」

「悪いけど、俺の事諦めてくれる?大橋と付き合う気はないし、俺には」

「好きな子がいる、でしょ?」

怜奈は少し笑って薫を見る。

⏰:10/03/29 20:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#195 [我輩は匿名である]
薫は黙って見返す。

「でも、あの子じゃなくて私に目が行く事があるかも」

「残念だけどそれはない」

「そんなにあの子の事好きなの?」

そう聞かれて、薫は黙る。

そんな一言で済まされる気持ちではない。

「あの子普通の子じゃない。背も大きくないし、胸も私より小さい。スタイルだって」

「俺はそういう事には興味ない」

薫はきっぱりと言い張る。

⏰:10/03/29 20:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#196 [我輩は匿名である]
まぁ、そう言っても薫も男なので、全く興味がないわけでもないが。

「俺には、あいつを守る義務がある」

「義務?何それ」

怜奈は笑う。少しバカにしたように。

「お前みたいな軽そうな奴にはわからないよ」

薫はイラついたように言い捨てる。

「…ふぅん、つまんないの」

怜奈も同じようにして、それ以上何も話さなかった。

⏰:10/03/29 20:31 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#197 [我輩は匿名である]
「あ」

下駄箱で、直人はたまたま響子を見つけた。

響子は1人で帰るようだ。

「なぁ」

何となく、直人は響子に声をかける。

「……あ、もしかして月城くんの友達?」

「そうそう、俺、水無月直人。よろしく」

「私は香月響子。こちらこそよろしく」

響子はにこっと笑いかける。

⏰:10/03/29 20:32 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#198 [我輩は匿名である]
「薫、委員会でさ。良かったら一緒に帰ってもいい?」

「うん、一緒に帰ろ」

響子は快く頷いてくれた。

直人と響子は並んで学校を出る。

「水無月くんって、いつから月城くんと仲良いの?」

「俺達は、幼稚園入る前から仲良いよ」

「そんなに前から?」

「親同士が仲良いからなぁ。よくどっちかの家に行って遊んだりしてたから」

「へぇー。じゃあ、幼なじみなんだね」

⏰:10/03/29 20:33 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#199 [我輩は匿名である]
「まぁな」

直人は「へへっ」と笑う。

「香月の家ってどこ?」

「結構近いみたい。月城くんのマンションの前の道をまっすぐ行って、

突き当たりを右に曲がってまたまっすぐ行けば着くよ」

「…薫のマンションの前の道って、突き当たりまで結構距離ないか?」

前に薫と、マンションからそのつきあたりの壁まで競争した事があった。

確か、直人の方が早くて、18秒だった。

50m走で7秒台だから、100m以上あると考えられる。

⏰:10/03/29 20:33 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#200 [我輩は匿名である]
「(そこからまたまっすぐ行くって事は…近いって言えるのか…?)」

「水無月くん?」

考え込んでいると、響子が気にして話し掛けてきた。

「へ?」

「どうしたの?」

「いや、何もない」

どうでもいい事を考えていたため、直人は慌てて断る。

だからあの雨の日、一緒に来ていたのか。

直人はやっと納得した。

⏰:10/03/29 20:34 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#201 [我輩は匿名である]
「…月城くんって、ちょっと他の子と違うよね」

「…へ??」

直人はぽかんとする。

「いや、変わってるっていう意味じゃないよ?そうじゃないけど…」

「あー、まぁ何となくわかるよ。変に大人びてると言うか、クールすぎるというか」

「ははっ。うん、月城くんってあんまり騒いだりしないみたいだから、何か目を引くっていうか…」

「あぁ、騒がないなぁ、あいつは。喋ってて楽しいか?」

「楽しいよ。月城くん、いろんな話してくれるから」

⏰:10/03/29 20:34 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#202 [我輩は匿名である]
「そっか、あいつが女を気にするのって初めてだから、どーしても気になってさ」

「…そうなんだ」

響子は少し顔を赤くして目をそらす。

「ま、そういう事だからさ、あいつの事可愛がってやって」

「あははっ、何それ」

直人と響子はそんな話をしながら、ぼちぼちと家に帰っていった。

⏰:10/03/29 20:35 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#203 [我輩は匿名である]
直人はベッドに寝転んで、少しめんどくさそうに本を見つめる。

「…そろそろ何か起きてくんねーかなぁー…」

どうせ今日も何もないのだろうが、万が一何か進展があっても困る。

直人ははぁっとため息をつき、起き上がる。

期待はせずに、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/29 23:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#204 [。゚+ゆきな+゚。]
>>2-200

⏰:10/03/29 23:58 📱:SH904i 🆔:eeM7faXQ


#205 [我輩は匿名である]
>>204さん
ありがとうございます

⏰:10/03/30 12:30 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#206 [我輩は匿名である]
今日もまた、学校だ。

それも下校中。

「絶対何もないな。あーあ…いつまでこうなんだよ…」

直人は早速ぶつぶつ言う。

「あのぅ…」

要の背後で声がした。

振り返ると、見たことのある顔。

「うわぁ…美代だ…」

話し掛けてきたのは、あの美代だった。

⏰:10/03/30 12:30 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#207 [我輩は匿名である]
「…何か用?」

要が尋ねる。

「…晶ちゃんが伝言を、って…」

「晶ちゃんが?」

「うん」

美代の表情は、何だか元気がなさそうだ。

「…伝言って何だよ?」

直人は首を傾げる。

今日はいつもとちょっと違う。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#208 [我輩は匿名である]
「…来週、行けないって」

「え、それだけ?」

要はきょとんとする。

「うん、それだけ。『言ってきて』って言われたから…」

「…何で来れないか聞いてない?」

「わからない。それだけしか言われてないの」

「…そっか、わかった。ありがとう」

要は美代に礼を言う。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#209 [我輩は匿名である]
美代はそのまま帰っていった。

「…来れないのか…、でも、何でまた…?」

要も直人も首を傾げる。

理由がないのは、何だか怪しい。

「あいつの嘘…?ってのも、アリだよなぁ…」

いろいろと引っ掛けられてきたため、さすがの直人も今回は疑ってかかる。

「…まぁ…しかたないかな。今度また様子見に行こう」

要はそう独り言を言ってまた歩きだす。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#210 [我輩は匿名である]
今日はそれだけだった。

次の日曜日、つまり5月5日の約束が無くなった、という事だけ。

「(ゴールデンウィーク中か。あの時代からゴールデンウィークがあったのかわかんねぇけど)」

戻ってきた直人は考える。

施設中で何かあるのか、とも思ったが、それなら美代が知っているはずだ。

何が理由なのか?昨日のデートでは何も問題はなく、仲良く話していたではないか。

「うーん…わかんねぇなぁ…」

直人は頭を悩ませながら本を閉じた。

⏰:10/03/30 12:32 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#211 [我輩は匿名である]
次の朝。

曇り空の下で、薫と響子はいつものように話している。

「…ここまで、夢の方はどうなった?」

「えっと…屋上で洗濯物手伝ってもらって、仲良くなって、ご飯に行って、

もう1回ご飯に行った時に、『私とお付き合いして下さい』って言われて…。

“私”は『はい』って返事して、お付き合いする事になった。

今日は、ドライブに連れていってもらった」

「そうか」

順調だな。薫は少し笑う。

⏰:10/03/30 12:32 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#212 [我輩は匿名である]
「(初めて会ったのは3月、ドライブに行ったのは7月…。

…本よりも進むのが早いのか…?)」

薫は黙って考えていた。

「…でも、まだ顔はわからないんだ」

響子は残念そうに言う。

「そのうち見えるよ」

「…そうだよね」

薫に言われて、響子は笑った。

⏰:10/03/30 12:33 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#213 [我輩は匿名である]
「…変な事言うけど…夢なのに、…好きなんだ、あの人のこと」

恥ずかしいそうに、響子は途切れ途切れに話す。

薫はそれを見て優しく笑う。

「なんかね、夢だと思えなくて。覚めなかったらいいのにって思うくらい」

「覚めないと困るだろ」

「それはそうなんだけどね」

それに、もうすぐそれは現実になるよ。

薫は心の中で呟いた。

⏰:10/03/30 12:33 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#214 [我輩は匿名である]
今日は怜奈は、直人に一言も話し掛けて来なかった。

「お前、昨日何か言ったのか?」

帰り道、直人は薫に聞いた。

「あぁ、『悪いけど諦めてくれ』って釘刺しといた」

「よくやるな」

「付きまとわれると面倒だろ?香月に何かあっても困るしな」

薫は参ったように髪を触る。

「まぁそうだよなぁ」

「あーゆー危なそうなやつは、はっきり言っといた方がいいんだよ」

薫はいつになく、少し苛立っているようだ。

⏰:10/03/30 13:24 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#215 [我輩は匿名である]
怜奈を良く思っていないのだろう。

「そういえば、昨日たまたま香月がいたから、一緒に帰ってきたんだ」

直人は適当に話を変える。

「へぇ、初めて喋ったんじゃないか?」

「あぁ。なんか、女の子らしい奴だな」

「何だよそれ。…まぁ、男っぽくはないけど」

薫は笑う。

「お前の事、『他の子とは違う』って言ってたぞ。多分、雰囲気が」

「そんな事言ってたのか?」

⏰:10/03/30 13:24 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#216 [我輩は匿名である]
「騒がないからな、お前」

「騒ぐのはお前だけで十分だろ」

「何だよそれ!」

嘲笑う薫に、直人はギャーギャー騒ぐ。

「(…ふぅん、香月っていうんだ。あの女)」

2人の会話を、曲がり角の陰から怜奈が聞いていた。

しばらく2人の後ろ姿を見た後、冷たい笑顔を浮かべてその場を離れた。

⏰:10/03/30 13:25 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#217 []
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600

⏰:10/03/30 14:13 📱:SO905iCS 🆔:F62lBiEg


#218 [我輩は匿名である]
結局、日曜になるまでまた何も起こらなかった。

5月5日。

約束はなくなったが、要はとりあえず、あの場所に行ってみることにした。

直人もそれが正しいだろうと、黙って景色を見つめる。

もしかしたら、あの場所にいるかもしれない。

要も直人も、少し緊張気味だ。

あと角を2つ曲がってまっすぐ行けば、あの場所に着く。

「あの…」

1つ目の角を曲がる寸前、誰かが要に話し掛けてきた。

⏰:10/03/30 19:38 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#219 [我輩は匿名である]
振り替えると、細身で綺麗な女性が、困った顔で立っている。

「はい?」

「この辺の方ですか?ちょっと道に迷ってしまって…」

マジかよ。直人も困ったように女性を見返す。

「えっと…どこに行きたいんですか?」

「姫崎公園に…」

「あぁ…結構迷っちゃいましたね」

「遠いんですか?」

「歩いて20分ぐらいかかるんです。…説明しにくいしなぁ…」

要は腕を組んで考える。

⏰:10/03/30 19:38 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#220 [我輩は匿名である]
そして、「ちょっとここで待ってて下さいね」と言って走りだした。

晶が来ていないか確認しておく為だ。

しかし、やっぱり晶は来ていなかった。

「…来てないな。じゃあいいか」

要はそう言って、また来た道を戻る。

「すいません、待たせちゃって。…僕が一緒に行きます」

「えっ?でも、何か予定があったんじゃ…」

「いえ、散歩してただけですから。行きましょう」

「ごめんなさい、ありがとうございます」

⏰:10/03/30 19:39 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#221 [我輩は匿名である]
女性は優しい笑顔を見せる。

「…昔でもこんな綺麗な人いるんだな」

女性の顔に、直人はしばし見とれる。

「…はっ!何考えてんだ俺!俺には晶がいるだろ!」

自分で言って、直人はまた考える。

晶と付き合っているのは、直人ではなく要である。

しかし時々、今のように、自分が付き合っているような錯覚に陥る事がある。

「…うーん…俺もヤバくなってきてるかな…?」

いろいろあったりなかったりで、本の怖さを忘れていた。

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#222 [我輩は匿名である]
慣れてきたのかもしれないが。

「この辺、結構ごちゃごちゃしてて、分かりにくいんですよね。よく迷う人いるんですよ」

「そうなんですか?良かった、ちょっと安心です」

要と女性は、ただ黙っていくのもつまらないと、仲良く話しながら歩いている。

「私、ここに来たのは初めてなんです。いい町ですね」

「そう…ですね、いい人ばかりだし。何でこの町に?」

「大学の友達の家に遊びに来たんです。地図もらったんですが、どうしてもわからなくて」

女性は恥ずかしそうに笑う。

「車とかで送ってくれる人がいれば楽なんですけどね」

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#223 [我輩は匿名である]
「そうですね。父がいれば、送ってくれたんでしょうけど…」

「お仕事ですか?」

「亡くなったんです、戦争で」

女性は隠しもせずに言った。

直人は呆然とする。

よく考えれば、ここは1977年。戦争が終わって22年しか経っていないのだ。

「…なるほどな…」

「すいません、そんなつもりじゃ…」

「あぁ、いいんです。親がいないのには慣れてますから」

「…え…」

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#224 [我輩は匿名である]
「私、父も母も死んだので、養護施設で育ったんです。

母が亡くなったのは戦後ですけど」

「養護施設?」

直人も要も、その言葉に目を丸くする。

「俺の友達にも、施設で育った子がいるんです」

「そうなんですか?偶然ですね、なかなかいないのに」

「はい。びっくりしました…」

要も驚いているようだった。

「…学校、楽しいですか?」

要はふと、そんな事を尋ねた。

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#225 [我輩は匿名である]
すみません。
>>223
の「22年」は「32年」のミスでした

⏰:10/03/31 10:33 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#226 [我輩は匿名である]
「え?えぇ、楽しいですよ。高校も楽しかったけど、私は大学の方が楽しいかな。…どうして?」

「いやぁ…その友達が、学校は楽しくないって言ってたから…」

「…施設で育った負い目で?」

女性に言われて、要は「多分」と答える。

「そんなの、関係ないですよ」

女性は笑う。

「施設で育った子も親の元で育った子も、どっちが良い、なんて事はありません。

私は施設で育った事を友達に言いましたが、今でもその子は友達のままです。

…その子は、自分から壁を作ってるんじゃないかな」

⏰:10/03/31 10:34 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#227 [我輩は匿名である]
「…壁…かぁ…」

女性に言われて、要は繰り返す。

確かに晶の性格なら、あり得なくはない。

「その子に、『思い切って踏み込んでみて』って言っといて下さい。

『受け入れてくれない子は、その程度の子。他にもいい子はたくさんいるから』って」

女性はにっこり笑って、要に伝えた。

要は「はい!」と大きく頷く。

前方に大きな公園が見える。

「あっ、あれですよ。姫崎公園」

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#228 [我輩は匿名である]
「え?あっ、着いたー!」

女性は胸に手をあて、大きく息をつく。

公園の前で、2人の女性が、こちらに手を振っている。

「良かった、友達もちゃんと待っててくれたみたい。ありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しかったです。また来て下さいね」

要は笑って女性に手を振る。

女性もこちらに手を振って、友達の元へ走っていった。

要もまた、家へと引き返す。

もう一度あの場所に行こうかとも考えたが、

さっきいなかったから今日は来ないだろうと、要はまっすぐ家に帰った。

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#229 [我輩は匿名である]
直人は本を閉じる。

あの女性に会って、何だか元気が出た気がする。

「直接晶を会わせてやりたかったなぁ…」

自分が伝えるよりも、あの女性が直接話をした方が、晶も勇気が出たかもしれない。

「(…あの女の人、元気かなぁ…?)」

直人はそんな事を考えながら、ボーッと窓の外の夜空を眺めた。

⏰:10/04/01 17:03 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#230 [我輩は匿名である]
直人は大きなあくびをして机に突っ伏せる。

大好きなゴールデンウィークも終わってしまった。

外は雨が降っており、廊下を見れば、屋上に行けない薫と響子が窓の方をむいて話している。

「…この間ね、プロポーズされたんだ」

響子は薫だけに聞こえるような声で言った。

「霜月優也に?」

「うん。寒かったから、冬だったと思う」

「12月13日」

薫は開いた窓の桟に両肘を置く。

⏰:10/04/01 18:04 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#231 [我輩は匿名である]
「そうなの?…よく知ってるね、相変わらず」

「まぁな」

薫は鼻を高くして笑う。

「3月に結婚式しようって。…私も嬉しくて、すぐにうんって返事して…」

響子は少し頬を赤らめて話す。

薫も笑ってそれを見つめる。

「でね、今日はその、結婚式だったの。

真っ白い、綺麗なドレスを着せてもらって、優也に指輪をはめてもらって…。

…すごく幸せだった」

薫はすぐに気付いた。

⏰:10/04/01 18:04 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#232 [我輩は匿名である]
響子が「優也」と、呼び捨てで呼び始めている事に。

ついこの間まで「あの人」と呼ぶ事が多かった。

「(…話の進度は速くても、キョウコの見る夢はあの本とほぼ同じみたいだな…)」

薫は1人、静かに考えを巡らせていた。

⏰:10/04/01 18:05 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#233 [我輩は匿名である]
「うーん…」

直人は本を手に、ベッドの上で頭を悩ませる。

今日は何事も無かったのだが、やはり晶の、来れなかった理由が気になるらしい。

「(…何かある気がするんだよなぁ…)」

今まで素直に要と接していた晶が、理由も無しに来ないのはおかしい。

それも、自分で言いに来ないとなると尚更だ。

めんどくさがり屋の直人ならともかく、晶はそんな性格でもない。

しかも、嫌いだと言っていた美代に、そんな伝言を託すだろうか?

直人は大きくため息をつく。

⏰:10/04/01 18:05 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#234 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり、帰りにもう1回あの場所に戻るべきだったのか…?)」

直人の意志で要の身体を動かせないにも関わらず、直人はそんな事を考える。

しかし、2時頃に1度見に行っても、あの場所に晶はいなかった。

「…あー…わかんねぇなぁ…。何か気に障る事したか…?」

あぐらをかいて、直人は長い間頭を抱えていた。

⏰:10/04/01 18:06 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#235 [我輩は匿名である]
次の日、珍しく飛鳥が学校を休んでいた。

「(…今日あいつ休みなのか)」

そこまで仲良くは無いのだが、どこか気になってしまう。

「(…最近気になる事が多いなぁ…。悩みがないのが自慢だったのに…)」

直人はシャーペンをくるくる回しながら、机に肘をついて考える。

晶の事、飛鳥の事…。

おまけに、またある事を思い出す。

薫の「初めて人を殺したいと思った」という言葉。

あれは一体何だったのか?余計な事を思い出してしまった。

⏰:10/04/01 18:06 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#236 [我輩は匿名である]
「水無月」

「へ?」

ボーッとしていた直人は、先生に名前を呼ばれたのに気付かなかった。

顔を上げると、先生も周りの生徒もこっちを見ている。

が、何で呼ばれたのかわからない。

「24ページの2行目から読め!」

幸い、後ろの席の男子が小声で教えてくれた。

「サンキュ!」

直人は小声で礼を言い、慌てて立ち上がって、言われた所を読み始めた。

⏰:10/04/01 18:45 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#237 [我輩は匿名である]
「今日、元気ないじゃん」

昼休み、薫が直人に言った。

「…そうか?」

「ないだろ、どう見ても。授業中はずっとボーッとしてるし」

「…うーん…」

直人は口をモグモグさせながら、鼻からふぅっと息を吐く。

「……なんかさぁ、考え事多すぎて、もう頭がパンクしそうっつーか…」

「考え事?珍しいな」

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/01 18:46 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#238 [我輩は匿名である]
「…俺、何か怒らしちまったかなぁー…」

「…誰を?」

「…晶」

直人は言いながら、ボーッと弁当のおかずを口に入れていく。

逆に、薫の箸が止まる。

「…石川晶か」

「んー…」

直人は適当に返事をした後、思い出したように薫を見た。

⏰:10/04/01 18:46 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#239 [我輩は匿名である]
「そういえばお前、晶の事も知ってんのか?」

直人の問いに、薫はしばらく黙る。

そして、考えながら口を開いた。

「あぁ、知ってるよ」

やっぱりな。直人は思った。

「何で?何かお前、何でも知ってるよな」

「俺の本にも出てくるからだよ」

「…へ?じゃあ俺も出てくるからくんの?」

「お前は出ない」

薫はきっぱりと否定する。

⏰:10/04/01 18:47 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#240 [我輩は匿名である]
直人はどういう事かと首をひねる。

「わかった!お前、晶の施設の…」

「残念ながら俺は両親の元で家で育った」

ちっ。直人はブスッとする。

「じゃあ何で晶だけがお前の本に出てくるんだよ?」

そう聞かれて、薫はまた、しばし考える。

「…お前が本を全部読み終わったら教えてやるよ」

「はぁ〜?それ、いつになるんだよ」

薫の言葉に、直人はうなだれる。

薫はそれを見て、笑いながら心の中で呟いた。

「あと1ヶ月もしないうちにわかる」と。

⏰:10/04/01 18:47 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#241 [我輩は匿名である]
次の日曜日も、何故か晶は待ち合わせ場所に来なかった。

要は気になって、晶の住む施設まで行ってみる。

忘れているのだろうか?

それとも、先週会わなかったため、今週は約束していない事になっているのだろうか?

確かにそれはあるかも知れないが、何も言わずに来なくなるのはおかしい。

直人は要の中で、必死に頭を働かせる。

もしかしたら、他に好きな男でも?

