記憶を売る本屋さん
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#2 [我輩は匿名である]
ある街に、1つの都市伝説が伝えられている。
『道を歩いていると、身体の2倍ぐらいの大きさのリュックを背負って、
まるで仙人のような顎ひげを伸ばし、サングラスを掛けた
色黒の老人が、1冊の本を手渡してくる。
言葉巧みに、半ば強引に。
本を渡されるのは極少数だが、本を読むと最後。
突然家を飛び出して捜索願を出される者もいれば、
最悪の場合、自ら生を投げ出す者もいる。』
それゆえ、「本をもらった人は殺される」と噂されている…。
:10/03/22 13:48
:PC
:W0uoRcww
#3 [我輩は匿名である]
「最近あの話聞かないな」
下駄箱で靴を履き替えながら、ふと、秋月直人は言った。
「何だよ、突然」
友人の月城薫は、きょとんとして言葉を返す。
「だって、俺達が高校受験に励むぐらいから、1回も聞いてねぇだろ」
「まぁ、言っても半年ぐらいだけどな」
薫は大した事なさそうに笑って、上靴を下駄箱に放り込んだ。
:10/03/22 13:53
:PC
:W0uoRcww
#4 [我輩は匿名である]
確か最後に聞いた話は、19歳の女性が行方不明になり、
1週間後に電車にはねられて亡くなった。
彼女の自室から、タイトルのない、黒い四六版サイズの本が発見さ
れたという話だった。
「いいじゃん、その方が平和で」
「まぁそうだけどよ」
「それに」
薫は身体ごと直人に向ける。
「死なない人だっているんだろ?」
その一言に、直人はぽかんとする。
そんな話、聞いた事がない。
たまたま、今まで耳にしなかっただけかもしれないが。
:10/03/22 14:04
:PC
:W0uoRcww
#5 [我輩は匿名である]
出だし面白い!
期待してます!
:10/03/22 14:10
:P01A
:☆☆☆
#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」
「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」
「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」
直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。
薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。
「教室に弁当箱忘れた」
「何だよもう…。取って来い!」
直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。
「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」
「ちっ」
悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。
「俺その辺で待ってるからな」
「んー…」
ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。
:10/03/22 14:12
:PC
:W0uoRcww
#7 [我輩は匿名である]
>>5さん
ありがとうございますっ(>∀<)!!
長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪
:10/03/22 14:14
:PC
:W0uoRcww
#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。
好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。
しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。
かろうじて校門が視界に入る角度で。
心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。
「(…今…校門に…)」
周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。
校門を見るまでは。
「(…まさか…な…)」
恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。
校門周辺には、誰もいなかった。
「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。
「気のせいじゃないよぅ〜?」
背後でしゃがれた声がした。
:10/03/22 14:24
:PC
:W0uoRcww
#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。
下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。
足が、全身が小刻みに震えだす。
「なぁ、君、本は好きかぃ?」
声が尋ねてくる。
「…い…いや…きっ、嫌い…」
さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。
だから『あの老人』が来たんだ、と。
噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。
「嫌い」としか言えなかった。
しかし、声は諦めてくれない。
「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。
1回読んでみなさいな、ねぇ?」
話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。
:10/03/22 14:31
:PC
:W0uoRcww
#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。
服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。
「お…俺の為の本…?」
呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。
「そうそう」
肩に置かれていた手が離れる。
背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。
時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。
「ほれ」
直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。
それは、1冊の本だった。
:10/03/22 14:38
:PC
:W0uoRcww
#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。
タイトルも著者名も、何も書かれていない。
直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。
「きっと君の役に立つと思うよぉ?」
声は笑っているかのようだった。
耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。
ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。
怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。
背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。
直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。
これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。
捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。
直人は息を殺して、本のページに指をかける。
:10/03/22 14:51
:PC
:W0uoRcww
#12 [我輩は匿名である]
「直人!」
薫の声が、直人を呼ぶ。
その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。
「ごめん、お待たせ」
「あっ…あぁ…遅かったな…」
無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。
その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。
「…どうかした?顔真っ青だけど」
「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」
よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。
「腹痛?大丈夫か?」
言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。
「…お前、心配してないだろ」
「してるしてる」
:10/03/22 14:58
:PC
:W0uoRcww
#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。
直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。
「弁当箱、あったか?」
「無いとおかしいだろ」
「ま、まぁな」
変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。
「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」
薫は話を変えた。
彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。
名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。
窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。
「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」
「まぁな」
2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。
:10/03/22 15:06
:PC
:W0uoRcww
#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。
結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。
今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。
万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。
ごくっと唾を飲む。
「(よし…やるか!)」
自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。
「うわっ…!」
ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。
わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。
:10/03/22 15:13
:PC
:W0uoRcww
#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」
聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。
視界には、知らない玄関が映っていた。
「えっ、どこ!?」
そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。
それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。
「…どこだ…?ここ…」
直人は絶句した。見た事も無い場所だった。
立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。
前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。
服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。
:10/03/22 15:27
:PC
:W0uoRcww
#16 [我輩は匿名である]
「何、あいつ。古っ」
そんな事より、どうやったらこの身体は思うとおりに動いてくれるのか。
喋りたくても喋れない。止まりたくても止まらない。見たい物も見れない。
たださっさと、沈む夕日に向かって歩くだけだ。
「あらぁ、カナメ君。どこ行くの?」
道の少し先にいる、40歳前後のおばさんが、こっちに向かって話しかけてきた。
「なんか、トイレットペーパーがなくなったから、買って来てって」
少年の声がした。さっき「行って来ます」と言った、あの声だ。
驚いたことに、その声を発したのは、この身体だった。
直人は状況が飲み込めず、ただ唖然とする。
「トイレットペーパーねぇ。4年前は買うのも大変だったのに、あれなんだったんだろうねぇ。
オイルショックだか何だか知らないけど、迷惑なもんだよ」
女性は呆れたように苦笑いする。
:10/03/22 15:37
:PC
:W0uoRcww
#17 [我輩は匿名である]
「オイルショック…?」
直人にはその言葉が引っかかった。
歴史は別に得意ではないが、それが40〜50年ほど前に起きた、
という事は、中学の時にテストで出たので覚えている。
そして、オイルショックの際、原油価格がどうこうで、トイレットペーパーが無くなると噂が広まり、
買い求めるために行列ができた程、という話も聞いた。
しかし、女性の話が本当ならば、今ここは、1970年代後半ぐらいという事になる。
なぜ?
直人はただ、家であの赤い本を開いただけなのに、なぜこんなわけの分からない状況になっているのか?
これではまるで、タイムスリップではないか。
本を開けただけで、そんな事が起こるはずが無い!
:10/03/22 15:44
:PC
:W0uoRcww
#18 [我輩は匿名である]
大体この身体は誰だ?言う事を聞かないし、干渉する事もできない。
『彼』は、直人の存在に気付いていない。
それでも『彼』が目にした物は、自分が見ているかのように、直人にも鮮明に見えた。
そして、ある事に気付いた。
誰も携帯電話を持っていない。
今の時代、歩いていれば必ず、携帯電話を使っている人とすれ違う。
電話している人、メールを打っている人、様々だが、ここには誰も、そんな仕草をしている人はいない。
それだけではない。マンションもほとんど見当たらず、何よりコンビニが1件もない。
直人はぞっとした。
:10/03/22 15:51
:PC
:W0uoRcww
#19 [我輩は匿名である]
「何だよこれ…どうやったら元に戻れるんだよ!?」
不安のあまり、叫んだ。心の中で。
本を開いたからここに来た。しかし、今は本を持っていない。戻る方法がわからない。
まさか、一生このままなのか…?
「うわぁ!?」
直人の考え事は、その声にかき消された。
裏道のような細い路地。
人1人通るのがやっとの道に、髪の長い少女がうずくまるようにしてしゃがみこんでいたのだ。
白いワンピースに、赤い靴。
「こわっ。ホラー映画かよ」。直人は思った。
「こ、こんなところで何してるの?」
この身体の主が、少女に尋ねる。
:10/03/22 16:04
:PC
:W0uoRcww
#20 [我輩は匿名である]
声をかけられ、少女はこっちを向く。
人に怯えたような、死んだような瞳だった。
「…どこの子?この辺…じゃ、ないよな?」
この身体の主も、直人と同じように「怖い」と思ったのだろう。
声の調子が少し変わり、緊張しているのが分かる。
「…何も」
少女は小さな声で、それだけ言った。
身体の主は、困ったように「え…」と口ごもる。
それを見てか、少女はこう付け足した。
「帰りたくないから、ここにいるの。…それだけ」
どうやら家出をしてきたようだ。しかも、手ぶらで。
「でも、夜になると冷えるよ?」
「いいの。誰も心配してないし。…親もいないし」
:10/03/22 16:11
:PC
:W0uoRcww
#21 [我輩は匿名である]
少女は顔を背け、膝元に顔をうずめる。
こういうの、めんどくせぇ。直人はため息をつく。
「…君、名前は?」
身体の主は、不意にそんな事を尋ねた。
思わず、少女が顔を上げる。
「俺、ナガツキ カナメ。“長”い“月”に、必要の“要”。今年で16歳」
長月 要。この身体の主は、そういう名前だそうだ。
「…イシカワ、アキラ」
「え?」
「私の名前。イシカワ アキラ。“石”に“川”に、水晶の“晶”」
少女は短く、それだけ答えた。歳は直人と、つまり要と同じぐらいに見える。
:10/03/22 16:18
:PC
:W0uoRcww
#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。
「高校生?」
「…うん、この間入ったばかり」
「じゃあ、俺と同じだ」
要の声は、明るかった。
気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。
「家、どの辺?」
「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」
少女の話に、要は何も言わなかった。
「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」
:10/03/22 16:29
:PC
:W0uoRcww
#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」
突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。
要も直人もびくっとする。
要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。
「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」
「心配?」
晶が小さく笑って立ち上がる。
「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」
視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。
とりあえず、1歩下がって事態を見守る。
「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」
「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」
晶はフンとそっぽを向く。
:10/03/22 16:36
:PC
:W0uoRcww
#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」
女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。
その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。
「そこにいるじゃない」
晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。
「マジかよ」直人は呆然とする。
要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。
しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。
「はい、友達です」と。
それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。
「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」
さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。
:10/03/22 16:41
:PC
:W0uoRcww
#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。
「ごめんね、いきなり」
女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。
「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」
要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。
「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?
まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」
晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。
急に視界が真っ暗になった。
:10/03/22 16:45
:PC
:W0uoRcww
#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」
直人は思わず大きな声を出した。
そして、慌てて自分ののどを押さえる。
「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」
久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。
部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。
「お兄ちゃん!うるさい!!」
バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。
かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。
「…恵理だ…」
いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。
やっと戻ってきた。心の底からホッとした。
:10/03/22 16:50
:PC
:W0uoRcww
#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。
時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。
ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。
「時間が…経ってない…!?」
本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。
それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…
といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。
直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。
左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。
直人は本を手に取り、他のページを見てみる。
他のページは全て、白紙だった。
「…何なんだ…?この本…」
直人は呟き、最初のページに戻る。
:10/03/22 16:59
:PC
:W0uoRcww
#28 [我輩は匿名である]
1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。
縦書きで、これだけ書かれていた。
「…誰かの日記か…?」
しかし、日記にしては文章がかたい。
:10/03/22 17:10
:PC
:W0uoRcww
#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。
「これ、40年前の今日だ…」
携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。
やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。
どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。
しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。
ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。
:10/03/22 17:15
:PC
:W0uoRcww
#30 [我輩は匿名である]
次の日。
昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。
「…お前、昨日なんかあったのか?」
「…へ?」
薫に聞かれて、直人はふと我に返る。
「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって言うな!」
直人は薫にくってかかる。
いつもの直人に戻った。薫は思った。
…薫に相談してみるべきか、直人は考える。
薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。
とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。
1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。
:10/03/22 17:22
:PC
:W0uoRcww
#31 [我輩は匿名である]
「…本」
直人はドキッとする。
いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。
「…なんで…」
「当たりか」
「お前、何か知ってんのか…!?」
直人は机に手をついて、薫に問いかける。
「……別に何も知らねぇよ」
薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。
「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」
「…うん…」
直人はしぶしぶ頷く。
:10/03/22 17:28
:PC
:W0uoRcww
#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」
「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」
「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」
薫は呆れたように息をつく。
「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」
昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。
なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。
「…何だ、これ」
「本」
「見りゃ分かる。…何も書いてないな」
表紙を見て、薫は首をひねる。
:10/03/22 17:34
:PC
:W0uoRcww
#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」
直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。
このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。
そう思うと、開く気が引けてきてしまった。
「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」
直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。
「うわっ!ばかやろう!!」
直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。
「…あれ?」
何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。
「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」
「うるせぇ!!」
言い合いをしながら、2人で本に目をやる。
:10/03/22 17:42
:PC
:W0uoRcww
#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。
「(はぁ…良かった…)」
直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。
「変だろ?そんだけしか…」
とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。
そして、自分の目を疑った。
本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。
眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。
薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。
「…おい…」
「…石川…晶…」
薫が小声で呟いた。
:10/03/22 17:52
:PC
:W0uoRcww
#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。
「…なんだよ?まだ読んでたのに」
目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。
「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」
直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。
「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」
薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。
さっきのは、気のせいだったのだろうか?
「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。
その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」
「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」
「あぁ」
直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。
背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。
:10/03/22 17:59
:PC
:W0uoRcww
#36 [我輩は匿名である]
続き楽しみにしてます^^
:10/03/22 21:06
:W65T
:XgEtkN3Q
#37 [我輩は匿名である]
著者です。パソコン付けるのめんどくさいので、ケータイから失礼します。
>>36さん
ありがとうございます


今からまたちょっと進めます


:10/03/22 22:25
:N08A3
:d1RCppyk
#38 [我輩は匿名である]
結局、タイムスリップの事は薫には話せなかった。
それどころか、薫にはあの本の話し自体しない方がいいかもしれない、とさえ思った。
制服のままベッドに寝転んで、直人は本を見つめる。
なぜ薫と見た時は何も起きなかったのだろう?
直人は起き上がり、あぐらをかく。
そして、何気なく開いてみた。
「えっ!?」
昨日と同じように、直人はあのまばゆい光に包まれた。
:10/03/22 22:27
:N08A3
:d1RCppyk
#39 [我輩は匿名である]
「なんでぇーっ!?」
そう言った時には、すでに声が出なくなっていた。
気付けば、後ろの方でチャイムが鳴り、周りは下校中らしい生徒で溢れていた。
「実力試験、どうだった?」
隣にいた友人らしい男子が話しかけてくる。
「全然だめ。勉強しておけば良かったなぁ…」
この声は長月要だ。直人はすぐに気付いた。
「また来たのかよ!?」
覚悟が出来ていなかった直人は、呆然とする。
しかしまぁ、勝手に元に戻れるのならと考えると、昨日よりは気が楽だ。
:10/03/22 22:28
:N08A3
:d1RCppyk
#40 [我輩は匿名である]
「あ!」
要と直人が声を上げたのは、同時だった。
視線の先には、制服姿で1人で歩く石川晶がいた。
「ちょっと知り合い見つけたから、先帰ってて」
「へ?あぁ…」
要は「ごめんな」と手を合わせて、走りだす。
「石川さん!」
要の声に、晶は振り向く。
要を見て、憂うつそうな顔がパッと明るくなる。
「長月くん!」
「今帰り?」
「うん、ちょっとブラブラしてから帰ろうかと思って」
:10/03/22 22:29
:N08A3
:d1RCppyk
#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。
「そっかぁ。送って行こうか?」
「でも…、逆方向じゃない?」
「いいよ、今日何も予定ないし」
「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」
晶はにっこりと笑う。
昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。
「ここから何分ぐらい?」
「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」
「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」
:10/03/22 22:36
:N08A3
:d1RCppyk
#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」
「電車で通ってるのか」
「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」
「散歩っていっても、何もないよな、この辺」
「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」
晶は苦笑する。
「本当に嫌いなんだな」
直人は話を聞いていて思った。
施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。
「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」
:10/03/22 22:38
:N08A3
:d1RCppyk
#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」
「嫌い。大っ嫌い」
晶の表情が曇る。
「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」
「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」
「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」
:10/03/22 22:39
:N08A3
:d1RCppyk
#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。
不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。
「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」
「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」
要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。
「長月くん、優しいね」
「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」
晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。
「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」
晶は淋しそうな表情で言う。
:10/03/22 22:41
:N08A3
:d1RCppyk
#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」
要は答える。
「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。
それに、石川さんはひねくれてない」
「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。
要よりはひねくれているが、
これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。
「…ありがとう」
晶は少し下を向いて、要に礼を言った。
:10/03/22 22:42
:N08A3
:d1RCppyk
#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」
直人は変に冷静になって、そんな事を考える。
この環境に慣れてきたらしい。
「あっ、晶ちゃーん」
後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。
要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。
「…誰?」
「来て!」
「へ!?」
晶は要の手を掴んで走りだした。
視界がガクガク揺れる。
:10/03/22 22:43
:N08A3
:d1RCppyk
#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」
「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」
走っているからか、語尾が強い。
晶はそこまで言って、要に顔を向けた。
「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」
晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。
角を曲がって、2人は走るのを止めた。
膝に手をついて、呼吸を整える。
:10/03/22 22:45
:N08A3
:d1RCppyk
#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」
「大丈夫…。…すごい走ったね…」
それだけ話して、しばらく会話はなかった。
疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。
視界はなかなか地面から切り替わらない。
2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。
そして、晶に向き直した。
「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」
「…え…?」
晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。
:10/03/22 22:46
:N08A3
:d1RCppyk
#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」
何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。
晶もショックを隠せない。
「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」
要はそう、はっきりと断言する。
直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、
凛々しい顔をしているのだろう。
「…そんな…」
晶は顔を背ける。
:10/03/22 22:47
:N08A3
:d1RCppyk
#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?
…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」
「…さぁ、わからない」
要は首を傾けて見せる。
「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。
…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」
要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。
「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」
話の途中で、晶が顔を背けた。
髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。
しかし、肩が震えているのだけはわかった。
:10/03/22 22:48
:N08A3
:d1RCppyk
#51 [我輩は匿名である]
「…私…親にも見捨てられて…
施設でも馴染めなくて…ずっと1人ぼっちだった…。
中学でも友達って呼べる子はいなくて…」
要はずっと黙っている。
「誰かに『優しくしてもらった』と思った事がなくて…、
そんな事言われても…私っ…どうしたらいいのかわからないし…、
そんな子の傍にいても…長月くん、きっと疲れるよ…」
「…そんな事ないよ」
要がやっと、口を開く。
:10/03/22 22:49
:N08A3
:d1RCppyk
#52 [我輩は匿名である]
「昨日と今日しか会ってないし、まだあんまり喋ってもないけど、
横にいて、楽しいと思えた。…今も」
晶は顔を背けたまま聞いている。
「だから友達は、石川さんだけでも、俺には十分だ」
それからしばらくの間、どちらも黙り込んだままだった。
「あーもううっとうしいなぁお前ら!
付き合うのか付き合わないのか、どっちかにしやがれ!
おい長月要!お前ももうちょっと粘れよ!
こいつ完璧にお前に気があるじゃねーか!」
直人にはどうしても耐えられないらしい。
:10/03/22 22:51
:N08A3
:d1RCppyk
#53 [我輩は匿名である]
誰にも聞かれないからといって、大声で好き放題に騒いでいる。
「…もう帰ろう、冷えるよ。近くまで送るから」
要が晶に歩み寄り、そっと手で背中をさすった。
晶は何もいわずに頷く。
彼女の足元に、とても小さな染みが出来ている。
直人がそれに気付いた瞬間、視界が真っ暗になった。
:10/03/22 22:52
:N08A3
:d1RCppyk
#54 [我輩は匿名である]
「…えっ、今ので終わりかよ!」
直人は納得がいかず、飛び起きる。
せっかくいいムードだったのに。
その後あの2人がどうなったのが気になって、
直人は本を見つめる。
前回よりも、少し文章が増えている。
:10/03/23 13:24
:N08A3
:0nKseeu.
#55 [我輩は匿名である]
4月11日 長月要が下校中、石川晶を見つけ、施設まで送る事になった。
その途中、石川晶と同じ施設に住んでいる彼女の同級生の
園田美代が彼らに声をかけた。
石川晶が長月要を連れて、彼女の目の届かない所まで移動。
「私だけの友達でいてほしい」という石川晶の言葉に、
長月要は「俺がいる事で悲しい顔をしなくていいのなら」と返事。
石川晶は静かに涙を流し、2人はそのまま養護施設へ向かった。
「…これで終わりかっ!」
何だか悔しくなって、直人は本を閉じてまた寝転んだ。
:10/03/23 13:25
:N08A3
:0nKseeu.
#56 [我輩は匿名である]
どうしてここまで入れ込んできているのか、わからない。
しかし、あの2人には幸せになってほしい。
そう思った。
「直人ー!ご飯ー!」
ドアの向こうから母親の声がする。
「あーい」
直人は大きく返事をし、再び起き上がって部屋を出た。
:10/03/23 13:25
:N08A3
:0nKseeu.
#57 [我輩は匿名である]
同じ頃、1人の女子生徒が、重い足取りで家路についていた。
直人達のクラスメイトの、あの金髪女である。
「おぅい、お嬢さん」
その声に、金髪女は足を止める。
「お嬢さん、本は読まんかなぁ?」
後ろから、しゃがれた男の声がした。
金髪女は黙って振り返る。
「…別に」
「ほぉう。まま、わしがやる本読んでみないか?」
見るからに怪しげな老人。
さすがに金髪女も不審だと思ったのだろう。
「いらない」と言って背を向けた。
それを見て、老人はニタッと笑う。
:10/03/23 13:27
:N08A3
:0nKseeu.
#58 [我輩は匿名である]
「人と付き合うのが怖い」
老人のその一言に、金髪女は再び足を止める。
「何でかわからんがぁ、人と接するのが怖い。君、そうだろうぅ?」
金髪女は何も言わずに振り向く。
そこには、青い本を差し出している小汚い老人がいた。
「この本読んだら、何で人と付き合えない理由、わかるかもねぇ」
金髪女は、話に食い付いたようにハッとする。
そして、ちょっと間考えた後、それを受け取った。
「…命は粗末にしない方がいいよぅ?お嬢さん」
「…は?」
金髪女は睨み付けたが、老人は構わずに背を向け、去っていった。
:10/03/23 13:27
:N08A3
:0nKseeu.
