記憶を売る本屋さん
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#2 [我輩は匿名である]
ある街に、1つの都市伝説が伝えられている。

『道を歩いていると、身体の2倍ぐらいの大きさのリュックを背負って、

 まるで仙人のような顎ひげを伸ばし、サングラスを掛けた

 色黒の老人が、1冊の本を手渡してくる。

 言葉巧みに、半ば強引に。

 本を渡されるのは極少数だが、本を読むと最後。

 突然家を飛び出して捜索願を出される者もいれば、

 最悪の場合、自ら生を投げ出す者もいる。』

 それゆえ、「本をもらった人は殺される」と噂されている…。

⏰:10/03/22 13:48 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#3 [我輩は匿名である]
「最近あの話聞かないな」

下駄箱で靴を履き替えながら、ふと、秋月直人は言った。

「何だよ、突然」

友人の月城薫は、きょとんとして言葉を返す。

「だって、俺達が高校受験に励むぐらいから、1回も聞いてねぇだろ」

「まぁ、言っても半年ぐらいだけどな」

薫は大した事なさそうに笑って、上靴を下駄箱に放り込んだ。

⏰:10/03/22 13:53 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#4 [我輩は匿名である]
確か最後に聞いた話は、19歳の女性が行方不明になり、

1週間後に電車にはねられて亡くなった。

彼女の自室から、タイトルのない、黒い四六版サイズの本が発見さ

れたという話だった。

「いいじゃん、その方が平和で」

「まぁそうだけどよ」

「それに」

薫は身体ごと直人に向ける。

「死なない人だっているんだろ?」

その一言に、直人はぽかんとする。

そんな話、聞いた事がない。

たまたま、今まで耳にしなかっただけかもしれないが。

⏰:10/03/22 14:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#5 [我輩は匿名である]
出だし面白い!
期待してます!

⏰:10/03/22 14:10 📱:P01A 🆔:☆☆☆


#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」

「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」

「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」

直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。

薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。

「教室に弁当箱忘れた」

「何だよもう…。取って来い!」

直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。

「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」

「ちっ」

悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。

「俺その辺で待ってるからな」

「んー…」

ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。

⏰:10/03/22 14:12 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#7 [我輩は匿名である]
>>5さん

ありがとうございますっ(>∀<)!!

長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪

⏰:10/03/22 14:14 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。

好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。

しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。

かろうじて校門が視界に入る角度で。

心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。

「(…今…校門に…)」

周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。

校門を見るまでは。

「(…まさか…な…)」

恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。

校門周辺には、誰もいなかった。

「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。

「気のせいじゃないよぅ〜?」

背後でしゃがれた声がした。

⏰:10/03/22 14:24 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。

下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。

足が、全身が小刻みに震えだす。

「なぁ、君、本は好きかぃ?」

声が尋ねてくる。

「…い…いや…きっ、嫌い…」

さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。

だから『あの老人』が来たんだ、と。

噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。

「嫌い」としか言えなかった。

しかし、声は諦めてくれない。

「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。

 1回読んでみなさいな、ねぇ?」

話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。

⏰:10/03/22 14:31 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。

服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。

「お…俺の為の本…?」

呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。

「そうそう」

肩に置かれていた手が離れる。

背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。

時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。

「ほれ」

直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。

それは、1冊の本だった。

⏰:10/03/22 14:38 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。

タイトルも著者名も、何も書かれていない。

直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。

「きっと君の役に立つと思うよぉ?」

声は笑っているかのようだった。

耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。

ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。

怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。

背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。

直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。

これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。

捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。

直人は息を殺して、本のページに指をかける。

⏰:10/03/22 14:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#12 [我輩は匿名である]
「直人!」

薫の声が、直人を呼ぶ。

その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。

「ごめん、お待たせ」

「あっ…あぁ…遅かったな…」

無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。

その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。

「…どうかした?顔真っ青だけど」

「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」

よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。

「腹痛?大丈夫か?」

言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。

「…お前、心配してないだろ」

「してるしてる」

⏰:10/03/22 14:58 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。

直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。

「弁当箱、あったか?」

「無いとおかしいだろ」

「ま、まぁな」

変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。

「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」

薫は話を変えた。

彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。

名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。

窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。

「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」

「まぁな」

2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。

⏰:10/03/22 15:06 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。

結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。

今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。

万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。

ごくっと唾を飲む。

「(よし…やるか!)」

自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。

「うわっ…!」

ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。

わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。

⏰:10/03/22 15:13 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」

聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。

視界には、知らない玄関が映っていた。

「えっ、どこ!?」

そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。

それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。

「…どこだ…?ここ…」

直人は絶句した。見た事も無い場所だった。

立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。

前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。

服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。

⏰:10/03/22 15:27 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#16 [我輩は匿名である]
「何、あいつ。古っ」

そんな事より、どうやったらこの身体は思うとおりに動いてくれるのか。

喋りたくても喋れない。止まりたくても止まらない。見たい物も見れない。

たださっさと、沈む夕日に向かって歩くだけだ。

「あらぁ、カナメ君。どこ行くの?」

道の少し先にいる、40歳前後のおばさんが、こっちに向かって話しかけてきた。

「なんか、トイレットペーパーがなくなったから、買って来てって」

少年の声がした。さっき「行って来ます」と言った、あの声だ。

驚いたことに、その声を発したのは、この身体だった。

直人は状況が飲み込めず、ただ唖然とする。

「トイレットペーパーねぇ。4年前は買うのも大変だったのに、あれなんだったんだろうねぇ。

オイルショックだか何だか知らないけど、迷惑なもんだよ」

女性は呆れたように苦笑いする。

⏰:10/03/22 15:37 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#17 [我輩は匿名である]
「オイルショック…?」

直人にはその言葉が引っかかった。

歴史は別に得意ではないが、それが40〜50年ほど前に起きた、

という事は、中学の時にテストで出たので覚えている。

そして、オイルショックの際、原油価格がどうこうで、トイレットペーパーが無くなると噂が広まり、

買い求めるために行列ができた程、という話も聞いた。

しかし、女性の話が本当ならば、今ここは、1970年代後半ぐらいという事になる。

なぜ?

直人はただ、家であの赤い本を開いただけなのに、なぜこんなわけの分からない状況になっているのか?

これではまるで、タイムスリップではないか。

本を開けただけで、そんな事が起こるはずが無い!

⏰:10/03/22 15:44 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#18 [我輩は匿名である]
大体この身体は誰だ?言う事を聞かないし、干渉する事もできない。

『彼』は、直人の存在に気付いていない。

それでも『彼』が目にした物は、自分が見ているかのように、直人にも鮮明に見えた。

そして、ある事に気付いた。

誰も携帯電話を持っていない。

今の時代、歩いていれば必ず、携帯電話を使っている人とすれ違う。

電話している人、メールを打っている人、様々だが、ここには誰も、そんな仕草をしている人はいない。

それだけではない。マンションもほとんど見当たらず、何よりコンビニが1件もない。

直人はぞっとした。

⏰:10/03/22 15:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#19 [我輩は匿名である]
「何だよこれ…どうやったら元に戻れるんだよ!?」

不安のあまり、叫んだ。心の中で。

本を開いたからここに来た。しかし、今は本を持っていない。戻る方法がわからない。

まさか、一生このままなのか…?

「うわぁ!?」

直人の考え事は、その声にかき消された。

裏道のような細い路地。

人1人通るのがやっとの道に、髪の長い少女がうずくまるようにしてしゃがみこんでいたのだ。

白いワンピースに、赤い靴。

「こわっ。ホラー映画かよ」。直人は思った。

「こ、こんなところで何してるの?」

この身体の主が、少女に尋ねる。

⏰:10/03/22 16:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#20 [我輩は匿名である]
声をかけられ、少女はこっちを向く。

人に怯えたような、死んだような瞳だった。

「…どこの子?この辺…じゃ、ないよな?」

この身体の主も、直人と同じように「怖い」と思ったのだろう。

声の調子が少し変わり、緊張しているのが分かる。

「…何も」

少女は小さな声で、それだけ言った。

身体の主は、困ったように「え…」と口ごもる。

それを見てか、少女はこう付け足した。

「帰りたくないから、ここにいるの。…それだけ」

どうやら家出をしてきたようだ。しかも、手ぶらで。

「でも、夜になると冷えるよ?」

「いいの。誰も心配してないし。…親もいないし」

⏰:10/03/22 16:11 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#21 [我輩は匿名である]
少女は顔を背け、膝元に顔をうずめる。

こういうの、めんどくせぇ。直人はため息をつく。

「…君、名前は?」

身体の主は、不意にそんな事を尋ねた。

思わず、少女が顔を上げる。

「俺、ナガツキ カナメ。“長”い“月”に、必要の“要”。今年で16歳」

長月 要。この身体の主は、そういう名前だそうだ。

「…イシカワ、アキラ」

「え?」

「私の名前。イシカワ アキラ。“石”に“川”に、水晶の“晶”」

少女は短く、それだけ答えた。歳は直人と、つまり要と同じぐらいに見える。

⏰:10/03/22 16:18 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。

「高校生?」

「…うん、この間入ったばかり」

「じゃあ、俺と同じだ」

要の声は、明るかった。

気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。

「家、どの辺?」

「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」

少女の話に、要は何も言わなかった。

「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」

⏰:10/03/22 16:29 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」

突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。

要も直人もびくっとする。

要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。

「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」

「心配?」

晶が小さく笑って立ち上がる。

「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」

視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。

とりあえず、1歩下がって事態を見守る。

「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」

「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」

晶はフンとそっぽを向く。

⏰:10/03/22 16:36 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」

女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。

その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。

「そこにいるじゃない」

晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。

「マジかよ」直人は呆然とする。

要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。

しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。

「はい、友達です」と。

それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。

「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」

さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。

⏰:10/03/22 16:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。

「ごめんね、いきなり」

女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。

「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」

要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。

「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?

 まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」

晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。

急に視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 16:45 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」

直人は思わず大きな声を出した。

そして、慌てて自分ののどを押さえる。

「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」

久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。

部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。

「お兄ちゃん!うるさい!!」

バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。

かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。

「…恵理だ…」

いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。

やっと戻ってきた。心の底からホッとした。

⏰:10/03/22 16:50 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。

時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。

ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。

「時間が…経ってない…!?」

本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。

それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…

といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。

直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。

左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。

直人は本を手に取り、他のページを見てみる。

他のページは全て、白紙だった。

「…何なんだ…?この本…」

直人は呟き、最初のページに戻る。

⏰:10/03/22 16:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#28 [我輩は匿名である]
  1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
          隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
          話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
          その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
          石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。

縦書きで、これだけ書かれていた。

「…誰かの日記か…?」

しかし、日記にしては文章がかたい。

⏰:10/03/22 17:10 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。

「これ、40年前の今日だ…」

携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。

やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。

どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。

しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。

ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。

⏰:10/03/22 17:15 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#30 [我輩は匿名である]
次の日。

昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。

「…お前、昨日なんかあったのか?」

「…へ?」

薫に聞かれて、直人はふと我に返る。

「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

直人は薫にくってかかる。

いつもの直人に戻った。薫は思った。

…薫に相談してみるべきか、直人は考える。

薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。

とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。

1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。

⏰:10/03/22 17:22 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#31 [我輩は匿名である]
「…本」

直人はドキッとする。

いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。

「…なんで…」

「当たりか」

「お前、何か知ってんのか…!?」

直人は机に手をついて、薫に問いかける。

「……別に何も知らねぇよ」

薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。

「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」

「…うん…」

直人はしぶしぶ頷く。

⏰:10/03/22 17:28 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」

「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」

「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」

薫は呆れたように息をつく。

「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」

昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。

なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。

「…何だ、これ」

「本」

「見りゃ分かる。…何も書いてないな」

表紙を見て、薫は首をひねる。

⏰:10/03/22 17:34 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」

直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。

このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。

そう思うと、開く気が引けてきてしまった。

「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」

直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。

「うわっ!ばかやろう!!」

直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。

「…あれ?」

何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。

「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」

「うるせぇ!!」

言い合いをしながら、2人で本に目をやる。

⏰:10/03/22 17:42 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。

「(はぁ…良かった…)」

直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。

「変だろ?そんだけしか…」

とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。

そして、自分の目を疑った。

本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。

眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。

薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。

「…おい…」

「…石川…晶…」

薫が小声で呟いた。

⏰:10/03/22 17:52 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。

「…なんだよ?まだ読んでたのに」

目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。

「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」

直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。

「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」

薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。

さっきのは、気のせいだったのだろうか?