しかし、彼女は「私には要くんしかいないから」と言っていた。

まぁ時が流れれば変わる事もあるわけだが。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#242 [我輩は匿名である]
でも、ちょっとひねくれてはいても、普通の純粋な女の子である。

そんなにコロコロと気が変わるような子ではない。

少なくとも直人はそう信じている。

直人がそうだという事は、きっと要も同じであるだろうが。

あれこれ考えている間に、目の前には施設の門が迫っていた。

要はふうっと、息を吐く。

「…あ」

晶はちょうど、門の近くで花壇の花に水をやっていた。

「何だよ、普通にいるじゃねぇか」

直人は少しムッとした。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#243 [我輩は匿名である]
要は少し重い足取りで晶に近づく。

「…晶ちゃん」

要は彼女にギリギリ聞こえるような声で呼ぶ。

晶は少しキョロついてから、要に気が付いた。

「来ないから、何かあったのかと思って」

要はちょっと苦笑する。

しかし、晶は何も言わない。

それどころか、顔を背けてどこかへ走り去ってしまった。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#244 [我輩は匿名である]
要も直人も、わけがわからずきょとんとする。

「…何だよ?今の…」

何だかわからないが、怒っているような態度。

しかし、2人とも心当たりは全くない。

そのため、直人は逆に腹が立ってきた。

「おい、あんな女ほっといて帰ろうぜ」

直人が言うのと同時に、要は踵を返す。

2人とも納得がいかないまま、とぼとぼと家路に着いた。

⏰:10/04/01 19:56 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#245 [我輩は匿名である]
元の世界に戻っても、直人のイライラは収まらない。

すぐに本を閉じて、文を読む気にすらならない。

「何なんだよ…この間来れないって言ったの、あっちだろ…」

直人はぶつぶつ言いながら寝転ぶ。

だからめんどくさい女は嫌なんだ。そう思いながら目を閉じた。

⏰:10/04/01 19:57 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#246 [我輩は匿名である]
1日ボーッとした日が続く。

薫と何を話したのかもあまり覚えていないほど。

飛鳥も今週は出席していたが、直人と同じようにボーッとしては、放課後すぐに学校を出ていた。

直人は何となく、それも気になっていたが、何もしないまま、気付けばもう金曜日だった。

運悪く、今日は直人と怜奈が日直だ。

余計にため息が出る。

しかも今日は体育。教室の鍵締めという面倒な仕事がある。

⏰:10/04/01 20:16 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#247 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

直人は大きくため息を吐く。

「鍵締めめんどくせー、とか思ってんでしょ」

怜奈に言われて、直人はハッと、彼女の方を向く。

「べっ、別にそんな…!」

「いいよ?男子の教室の鍵も閉めてあげても」

「…へ?」

直人はぽかんとする。

「女子の方が着替え長いからね。まとめて閉めてあげてもいいよって言ってんの。

いやなら別にいいけど」

⏰:10/04/01 20:16 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#248 [我輩は匿名である]
「いや!是非閉めてくれ!助かる!」

『意外といい奴かも』と、直人は怜奈に手を合わせる。

その拍子に、薫が珍しく席に着いているのが見えた。

まだ朝礼まで10分あるというのに。

直人は立ち上がり、薫の席に行く。

「おい、どうしたんだよ?今日は晴れてるぞ?」

ボーッとしていた薫は、声をかけられて顔を上げる。

「…あぁ…ちょっとな…」

本を持つ者がみんなボーッとしている。

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#249 [我輩は匿名である]
直人は何かおかしいと感じた。

「喧嘩でもしたか?」

「いや…キョウコがちょっと体調悪いみたいでな…」

「…キョウコぉ?」

とうとう呼び捨てになったか。直人はにやつく。

「休んでんのか?」

「いや、来てるけど」

「じゃあ会いに行けばいいじゃん。昨日も普通に会ってただろ?」

「…昨日と今日じゃ状況が違うんだよ」

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#250 [我輩は匿名である]
薫は思い詰めたように言った。

直人はますます首をかしげる。

そして、ハッとした。

「手ぇ出しちゃったか!」

「出してない!!」

薫は鬼のような顔で言い返す。

が、すぐに暗い顔に戻ってしまった。

「…出してないけど…」

薫がこんな顔をするのはほとんど見た事がない。

直人は困って頭を掻く。

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#251 [我輩は匿名である]
「…俺もさ、今晶ともめてんだよね」

薫は目だけをこっちに向ける。

「もめてるって言うか、勝手にあっちが腹立ててるだけだけど」

直人はムスッとして言う。

「…俺は別にもめてるわけでもないけどさ…」

薫は答えるように話しだす。

「…キョウコも、本を持ってるような感じで」

「持ってる“ような”って何だよ」

直人はすかさず突っ込む。

「持ってはないけど、それと同じ力があるって言うか」

⏰:10/04/01 20:18 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#252 [我輩は匿名である]
「へぇ…なんかすごいな、それ」

「まぁ…な。…お前…」

薫が何か言おうとした時、運悪くもチャイムが鳴った。

「何だよも〜…」

「また後で話すよ」

薫はフッと小さく笑った。

⏰:10/04/01 20:18 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#253 [我輩は匿名である]
3時間目の体育の時間。

さっきまで晴れていた空が曇り、雨が降りだしたため、体育館でバスケットボールだ。

同じチームに配属された2人は、コートの外に座って自分たちの試合の時間を待つ。

「…お前、本で自分が入り込んでしまう人間が誰なのか、知ってるか?」

薫はぼそっと、直人に尋ねる。

直人はボールを片手に黙り込む。

「……“前世”だって、何かで見た事あるけど…」

本当かどうか…。直人は下を向く。

「何だ、知ってたのか」

薫の言葉に、直人は顔を上げる。

⏰:10/04/01 23:29 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#254 [我輩は匿名である]
まだ信じられないような表情で。

「…あれ…本当だったのか…?」

「あぁ、本当だ」

薫は動じずに答える。

直人は呆然とする。

最後まで本を読んだ薫が言っているのだから、間違いない。

そう思っても、やはりまだ信じきれないのだ。

「…昨日」

薫は構わず、話を続ける。

⏰:10/04/01 23:29 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#255 [我輩は匿名である]
「キョウコは全て思い出したらしい。…自分が死ぬ瞬間までな」

「…え…?」

直人はさらに驚く。

「今日子は亡くなる時、妊娠8ヶ月でな。…だから、お腹の子どもも一緒に死んだ」

薫は、どこか遠くを見つめながら話す。

「…お前…」

直人は悟った。と同時に、薫は言った。

「…俺は、その…霜月今日子の夫だった。お腹の子どもも俺の子だったんだ」

直人はもう、何も言えなかった。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#256 [我輩は匿名である]
薫を見ていると、自分の悩みがどれ程小さいか思い知らされる。

「…殺されたんだ」

薫はぽつりとこぼした。

「…殺された…?」

「…巻き込まれて死んだ、と言うのが正しいんだろうけど」

薫が言い終わると同時に、ビーッ!と大きな音が鳴った。

直人は思わず、ビクッとする。

前のチームの試合が終わったらしい。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#257 [我輩は匿名である]
「…まぁ俺は、“殺された”としか思ってないけどな」

薫はそれだけ言い残して、コートの中に入る。

直人は薫の背中を見て、何故か足が竦んだ。

薫の「人を殺してやりたい」という言葉の意味を、知ってしまった。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#258 [我輩は匿名である]
昼休みになっても、直人は気まずくて仕方なかった。

かけてやれる言葉が見当たらず、1人困惑する。

「…そんなに気を遣うなよ」

先に口を開いたのは、薫の方だった。

「別に、恨んでる相手はお前じゃないし」

「…そーゆーんじゃねぇよ。でも、何かなぁ…」

「…言わない方が良かったか?」

薫に聞かれて、直人は黙り込む。

どうなのか、自分でもわからない。

⏰:10/04/01 23:31 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#259 [我輩は匿名である]
「ま、あんな話聞いたら、誰でも困るだろうけどな」

薫は平気そうに笑う。

しかし、直人には無理をしているようにしか見えない。

「じゃ、香月が体調悪いのって…」

「悪い、…体調悪いっていうのは、嘘だ」

「嘘かよ」

「…会いたくない。…そう言われた」

薫はため息混じりに言った。

「会いたくないって…何で…」

「…あいつが死ぬ原因を作ったのは、俺だからだ」

⏰:10/04/02 17:07 📱:N08A3 🆔:yJo1HQwc


#260 [我輩は匿名である]
薫は言う。後悔しているような表情で。

直人はもう耐えられなくなって、「あーっ、やめやめ!!」と声を荒げた。

薫は「何事か」ときょとんとする。

「もう暗い話はやめようぜ。俺が疲れるから!」

直人はそう言って、弁当の中身を次々と口へ放り込む。

その直人の様子を見て、薫は「そうだな」と笑い、同じように手を動かした。

⏰:10/04/02 17:08 📱:N08A3 🆔:yJo1HQwc


#261 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300

⏰:10/04/03 00:40 📱:SH706ie 🆔:5IA1kpfY


#262 [ま]
続きが気になりすぎる。(笑)

⏰:10/04/03 23:47 📱:P04A 🆔:0TV.7tcg


#263 [我輩は匿名である]
放課後。

「失礼しましたー」

日直のノートを出し終え、直人は「お待たせ」と薫に声をかける。

薫は職員室の前にも関わらず、堂々とケータイを見ている。

「何見てんの?」

「これ」

薫はケータイ画面を直人に見せる。

響子からのメールだが、本文は「わかった」の一文だけだ。

「短いメール。いつもこうか?」

⏰:10/04/04 09:43 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#264 [我輩は匿名である]
「…俺は今日一通もメールを送ってないし、電話もしてない」

薫は不思議そうに言った。

「へ?」

直人がきょとんとしている間に、薫は自分の送信メールをチェックする。

『今日放課後、話があるから、屋上まで来て』

このメールが、今日の3時間目前の休み時間に送っている事になっている。

「送ってるじゃん」

直人は「大丈夫か」と薫を見る。

が、薫は黙って画面を見つめている。

そして、何かに気付いたのか、突然「先に帰ってろ!」と直人に言って走りだす。

「え!?」

直人はわけがわからず、少し遅れて薫を追った。

⏰:10/04/04 09:44 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#265 [我輩は匿名である]
響子は何も知らずに、屋上に続く階段の踊り場で薫を待っていた。

「お待たせ〜」

そう言ったのは、女の声だった。

響子は長い髪をなびかせて振り返る。

そこにいたのは、怜奈だった。

「…誰ですか?」

「私は大橋怜奈。月城くんのケータイからあんたを呼んだの、私よ」

怜奈は怪しげに笑う。

「あんたさぁ、月城くんと付き合ってんの?」

「…何ですか?いきなり」

⏰:10/04/04 09:44 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#266 [我輩は匿名である]
響子はうっとうしそうに尋ねる。

階段を降りたくても、下りの階段の前に怜奈がいるため、降りれない。

「私、月城くんの事好きになっちゃって」

「…だから?」

怜奈の強気の態度に、響子も反撃に出る。

怜奈はムッとしたように眉間にしわを寄せる。

「彼女じゃないのに、イチャイチャするのやめてくれる?

…目障りなんだよね」

「お願いはそれだけ?」

響子は臆する事無く聞き返す。

⏰:10/04/04 09:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#267 [我輩は匿名である]
怜奈は響子の態度に苛立ち、腕を掴んで壁にたたきつける。

「…調子にのんなよ」

怜奈は顔を近づけ、響子を睨み付ける。

「彼女でもないくせに…気取ってんじゃねぇよ」

「バカじゃないの?」

響子もまた、怜奈をにらみ返して言う。

「こんな事して呼び出して、文句言って怖がらせて手を引かせようと思ったんでしょ?

そこまでしないと私に勝てないって分かってるから。違う?」

「何…!?」

⏰:10/04/04 09:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#268 [我輩は匿名である]
「月城くんは、あんたみたいな子は相手にしないわよ。

月城くんに手を出す事は、私が許さないから!」

響子はきっぱりと言い放った。


「おいっ!待てよ薫!!」

直人は必死で薫を追う。

いつの間に俺より足が速くなったんだ。

そう思いながら曲がり角を曲がろうとすると、ノートの山を抱えた女子が出てきた。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#269 [我輩は匿名である]
「うわっ…」

止まり切れず、そのままぶつかってしまった。

直人は思いっきり尻餅をつき、女子もノートをばらまきながら、同様に尻餅をつく。

「いったぁ〜…」

「いててて……あ」

直人はハッと立ち上がり、女子に駆け寄る。

「すいません!大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないでしょ!?」

肩までしかない短い髪の女子は、直人に怒鳴る。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#270 [我輩は匿名である]
「廊下は走るなって小学校で習わなかった!?あんた何歳よ!?」

「ご、ごめんなさいっ!」

あまりの剣幕に、直人はひたすら謝り、ノートを拾う。

「…ん?」

女子の顔に、何となく見覚えがある気がする。

直人は思い出そうと、手を止めて女子を見つめる。

「…何か用?」

視線を感じて、女子が尋ねてくる。

「えっ…いや…」

直人はサッと視線を反らし、またノートを拾う。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#271 [我輩は匿名である]
よく見れば同じ色のリボン。同級生だったようだ。

しかし、今そんな事に構っている場合ではない。

「怪我してない?」

「怪我は大丈夫」

「そっか!ごめんな、ちゃんと気を付けるから!」

掻き集めて整頓したノートを手渡し、直人は急いで階段を駆け上がる。

「気を付けるって今言ったじゃない!」

女子はまた声をあげるが、もう直人には届かない。

⏰:10/04/04 09:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#272 [我輩は匿名である]
「…ん?」

女子は曲がり角に何か落ちているのを見つけた。

青い携帯電話だ。

「…あっ!ちょっとー!ケータイ落としてるよー!!」

さっきの男子がぶつかった拍子に落としていったのだろう。

女子は声の限り階段に向かって叫ぶが、返事はない。

が、その代わり、「おーい、うるさいぞー」と女子の担任が降りてきた。

「あっ、先生!もうこれ重くて無理です!」

「はぁん?しょうがねーなぁ。こっからは俺が持って行くわ」

⏰:10/04/04 09:48 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#273 [我輩は匿名である]
「やったぁ!じゃあ私、今から落とし物届けて来ます♪」

女子はノートの山を担任に預けて、直人のケータイを手に階段を上る。

⏰:10/04/04 09:48 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#274 [我輩は匿名である]
一方、薫は息を切らして屋上への階段にたどり着いた。

「でも、あんた『もう会いたくない』ってメールしてたじゃん。

そんな奴が偉そうな口叩けんの?」

怜奈の声が聞こえてくる。

気付かれないように、しゃがんで角から踊り場の様子を伺う。

「(あの女…俺のケータイのメールまで見たのか…)」

響子は壁に押さえ付けられたまま黙る。

出ていくべきか、待つべきか。

周りにはもう他の生徒はいないようで、しんと静まり返っている。

⏰:10/04/04 13:23 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#275 [我輩は匿名である]
「…確かに、そんなメールは送ったわ」

響子は口を開く。

「…でもそれは、月城くんと喧嘩したからでも、嫌いになったからでもない。

…月城くんの優しさが、怖くなったから」

響子は俯きながら言った。

薫は黙って響子の話を聞く。

「私の事をいつも心配してくれて、いつも笑っていてくれて…。

でも私は…きっと月城くんを好きになっちゃいけない。それに気付いてしまった。

だから『会えない』って言ったの。月城くんなら、私なんかよりもっといい人に出会えると思ったから」

⏰:10/04/04 13:24 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#276 [我輩は匿名である]
響子の声が震えている。

『月城くんを好きになっちゃいけない』と言う事は、響子はまだ気付いていないようだ。

夢の中の男性が、今の薫だということに。

「(最後まで知ったんじゃなかったのか…?)」

薫は小さく首をひねる。

響子は“霜月今日子”が死ぬのを夢で見た。

本来ならば、そこで全てを知るはずだ。

だが、響子は薫の正体を知らない。

もしかしたら、彼女だけまだ続きが…?

⏰:10/04/04 13:24 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#277 [我輩は匿名である]
「み…見つけた…」

薫の背後で直人の声がした。

薫は素早く、「静かに」とサインをする。

「も…何だよ…?」

直人は小声で文句を言いながら息を切らす。

「ちょっとー、ケータイー!」

おまけにさっきの女子まで上ってきた。

「しーっ!」

薫と直人は同時に女子を黙らせる。

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#278 [我輩は匿名である]
「…何?」

女子は不満そうに、また眉間にしわを寄せる。

「…何かよくわかんないけどさぁ、じゃああんたはもう関係ないんじゃん。

だったら余計偉そうな事言えないね?

なのにごちゃごちゃ文句つけてきやがって…」

「文句つけてるのはそっちでしょ?好きなら好きだって直接言えばいいじゃない」

「言っても無駄なのよ、あんたがいる限りはね…!」

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#279 [我輩は匿名である]
「えっ、何、これ修羅場!?」

「うるさいなぁ!俺だって知らねぇよ!つか何で付いて来たんだよ!?」

「だって…」

2人がこそこそ言い合っている間に、痺れを切らして薫が立ち上がる。

「いい加減にしろよ」

その場にいる全員が薫に目を向ける。


「俺この間言ったよなぁ?お前を好きになる事はないって。

それはキョウコがいようがいまいが関係ない。

俺が本気で愛するのは一生でただ1人、長谷部今日子だけだ!」

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#280 [我輩は匿名である]
その言葉に響子はハッとする。

「長谷部今日子?あの子香月響子じゃなかった?」

「えっ?お前知ってんの?」

「だって隣のクラスで体育一緒だし」

女子は当たり前のように直人に言った。

「…何なのよ…あんた達…」

怜奈は低い声で言う。

「私よりも劣ってるくせに…調子こいてんじゃねーよ…。

あんたのせいよ…あんたさえいなかったら…!」

⏰:10/04/04 13:26 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#281 [我輩は匿名である]
怜奈はきつく響子を睨み付ける。

そして、いきなり響子の胸ぐらを掴んだ。

とっさに薫は階段を駆け上がる。

直人と女子はどうすればいいかわからず、

戸惑うように顔を見合わせ、とりあえず階段の影から様子を伺う。

2人を引き離そうと、薫は怜奈の腕に手をかける。

「…離してよ!!」

怜奈はまるで錯乱したかのように、振り払おうと両腕を振り回す。

それが、下りの階段ギリギリに立っていた響子と薫に強く当たってしまった。

⏰:10/04/04 18:31 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#282 [我輩は匿名である]
薫は素早く手摺りを掴んで踏みとどまる。

しかし響子はそれが出来ず、足を踏み外した。

落ちる。響子は「もうダメだ」と目をつぶる。

しかし、その響子の手を、とっさに薫が掴んだ。

手摺りを持つ手と引き替えに。

薫は響子を守るようにして彼女を包む。

その直後、2人は一緒に、階段から転げ落ちた。

直人も女子も、何が起こったのかわからず、一瞬動きを止める。

⏰:10/04/04 18:32 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#283 [我輩は匿名である]
が、2人が全く動かないのを見て、女子が先に駆け寄った。

「ちょっと!2人とも大丈夫!?」

彼女の声でスイッチが入ったように、直人もハッとして2人の傍に寄る。

見ると、右向きに倒れている薫の頭部から血が流れ出ている。

どれだけ名前を呼んで軽く身体を揺すっても、2人とも目を覚ます気配がない。

「…私、先生いないか見てくる!」

女子はそう言って廊下に走る。

偶然にも男性教員が廊下からこちらに向かってきていたらしく、

女子が助けを呼ぶとすぐに来てくれた。

直人は急な事態についていけず、救急車が来るまでただ呆然と立ち尽くしていた。

⏰:10/04/04 18:32 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#284 [ま]
うっへーい(*゚Д゚)
ほんますごいなぁ〜♪
薫ー(´・ω・`)

⏰:10/04/04 18:47 📱:P04A 🆔:HTCg2SGA


#285 [我輩は匿名である]
>>284さん

コメントありがとうございます

薫ちゃんどーなるのやら…

これからもぼちぼち読んで下さいな

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#286 [我輩は匿名である]
響子はゆっくりと目を開ける。

目の前で、スーツを着た1人の男性が、脱力したように座り込んでいる。

辺りを見渡せば、墓。

「(ここは…)」

響子がボーッとしていると、誰かが服の胸元を引っ張った。

いつの間にか、響子は生まれたばかり程の赤ちゃんを抱いていた。

「(この子…お腹の中にいた赤ちゃん…?)」

「…今日子…ごめんな…」

目の前の男性が、静かに口を開く。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#287 [我輩は匿名である]
「俺が…俺があんな事言わなければ…」

下を向いていて顔が見えないが、男性は泣いているように見える。

「(…優也…)」

響子はすぐに気付いた。彼が霜月優也だという事に。

「(そうだ…私は…死んだんだ…)」

響子はあの日の事を思い出す。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#288 [我輩は匿名である]
あの日。

「今日の晩ご飯、俺が作ろうか」

優也は何を思ったのか、急にそんな事を言った。

大きなお腹を気遣って椅子に座っていた今日子は、思わずきょとんとする。

「どうしたの?朝から」

「いや…今日は早く仕事が終わるからさ。お腹も大きくなってきたから、大変かなぁと思って」

優也はこちらに背を向けて、ネクタイを締めながら言う。

「でも、優也料理出来る?」

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#289 [我輩は匿名である]
「…ま、まぁ本とか箱とか見ながらやれば出来るだろ。ハヤシライスぐらいなら」

「ふふっ。私が見ながら教えた方が良さそうね」

今日子は困ったように笑い、大きく重くなったお腹をさする。

「今日はパパがご飯作ってくれるんだって。楽しみだね」

「そうだぞー。楽しみにしてろよ」

「あ、じゃあ材料買って来とかなきゃね」

「あぁ…結局働かせてしまうな」

「いいよ、買い物ぐらい。家にいても退屈だし、適度に運動しないと」

今日子はそう言ってにっこり笑った。

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#290 [我輩は匿名である]
そしてその日の昼頃、今日子はぼちぼち歩きながら買い物に出かけた。

買い物袋を1つぶら下げて、少しウキウキしながら歩道を歩いていた。

あの人はちゃんと作れるかな。少し笑って、そんな事を考える。

周りの人が、傍の建物の屋上を騒めきながら見上げているのに気付かずに。

突然、「きゃあ」「わぁ」と多くの悲鳴が今日子を包んだ。

今日子はそれに驚き、足を止める。止めてしまった。

みんなと同じように空を見上げる。

その時にはすでに、高校生くらいの少女が目の前に迫っていた。

⏰:10/04/04 19:54 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#291 [我輩は匿名である]
響子は視線を落とす。

「(…ごめんね、守ってあげられなくて…)」

腕の中で、赤ちゃんは響子の服を握ったまま寝息を立てている。

もし“私”が、あの時立ち止まらなかったら。あのまま歩き続けていたら。

そう思うと涙が出そうになる。

響子は顔を上げる。

いつの間にか、背景が見慣れた小さな家の中に変わっていた。

優也は1人、こちらに背を向けて座り込み、写真立ての中の今日子を見つめている。

⏰:10/04/04 21:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#292 [我輩は匿名である]
「…お前たちの葬式ぐらいから、ずっと体調が悪くてな。

…2ヶ月経って、やっと一息ついたから、この間病院に行ったんだ」

響子は彼の背中をじっと見つめる。

「そしたら、検査するって言われて…今日結果が出た。

………肺癌だと言われたよ。骨にも転移して…もって半年の、1番予後の悪い癌らしい」

響子は自分の耳を疑った。

そんなはずがない。この間まであんなに元気だったじゃないか。

「…急にあんな事を言ったから、ばちが当たったのかもしれないな」

優也はため息をついた。

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#293 [我輩は匿名である]
「…化学療法とか、いろいろやれって言われたけど、断ってきた。

そんな事にかける金もないし、…そこまでして生きても、俺にはもう何もないから…。

飲み薬だけで抑えてもらえるように、頼んできた」

響子は見ていられなくなって目を逸らす。

几帳面な優也でも、なかなか片付ける暇がないのだろう。

部屋の中は、今日子が生きていた時よりも散らかっているように見える。

響子が部屋を見渡していると、優也は急に激しい咳をし始めた。

「(優也…)」

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#294 [我輩は匿名である]
“私”が生きていれば、「一緒に闘おう」と言えるのに。

今の“私”は、ただ背中をさすってあげる事すら出来ない…。

「(私は…何のために優也と一緒になったの…?