#59 [我輩は匿名である]
昨日はボーッとしていた直人が、
今日は朝っぱらから腕を組んで考え込んでいる。
薫はそれを見ながら、忙しい奴だな、と思った。
「(…ま、邪魔せずにいてやるか)」
朝礼が始まるまで、あと10分ある。
薫は暇つぶしに、あるところへ行ってみようと教室を出た。
この高校では屋上が解放されている。
転落防止のための高い柵が設置されており、
生徒でも入れるようになっているらしいのだ。
たまたまそんな話を耳にした薫は、
1度屋上に上ってみたいと思ったらしい。
:10/03/23 13:28
:N08A3
:0nKseeu.
#60 [我輩は匿名である]
階段を上って、静かにドアを開ける。
同時に、春の暖かい空気が薫を包み込む。
「(…意外と人いないんだな)」
まだ朝だからか、誰もいないようだ。
ちょっとうれしく思いながら、薫は2、3歩進んでみる。
「こんにちは」
突然、女の声がした。
薫はびっくりして周囲を見回すが、誰もいない。
「ははっ。こっちこっち」
よく聞けば、上から聞こえるような気がする。
:10/03/23 13:29
:N08A3
:0nKseeu.
#61 [我輩は匿名である]
薫はドアの屋根になっている所をを見上げる。
そこには、寝転がって肘をついてこっちを見る少女がいた。
薫のネクタイと同じ赤いリボンをしており、同級生のようだ。
薫を見てニコニコ笑っている少女を見て、薫は一瞬の間にいろんな事を思った。
「彼女には会ったことがある」
1番強く感じたのは、それだった。
少女もまた、黙って薫を見下ろしている。
まさか。薫は思った。
「…どこかで会った事ある?」
先にそう切り出したのは、少女の方だった。
:10/03/23 13:30
:N08A3
:0nKseeu.
#62 [我輩は匿名である]
「…ない、はず。でも…俺もそんな気がする」
驚きながらも、薫は答える。
「あんた、名前は?」
「私?私は、カヅキ キョウコ」
少女の名前に、薫はハッと目を見開く。
「キョウコ!?昨日今日の“今日”に、子どもの“子”か!?」
少女もまたびっくりしつつ、「違うよ」と返事をした。
「“響く子”って書いて、“響子”。カヅキは“香る月”」
「…そ、そうか」
落ち着け。薫は自分に言い聞かせる。
「自分も名前が変わっているじゃないか」と。
:10/03/23 13:31
:N08A3
:0nKseeu.
#63 [我輩は匿名である]
「あなたは?」
香月響子が聞き返してくる。
「あぁ…俺は、月城薫。あんたの“月”に、…えー、
シンデレラ城の“城”に、骨董品の“薫”」
言いながら、もっと良い言い方はなかったのか。
「シンデレラ城」と言った後に、薫は自分に呆れた。
響子もそれを聞いて笑っている。
「可愛いね、シンデレラ城って」
「そ、それしか出て来なかったんだよ!」
恥ずかしくなって、薫は少し顔を赤くして言い返す。
:10/03/23 13:31
:N08A3
:0nKseeu.
#64 [我輩は匿名である]
「…月城くん、何組?」
「8組」
「遠いね。私4組」
「あー…遠いな」
もう少し近ければ…。薫は小さくため息をつく。
「なぁ、香月。いつも朝はここにいるか?」
「ん?うん、いるよ」
響子は頷く。
「月城くんも来る?」
「…そうしようかな」
薫は小さく笑って答える。
それを聞いて、響子もまた、嬉しそうに笑い返した。
:10/03/23 13:32
:N08A3
:0nKseeu.
#65 [我輩は匿名である]
タイミングを見計らったかのように、学校中に予鈴が鳴り響く。
「あ。教室に帰らないと」
そう言うと、響子は後ろにある梯子を降りて、薫の横に来た。
「行くか」
「うん」
2人は一緒に歩きだしたが、1歩踏み出した所で響子が足を止めた。
振り返って見ると、響子は眉間にしわを寄せて、頭の側面を押さえている。
「どうした?大丈夫か?」
「うん…ちょっと、急に頭痛くなって。でも、大丈夫。行こ」
今度は先に響子が歩きだした。
薫は心配に思いながらも、彼女について階段を降りていった。
:10/03/23 13:33
:N08A3
:0nKseeu.
#66 [我輩は匿名である]
直人はある事を考えていた。
一昨日、昨日と、1日に1度しか“あっち”に行けなかった。
1日に2回本を開けば、2日分進む事が出来るのだろうか、と。
その方が早く話を進められるのだが。
担任の話そっちのけで、直人はずーっと本の事を考えていた。
「おい」
すぐ横で薫の声がして、直人はやっと顔を上げた。
クラスメイト達がぞろぞろと教室を出て行っている。
:10/03/23 13:33
:N08A3
:0nKseeu.
#67 [我輩は匿名である]
「次、生物室だろ」
「はっ!忘れてた!」
「早くしろ」
ちょっと苛立ったように薫に言われて、慌てて生物の用意をする。
そして、教科書とノートの間に、あの本を忍ばせて教室を飛び出した。
「まだ何か考えてんのか」
呆れたように薫が言う。
「んー…あの本の事で、ちょっとさ。
あれ、開いたら急に、昔の世界に飛ばされんだよ」
他の生徒に聞こえないように、直人は小声で言った。
言ってしまった。とも思った。
:10/03/23 13:34
:N08A3
:0nKseeu.
#68 [我輩は匿名である]
「…昔の世界?」
薫は聞き返す。
「んー、しかも、知らない男の中から、そいつの目で見える物を見て、…見てるだけなんだけど」
どう言えばちゃんと伝わるのかわからず、
直人は「あー!」と、もどかしそうに頭をかく。
「落ち着け」
「なんつーかなぁ…、タイムスリップだよ、タイムスリップ。
そんな簡単なもんかわかんねえけど、とりあえず1977年に飛んじゃうわけ!」
「1977年…?」
「そう!1977年!」
:10/03/23 13:35
:N08A3
:0nKseeu.
#69 [我輩は匿名である]
つい直人は声を大きくしてしまい、薫に「しーっ!」と注意されてしまった。
「おかしいだろ?何でそれで自殺とかに行き着くのか、意味わかんねぇんだよなぁ…」
「まぁなぁ…」
直人の話が何となくわかったのか、薫も首をひねる。
前方に「生物室」と札が出ているのが見える。
「まだ話終わってないのに」と、直人は舌打ちする。
「後で続き聞かせてくれよ。気になるから」
「当たり前だろ。こんな中途半端で終われるか」
2人はそんな事を言いながら、生物室に入ってそれぞれの席に着いた。
:10/03/23 13:36
:N08A3
:0nKseeu.
#70 [我輩は匿名である]
先生に起立、礼をしてから、直人は本をスタンバイする。
今から開く気らしい。
教科書の適当なページとノートを広げ、
あの本だけは机のすぐ下に持って、誰にも見えないように隠す。
光った時に、大っぴらに光が漏れないようにするためだ。
同じ長机についている他のクラスメイトの様子を伺い、直人はゆっくり開く。
身体と机の僅かな隙間から光が漏れる…。
:10/03/23 13:36
:N08A3
:0nKseeu.
#71 [我輩は匿名である]
目の前に広がっていたのは、木の木目のようなものだった。
なんだこれ。直人はつまらなそうに呟く。
「石川さん、昨日あんだけ泣いてたけど、大丈夫だったかなぁ…」
要が小さく独り言を言う。
視線が木目から窓に移る。
木目はどうやら、要の部屋の天井だったらしい。
細い三日月が見えた。もう夜のようだ。
「今度、行ってみようかな」
「どこに」
直人が思わず言った瞬間、周りが真っ暗になった。
:10/03/23 13:37
:N08A3
:0nKseeu.
#72 [我輩は匿名である]
「もう終わりかよ!」
直人は大声で突っ込んで、その勢いで立ち上がる。
授業中だった事も忘れて。
クラスメイトが一斉にこっちを向く。
「…2回目の授業から爆睡とは、良い度胸だなぁ?水無月直人」
先生の顔が引きつっている。
クラスメイト達が笑いだす。
「…は…はは…。す、すいません…」
直人は無理やり笑って誤魔化して、静かに椅子に座った。
あの本は授業中に読むものではない。
直人はため息をついて、気付かれないように教科書の下に本を滑り込ませた。
:10/03/23 13:37
:N08A3
:0nKseeu.
#73 [我輩は匿名である]
昼休みになってもまだ、薫は笑いをこらえていた。
生物が終わってからずっとこうだ。
直人もいい加減腹が立ってきた。
「お前、いい加減にしろよ」
「無理無理。お前の顔見る度に思い出して仕方ねぇよ」
この野郎…。殴りたくなってきた。
「で?今日のタイムスリップはどうだった?」
ナメようにニヤつきながら、薫は直人に尋ねる。
「どうもこうもねーよ!見てみろよこれ!!」
他の目を気にせずに騒ぎながら、本を開いて見せてみる。
:10/03/23 13:38
:N08A3
:0nKseeu.
#74 [我輩は匿名である]
4月12日 今日は何もなかった。
長月要は昨日の石川晶の様子が心配らしく、
会いに行ってみようかと考えていた。
「こんだけだぜ!?」
「わかったから、もうちょっと静かに喋れ。
他の奴に気付かれたらめんどくさいだろ」
:10/03/23 13:39
:N08A3
:0nKseeu.
#75 [我輩は匿名である]
確かにそうだ。
直人はちょっとムスッとして頷く。
「…この、長月要ってのは?」
「タイムスリップしたら、必ずこいつの身体の中に入り込む。
で、俺はそっから見てるだけで、何も出来ねぇんだよ。」
「ふぅん…」
薫は本を見つめながら、何かを考えている。
「何で長月要なんだろうな?」
ふと、薫が言った。
:10/03/23 13:40
:N08A3
:0nKseeu.
#76 [我輩は匿名である]
「へ?」
「いやぁ…何で入り込むのが、その長月要って奴の身体なのかって」
「…あぁ…」
今まで考えた事はなかった。
「誰だ?」とか「何でタイムスリップ?」とか思った事はあっても、
何故その先がいつも彼の中なのか?