「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。

 その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」

「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」

「あぁ」

直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。

背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。

⏰:10/03/22 17:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#36 [我輩は匿名である]
続き楽しみにしてます^^

⏰:10/03/22 21:06 📱:W65T 🆔:XgEtkN3Q


#37 [我輩は匿名である]
著者です。パソコン付けるのめんどくさいので、ケータイから失礼します。

>>36さん
ありがとうございます
今からまたちょっと進めます

⏰:10/03/22 22:25 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#38 [我輩は匿名である]
結局、タイムスリップの事は薫には話せなかった。

それどころか、薫にはあの本の話し自体しない方がいいかもしれない、とさえ思った。

制服のままベッドに寝転んで、直人は本を見つめる。
なぜ薫と見た時は何も起きなかったのだろう?

直人は起き上がり、あぐらをかく。

そして、何気なく開いてみた。

「えっ!?」

昨日と同じように、直人はあのまばゆい光に包まれた。

⏰:10/03/22 22:27 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#39 [我輩は匿名である]
「なんでぇーっ!?」

そう言った時には、すでに声が出なくなっていた。

気付けば、後ろの方でチャイムが鳴り、周りは下校中らしい生徒で溢れていた。
「実力試験、どうだった?」
隣にいた友人らしい男子が話しかけてくる。

「全然だめ。勉強しておけば良かったなぁ…」

この声は長月要だ。直人はすぐに気付いた。

「また来たのかよ!?」

覚悟が出来ていなかった直人は、呆然とする。

しかしまぁ、勝手に元に戻れるのならと考えると、昨日よりは気が楽だ。

⏰:10/03/22 22:28 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#40 [我輩は匿名である]
「あ!」

要と直人が声を上げたのは、同時だった。

視線の先には、制服姿で1人で歩く石川晶がいた。

「ちょっと知り合い見つけたから、先帰ってて」

「へ?あぁ…」

要は「ごめんな」と手を合わせて、走りだす。

「石川さん!」

要の声に、晶は振り向く。

要を見て、憂うつそうな顔がパッと明るくなる。

「長月くん!」

「今帰り?」

「うん、ちょっとブラブラしてから帰ろうかと思って」

⏰:10/03/22 22:29 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。

「そっかぁ。送って行こうか?」

「でも…、逆方向じゃない?」

「いいよ、今日何も予定ないし」

「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」

晶はにっこりと笑う。

昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。

「ここから何分ぐらい?」

「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」

「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」

⏰:10/03/22 22:36 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」

「電車で通ってるのか」

「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」

「散歩っていっても、何もないよな、この辺」

「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」

晶は苦笑する。

「本当に嫌いなんだな」

直人は話を聞いていて思った。

施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。

「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」

⏰:10/03/22 22:38 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」

「嫌い。大っ嫌い」

晶の表情が曇る。

「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」

「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」

「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」

⏰:10/03/22 22:39 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。

不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。

「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」

「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」

要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。

「長月くん、優しいね」

「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」

晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。

「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」

晶は淋しそうな表情で言う。

⏰:10/03/22 22:41 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」

要は答える。

「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。

それに、石川さんはひねくれてない」

「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。

要よりはひねくれているが、

これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。

「…ありがとう」

晶は少し下を向いて、要に礼を言った。

⏰:10/03/22 22:42 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」

直人は変に冷静になって、そんな事を考える。

この環境に慣れてきたらしい。

「あっ、晶ちゃーん」

後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。

要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。

「…誰?」

「来て!」

「へ!?」

晶は要の手を掴んで走りだした。

視界がガクガク揺れる。

⏰:10/03/22 22:43 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」

「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」

走っているからか、語尾が強い。

晶はそこまで言って、要に顔を向けた。

「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」

晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。

角を曲がって、2人は走るのを止めた。

膝に手をついて、呼吸を整える。

⏰:10/03/22 22:45 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」

「大丈夫…。…すごい走ったね…」

それだけ話して、しばらく会話はなかった。

疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。

視界はなかなか地面から切り替わらない。

2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。

そして、晶に向き直した。

「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」

「…え…?」

晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。

⏰:10/03/22 22:46 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」

何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。

晶もショックを隠せない。

「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」

要はそう、はっきりと断言する。

直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、

凛々しい顔をしているのだろう。

「…そんな…」

晶は顔を背ける。

⏰:10/03/22 22:47 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?

…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」

「…さぁ、わからない」

要は首を傾けて見せる。

「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。

…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」

要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。

「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」

話の途中で、晶が顔を背けた。

髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。

しかし、肩が震えているのだけはわかった。

⏰:10/03/22 22:48 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#51 [我輩は匿名である]
「…私…親にも見捨てられて…

施設でも馴染めなくて…ずっと1人ぼっちだった…。

中学でも友達って呼べる子はいなくて…」

要はずっと黙っている。

「誰かに『優しくしてもらった』と思った事がなくて…、

そんな事言われても…私っ…どうしたらいいのかわからないし…、

そんな子の傍にいても…長月くん、きっと疲れるよ…」

「…そんな事ないよ」

要がやっと、口を開く。

⏰:10/03/22 22:49 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#52 [我輩は匿名である]
「昨日と今日しか会ってないし、まだあんまり喋ってもないけど、

横にいて、楽しいと思えた。…今も」

晶は顔を背けたまま聞いている。

「だから友達は、石川さんだけでも、俺には十分だ」
それからしばらくの間、どちらも黙り込んだままだった。

「あーもううっとうしいなぁお前ら!

付き合うのか付き合わないのか、どっちかにしやがれ!

おい長月要!お前ももうちょっと粘れよ!

こいつ完璧にお前に気があるじゃねーか!」

直人にはどうしても耐えられないらしい。

⏰:10/03/22 22:51 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#53 [我輩は匿名である]
誰にも聞かれないからといって、大声で好き放題に騒いでいる。

「…もう帰ろう、冷えるよ。近くまで送るから」

要が晶に歩み寄り、そっと手で背中をさすった。

晶は何もいわずに頷く。

彼女の足元に、とても小さな染みが出来ている。

直人がそれに気付いた瞬間、視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 22:52 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#54 [我輩は匿名である]
「…えっ、今ので終わりかよ!」

直人は納得がいかず、飛び起きる。

せっかくいいムードだったのに。

その後あの2人がどうなったのが気になって、

直人は本を見つめる。

前回よりも、少し文章が増えている。

⏰:10/03/23 13:24 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#55 [我輩は匿名である]
4月11日 長月要が下校中、石川晶を見つけ、施設まで送る事になった。
その途中、石川晶と同じ施設に住んでいる彼女の同級生の
園田美代が彼らに声をかけた。
石川晶が長月要を連れて、彼女の目の届かない所まで移動。
「私だけの友達でいてほしい」という石川晶の言葉に、
長月要は「俺がいる事で悲しい顔をしなくていいのなら」と返事。
石川晶は静かに涙を流し、2人はそのまま養護施設へ向かった。

「…これで終わりかっ!」

何だか悔しくなって、直人は本を閉じてまた寝転んだ。

⏰:10/03/23 13:25 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#56 [我輩は匿名である]
どうしてここまで入れ込んできているのか、わからない。

しかし、あの2人には幸せになってほしい。

そう思った。

「直人ー!ご飯ー!」

ドアの向こうから母親の声がする。

「あーい」

直人は大きく返事をし、再び起き上がって部屋を出た。

⏰:10/03/23 13:25 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#57 [我輩は匿名である]
同じ頃、1人の女子生徒が、重い足取りで家路についていた。

直人達のクラスメイトの、あの金髪女である。

「おぅい、お嬢さん」

その声に、金髪女は足を止める。

「お嬢さん、本は読まんかなぁ?」

後ろから、しゃがれた男の声がした。

金髪女は黙って振り返る。

「…別に」

「ほぉう。まま、わしがやる本読んでみないか?」

見るからに怪しげな老人。

さすがに金髪女も不審だと思ったのだろう。

「いらない」と言って背を向けた。

それを見て、老人はニタッと笑う。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#58 [我輩は匿名である]
「人と付き合うのが怖い」

老人のその一言に、金髪女は再び足を止める。

「何でかわからんがぁ、人と接するのが怖い。君、そうだろうぅ?」

金髪女は何も言わずに振り向く。

そこには、青い本を差し出している小汚い老人がいた。

「この本読んだら、何で人と付き合えない理由、わかるかもねぇ」

金髪女は、話に食い付いたようにハッとする。

そして、ちょっと間考えた後、それを受け取った。

「…命は粗末にしない方がいいよぅ?お嬢さん」

「…は?」

金髪女は睨み付けたが、老人は構わずに背を向け、去っていった。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#59 [我輩は匿名である]
昨日はボーッとしていた直人が、

今日は朝っぱらから腕を組んで考え込んでいる。

薫はそれを見ながら、忙しい奴だな、と思った。

「(…ま、邪魔せずにいてやるか)」

朝礼が始まるまで、あと10分ある。

薫は暇つぶしに、あるところへ行ってみようと教室を出た。

この高校では屋上が解放されている。

転落防止のための高い柵が設置されており、

生徒でも入れるようになっているらしいのだ。

たまたまそんな話を耳にした薫は、

1度屋上に上ってみたいと思ったらしい。

⏰:10/03/23 13:28 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#60 [我輩は匿名である]
階段を上って、静かにドアを開ける。

同時に、春の暖かい空気が薫を包み込む。

「(…意外と人いないんだな)」

まだ朝だからか、誰もいないようだ。

ちょっとうれしく思いながら、薫は2、3歩進んでみる。

「こんにちは」

突然、女の声がした。

薫はびっくりして周囲を見回すが、誰もいない。

「ははっ。こっちこっち」

よく聞けば、上から聞こえるような気がする。

⏰:10/03/23 13:29 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#61 [我輩は匿名である]
薫はドアの屋根になっている所をを見上げる。

そこには、寝転がって肘をついてこっちを見る少女がいた。

薫のネクタイと同じ赤いリボンをしており、同級生のようだ。

薫を見てニコニコ笑っている少女を見て、薫は一瞬の間にいろんな事を思った。

「彼女には会ったことがある」

1番強く感じたのは、それだった。

少女もまた、黙って薫を見下ろしている。

まさか。薫は思った。

「…どこかで会った事ある?」

先にそう切り出したのは、少女の方だった。

⏰:10/03/23 13:30 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#62 [我輩は匿名である]
「…ない、はず。でも…俺もそんな気がする」