これじゃ優也に悲しい思いをさせて、辛い目に合わせただけじゃない…。

…私は…優也に何もしてあげられなかった…)」

優也は、“私”の事をどう思っているのだろう。

響子の視界が、涙で滲んで見えにくくなる。

涙を拭こうにも、両手が塞がっていて出来ない。

響子は何も考えず、ただ泣かないようにと我慢する。

⏰:10/04/04 21:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#295 [我輩は匿名である]
まだ続きがあるから、ここで泣くわけにはいかない。そう思った。

その間にもどんどん時間は流れる。

優也は、最初は普通に会社に行っては帰ってきて寝る、という生活を繰り返していたが、

少しずつ痩せてきて、仕事も休みがちになった。

元看護師だった今日子。

その記憶を持つ響子は、優也の余命が、半年も無い事を悟る。

優也はやがて腰を押さえながら歩くようになり、家から出る事も少なくなってきた。

2ヶ月ほど経った頃にはもう、寝室からほとんど出られないようになってしまった。

響子はただ、それをじっと見つめる。しかし、ここまで来てもまだ、彼の顔がよく見えない。

⏰:10/04/04 21:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#296 [我輩は匿名である]
『俺が本気で愛するのは一生でただ1人、長谷部今日子だけだ!』

薫の言葉が頭をよぎる。

「(…月城くん…もしかしたら…)」

響子が考えていると、優也がよろよろと立ち上がった。

息苦しそうに胸を押さえながら、壁づたいにどこかに向かう。

響子は「どうしたんだろう?」と、後を付いていく。

赤ちゃんはまだ眠っている。

「(この子、起きるのかな…?)」

そんな事を思っていると、リビングに入ったところで優也がふらっと座り込んだ。

⏰:10/04/04 22:33 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#297 [我輩は匿名である]
だいぶ呼吸が荒くなっている。

それでも優也は、這うようにして前へ進む。

咳をしてふらつきながらも、優也はリビングの窓のところまでたどり着いた。

窓の傍には、最近に見つめていた今日子の写真立てが置いてある。

神経にまで癌が転移し、目が開きにくくなったのか、優也は手探りで写真を探す。

そして、写真を見つけると、それを手に窓にもたれ掛かるように座り込んだ。

「(…!)」

響子は愕然とする。

息を切らして、こちらを向いて座り込んでいる優也。

痩せ細って目にはくまが出来ているが、その顔は間違いなく、薫だった。

⏰:10/04/04 23:11 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#298 [ま]
うほ(´・ω・`)

⏰:10/04/04 23:32 📱:P04A 🆔:HTCg2SGA


#299 [我輩は匿名である]
「(やっぱり…)」

今まで、いつも彼は私の傍にいて笑ってくれた。

どうなったかわからないけど、さっき階段から落ちる時も、私をかばってくれた…。

私が“長谷部今日子”だと知っていても、彼は自分から全てを話す事は拒んだ。

言いたくても、自分の事を知ってほしくても、彼はずっと我慢してきた。

一緒にいて、辛くて仕方なかっただろう。

響子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

それが赤ちゃんの顔に落ちて、赤ちゃんが目を覚ました。

「(あ…ごめんね、起こしちゃったね)」

響子は、顔の辺りで手を動かしている赤ちゃんの背中をトントンとたたいてあやす。

⏰:10/04/05 08:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#300 [我輩は匿名である]
「…今日子…」

目を閉じたまま、優也が今日子の名前を呼ぶ。

もうほとんど声が枯れて出ていないため、響子は息を殺して耳を傾ける。

「……やっと…そっちに…行けるみ…いだ…」

優也は少し笑う。

「ごめ…な…、俺が…あんな事…言わなければ…お前たち2…とも…死ぬ事…なかったのに…」

優也はあの朝、急に「晩ご飯を作る」と言った事をずっと後悔していた。

「……俺…結局…何にも…し…やれなかったな…。

お前を…ただ疲れさせた…だけだった…。

……怒ってる…かな…」

優也は言いながら、大きく咳をする。

⏰:10/04/05 08:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。

「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。

でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」

響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。

「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。

そう思うと、もう涙が止まらない。

⏰:10/04/05 09:26 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#302 [我輩は匿名である]
「お前を見つけて……もう1度…プロポーズして……結婚して…次はちゃんと…あの子を…生んでやらないと…な…。

子どもは……2人が…いいな…。男の子と…女の子…。

男の子には…俺が…野球を…教えて…

女の子は…そうだな……今日子が…料理とか…教えるのも…いいかも…しれないな…。

子どもが大きくな…て……独り立ちしたら……俺達2人……いろんな所に…旅行に行こう……。

新婚旅行しか……どこにも…連れて行って…あげれなかった…から…」

優也の声が、息遣いが、だんだん小さくなってきている。

もうもたない。響子は思った。

息をする度に、ヒューヒューと苦しそうな音が、響子まで聞こえてくる。

何とか出来るなら何とかしてあげたい。響子はやるせなさでいっぱいだった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#303 [我輩は匿名である]
痰が絡んでももう咳をする力も無くなってきたのか、優也は下を向く。

「(…優也…もう息が…)」

さっきまで肩で必死に息をしていたが、今はそうではなくなってきている。

「…今日…子……、…ごめん…ごめん、な……」

優也はそれきり、もう何も話さなかった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#304 [我輩は匿名である]
「…うー」

不意に、赤ちゃんが声を出した。

目が潤んだまま視線を下ろすと、赤ちゃんはじっと、優也の方を見ている。

普通この小さならまだあまり目が見えないはずだが、赤ちゃんはまっすぐに彼を見ていた。

「…君のお父さんだよ」

響子は小さく笑う。

「次に生まれて来た時は…いっぱい抱っこしてもらおうね」

響子の腕の中の赤ちゃんは、まるでその言葉がわかったかのように、にっこり笑った。

⏰:10/04/05 09:28 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#305 [我輩は匿名である]
響子は静かに目を覚ます。

目の前には、真っ白い天井。家の天井ではない。

「あっ、目、覚めました?ここ病院ですよ」

足元で女性の声がする。

「病院…?」

「大丈夫?どこか痛む?」

声の主は、看護師だった。

「え…?」

「だって、涙出てるよ?」

そう言われて、響子は目の辺りを触る。確かに、両目に一筋の涙のあとがある。

⏰:10/04/05 21:49 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#306 [我輩は匿名である]
それも、まだ出来たばかりの。

「い…痛いんじゃないんです…」

響子は慌てて涙を拭く。

「そ、それより!」

ハッと思い出して、響子は飛び起きる。その拍子にベッドがギイッと音を立てる。

「私、私と一緒に、男の子が運ばれてきませんでしたか!?月城薫っていう子!」

急に声を上げたため、看護師は驚いている。

「…その子なら」

目をぱちくりさせつつ、看護師は響子に背を向け、響子の前のベッドを指差す。

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#307 [我輩は匿名である]
「そこのベッドにいるわよ。あなたより重症だけど、結構早く目を覚ましてたよ」

カーテンで仕切られていて、このベッドの外が見えない。

しかし、カーテンの外が明るいのはわかる。

「…今、何時ですか?」

「今?今ねぇ、朝の9時過ぎ」

「…朝?えっ、朝ですか?」

「えぇ、香月さん、昨日階段から落ちてからずっと寝てたのよ。大丈夫?」

「へ?はぁ、何ともないです」

「そう。ちょっと頭打ってたみたいだから、それでかな。一応今日検査の予定が入ってるから」

「検査…はい、わかりました」

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#308 [我輩は匿名である]
いまいちよくわからないまま、響子は了承する。

看護師はホッとしたように、響子の検温を始めた。

⏰:10/04/05 21:51 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#309 [我輩は匿名である]
検温が終わり、看護師が部屋を出て行った。

血圧も体温も呼吸数も脈拍も、全て問題無い。

怪我も、薫がかばってくれたからか、かすり傷で済んでいる。

「(はっ!月城くんは!?)」

響子はベッドの下に置いてあるスリッパを履き、一応挿してある点滴を引っ張って薫のベッドに向かう。

響子のベッドのカーテンを開けると、薫のベッドのカーテンも閉まっていた。

何だか少し緊張する。

が、今そんな事を言っている場合ではない。

響子はゆっくりと、薫のベッドのカーテンを開ける。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#310 [我輩は匿名である]
「…よぉ」

薫は、意外にも元気そうに挨拶してきた。

が、頭には包帯を巻かれ、左肩はギプスをした上に、腕ごと牽引されている。

ベッドも30度程頭を上げてある。

看護師の「重症」と言う事葉を思い出す。

「…月城くん…」

「…あぁ、何か結構ひどいな、俺」

薫は苦笑しつつ、自分の体を見る。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#311 [我輩は匿名である]
「頭は打撲で、何針か縫ったらしい。

このギプスは…鎖骨骨折って言われたかな。

肋骨も1本ヒビ入ってるらしいし、足もひねってる」

薫は開き直り、まるで自慢のように言う。

他にも、右の頬を覆うように湿布が貼られていたり、右手の指にまとめて包帯が巻かれている。

響子はそれを、じっと見つめる。

彼女の表情を見て、薫は小さくため息をつく。

「…全部思い出したのか、お前の事も、…俺の事も」

響子は黙って頷く。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#312 [我輩は匿名である]
薫はいつものように「そうか」と返事をする。

「…あなたが、死ぬところまで知ってる」

声を震わせて、響子は言った。

「…だからか」

薫は何かを納得したように返事をする。

「…嫌いになるわけないじゃない」

涙ぐみながら、響子は言う。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#313 [我輩は匿名である]
「私は、死ぬまでずっと、優也の事大好きだったよ。

…死んだ後も、今も、死ぬ前と同じぐらい大好きだよ。

なのに…何で『俺の事嫌いになったかもしれない』とか言うの?」

言っているうちに、またぼろぼろと涙が出てきた。

前からそうだった。1度泣けば、なかなか泣き止まない。

それを見て、優也はいつも呆れて笑っていた。

そんな事を思い出せば、また余計に涙が止まらなくなる。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#314 [我輩は匿名である]
「それに、私は優也のせいで死んだんじゃないよ。

逆に、私は優也の作る晩ご飯すごく楽しみだったし、買い物中も晩ご飯の事しか考えてなかったし…。

なのに、何で最後の最後まで私に謝って死ぬの?

私が、優也のせいで死んだって思ってると思ってた?」

「…キョウコ」

「『何もしてやれなかった』って、何でそんな事ばっかり言うの?

私は優也と一緒にいて、それだけで良かった。

横にいてくれるだけで良かったの…!

なのに、そんなに謝らないでよバカ…!」

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#315 [我輩は匿名である]
響子は、夢の中で感じた想いを全て薫にぶつける。

薫も黙ったまま、泣いている響子を見つめていた。

「…香月、おいで」

しばらくして、薫は右手で手招きした。

カーテンの所に立ちっぱなしだった響子は、そう言われてやっと、ベッドの傍の椅子に腰を下ろす。

それでもまだ泣き止まない響子に薫は呆れたように笑う。

「…本当によく泣くよな、昔から」

そう言った彼の顔は、優也の呆れ笑いそのものだった。

「…だって…」

それを見て、響子も笑みをこぼす。

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#316 [我輩は匿名である]
「1回泣くと止まらないんだもん、…昔から」

大きく息を吐きながら、響子は涙を拭く。

もうすでに、右手の袖がかなり濡れている。

「…悪かったよ。でも俺は…お前に謝らないと、どうしても気が済まなかった」

薫は響子から視線を外して言った。

「今日子がそんな事で怒らない性格も、俺を責めないだろうって事も、ちょっとわかってた。

でもどうしても、『俺があんな事言わなければ』って思っちゃってさ…」

薫は小さくため息をつく。

その後、もう1度視線を響子に戻した。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#317 [我輩は匿名である]
「…おかえり、今日子」

薫の声が震えている。

あの日、仕事を早く終わらせて帰ったが、今日子は家にいなかった。

警察から「奥様と思われる方が亡くなった」と連絡が入ったのは、優也が帰ってきた1時間後の事だった。

優也はそれまでずっと、今日子の帰りを待っていたのだ。

響子はその一言に、思わず椅子から立ち上がって薫を強く抱き締めた。

「…うん、…ただいま」

肩や左胸に痛みが走る。が、薫はそんな事はもうどうでも良かった。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#318 [我輩は匿名である]
薫も右手を響子の背中に添える。

やっと、帰ってきてくれた。

薫の目から、一筋の涙が流れ落ちた。

⏰:10/04/05 21:56 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#319 [我輩は匿名である]
>>001-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:10/04/05 22:05 📱:D905i 🆔:fxbTxKTM


#320 [ま]
よかったのぅ(;_;)

⏰:10/04/05 23:23 📱:P04A 🆔:EQ1YcyFU


#321 [我輩は匿名である]
>>319さん
アンカーありがとうございます

>>320さん
薫ちゃんやっと報われましたね(*´∇`)
薫編(?)はこれで一段落です

⏰:10/04/06 08:15 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#322 [我輩は匿名である]
直人は病室の前で、何となく入りづらくて悩んでいた。

結局あの後、救急車のついでに警察までやってきて、いろいろと状況を説明され、

まるで事件のようになってしまい(まぁ事件は事件なのだが)、

怜奈も警察に連れて行かれて、その後どうなったのか知らない。

今日の朝刊に小さく『女子高生が同級生を階段から突き落とす』と載っていた。

補導なり逮捕なりされたのだろうが、怜奈がどうなったのかはどうでも良かった。

「…何してんの?」

背後で声がした。

振り向くと、一緒に事の始終を目撃したあの女子が立っている。

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#323 [我輩は匿名である]
「な、何って…」

「…はぁー、そりゃ入りにくいよね」

女子はわかりきったような口調で言い、ニヤリとする。

「は?」

「そりゃ今頃抱き合ったりチューしたりしてそうだもんね、感極まって」

「…お前そーゆーの鋭いよな、無駄に」

「無駄はないでしょ、無駄は」

女子はムスッとする。

「ちょっとだけ様子見て帰ろっか」

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#324 [我輩は匿名である]
「え、お前も見舞いに来たの?」

「当たり前でしょ!?じゃなきゃ来ないわよ」

そりゃそうだな。直人は「まぁ…」と頷く。

その間に、女子はさっさと部屋に足を踏み入れる。

「(…はやっ)」

女子の行動の速さに直人が呆れていると、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

「はぁ?」

2人はこそこそと小声で話ながら部屋を見渡す。

直人も見てみるが、枕元に「香月響子様」と書かれたベッドが空っぽだ。

⏰:10/04/06 11:23 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#325 [我輩は匿名である]
一方、薫がいるらしいベッドのカーテンは閉めきってある。

「(もしかして、本当に2人であんな事やこんな事まで…?

いやいやいやいや、薫に限ってそんな事はありえない!)」

「こっちかな?」

直人がいやらしい想像をしている間に、女子が薫のカーテンの前に立つ。

「えっ、ちょっ…」

直人が止める前に、女子はカーテンの端を少し開けて中を見た。

中の様子を見て、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

女子はさっきと全く同じ事を言う。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#326 [我輩は匿名である]
「…はぁん?」

直人は「何だそれ」と思いつつ、一緒に中を見る。

そこでは、薫が1人、ベッドですーすーと寝息を立てているだけだった。

「…結構怪我してるね、大丈夫かな?」

「うーん…まぁ寝てるとこ見たら大丈夫なんじゃないか?」

「あなたたち」

2人の後ろで声がする。

恐る恐るそろって振り向くと、怖い顔をした看護師がこっちを睨んでいた。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#327 [我輩は匿名である]
「そこで何してるの?」

「えっ、いや…」

「お見舞いに来たんですけど…」

「そうそう、でも薫寝てるし」

「香月さんもどっか行ってるし…」

2人は慌てて弁解する。

「あぁ、お友達?あんまり怪しかったから、何かと思って」

看護師はきょとんとしている。

「あんたがもたもたしてるからよ」

「俺のせいかよ!」

2人は小声で言い合う。

⏰:10/04/06 16:25 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#328 [我輩は匿名である]
「香月さんなら、今検査に行ってるわよ」

看護師も同じように、こそっと2人に耳打ちする。

「そうなんですか」

「ところでこの2人、やっぱ恋人同士なの?」

看護師が目を輝かせて聞いてきた。

女はみんなこうなのかと、直人は呆れ返る。

「さぁ…どうなのよ、そこんとこ」

「また俺!?ま、まぁ友達未満恋人以上…?」

「逆でしょ、それ」

今度は女子が呆れる。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#329 [我輩は匿名である]
「えー絶対彼氏だと思ってたのに」

「何で?」

「だってさっき…」

看護師が何かを言おうとした時、薫が大きな咳払いをした。

「(起きてる…)」

直人と女子がぎょっとする。

「大丈夫?痰絡んでるから吸引した方がいい?」

「大丈夫です」

看護師の問いに、薫は低い声ではっきりと返事をした。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#330 [我輩は匿名である]
「そう?また何かあったらすぐ言って下さいね」

看護師はそう言って、逃げるように部屋を出ていった。

2人は「どうしよう」と顔を見合わせる。

「…そんな所に突っ立ってないで、入れよ」

薫が少しイラッとしたように言った。

2人は説教される気で、「はい…」と中に入る。

薫の視線が痛い。

「い、いつから起きてたの?」

「『香月さん、いないよ』で目が覚めた」

「お前のせいじゃねーかよ」

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#331 [我輩は匿名である]
「何でそうなるのよー」

「…黙れ。ここ病院だぞ」

「はい…」

少し大きな声がまた言い合う2人に、薫が静かに言い捨てる。

「…怪我、やばそうだな」

「いや、そうでもないよ。じっとしてればほとんど痛くないから」

「そっか、良かったね」

女子がホッとしたようににっこり笑う。

薫はじーっと女子を見つめる。

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#332 [我輩は匿名である]
「…昨日から思ってたんだけどさ」

薫が口を開く。

「うん」

「…あんた、誰?」

薫が言って、直人も思い出したように「そうだよ!」と声を上げる。

「お前誰?何で俺のケータイ持ってたの!?ストーカー!?」

「直人、うるさい」

「ストーカーなわけないでしょ!『落としてたから』って言ったじゃん!」

女子は小声で直人に言い返す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#333 [我輩は匿名である]
「私、香月さんの隣のクラスの安斎奏子」

「あんざいかなこ?」

「そうよ、何か文句ある?」
「いや、ないけど」

直人と奏子のやり取りを見て、薫は小さく笑った。

2人はきょとんとする。

「…何だよ」

「いや、何かお似合いだなぁーと思って」

「誰がこんな奴と!」

直人と奏子はそろって互いを指差す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#334 [我輩は匿名である]
息がピッタリな2人に、薫は声を上げて笑う。

「あー、いたたたた…」

「大丈夫?」

「笑かすな…肋骨に響く…」

薫は左胸をさすりながら呼吸を整える。

「ねぇねぇ、やっぱ香月さんの彼氏さんなの?」

奏子は懲りずに薫の尋ねる。

直人は呆れながら奏子を見下ろす。

⏰:10/04/06 18:38 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#335 [我輩は匿名である]
「彼氏…まぁ彼氏だろうなぁ」

薫は曖昧な返事をする。

奏子も「何それ?」と首をかしげる。

「何かしっくりこないなぁと思って」

「それ以上の関係そうだもんな、お前ら」

「それ以上!?」

奏子は愕然とする。

同時に、薫は直人を睨み上げる。

⏰:10/04/06 18:39 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#336 [我輩は匿名である]
「えっ、えっ、まさか…」

「言っとくけど、俺まだキスとか手出したりとかしてないからな」

「『まだ』!?」

女子は「真面目そうに見えるのに…」と、哀れみの視線を薫に送る。

「もう帰れ!俺は疲れてるんだ!」

薫は2人を怒鳴り付ける。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#337 [我輩は匿名である]
2人は「失礼しましたー!」と、走って出ていった。

薫は本当に疲れたように、大きくため息をつく。

「ただいまー」

入れ違いに、響子が検査から帰ってきた。

「…どうしたの?怖いよ?顔」

勝手に薫のベッドのカーテンを開けながら、響子が尋ねる。

「いや…大丈夫…」

薫は返事をしながら、大きくため息をついた。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#338 [我輩は匿名である]
「はぁ…疲れた…」

病院を出て、直人と奏子は息を切らせて立ち止まる。

「本当…あんなに怒られると思わなかったね…」

「お前…地雷踏みすぎだろ…」

「そ…そうかな…?」

2人は話ながら、目の前にあった椅子に座る。

「…さっきの看護師…何言い掛けてたんだろうな…?」

「…ほんとだね」

「かなり気になるね」と、奏子は目を光らせる。

その様子に若干呆れながら、直人も考える。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#339 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり…わかるもんなのかな…?)」

薫は高校に入ってすぐ、響子が前世の自分の妻だった人だと見破った。

それは、ただ薫が、勘が冴える奴だからなのか、

それとも本を持つ者はみんなそうなのか…。

もし後者なら、自分にもそんな力があるのか…?

「……そう言えば…大橋さん…どうなったんだろうね…」

奏子がふと、そんな事を言った。

考え込んでいた直人は、「は?」と、ふざけた声を出す。

「……どーでもいいよ…あんなやつ……」

奏子は「まぁね…」と頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#340 [我輩は匿名である]
「…大橋さんさ…小学校の時から、あんな感じだったんだ」

「え、知ってんの?」

「小・中一緒だったもん」

こいつは何でも知ってるな。直人はじーっと奏子を見る。

「ほら…あの子、結構背も高いし、顔も可愛い方だし、スタイルも抜群でしょ?