薫に言われて初めて疑問に思った。
「何だ、今まで考えた事なかったのか?」
「うん…。そうだな、何でいつもあいつの中なんだろ?」
直人は腕を組んで考える。
:10/03/23 14:03
:PC
:pMFPl9Gs
#77 [我輩は匿名である]
「まぁ、とりあえず食べようぜ」
薫は話を変えて、机の上に弁当箱を出した。
直人も「そうだな」と、弁当箱を出す。
「ところで、お前委員会どうするんだ?」
「委員会?」
卵焼きを口に頬張りながら、直人は聞き返す。
「今日の6時間目のホームルームで、委員会決めるって、
今日先生言ってただろ」
「マジで…」
何せ今日の朝礼の時間は上の空だった直人は、
そんな話全く聞いていなかった。
:10/03/23 14:04
:PC
:pMFPl9Gs
#78 [我輩は匿名である]
「か、薫は?」
「風紀委員」
「即答かよ」
確かに、規則等をきっちり守る薫にはぴったりだ。
「めんどくせぇなぁ…。俺は後半でいいや」
「言うと思った」
基本めんどくさがりな直人に、薫は笑った。
:10/03/23 14:09
:PC
:pMFPl9Gs
#79 [我輩は匿名である]
家に帰って、直人はまた、自分の部屋で本と睨めっこしていた。
今日考えていた事。1日に何回タイムスリップできるのか。
それを実行する時がきた。
ベッドの上で、ふぅっと息をつく。
「…せぇの!!」
変に掛け声を出しながら、素早く本を開く。
・・・・・・。
何も起こらない。
「…ちぇっ、やっぱダメか」
ちょっとドキドキして損した。直人はふてくされたように寝転んだ。
:10/03/23 14:15
:PC
:pMFPl9Gs
#80 [我輩は匿名である]
次の日。土曜日である今日、直人は朝からパソコンにへばりついていた。
すでに午前中に本を開いて、昨日と同様何もなかったことに落胆し、ネットで調べてみる事にしたのだ。
『都市伝説 本』で調べると、すぐに多くのサイトがヒットした。
中でも『都市伝説ネット』なるサイトがあり、直人はそれをクリックする。
そんな名前なのだから、きっといろんな情報が載っているに違いない。
「…ビンゴ」
縦に並べられた数多くの都市伝説の中に、『読むと死ぬ!?呪いの本』という項目があった。
内容を見てみると、直人が今まで、耳にたこができるほど聞いてきた噂話が最初に載せられていた。
その下には、情報交換をするための掲示板が用意されている。
直人は掲示板の入り口をクリックする。
:10/03/23 14:27
:PC
:pMFPl9Gs
#81 [我輩は匿名である]
どうやらあの都市伝説は、直人達が住むこの町以外でもあるらしく、
イニシャルではあるがいろんな市の名前が書かれている。
「…ん?」
まず、直人はあるスレッド名を見て、マウスを動かす手を止める。
『例の本はいつの間にか消えるらしい』
何のことだ?直人はそのスレッドを開いた。
『A市で、本をもらったという少年が、2ヵ月後に行方不明になった。
クラスメイトに、例の老人から本をもらったと少年は言いふらしていたそうだが、
行方不明後、警察が男子の部屋を捜索した際、不審な本は見当たらなかったという』
これが本題だった。
:10/03/23 14:33
:PC
:pMFPl9Gs
#82 [我輩は匿名である]
これに対し、『警察が見つけられなかっただけでは?』『本を持って行方をくらましたのでは?』など、
いろんな意見が載せられていたが、同じような話を聞いた、というレスの方が圧倒的に多い。
「…ふぅん…」
直人は掲示板に戻り、他の記事を探す。
そして、また違うスレッド名を見て、「あ…」と声を漏らした。
『本の中身は自分の前世?』
直人は信じられず、なかなか指を動かせない。
しかし、文の最後に『?』が付いている事から、
本当の話ではないかもしれないと自分に言い聞かせて、スレッドを開いた。
:10/03/23 14:40
:PC
:pMFPl9Gs
#83 [我輩は匿名である]
『自分はあの老人に本をもらい、最後まで読みました。
途中から、急に本の中の話に入れ込むようになり、
最終的に、自分に起きている事だと感じられました。
ある時、身体の持ち主の顔が、鏡で見えました。
本当の世界の自分と、同じ顔をしていました。
だから、もしかしてこの人は、僕の前世の事では、と思ったのです。
僕の話はこれで終わりです。
今から僕は、人を殺しに行きます。』
そう書かれていた。
決定的な事はないようだが、『自分と同じ顔』それが引っかかる。
長月要は、俺と同じ顔をしているのだろうか。
:10/03/23 14:44
:PC
:pMFPl9Gs
#84 [我輩は匿名である]
そしてもう1つ。『今から僕は、人を殺しに行きます。』
よくこんな書き込みが、削除されずに残っているな。
そうも思ったが、直人は違う事を考えていた。
もしかしたら、本は自分を死に駆り立てるだけでなく、
人を狂わせることもできるのではないか、と。
もしそうであれば、自分はどうなってしまうのだろう…。
あの本の、本当の恐怖を知った気がした。
もしかして、薫が言っていた『死なない人もいる』とは、
こういう人の事だったのかもしれない。
「(薫は…ここを見てたのか…?)」
薫はオカルトには興味がないため、こんなサイトを見ているとは思えない。
ただ誰かに聞いただけかもしれない。
:10/03/23 14:52
:PC
:pMFPl9Gs
#85 [我輩は匿名である]
しかし、直人には一昨日の、薫の怖い顔が忘れられずにいた。
「石川晶」と呟いた事も。
気のせいかと思おうとしても、どうしても思えないのだ。
「(…あいつ…やっぱり何か知ってるんじゃないか…?
一昨日俺が悩んでた時も、本をもらったって話す前から分かってたみたいだったし…。
それにあの時…薫は笑ってた…。いつもの感じじゃなくて…何か変だった)」
いつもの笑顔ではなかった、あの時の薫の顔。
直人はブンブンと、大きく頭を振る。
「(待て待て!今までずっと仲良くやって来たあいつだぞ!?
隠し事なんか、1つもした事なかったじゃねーか!)」
「今までは」。直人は少しうつむく。
:10/03/23 15:00
:PC
:pMFPl9Gs
#86 [我輩は匿名である]
もう何が何なのか、分からなくなってきた。
出きる事なら、あの老人に本を返したい、とさえ思った。
親友を疑うのは、初めてだったのだ。
それだけじゃない。自分は、本をもらった事を隠していた。たった1日でも。
直人は大きくため息をつく。
もう、本を読むのはやめよう。『いつの間にか消える』んだろう?
前世の事なんか、どうでもいい。俺には関係ない。
直人はパソコンの電源を切り、本を引き出しにしまいこんだ。
:10/03/23 15:05
:PC
:pMFPl9Gs
#87 [我輩は匿名である]
本を引き出しに封印してから3日。
朝たまたまニュースが映っていた為、歯を磨きながらボーっと聞いていた。
そして、ぎょっとした。
少年が1歳年上の男性を刺し殺したという。そこまではよくあるニュースである。
しかし、直人が驚いたのは、その後の話だった。
その少年は、少し前に『都市伝説に関する掲示板に、殺人予告をしていた』というのだ。
この間の土曜日に見た、あの書き込みだ。
呆然として、歯ブラシを落としそうになる。
「そんな…」
あの書き込みは、本当だったのか。
直人はしばらく、テレビから目を離す事が出来なかった。
:10/03/23 15:14
:PC
:pMFPl9Gs
#88 [我輩は匿名である]
テレビを見すぎて、遅刻ぎりぎりに学校に滑り込んだ直人は、教室に入ってすぐに薫を探す。
しかし、鞄はあるのに、姿が見当たらない。
「(どこ行ったんだよ…こんな時に…)」
トイレだろうか?そう思って教室を出る。
すると、薫がちょうど、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。
「(いた!…ん?)」
彼の隣に、見知らぬ女子生徒がいる。しかも、2人で楽しそうに話しているではないか。
もしや。直人は確信した。「彼女だ!!」と。
「(先越された…)」
ドアの影から、恨めしそうに薫に視線を送る。
それに気付いたのか、薫がこっちを向いて、顔を引きつらせる。
:10/03/23 15:20
:PC
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#89 [我輩は匿名である]
「また明日」とドアの近くで言葉を交わし、女子生徒は自分のクラスへ歩いていった。
「よぉ。おはよ」
「よぉ。じゃない!!彼女か、彼女ができたんだな!」
「ちょっと待て、まだ彼女じゃない」
「まだって何だ!考えがいやらしいぞ、お前!!」
「どこがいやらしいんだ!?普通だろ!!」
「そのうち彼女にするつもりなんだろうが!!」
「約束したんだよ!!ずっと前に!!」
薫はそう言ってから、「しまった」というように口に手を当てる。
直人はそれを見逃さなかった。
:10/03/23 15:25
:PC
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#90 [我輩は匿名である]
「…ずっと前って、いつだ?」
直人の問いに、薫は目をそらして黙り込む。
おかしい。これは絶対に何かある。直人は思った。
「…お前、本は読んでるか?」
「話変えんなよ」
「変わってねぇよ」
どう考えても変わっただろ。直人は言い返したかったが、我慢して飲み込んだ。
「やめたよ、読むの」
「やめた?」
「あぁ」
:10/03/23 15:29
:PC
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#91 [我輩は匿名である]
直人は「もうめんどくさくなったから」と付け足した。
ポケットに手を入れて壁にもたれかかる直人を、薫はじっと見つめる。
「…じゃあ、お前にはわからないよ」
「…何が」
「さっきの、『約束』の意味」
「それが、本とどう関係あんだよ」
「まぁ、めんどくさがりなお前なら、読むのやめてもどうって事ないんだろうけど」
薫の遠まわしな言い方の連続に、直人のイライラは頂点に達した。
直人は薫の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。
周りにいた女子が、小さく悲鳴を上げる。
:10/03/23 15:37
:PC
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#92 [我輩は匿名である]
「何するんだよてめぇ!!」
「さっきからスカした顔しやがって!調子こいてんじゃねぇぞ!!」
「おい!何してるんだ!!」
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、担任の教師達がぞろぞろと廊下に来始めていた。
他の生徒達は慌てて教室に戻る。
直人たちの担任が、2人の間に割って入り、引き離す。
「何やってんだ!朝っぱらから!」
「…すいません」
2人は一応頭を下げ、教室に入った。
「(…何なんだよ…あいつ…!)」
席についても、直人の苛立ちはおさまらない。
ただ腕を組んで、窓の方をじっと見ていた。
:10/03/23 15:45
:PC
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#93 [我輩は匿名である]
その日、2人はそれ以上口をきかなかった。
今週は放課後の掃除当番に当たっている直人は、憂うつな気持ちで机を運んでいた。
さっさと家に帰ろうと思い、誰とも喋らずに、ただひたすら。
そして、1番後ろの机を運び終わった時、足の上に1冊の本が落ちてきた。
「痛っ!何だよ…」
今日はツイてない。そう思いながら、足元の本を見下ろす。
そこには、直人が封印したあの赤い本とそっくりの青い本が、ぽつんと落ちていた。
「…これ…」
拾い上げてよく見てみる。著者も、タイトルも何も書かれていない本。
これは間違いなく、あの『呪いの本』だ。
:10/03/23 15:52
:PC
:pMFPl9Gs
#94 [我輩は匿名である]
しかし、一体誰の…?
「(まさか、薫…?)」
しかし、薫の席は真ん中の列の前から2番目。ここは窓際の1番後ろ。
どう考えても、薫の机から落ちたものではない。
「…それ、返して」
後ろで声がした。
振り向くと、あの金髪女が不機嫌そうに立っている。
「…これ、お前の?」
「そう。だから返して」
この青い本は、金髪女の物だった。直人はぽかんとする。
:10/03/23 15:56
:PC
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#95 [我輩は匿名である]
本を返さずに突っ立っている直人に、金髪女は無理やり本を奪い取る。
「…中、見た?」
「いや、見てないけど…」
「あっそ」
終始むすっとした表情で言って、金髪女は背を向ける。
「なぁ!」
直人は反射的に、金髪女の腕を掴む。
「…何」
金髪女が、迷惑そうに振り向く。
「ちょっと、話があるんだけど」
「…私に?」
「うん、お前に!」
:10/03/23 16:00
:PC
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#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。
もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。
「水無月…」
他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。
同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。
「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」
金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。
恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。
ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。
そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。
:10/03/23 16:08
:PC
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#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」
「うぁ!?びっくりした…」
直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。
「わ、悪かったな、何か。…ごめん」
とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。
「…それはいいから。何。あの本の事?」
「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」
直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。
トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。
「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」
「そうなんだ、俺も、それぐらい」
直人の言葉に、金髪女が反応した。
:10/03/23 16:15
:PC
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#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」
「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」
「やめた…?何で」
「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」
情けないな、と、直人は自分で思った。
「怖い?」
「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、
今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…
あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」
:10/03/23 16:18
:PC
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#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。
「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。
しばらくの間、沈黙が続いた。
「…私は」
沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。
「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」
「…はぁ」
「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。
だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」
「…そんな…」
「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」
:10/03/23 16:25
:PC
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#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。
直人は黙り込む。
「…あんたは、何で今まで本読んでたの」
「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」
直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。
「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」
「…なる」
「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」
「…そうだけど…」
「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」
そういう問題か。
:10/03/23 16:30
:PC
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#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」
「変わってんのはお前だろ」
「お前じゃない。カンザキ アスカ」
「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」
「当たり前でしょ。ほら」
目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。
初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。
「…サンキュ、神崎」
「何が」
「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」
「あっそ。じゃ」
飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。
:10/03/23 16:37
:PC
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#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、
あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。
飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。
「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」
直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。
そして、ゆっくりと本を開いた。
:10/03/23 16:43
:PC
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#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。
「…久しぶりだな…この感覚」
直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。
公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。
しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。
「どこだ?これ」
そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。
「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」
直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。
:10/03/23 16:51
:PC
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#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。
どうやら晶のようだ。
まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?