驚きながらも、薫は答える。

「あんた、名前は?」

「私?私は、カヅキ キョウコ」

少女の名前に、薫はハッと目を見開く。

「キョウコ!?昨日今日の“今日”に、子どもの“子”か!?」

少女もまたびっくりしつつ、「違うよ」と返事をした。

「“響く子”って書いて、“響子”。カヅキは“香る月”」

「…そ、そうか」

落ち着け。薫は自分に言い聞かせる。

「自分も名前が変わっているじゃないか」と。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#63 [我輩は匿名である]
「あなたは?」

香月響子が聞き返してくる。

「あぁ…俺は、月城薫。あんたの“月”に、…えー、

シンデレラ城の“城”に、骨董品の“薫”」

言いながら、もっと良い言い方はなかったのか。

「シンデレラ城」と言った後に、薫は自分に呆れた。

響子もそれを聞いて笑っている。

「可愛いね、シンデレラ城って」

「そ、それしか出て来なかったんだよ!」

恥ずかしくなって、薫は少し顔を赤くして言い返す。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#64 [我輩は匿名である]
「…月城くん、何組?」

「8組」

「遠いね。私4組」

「あー…遠いな」

もう少し近ければ…。薫は小さくため息をつく。

「なぁ、香月。いつも朝はここにいるか?」

「ん?うん、いるよ」

響子は頷く。

「月城くんも来る?」

「…そうしようかな」

薫は小さく笑って答える。

それを聞いて、響子もまた、嬉しそうに笑い返した。

⏰:10/03/23 13:32 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#65 [我輩は匿名である]
タイミングを見計らったかのように、学校中に予鈴が鳴り響く。

「あ。教室に帰らないと」

そう言うと、響子は後ろにある梯子を降りて、薫の横に来た。

「行くか」

「うん」

2人は一緒に歩きだしたが、1歩踏み出した所で響子が足を止めた。

振り返って見ると、響子は眉間にしわを寄せて、頭の側面を押さえている。

「どうした?大丈夫か?」

「うん…ちょっと、急に頭痛くなって。でも、大丈夫。行こ」

今度は先に響子が歩きだした。

薫は心配に思いながらも、彼女について階段を降りていった。

⏰:10/03/23 13:33 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#66 [我輩は匿名である]
直人はある事を考えていた。

一昨日、昨日と、1日に1度しか“あっち”に行けなかった。

1日に2回本を開けば、2日分進む事が出来るのだろうか、と。

その方が早く話を進められるのだが。

担任の話そっちのけで、直人はずーっと本の事を考えていた。

「おい」

すぐ横で薫の声がして、直人はやっと顔を上げた。

クラスメイト達がぞろぞろと教室を出て行っている。

⏰:10/03/23 13:33 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#67 [我輩は匿名である]
「次、生物室だろ」

「はっ!忘れてた!」

「早くしろ」

ちょっと苛立ったように薫に言われて、慌てて生物の用意をする。

そして、教科書とノートの間に、あの本を忍ばせて教室を飛び出した。

「まだ何か考えてんのか」

呆れたように薫が言う。

「んー…あの本の事で、ちょっとさ。

あれ、開いたら急に、昔の世界に飛ばされんだよ」

他の生徒に聞こえないように、直人は小声で言った。

言ってしまった。とも思った。

⏰:10/03/23 13:34 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#68 [我輩は匿名である]
「…昔の世界?」

薫は聞き返す。

「んー、しかも、知らない男の中から、そいつの目で見える物を見て、…見てるだけなんだけど」

どう言えばちゃんと伝わるのかわからず、

直人は「あー!」と、もどかしそうに頭をかく。

「落ち着け」

「なんつーかなぁ…、タイムスリップだよ、タイムスリップ。

そんな簡単なもんかわかんねえけど、とりあえず1977年に飛んじゃうわけ!」

「1977年…?」

「そう!1977年!」

⏰:10/03/23 13:35 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#69 [我輩は匿名である]
つい直人は声を大きくしてしまい、薫に「しーっ!」と注意されてしまった。

「おかしいだろ?何でそれで自殺とかに行き着くのか、意味わかんねぇんだよなぁ…」

「まぁなぁ…」

直人の話が何となくわかったのか、薫も首をひねる。

前方に「生物室」と札が出ているのが見える。

「まだ話終わってないのに」と、直人は舌打ちする。

「後で続き聞かせてくれよ。気になるから」

「当たり前だろ。こんな中途半端で終われるか」

2人はそんな事を言いながら、生物室に入ってそれぞれの席に着いた。

⏰:10/03/23 13:36 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#70 [我輩は匿名である]
先生に起立、礼をしてから、直人は本をスタンバイする。

今から開く気らしい。

教科書の適当なページとノートを広げ、

あの本だけは机のすぐ下に持って、誰にも見えないように隠す。

光った時に、大っぴらに光が漏れないようにするためだ。

同じ長机についている他のクラスメイトの様子を伺い、直人はゆっくり開く。

身体と机の僅かな隙間から光が漏れる…。

⏰:10/03/23 13:36 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#71 [我輩は匿名である]
目の前に広がっていたのは、木の木目のようなものだった。

なんだこれ。直人はつまらなそうに呟く。

「石川さん、昨日あんだけ泣いてたけど、大丈夫だったかなぁ…」

要が小さく独り言を言う。

視線が木目から窓に移る。
木目はどうやら、要の部屋の天井だったらしい。

細い三日月が見えた。もう夜のようだ。

「今度、行ってみようかな」

「どこに」

直人が思わず言った瞬間、周りが真っ暗になった。

⏰:10/03/23 13:37 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#72 [我輩は匿名である]
「もう終わりかよ!」

直人は大声で突っ込んで、その勢いで立ち上がる。

授業中だった事も忘れて。

クラスメイトが一斉にこっちを向く。

「…2回目の授業から爆睡とは、良い度胸だなぁ?水無月直人」

先生の顔が引きつっている。

クラスメイト達が笑いだす。

「…は…はは…。す、すいません…」

直人は無理やり笑って誤魔化して、静かに椅子に座った。

あの本は授業中に読むものではない。

直人はため息をついて、気付かれないように教科書の下に本を滑り込ませた。

⏰:10/03/23 13:37 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#73 [我輩は匿名である]
昼休みになってもまだ、薫は笑いをこらえていた。

生物が終わってからずっとこうだ。

直人もいい加減腹が立ってきた。

「お前、いい加減にしろよ」

「無理無理。お前の顔見る度に思い出して仕方ねぇよ」

この野郎…。殴りたくなってきた。

「で?今日のタイムスリップはどうだった?」

ナメようにニヤつきながら、薫は直人に尋ねる。

「どうもこうもねーよ!見てみろよこれ!!」

他の目を気にせずに騒ぎながら、本を開いて見せてみる。

⏰:10/03/23 13:38 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#74 [我輩は匿名である]
4月12日 今日は何もなかった。
長月要は昨日の石川晶の様子が心配らしく、
会いに行ってみようかと考えていた。


「こんだけだぜ!?」

「わかったから、もうちょっと静かに喋れ。

他の奴に気付かれたらめんどくさいだろ」

⏰:10/03/23 13:39 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#75 [我輩は匿名である]
確かにそうだ。

直人はちょっとムスッとして頷く。

「…この、長月要ってのは?」

「タイムスリップしたら、必ずこいつの身体の中に入り込む。

で、俺はそっから見てるだけで、何も出来ねぇんだよ。」

「ふぅん…」

薫は本を見つめながら、何かを考えている。

「何で長月要なんだろうな?」

ふと、薫が言った。

⏰:10/03/23 13:40 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#76 [我輩は匿名である]
「へ?」

「いやぁ…何で入り込むのが、その長月要って奴の身体なのかって」

「…あぁ…」

今まで考えた事はなかった。

「誰だ?」とか「何でタイムスリップ?」とか思った事はあっても、

何故その先がいつも彼の中なのか?

薫に言われて初めて疑問に思った。

「何だ、今まで考えた事なかったのか?」

「うん…。そうだな、何でいつもあいつの中なんだろ?」

直人は腕を組んで考える。

⏰:10/03/23 14:03 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#77 [我輩は匿名である]
「まぁ、とりあえず食べようぜ」

薫は話を変えて、机の上に弁当箱を出した。

直人も「そうだな」と、弁当箱を出す。

「ところで、お前委員会どうするんだ?」

「委員会?」

卵焼きを口に頬張りながら、直人は聞き返す。

「今日の6時間目のホームルームで、委員会決めるって、

今日先生言ってただろ」

「マジで…」

何せ今日の朝礼の時間は上の空だった直人は、

そんな話全く聞いていなかった。

⏰:10/03/23 14:04 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#78 [我輩は匿名である]
「か、薫は?」

「風紀委員」

「即答かよ」

確かに、規則等をきっちり守る薫にはぴったりだ。

「めんどくせぇなぁ…。俺は後半でいいや」

「言うと思った」

基本めんどくさがりな直人に、薫は笑った。

⏰:10/03/23 14:09 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#79 [我輩は匿名である]
家に帰って、直人はまた、自分の部屋で本と睨めっこしていた。

今日考えていた事。1日に何回タイムスリップできるのか。

それを実行する時がきた。

ベッドの上で、ふぅっと息をつく。

「…せぇの!!」

変に掛け声を出しながら、素早く本を開く。

・・・・・・。

何も起こらない。

「…ちぇっ、やっぱダメか」

ちょっとドキドキして損した。直人はふてくされたように寝転んだ。

⏰:10/03/23 14:15 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#80 [我輩は匿名である]
次の日。土曜日である今日、直人は朝からパソコンにへばりついていた。

すでに午前中に本を開いて、昨日と同様何もなかったことに落胆し、ネットで調べてみる事にしたのだ。

『都市伝説 本』で調べると、すぐに多くのサイトがヒットした。

中でも『都市伝説ネット』なるサイトがあり、直人はそれをクリックする。

そんな名前なのだから、きっといろんな情報が載っているに違いない。

「…ビンゴ」

縦に並べられた数多くの都市伝説の中に、『読むと死ぬ!?呪いの本』という項目があった。

内容を見てみると、直人が今まで、耳にたこができるほど聞いてきた噂話が最初に載せられていた。

その下には、情報交換をするための掲示板が用意されている。

直人は掲示板の入り口をクリックする。

⏰:10/03/23 14:27 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#81 [我輩は匿名である]
どうやらあの都市伝説は、直人達が住むこの町以外でもあるらしく、

イニシャルではあるがいろんな市の名前が書かれている。

「…ん?」

まず、直人はあるスレッド名を見て、マウスを動かす手を止める。

『例の本はいつの間にか消えるらしい』

何のことだ?直人はそのスレッドを開いた。

『A市で、本をもらったという少年が、2ヵ月後に行方不明になった。

 クラスメイトに、例の老人から本をもらったと少年は言いふらしていたそうだが、

 行方不明後、警察が男子の部屋を捜索した際、不審な本は見当たらなかったという』

これが本題だった。

⏰:10/03/23 14:33 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#82 [我輩は匿名である]
これに対し、『警察が見つけられなかっただけでは?』『本を持って行方をくらましたのでは?』など、