だから、周りからちやほやされっぱなしで…」

「だから調子にのったのか、あいつ」

奏子は頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#341 [我輩は匿名である]
「自分が欲しいものは絶対手に入れないと気が済まない。

でも、月城くんは香月さんを選んだ。

…だから、許せなかったんじゃない?」

「まぁ香月は結構ちっちゃいしな」

「そうだね、私は香月さんの方が可愛いと思うけど」

「可愛いっていうか、将来美人になりそうな顔だよな」

2人は「うんうん」と頷く。

「…だから『私より劣ってるくせに』とか言ってたのか」

「そういう事。ここまで大事になったのは初めてだよ。

もういい加減懲りて、こんな事しなくなるんじゃない?」

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#342 [我輩は匿名である]
「これ以上やったらもう人間失格だろ」

直人はため息をつきながら笑う。

「…さて、帰るか」

「そうだね」

直人と奏子は椅子から立ち上がり、一緒に家に帰っていった。

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#343 [我輩は匿名である]
「さーてさて…お?」

奏子と別れて1人で歩いていた直人は、ふと足を止める。

目の前を、ジャージを着た金髪の女性が歩いている。

飛鳥のようだ。

直人は早足で近づく。

斜め後ろくらいから顔を見ようと、前かがみで歩く。

「(やっぱりな)」

ジャージの女性は、やはり飛鳥だった。

「おい、金髪女」

直人はポンと、彼女の肩をたたく。

⏰:10/04/06 20:42 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#344 [我輩は匿名である]
飛鳥は足を止め、ゆっくりと振り向く。

彼女の顔を見て、直人は少し驚いた。

ひどく疲れたような、暗い表情。

「え、何…どうしたんだよ?…お前、最近元気ないぞ?」

直人は内心焦りながら、おどけて笑ってみせる。

が、飛鳥はにこりともしない。

彼女が笑わないのはいつもの事だが、今日はどう見ても様子がおかしい。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#345 [我輩は匿名である]
「…あんたさぁ…」

飛鳥が静かに口を開く。

「…本読んでて、人間不信になった事ない…?」

「…は…?」

直人は首をかしげる。

「俺は、別に…ないけど…」

「……だろうね、あんたなら。…変な事聞いた、ごめん…忘れて」

飛鳥はそれだけ言って、またフラフラ歩きだす。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#346 [我輩は匿名である]
「ちょ、ちょっと待てよ」

直人はとっさに、飛鳥の手を掴む。

しかし、飛鳥が素早くその手を振り払ってしまった。

「……ほっといて…。誰とも話したくない…」

直人は言葉が出なかった。

一体何があったのだろう…?

寂しげに見える飛鳥の背中を、直人はただ心配そうに見つめるしかできなかった。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#347 [我輩は匿名である]
次から次へと問題が起きる。

薫の件がほとんど片付いたと思えば、今度は飛鳥の様子がおかしい。

ベッドの上で、直人はぼーっと考える。

『本を読んでて、人間不信になった事ない?』

あの言葉は一体何だったのだろう。

「(…あいつが…今そうなのかな…?)」

今まで普通に話していたのに、「誰とも話したくない」と言う。

彼女の話からすれば、本のせいでおかしくなったのは明らかだ。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#348 [我輩は匿名である]
「(…あ!そういえば)」

直人は飛び起きて、机にほったらかしになっていた本を手にとる。

昨日は怜奈の一件で、本を見るのを忘れていた。

「あー、くそう…昨日何もなかったよな…?」

直人は何もなかった事を願いながら本を開く。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#349 [我輩は匿名である]
要は直人と同じように、布団の上に寝転がっていた。

「…晶ちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう…?」

部屋の中で1人呟く。

この間会いに行った時の、晶のあの態度。

直人と同じように、要もかなり気にしていた。

「(…そりゃそうだよな…。俺は…)」

こいつの生まれ変わりなんだから。

そう思いかけて、直人はふと、それを止めた。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#350 [我輩は匿名である]
“本の中の自分”は、自分の前世の人間。

先に本を手にし、全て読み終えた薫が認めるのだから、ほぼ間違いない。

それでも、直人はどこか、それを認めたくなかった。

「俺の前世が要だろうが…俺は俺だ…」

心の中でそう呟いた後、変に複雑な気分になった。

「…もし明日も来なかったら、もう1回会いに行ってみよう」

「…この間来なかったんだから、明日も来るわけないだろ…」

要の言葉に、直人は呆れたように言い返す。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#351 [我輩は匿名である]
今日はそこまでだった。

直人は頭を抱える。

「…俺は…俺だよな…」

そう言いながら、直人は携帯電話に手を伸ばす。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#352 [我輩は匿名である]
「なぁ」

部屋の窓から夕日を眺めながら話していた薫は、ふと響子に言う。

「ん?」

「…そろそろ…“月城くん”って呼ぶの、やめないか?」

いきなりの申し出に、響子は隣できょとんとする。

が、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「…私の事、まだ“長谷部今日子”って呼ぶくせに」

⏰:10/04/07 10:42 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#353 [我輩は匿名である]
「…あれは…」

薫は「うーん…」と首をかしげる。

“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”

もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。

そういう思いもあった。


しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。

「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」

響子はぽつりと言った。

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#354 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」

響子は少し淋しそうに下を向く。

「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」

響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。

「…キョウコ…?」

「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」

響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#355 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?

顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。

でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」

響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。

「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。

“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。

…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」

響子の声が震えている。

薫は何も言えなかった。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#356 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。

「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」

響子はうつむいたまま言う。

「でも…」

「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#357 [我輩は匿名である]
何か言おうとするが、響子が先に、ベッドのナースコールを押す。

それに出るより早く、受け持ちの看護師がやってきた。

「どうしました?」

「電話しに行きたいらしいんですけど…」

「あぁ、電話ね。座れる?座れそうなら車椅子持ってくるけど…」

「え、あぁ…はい…」

うわの空のまま薫が答えると、看護師は「じゃあちょっと待っててね」と、車椅子を取りに行ってくれた。

看護師が戻ってくるまで、薫も響子も、何も言わないまま目を逸らしていた。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#358 [我輩は匿名である]
「…あぁ…病院だし、電話すんのはマズかったかなぁ…」

直人は、メールじゃなく電話をかけた事を後悔した。

考え直して、メールを作成し始める。

すると、途中で薫から折り返しの電話がかかってきた。

「もしもし?」

「…ごめん、病室じゃ電話出来ないから、移動してた」

そう言った薫の声が、昼に比べて暗かった。

「もしかして、寝起き?」

「…いや…起きてたけど」

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#359 [我輩は匿名である]
「そうか?なんか暗そうだけど」

「そんな事より、どうした?」

薫は直人の話を遮るように聞き返す。

「え、あぁ…」

何から言えばいいのかわからず、直人は焦る。

「…お前さぁ、本の中の自分の事、すぐ“自分の前世だ”って思えた?」

「…どういう意味?」

薫はまた聞き返す。

思うように伝えられず、直人は頭を抱える。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#360 [我輩は匿名である]
「なんか最近、本読んでたら、変な感じがするんだ。

今までは、要と考える事も、言いたい事も一緒で、『こいつが俺の前世なのかぁ』って思ってたんだけど…

なんか、そう思いたくなくなってきたんだよ。

自分が自分じゃなくなってきそうな気がしてさ…。

どう言えばいいのかわかんねぇけど…“俺はあいつじゃない”っつーか…。

“俺は俺だ”って言い聞かせとかないと…気分悪くなってくるんだよ」

「…“俺は俺”…」

薫はぼそっと、それだけ繰り返した。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#361 [我輩は匿名である]
「薫は、そんな事思った時なかった?」

直人が尋ねるが、薫から返事はない。

「…薫?」

「え?あぁ、ごめん、…もう1回言って」

「だぁかぁらぁ、薫はそう思った事なかったか?って」

直人は少し強めの口調で言い直す。

「…俺は…なかったな…。ただ黙って、何も思わないまま、目の前の事を見てるだけだった…」

薫の言い方が、まるで後悔しているように聞こえる。

いつも何でも知っている薫がこれでは、自分が正しいのか正しくないのかわからない。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#362 [我輩は匿名である]
「なぁ、何かあったのかよ?元気ないだろ?お前」

直人は問いただすように尋ねる。

「…お前は…」

薫はそれだけ言って、また黙ってしまった。

「もう!何なんだよ!?言いたい事あるならさっさと言えよ!」

短気な直人は、イライラしたように声を上げる。

「…何かもう、わからなくなってきた」

薫は弱々しく言った。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#363 [我輩は匿名である]
「何が」

「…さっき、キョウコに…香月に言われたんだ。

“私は月城薫が好きだ。でも月城くんが言うキョウコは、どっちのキョウコなのか”

…って」

直人は、最初は意味がわからなかった。

思わず「は?」と聞き返す。

「…香月は…“霜月優也”じゃなくて、“俺”を見てくれてる。

でも俺は…誰を見てるんだろう…。そう思ったら、もうわからなくなってきてさ…」

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#364 [我輩は匿名である]
直人には、薫の話がバカらしく聞こえて仕方がなかった。

「…お前って、そんな失礼な奴だっけ?」

直人はストレートに言い返す。

「そりゃお前、“お前より前の女の方が好きです”って言ってるようなもんだろ。

しかもあいつは、前の夫より“お前”が好きだって言ってくれてんだろ?

そりゃあ、香月が怒るのも無理ないだろ」

薫は「響子が怒っている」とまでは言わなかったが、直人はそこまで言い切る。

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#365 [我輩は匿名である]
「それに…名前忘れたけど、前の嫁はもう死んだんだぞ?

いつまでもその人ばっか考えてたってしょーがねぇだろ。

その人はその人、香月は香月だろ」

そして、言った自分もハッとする。

「直人…」

「そうだ!やっぱそうだよな!」

直人は自分で納得し、ガッツポーズをする。

「何…」

「わりぃ!自己解決したわ!じゃあな!」

直人は大声で言って、一方的に電話を切った。

⏰:10/04/07 11:05 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#366 [ま]
うっへーい

⏰:10/04/07 16:47 📱:P04A 🆔:tadRV.Mw


#367 [我輩は匿名である]
「あぁ…あれは…」

薫は『どう言えばいいのか』と首をかしげる。

“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”

もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。

そういう思いもあった。


しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。

「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」

響子はぽつりと言った。

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/07 18:24 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#368 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」

響子は少し淋しそうに下を向く。

「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」

響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。

「…キョウコ…?」

「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」

響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#369 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?

顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。

でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」

響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。

「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。

“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。

…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」

響子の声が震えている。

薫は何も言えなかった。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#370 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。

「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」

響子はうつむいたまま言う。

「でも…」

「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#371 [我輩は匿名である]
すいません、
>>367-370
はミスです

失礼しました

⏰:10/04/07 18:28 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#372 [我輩は匿名である]
薫は「何だったんだ…」と携帯電話を見つめる。

「(…“そりゃ怒るだろ”…か…。…そうだよな…)」

直人の言った事を、薫はもう1度思い返す。

そして、薫は来たときよりも早く車椅子を走らせて、病室に戻った。

響子は自分のベッドに転がっている。

「香月、ごめん」

帰って来て早々、薫は響子に頭を下げる。

響子は少し驚いたように起き上がる。

「…どうしたの?」

⏰:10/04/07 18:31 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#373 [我輩は匿名である]
「…俺…おかしかった」

響子は黙って、薫を見つめる。

「俺、香月響子と長谷部今日子は同じだと思ってた。
自分の事も、“俺は霜月優也だ”としか思ってなかった…。

だから正直…お前を“香月響子”だと思って接した事はない。

今までずっと、お前を“長谷部今日子”だと思って傍にいたんだ」

薫は、響子に嫌われる事を承知で、全て話した。

⏰:10/04/07 18:32 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#374 [我輩は匿名である]
「お前は…香月は最初から“俺”と“霜月優也”を別にして考えてくれてた…。

……当たり前だよな…。長谷部今日子も霜月優也も、もう死んでこの世にいないのに…。

同じ人間がいるなんて事…あるわけないんだよな…。

…何でそんな簡単な事もわからなかったんだろうな…俺…」

薫はずっと頭を下げたまま話す。

あの体勢では、怪我した左胸が痛んでいるはずだ。

「…月城くん…もういいよ」

響子は止めようとするが、薫は頭を上げようとはしない。

⏰:10/04/07 18:32 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#375 [我輩は匿名である]
今まで、響子は“月城薫”を好きでいてくれた。

“霜月優也”を好きなのは、彼女の記憶の中の、“別の女”だ。

余計にこんがらがりそうな頭の中を、薫は必死に整理する。

今まで自分の隣にいてくれたのは誰?

今まで自分に優しく笑いかけてくれたのは誰?

「(でも俺は…今まで今日子しか…)」

「その人はその人」

直人の言葉が頭に浮かぶ。
響子は、下を向いたまま考え込んでしまった薫を気にして、立ち上がって隣にやって来た。

⏰:10/04/07 18:33 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#376 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?」

「なんかもう…わからなくなってきた…」

薫は深刻そうな顔で考える。

響子はため息をつき、こんな事を言いだした。

「どうしても長谷部今日子の事しか考えられないなら、私が越えてやるわ。

月城くんが他に何にも考えられないぐらいの女になってやる。

そうすれば、月城くんもスッキリするでしょ?」

何を言いだすのかと、薫思わず顔を上げる。

響子は自信満々に笑っている。

それががおかしくて、薫も呆れたように笑い返した。

⏰:10/04/07 18:43 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#377 [我輩は匿名である]
「出来んのか?お前に」

「私が『会いたくない』ってメールしただけで淋しがる男が何言ってるの?」

響子は怯むことなく言い返してくる。

「わからせてあげるわ。私は長谷部今日子とは違うって事」

「…まぁ、身長は伸びたもんなぁ。それでもまだまだチビだけど」

薫は意地悪そうに笑い返す。

「チビって言わないで!一応155cmあるんだから!」

「俺の中では160cmないヤツはみんなチビなんだよ」

「な…」

響子は悔しそうに腕を組んで、言い返す言葉を考える。

⏰:10/04/07 18:43 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#378 [我輩は匿名である]
それを見て、薫は少し下を向いて笑った。

長谷部今日子は、こんなに言い返してくる性格ではなかった。

霜月優也は、そんなおしとやかな彼女が好きだった。

こんなくだらない言い合いをした事などない。

「(…確かに、あいつとは違うな…)」

「…何笑ってんの?」

少し顔を上げると、さっきまで怒っていた響子が、しゃがみこんでこちらを見上げている。

⏰:10/04/07 18:44 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#379 [我輩は匿名である]
「…別に。何か面白くなっただけ」


薫はすました表情で言う。
響子も「…確かに」と返事をして笑う。

いつもの笑顔に、薫も何だかホッとして小さく笑い返した。

⏰:10/04/07 18:44 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#380 [我輩は匿名である]
「そうだよな、要は要、俺は俺だよな!」

その頃、直人は清々しい気分でいっぱいになっていた。

携帯電話を枕元に放り投げ、寝転がる。

「(初めて薫に勝った気がするぞ…)」

今まで勉強でも運動でも薫に負けてきた直人は、大の字に寝転がってニヤける。

何だか自分に自信が湧いてきた。

さっきまでの不安も吹き飛ばして、早く明日にならないかと、直人は窓の外を見上げていた。

⏰:10/04/07 22:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#381 [我輩は匿名である]
次の日。

直人はドキドキしながら本を見つめている。

果たして、晶との関係はどうなるのか。

深呼吸を1回して、直人は一気に本を開く。

⏰:10/04/07 22:53 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#382 [我輩は匿名である]
要は早足でどこかへ向かっていた。

太陽はもうだいぶ高く上っている。

「えっ、何だよいきなり?どこ行ってんの?」

珍しく速く過ぎていく景色に、少し酔いそうになる。

「やっぱりおかしいよな…。何か怒ってたし…今日も結局来なかったし…」

要は小さく独り言を言いながら歩いていく。

「やっぱり来なかったのか…」

直人はため息をつく。

という事は、今は施設に向かっている途中なのだろう。

⏰:10/04/07 22:54 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#383 [我輩は匿名である]
晶を説得しに行くのか、別れを告げるのか。

どうやら今日が正念場のようだ。

直人は思わず力む。

あの角を曲がれば、晶のいる養護施設だ。

要も直人も、ただ黙って突き進む。

そして。

「(いたいた…)」

晶は、今日は門の傍にボーッと座っていた。

⏰:10/04/07 22:54 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#384 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん」

いつになく、要は何の躊躇いもなく話し掛ける。

晶はそれに気付き、また背を向けようとする。

「逃げないでよ!」

要は思わず声を上げる。

晶はピタッと足を止める。

「俺、ちゃんと話がしたいんだ!だから、逃げないで!」

要は必死に晶を引き止める。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#385 [我輩は匿名である]
晶は突っ立ったまま何も言わない。

沈黙のまま、ただ時間が過ぎていく。

その間ずっと、要は晶の返事を待ち続ける。

「………ちょっと待ってて」

要の粘りに負け、晶はそう言って建物に入っていった。

しばらくして、晶が戻ってきた。

「…来て」

門から出るなり、晶は要の手を引っ張って連れ出す。

要も何も言わずに、言われた通りについていく。

しばらく歩いて、2人はあまり人通りの多くない通りに入った。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#386 [我輩は匿名である]
「…何?」

晶は視線も合わせずに尋ねる。

「…何でいきなり来なくなったの?俺ずっと待ってたのに」

要は少し苛立ったように聞き返す。

「『待ってた』?…うそ言わないでよ」

晶は笑う。

「あんたがそんな嘘つきだったなんて…最低」

「嘘なんかついてないよ!俺毎週…」

「知らない女の人と、楽しそうに歩いてたじゃない!!」

晶は声を荒げながら振り向く。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#387 [我輩は匿名である]
「…何の事?」

要は首をかしげる。

しかし、直人は「あ…!」と声を上げた。

晶が言っているのは、きっと道案内を頼まれたあの日の事だ。

「あれは…!」

要も直人と同時に気付き、事情を説明しようとする。

しかし晶は冷たい視線を送ってそれを止める。

「そりゃ、私みたいな子といるよりも、あんな美人な人といる方が楽しいよね」

「違うよ!あの人は…」

⏰:10/04/07 22:56 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#388 [我輩は匿名である]
「私、ずっとあそこで待ってたのに!」

晶は「見損なった」という目で要を見る。

今度は逆に、要と直人がその言葉を疑った。

「待ってた?だって、2時になっても来なかったじゃないか!」

「あの日は、小さい子のお世話してたらちょっと遅れて…。

でも、遅れたって言っても2、3分だけよ!

私、走って行ったのに…」

「だ…だって、あの日は来れないって…」

「いい加減な事ばっかり言わないでよ!!

いつ私がそんな事言った!?」

⏰:10/04/07 22:56 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#389 [我輩は匿名である]
「…え…?」

2人ともわけがわからない。

しかし、少し考えて、直人は理解した。

「…あいつ…俺達をはめたって事か…?」

美代が「伝言だ」と要のところに来た、あの日。

理由がない事しか気にしていなかった要と直人。

それが、美代が勝手に作り出した嘘だったとしたら…。

「…あの人は、そんなんじゃないよ」

要は先に、あの女性の話をするつもりのようだ。

⏰:10/04/07 22:57 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#390 [我輩は匿名である]
「あの人は、俺に道を聞いてきたんだ。姫崎公園に行きたいって。

説明するだけにしようかと思ってたけど、ややこしいし…。

晶ちゃんも来なかったから、案内した方が早いと思ったんだ」

「…道案内だけであんなに楽しそうに喋れる?」

晶は全く信じてくれない。

「…さっきから思ってたんだけど…」

さすがに要も腹が立ってきたのか、不機嫌そうに言い返す。

「晶ちゃん、何で俺達が一緒に歩いてたの知ってるの?」

要が女性を案内した道は、待ち合わせ場所から角を曲がらないと見えない。

要はそれがひっかかっていたらしい。

⏰:10/04/07 22:57 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#391 [我輩は匿名である]
晶はなぜか、うつむいて黙り込む。

「………後をつけてきてたの?」

そう聞いても、晶はまだ返事をしない。

否定しないという事は、そうなのだろう。

「…もう意味わかんねぇよ…」

直人はモヤモヤして仕方がない。

晶も要も、ただ黙り込む。

「…もう信じないよ、…何言われても」

晶は言った。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#392 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん…!」

「やっと信じられる人を見つけたのに…その人にまで裏切られたら、

何も信じられなくなるに決まってるじゃない!

大っ嫌いよ!あんたなんか!!二度と来ないで!!」

晶は叫ぶようにそう言って、逃げるように走りだす。

要も反射的にそれを追う。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#393 [我輩は匿名である]
「…要…何で気付かねぇんだよ…!」

素直な要は、美代が疑わしいという考えには、まだ行き着いていないのだろう。

美代が勝手に言いに来たという事を話せれば、晶も話を聞くかもしれないのに。

「こいつが…俺だったら…!」

直人は悔しくて仕方がなかった。

ここにいるのが自分なら、晶に全て話せるのに。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#394 [我輩は匿名である]
あと少しで追いつく。

ちょうど、目の前にある信号は、赤。

ラッキー。直人は思った。
しかし、晶の走る速さは緩まない。

あとほんの4〜5m。

「信号ぐらい守れよ…あのバカ女…!」

直人はそう願ったが、晶には信号など見ている余裕はなかった。

⏰:10/04/07 22:59 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#395 [我輩は匿名である]
晶が飛び出すと同時に、大きなクラクションの音が鳴り響く。

そのまま走り抜けてくれれば良いのに…。

晶は直人の願いをことごとく無視し、車線のど真ん中でびっくりして足を止めてしまった。

あれでは「はねて下さい」と言っているようなものだ。
飛び込むように、要は思いっきり地面を蹴る。

⏰:10/04/07 22:59 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#396 [我輩は匿名である]
「まさか…」

そう、そのまさかだった。

要が両手で思いっきり、晶を突き飛ばした。

晶はその勢いで、向こうの歩道近くまで弾き飛ばされる。

要はそれを見て、少し笑う。

視界の端には、急ブレーキをかけつつも突っ込んでくるトラックが見える。

もうだめだ。2人がそう感じた直後、言い表わせないような大きな衝突音が、辺りに響き渡った。

⏰:10/04/07 23:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#397 [ま]
うおー(´・ω・`)
気になる終わり方(´・ω・`)!

⏰:10/04/08 00:14 📱:P04A 🆔:D8BvOrpE


#398 [(´_ゝ`)]
気になる!

⏰:10/04/08 00:25 📱:T003 🆔:W0eBz97A


#399 [我輩は匿名である]
>>397さん
いつもコメントありがとうございます
存分に気になって下さい

>>398さん
初コメントありがとうございます
続きは少々お待ち下さい

⏰:10/04/08 09:47 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#400 [我輩は匿名である]


⏰:10/04/08 12:30 📱:SH904i 🆔:☆☆☆


#401 [我輩は匿名である]
直人は「うわぁぁぁぁ!」と叫びながら、手にあった本を壁に投げつけた。

何もしていないのに、息が切れ、汗をびっしょりかいている。

「(な…何だよ…今の…)」

そう思った直後、急に激しい吐き気に襲われた。

口を押さえてトイレに駆け込む。

幸い、呼吸を整えていると吐き気はおさまってきた。

しかし、直人はまだ、何が起こったのか理解できない。

「(…あれ…俺が…違う……要が…はねられたって事か…?)」

5分ほどトイレに閉じこもった後、直人はフラフラと部屋に戻る。

⏰:10/04/08 19:10 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#402 [我輩は匿名である]
部屋に入り、ドアを閉めたところで、足の力が抜けてしまった。

ドアにもたれ、茫然とする。

足元に、あの本が落ちている。

直人は這うようにそれに近づき、恐る恐るもう1度手にしてみる。

全身が震えている。まるで「開くな」と言っているように。

しかし、直人はそれを振り切って、それをゆっくりと開いた。

⏰:10/04/08 19:11 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#403 [我輩は匿名である]
『5月19日

長月要は石川晶と話し合う事にした。

2人は互いの言い分をぶつけ合ったが、途中で石川晶が逃げ出した。

長月要は後を追ったが、石川晶が信号を無視し、横断歩道に飛び出した。

走行中だったトラックがブレーキをかけたが間に合わず、

彼女をかばった長月要がはねられ、路面に全身を強打した。

特に強く頭を打ちつけており、約7分後に救急車が到着したが、ほぼ即死だった。』

⏰:10/04/08 19:11 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#404 [我輩は匿名である]
それはもう、最後のページだった。

直人は凍りつく。

「……即死……?」

手から本が滑り落ちる。

長月要は死んだ。晶をかばって。

そんな…。声に出したつもりだが、出なかった。

『即死だった』

その言葉だけが、頭の中でぐるぐる回る。

「う…嘘…だろ…」

直人は無理やり声を押し出す。

⏰:10/04/08 19:12 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#405 [我輩は匿名である]
「俺は…」

違う。直人は考えを振り切るように首を振る。

「(…あれは…俺じゃない…俺じゃない…!