「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」
行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。
「こんにちはー」
すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。
要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。
「こいつ、何とか美代って奴!」
晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。
:10/03/23 16:56
:PC
:pMFPl9Gs
#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」
要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。
「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」
「長月くん!!」
晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。
「ちょっと来て!!!」
「へ…」
要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。
美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。
:10/03/23 17:00
:PC
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#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」
「いやぁ…」
本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。
「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。
前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」
直人は分かりきったように断言する。
「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」
「…お?」
自分で言った事を、要も言った。
話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。
:10/03/23 17:07
:PC
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#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。
「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」
「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」
「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」
晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。
「…照れるじゃん」
「やめろよ、照れるから」
直人と要は同時に言った。
「ハモった…」
「でも、元気なんだったら、良かった」
:10/03/23 17:13
:PC
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#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」
「そっか。じゃあちょうど良かったかな」
「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」
晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。
その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。
「今のって…」
「ちょっと待ってて」
晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。
「…やっぱりあんただったの」
晶の声が曇る。
:10/03/23 17:19
:PC
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#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」
直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。
来てみると、美代が後をつけてきていた。
「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」
「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」
「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」
美代は「お願い!」と手を合わせる。
「悪いけど」
要が口を開く。
「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」
要は意外にも、きっぱりとそう断った。
:10/03/23 17:23
:PC
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#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」
「ちぇっ、つまんないの」
美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。
「2度と来んなよ」
直人は美代の背中を睨みつける。
「…これで大丈夫だろ」
「…うん…」
困り果てたように、晶は力なく返事した。
「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」
「…うん、わかった」
晶は笑って、大きく頷いた。
:10/03/23 17:28
:PC
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#111 [我輩は匿名である]
「そうだ、あいつに会わなくて済むように、今度いつ会うか決めとこう。場所も」
少し考えてから、要はそう提案した。
晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。
いい考えだと、直人も頷く。
「うん、そうしよう!」
「よし、じゃあ…いつがいいかな?日曜日の方が、長い時間いれるよね」
「うん。じゃあ、次の日曜日にしよう!場所は…あ、初めて会った、あの場所がいい!」
晶は、自分がしゃがんでいた、あの場所を言っていた。
あそこなら、美代も知らないだろう。
「わかった。昼からでいいかな?」
「うん。ご飯食べてから」
:10/03/23 17:35
:PC
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#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ、2時ごろ、2時ぴったりにしよう」
「うん!」
晶は楽しそうに、笑って大きく頷く。
待ち合わせなど、した事がないのかもしれない。
まるでデートの待ち合わせをしているような2人。
それを見ていて、直人も何だか嬉しくなってきた。
「じゃあ、次の日曜日の2時に、あの場所で」
「うん!絶対だよ!」
「うん」
要が頷くのを見てから、晶は手を振りながら帰っていった。
晶が見えなくなってから、直人の視界も暗くなった。
:10/03/23 17:39
:PC
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#113 [我輩は匿名である]
次の日曜日、つまり4月21日。2人が初めてデートする日。
「(…この日は、忘れずに読まないとな)」
直人は40年前の今日の話に一通り目を通す。
やはり、読んでいない日の事は書かれていなかった。
「(毎日ちゃんと読めって事か)」
直人は少し反省する。
ただ、話が急激に変わっていない事にはホッとした。
『自分に起きている事のように感じられる』
ネットで見たあの一言が、ふと頭の中をよぎった。
少しだけ、今の自分がそうなりつつある気がした。
:10/03/23 17:53
:PC
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#114 [我輩は匿名である]
要と晶の間を見守るのもいいが、直人はもう1つ肝心な事を思い出した。
「(…薫に謝ったほうがいいかなぁ…)」
直人は考えながら、携帯電話を開く。
しかし、誰からもメールはない。
「(…いや、意外と明日はいつも通りかもしれないな)」
直人はそんな変な期待を抱き、携帯電話を閉じた。
:10/03/23 17:57
:PC
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#115 [我輩は匿名である]
しかし、それはどうやら甘かったようだ。
朝少し早めに学校に着いたが、すでに薫は鞄だけを残し、教室内にはいなかった。
「はぁ…」
机に座って、何て謝ろうか考える。
すると。
「ねぇねぇ、水無月くん」
隣の席の女子が話しかけてきた。大橋怜奈。そんな名前だった気がする。
「…何か用…?」
「水無月くんって、月城くんと仲良いよね?」
こんな時に。お前は嫌味を言いたいのか。直人はその気持ちを抑えて「まぁ」とだけ返事をする。
:10/03/23 18:02
:PC
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#116 [我輩は匿名である]
「月城くんって、彼女いるの?」
何だこの女。直人は答えず、「何で?」と聞き返す。
「なんか、友達が月城くんの事好きらしくて」
「(…モテるんだな、あいつ)」
直人は若干ショックを受けつつ、「いないんじゃない?」と適当に返事をする。
「ふぅん、そっか」
「あ!」
昨日薫が女を連れていたのを、今思い出した。
しかし、すでに怜奈は席を離れ、教室を出てしまっていた。
「あぁ〜やっちまった…」
直人は頭を抱えて、机に突っ伏した。
:10/03/23 18:07
:PC
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#117 [我輩は匿名である]
その頃、薫は屋上で響子と一緒に話をしていた。
「あらぁ、喧嘩しちゃったんだ」
「まぁな。昔からよく喧嘩はしてたけど、昨日は珍しく、両方本気だったな」
「2人とも怪我しなかった?」
「あぁ、俺が壁に頭ぶつけたぐらいで」
「えっ!?ダメじゃん!!大丈夫!?」
響子はびっくりしながら大声を出す。
「大丈夫だよ。ちょっとたんこぶ出来てたみたいだけど、治ったみたい」
「そう…。気をつけないとダメだよ」
「…うん」
薫はフッと、小さく笑う。
:10/03/23 18:12
:PC
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#118 [我輩は匿名である]
「…なぁ、香月」
「ん?」
「…“霜月優也”って名前に心当たりないか?」
薫は真剣な表情で、響子に尋ねる。
その真剣さに、響子も本気で頭をひねってみるが、どうやらないようだ。
「…知らない、と思う」
「…そうか」
薫は残念そうにため息をついた。
「その人がどうかしたの?」
「…いや、何でもない」
「何それ!?気になるじゃない!!」
「いいよ、忘れて」
「無理!!」
:10/03/23 18:16
:PC
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#119 [我輩は匿名である]
響子が問う正そうと必死になっていると、チャイムが鳴った。
「あ、チャイム。かーえろ」
薫はさっさと、逃げるように歩き出す。
「あっ、ちょっと待ってよ!」
響子も慌てて走り出す。
しかし、一昨日よりも少し強い頭痛が、響子を襲った。
「痛っ…!」
響子は頭を抑えてしゃがみこむ。
その声に気付き、薫が急いで駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
「う…うん…。大丈夫…一瞬だけだったから」
:10/03/23 18:21
:PC
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#120 [我輩は匿名である]
響子は弱々しく笑って、顔を上げる。
しかし、薫の心配は晴れない。
「…保健室行くか?」
「いいよ、そこまでしなくても、もう治ったから。…ごめんね、心配かけて」
響子は「行こ」と、歩き出す。
その背中を、薫は止まったまま見つめる。
「…俺に謝るな、…今日子」
薫の独り言が聞こえたのか、響子が振り向く。
「何か言った?」
「……いや、何にも言ってないよ」
薫はそう言って、響子と並んで屋上を後にした。
:10/03/23 18:27
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#121 [我輩は匿名である]
「悪かった!!!」
昼休みになるやいなや、直人は薫の元に謝りに行った。
急に手を合わせて謝ってきたため、薫はきょとんとする。
「…そのぉ〜、昨日は俺ちょっとイライラしてて、おまけに女連れてるし、何かモテるみたいだし?
なんか余計に腹立ってきて、っていうか今もあんまりスッキリしてないけど」
「謝る気あるのか?お前」
謝っているのか皮肉っているのかわからない直人に、薫も言い返す。
「っていうか、『モテるみたい』ってどこ情報?」
「俺情報」
「はぁ?」
:10/03/23 18:37
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#122 [我輩は匿名である]
「いや、あの…今日の朝、大橋に『友達が月城くんの事好きらしいんだけど、彼女いるのかなぁ?』って聞かれたから…」
ちょっと困った顔で話し始めた直人に、薫は眉をひそめる。
「で、お前、何て言ったんだ?」
「い…いないんじゃねーの…って、言いました」
謝るように頭を垂れて、直人は答えた。
薫は呆れ笑いしながらため息をつく。
「…まぁ、いないのは事実だしな」
「『今は』だろ?」
直人もおちょくるように言い返す。
「つーか、あの子誰?」
「4組の香月 響子」
:10/03/23 18:42
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#123 [我輩は匿名である]
「いつから仲良くなっちゃったわけ?」
「直人が本をもらった次の次の日」
「何でまた」
「屋上に行ったらいたんだよ。それで」
「屋上?何で屋上なんか」
「何となく、行ってみたかったんだよ」
直人のまるで尋問のような問いかけに、薫は1つ1つ短く答えていく。
「俺からも聞くけどさぁ」
「何?」
今度は薫が、弁当箱を開けながら尋ねる。
「大橋って誰?」
「…お前、それはちょっとひどいだろ」
:10/03/23 18:47
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#124 [我輩は匿名である]
直人はちょっと呆れ返る。
「あいつ。1番こっち向いてる奴」
気付かれないように、直人は女子の1グループを指をさす。
こっそり目をやって、薫は「あぁ」と思い出すように声を漏らした。
「知ってただろ?」
「風紀委員同じだった」
「…それ余計にひどくないか?」
「他の女に興味ないの」
薫のその一言に、直人はあんぐりする。
「調子に乗るなよお前…」
「何だ?またやんのか?次は手ぇ抜かねぇぞ」
真顔で2人はにらみ合う。
が、今度は流石におかしかったのか、2人とも笑い出した。
:10/03/23 18:52
:PC
:pMFPl9Gs
#125 [我輩は匿名である]
「あーあ、喧嘩なんかするもんじゃないな」
「ホント、つまんねぇ喧嘩だったなぁ」
2人は息をつきながら弁当箱をつつく。
「…ところで、どうしても聞きたい事があるんだけど」
改まって、直人が口を開く。
もうわかっていたのか、薫も堪忍したように笑う。
「『俺が本を持っているのか』、か?」
「うーん、まぁ、そうかな。それが1番聞きたいのかも」
たくさん聞きたい事があったのに、今はそれしか出てこなかった。
しばらく考え、薫は答える。
「あぁ、持ってる」
:10/03/23 18:56
:PC
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#126 [我輩は匿名である]
「…やっぱりそうか」
「内容はまだ言えないけど、直人よりもずっと前にな」
「いつ?」
「中1の時」
「そんな早くから?」
「あぁ。読み終えるのに2年半かかった」
「そんなに…?」
全然知らなかった。ポーカーフェイスもいいところだ。
「死にたくならなかったのか?」
「いや、全然。元々俺には『目的』があったから」
:10/03/23 19:01
:PC
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#127 [我輩は匿名である]
目的。直人は聞きたかったが、これはきっと答えないだろう。なぜかそんな気がした。
「その代わり」
薫が続ける。「初めて人を『殺してやりたい』と思った」
直人はドキッとした。
「なっ、何言い出すんだよ…!?」
「この間まで、ずっと考えてた。『あの女は今、どんな姿をしているのか』ってな」
「女なのか…?」
「あぁ。…でも、そんな事考えてる場合じゃないんだよな、俺」
その言葉の意味が、分からなかった。
聞きたかったが、どうしても聞けない。
薫の表情が、悲しそうに見えた。
:10/03/23 19:06
:PC
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#128 [我輩は匿名である]
「…そっか、…悪かったな、いろいろ聞いて」
まだまだ話を聞きたい自分を抑えて、直人は話を終わらせた。
「何だよ、もういいのか?」
「あぁ、またぼちぼち聞いてくよ」
直人はいつも通り笑ってみせる。
「…本、読み続けるのか?」
薫がふと、そんな事を聞いてきた。
「…あぁ、実は一昨日まで怖くて読みたくなくなってたんだけど、読み始めたからには全部読もうと思ってる」
「…そうか」
薫はそれだけ言って、もう何も聞いては来なかった。
:10/03/23 19:11
:PC
:pMFPl9Gs
#129 [我輩は匿名である]
直人はその日から毎日欠かさず本を読んだが、
特に大きな変化はなく過ぎていった。
薫の様子が気になったが、本人が本について何も語らないため、
直人も無理に聞く事は避けていた。
「…よし」
日曜日、直人は朝からジャージ姿で本を構えていた。
変化がない日々におさらばだ。
直人は鼻からふうっと深く息を吐き、
心を落ち着かせてから、ゆっくりと本を開いた。
:10/03/24 10:46
:N08A3
:vv1d3OC.