いろんな意見が載せられていたが、同じような話を聞いた、というレスの方が圧倒的に多い。

「…ふぅん…」

直人は掲示板に戻り、他の記事を探す。

そして、また違うスレッド名を見て、「あ…」と声を漏らした。

『本の中身は自分の前世?』

直人は信じられず、なかなか指を動かせない。

しかし、文の最後に『?』が付いている事から、

本当の話ではないかもしれないと自分に言い聞かせて、スレッドを開いた。

⏰:10/03/23 14:40 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#83 [我輩は匿名である]
『自分はあの老人に本をもらい、最後まで読みました。

 途中から、急に本の中の話に入れ込むようになり、

 最終的に、自分に起きている事だと感じられました。

 ある時、身体の持ち主の顔が、鏡で見えました。

 本当の世界の自分と、同じ顔をしていました。

 だから、もしかしてこの人は、僕の前世の事では、と思ったのです。

 僕の話はこれで終わりです。

 今から僕は、人を殺しに行きます。』

そう書かれていた。

決定的な事はないようだが、『自分と同じ顔』それが引っかかる。

長月要は、俺と同じ顔をしているのだろうか。

⏰:10/03/23 14:44 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#84 [我輩は匿名である]
そしてもう1つ。『今から僕は、人を殺しに行きます。』

よくこんな書き込みが、削除されずに残っているな。

そうも思ったが、直人は違う事を考えていた。

もしかしたら、本は自分を死に駆り立てるだけでなく、

人を狂わせることもできるのではないか、と。

もしそうであれば、自分はどうなってしまうのだろう…。

あの本の、本当の恐怖を知った気がした。

もしかして、薫が言っていた『死なない人もいる』とは、
こういう人の事だったのかもしれない。

「(薫は…ここを見てたのか…?)」

薫はオカルトには興味がないため、こんなサイトを見ているとは思えない。

ただ誰かに聞いただけかもしれない。

⏰:10/03/23 14:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#85 [我輩は匿名である]
しかし、直人には一昨日の、薫の怖い顔が忘れられずにいた。

「石川晶」と呟いた事も。

気のせいかと思おうとしても、どうしても思えないのだ。

「(…あいつ…やっぱり何か知ってるんじゃないか…?

 一昨日俺が悩んでた時も、本をもらったって話す前から分かってたみたいだったし…。

 それにあの時…薫は笑ってた…。いつもの感じじゃなくて…何か変だった)」

いつもの笑顔ではなかった、あの時の薫の顔。

直人はブンブンと、大きく頭を振る。

「(待て待て!今までずっと仲良くやって来たあいつだぞ!?

 隠し事なんか、1つもした事なかったじゃねーか!)」

「今までは」。直人は少しうつむく。

⏰:10/03/23 15:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#86 [我輩は匿名である]
もう何が何なのか、分からなくなってきた。

出きる事なら、あの老人に本を返したい、とさえ思った。

親友を疑うのは、初めてだったのだ。

それだけじゃない。自分は、本をもらった事を隠していた。たった1日でも。

直人は大きくため息をつく。

もう、本を読むのはやめよう。『いつの間にか消える』んだろう?

前世の事なんか、どうでもいい。俺には関係ない。

直人はパソコンの電源を切り、本を引き出しにしまいこんだ。

⏰:10/03/23 15:05 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#87 [我輩は匿名である]
本を引き出しに封印してから3日。

朝たまたまニュースが映っていた為、歯を磨きながらボーっと聞いていた。

そして、ぎょっとした。

少年が1歳年上の男性を刺し殺したという。そこまではよくあるニュースである。

しかし、直人が驚いたのは、その後の話だった。

その少年は、少し前に『都市伝説に関する掲示板に、殺人予告をしていた』というのだ。

この間の土曜日に見た、あの書き込みだ。

呆然として、歯ブラシを落としそうになる。

「そんな…」

あの書き込みは、本当だったのか。

直人はしばらく、テレビから目を離す事が出来なかった。

⏰:10/03/23 15:14 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#88 [我輩は匿名である]
テレビを見すぎて、遅刻ぎりぎりに学校に滑り込んだ直人は、教室に入ってすぐに薫を探す。

しかし、鞄はあるのに、姿が見当たらない。

「(どこ行ったんだよ…こんな時に…)」

トイレだろうか?そう思って教室を出る。

すると、薫がちょうど、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。

「(いた!…ん?)」

彼の隣に、見知らぬ女子生徒がいる。しかも、2人で楽しそうに話しているではないか。

もしや。直人は確信した。「彼女だ!!」と。

「(先越された…)」

ドアの影から、恨めしそうに薫に視線を送る。

それに気付いたのか、薫がこっちを向いて、顔を引きつらせる。

⏰:10/03/23 15:20 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#89 [我輩は匿名である]
「また明日」とドアの近くで言葉を交わし、女子生徒は自分のクラスへ歩いていった。

「よぉ。おはよ」

「よぉ。じゃない!!彼女か、彼女ができたんだな!」

「ちょっと待て、まだ彼女じゃない」

「まだって何だ!考えがいやらしいぞ、お前!!」

「どこがいやらしいんだ!?普通だろ!!」

「そのうち彼女にするつもりなんだろうが!!」

「約束したんだよ!!ずっと前に!!」

薫はそう言ってから、「しまった」というように口に手を当てる。

直人はそれを見逃さなかった。

⏰:10/03/23 15:25 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#90 [我輩は匿名である]
「…ずっと前って、いつだ?」

直人の問いに、薫は目をそらして黙り込む。

おかしい。これは絶対に何かある。直人は思った。

「…お前、本は読んでるか?」

「話変えんなよ」

「変わってねぇよ」

どう考えても変わっただろ。直人は言い返したかったが、我慢して飲み込んだ。

「やめたよ、読むの」

「やめた?」

「あぁ」

⏰:10/03/23 15:29 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#91 [我輩は匿名である]
直人は「もうめんどくさくなったから」と付け足した。

ポケットに手を入れて壁にもたれかかる直人を、薫はじっと見つめる。

「…じゃあ、お前にはわからないよ」

「…何が」

「さっきの、『約束』の意味」

「それが、本とどう関係あんだよ」

「まぁ、めんどくさがりなお前なら、読むのやめてもどうって事ないんだろうけど」

薫の遠まわしな言い方の連続に、直人のイライラは頂点に達した。

直人は薫の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。

周りにいた女子が、小さく悲鳴を上げる。

⏰:10/03/23 15:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#92 [我輩は匿名である]
「何するんだよてめぇ!!」

「さっきからスカした顔しやがって!調子こいてんじゃねぇぞ!!」

「おい!何してるんだ!!」

いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、担任の教師達がぞろぞろと廊下に来始めていた。

他の生徒達は慌てて教室に戻る。

直人たちの担任が、2人の間に割って入り、引き離す。

「何やってんだ!朝っぱらから!」

「…すいません」

2人は一応頭を下げ、教室に入った。

「(…何なんだよ…あいつ…!)」

席についても、直人の苛立ちはおさまらない。

ただ腕を組んで、窓の方をじっと見ていた。

⏰:10/03/23 15:45 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#93 [我輩は匿名である]
その日、2人はそれ以上口をきかなかった。

今週は放課後の掃除当番に当たっている直人は、憂うつな気持ちで机を運んでいた。

さっさと家に帰ろうと思い、誰とも喋らずに、ただひたすら。

そして、1番後ろの机を運び終わった時、足の上に1冊の本が落ちてきた。

「痛っ!何だよ…」

今日はツイてない。そう思いながら、足元の本を見下ろす。

そこには、直人が封印したあの赤い本とそっくりの青い本が、ぽつんと落ちていた。

「…これ…」

拾い上げてよく見てみる。著者も、タイトルも何も書かれていない本。

これは間違いなく、あの『呪いの本』だ。

⏰:10/03/23 15:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#94 [我輩は匿名である]
しかし、一体誰の…?

「(まさか、薫…?)」

しかし、薫の席は真ん中の列の前から2番目。ここは窓際の1番後ろ。

どう考えても、薫の机から落ちたものではない。

「…それ、返して」

後ろで声がした。

振り向くと、あの金髪女が不機嫌そうに立っている。

「…これ、お前の?」

「そう。だから返して」

この青い本は、金髪女の物だった。直人はぽかんとする。

⏰:10/03/23 15:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#95 [我輩は匿名である]
本を返さずに突っ立っている直人に、金髪女は無理やり本を奪い取る。

「…中、見た?」

「いや、見てないけど…」

「あっそ」

終始むすっとした表情で言って、金髪女は背を向ける。

「なぁ!」

直人は反射的に、金髪女の腕を掴む。

「…何」

金髪女が、迷惑そうに振り向く。

「ちょっと、話があるんだけど」

「…私に?」

「うん、お前に!」

⏰:10/03/23 16:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。

もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。

「水無月…」

他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。

同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。

「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」

金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。

恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。

ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。

そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。

⏰:10/03/23 16:08 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」

「うぁ!?びっくりした…」

直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。

「わ、悪かったな、何か。…ごめん」

とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。

「…それはいいから。何。あの本の事?」

「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」

直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。

トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。

「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」

「そうなんだ、俺も、それぐらい」

直人の言葉に、金髪女が反応した。

⏰:10/03/23 16:15 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」

「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」

「やめた…?何で」

「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」

情けないな、と、直人は自分で思った。

「怖い?」

「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、

 今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…

 あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」

⏰:10/03/23 16:18 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。

「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。

しばらくの間、沈黙が続いた。

「…私は」

沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。

「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」

「…はぁ」

「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。

 だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」

「…そんな…」

「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」

⏰:10/03/23 16:25 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。

直人は黙り込む。

「…あんたは、何で今まで本読んでたの」

「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」

直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。

「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」

「…なる」

「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」

「…そうだけど…」

「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」

そういう問題か。

⏰:10/03/23 16:30 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」

「変わってんのはお前だろ」

「お前じゃない。カンザキ アスカ」

「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」

「当たり前でしょ。ほら」

目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。

初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。

「…サンキュ、神崎」

「何が」

「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」

「あっそ。じゃ」

飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。

⏰:10/03/23 16:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、

あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。

飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。

「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」

直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。

そして、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/23 16:43 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。

「…久しぶりだな…この感覚」

直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。

公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。

しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。

「どこだ?これ」

そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。

「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」

直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。

⏰:10/03/23 16:51 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。

どうやら晶のようだ。

まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?