俺は…ちゃんと生きてるだろ…?

死んだのはあいつだ…長月要だろ…)」

何度も自分に言い聞かせる。

しかし、言い聞かせる度に、どんどん複雑な気分になっていく。

⏰:10/04/08 19:12 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#406 [我輩は匿名である]
怖かった。今でも鳥肌がおさまらないほど。

自分に近づいてくる猛スピードのトラック。

耳をつんざくようなブレーキの音。

忘れようと思っても忘れられない。

自分に起こった事にしか思えず、それが余計に直人の頭の中をかき乱す。

「(違う…違う…!

あれは…俺じゃない…!

…俺じゃないのに…)」

直人は1日中、立ち上がる事すらできずに、ただボーッと座り込んでいた。

⏰:10/04/08 19:13 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#407 [我輩は匿名である]
次の日。

昨日の晩は一睡も出来ず、直人の目の下に薄くくまが出来ていた。

1日経っても、まだ何も考えられない。

薫はまだ入院中のため欠席だが、その上飛鳥まで休みだった。

相談できる人が誰もいない。

直人は机で1人、頭を抱える。

朝礼で、金曜日の階段での事故について担任から話があったが、

今の直人の耳に入るはずもない。

時間が経つのが異様に早く、気が付けば下校時刻になっていた。

⏰:10/04/08 22:48 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#408 [我輩は匿名である]
弁当を食べたかどうかも覚えていないが、弁当箱が軽くなっているのを見ると、無意識に食べたのだろう。

直人は暗い顔で、何気なく携帯電話を取り出してみる。

ちょうど、メールが1通届いている。

メールは薫からだった。

『明日退院出来るってヽ(´▽`)/

でもまだ一応自宅安静らしい…。

暇だから時間があったら遊びに来い。』

「(……こんな時にふざけた顔文字送って来やがって…)」

直人は心の底からイラッとした。

⏰:10/04/08 22:49 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#409 [我輩は匿名である]
しかし、退院出来るようになったなら良かった。

薫には、聞きたい事も、聞いてほしい事もたくさんある。

ほんの少しホッとして携帯電話をしまう。

そして教室を出ようとすると、ドアから室内を覗いている響子と奏子の姿があった。

「…あ!いたいた」

直人と目が合い、奏子が声を上げる。

2人は小走りで直人に駆け寄る。

⏰:10/04/08 22:49 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#410 [我輩は匿名である]
「香月…いつ退院したんだよ?」

「昨日ね。私はほとんど無傷だったし、検査でも異常なしだったから」

「…そっか…良かったな」

直人は元気なく笑う。

「で…俺に何か用…?」

いつもとは全く違う直人の様子に、2人は顔を見合わせる。

「今日の朝、学校行ってたらあんた見つけてさ。

でもなーんか元気無かったから、何となく気になって」

そう言ったのは、奏子だった。

否定できず、直人は「あぁ…」とうつむく。

⏰:10/04/08 22:49 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#411 [我輩は匿名である]
何か悪い事を言ってしまったのかと、奏子は少しおどおどする。

「…本を読み終えたの?」

響子はそれだけ直人に尋ねた。

直人はハッと顔を上げる。

「本…?」

事情を知らない奏子は、何の事かと首をかしげる。

「奏子ちゃん、呪いの本の話知ってる?」

「あぁ、変なおっさんが話し掛けてくるっていう、あの話?」

「…まぁ、そう。その呪いの本を、水無月くんが持ってるの」

⏰:10/04/08 22:50 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#412 [我輩は匿名である]
「…へ?」

「薫もだけどね」

「え!?」

唐突な話に、奏子はぽかんとする。

「でも、2人とも死んでないじゃん!」

「あの本は…読んだ人を死なせる本じゃない。

前世での記憶を思い出させるもの…。

悲しい過去を持つ人に与えられる本。

…前世の自分が死ぬ時が本の終わり」

誰から聞いたのか、響子は言う。

⏰:10/04/08 22:50 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#413 [我輩は匿名である]
「自殺したり、人を殺そうとする人は、その過去に耐えられなかった人。

耐えられた人も、一応いる。ほんの一握りだけね」

「…何で響子ちゃんがそんな事…」

奏子は茫然としながら尋ねる。

「…私も似たようなものだから」

響子は小さく笑う。

「…俺…」

直人はうつむきながら言う。

「俺の…前世の奴が、昨日、トラックにはねられて…死んだんだ」

彼の話に、奏子はまた驚き、響子は黙って耳を傾ける。

⏰:10/04/08 22:51 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#414 [我輩は匿名である]
「…その瞬間が…俺、ずっと忘れられなくて…。

俺じゃないのに、俺が死んだような気がして…。

違うって思えば思うほど、気分悪くて吐きそうになってくるし…」

「…それ、どんな感じで見えるの?」

奏子は恐る恐る尋ねてくる。

「…トラックが迫ってきて…鼓膜が破れそうなぐらいでかいブレーキの音が耳元でして、…それだけ」

「…怖かったでしょ」

響子は、直人の気持ちを理解したように、優しく声をかける。

⏰:10/04/08 22:51 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#415 [我輩は匿名である]
「……お前は?飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?」

奏子は今度は響子を見つめる。

「そうなの…?」

「…うん」

響子は頷く。

「怖かったよ、私も。…でも、水無月と同じ“怖さ”とは違うと思う。

…私は…好きな人を悲しませる事が、怖かった」

響子は少し下を向き、口を閉ざした。

「…あ、あの子は?」

「…そうだ、薫は…?」

⏰:10/04/08 22:51 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#416 [我輩は匿名である]
響子の前世の最期は薫から聞いた事があるが、薫は自分の事は一言も話した事はない。

直人は気になった。

「…薫の前世の人は、前の“私”の旦那さんだった。

彼女が死んだ2ヶ月後に、肺がんで亡くなった」

奏子も直人も、言葉が出なかった。

“薫”が病死だったなんて…。予想外の話に、何も考えられない。

「…月城くん、だっけ?よく耐えれたね」

今度は奏子が口を開く。

⏰:10/04/08 22:52 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#417 [我輩は匿名である]
「え?」

「だって、奥さんはその…誰かの自殺に巻き込まれて死んで、すぐ自分も癌だとか言われて…。

私なら無理だね、絶対」

「…彼は死ぬ直前、彼女に約束したの。

『生まれ変わったら、お前を探しだして、もう1度プロポーズする』。

薫は…それしか考えてなかったみたいだから…」

響子は呆れたように少し笑う。

「…だから、死にたくなってる場合じゃなかった…って事か」

奏子は自分で言いながら整理する。

⏰:10/04/08 22:52 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#418 [我輩は匿名である]
彼には1つ、大きな目的があった。

だから薫は乗り越える事が出来たのだ。

しかし、直人にはそんなものはない。

「水無月くんは、死にたいと思ってる?」

響子はまっすぐに尋ねてくる。

「…死にたいとは思わない…。でも…何で俺が…本をもらえたのかわからない…」

直人は思った事をそのまま口にする。

「薫には、奥さんを見つけるって目的があった。

…でも、俺には何もない。なのに…」

⏰:10/04/08 22:53 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#419 [我輩は匿名である]
「…明日、薫が退院するのは知ってる?」

響子は、一見あまり関係ないような話をした。

直人は「あぁ」と頷く。

「だったら、退院してから、薫に話を聞きに行ってみて。

もしかしたら、見つかるかもしれないよ。本をもらった理由が」

響子は笑って言った。

「…あの子何でも知ってるね」

奏子は「すごいわ…」とため息をつく。

⏰:10/04/08 22:53 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#420 [我輩は匿名である]
「…そういえば、いつから名前で呼ぶようになったわけ?」

「一昨日から♪」

響子はのろけて、満面の笑みを浮かべて答える。

「告られたの?てか、前からそーゆー雰囲気だったけど」

「んー、そうでもないけど…。むしろ私が告った感じ?」

「…え…?」

奏子は「何で?」という目で響子を見る。

「というか、私が傍にいないと淋しがるんだもん。

月城薫という男は」

「なんだそりゃ…」

笑顔で言い切った響子に呆れて、奏子はもう1度ため息を吐いた。

⏰:10/04/08 22:54 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#421 [我輩は匿名である]
直人もフッと小さく笑う。

「何かわかんねぇけど、元気出た。ありがとな」

「どーいたしまして」

「お前じゃねーし」

「はぁ?」

直人と奏子が、しょうもない言い合いを始める。

「…なんかお似合いだね、2人とも」

「似合ってない!!」

直人と奏子は声を揃えて否定する。

「(絶対お似合いだと思うけどなぁ…)」

響子はこの間の薫と同じ事を思いながら、2人の様子を眺めていた。

⏰:10/04/08 22:54 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#422 [ま]
ふむふむ。
ひかれるときとか想像しただけで怖い(´・ω・`)
更新ありがとう(´・ω・`)♪♪
めっちゃ楽しみに1日何回も確かめるで!(笑)

⏰:10/04/08 23:51 📱:P04A 🆔:D8BvOrpE


#423 [ちい]
失礼します

>>1-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:10/04/09 08:21 📱:F905i 🆔:3LqOdeFo


#424 [我輩は匿名である]
>>422さん
そんなに
じゃあ頑張って1日何回も更新するわ

>>423さん
アンカーありがとうございます

⏰:10/04/09 08:46 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#425 [我輩は匿名である]
「でもさぁ、何でいきなり告ったの?」

3人で帰っていると、奏子がふと、響子にそう尋ねた。

響子は「え…」と口ごもる。

「それ、俺も気になる。告るのは絶対薫の方だと思ってたのに」

直人も便乗してみる。

「…私が急にワガママ言ったの。

“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”として見てほしい…って」

「…どゆ事…?」

奏子は理解できず、頭を抱える。

⏰:10/04/09 08:50 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#426 [我輩は匿名である]
「薫はあの時、『俺が好きなのは長谷部今日子だけだ』って言ったでしょ?

…後から考えたら、何か悔しくなってきてね。

…私も最初は、霜月優也で頭がいっぱいだった。

でもね、過去の記憶がなくても、前世で関わりがなかったとしても、

私はきっといつか、月城薫を好きになったんじゃないかって思って…」

「言っちゃ悪いけど…薫はそれはなかったと思うぞ」

直人はあっさり断る。

あまりにもデリカシーのない直人に、奏子が頭をたたく。

「いてぇなぁ!」

「女心がわかんないバカは黙ってな」

⏰:10/04/09 08:51 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#427 [我輩は匿名である]
「いいよ、私もわかってたから」

響子は笑って言う。

「だから薫に言ってやったの。

『私が長谷部今日子を越える女になって、私の事しか考えられないようにしてやる』って」

「お前ってそんなに男前なキャラだっけ…?」

「男前とか言わないの」

「まぁ真の男前はお前だけどな。男前っつーか、男?」

「女だよ。あんたどこ見てんの?」

「お前なんか見てねーよ」

2人はまた、言い合いを始めてしまった。

懲りない2人に、響子は横で1人、ため息を吐いた。

⏰:10/04/09 08:51 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#428 [我輩は匿名である]
家に帰り、直人は大きくため息を吐く。

「(…1人になっちまったなぁ…)」

事情を知る人がいてくれないと、気分が落ち込んで仕方がない。

誰かと話して騒いでいる方が、気が紛れてちょうど良かったのに。

直人は黙って靴を脱ぎ、「ただいま」の声もなしに部屋に入る。

それを、違う部屋の角から母と妹が見つめていた。

⏰:10/04/09 12:33 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#429 [我輩は匿名である]
「…ねぇ、あの子どーしちゃったかなぁ?」

「お兄ちゃん、昨日変な悲鳴あげてトイレに引きこもってたよ」

「うつ病にでもなっちゃった?」

母の言葉に、2人は顔を見合わせる。

「あの変人お兄に限ってそんな事…」

「…あるわけないわよねぇ〜!」

2人はそう言いながら、大声で笑ってリビングに戻っていった。

⏰:10/04/09 12:33 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#430 [我輩は匿名である]
直人はそんな事も知らず、机に鞄を置く。

その拍子に、机の置いたままの本が目についた。

直人は何気なくそれを手に取る。

そして、ゆっくりと開いてみた。

しかし…もう、何も起こらなかった。

『前世の自分が死んだ時が、本の終わり』

響子の言葉は、本当だった。

「(…本当に…死んじまったのか…あいつ…)」

直人は静かに本を閉じる。

⏰:10/04/09 12:34 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#431 [我輩は匿名である]
今思えば、いつの間にか愛着みたいなものが湧いていたのかもしれない。

晶にも、…要にも。

「(…そういえば、晶はどうなったんだろ…?

何も書いてないって事は…大丈夫だったのか…?)」

本には、晶がどうなったのかは一言も書かれていない。

要の中から見た最後の情景では、晶が向こう側の横断歩道くらいまで弾き飛ばされていた。

「(…あいつは、要にかなり腹を立ててた。

もう会いたくもなさそうだったし…。

……もっといい奴に出会って、今も元気に生きてるはずだ…)」

⏰:10/04/09 12:34 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#432 [我輩は匿名である]
生きていれば、もう60歳近くになっているだろう。

「…もうおばあさんじゃん…」

直人は小さく笑う。

それでも構わない。要の事も忘れていてもいいから、ただ幸せでいてくれたら。
直人はそう、願うように思った。

その日はやっと、4時間ほど眠ることが出来た。

⏰:10/04/09 12:35 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#433 [我輩は匿名である]
次の日の放課後、直人は薫の家を訪れた。

ドアの前で、大きく息を吐く。

そして、覚悟を決めたようにベルを押した。

「はい」

インターホンから、薫の母親の声が聞こえる。

「あっ、水無月直人です」

「あらぁ、ちょっと待ってね」

のんきな声は、そう言って1度途切れた。

ガチャッと、ドアの鍵が開く。

⏰:10/04/09 18:41 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#434 [我輩は匿名である]
「いらっしゃーい」

声と同時に、薫の母が姿を現した。

「こんちわ」

「お見舞いに来てくれたの?」

「ああ、薫元気?」

「暇そうにしてるわ。さ、入って」

小さい頃からよく面倒を見てくれたため、彼女はよく知っている。

直人は気兼ねなく、「お邪魔しまーす」と中に入る。

「お茶持っていくから、先に行ってて」

「うん、ありがと」

⏰:10/04/09 18:42 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#435 [我輩は匿名である]
直人は礼を言って、左側にあるドアを開く。

「…よぉ。いらっしゃい」

薫は、ベッドの上で雑誌を読んでいた。

「元気そうじゃん、早く学校来いよ」

直人はつまらなそうに言いながら、ベッドの横に座り込む。

「無理言うなよ。前かがみになったら痛むんだから、ノートすら取れないんだぞ?」

「お前がいないと暇なんだよ」

「知らねーよ」

薫は呆れたように言い捨てる。

⏰:10/04/09 18:42 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#436 [我輩は匿名である]
「はーい、お茶」

ちょうどよく、薫の母親が2人分の麦茶を持ってきてくれた。

「サンキュー、おばさん」

「どういたしまして。ゆっくりして行ってねー」

彼女はにっこり笑って部屋を出て行った。

「で?俺に何か用か?」

麦茶が入ったグラスを片手に、薫が尋ねる。

⏰:10/04/09 18:42 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#437 [我輩は匿名である]
「純粋なお見舞い」

「お前がそれ事だけでわざわざ来るかよ」

薫は疑わしい目で直人を見る。

ばれたか。直人はチッと舌打ちする。

「…まぁ、いろいろあってさ…」

暗い顔でうつむく直人に、薫は首をかしげつつ、カレンダーに目をやる。

「………死んだのか」

薫は単刀直入に、それだけ言った。

⏰:10/04/09 18:43 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#438 [我輩は匿名である]
「……ホント、お前何でも知ってるな」

直人は顔を上げる。

「……“何で死んだのか”までは知らない」

「へぇ…」

「意外だな」と、直人は思った。

「…事故ってさ。トラックにはねとばされたらしい」

「お前が飛び出したのか?」

「まさか。晶が飛び出して、…かばったんだよ」

直人は手の中のグラスを見つめる。

薫は返事をするより先に、小さく鼻で笑った。

思わず、直人は顔を上げる。

⏰:10/04/09 18:43 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#439 [我輩は匿名である]
「ここ笑いどころじゃないんだけど」

「…何でかばったんだ?」

薫は「ばかじゃないのか」という視線を直人に送る。

「何でって…当たり前だろ?…好きだったんだから」

直人は少しムッとして言い返す。

が、薫の表情は変わらない。

「…お前、あいつをかばって良かったと思ってる?」

そんな事まで言い出した。

「お、思ってるよ!今ごろおばあさんになって…」

⏰:10/04/09 18:44 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#440 [我輩は匿名である]
「残念だけど」

直人の主張を邪魔するように、薫が少し声を大きくして言った。

「あいつは死んだよ」

「…は…?」

断言する薫に、直人は苛立ったようににらみ返す。

「病気か?それとも事故か?」

「違う」

「…じゃあ何だよ!?」

思わず声を上げてしまった。

直人はちらっとドアを見る。

が、誰かが入ってきそうな気配はない。

⏰:10/04/09 18:44 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#441 [我輩は匿名である]
「…お前、あんな奴が幸せに生きていけると思ったのか?」

薫は少し質問を変える。

「…どういう意味だよ…?」

「石川晶には、お前以外に頼れる人間はいなかった。

親には捨てられたみたいだしな。

そんな奴が、お前無しに生きていけると思うか?」

薫はそう言ってグラスに口をつける。

その質問の意図が、直人には理解できない。

⏰:10/04/09 18:45 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#442 [我輩は匿名である]
グラスを傍に起きながら、「どういう事だ」と考える。

「あいつは、お前が思うほど強い人間じゃなかった。

お前に置いていかれて、後を追いたくなるのも無理ないよなぁ…?」

そこまで言われて、直人はハッとした。

「…自殺した…って言いたいのか…?」

薫は何かを感じて、傍にあった机にグラスを置く。

その直後、直人は発作的に、薫の胸ぐらを掴んだ。

⏰:10/04/09 18:45 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#443 [我輩は匿名である]
「ふざけんな…!あいつが自殺なんかするわけないだろ!」

「ふざけてるのはお前だろ。余計な事しやがって…。

あんなやつ、かばう価値があるような女じゃなかった」

「…お前…!」

直人の手に力が入る。

が、薫も右手で直人の手首を掴む。

「だってそうだろう?あいつは自分が楽になれればそれで良かった。

誰かを巻き込もうが、あの女はどうでも良かったんだよ!」

薫も声を荒げて言い返す。

⏰:10/04/09 18:45 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#444 [我輩は匿名である]
その『誰かを巻き込もうが』という言葉に、直人は動きを止めた。

「…え…?」

直人は茫然としている間に、薫は直人の手を振り払う。

無理に体をひねったためか、薫は顔をしかめて左胸をさする。

「…わかっただろ?俺が何を言いたいか」

少し息を切らしながら、薫は直人に言う。

「あいつはビルの屋上から飛び降りた。下も見ずにな。

だから、下の歩道に人が通っていたのに気付かなかった」

⏰:10/04/09 18:46 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#445 [我輩は匿名である]
「……嘘だ…」

「嘘じゃない」

「嘘だ!!」

「嘘じゃない!!」

直人はベッドの傍に突っ立ったまま「嘘だ」と繰り返す。

何を言っても信じようとしない直人を見て、薫はベッドの下を探って、一冊の深緑色の本を出した。

⏰:10/04/09 18:46 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#446 [我輩は匿名である]
タイトルも著者名も、なにも書かれていない。

しかし、直人の本よりもはるかに分厚い。

薫はそれを開き、真ん中に近いページを開いて直人に差し出した。

「読んでみろ」

そう言われて、直人はおずおずとそれを受け取る。

⏰:10/04/09 18:47 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#447 [我輩は匿名である]
『1977年 5月22日

昨日残業したため、今日は早く帰れる。

今日子のお腹も大きくなってきたので、優也は出勤前に「今日は俺が晩ご飯作るよ」と申し出た。

しかし、17時前に帰宅したが、今日子は家にいなかった。

心配しながら待っていると、18時ごろに電話が鳴った。

警察からだった。今日子と思われる女性が亡くなったという。

優也はよくわからないまま、言われた病院に車を走らせた。

⏰:10/04/09 18:47 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#448 [我輩は匿名である]
警察の人間に案内されて入った部屋は、霊安室だった。

目の前に横たわっている人の顔にかかった布を取ると、紛れもなく今日子だった。

隣には、お腹にいたはずの赤ちゃんも寝かされていた。

「せめて赤ちゃんだけはと、医者は助けようとしたそうだが」と、警官は言った。

なぜ、いつ死んだのか。そう尋ねると、

警官は「買い物を終えて帰宅途中、ビルから女性が飛び降り、その下敷きになったようです」と答えた。』

⏰:10/04/09 18:47 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#449 [我輩は匿名である]
『5月24日

今日は友引だったため、今日子らのお通夜は明日になった。

優也が家でボーッとしていると、中年の男女がやって来た。

誰かと尋ねると、彼らは言った。

「ご迷惑をおかけした、石川晶の保護者です」と。

話を聞くと、その石川晶という15歳の少女が、ビルから飛び降り自殺を図ったという事だった。

今日子はそれに巻き込まれたのだ。

その少女は幼い頃親に捨てられ、養護施設で育ったが、いつも1人だった。

高校に入ってすぐに、1人の友人が出来たようだが、その友人が亡くなったらしく、強いショックを受けていたという。』

⏰:10/04/09 18:48 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#450 [我輩は匿名である]
まだ続きがあったが、直人はそれ以上読む気にはならなかった。

「…わかっただろう?」

薫は顔を背けて言う。

「あいつは、お前が死んだショックに耐えられなかった。

…たったそれだけで、あいつはビルから飛び降りたんだよ。

今日子も巻き添えにしてな…!」

薫はそう言って、直人を見上げる。

⏰:10/04/09 18:48 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#451 [我輩は匿名である]
「どうしてあの女をかばった?どうしてあいつを置いて死んだんだ!?