#130 [我輩は匿名である]
要はすでに、あの場所に着いていた。
デートは初めてなのか、そわそわしている。
「そんなにウロウロしないで、落ち着けよ」
直人はそう言いつつも、自分も少しドキドキしている。
美代がついて来ていないかが不安なところだが。
「…あ」
要が声を漏らす。
晶が走ってきている。
念のため後ろを確認するが、誰もついて来ていないようだ。
:10/03/24 10:46
:N08A3
:vv1d3OC.
#131 [我輩は匿名である]
「お待たせ」
「時間ちょうどだな。どうする?喫茶店でも行こうか」
「うん」
喫茶店。カフェじゃなくてか。直人は時代の変化をふと感じる。
「紅茶が美味しい所があるって聞いたんだ。行ってみよう」
「そうなんだ。私、紅茶大好きだよ」
「そりゃ良かった。…あの子はついて来てないよな?」
「大丈夫。見つからないように出て来たから」
「施設の人にも言ってきた?」
「昨日から言ってた」
:10/03/24 10:47
:N08A3
:vv1d3OC.
#132 [我輩は匿名である]
「万全だな」
直人と要は同時に言う。
晶はフフンと、誇らしげに笑っている。
「楽しみにしてたんだもん、邪魔されたくないもんね」
「うん。今日はいっぱいいろんな話をしよう」
「うん!」
晶は笑顔で大きく頷く。
「…ねぇ」
「ん?」
「…長月くんって、何かよそよそしいから…呼び方変えてもいい?」
晶はおずおずと申し出る。
:10/03/24 10:47
:N08A3
:vv1d3OC.
#133 [我輩は匿名である]
「いいねぇ、こういうの」
直人は2人が恋人同士に見えて仕方がない。
「本当だな。俺も何か考えていい?」
「うん、喫茶店に着くまでに決めよ」
晶にそう言われて、直人も一緒に考える。
「…やっぱ、呼び捨てかなぁ…でも、要なら“晶ちゃん”とか呼びそうだな」
「…要くん」
「…じゃあ、晶ちゃん」
やっぱりな。直人は予想通りの展開にちょっと笑う。
:10/03/24 10:48
:N08A3
:vv1d3OC.
#134 [我輩は匿名である]
また、2人もちょっと恥ずかしそうに笑い合う。
「なんか、友達って感じになったな」
「うん。…嬉しい」
晶は少し頬を赤くして小さく笑う。
「…可愛いな。最初は危なそうな奴だと思ってたけど、普通の女の子じゃん」
「友達って、俺が初めてなんだっけ」
「うん」
「何か嬉しいな。1番乗りだもんな」
「ははっ。喜んでもらえて私も嬉しい」
そんな、聞いている方が照れるようなやりとりをしているうちに、要の言っていた喫茶店に到着した。
:10/03/24 10:49
:N08A3
:vv1d3OC.
#135 [我輩は匿名である]
焦げ茶色のレンガで建てられた、ちょっと洋風の喫茶店。
中には多くの客が入っていたが、運良くまだ席が空いている。
店員に席へ案内され、2人は向かい合って座る。
「何頼む?」
「ミルクティーがいい」
「…それだけ?」
「私、あんまりお金持ってなくて」
「ちょっとぐらいなら、出せるよ」
要は若干不安そうながらも、ちょっとちょっと強めに言い張った。
おお、男前。直人は感心する。
:10/03/24 10:49
:N08A3
:vv1d3OC.
#136 [我輩は匿名である]
「えっ、いいよいいよ。ミルクティーだけで十分」
「でも…」
「さっきお昼食べたばっかりだし、本当に大丈夫」
「そう?まぁ何か食べたくなったら言ってね」
「うん、ありがとう」
「…俺、ちょっとトイレ行って来る。もし注目聞かれたら俺もミルクティー頼んどいてもらっていい?」
「うん、わかった」
要は「ごめんな」と言って、トイレに席を立つ。
:10/03/24 10:50
:N08A3
:vv1d3OC.
#137 [我輩は匿名である]
「…ん?トイレ?」
直人はハッとする。
トイレには鏡がある。と言う事は、要の顔が映る。
『本当の世界の自分と同じ顔』
ネットでの書き込みを思い出した。
「えっ?ちょっと待てよ、俺そんな、まだ覚悟できてねーって!」
「はぁ…緊張してきた…」
直人が喚いている間に、要は息を深く吐きながらトイレに入ってしまっていた。
「ダメだダメだ!しっかりしろっ!」
要は目を閉じて、パチパチと両手で頬をたたく。
そして、鏡の前で目を開いた。
:10/03/24 10:51
:N08A3
:vv1d3OC.
#138 [我輩は匿名である]
「…!?」
直人は息を呑んだ。
やはりあの書き込みは本当だった。
どちらかというと釣り上がった感じの目に、筋の通った鼻。
そして何より、左頬の下の方にあるほくろ。
その全てが、直人と全く同じだ。
髪型は違っても、顔は直人そのものだった。
要が何か独り言を言っているが、全く耳に入ってこない。
あの書き込みが本当だということは、やはり長月要は…。
:10/03/24 10:51
:N08A3
:vv1d3OC.
#139 [我輩は匿名である]
いや、待てよ。直人は精一杯考える。
今は1977年。あっちは2017年。今要は16歳で1961年生まれ。
俺も16歳で、2001年生まれである。
2001-1977=24
24+16=40
つまり、要の寿命は40歳?早死に?
と言うことは、あと24年分も読み続けなければならないのか?
その前に、俺は何でこんな計算をしてるんだ?
あーもうわけがわからない!
でも、顔がここまでそっくりだと、他人とも思えない。
しかし、母親姓は北里だったはずだ。
:10/03/24 10:53
:N08A3
:vv1d3OC.
#140 [我輩は匿名である]
つまり、ご先祖様ではない。
薫か誰かに聞いてみるべきか?
いや、でも聞いてばっかりじゃなく、自分で暴いてみたい気もする。
でも、今はそんな事考えている場合でもない。
せっかくのデートなのに、こんな事は帰ってから考えろ!
しかし、頭がボーッとしてそんな気にもなれない。
自分の体なら、頭をぐちゃぐちゃに掻き乱しているところだ。
:10/03/24 10:57
:N08A3
:vv1d3OC.
#141 [我輩は匿名である]
:10/03/24 10:59
:W52SH
:8y8n9HLE
#142 [我輩は匿名である]
「あーダメだダメだ!集中しろ、俺!
…とりあえず、あの2人はどうなったんだ…?」
直人は考えるのを無理に止めて、集中する。
目の前では、晶が笑っている。
考えて込んでいる間に、だいぶ時間が経っていたようだ。
何の話なのかわからないが、2人は楽しそうだ。
「だったら、結構楽しいんじゃない?学校」
「まぁ…ね。でも、やっぱり要くんといる時が1番楽しいよ」
「晶ちゃん…」
:10/03/24 10:59
:N08A3
:vv1d3OC.
#143 [我輩は匿名である]
「私には、…要くんだけだから」
晶はそう言って、ミルクティーのカップに口をつける。
「…俺なんかでいいのか?俺、弱虫だし…頭も良くないし、
何にも役に立たないと思う」
「そんな事関係ないよ」
晶はそっと、要に笑いかける。
「弱虫でも、頭が良くなくてもいい。私は…今の要くんが好き」
晶の突然の告白。
要も直人も、信じられずにぽかんとする。
:10/03/24 11:00
:N08A3
:vv1d3OC.
#144 [我輩は匿名である]
:10/03/24 11:01
:N08A3
:vv1d3OC.
#145 [我輩は匿名である]
「あ…はは、ごめんね、急に変な事言って」
晶は冗談っぽく笑って、何気なく店内の時計に目をやる。
直人の気付かない間に結構話していたらしく、
もう時計の針が4時を回っていた。
「…ここから帰ったら、何分くらいかかるかな?」
「えっ…うーん、30分か、40分くらいかな?どうかした?」
「5時には帰って来いって言われてたの、忘れてた」
「え!?じゃあそろそろ行かないと」
「うん、ごめんね。早く言っとけば良かったね」
:10/03/24 11:02
:N08A3
:vv1d3OC.
#146 [我輩は匿名である]
「ううん。じゃあ行こっか」
伝票を手に、要が先にレジへ向かう。
晶は慌てて鞄を持って後を追う。
「待って、財布が…」
「いいよ、俺出すから」
「え、でも…」
晶が財布を探している間に、会計は終わってしまった。
要は「行くよ」と言って喫茶店を出る。
:10/03/24 11:03
:N08A3
:vv1d3OC.
#147 [我輩は匿名である]
晶が何か言いたそうだが、要はなぜか晶の顔を見ないで、黙って歩いている。
「…さっきの告白で、困ってるんだな」
直人はぼそっと呟く。
結構大口をたたいてきたが、自分が彼の立場に立ったら、
きっと同じように、すぐには返事出来ないんだろうな、と。
待ち合わせ場所に戻るまで、2人は何も話さなかった。
今までの直人なら、気まず過ぎてあーしろこーしろと騒ぐところだが、
そんな気にもなれない。
:10/03/24 11:04
:N08A3
:vv1d3OC.