「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」

行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。

「こんにちはー」

すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。

要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。

「こいつ、何とか美代って奴!」

晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。

⏰:10/03/23 16:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」

要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。

「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」

「長月くん!!」

晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。

「ちょっと来て!!!」

「へ…」

要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。

美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。

⏰:10/03/23 17:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」

「いやぁ…」

本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。

「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。

 前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」

直人は分かりきったように断言する。

「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」

「…お?」

自分で言った事を、要も言った。

話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。

⏰:10/03/23 17:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。

「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」

「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」

「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」

晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。

「…照れるじゃん」

「やめろよ、照れるから」

直人と要は同時に言った。

「ハモった…」

「でも、元気なんだったら、良かった」

⏰:10/03/23 17:13 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」

「そっか。じゃあちょうど良かったかな」

「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」

晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。

その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。

「今のって…」

「ちょっと待ってて」

晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。

「…やっぱりあんただったの」

晶の声が曇る。

⏰:10/03/23 17:19 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」

直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。

来てみると、美代が後をつけてきていた。

「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」

「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」

「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」

美代は「お願い!」と手を合わせる。

「悪いけど」

要が口を開く。

「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」

要は意外にも、きっぱりとそう断った。

⏰:10/03/23 17:23 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」

「ちぇっ、つまんないの」

美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。

「2度と来んなよ」

直人は美代の背中を睨みつける。

「…これで大丈夫だろ」

「…うん…」

困り果てたように、晶は力なく返事した。

「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」

「…うん、わかった」

晶は笑って、大きく頷いた。

⏰:10/03/23 17:28 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#111 [我輩は匿名である]
「そうだ、あいつに会わなくて済むように、今度いつ会うか決めとこう。場所も」

少し考えてから、要はそう提案した。

晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。

いい考えだと、直人も頷く。

「うん、そうしよう!」

「よし、じゃあ…いつがいいかな?日曜日の方が、長い時間いれるよね」

「うん。じゃあ、次の日曜日にしよう!場所は…あ、初めて会った、あの場所がいい!」

晶は、自分がしゃがんでいた、あの場所を言っていた。

あそこなら、美代も知らないだろう。

「わかった。昼からでいいかな?」

「うん。ご飯食べてから」

⏰:10/03/23 17:35 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ、2時ごろ、2時ぴったりにしよう」

「うん!」

晶は楽しそうに、笑って大きく頷く。

待ち合わせなど、した事がないのかもしれない。

まるでデートの待ち合わせをしているような2人。

それを見ていて、直人も何だか嬉しくなってきた。

「じゃあ、次の日曜日の2時に、あの場所で」

「うん!絶対だよ!」

「うん」

要が頷くのを見てから、晶は手を振りながら帰っていった。

晶が見えなくなってから、直人の視界も暗くなった。

⏰:10/03/23 17:39 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#113 [我輩は匿名である]
次の日曜日、つまり4月21日。2人が初めてデートする日。

「(…この日は、忘れずに読まないとな)」

直人は40年前の今日の話に一通り目を通す。

やはり、読んでいない日の事は書かれていなかった。

「(毎日ちゃんと読めって事か)」

直人は少し反省する。

ただ、話が急激に変わっていない事にはホッとした。

『自分に起きている事のように感じられる』

ネットで見たあの一言が、ふと頭の中をよぎった。

少しだけ、今の自分がそうなりつつある気がした。

⏰:10/03/23 17:53 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#114 [我輩は匿名である]
要と晶の間を見守るのもいいが、直人はもう1つ肝心な事を思い出した。

「(…薫に謝ったほうがいいかなぁ…)」

直人は考えながら、携帯電話を開く。

しかし、誰からもメールはない。

「(…いや、意外と明日はいつも通りかもしれないな)」

直人はそんな変な期待を抱き、携帯電話を閉じた。

⏰:10/03/23 17:57 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#115 [我輩は匿名である]
しかし、それはどうやら甘かったようだ。

朝少し早めに学校に着いたが、すでに薫は鞄だけを残し、教室内にはいなかった。

「はぁ…」

机に座って、何て謝ろうか考える。

すると。

「ねぇねぇ、水無月くん」

隣の席の女子が話しかけてきた。大橋怜奈。そんな名前だった気がする。

「…何か用…?」

「水無月くんって、月城くんと仲良いよね?」

こんな時に。お前は嫌味を言いたいのか。直人はその気持ちを抑えて「まぁ」とだけ返事をする。

⏰:10/03/23 18:02 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#116 [我輩は匿名である]
「月城くんって、彼女いるの?」

何だこの女。直人は答えず、「何で?」と聞き返す。

「なんか、友達が月城くんの事好きらしくて」

「(…モテるんだな、あいつ)」

直人は若干ショックを受けつつ、「いないんじゃない?」と適当に返事をする。

「ふぅん、そっか」

「あ!」

昨日薫が女を連れていたのを、今思い出した。

しかし、すでに怜奈は席を離れ、教室を出てしまっていた。

「あぁ〜やっちまった…」

直人は頭を抱えて、机に突っ伏した。

⏰:10/03/23 18:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#117 [我輩は匿名である]
その頃、薫は屋上で響子と一緒に話をしていた。

「あらぁ、喧嘩しちゃったんだ」

「まぁな。昔からよく喧嘩はしてたけど、昨日は珍しく、両方本気だったな」

「2人とも怪我しなかった?」

「あぁ、俺が壁に頭ぶつけたぐらいで」

「えっ!?ダメじゃん!!大丈夫!?」

響子はびっくりしながら大声を出す。

「大丈夫だよ。ちょっとたんこぶ出来てたみたいだけど、治ったみたい」

「そう…。気をつけないとダメだよ」

「…うん」

薫はフッと、小さく笑う。

⏰:10/03/23 18:12 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#118 [我輩は匿名である]
「…なぁ、香月」

「ん?」

「…“霜月優也”って名前に心当たりないか?」

薫は真剣な表情で、響子に尋ねる。

その真剣さに、響子も本気で頭をひねってみるが、どうやらないようだ。

「…知らない、と思う」

「…そうか」

薫は残念そうにため息をついた。

「その人がどうかしたの?」

「…いや、何でもない」

「何それ!?気になるじゃない!!」

「いいよ、忘れて」

「無理!!」

⏰:10/03/23 18:16 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#119 [我輩は匿名である]
響子が問う正そうと必死になっていると、チャイムが鳴った。

「あ、チャイム。かーえろ」

薫はさっさと、逃げるように歩き出す。

「あっ、ちょっと待ってよ!」

響子も慌てて走り出す。

しかし、一昨日よりも少し強い頭痛が、響子を襲った。

「痛っ…!」

響子は頭を抑えてしゃがみこむ。

その声に気付き、薫が急いで駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」

「う…うん…。大丈夫…一瞬だけだったから」

⏰:10/03/23 18:21 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#120 [我輩は匿名である]
響子は弱々しく笑って、顔を上げる。

しかし、薫の心配は晴れない。

「…保健室行くか?」

「いいよ、そこまでしなくても、もう治ったから。…ごめんね、心配かけて」

響子は「行こ」と、歩き出す。

その背中を、薫は止まったまま見つめる。

「…俺に謝るな、…今日子」

薫の独り言が聞こえたのか、響子が振り向く。

「何か言った?」

「……いや、何にも言ってないよ」

薫はそう言って、響子と並んで屋上を後にした。

⏰:10/03/23 18:27 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#121 [我輩は匿名である]
「悪かった!!!」

昼休みになるやいなや、直人は薫の元に謝りに行った。

急に手を合わせて謝ってきたため、薫はきょとんとする。

「…そのぉ〜、昨日は俺ちょっとイライラしてて、おまけに女連れてるし、何かモテるみたいだし?

なんか余計に腹立ってきて、っていうか今もあんまりスッキリしてないけど」

「謝る気あるのか?お前」

謝っているのか皮肉っているのかわからない直人に、薫も言い返す。

「っていうか、『モテるみたい』ってどこ情報?」

「俺情報」

「はぁ?」

⏰:10/03/23 18:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#122 [我輩は匿名である]
「いや、あの…今日の朝、大橋に『友達が月城くんの事好きらしいんだけど、彼女いるのかなぁ?』って聞かれたから…」

ちょっと困った顔で話し始めた直人に、薫は眉をひそめる。

「で、お前、何て言ったんだ?」

「い…いないんじゃねーの…って、言いました」

謝るように頭を垂れて、直人は答えた。

薫は呆れ笑いしながらため息をつく。

「…まぁ、いないのは事実だしな」

「『今は』だろ?」

直人もおちょくるように言い返す。

「つーか、あの子誰?」

「4組の香月 響子」

⏰:10/03/23 18:42 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#123 [我輩は匿名である]
「いつから仲良くなっちゃったわけ?」

「直人が本をもらった次の次の日」

「何でまた」

「屋上に行ったらいたんだよ。それで」

「屋上?何で屋上なんか」

「何となく、行ってみたかったんだよ」

直人のまるで尋問のような問いかけに、薫は1つ1つ短く答えていく。

「俺からも聞くけどさぁ」

「何?」

今度は薫が、弁当箱を開けながら尋ねる。

「大橋って誰?」

「…お前、それはちょっとひどいだろ」

⏰:10/03/23 18:47 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#124 [我輩は匿名である]
直人はちょっと呆れ返る。

「あいつ。1番こっち向いてる奴」

気付かれないように、直人は女子の1グループを指をさす。

こっそり目をやって、薫は「あぁ」と思い出すように声を漏らした。

「知ってただろ?」

「風紀委員同じだった」

「…それ余計にひどくないか?」

「他の女に興味ないの」

薫のその一言に、直人はあんぐりする。

「調子に乗るなよお前…」

「何だ?またやんのか?次は手ぇ抜かねぇぞ」

真顔で2人はにらみ合う。

が、今度は流石におかしかったのか、2人とも笑い出した。

⏰:10/03/23 18:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#125 [我輩は匿名である]
「あーあ、喧嘩なんかするもんじゃないな」

「ホント、つまんねぇ喧嘩だったなぁ」

2人は息をつきながら弁当箱をつつく。

「…ところで、どうしても聞きたい事があるんだけど」

改まって、直人が口を開く。

もうわかっていたのか、薫も堪忍したように笑う。

「『俺が本を持っているのか』、か?」

「うーん、まぁ、そうかな。それが1番聞きたいのかも」

たくさん聞きたい事があったのに、今はそれしか出てこなかった。

しばらく考え、薫は答える。

「あぁ、持ってる」

⏰:10/03/23 18:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#126 [我輩は匿名である]
「…やっぱりそうか」

「内容はまだ言えないけど、直人よりもずっと前にな」

「いつ?」

「中1の時」

「そんな早くから?」

「あぁ。読み終えるのに2年半かかった」

「そんなに…?」

全然知らなかった。ポーカーフェイスもいいところだ。

「死にたくならなかったのか?」

「いや、全然。元々俺には『目的』があったから」

⏰:10/03/23 19:01 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#127 [我輩は匿名である]
目的。直人は聞きたかったが、これはきっと答えないだろう。なぜかそんな気がした。

「その代わり」

薫が続ける。「初めて人を『殺してやりたい』と思った」

直人はドキッとした。

「なっ、何言い出すんだよ…!?」

「この間まで、ずっと考えてた。『あの女は今、どんな姿をしているのか』ってな」

「女なのか…?」

「あぁ。…でも、そんな事考えてる場合じゃないんだよな、俺」

その言葉の意味が、分からなかった。

聞きたかったが、どうしても聞けない。

薫の表情が、悲しそうに見えた。

⏰:10/03/23 19:06 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#128 [我輩は匿名である]
「…そっか、…悪かったな、いろいろ聞いて」

まだまだ話を聞きたい自分を抑えて、直人は話を終わらせた。

「何だよ、もういいのか?」

「あぁ、またぼちぼち聞いてくよ」

直人はいつも通り笑ってみせる。

「…本、読み続けるのか?」

薫がふと、そんな事を聞いてきた。

「…あぁ、実は一昨日まで怖くて読みたくなくなってたんだけど、読み始めたからには全部読もうと思ってる」

「…そうか」

薫はそれだけ言って、もう何も聞いては来なかった。

⏰:10/03/23 19:11 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#129 [我輩は匿名である]
直人はその日から毎日欠かさず本を読んだが、