お前が余計な事をしなければ、今日子も子どもも死ななくて済んだのに!

すがる人がお前しかいないような奴が、お前無しに平気で生きれるとでも思ったのか!?」

「もういい!!」

直人は振り切るように叫んだ。

本を机に置いて、直人はひったくるように鞄を持って部屋を出る。

⏰:10/04/09 18:49 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#452 [我輩は匿名である]
薫の母に挨拶もせずに、スニーカーの踵を踏みながら、急いで家を出た。

薫が恨んでいる人間は、俺かもしれない。

そう思うと、無意識に足が動いた。

走って家に帰り、自分の部屋に閉じこもる。

何が正しかったのか、どうすれば良かったのか…。

死んだのは自分ではないのに、直人は1人、座り込んで泣いた。

⏰:10/04/09 18:49 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#453 [我輩は匿名である]
「…どうしたの?」

直人の後に見舞いにやってきた響子は、薫に尋ねる。

かなり不機嫌そうな顔をしていたため、気になったのだろう。

「…なんか、疲れた…」

薫は頭を抱える。

「…俺は…おかしいのかな…?」

「…何悩んでるの」

響子はベッドの傍に座りなおす。

⏰:10/04/09 20:05 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#454 [我輩は匿名である]
「…もう、あいつを恨む理由はない。

でも…忘れようと思えば思うほど、逆に許せなくなってくる…」

薫は大きく息を吐く。

「…仕方ないよ。薫があの子を恨むのは当然の事だと思う」

響子は薫にそう声をかけるが、薫の表情は変わらない。

「…もう、過去に縛られるのはやめたいって思った」

薫はうつむき、手で頭を抱えたまま言う。

⏰:10/04/09 20:05 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#455 [我輩は匿名である]
「響子もまた俺の傍にいてくれてる。それに…俺はもう霜月優也じゃない。

だからもう、どうでもいいって…。

そう思おうとしても、なかなか出来なくて…」

「…薫さぁ、鬱になりやすいタイプだよね」

響子はふと、そんな事を薫に言った。

薫は「え?」と顔を上げる。

「考え方なんて、すぐ変われるわけないじゃない。

そんな事で悩んでると、ハゲるよ?」

「…ハゲる…?」

薫はショックを受け、うなだれる。

⏰:10/04/09 20:05 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#456 [我輩は匿名である]
響子は笑って、薫の隣に座った。

「家族殺されたようなもんなんだから、すぐに許せるわけないじゃない。

私が薫でも、絶対許せないと思う。

お腹の子まで亡くなったんだから、私だってまだ完全には許せてないよ?」

「…そんな感じには見えないけど」

「そう見えないようにしてるのよ。

そしたら、そのうち自分の中でも見えないようになるだろうから」

「…前向きだな、お前は」

薫は笑う。少し羨ましそうに。

⏰:10/04/09 20:06 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#457 [我輩は匿名である]
「薫が考えすぎるだけだよ。いつからそんな性格になったの?」

「さぁ?生まれつきじゃないか?」

薫はそう言って、そっと響子の肩を抱いた。

響子も何も言わず、薫の身体の右側にもたれかかる。

「…俺、お前いないといつか鬱になりそう」

「じゃあずっと一緒にいるわ。ハゲられても困るし」

「はっ、そうだな」

薫はやっと、いつもの笑顔を浮かべる。

⏰:10/04/09 20:06 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#458 [我輩は匿名である]
「…死ぬまで一緒にいて」

「“死んでも”の間違いでしょ」

「ああ、そうだった」

薫の笑顔に、響子もホッとしたように笑い返した。

⏰:10/04/09 20:07 📱:N08A3 🆔:D1zW908U


#459 [(´_ゝ`)]
きゃーー!

面白い(*´ω`*)

⏰:10/04/09 21:54 📱:T003 🆔:ih/7SJ/2


#460 [ま]
早く!続き!(笑)
小説家なれるぜ(o^−^o)

⏰:10/04/09 23:28 📱:P04A 🆔:DTnIV34Y


#461 [那加。]
いつも楽しみに読ませてもらってます
初めて書いたとは思えないくらい面白いです
これからも頑張ってください

⏰:10/04/10 07:53 📱:SH706ie 🆔:/Mu/A5SA


#462 [我輩は匿名である]
>>459さん
ありがとうございますっ
面白いって言っていただけてかなり嬉しいです(*´∇`)

>>460さん
ちょっと待って
これぐらいでは無理ですよー

>>461さん
コメントありがとうございます
楽しんでいただけて嬉しいです
これからもよろしくです

⏰:10/04/10 09:28 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#463 [我輩は匿名である]
「…直人…」

誰かが直人を呼ぶ。

が、いつの間にか周りは真っ暗だ。

声も、母親の声ではない。

「誰だ…?」

「のんきに泣いてる場合じゃないよ…。

早く晶ちゃんを見つけて…。

あのままじゃあの子は…また同じ事を繰り返す…」

「…お前…もしかして…」

⏰:10/04/10 09:36 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#464 [我輩は匿名である]
「直人…もう君にしかあの子を助けられない…。

早く…晶ちゃんを…」

直人はハッと目を覚ます。

⏰:10/04/10 09:37 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#465 [我輩は匿名である]
部屋を見回すが、誰もいない。

泣いているうちに、いつの間にか眠っていたらしく、窓の外がもう明るい。

「…要…?」

直人は呟く。

「晶ちゃん」と呼ぶのは、要だけだ。間違いない。

「(今の…夢か…。

…そうだよな…泣くなんて、俺らしくないよな)」

要の声に背中を押されて、直人はベッドの上に座り、考える。

「直人ー!学校はー!?」

ドアの外から、今度こそ母親の声がする。

⏰:10/04/10 09:38 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#466 [我輩は匿名である]
時計は朝の8時半を回っている。

「今日は休むー!」

直人は理由もなくそう返事をした。

変だと思われても構わない。それどころじゃない気がした。

「(…『同じ事を繰り返す』って…晶の生まれ変わりがいるのか?

しかも……また死ぬ気でいるのか…?

…何のために助けたと思ってんだよ…あいつ……)」

直人はため息をつき、あの日、晶が言っていた事を思い出す。

⏰:10/04/10 09:39 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#467 [我輩は匿名である]
「(『もう誰も信じない』…って事は、俺が…要が女を連れてたから怒った…。

でも、俺が死んだから後を追った…。

あー、わかんねぇなぁ…)」

直人は頭をわしゃわしゃと掻き乱す。

そもそも、晶がなぜ自殺したのかがよくわからない。

要に愛想を尽かしたのに、要が死んだからショックで死んだ。

直人にはこれが理解できないらしい。

仕方がないので、最初から順を追って考える。

⏰:10/04/10 09:39 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#468 [我輩は匿名である]
「(晶は要しか心を許せる友達がいなかった。

「私には要くんがいてくれるだけでいい」とまで言っていた。

しかし、要が女性と歩いてるのを目撃した。…道案内しただけだけど。

それで『裏切られた』と勘違いした。

で、「もう誰も信じない」と言った。

でも自分をかばった要が死んだ。

……頼れる人が本当にいなくなっちまった、とか思ったのか?

だから、自暴自棄になったのか?

って事は、俺が死んだのがいけないのか…?)」

直人は腕を組んで考え込む。

⏰:10/04/10 09:40 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#469 [我輩は匿名である]
「(でも喧嘩しなければ、俺も死なないで済んだだろ…)」

という事は、勘違いされたのがダメだったのか。

「『もう誰も信じない』…信じない…信じ“られ”なくなった…?

誰も信じられない……誰も……。

ん?誰かがどっかで同じ事…」

言っていた。

直人は両手で頭を抱え、「あー」とうなり声を上げる。

⏰:10/04/10 09:40 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#470 [我輩は匿名である]
薫?いや、薫は誰かを信じなくなった事はない。

響子?彼女は寧ろ本気で(薫を)信じ続ける方だ。

奏子?…あいつは自殺とかする性格じゃないだろ。

怜奈?…あいつは死んでくれても別に構わない。

「…全員違う…としたら…?」

直人は首が痛くなるほど両方に振りまくる。

『あんた、人間不信になった事ない?』

ふと、誰かがそう言った時の事を思い出す。

⏰:10/04/10 09:41 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#471 [我輩は匿名である]
「…!」

直人はハッと顔を上げる。

「…金髪女…?」

そうだ。この間会った時、やつれた顔でそう言っていた。

『誰とも話したくない』と。

直人はとっさに、机から本を取って開く。

「(あれはいつだった…?結構最近だったはず…。

最後に会ったのは、病院に見舞いに行って、薫に追い返された日…)」

直人は考えながら、今度はカレンダーに目を向ける。

⏰:10/04/10 09:42 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#472 [我輩は匿名である]
「(あいつらが階段から落ちたのは、この間の金曜日…。

その次の日だから…5月17日…!)」

直人はそれに近い日にちのページを見る。

事の始まりは、5月5日だ。

この日に要が女性を道案内し、晶が勘違いして怒った。

「(…待てよ…あいつ、この次の日、休みじゃなかったか…?)」

最近飛鳥はよく学校を休んでいるため、はっきりは覚えていない。

しかし、それが確か始まったのが、この日らへんだった気がする。

⏰:10/04/10 09:42 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#473 [我輩は匿名である]
「(もしあいつが、薫たちみたいに自分と前世を重ね合わせていたとしたら…)」

直人は本を見ながら、再び頭を抱え直す。

目を閉じ、今までの会話を思い起こす。

「(…あいつには友達がいない…。いつも1人…。

『なんで他の人と接するのが苦手か、その理由を知りたい』…。

なんかそんな事言ってたよな…。だから本を読んでた…。

『死にたくなったら死ねばいい』…そんな事も…)」

言っていた。『そんなの人の勝手』とも。

直人の表情が曇る。

⏰:10/04/10 09:42 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#474 [我輩は匿名である]
「(…次は…階段で喋った日だ…。

あの時は……そうだ、家にいても楽しくないって話だ。

『誰も私を見てくれない』…。でも俺とはなぜかシカトせずに喋る…)」

頭を抱える手に、自然と力が入る。

「(…晶も最初、家出っぽい感じだったな…。

『帰りたくないから、ここにいる。誰も心配してない』…。

一緒じゃねぇかよ…何もかも…!)」

直人はなぜか悔しくなって、大きくため息をつく。

⏰:10/04/10 09:43 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#475 [我輩は匿名である]
これならきっと、飛鳥は晶に自分を重ね、のめり込んでいったと、十分考えられる。

だから、要と晶が会わなくなった頃から、飛鳥は休みがちになったのかもしれない。

精神的に不安定になるのも、無理はない。

2人が仲が良かった頃は、怜奈に目を付けられた薫を気遣う余裕もあった。

しかし、5月5日以降、ずっと元気がなかった。

『人間不信になった』といい話も、要に裏切られたと思っていたと考えれば、全て辻褄が合う。


「(…やっぱりそうだ…。多分、あいつが…神崎が晶だ…!)」

直人はうつむいたまま、両手で顔を覆う。

⏰:10/04/10 09:43 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#476 [我輩は匿名である]
どうして今まで、ここまで深く考えなかったのか。

こうやって考えれば、すぐに飛鳥が晶だと気付けたのに。

直人は後悔した。

しばらく、そのままの体勢でうなだれる。

そして、何かを決意し、本を開いた。

「……あー…こっちの本じゃなかったのか…」

直人は本を閉じてベッドの枕元に放り投げ、代わりに携帯電話を手に取る。

こんな朝から電話するのも悪いと思ったが、それどころではない。

⏰:10/04/10 09:44 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#477 [我輩は匿名である]
「(…薫…出てくれよ…)」

直人は携帯電話を耳に当て、祈るように目を閉じる。
しかし、何度呼び出し音が鳴っても出ない。

「(…晶が死ぬのは…今日か明日か…どっちかだったよな…)」

直人は諦めて電話を切る。

本当に同じ事を繰り返すなら、晶は…飛鳥はきっと、再びビルから飛び降りる。

しかし、それがどのビルだったのかわからない。

しかも今の時代、高い建物はあちこちにある。

⏰:10/04/10 09:44 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#478 [我輩は匿名である]
直人はいてもたってもあられなくなって、部屋を出ようとノブに手を当てる。

が、直人はドアを開ける前に、制服姿の自分を見つめた。

「…制服でうろうろして、警察とかに見つかったりしたらめんどくせぇな…」

直人はぶつぶつ言いながら、タンスを開け、適当に服を出す。

Tシャツに薄い上着を羽織り、ジーンズに履きかえる。

仕上げに、適当に鞄をぶら下げる。

「…これで大丈夫だな」

直人は今度こそ部屋を出て、玄関に向かう。

⏰:10/04/10 09:45 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#479 [我輩は匿名である]
「あっ、ちょっと直人!どこ行くのよ!?学校は!?」

家を出ようと思ったら、玄関先で母親に捕まった。

直人はどうしようかと目を泳がせる。

「ちょ、ちょっと熱っぽいから、病院行って来る」

驚く事に、口が勝手に動いた。

「あら、大丈夫?」

「あ、あぁ、まぁ、一応行っとこうと思って。じゃ」

直人はそう言って、そそくさと家を出た。

靴をちゃんと履きながら、直人はホッと一息つく。

⏰:10/04/10 09:46 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#480 [我輩は匿名である]
行くあてはない。どこに行けばいいのか、見当もつかない。

この広い町の中で捜し回ると考えると、早くも気が引けてくる。

「…とりあえず、ビルが多いとこでも行ってみるか。あいつも学校なんか行ってないだろうし」

直人は立ち上がり、走りだした。

直人の考えは当たっていた。

⏰:10/04/10 09:46 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#481 [我輩は匿名である]
飛鳥はジャージ姿のまま、フラフラと歩いている。

彼女も行くあてはなかった。

「…どうしようかな…」

暗い小さな声で呟く。

「飛び降りは…ダメだよな…。また誰かにぶつかったら…」

飛鳥はそう言いながら、ゆっくりと足を進める。

ポケットの中に、カッターナイフを隠して…。

⏰:10/04/10 09:47 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#482 [我輩は匿名である]
うあああぁあぁぁぁあ

⏰:10/04/10 12:39 📱:SH904i 🆔:AO.1JJ2w


#483 [我輩は匿名である]
アンカーだけ失礼します

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700

⏰:10/04/10 13:58 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#484 [(´_ゝ`)]
すごい!

尊敬します(´・ω・`)

⏰:10/04/10 14:28 📱:T003 🆔:rXLHAmgI


#485 [我輩は匿名である]
>>484さん
そんなそんなっ
ありがとうございます(o>ω<o)

⏰:10/04/10 18:21 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#486 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…」

直人は息を切らして足を止める。

住宅街を抜け、駅前の賑やかな場所にやってきた。

ここなら、ビルもマンションもたくさんある。

「…全部見て回れってか…?」

直人が早くも疲れてため息をついた時、携帯電話が鳴った。

見ると、薫から電話がかかってきている。

「薫!?」

直人は慌てて電話に出る。

⏰:10/04/10 18:22 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#487 [我輩は匿名である]
「…電話した?」

薫の眠そうな声が返ってくる。

「てかお前…学校は…?」

「休んだ!」

「…そんなはっきり…」

「それより、お前に聞きたい事があんだよ!」

直人は無理矢理話を進める。

「何…?」

「お前の嫁が死んだの、どこのビルだ!?」

直人の切羽詰まった様子を感じ取ったのか、薫の声が変わる。

⏰:10/04/10 18:22 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#488 [我輩は匿名である]
「近くの駅前の、吉川ビルだったけど…」

「吉川ビル…」

直人は辺りを見回す。

「でも、もうないぞ」

薫はそう補足した。

「何で?」

「知らねぇけど、俺が半年前行ったときは、もう空き地になってた」

「マジかよ…」

無駄足だったのか。直人は息を吐きながらしゃがみこむ。

⏰:10/04/10 18:23 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#489 [我輩は匿名である]
「…それがどうかしたのか?」

薫にそう聞かれて、直人は少し口を閉じる。

言うべきか、言わないべきか、考える。

「…晶が…」

しばらく考えて、直人は話す事を決めた。

「晶が、また死ぬかもしれないんだ」

「…は?」

「晶も、俺たちみたいに生まれ変わってたんだよ。

おまけに本も持ってる」

直人は断言する。

⏰:10/04/10 18:23 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#490 [我輩は匿名である]
今度は薫が黙り込んだ。

「俺達のクラスに、神崎っていう金髪女がいるだろ?

多分、あいつが晶だ」

「…本当か?」

「多分、だ」

直人はそう繰り返す。

「薫、香月か安斎のアドレス知ってるか?」

「響子は知ってる」

「じゃあ、香月に聞いてみてくれないか?今日神崎が学校にいるかどうか」

「…わかった。後でメールする」

薫はそう言って、電話を切った。

⏰:10/04/10 18:23 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#491 [我輩は匿名である]
「くそ…どこ行けばいいんだよ…!?」

直人は立ち上がり、汗を拭う。

携帯電話の時計は、9時40分を指している。

家の中で考えすぎたかもしれない。

「早く見つけないと…」

直人はとりあえず、周辺をうろうろする。

⏰:10/04/10 18:24 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#492 [ま]
がんばれ直人(´・ω・`)

⏰:10/04/10 20:52 📱:P04A 🆔:/O00ahZg


#493 [我輩は匿名である]
ちょうど休み時間になり、響子は、ポケットで携帯電話のバイブが鳴っているのに気付いた。

『おはよう。

悪いんだけど、8組に神崎飛鳥っていう金髪の女が来てるか見てくれないか?

直人からのお願い(>人<)』

「…神崎飛鳥…?」

響子は誰だろう、と首をかしげ、教室を出る。

「(直人から…って事は、水無月君も休みかな…?)」

早歩きで8組まで行き、顔をのぞかせる。

⏰:10/04/10 21:55 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#494 [我輩は匿名である]
「ねぇねぇ」

ドアの傍にいた男子に声をかける。

「今日、神崎っていう金髪の子、来てる?」

「神崎?来てないよ」

男子の1人が答える。

「最近ずっと休みだよなぁ」

「そう。今週1日も来てないし。無断欠席みたいだぞ」

男子達はいろいろ教えてくれた。

響子は「ありがとう」と笑って、屋上へと足をすすめる。

⏰:10/04/10 21:55 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#495 [我輩は匿名である]
自分たちが落ちたあの階段の踊り場で、響子は薫に電話をかける。

「あっ、薫?」

「ごめんな、いきなり。どうだった?」

「休みだって。今週はずっと無断欠席って男子が教えてくれたよ」

「今日は水曜日だから、3日間か」

「…その子がどうかしたの?」

響子は壁にもたれる。

⏰:10/04/10 21:56 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#496 [我輩は匿名である]
「その女が、石川晶かもしれないらしい」

「石川晶?あぁ、落ちてきた子?」

「そう、落ちてきた子」

薫の声が若干呆れている。

「そいつが、また自殺するかもしれないらしい」

「…何それ」

響子は首をかしげる。

「わからない。直人がそう言ってる」

薫もわからなそうに返事をする。

⏰:10/04/10 21:56 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#497 [我輩は匿名である]
「でも…あの子、飛び降りはもうしないと思うよ」

響子はそれだけ、はっきりと言った。

「何で?」

「落ちてくるとき、目が合ったのよ、あの子と」

響子は言う。

「目が合って、一瞬ハッとしてた。『しまった』とか思ったんじゃない?