#148 [我輩は匿名である]
30分程の間黙って歩くと、あの場所に着いてしまった。
「着いちゃったね」
「うん」
到着してやっと、2人は言葉を交わす。
「今日はありがとう。楽しかった」
「…うん、俺も」
「…じゃあね」
晶は元気なく笑い返して、要に背中を向け、歩きだす。
「…このままで良いのかよ」
心の底からモヤモヤして、直人は要に言う。
:10/03/24 11:04
:N08A3
:vv1d3OC.
#149 [我輩は匿名である]
要もまた、悩んでいるように両手を握りしめていた。
しかし、その間にも晶はどんどん離れていく。
直人はもう、我慢できなくなった。
「待てよ!!」
「待って!!」
直人と要が叫んだのは、同時だった。
晶が驚いたように振り向く。
「さっき、急に『好きだ』って言われて…
俺、びっくりして…信じられなくて、何にも言えなかったんだ」
要の声が少し震えている。
:10/03/24 11:05
:N08A3
:vv1d3OC.
#150 [我輩は匿名である]
晶は体ごとこちらに向き直る。
「でも俺…っ、俺も…」
要はなかなか言いだせない。
直人はある事気付いた。
これが本当なら…。
直人もちょっとドキドキしながら叫ぶ。
「俺も、晶ちゃんが好きだ!」
それは、要の声となって晶に伝えられた。
やっぱり。直人は思った。
:10/03/24 11:06
:N08A3
:vv1d3OC.
#151 [我輩は匿名である]
「要くん…」
「俺、来週も待ってるよ!今日と同じ時間、ここで待ってるから!
今日は緊張して上手く喋れなかったけど、今度はもっといっぱい話そう!」
要は勢いが出てきたのか、言いたい事を言い切った。
晶も安心したように笑顔を見せる。
「うん!じゃあまた来週会おうね!」
そう言って、晶は大きく手を振る。
要も同じように振り返す。
そして、晶が帰っていくまで、ずっとそこでたたずんでいた。
:10/03/24 11:07
:N08A3
:vv1d3OC.
#152 [我輩は匿名である]
直人はじっと本を見つめながら、さっきの事を考えていた。
「…あいつが困って、そん時に俺が叫んだら、あいつも同じように叫ぶのか?」
晶を呼び止める時。晶に気持ちを伝える時。
直人が叫ぶと同時に、要も同じように叫ぶ。
若干の口調の違いもあるが、ほぼ変わらない。
直人は複雑な気持ちで本を閉じ、部屋を出る。
一気にいろんな事がなだれ込んできた1日だった。
:10/03/24 11:08
:N08A3
:vv1d3OC.
#153 [我輩は匿名である]
その気持ちは、月曜になっても晴れなかった。
直人は浮かない顔で学校への道を歩く。
うっとうしい事に、今日は雨。
「水無月くん」
誰かが話し掛けてきた。
どっかで聞いた声だな。
そう思って振り向くと、見た事がある女子がすぐ後ろに走ってきていた。
「おはよう」
「…えー…」
名前が出て来ない。
:10/03/24 11:09
:N08A3
:vv1d3OC.
#154 [我輩は匿名である]
「…ごめん、誰だっけ」
「大橋よ!
お!お!は!し!れ!な!」
「朝からうるせぇよ…」
耳元で大声で名乗られて、直人は煩わしそうに顔を背ける。
「水無月くん、嘘ついたでしょ」
「何の話?」
「あれ」
怜奈は前方を指さす。
彼らの20メートル程先を、薫と響子が一緒に歩いている。
:10/03/24 11:10
:N08A3
:vv1d3OC.
#155 [我輩は匿名である]
「(あらー…)」
「あの人、彼女でしょ」
ずけずけ聞いてくる怜奈を、直人は迷惑そうに見下ろす。
「何でそこまで聞くんだよ?お前、探偵?」
「探偵だったらもっと上手くやるわよ。
友達が好きみたいって、この間言ったでしょ?」
「友達思いなんだねぇ」
適当に返事をしながら、直人もちょっと気になって、前の2人の様子を伺う。
:10/03/24 11:53
:N08A3
:vv1d3OC.
#156 [我輩は匿名である]
「今日は眼鏡なんだね」
見られているとも知らずに、響子は薫に言う。
「雨の日は視力落ちるからな」
薫は珍しく、茶色いフレームの眼鏡をかけていた。
「目悪いの?」
「そこまで悪くないよ。0.8ぐらい。だからあんまり度も入ってない」
薫はそう言って、響子に眼鏡を貸す。
:10/03/24 19:01
:N08A3
:vv1d3OC.
#157 [我輩は匿名である]
響子は試しにそれをかけてみるが、合わないのか、すぐに薫に返した。
「きつい!」
「ははっ。香月は目良いんだな」
「1.2あるからね」
「へぇ、やるじゃん」
薫は眼鏡をかけ直しながら感心する。
:10/03/24 19:02
:N08A3
:vv1d3OC.
#158 [我輩は匿名である]
「…何かわかんねーけど、いちゃついてるみたいだな」
朝っぱらから見せ付けてくれる。
直人は呆れたようにあくびをする。
「…ふぅん…」
怜奈は何か考えるように、冷めた目で2人を見ている。
直人はそれに気付かなかった。
:10/03/24 19:02
:N08A3
:vv1d3OC.
#159 [我輩は匿名である]
「いつも一緒に来てんのか?」
直人の思いがけない問いに、焼きそばパンにかじりついたまま、薫は目を丸くする。
「はぎ?ほふげん(何?突然)」
「未来の彼女。今日一緒に来てただろ?」
「…はんげひっけんは?(何で知ってんだ?)」
「…何言ってるかは大体わかるけど、とりあえず飲み込んでから喋れ」
直人に言われて、薫は口に入っている分のパンを、適当に噛み砕いて飲み込む。
詰まりそうになったのか、その上から更にペットボトルのお茶を流し込む。
:10/03/24 19:05
:N08A3
:vv1d3OC.
#160 [我輩は匿名である]
「今日はたまたま、見つけたから一緒に来ただけ。大体何で知ってんだよ?」
「今日、俺達ちょっと後ろ歩いてたから」
「ちょっと待て、俺“達”って誰だ」
「大橋怜奈。何か横にいたから」
あいつか。薫も朝の直人同様、めんどくさそうな顔をする。
「…うっとうしいな…。お前は相手にしてねぇよ…」
「お前を好きなの、あいつの友達だぞ?」
直人は間違いを正すように言い直す。
「…どうだかな…」
薫は何か考えながら、ペットボトルを片手に、じっと怜奈を見ていた。
:10/03/24 19:06
:N08A3
:vv1d3OC.
#161 [我輩は匿名である]
「今日は何もなしか」
本を閉じて、直人はため息をつき、
いつものようにベッドに寝転び、窓から満月を見上げる。
また次の日曜日までお預けかな。
「(気になるのになぁ…)」
晶は今ごろ、どうしているのだろう。
また美代に手を焼いていないだろうか。
ボーッと考えた後、直人はハッとした。
「俺、何深く考えてんだ…?」
まるで要じゃないか。
直人は机に肘をつき、頭を抱えた。
:10/03/24 23:45
:N08A3
:vv1d3OC.
#162 [我輩は匿名である]
おもしろいです
続き待ってます
:10/03/26 16:31
:W61SA
:my01452g
#163 [我輩は匿名である]
:10/03/28 00:17
:W53H
:TqXP9qoY
#164 [我輩は匿名である]
>>161さん
読んでいただいてありがとうございます

でかけていて更新出来ませんでした


ちょっとずつ進めますね

>>162さん
見やすくしていただいて、ありがとうございます

:10/03/28 14:54
:N08A3
:iQI8B8Nc
#165 [我輩は匿名である]
すみません、レスがずれました

上は>>162さんへ、163さんへ、です


:10/03/28 14:57
:N08A3
:iQI8B8Nc
#166 [我輩は匿名である]
夢中でいっきに読みました!面白いです

応援しています

:10/03/28 17:04
:L01A
:HX1T/pzw
#167 [我輩は匿名である]
なんかレスするごとに大変な事に…(´Д`)
>>166さん
長いのに一気に読んでいただいてありがとうございます


頑張るので、ぼちぼち読んで下さい

:10/03/28 20:15
:N08A3
:iQI8B8Nc
#168 [我輩は匿名である]
一方、薫はベッドの上で、何かを深く考えているような顔で寝転がっていた。
不意に、枕元に置いていた携帯電話のバイブが鳴る。
手にとって見てみると、響子から電話がかかってきている。
「もしもし」
「あ、月城くん?ごめんね、いきなり電話しちゃって。今…時間大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。…どうかした?」
「うん…」
響子は少し悩んでいるようだった。
その声を聞いて、薫も不安を抱く。
:10/03/28 20:17
:N08A3
:iQI8B8Nc
#169 [我輩は匿名である]
「この間、私に『霜月優也って聞いたことないか』って聞いたでしょ?」
「…あぁ、聞いた」
薫の表情が変わる。
「…何か知ってるのか?」
「…気のせいだと思ってたんだけどね」
響子が話しだす。
「この間から私、たまに頭痛くなるでしょ?その頭痛くなった日に、寝ると必ず夢を見るようになって…」
「どんな夢?」
響子が少し言葉を区切ったのを感じ、薫が尋ねる。
:10/03/28 20:18
:N08A3
:iQI8B8Nc
#170 [我輩は匿名である]
「…1番最初は、私がどこかで洗濯物を干してたら、誰かが手伝ってくれた。…たったそれだけ。
そして次は、病院のような所でもう1回会って、名前を教えてもらうの。
その時教えてもらった名前が、“霜月優也”だった。名刺に書いてあったから、間違いないと思う。
そして、今日昼寝してたらまた見たの。今日は、私とその人が食事に行ってた。
その人が誘ってくれたんだと思う。…今まで見たのは、そこまで」
薫はまた「そうか」とだけ返事をした。
“そこまで”という事は、その続きがある事をわかっているのかもしれない。
そう思った。
:10/03/29 11:40
:N08A3
:P5Rp3vxg
#171 [我輩は匿名である]
「でもね、1つだけ、変なのよ」
響子が補足する。
「何が?」
「その人の顔だけ、どうしても思い出せないんだ」
その言葉に、薫は眉をひそめる。
「…全くか?」
「…うん、全然。それに、私の名前も、香月響子じゃなかった。…何だったかな…」
「…長谷部 今日子」
薫は静かに呟く。
響子もそれを聞き逃さなかった。
:10/03/29 11:41
:N08A3
:P5Rp3vxg
#172 [我輩は匿名である]
「…そう、そんな名前だった」
「…やっぱりそうか」
薫はそれだけ言ってしばらく黙り込んだ。
「(…やっぱり…今日子だったんだな…)」
両方の目尻から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「…月城くん?」
響子の声を聞いて、薫は肘でゴシゴシと涙を吹く。
「ん?」
「月城くん…何か知ってるよね?…私の夢の事とか」
響子に聞かれて、薫はしばらく考えてから「あぁ、知ってる」と答えた。
:10/03/29 11:50
:N08A3
:P5Rp3vxg
#173 [我輩は匿名である]
「…教えて。あの夢は一体何?“私”はどうなるの?」
響子は薫に尋ねる。
彼女も気になっているのだろう。
薫はしばらく考え込む。
そして答えた。
「…教える事は出来ない」と。
「俺の口から教えれる事は、俺が知ってる事だけだ。
長谷部今日子が見た事、耳にした事、感じた事…それは夢を辿っていくしか知る事が出来ない。
…だから、本当に全てを知りたいなら、俺から話すべきではないと思う」
:10/03/29 14:26
:N08A3
:P5Rp3vxg
#174 [我輩は匿名である]
言い終わってから、薫は呆れたように笑う。
薫は本当は、全て話したくてしかたがなかった。
自分が霜月優也だという事、霜月優也と長谷部今日子は夫婦だった事…他にもたくさんある。
全て話せば、どれだけ気が楽になるだろう。
それだけじゃない。
自分の口から話せば、自分の事を良く言う事も出来るのに。
自分のばか正直さにため息が出る。
「…そっか」
響子は少しがっかりしたように言った。
:10/03/29 14:27
:N08A3
:P5Rp3vxg
#175 [我輩は匿名である]
「…悪い。でも、その方がきっと、香月のためになる。…俺や霜月優也、長谷部今日子のためにも」
「…そう。…なら、私が自分で進めなきゃダメだね」
「ごめん。…ただ、最後にはかなり辛い事が待ってると思う。俺はそうだった。
だから、最後までたどり着く自信がなければ、それ以上は止めた方が良い」
薫の話に、響子は小さく笑う。
「…進まないと、みんなの為にならないでしょ?」
「自分の為にならない事もある」
「大丈夫。どうにかなるよ」
響子は明るく言った。
:10/03/29 14:27
:N08A3
:P5Rp3vxg
#176 [我輩は匿名である]
薫も少し笑う。昔とちっとも変わらないな、と。
「ごめんね、いろいろ聞いちゃって」
「いや。…ほとんど役には立たなかったと思うけど」
「そんな事ないよ、…ありがとう。じゃあ、また明日ね」
「あぁ、おやすみ」
薫は静かに携帯電話を閉じる。
スッキリしたような、モヤモヤしたような複雑な気分で、薫はその夜、なかなか眠れなかった。
:10/03/29 14:43
:N08A3
:P5Rp3vxg
#177 [我輩は匿名である]
「はぁー…」
掃除当番である薫を待つ間、直人は階段に座って大きく伸びをしていた。
もう金曜日だが、どうやら日曜日にならないと本の話は進まないらしい。
「(つまんねぇなぁ…平日はどうでもいい学校の話だけだもんなぁ…。
学校より、晶との話が進むのかどうかが重要なんだよ。
要の学校話なんか…)」
そんな事を考えていたら、目の前をあの金髪女が通りかかった。
「あっ、おい!金髪女!」
呼び止められて、金髪女の飛鳥が足を止め、こちらをにらみつける。
:10/03/29 15:51
:N08A3
:P5Rp3vxg
#178 [我輩は匿名である]
「…何か用?」
「今日はさっさと帰るのか?いつも最後まで残ってるのに」
直人に言われて、飛鳥は顔を背ける。
「何でいつもすぐ家に帰んないの?