特に大きな変化はなく過ぎていった。

薫の様子が気になったが、本人が本について何も語らないため、

直人も無理に聞く事は避けていた。

「…よし」

日曜日、直人は朝からジャージ姿で本を構えていた。

変化がない日々におさらばだ。

直人は鼻からふうっと深く息を吐き、

心を落ち着かせてから、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#130 [我輩は匿名である]
要はすでに、あの場所に着いていた。

デートは初めてなのか、そわそわしている。

「そんなにウロウロしないで、落ち着けよ」

直人はそう言いつつも、自分も少しドキドキしている。

美代がついて来ていないかが不安なところだが。

「…あ」

要が声を漏らす。

晶が走ってきている。

念のため後ろを確認するが、誰もついて来ていないようだ。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#131 [我輩は匿名である]
「お待たせ」

「時間ちょうどだな。どうする?喫茶店でも行こうか」

「うん」

喫茶店。カフェじゃなくてか。直人は時代の変化をふと感じる。

「紅茶が美味しい所があるって聞いたんだ。行ってみよう」

「そうなんだ。私、紅茶大好きだよ」

「そりゃ良かった。…あの子はついて来てないよな?」

「大丈夫。見つからないように出て来たから」

「施設の人にも言ってきた?」

「昨日から言ってた」

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#132 [我輩は匿名である]
「万全だな」

直人と要は同時に言う。

晶はフフンと、誇らしげに笑っている。

「楽しみにしてたんだもん、邪魔されたくないもんね」

「うん。今日はいっぱいいろんな話をしよう」

「うん!」

晶は笑顔で大きく頷く。

「…ねぇ」

「ん?」

「…長月くんって、何かよそよそしいから…呼び方変えてもいい?」

晶はおずおずと申し出る。

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#133 [我輩は匿名である]
「いいねぇ、こういうの」

直人は2人が恋人同士に見えて仕方がない。

「本当だな。俺も何か考えていい?」

「うん、喫茶店に着くまでに決めよ」

晶にそう言われて、直人も一緒に考える。

「…やっぱ、呼び捨てかなぁ…でも、要なら“晶ちゃん”とか呼びそうだな」

「…要くん」

「…じゃあ、晶ちゃん」

やっぱりな。直人は予想通りの展開にちょっと笑う。

⏰:10/03/24 10:48 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#134 [我輩は匿名である]
また、2人もちょっと恥ずかしそうに笑い合う。

「なんか、友達って感じになったな」

「うん。…嬉しい」

晶は少し頬を赤くして小さく笑う。

「…可愛いな。最初は危なそうな奴だと思ってたけど、普通の女の子じゃん」

「友達って、俺が初めてなんだっけ」

「うん」

「何か嬉しいな。1番乗りだもんな」

「ははっ。喜んでもらえて私も嬉しい」

そんな、聞いている方が照れるようなやりとりをしているうちに、要の言っていた喫茶店に到着した。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#135 [我輩は匿名である]
焦げ茶色のレンガで建てられた、ちょっと洋風の喫茶店。

中には多くの客が入っていたが、運良くまだ席が空いている。

店員に席へ案内され、2人は向かい合って座る。

「何頼む?」

「ミルクティーがいい」

「…それだけ?」

「私、あんまりお金持ってなくて」

「ちょっとぐらいなら、出せるよ」

要は若干不安そうながらも、ちょっとちょっと強めに言い張った。

おお、男前。直人は感心する。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#136 [我輩は匿名である]
「えっ、いいよいいよ。ミルクティーだけで十分」

「でも…」

「さっきお昼食べたばっかりだし、本当に大丈夫」

「そう?まぁ何か食べたくなったら言ってね」

「うん、ありがとう」

「…俺、ちょっとトイレ行って来る。もし注目聞かれたら俺もミルクティー頼んどいてもらっていい?」

「うん、わかった」

要は「ごめんな」と言って、トイレに席を立つ。

⏰:10/03/24 10:50 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#137 [我輩は匿名である]
「…ん?トイレ?」

直人はハッとする。

トイレには鏡がある。と言う事は、要の顔が映る。

『本当の世界の自分と同じ顔』

ネットでの書き込みを思い出した。

「えっ?ちょっと待てよ、俺そんな、まだ覚悟できてねーって!」

「はぁ…緊張してきた…」

直人が喚いている間に、要は息を深く吐きながらトイレに入ってしまっていた。

「ダメだダメだ!しっかりしろっ!」

要は目を閉じて、パチパチと両手で頬をたたく。

そして、鏡の前で目を開いた。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#138 [我輩は匿名である]
「…!?」

直人は息を呑んだ。

やはりあの書き込みは本当だった。

どちらかというと釣り上がった感じの目に、筋の通った鼻。

そして何より、左頬の下の方にあるほくろ。

その全てが、直人と全く同じだ。

髪型は違っても、顔は直人そのものだった。

要が何か独り言を言っているが、全く耳に入ってこない。

あの書き込みが本当だということは、やはり長月要は…。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#139 [我輩は匿名である]
いや、待てよ。直人は精一杯考える。

今は1977年。あっちは2017年。今要は16歳で1961年生まれ。

俺も16歳で、2001年生まれである。

2001-1977=24
24+16=40

つまり、要の寿命は40歳?早死に?

と言うことは、あと24年分も読み続けなければならないのか?

その前に、俺は何でこんな計算をしてるんだ?

あーもうわけがわからない!

でも、顔がここまでそっくりだと、他人とも思えない。

しかし、母親姓は北里だったはずだ。

⏰:10/03/24 10:53 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#140 [我輩は匿名である]
つまり、ご先祖様ではない。

薫か誰かに聞いてみるべきか?

いや、でも聞いてばっかりじゃなく、自分で暴いてみたい気もする。

でも、今はそんな事考えている場合でもない。

せっかくのデートなのに、こんな事は帰ってから考えろ!

しかし、頭がボーッとしてそんな気にもなれない。

自分の体なら、頭をぐちゃぐちゃに掻き乱しているところだ。

⏰:10/03/24 10:57 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#141 [我輩は匿名である]
>>0-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400

⏰:10/03/24 10:59 📱:W52SH 🆔:8y8n9HLE


#142 [我輩は匿名である]
「あーダメだダメだ!集中しろ、俺!

…とりあえず、あの2人はどうなったんだ…?」

直人は考えるのを無理に止めて、集中する。

目の前では、晶が笑っている。

考えて込んでいる間に、だいぶ時間が経っていたようだ。

何の話なのかわからないが、2人は楽しそうだ。

「だったら、結構楽しいんじゃない?学校」

「まぁ…ね。でも、やっぱり要くんといる時が1番楽しいよ」

「晶ちゃん…」

⏰:10/03/24 10:59 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#143 [我輩は匿名である]
「私には、…要くんだけだから」

晶はそう言って、ミルクティーのカップに口をつける。

「…俺なんかでいいのか?俺、弱虫だし…頭も良くないし、

何にも役に立たないと思う」

「そんな事関係ないよ」

晶はそっと、要に笑いかける。

「弱虫でも、頭が良くなくてもいい。私は…今の要くんが好き」

晶の突然の告白。

要も直人も、信じられずにぽかんとする。

⏰:10/03/24 11:00 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#144 [我輩は匿名である]
>>141さん

すみません、ありがとうございます

⏰:10/03/24 11:01 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#145 [我輩は匿名である]
「あ…はは、ごめんね、急に変な事言って」

晶は冗談っぽく笑って、何気なく店内の時計に目をやる。

直人の気付かない間に結構話していたらしく、

もう時計の針が4時を回っていた。

「…ここから帰ったら、何分くらいかかるかな?」

「えっ…うーん、30分か、40分くらいかな?どうかした?」

「5時には帰って来いって言われてたの、忘れてた」

「え!?じゃあそろそろ行かないと」

「うん、ごめんね。早く言っとけば良かったね」

⏰:10/03/24 11:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#146 [我輩は匿名である]
「ううん。じゃあ行こっか」

伝票を手に、要が先にレジへ向かう。

晶は慌てて鞄を持って後を追う。

「待って、財布が…」

「いいよ、俺出すから」

「え、でも…」

晶が財布を探している間に、会計は終わってしまった。

要は「行くよ」と言って喫茶店を出る。

⏰:10/03/24 11:03 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#147 [我輩は匿名である]
晶が何か言いたそうだが、要はなぜか晶の顔を見ないで、黙って歩いている。

「…さっきの告白で、困ってるんだな」

直人はぼそっと呟く。

結構大口をたたいてきたが、自分が彼の立場に立ったら、

きっと同じように、すぐには返事出来ないんだろうな、と。

待ち合わせ場所に戻るまで、2人は何も話さなかった。

今までの直人なら、気まず過ぎてあーしろこーしろと騒ぐところだが、

そんな気にもなれない。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#148 [我輩は匿名である]
30分程の間黙って歩くと、あの場所に着いてしまった。

「着いちゃったね」

「うん」

到着してやっと、2人は言葉を交わす。

「今日はありがとう。楽しかった」

「…うん、俺も」

「…じゃあね」

晶は元気なく笑い返して、要に背中を向け、歩きだす。

「…このままで良いのかよ」

心の底からモヤモヤして、直人は要に言う。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#149 [我輩は匿名である]
要もまた、悩んでいるように両手を握りしめていた。

しかし、その間にも晶はどんどん離れていく。

直人はもう、我慢できなくなった。

「待てよ!!」

「待って!!」

直人と要が叫んだのは、同時だった。

晶が驚いたように振り向く。

「さっき、急に『好きだ』って言われて…

俺、びっくりして…信じられなくて、何にも言えなかったんだ」

要の声が少し震えている。

⏰:10/03/24 11:05 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#150 [我輩は匿名である]
晶は体ごとこちらに向き直る。

「でも俺…っ、俺も…」

要はなかなか言いだせない。

直人はある事気付いた。

これが本当なら…。

直人もちょっとドキドキしながら叫ぶ。

「俺も、晶ちゃんが好きだ!」

それは、要の声となって晶に伝えられた。

やっぱり。直人は思った。

⏰:10/03/24 11:06 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#151 [我輩は匿名である]
「要くん…」

「俺、来週も待ってるよ!今日と同じ時間、ここで待ってるから!

今日は緊張して上手く喋れなかったけど、今度はもっといっぱい話そう!」

要は勢いが出てきたのか、言いたい事を言い切った。

晶も安心したように笑顔を見せる。

「うん!じゃあまた来週会おうね!」

そう言って、晶は大きく手を振る。

要も同じように振り返す。

そして、晶が帰っていくまで、ずっとそこでたたずんでいた。

⏰:10/03/24 11:07 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#152 [我輩は匿名である]
直人はじっと本を見つめながら、さっきの事を考えていた。

「…あいつが困って、そん時に俺が叫んだら、あいつも同じように叫ぶのか?」

晶を呼び止める時。晶に気持ちを伝える時。

直人が叫ぶと同時に、要も同じように叫ぶ。

若干の口調の違いもあるが、ほぼ変わらない。

直人は複雑な気持ちで本を閉じ、部屋を出る。

一気にいろんな事がなだれ込んできた1日だった。

⏰:10/03/24 11:08 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#153 [我輩は匿名である]
その気持ちは、月曜になっても晴れなかった。

直人は浮かない顔で学校への道を歩く。

うっとうしい事に、今日は雨。

「水無月くん」

誰かが話し掛けてきた。

どっかで聞いた声だな。

そう思って振り向くと、見た事がある女子がすぐ後ろに走ってきていた。

「おはよう」

「…えー…」

名前が出て来ない。

⏰:10/03/24 11:09 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#154 [我輩は匿名である]
「…ごめん、誰だっけ」

「大橋よ!