勝手に私が考えてるだけだけど、飛び降りはもう出来ないと思う。普通なら、ね」

「…そうか。わかった、ありがとう。じゃあまたな」

薫はそう言って、電話を切った。

響子も携帯電話をポケットにしまい、教室に戻っていった。

⏰:10/04/10 21:57 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#498 [我輩は匿名である]
その頃、直人はハンバーガー店の前で悩んでいた。

今日は朝ご飯を食べていない。そのため、腹が減ってきたらしい。

「…どーしようかなぁ…」

悩んでいると、薫が電話をかけてきた。

「お待たせ」

「あぁ…どうだった…?」

直人はぐったりしたまま尋ねる。

⏰:10/04/10 21:57 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#499 [我輩は匿名である]
「どうかしたのか?声が死んでるぞ」

「腹減った…」

「はぁ?朝ご飯食べてないのか?」

「朝から何も食ってない…」

「何か食えよ…」

薫は呆れている。

「でも、のんきになんか食ってる場合じゃねーだろ…?」

「あいつはもう、飛び降りはしない」

薫の言葉に、直人は「え?」と姿勢を正す。

⏰:10/04/10 21:58 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#500 [我輩は匿名である]
「何でわかったんだよ?」

「響子が言ってた。あいつが落ちてきた時に目が合ったって。

その時に、『しまった』って感じでハッとしてたらしい。

今日子を下敷きにしたのをわかってるなら、普通なら怖くて出来ないんじゃないか。

あくまで響子の考えだけどな」

「…そっか…」

直人は何だかホッとした。

⏰:10/04/10 21:58 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#501 [我輩は匿名である]
「…ごめんな、手伝ってもらっちまって…」

「…いいよ。…もうあの女の事考えるのは止めたんだ」

薫は小さく笑う。

「…どうしたんだよ?いきなり」

「…正確には“考えないようにしてる途中”かな。

…“霜月優也”として生きるのは…もう疲れた。

“どうでもいい”ぐらいに思ってないと、ハゲるしな」

薫は大きくため息をつく。

⏰:10/04/10 21:58 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#502 [我輩は匿名である]
「ハゲる…?」

「だから、俺はただ友達の頼みを聞いただけ。他には何とも思ってない。

…そういう事だ」

「…へっ、かっこいい事言いやがって。ハゲちまえよ」

直人何だか悔しくなって、鼻で笑う。

「ありがとな。また何かあったら電話するから!」

そう言って、直人は電話を切った。

⏰:10/04/10 21:59 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#503 [我輩は匿名である]
「………で、結局俺はどうしたらいいんだ?」

これで、ここにいる理由はなくなった。

直人は「んー」と腕を組む。

「…ま、腹が減ってはどーのこーのって言うしな!」

1人でぶつぶつ言って、直人はハンバーガー店に入った。

⏰:10/04/10 22:34 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#504 [我輩は匿名である]
30分後、直人は満足そうに腹をさすりながら出て来た。

「さて…もうちょっとで10時半か。どこ行けばいいんだ…?」

直人は腕を組んで考える。

「…もしかしたら、あの交差点…?」

要がはねられた、あの横断歩道。直人は何となく、そこを思い浮かべた。

しかし、要達が住んでいたのは隣の町。歩いていけば2時間近くかかる。

自転車で来なかった事を、直人は今になって後悔した。

「…そんな事言ってる場合じゃねーよなぁ…」

大きくため息をついて、直人はまた走りだす。

⏰:10/04/11 18:35 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#505 [我輩は匿名である]
その頃、飛鳥は直人が向かっている横断歩道の前にいた。

「……要…」

飛鳥はあの日の事を思い出し、呟く。

「(…何で…私なんかかばったんだよ…)」

目の前を行き交う車を、飛鳥はボーッと見つめる。

一歩踏み出せば、きっと楽になれる。

そう考えているが、飛鳥にはどうしても出来ない。

⏰:10/04/11 18:35 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#506 [我輩は匿名である]
あの日、自分が飛び出した事で、トラックの運転手は真っ青な顔で要に駆け寄っていた。

ただ通りかかっただけの人も、救急車を呼んだり助けようとしたりしていたのも見た。

それを思い出すと、自分の気持ちが緩んでしまう。

飛鳥は横断歩道に背を向けて、またどこかへ足を向けた。

⏰:10/04/11 18:36 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#507 [我輩は匿名である]
約1時間半後。

飛鳥が去った後の横断歩道に、今度は直人がたどり着いた。

走ったり歩いたりしたため、かなり汗をかいている。

「はぁ…も…疲れたって…」

しかし、周りに飛鳥らしい女性は見当たらない。

直人は「何なんだよ…」と座り込む。

「だいじょーぶ?」

突然、後ろで可愛らしい声がした。

⏰:10/04/11 18:36 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#508 [我輩は匿名である]
振り返ると、3〜4歳くらいの女の子がいた。

「…俺…お兄ちゃんの事?」

「うん」

女の子は大きく頷く。

「んー…お兄ちゃん…だいぶ疲れたなぁ…」

「つかれちゃったの?」

女の子は大げさに身体を傾ける。

「おチビちゃん…こんな所にいたら…危ないぞ…?」

直人は「よしよし」と頭を撫でる。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#509 [我輩は匿名である]
「でもねー、さっきおんなのひとが、ずーっとここにいたの。

あのひとも、あぶないよー?」

「女の人…?」

直人は目を丸くする。

「その女の人、どんな人!?」

「えー?んーとねぇー、きんぱつでねー、せなかに、おれんじのねこがいたよー」

「オレンジの猫…??」

直人はそれに首をかしげたが、「金髪」となったらほぼ間違いない。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#510 [我輩は匿名である]
「そのねーちゃん、どこ行ったか知ってる?」

「あっちー」

女の子は、直人が来た道を指さす。

「…マジかよ…」

「おにいちゃん、あのおんなのひと、すきなのー?」

女の子はにっこり笑う。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#511 [我輩は匿名である]
こんなに小さい子にそんな事を聞かれると思わず、直人はぽかんとする。

「…お友達だよ。鬼ごっこしてんの」

「そうなのー?がんばれー♪」

女の子は両手を上げる。

「おうっ。車には気をつけて遊べよ。お母さんから離れるんじゃないぞ」

直人は立ち上がって女の子に忠告する。

女の子は「うん!」と大きく頷き、直人に手を振った。

直人も手を振り返し、来た道を戻る。

⏰:10/04/11 18:38 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#512 [(´_ゝ`)]
どうなるの?

わくわく(><)

⏰:10/04/11 21:10 📱:T003 🆔:K19ari/w


#513 [我輩は匿名である]
>>512さん
いつもコメントありがとうございます

ぜひ直人の頑張りを見届けてやって下さい(*´∇`)

⏰:10/04/11 21:16 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#514 [我輩は匿名である]
「(こっちって…何かあったっけ…?

あ、もしかして、姫崎公園か?…2人で行ったことないけど…)」

直人はどこに行けばいいのか悩みながら、ひたすら歩く。

だいぶ疲れたのか、歩く速度が遅くなってきている。

「(…オレンジの猫って何だったんだ…?)」

女の子の言葉が、直人は気になっていた。

「(あいつ、猫なんか飼ってるのか…?でも、オレンジって…)」

そんな猫がいるのだろうか。

直人は考えつつ、携帯電話を見る。

⏰:10/04/11 21:17 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#515 [我輩は匿名である]
もう12時を過ぎている。

「もう昼か…」

さっきいろいろ食べた為、腹は空いていないのだが、時間が経つのは早い。

「やばいよなぁ…」

早く見つけないと、暗くなると探しにくくなる。

直人は「あぁー」と頭を抱える。

困り果てて、携帯電話を開いたり閉じたりしてみる。

⏰:10/04/11 21:17 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#516 [我輩は匿名である]
薫に相談したいが、これは自分と晶の問題だ。

第一、薫に聞いたところで何もわからないだろう。

「…自分でどーにかしろって事だよな」

直人は1人でぶつぶつ言う。

20分ほど歩いて、姫崎公園に到着した。

しかし、ここにも飛鳥らしい人はいない。

子ども達が親に連れられて、楽しそうに遊んでいる。

⏰:10/04/11 21:18 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#517 [我輩は匿名である]
直人は急に虚しくなってきて、傍にあった長椅子に腰を下ろす。

「はぁ…もうマジありえねぇ…。何でめんどくさがりな俺がこんな事…」

少し休もうと思い、直人は足だけ椅子から垂らして寝転がった。

…ほんの少しだけのつもりだったのだが。

⏰:10/04/11 21:18 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#518 [我輩は匿名である]
携帯電話のバイブが鳴り、直人は目を覚ました。

「……あぁ…やべ…寝ちまった…」

まだ寝足りないような顔で起き上がり、携帯電話を開く。

そして、ハッと目を見開いた。

「3時半!?マジで!?」

直人は驚いて辺りをキョロキョロする。

遊んでいるのは、もう幼児ではなく、学校帰りの小学生に変わっている。

「(やってしまった…)」

寝すぎた事にショックを受けながら、直人は電話に出る。

⏰:10/04/11 21:19 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#519 [我輩は匿名である]
「もしもし…?」

「直人!あんたどこにいるの!?」

「(げ…)」

母親だった。

「いや、大丈夫だったついでに散歩してたら、道に迷ったというか…。

もうちょっとしたら帰るから!」

直人はそう言って、強引に電話を切った。

「(やべぇなぁ…早く帰らないと怒られる…)」

ますます直人は頭を抱える。

⏰:10/04/11 21:19 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#520 [我輩は匿名である]
「(…くそー…晶の行きそうな場所…行きそうな場所…)」

腕を組んで考え直す。

「(…晶の…好きな場所…とか…無かったっけ…?)」

晶と行ったといっても、あの喫茶店しか思い浮かばない。

しかし、直人は思い出した。

⏰:10/04/11 21:20 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#521 [我輩は匿名である]
初めてのデートの約束をした時。

『初めて会った、あの場所がいい!』

直人は考えるよりも先に走りだした。

これでダメなら、もう諦めるしかない。

一か八かの賭けだった。

⏰:10/04/11 21:21 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#522 [我輩は匿名である]
疲れて、足が何度ももつれて転びそうになりながら、直人は走り続ける。

まるで、“もう1人の自分”が、直人の身体を動かしているかのように。

ただ無心で走った。

あと1つ、角を曲がれば、昔のあの場所に着く。

もうすっかり様変わりしているが、直人は何故か、全く迷わなかった。

「(晶…!)」

角を曲がる。

⏰:10/04/11 21:21 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#523 [ま]
(´・ω・`)

⏰:10/04/11 22:06 📱:P04A 🆔:dO8wnHpE


#524 [我輩は匿名である]
コメントのせいで見にくい

⏰:10/04/12 00:18 📱:P01A 🆔:☆☆☆


#525 [我輩は匿名である]
>>524さん
読んで下さってありがとうございます&すみません

という事で(?)感想板建てました
今後の感想・ご意見はこちらへお願いしますm(_ _)m↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/

⏰:10/04/12 08:38 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#526 [我輩は匿名である]
しかし、その通りには、誰もいなかった。

息を切らして、直人は茫然とする。

そして、再び歩きだした。

初めて会った日の事を思い出す。

リーゼント頭の男。オイルショックの話をしたおばさん。全てが懐かしくなった。

直人はあるところまで来て、ゆっくりと足を止める。

⏰:10/04/12 15:10 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#527 [我輩は匿名である]
細い路地にうずくまる1人の女性。

白いワンピースではなく、オレンジのラインが入った紺色のジャージに金髪頭。

「…やっと見つけた…」

直人は小声で呟く。

女性が顔を上げる。思った通り、飛鳥だった。

「…お前…何やってんだよ…」

直人は膝に手をついて呼吸を整える。

飛鳥はあの日のように、座り込んだままうつむく。

⏰:10/04/12 15:10 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#528 [我輩は匿名である]
「…もう疲れた…」

「それは俺のセリフだ!どんだけ捜し回ったと思ってんだよ!?」

直人は汗だくになりながら怒鳴りつける。

「お前…まさか、自殺でもするつもりじゃねぇだろうなぁ…?

そんなの…絶対許さないからな…!」

「……あんたに何がわかんの…」

飛鳥はまた顔を上げ、直人を睨み上げる。

⏰:10/04/12 17:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#529 [我輩は匿名である]
「私には何にもない…。

…あんたは、私の欲しいものをみんな持ってる…。
そんな奴に、私の気持ちなんか…!」

「あぁわかんねぇなぁ、何回も自殺する奴の気持ちなんか!」

直人の「何回も」という言葉に、飛鳥はハッとする。

「…あんた…」

「わかるだろ?俺が誰か…。

…俺は、長月要の生まれ変わりだよ!石川晶!!」

直人は声を上げて、自分の正体を打ち明けた。

飛鳥は言葉を失い、茫然とする。

⏰:10/04/12 20:03 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#530 [我輩は匿名である]
「…嘘だ…あんたが要なわけ…」

「俺が要じゃなかったら、何でここがわかるんだよ?

ここが、要と晶が最初に出会って、初めてデートの待ち合わせ場所にした所だから。

だからここで、あの日みたいに待ってたんだろ?」

飛鳥はそう言われて顔を背ける。

「…今さら来たって…」

「あ?」

飛鳥の声が聞き取りにくくて、直人は首をかしげる。

そして、飛鳥は素早くポケットからカッターナイフを取り出し、刃を出して首に向けた。

⏰:10/04/12 20:03 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#531 [我輩は匿名である]
直人は目を丸くするが、飛鳥の目は本気だ。

「……何で…何でかばったのよ…」

飛鳥は静かに口を開く。

「何であの時死なせてくれなかったのよ!?

1人だけ勝手に死にやがって!

たった1人の友達亡くして、私が生きていけるわけないじゃん!!」

「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」

直人は我慢できず、飛鳥に言い返す。

⏰:10/04/12 21:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#532 [我輩は匿名である]
「“何で死なせてくれなかったか”だ!?ざけんじゃねぇよ!!

要がどんな気持ちでお前を突き飛ばしたか知ってんのかよ!?」

「うるさい!!」

飛鳥は自暴自棄になり、めをつぶって、カッターを持つ手に力を入れる。

直人はとっさに手を伸ばす。

その直後、地面にポタポタと血がしたたり落ちた。

⏰:10/04/12 21:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#533 [我輩は匿名である]
飛鳥は何が起きたのか理解できず、目を開く。

「…いい加減にしろよ…」

直人は、自分の血で出来た地面の染みを見つめながら飛鳥を見下ろす。

飛鳥はやっとわかった。

直人の手がカッターの刃を握り、飛鳥の首にあたる寸前で止めていたのだ。

飛鳥が動きを止めている隙をみて、直人は飛鳥の手からカッターナイフを奪い取る。

⏰:10/04/13 08:15 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#534 [我輩は匿名である]
「あー、痛ぇ…」

カッターの刃を引っ込め、溝の中に投げ捨てる。

「…あんた、手…」

茫然としている飛鳥。

そんな彼女の胸ぐらを掴み、直人は壁に押さえ付けた。

「お前…いつまでも甘えた事ばっか言ってんじゃねぇぞ…」

直人の怒りは、頂点に達していた。

⏰:10/04/13 08:15 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#535 [我輩は匿名である]
「人の話もまともに聞かねぇで、勝手に勘違いしやがって…。

かばってやったと思えば自分で死んで…。お前…あいつの事舐めてんのか?」

頭の中に、トラックが迫ってくるあの光景が思い浮かぶ。

「あいつだってなぁ、死にたくて死んだんじゃねぇんだよ…!

お前に生きてて欲しかったから…笑って生きて欲しかったから!

だからあいつはお前をかばったんだよ!

晶ならきっと、俺がいなくても幸せになれる。要はそう願って死んでいったんだ!

それをお前は、たった3日で捨てやがって…しかも他の奴まで巻き込んで…!

要がいたら何て言うだろうなぁ!?」

⏰:10/04/13 08:16 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#536 [我輩は匿名である]
直人の話を聞きながら、飛鳥はずっとうつむいていた。

言い終わって、直人はキッと口を閉じる。

その直後。

「…?」

直人の目から、涙が落ちた。

泣きたい気分では無かった。怒りすぎて泣いたことも1度もない。

⏰:10/04/13 08:16 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#537 [我輩は匿名である]
「…何で…」

飛鳥は直人を心配そうに見つめる。

「…あいつだ」

直人は手を離し、まっすぐに飛鳥を見る。

「俺の中の要が泣いてるんだよ。

お前があんまり死にたがるから、“あの時俺が生きていられたら”ってな」

直人は涙を拭う事なく言った。

飛鳥は何も言えず、ただ直人の涙を見つめる。

⏰:10/04/13 08:17 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#538 [我輩は匿名である]
「お前…大好きな要に、こんな事思わせて悲しくないか?

要がくれた命、今度こそ大事にしようって思わないか!?」

直人の言葉の1つ1つが、飛鳥の胸に突き刺さる。

飛鳥は下を向き、肩を震わせる。

「…自分には何もないんだろ?」

しばらくの沈黙の後、直人は涙を拭きつつ、飛鳥に言葉を掛ける。

⏰:10/04/13 08:17 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#539 [我輩は匿名である]
「それって、“無くす物もない”って事だよな?

だったらダメ元でも、頑張って生きてみれば?

“人と接するの苦手”とか言う前に、出来る事全部やってみろよ」

さっきまでとは違う直人の口調に、飛鳥は少しずつ顔を上げる。

「で、どーしても無理だったら俺のとこに来い。

適当に友達になれそうな奴見つけて連れてきてやるから」

「……でも…」

飛鳥は自信がなさそうに、また下を向いてしまった。

⏰:10/04/13 08:18 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#540 [我輩は匿名である]
「言っとくけど、俺は要みたいに甘くないからな」

直人は少し偉そうに、血が出ていない方の手を腰にあてる。

「あいつは“俺がいてやればいい”みたいな考え方だったっぽいけど、

俺は無理だぞ。女の友達はお前だけ、とか耐えらんねぇし」

「な…何様だよ、あんた」

つーんとそっぽを向く直人に、飛鳥はムッとして言い返す。

⏰:10/04/13 08:18 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#541 [我輩は匿名である]
「“何様だ”?直人様だよ!!」

「は、はぁ!?何であんたなんかに“様”なんかつけなきゃなんないわけ!?」

「…それでいいんじゃん」

直人はニッと笑う。

何の事かわからず、飛鳥は「は?」と首をかしげる。

「…何が?」

「お前、他の奴とこうやってしょーもない話した事ないだろ。

友達ってのはなぁ、適当に面白い話して笑っときゃ、自然と出来るんだよ。

ま、とりあえずその頭どうにかした方がいいんじゃね?」

直人は呆れた表情で、飛鳥の金髪を見る。

⏰:10/04/13 08:19 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#542 [我輩は匿名である]
飛鳥もちょっと気にしているのか、自分で髪を見つめる。

「せめて茶髪ぐらいにさぁ…」

「…お金ないし…」

「はぁ?」

直人は「じゃあどうやってその頭にしたんだ」とため息をつく。

「バイトしろ!バイト!」

「えぇ〜…」

「えぇー、じゃねぇよ!

バイトでもしてりゃ、輪が広がっていいぞ?

自分で金稼いで、親でも見返してやれ!」

⏰:10/04/13 08:19 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#543 [我輩は匿名である]
直人はまるで、自分が見返してやるかのようにフン!と鼻から息を吐く。

それを見て、飛鳥は少し笑った。

「なんだよ」

「…変な奴だなぁと思って」

「お前に言われたくねぇよ!」

直人は本気で言い返す。

が、何だかおかしくなって、直人も同じように笑った。

「…はぁー、帰るか」

「…うん…」

頷きはするが、飛鳥は浮かない顔。

⏰:10/04/13 08:20 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#544 [我輩は匿名である]
>>503-550

⏰:10/04/13 10:50 📱:F03B 🆔:8iwuXvoY


#545 [我輩は匿名である]
直人は「…あぁ」と、思い出したように声を出す。

「家に帰りたくないんだったな」

直人はそう言って考える。

「…いや、帰る」

飛鳥は首を振る。

「何、帰んの?」

「うん、…帰る。嫌だ嫌だって言ってても、仕方ないし…」

⏰:10/04/13 12:55 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#546 [我輩は匿名である]
「そっか。…ま、嫌になったらうちでも来れば?」

「…は…?」

あっけらかんとして言う直人を、飛鳥が横目で睨む。

「何、襲われそうとか思ってんの?…誰もお前なんか襲わねーから!」

「違うから!」

飛鳥は顔を赤くして、声を大にして否定する。

それを見て、直人は声を上げて笑う。

2人はそうして、家の方向に歩きだした。

⏰:10/04/13 12:56 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#547 [我輩は匿名である]
「…手、大丈夫?」

帰り道、飛鳥がおずおずと尋ねた。

「あ?あぁ、これ?まぁ大丈夫じゃねーの?わかんねぇけど」

「どっかで洗ったら?…ちょうどそこに公園あるし」

飛鳥が指差した先には、姫崎公園があった。

直人は「あっ」と、ある事を思い出す。

「何?」

「そう、お前に…つーか、本当は要が晶にいうつもりだったんだけど」

飛鳥は首をかしげる。

⏰:10/04/13 17:28 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#548 [我輩は匿名である]
「あれ、本当に道案内だったんだからな。

美代が『来週行けないって言ってた』とかほざいてたけど、要は…」

「美代が?」

飛鳥はムッとして、眉間にしわを寄せる。

「…やっぱり嘘だったのか…」

直人は大きくため息をつく。

「あいつがそう言いに来たの?」

⏰:10/04/13 17:28 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#549 [我輩は匿名である]
「そう。でも“もしかしたら晶は来るかもしれない”と思って、要も行ったんだ。

で、途中で道聞かれて、一旦待ち合わせ場所に晶がいないか、ちゃんと見に行ったんだよ。

でもやっぱりいなかったから、案内しようってなったわけ」

「…そうだったんだ…」

晶は後悔し、肩を落とす。

「ま、美代にまんまと騙されたってわけだ、俺たちは」

公園に着き、水道の前に直人が腰を下ろす。

⏰:10/04/13 17:29 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#550 [我輩は匿名である]
「…ごめんね」

飛鳥も、直人の左後ろにしゃがみこむ。

「私が…私があの時、ちゃんと話を聞いてたら…

こんな事にならずに済んだのに…」

直人は黙って手を洗いながら、背後からのすすり泣きを聞く。

「…まぁ、この方が良かったのかもしれねぇけど」

直人はぼそっと、飛鳥に背を向けたまま言った。

⏰:10/04/13 17:29 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#551 [我輩は匿名である]
「だってお前、要がいればそれでいいって思ったままだっただろ?

それってダメなんじゃねぇのって思って。

あいつはどうか知らねぇけど、俺はそう思う」

飛鳥は顔を上げ、直人の背中を見つめる。

「…要は謝られるよりも、友達に囲まれて楽しそうにしてるの見る方が嬉しいんじゃない?

あんなのんきな性格だったし、多分その方が、あいつもホッとするだろ」

「……うん」

飛鳥は涙を拭い、大きく頷いた。

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#552 [我輩は匿名である]
「…帰るか」

蛇口を閉めて、直人は立ち上がる。

それを見て、飛鳥も立って歩きだした。


「…そういえば、要が見た案内してた女の人いるじゃん?

あの人も晶と同じように、養護施設で育ったんだって」

思いもよらない話に、飛鳥は直人を見る。

「そうなの?」

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#553 [我輩は匿名である]
「うん。で、お前にその女の人から伝言」

「伝言?」

「『“施設で育とうが親の元で育とうが、どっちが良い”なんてない。

他の人との間に壁を作らずに、一歩踏み込んでみろ。』……ってな。

ちなみにあの時は、友達の家に遊びに行く途中だったらしい」

「……そっか…」

飛鳥は再び、少し下を向く。

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#554 [我輩は匿名である]
「……やっぱり、怖かったんだ。

誰かを信じようとしても、また捨てられたらどうしようって…。

そう思ったら、なんかすごい怖かったんだよ」

直人の隣で、飛鳥は言う。

「…そりゃ、生みの親に捨てられたんだから、人間不信にもなるだろうな」

「うん…。でも要は何となく…本当に何となく、ずっと友達でいてくれる気がしたし、

一緒にいる時は、嫌な事全部忘れられたぐらい、楽しかった。

…だからその分、要が待ち合わせに来ずに、女の人連れて歩いてるの見たら…

ショックすぎて、もうわけわかんなくなって…」

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#555 [我輩は匿名である]
飛鳥はため息を吐きながら、両手で髪をかきあげた。

「…ま、そんだけ友達の大事さわかってるんなら、大丈夫なんじゃね?