お!お!は!し!れ!な!」

「朝からうるせぇよ…」

耳元で大声で名乗られて、直人は煩わしそうに顔を背ける。

「水無月くん、嘘ついたでしょ」

「何の話?」

「あれ」

怜奈は前方を指さす。

彼らの20メートル程先を、薫と響子が一緒に歩いている。

⏰:10/03/24 11:10 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#155 [我輩は匿名である]
「(あらー…)」

「あの人、彼女でしょ」

ずけずけ聞いてくる怜奈を、直人は迷惑そうに見下ろす。

「何でそこまで聞くんだよ?お前、探偵?」

「探偵だったらもっと上手くやるわよ。

友達が好きみたいって、この間言ったでしょ?」

「友達思いなんだねぇ」

適当に返事をしながら、直人もちょっと気になって、前の2人の様子を伺う。

⏰:10/03/24 11:53 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#156 [我輩は匿名である]
「今日は眼鏡なんだね」

見られているとも知らずに、響子は薫に言う。

「雨の日は視力落ちるからな」

薫は珍しく、茶色いフレームの眼鏡をかけていた。

「目悪いの?」

「そこまで悪くないよ。0.8ぐらい。だからあんまり度も入ってない」

薫はそう言って、響子に眼鏡を貸す。

⏰:10/03/24 19:01 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#157 [我輩は匿名である]
響子は試しにそれをかけてみるが、合わないのか、すぐに薫に返した。

「きつい!」

「ははっ。香月は目良いんだな」

「1.2あるからね」

「へぇ、やるじゃん」

薫は眼鏡をかけ直しながら感心する。

⏰:10/03/24 19:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#158 [我輩は匿名である]
「…何かわかんねーけど、いちゃついてるみたいだな」

朝っぱらから見せ付けてくれる。

直人は呆れたようにあくびをする。

「…ふぅん…」

怜奈は何か考えるように、冷めた目で2人を見ている。

直人はそれに気付かなかった。

⏰:10/03/24 19:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#159 [我輩は匿名である]
「いつも一緒に来てんのか?」

直人の思いがけない問いに、焼きそばパンにかじりついたまま、薫は目を丸くする。

「はぎ?ほふげん(何?突然)」

「未来の彼女。今日一緒に来てただろ?」

「…はんげひっけんは?(何で知ってんだ?)」

「…何言ってるかは大体わかるけど、とりあえず飲み込んでから喋れ」

直人に言われて、薫は口に入っている分のパンを、適当に噛み砕いて飲み込む。

詰まりそうになったのか、その上から更にペットボトルのお茶を流し込む。

⏰:10/03/24 19:05 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#160 [我輩は匿名である]
「今日はたまたま、見つけたから一緒に来ただけ。大体何で知ってんだよ?」

「今日、俺達ちょっと後ろ歩いてたから」

「ちょっと待て、俺“達”って誰だ」

「大橋怜奈。何か横にいたから」

あいつか。薫も朝の直人同様、めんどくさそうな顔をする。

「…うっとうしいな…。お前は相手にしてねぇよ…」

「お前を好きなの、あいつの友達だぞ?」

直人は間違いを正すように言い直す。

「…どうだかな…」

薫は何か考えながら、ペットボトルを片手に、じっと怜奈を見ていた。

⏰:10/03/24 19:06 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#161 [我輩は匿名である]
「今日は何もなしか」

本を閉じて、直人はため息をつき、

いつものようにベッドに寝転び、窓から満月を見上げる。

また次の日曜日までお預けかな。

「(気になるのになぁ…)」

晶は今ごろ、どうしているのだろう。

また美代に手を焼いていないだろうか。

ボーッと考えた後、直人はハッとした。

「俺、何深く考えてんだ…?」

まるで要じゃないか。

直人は机に肘をつき、頭を抱えた。

⏰:10/03/24 23:45 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#162 [我輩は匿名である]
おもしろいです
続き待ってます

⏰:10/03/26 16:31 📱:W61SA 🆔:my01452g


#163 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-160

⏰:10/03/28 00:17 📱:W53H 🆔:TqXP9qoY


#164 [我輩は匿名である]
>>161さん

読んでいただいてありがとうございます
でかけていて更新出来ませんでした
ちょっとずつ進めますね

>>162さん
見やすくしていただいて、ありがとうございます

⏰:10/03/28 14:54 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#165 [我輩は匿名である]
すみません、レスがずれました

上は>>162さんへ、163さんへ、です

⏰:10/03/28 14:57 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#166 [我輩は匿名である]
夢中でいっきに読みました!面白いです応援しています

⏰:10/03/28 17:04 📱:L01A 🆔:HX1T/pzw


#167 [我輩は匿名である]
なんかレスするごとに大変な事に…(´Д`)

>>166さん
長いのに一気に読んでいただいてありがとうございます
頑張るので、ぼちぼち読んで下さい

⏰:10/03/28 20:15 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#168 [我輩は匿名である]
一方、薫はベッドの上で、何かを深く考えているような顔で寝転がっていた。

不意に、枕元に置いていた携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、響子から電話がかかってきている。

「もしもし」

「あ、月城くん?ごめんね、いきなり電話しちゃって。今…時間大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。…どうかした?」

「うん…」

響子は少し悩んでいるようだった。

その声を聞いて、薫も不安を抱く。

⏰:10/03/28 20:17 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#169 [我輩は匿名である]
「この間、私に『霜月優也って聞いたことないか』って聞いたでしょ?」

「…あぁ、聞いた」

薫の表情が変わる。

「…何か知ってるのか?」

「…気のせいだと思ってたんだけどね」

響子が話しだす。

「この間から私、たまに頭痛くなるでしょ?その頭痛くなった日に、寝ると必ず夢を見るようになって…」

「どんな夢?」

響子が少し言葉を区切ったのを感じ、薫が尋ねる。

⏰:10/03/28 20:18 📱:N08A3 🆔:iQI8B8Nc


#170 [我輩は匿名である]
「…1番最初は、私がどこかで洗濯物を干してたら、誰かが手伝ってくれた。…たったそれだけ。

そして次は、病院のような所でもう1回会って、名前を教えてもらうの。

その時教えてもらった名前が、“霜月優也”だった。名刺に書いてあったから、間違いないと思う。

そして、今日昼寝してたらまた見たの。今日は、私とその人が食事に行ってた。

その人が誘ってくれたんだと思う。…今まで見たのは、そこまで」

薫はまた「そうか」とだけ返事をした。

“そこまで”という事は、その続きがある事をわかっているのかもしれない。

そう思った。

⏰:10/03/29 11:40 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#171 [我輩は匿名である]
「でもね、1つだけ、変なのよ」

響子が補足する。

「何が?」

「その人の顔だけ、どうしても思い出せないんだ」

その言葉に、薫は眉をひそめる。

「…全くか?」

「…うん、全然。それに、私の名前も、香月響子じゃなかった。…何だったかな…」

「…長谷部 今日子」

薫は静かに呟く。

響子もそれを聞き逃さなかった。

⏰:10/03/29 11:41 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#172 [我輩は匿名である]
「…そう、そんな名前だった」

「…やっぱりそうか」

薫はそれだけ言ってしばらく黙り込んだ。

「(…やっぱり…今日子だったんだな…)」

両方の目尻から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「…月城くん?」

響子の声を聞いて、薫は肘でゴシゴシと涙を吹く。

「ん?」

「月城くん…何か知ってるよね?…私の夢の事とか」

響子に聞かれて、薫はしばらく考えてから「あぁ、知ってる」と答えた。

⏰:10/03/29 11:50 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#173 [我輩は匿名である]
「…教えて。あの夢は一体何?“私”はどうなるの?」

響子は薫に尋ねる。

彼女も気になっているのだろう。

薫はしばらく考え込む。

そして答えた。

「…教える事は出来ない」と。

「俺の口から教えれる事は、俺が知ってる事だけだ。

長谷部今日子が見た事、耳にした事、感じた事…それは夢を辿っていくしか知る事が出来ない。

…だから、本当に全てを知りたいなら、俺から話すべきではないと思う」

⏰:10/03/29 14:26 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#174 [我輩は匿名である]
言い終わってから、薫は呆れたように笑う。

薫は本当は、全て話したくてしかたがなかった。

自分が霜月優也だという事、霜月優也と長谷部今日子は夫婦だった事…他にもたくさんある。

全て話せば、どれだけ気が楽になるだろう。

それだけじゃない。
自分の口から話せば、自分の事を良く言う事も出来るのに。

自分のばか正直さにため息が出る。

「…そっか」

響子は少しがっかりしたように言った。

⏰:10/03/29 14:27 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#175 [我輩は匿名である]
「…悪い。でも、その方がきっと、香月のためになる。…俺や霜月優也、長谷部今日子のためにも」

「…そう。…なら、私が自分で進めなきゃダメだね」

「ごめん。…ただ、最後にはかなり辛い事が待ってると思う。俺はそうだった。

だから、最後までたどり着く自信がなければ、それ以上は止めた方が良い」

薫の話に、響子は小さく笑う。

「…進まないと、みんなの為にならないでしょ?」

「自分の為にならない事もある」

「大丈夫。どうにかなるよ」

響子は明るく言った。

⏰:10/03/29 14:27 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#176 [我輩は匿名である]
薫も少し笑う。昔とちっとも変わらないな、と。

「ごめんね、いろいろ聞いちゃって」

「いや。…ほとんど役には立たなかったと思うけど」

「そんな事ないよ、…ありがとう。じゃあ、また明日ね」

「あぁ、おやすみ」

薫は静かに携帯電話を閉じる。

スッキリしたような、モヤモヤしたような複雑な気分で、薫はその夜、なかなか眠れなかった。

⏰:10/03/29 14:43 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#177 [我輩は匿名である]
「はぁー…」

掃除当番である薫を待つ間、直人は階段に座って大きく伸びをしていた。

もう金曜日だが、どうやら日曜日にならないと本の話は進まないらしい。

「(つまんねぇなぁ…平日はどうでもいい学校の話だけだもんなぁ…。

学校より、晶との話が進むのかどうかが重要なんだよ。

要の学校話なんか…)」

そんな事を考えていたら、目の前をあの金髪女が通りかかった。

「あっ、おい!金髪女!」

呼び止められて、金髪女の飛鳥が足を止め、こちらをにらみつける。

⏰:10/03/29 15:51 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#178 [我輩は匿名である]
「…何か用?」

「今日はさっさと帰るのか?いつも最後まで残ってるのに」

直人に言われて、飛鳥は顔を背ける。

「何でいつもすぐ家に帰んないの?