俺達の学年で女子150人ぐらいいるんだし、いい奴みつかるよ、多分」

平然と言う直人を、飛鳥は横目で見つめる。

「……あんた、何でそんな前向きなの?」

そう言われて、直人は「さぁ〜?」と首をかしげる。

「要がそうだったからじゃない?能天気と言うか何と言うか…」

「あー、あんたそんな感じだね。バカっていうかなんというか」

「はぁ?」

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#556 [我輩は匿名である]
「何よ。バカはバカでしょ?」

「お前に言われたくねぇよ」

「ま、横にいる子が頭良いし、運動も出来そうだし、イケメンだもんね。仕方ないか」

「黙ってれば調子に乗りやがって!」

直人は飛鳥に食って掛かる。

「だって本当の事じゃん!!」

飛鳥は言いながら、逃げるように走りだす。

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#557 [我輩は匿名である]
「(あ)」

飛鳥の背中を見て、直人はやっと理解した。

「(オレンジの猫って……プーマの柄の事だったのか…)」

直人は1人、「なるほどね」と呟く。

そして、「待てよこの野郎!」と叫んで、飛鳥の背中を追い掛けていった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#558 [我輩は匿名である]
その日他に何があったかは、直人はほとんど覚えていない。

帰りが遅かった事で母親にこっぴどく説教されたが、その内容も全く頭に入らなかったし、

どうなったのか薫に報告するのも、すっかり忘れていた。

晶が…飛鳥が無事だった事だけで、頭がいっぱいだった。

直人はベッドの上でじっと、あの本を見つめる。

この本をもらってから、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていない。

しかし、もう何ヵ月も経っているような、変な感じがする。

「(薫は、2年以上読んでたんだよな…。よくやるな…あいつも)」

直人はそんな事を考えながら、ベッドに寝転ぶ。

そしてそのまま眠ってしまった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#559 [我輩は匿名である]
しかし次の日、飛鳥は学校に来ていなかった。

右手のひらに包帯を巻いてきた直人は不思議に思い、担任の所に行ってみる。

「なぁ先生。神崎は?」

「あぁ、神崎は体調不良らしいぞ。でも今日はちゃんと自分で電話してきたな。

昨日までは、…なんかわかんないけど。

水無月、お前神崎と仲良いのか?」

「は?あ、まぁ…」

直人は頷く。

⏰:10/04/14 11:30 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#560 [我輩は匿名である]
「ほー。じゃあ大丈夫だな」

「何が?」

「いやぁ、やっぱ友達いないと楽しくないだろ?

それでちょっと不登校気味になったのかなぁと思ってたんだけどな」

担任は明るく笑う。

直人は「その通りだったんだけどな」と思いながら笑い返した。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#561 [我輩は匿名である]
その放課後、直人は薫の家に行った。

「どうだった?」

部屋に入るなり、薫は直人に尋ねる。

「うん、大丈夫。多分立ち直ったと思う」

「その手はどうしたんだ?」
薫は直人の左手を見る。

「ああ…これは…あいつを止めるのに、ちょっとな」

「ふうん…、大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。オカンが大げさに巻いてるだけ」

直人は平気そうにパタパタと手を振ってみせる。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#562 [我輩は匿名である]
「…あいつも、もう2度とあんな事しないと思うし、一件落着だな」

疲れたようにため息を吐く直人を見ながら、薫は小さく笑う。

「あーぁ、俺も暇だし、学校行きてぇなぁー」

「来れば?」

「無理だろ。歩くだけでも痛いのに」

「そんなに痛いのか?」

「痛いに決まってるだろ。これ取れるのに最低でも2ヶ月ぐらいかかるんだぞ?」

「そんなかかんの!?」

⏰:10/04/14 11:33 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#563 [我輩は匿名である]
「らしいぞ。今痛み止め飲んでるからましだけど、切れたらかなり痛いからな」

「えー…」

「まぁ明日また病院行くから、その時にどう言われるかだな。

痛みが引いて、腕上げなくていいなら学校行けるだろうけど」

「そうなのか…」

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#564 [我輩は匿名である]
直人はそこまで重症だとは思っていなかったため、ぽかんとする。

「ま、ゆっくり休めよな。俺もまた来てやるからよ」

直人は「よっこらしょ」と立ち上がる。

「あぁ。また何かあったら言って来い」

薫は空いている右手を上げる。

直人も「じゃあな」と手を振り、薫の家を出た。

「(2ヶ月か…大変だなぁ、あいつも…)」

直人は少しつまらなそうに家まで歩く。

少し違うが、今までの平凡な日常が戻ってきている気がした。

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#565 [我輩は匿名である]
…のだが。

次の日、直人を含むクラスメイト全員が、ただ目を丸くしていた。

その視線の先には、茶色い頭で、スカートの丈もきちんと戻した飛鳥の姿。

「…お前…どしたの?その髪の毛」

直人に聞かれて、飛鳥はだいぶ恥ずかしそうに髪を触る。

「染めたんだよ、見たらわかるだろ」

「じゃなくて!金は?無かったんじゃなかったのかよ?」

「親にもらった」

「はぁ…?」

直人はただきょとんとする。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#566 [我輩は匿名である]
「だって、弟だけ小遣いもらって、私には無かったんだよ?

どー考えたって不公平だろ。だから、昨日もらったの、今までの分」

飛鳥は当然の事のように言いながら、自分の席に座る。

「…いくらもらったんだよ?」

「5万」

「一気に!?」

「だから、今までの分だっつっただろ」

飛鳥は言いながら、まだ髪を気にしている。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#567 [我輩は匿名である]
「………変、かな?」

「…いや、今の方が絶対良いと思うけど。ヤンキーみたいだったし」

「ヤンキーって言うな!」

「どー見てもヤンキーだろ!」

「っさいなぁ!」

2人は大きな声で言い合う。

「…ま、いいんじゃねーの?今は普通に見えるし」

「…じゃあ、いい」

2人は目立っているのに気付いたのか、急に大人しくなった。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#568 [我輩は匿名である]
「…そういえば、あんたの相棒は?休み?」

「はぁ?何をいまさら…」

直人はそう言いかけてやめる。

薫達が怪我をした時は、飛鳥は本の内容でそれどころではなかったのだ。

「…あー、ちょっといろいろあってな。ほぼ絶対安静って感じ」

「…何かよくわかんないけど、大変だったって事だね」

飛鳥は言いながらため息を吐く。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#569 [我輩は匿名である]
「水無月くーん」

呼ばれて振り向くと、響子と奏子がいた。

「おぅ、おはよ」

「おはよう…ん?」

2人は「誰?」と言うように飛鳥を見る。

「あぁ…こいつは…」

直人はまた、何か言いかけて、ふと考えた。

「(これ、友達候補にしてもいいのか?

でも、安斎はともかく、香月とは被害者加害者の関係だし…)」

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#570 [我輩は匿名である]
「あ、もしかして神崎さん?」

直人が考えている間に、響子が飛鳥に話し掛けた。

直人はぎょっとしつつ、黙って様子を見る。

「へ?そ、そうだけど…」

いきなり言われて、飛鳥も目を丸くする。

「何で私の事…」

「それは…」

響子は「何て言おうか」と考える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#571 [我輩は匿名である]
「風の噂よ♪」

便乗して、奏子まで割って入った。

「私、安斎奏子。で、こっちの子が香月響子。私5組で、響子が4組」

「(…なんかわかんねぇけど、チャーンス!!)」

なりふり構わず、直人は目を光らせる。

「わ、私は…」

飛鳥は少し緊張しながら顔を上げる。

「私は、神崎、飛鳥。8組」

「うん、8組は知ってる」

奏子は笑顔で答える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#572 [我輩は匿名である]
「何か、意外だね」

「な…何が?」

「金髪だし、怖そうって噂があったからさ。でも普通の子じゃん」

「そうね」

奏子に言われて、響子も笑って頷く。

「普通?…私、普通に見える?」

飛鳥はちょっと目を輝かせる。

「普通でしょ。え、どっか変なの?」

「いや…別に変じゃない、と思うけど…」

奏子と飛鳥が話している間に、直人は響子の肩を叩く。

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#573 [我輩は匿名である]
「お前、何とも思ってねーの?」

「思ってないわけないでしょ」

響子は笑顔のまま答える。

直人の背筋に寒気が走る。

「え…」

「大丈夫よ、何もしないから。ていうか、よく連れ戻したね」

「当たり前だろ。また死なれてたまるかよ」

「…でも奏子ちゃんが言うように、意外と普通じゃない。

もっと陰キャラかと思ってたけど」

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#574 [我輩は匿名である]
「…お前の口から『陰キャラ』なんて言葉が聞けるとは思わなかったな」

直人は「へっ」と少し笑う。

「えっ!?バイト探してんの?じゃあさぁ、ウチんとこ来なよ。ちょうど同期の子が辞めちゃってさ」

「…何のバイト?」

「カフェ。ケーキとか紅茶とか配り回るだけだから、慣れれば楽しいよ」

「カフェ…」

飛鳥はますます目を輝かせる。

「…なんか、あいつのペースに乗せられてない?」

「いいんじゃない?むしろそっちの方が」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#575 [我輩は匿名である]
「まぁな…。あいつ、ちょうど友達探しするって言ってたし」

「そうなの?…あぁ、そっか、“前”の理由がアレだったもんね」

おそらく、薫から聞いたのだろう。

響子は晶の自殺の理由を知っているようだった。

「まぁ、そーゆー事だな。安斎なら、そっからいろいろ繋がりそうな気もするし」

「奏子ちゃん、意外と私といる時が多いよ」

「へ、そうなのか?」

「うん。他の子とも仲は良いけど、浅く広く。

まぁ世渡り上手タイプだから、あの子にとっては勉強になるんじゃないかな?」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#576 [我輩は匿名である]
「はーん、なるほどね。…つか、お前達何しに来たの?」

「あーっ、そうそう!」

直人の声が聞こえたのか、奏子がいきなり振り向いて返事をした。

彼女のペースに追い付けず、飛鳥はただぽかーんとする。

「今日ライティングある?教科書貸してほしくて」

奏子はぱちんと手を合わせる。

直人は一瞬考えて、とっさに「あ、俺も忘れた」と嘘をついた。

「えー」

奏子は「何それー」と肩を落とす。

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#577 [我輩は匿名である]
それと同時に、直人が飛鳥に目で合図を送る。

飛鳥は最初は「は?」と首をかしげていたが、「あぁ!」と声を上げた。

「わ、私持ってるよ!」

飛鳥の声に、響子と奏子が振り向く。

「本当っ?」

「うん…」

飛鳥はちょっと焦りながら、机の中をあさる。

「………あ、はい」

「ありがとー!1時間目終わったら、すぐ返しに来るからね!」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#578 [我輩は匿名である]
「うん」

飛鳥はホッとしたように少し笑った。

「じゃあね!」

奏子と響子は、飛鳥と直人に手を振って、教室を出て行った。

「…第一歩って感じ?」

直人はニッと笑って飛鳥を見る。

しかし、飛鳥はまるで埴輪のように呆然とする。

「なんか…びっくりした…」

「嵐みたいな奴だからな、あいつ」

「…でもなんか…面白かったかも…」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#579 [我輩は匿名である]
「言っとくけど、楽しいばっかりじゃないからな?

喧嘩とかする時もあるんだからな?」

「…そうだね、忘れてた」

飛鳥が意識を全部戻してきたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

「じゃ、まぁ何かあったら言ってこいよ」

直人はそう言って、自分の席についた。

⏰:10/04/14 21:47 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#580 [我輩は匿名である]
1時間目が終わるチャイムが鳴り、奏子が教科書を返しにやって来た。

「神崎さん、だっけ。ありがとう」

奏子は笑って、飛鳥に教科書を手渡す。

「…ねぇ、…安斎さん」

飛鳥は思い切って、自分から話し掛ける。

「ん?」

「…昼ご飯、誰と食べてる?」

「お昼ご飯?響子と食べてるよ。一緒に食べる?」

奏子は、飛鳥が頼むより先に昼食に誘った。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#581 [我輩は匿名である]
「えっ…いいの?」

「いいよ?おいでおいで」

「…うん…!」

飛鳥は大きく頷く。

直人は気付かれないように、その様子を見ながらホッとしていた。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#582 [我輩は匿名である]
>>550-581

⏰:10/04/15 19:13 📱:F03B 🆔:92JHW.eU


#583 [我輩は匿名である]
次の月曜日。

直人は登校して来てすぐに、目を丸くして足を止める。

下駄箱で、ジャージ姿の薫が、響子に付き添われて靴を履いていたのだ。

「薫!?」

「ん?よぉ」

「よぉ。じゃねーよ!来れるようになったんなら言えよ!!」

「びっくりさせてやろうと思って」

「いらねぇよ!!」

直人はテンションがおかしくなって、朝から大声を上げる。

⏰:10/04/15 20:23 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#584 [我輩は匿名である]
「一応登校は許可されたからさ。まだこっちの腕使えないけど」

薫は左腕を見ながら直人に言う。

「折れた骨があんまりズレてないらしいし、だいぶ痛みも引いたからさ。

もちろん体育とかは出来ないけど、休みすぎるとダブるし」

「そっかぁ…。ま、マシになって良かったな!俺も何かホッとしたわ!」

直人は満面の笑みを見せる。

⏰:10/04/16 09:13 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#585 [我輩は匿名である]
「おはよー」

3人が下駄箱で立ち止まっていると、奏子と飛鳥も登校してきた。

「おう。珍しいな、一緒に来るなんて」

「…ちょうどそこで会ったからさ」

飛鳥はそう言いながら校門を指差す。

「あー、それでか」

「あっ、月城くんだっけ?あんた学校来れるようになったんだね」

「あぁ、まぁ…」

薫はすぐに誰だったか思い出せず、少しぽかんとする。

⏰:10/04/16 09:14 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#586 [我輩は匿名である]
「…奏子、日直って言ってなかったっけ」

「へ?あぁっ、そうそう!じゃあまたお昼休みね」

奏子はそう言って、さっさと靴を履きかえて走っていった。

4人はボーッと、奏子の走っていく背中を見る。

「忙しい子だねぇ」

4人の背後で、老人のしゃがれた声がした。

⏰:10/04/16 09:14 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#587 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は素早く、薫と響子はゆっくりと振り向く。

そこには、直人達に本を渡した、あの老人が立っていた。

「…おっさん…」

「死ななかったんだねぇ、君」

驚いて立ち尽くす直人をよそに、老人はニヤッと笑って飛鳥に言った。

「わしはてっきり、後ろの彼に殺されでもすると思ってたがのぉ」

老人は小汚い手で薫を指差す。

飛鳥も「は…?」と薫に目をやる。

「…何だ、俺が誰か知らなかったのか」

薫は不思議そうに答える。

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#588 [我輩は匿名である]
「どういう…」

「止めろ!おっさん!」

直人はとっさに老人に向かって叫び、詰め寄る。

飛鳥も薫も、びっくりして直人を見る。

が、老人は笑顔のまま、口を動かした。

「…君の後ろのお友達、君が巻き込んで死なせた、あの女の人だよぉ?」

「…え…?」

飛鳥はゆっくりと、響子の方を向く。

直人はキッと、老人を睨む。

「…嘘…でしょ…?」

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#589 [我輩は匿名である]
茫然としながら、飛鳥はただじっと響子を見つめる。

「本当だよ」

そう答えたのは、薫だった。

「俺はその夫だ」

「薫…!」

直人は思わず、薫に手を伸ばす。

しかし、響子がすぐにそれを止めた。

⏰:10/04/16 13:26 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#590 [我輩は匿名である]
「君、よく我慢できたねぇ?わしゃあ、絶対無理だと思ってたけど」

老人の言葉に、薫は小さく笑い、響子の肩を抱いて引き寄せる。

「俺はなぁ、こいつがいてくれたら、もうどうでもいいんだよ。

後は、あんな“事故”が2度と起こらなければ良いと願うだけだ。

恨み続けるのも疲れたしな。それに、俺は今の生活の方が楽しいし」

直人も飛鳥も、黙って彼を見る。

⏰:10/04/16 13:27 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#591 [我輩は匿名である]
その隣で、響子も静かに笑みを浮かべた。

「この子を憎んだところで、あの日に戻れるわけでもないし、お腹の子も戻らない。

…私、あの子に言ったの。“生まれ変わったら、お父さんにいっぱい抱っこしてもらおうね”って。

だから、そんな事考えても何にもならないと思って」

薫と響子は、凛とした表情をして老人を見返す。

「ほぅ…意外だねぇ。まさかこんなに丸く収まるとは思わなかったなぁ」

老人は「ほっほっほっ」と笑う。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#592 [我輩は匿名である]
「では、本を返してもらおうかの」

そう言いながら、老人はこちらに向かって手を伸ばす。

すると、直人・飛鳥・薫の前に、それぞれ赤・青・深緑色の本が現れた。

「…これ…何で…」

直人達が驚いている間に、本は老人の手に納まった。

「なんだよ、それくれねぇの?」

「やらんよ。他にも本を渡さなんといかん人がおるからなぁ。

使い回しとるんだよ。エコだよ、今流行っとるだろ?エコ。

まあ心配せんでも、綺麗に真っさらにしてから使うんだがねぇ」

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#593 [我輩は匿名である]
老人は言いながら、リュックに本を放り込む。

「それ…あんたに返したら、記憶は無くなるのか?」

薫はあまり動じずに尋ねる。

「そんなこたぁない」

老人は答える。

「あんたらに売った記憶は、死ぬまで消える事はない。

そこまでの力は無いからなぁ」

「“売った”?俺達、買った事になってんのか!?」

直人は「そんな金ねぇよ」と頭を抱える。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#594 [我輩は匿名である]
「心配するな、代金はもうもらっとる」

老人は言いながら、直人達みんなを指差す。

「あんたらの“前世”からのぉ」

「へ…」

直人と飛鳥はきょとんとする。

「…1つ聞きたい事がある」

薫は落ち着いて、再び老人に尋ねる。

「なぜ響子だけ、本を持たずに思い出せたんだ?」

「あーぁ、それはだねぇ」

相変わらずふざけた口調で、老人は答える。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#595 [我輩は匿名である]
「“彼女”はちょっと特別でねぇ、死んだ後もずーっとあんたの傍にいた。

要するに幽霊だったわけだ。それ程想いが強かったんだろうなぁ。

だから、“彼女”は本を渡さなくても、自然に思い出すだろうとみなされたわけ」

話を聞きながら、薫と響子は顔を見合う。

「さぁて、じゃあそろそろおいとましようかの。元気でなぁ〜」

老人は気楽そうにそう言って、姿を消した。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#596 [我輩は匿名である]
4人は無言でボーッとする。

ふと、飛鳥がもう1度、薫と響子の方に体を向ける。

直人も何も言わず、彼女を見つめる。

しばらく無言のまま時が過ぎた後、飛鳥は2人に向かって頭を下げた。

「すいませんでした」

3人は黙ったまま、ただ飛鳥を見下ろす。

直人は薫と響子の様子をちらちらと伺う。

「……もういいよ、頭上げて」

少し笑って、響子はそっと、飛鳥の肩に手をおく。

⏰:10/04/16 21:23 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#597 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥は頭を上げようとしない。

「おい」

今度は薫が、呆れたように飛鳥に言う。

その声が怖く聞こえたのか、飛鳥は恐る恐る頭を上げる。

「次あんな事しようとしたら、死ぬより辛い目に遭わせてやるからな」

「(…こえぇ…)」

薫の表情と言葉に、直人は寒気を感じる。

しかし薫はそれだけ言うと、響子を引きつれて、その場を離れようと背中を向ける。

「あ、待てよ」

何か思いついたのか、薫は再び振り向く。

⏰:10/04/16 21:24 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#598 [我輩は匿名である]
「お前、響子の代わりに鞄持って」

「…は?」

飛鳥は眉間にしわを寄せて首をかしげる。

その態度が、薫の気に障ってしまった。

「…俺にケンカ売ってるのか…?」

「う、売ってないです!持ちます!鞄!」

飛鳥は怖くなって、さっさと靴を履き替えて、響子から薫の黒いエナメルの鞄を受け取った。

⏰:10/04/17 09:38 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#599 [我輩は匿名である]
「重っ…」

「横向けるな、弁当が偏る」

「はい…」

あれこれ文句をつけられながら、飛鳥はそれを持って教室に向かう。

その様子を見て、直人と響子は笑っている。

「そういえば」

響子は思い出したように直人に話し掛ける。

「水無月くんって、やっぱりあの子の事好きなの?」

⏰:10/04/17 09:38 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#600 [我輩は匿名である]
「へ?」

何の話かわからず、直人はきょとんとする。

「飛鳥ちゃんよ。やっぱり気があるのかなぁーって」

響子は笑っている。

「えっ…え?いや、別に…」

直人はそう言うが、響子は「鈍感ねぇ」と呆れている。

「…本当に、わかんねぇんだよ」

直人は少し口を尖らせる。

⏰:10/04/17 09:39 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#601 [我輩は匿名である]
「俺は、自分は要じゃないし、神崎と石川晶も別だと思ってるから…。

今は神崎もそれどころじゃないしな。…わかんねぇ」
直人はそう言って歩きだした。

響子も小さく笑って、後を追って行った。

⏰:10/04/17 09:40 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#602 [我輩は匿名である]
ここまで読んで下さった方、ありがとうございますm(_ _)m

実はこの話、ここで終わりなのです

でも中途半端なので、第2部(?)を作りたいと思ってます

なので、続きを楽しみにして下さる方、もう少々お待ちくださいヽ(´▽`)/

⏰:10/04/17 09:45 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#603 [みきChan]
めちゃめちゃ楽しかった
更新されるたび毎日読んでました
次も楽しみにしてます

⏰:10/04/17 10:58 📱:SH01B 🆔:wjvRG6HM


#604 [我輩は匿名である]
面白かった
続き楽しみにしてます

⏰:10/04/17 12:14 📱:T003 🆔:☆☆☆


#605 [光]
主さんお疲れ様でした!!

とても面白かった!
第二部待ってます(^o^)

⏰:10/04/17 20:36 📱:F02A 🆔:706MQ.aI


#606 [髑髏-ドクロ-]
面白かったです\(^O^)/

⏰:10/04/18 08:55 📱:SH705i 🆔:185FcNrM


#607 [我輩は匿名である]
感想下さった皆様、ありがとうございます

とりあえず続編の板だけ立てましたのでどうぞ↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/11519/

感想は前と同じこちらをお使いください↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/

これからもよろしくお願いします

⏰:10/04/18 12:24 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#608 [我輩は匿名である]
>>1ー700

⏰:10/04/19 05:05 📱:P906i 🆔:lEE418PM


#609 [ゆんころ]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

しつれーい

⏰:10/04/20 22:49 📱:P02A 🆔:kGNSxegU


#610 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600

⏰:10/04/21 21:31 📱:W53T 🆔:NCHKOQRg


#611 [我輩は匿名である]
あげてみます

⏰:10/05/08 23:50 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#612 [我輩は匿名である]
age
設定ミスをいろいろ見つけてかなりブルーです…
読んで下さった方、すみません

⏰:10/06/10 19:51 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#613 [我輩は匿名である]
凄い面白いです
昨日からずっと読み続けてました(゚∀゚)!

本になってほしいくらい面白いです
続き楽しみにしてます

⏰:10/12/03 22:22 📱:N03B 🆔:HC.yp7G2


#614 [我輩は匿名である]
久々に上げてみようと思ったらコメントが(@゚▽゚@)!!

>>613サン
読んでいただいてありがとうございます
続き頑張ります(^O^)/
よかったら感想板の方も覗いてみて下さいませ(●^ー^●)
特に何もありませんが、人が増えるととっても喜びます(私が)(*^_^*)

⏰:11/01/04 22:24 📱:N08A3 🆔:CNkCJZG6


#615 [&◆JJNmA2e1As]
(´∀`∩)↑

⏰:22/10/01 20:54 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#616 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/07 16:41 📱:Android 🆔:GR1soPvw


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