「…何でって……」

飛鳥は口ごもる。

直人は「まぁ、こっち来いよ」と手招きする。

少し悩んで、飛鳥は直人の横に腰を下ろした。

といっても、2人の間に人一人分くらいのスペースは空いているが。

⏰:10/03/29 15:51 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#179 [我輩は匿名である]
「…私、家嫌いだから」

「何で」

きょとんとした直人の問いに、飛鳥はうつむく。

「……親は私何か見てない。大切なのは頭の良い弟だけ。

晩ご飯の時も、私は見向きもしない。話もしない。だから、家にいてもつまんないでしょ」

「…よーするに、ネグレクトとか言うやつか?」

「…ご飯はくれるんだし、虐待ではないんじゃないの」

飛鳥は「そういう話じゃないから」とでも言いたげにため息をつく。

⏰:10/03/29 15:52 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#180 [我輩は匿名である]
「…ま、それじゃあ家に帰りたくはないわな。

…いいんじゃねぇの?そんな家にはいてやんなくても」

「でしょ?だから帰んないのよ。ご飯の時間になるまでは」

飛鳥はそう言って少し笑った。

「で、今日は帰んのかよ」

「いろいろ寄ってから帰る」

「なるほどな。…で、本は読んでんのか?」

「読んでるわよ、ちゃんと。最近つまんないけど」

「へぇ、俺と一緒じゃん。つまんねー時ってホントつまんねーよな」

直人はまたため息をつく。

⏰:10/03/29 15:53 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#181 [我輩は匿名である]
いつもの直人ならば、「お前の本ってどんな話?」と

調子に乗って尋ねるところだが、何故かそんな気にはならない。

聞いてはいけないような気がしたのだ。

「…で?お前が人間嫌いな理由はわかったわけ?」

「よくわかんない。本の中の奴も人間嫌いみたいだけど」

「遺伝じゃねぇーの?」

「私の祖先じゃないから」

飛鳥はイラっとしたように顔を引きつらせる。

飛鳥の様子を見て、直人はふと、ある事に気付いた。

⏰:10/03/29 15:53 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#182 [我輩は匿名である]
「…お前さぁ、人間嫌いな割に、俺とはよく喋るよな」

「はぁ?」

飛鳥はますます顔をしかめる。

「あんたが話し掛けて、いろいろ喋りかけてくるからでしょ?」

「まぁそうだけど、お前他の奴に話し掛けられてもシカトするじゃん。でも、俺にはシカトしない」

「…まぁ…」

「言われてみれば」と、飛鳥も不思議そうに首をひねる。

「…もしかしてお前、俺の事、す」

「黙れ」

飛鳥は不機嫌そうに、持っていた鞄で直人の顔をたたいた。

⏰:10/03/29 15:54 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#183 [我輩は匿名である]
階段にバシン!という音が響く。

「いってぇー…」

直人は両手で顔を覆う。

その間に、飛鳥はさっさと鞄を持って階段を降りていった。

「(何なんだあいつは…)」

眉間にしわを寄せて階段を降りていると、下駄箱から声が聞こえてきた。

「えーっ、怜奈、月城くん好きなの!?」

月城って誰だ。飛鳥はまた首をかしげる。

⏰:10/03/29 15:55 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#184 [我輩は匿名である]
「だってさぁ、かっこ良くない?クールだし」

「まぁかっこ良いとは思うけど、冷たそうじゃない?」

「そういえば、この間他の女子と歩いてたよ!私見たもん!」

よく見ると、同じクラスの女子達だ。

めんどうなので、飛鳥は足を止める。

「私も見たよ、それ。目の前でいちゃついてくれちゃって」

「彼女なんじゃないの?」

「違うらしい。だから余計邪魔なのよねぇ」

「怜奈、欲しい物は手に入れないと気が済まないもんね」

⏰:10/03/29 15:56 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#185 [我輩は匿名である]
「もちろん。じゃなきゃ人生楽しくないじゃん」

怜奈は当然のような言い方をする。

急に、飛鳥の背筋がぞくっとして、全身に寒気が走る。

それが何故か、飛鳥にもわからない。

3人は笑いながら、校舎を出ていったが、飛鳥はしばらく、足がすくんで動けなかった。

⏰:10/03/29 15:57 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#186 [我輩は匿名である]
休日はあっという間に過ぎた。

「(あんだけ楽しみにしてたのに、普通に喋って終わりとかありかよ…)」

いつものように、直人は学校の机にうつ伏せになっていた。

月曜の朝はいつもそうだが、今週は特にだらけてしまう。

要と晶は、40年前の昨日、前と同じ喫茶店で、3〜40分ほど楽しげに話して別れた。

話したと言っても、学校の事や要の家の話など、大して重要な話でもなかった。

最近はこんな事が当たり前になってきてしまった。

これでは読む気力が失せてしまう。

2人はまた日曜日に合う約束をしたが、果たして進展はあるのか…。

⏰:10/03/29 17:19 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#187 [我輩は匿名である]
「ねぇ」

まためんどくさい事が。直人は横目で、声がした方を見る。

怜奈がじっとこっちを見ている。

「何だよ、薫ならどっか行っていないぞ」

「そんなの見たらわかるわよ。どこ行ったのか知らない?」

「…知るかよ」

薫はもちろん屋上にいるのだろうが、直人はしらばっくれる。

薫は香月に気があるから、邪魔は入れたくない。そう思ったのだ。

⏰:10/03/29 17:20 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#188 [我輩は匿名である]
「あいつに何か用?」

「先生から伝言」

「伝言?何の?」

「さぁね」

怜奈はぷいっとそっぽを向く。

「(うぜぇ…)」

こういう女は大嫌いだ。直人は腹立たしそうに彼女を睨む。

「勘違い野郎」

直人の後ろで声がした。

⏰:10/03/29 17:20 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#189 [我輩は匿名である]
振り向くと、浮かない表情で飛鳥が立っている。

「俺の事かよ」

「あんた以外に誰がいるわけ」

飛鳥はいつものように憎まれ口をたたくが、どこか元気がなさそうだ。

「…どうかしたのか?」

「…ちょっと」

飛鳥に手招きされて、直人は席を立って、彼女について教室を出る。

「何だよ?」

廊下に出て、飛鳥は周囲を見渡した後、小声で言った。

⏰:10/03/29 17:21 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#190 [我輩は匿名である]
「さっきの女、気を付けた方が良い」

「…大橋の事か?」

「名前は知らないけど」

飛鳥は真剣そうだ。

飛鳥がこんな事を言うとは思わなかった為、直人は少し呆然とする。

「まぁ…確かに薫を好きすぎて若干ウザいけど…」

「あいつ、欲しい物は手に入れないと気が済まないって言ってた。この間聞いたんだ。

だから、諦めるように言った方が良いと思って」

「…あいつそんな事言ってたのか」

⏰:10/03/29 17:22 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#191 [我輩は匿名である]
直人はそう言った後、「ん?」と首を傾げる。

「あいつ、『友達が薫を好き』って言ってたけど」

「そんなの嘘に決まってんじゃん。それ信じ込んでたの?」

飛鳥は呆れている。

言われてみればそうだ。いくら友達思いだといっても、熱心に身辺調査しすぎだ。

「(自分が好きだったのかよ、あいつ…)」

「…とりあえず、あいつには気をつけなよ」

飛鳥はそう言って、教室に向かう。

「あ、ありがとな」

直人は飛鳥に礼を言う。

飛鳥は少し黙って、「別に」とだけ言って教室に入っていった。

⏰:10/03/29 17:22 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#192 [我輩は匿名である]
「やっぱりな」

「知ってたのかよ!?」

「話聞いてたら大体わかるだろ。俺の事が好きっていうの、友達じゃなくて本人だって事ぐらい」

薫は知っていたらしい。

直人はショックで箸を持つ手を止める。

「俺…どんだけバカなんだ…?」

「さぁ?まぁ勉強になったんだからいいじゃん」

薫は笑っているが、少ししてから真顔に戻った。

⏰:10/03/29 17:23 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#193 [我輩は匿名である]
「そういえば、あいつ伝言があるって言ってたけど…」

「聞いたよ、今日委員会があるって。めんどくせぇ…。先帰っといて」

「あぁ、同じ委員会だっけ?頑張れ♪

「からかうな!」

満面の笑みでからかう直人に、薫は怖い顔で言い返した。

⏰:10/03/29 17:23 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#194 [我輩は匿名である]
放課後。

薫は時間どおりに、風紀委員会に出席していた。

隣には怜奈が座っている。

「…俺の事、いろいろ直人に聞きまくってるらしいな」

周りに聞こえないような声で、薫は怜奈に言う。

「そこまで聞きまくってないよ?朝いつもいないから、どこに行ってるんだろうなぁって」

「悪いけど、俺の事諦めてくれる?大橋と付き合う気はないし、俺には」

「好きな子がいる、でしょ?」

怜奈は少し笑って薫を見る。

⏰:10/03/29 20:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#195 [我輩は匿名である]
薫は黙って見返す。

「でも、あの子じゃなくて私に目が行く事があるかも」

「残念だけどそれはない」

「そんなにあの子の事好きなの?」

そう聞かれて、薫は黙る。

そんな一言で済まされる気持ちではない。

「あの子普通の子じゃない。背も大きくないし、胸も私より小さい。スタイルだって」

「俺はそういう事には興味ない」

薫はきっぱりと言い張る。

⏰:10/03/29 20:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#196 [我輩は匿名である]
まぁ、そう言っても薫も男なので、全く興味がないわけでもないが。

「俺には、あいつを守る義務がある」

「義務?何それ」

怜奈は笑う。少しバカにしたように。

「お前みたいな軽そうな奴にはわからないよ」

薫はイラついたように言い捨てる。

「…ふぅん、つまんないの」

怜奈も同じようにして、それ以上何も話さなかった。

⏰:10/03/29 20:31 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#197 [我輩は匿名である]
「あ」

下駄箱で、直人はたまたま響子を見つけた。

響子は1人で帰るようだ。

「なぁ」

何となく、直人は響子に声をかける。

「……あ、もしかして月城くんの友達?」

「そうそう、俺、水無月直人。よろしく」

「私は香月響子。こちらこそよろしく」

響子はにこっと笑いかける。

⏰:10/03/29 20:32 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#198 [我輩は匿名である]
「薫、委員会でさ。良かったら一緒に帰ってもいい?」

「うん、一緒に帰ろ」

響子は快く頷いてくれた。

直人と響子は並んで学校を出る。

「水無月くんって、いつから月城くんと仲良いの?」

「俺達は、幼稚園入る前から仲良いよ」

「そんなに前から?」

「親同士が仲良いからなぁ。よくどっちかの家に行って遊んだりしてたから」

「へぇー。じゃあ、幼なじみなんだね」

⏰:10/03/29 20:33 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#199 [我輩は匿名である]
「まぁな」

直人は「へへっ」と笑う。

「香月の家ってどこ?」

「結構近いみたい。月城くんのマンションの前の道をまっすぐ行って、

突き当たりを右に曲がってまたまっすぐ行けば着くよ」

「…薫のマンションの前の道って、突き当たりまで結構距離ないか?」

前に薫と、マンションからそのつきあたりの壁まで競争した事があった。

確か、直人の方が早くて、18秒だった。

50m走で7秒台だから、100m以上あると考えられる。

⏰:10/03/29 20:33 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#200 [我輩は匿名である]
「(そこからまたまっすぐ行くって事は…近いって言えるのか…?)」

「水無月くん?」

考え込んでいると、響子が気にして話し掛けてきた。

「へ?」

「どうしたの?」

「いや、何もない」

どうでもいい事を考えていたため、直人は慌てて断る。

だからあの雨の日、一緒に来ていたのか。

直人はやっと納得した。

⏰:10/03/29 20:34 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


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