「…何でって……」
飛鳥は口ごもる。
直人は「まぁ、こっち来いよ」と手招きする。
少し悩んで、飛鳥は直人の横に腰を下ろした。
といっても、2人の間に人一人分くらいのスペースは空いているが。
:10/03/29 15:51
:N08A3
:P5Rp3vxg
#179 [我輩は匿名である]
「…私、家嫌いだから」
「何で」
きょとんとした直人の問いに、飛鳥はうつむく。
「……親は私何か見てない。大切なのは頭の良い弟だけ。
晩ご飯の時も、私は見向きもしない。話もしない。だから、家にいてもつまんないでしょ」
「…よーするに、ネグレクトとか言うやつか?」
「…ご飯はくれるんだし、虐待ではないんじゃないの」
飛鳥は「そういう話じゃないから」とでも言いたげにため息をつく。
:10/03/29 15:52
:N08A3
:P5Rp3vxg
#180 [我輩は匿名である]
「…ま、それじゃあ家に帰りたくはないわな。
…いいんじゃねぇの?そんな家にはいてやんなくても」
「でしょ?だから帰んないのよ。ご飯の時間になるまでは」
飛鳥はそう言って少し笑った。
「で、今日は帰んのかよ」
「いろいろ寄ってから帰る」
「なるほどな。…で、本は読んでんのか?」
「読んでるわよ、ちゃんと。最近つまんないけど」
「へぇ、俺と一緒じゃん。つまんねー時ってホントつまんねーよな」
直人はまたため息をつく。
:10/03/29 15:53
:N08A3
:P5Rp3vxg
#181 [我輩は匿名である]
いつもの直人ならば、「お前の本ってどんな話?」と
調子に乗って尋ねるところだが、何故かそんな気にはならない。
聞いてはいけないような気がしたのだ。
「…で?お前が人間嫌いな理由はわかったわけ?」
「よくわかんない。本の中の奴も人間嫌いみたいだけど」
「遺伝じゃねぇーの?」
「私の祖先じゃないから」
飛鳥はイラっとしたように顔を引きつらせる。
飛鳥の様子を見て、直人はふと、ある事に気付いた。
:10/03/29 15:53
:N08A3
:P5Rp3vxg
#182 [我輩は匿名である]
「…お前さぁ、人間嫌いな割に、俺とはよく喋るよな」
「はぁ?」
飛鳥はますます顔をしかめる。
「あんたが話し掛けて、いろいろ喋りかけてくるからでしょ?」
「まぁそうだけど、お前他の奴に話し掛けられてもシカトするじゃん。でも、俺にはシカトしない」
「…まぁ…」
「言われてみれば」と、飛鳥も不思議そうに首をひねる。
「…もしかしてお前、俺の事、す」
「黙れ」
飛鳥は不機嫌そうに、持っていた鞄で直人の顔をたたいた。
:10/03/29 15:54
:N08A3
:P5Rp3vxg
#183 [我輩は匿名である]
階段にバシン!という音が響く。
「いってぇー…」
直人は両手で顔を覆う。
その間に、飛鳥はさっさと鞄を持って階段を降りていった。
「(何なんだあいつは…)」
眉間にしわを寄せて階段を降りていると、下駄箱から声が聞こえてきた。
「えーっ、怜奈、月城くん好きなの!?」
月城って誰だ。飛鳥はまた首をかしげる。
:10/03/29 15:55
:N08A3
:P5Rp3vxg
#184 [我輩は匿名である]
「だってさぁ、かっこ良くない?クールだし」
「まぁかっこ良いとは思うけど、冷たそうじゃない?」
「そういえば、この間他の女子と歩いてたよ!私見たもん!」
よく見ると、同じクラスの女子達だ。
めんどうなので、飛鳥は足を止める。
「私も見たよ、それ。目の前でいちゃついてくれちゃって」
「彼女なんじゃないの?」
「違うらしい。だから余計邪魔なのよねぇ」
「怜奈、欲しい物は手に入れないと気が済まないもんね」
:10/03/29 15:56
:N08A3
:P5Rp3vxg
#185 [我輩は匿名である]
「もちろん。じゃなきゃ人生楽しくないじゃん」
怜奈は当然のような言い方をする。
急に、飛鳥の背筋がぞくっとして、全身に寒気が走る。
それが何故か、飛鳥にもわからない。
3人は笑いながら、校舎を出ていったが、飛鳥はしばらく、足がすくんで動けなかった。
:10/03/29 15:57
:N08A3
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#186 [我輩は匿名である]
休日はあっという間に過ぎた。
「(あんだけ楽しみにしてたのに、普通に喋って終わりとかありかよ…)」
いつものように、直人は学校の机にうつ伏せになっていた。
月曜の朝はいつもそうだが、今週は特にだらけてしまう。
要と晶は、40年前の昨日、前と同じ喫茶店で、3〜40分ほど楽しげに話して別れた。
話したと言っても、学校の事や要の家の話など、大して重要な話でもなかった。
最近はこんな事が当たり前になってきてしまった。
これでは読む気力が失せてしまう。
2人はまた日曜日に合う約束をしたが、果たして進展はあるのか…。
:10/03/29 17:19
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#187 [我輩は匿名である]
「ねぇ」
まためんどくさい事が。直人は横目で、声がした方を見る。
怜奈がじっとこっちを見ている。
「何だよ、薫ならどっか行っていないぞ」
「そんなの見たらわかるわよ。どこ行ったのか知らない?」
「…知るかよ」
薫はもちろん屋上にいるのだろうが、直人はしらばっくれる。
薫は香月に気があるから、邪魔は入れたくない。そう思ったのだ。
:10/03/29 17:20
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#188 [我輩は匿名である]
「あいつに何か用?」
「先生から伝言」
「伝言?何の?」
「さぁね」
怜奈はぷいっとそっぽを向く。
「(うぜぇ…)」
こういう女は大嫌いだ。直人は腹立たしそうに彼女を睨む。
「勘違い野郎」
直人の後ろで声がした。
:10/03/29 17:20
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#189 [我輩は匿名である]
振り向くと、浮かない表情で飛鳥が立っている。
「俺の事かよ」
「あんた以外に誰がいるわけ」
飛鳥はいつものように憎まれ口をたたくが、どこか元気がなさそうだ。
「…どうかしたのか?」
「…ちょっと」
飛鳥に手招きされて、直人は席を立って、彼女について教室を出る。
「何だよ?」
廊下に出て、飛鳥は周囲を見渡した後、小声で言った。
:10/03/29 17:21
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#190 [我輩は匿名である]
「さっきの女、気を付けた方が良い」
「…大橋の事か?」
「名前は知らないけど」
飛鳥は真剣そうだ。
飛鳥がこんな事を言うとは思わなかった為、直人は少し呆然とする。
「まぁ…確かに薫を好きすぎて若干ウザいけど…」
「あいつ、欲しい物は手に入れないと気が済まないって言ってた。この間聞いたんだ。
だから、諦めるように言った方が良いと思って」
「…あいつそんな事言ってたのか」
:10/03/29 17:22
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#191 [我輩は匿名である]
直人はそう言った後、「ん?」と首を傾げる。
「あいつ、『友達が薫を好き』って言ってたけど」
「そんなの嘘に決まってんじゃん。それ信じ込んでたの?」
飛鳥は呆れている。
言われてみればそうだ。いくら友達思いだといっても、熱心に身辺調査しすぎだ。
「(自分が好きだったのかよ、あいつ…)」
「…とりあえず、あいつには気をつけなよ」
飛鳥はそう言って、教室に向かう。
「あ、ありがとな」
直人は飛鳥に礼を言う。
飛鳥は少し黙って、「別に」とだけ言って教室に入っていった。
:10/03/29 17:22
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#192 [我輩は匿名である]
「やっぱりな」
「知ってたのかよ!?」
「話聞いてたら大体わかるだろ。俺の事が好きっていうの、友達じゃなくて本人だって事ぐらい」
薫は知っていたらしい。
直人はショックで箸を持つ手を止める。
「俺…どんだけバカなんだ…?」
「さぁ?まぁ勉強になったんだからいいじゃん」
薫は笑っているが、少ししてから真顔に戻った。
:10/03/29 17:23
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#193 [我輩は匿名である]
「そういえば、あいつ伝言があるって言ってたけど…」
「聞いたよ、今日委員会があるって。めんどくせぇ…。先帰っといて」
「あぁ、同じ委員会だっけ?頑張れ♪
「からかうな!」
満面の笑みでからかう直人に、薫は怖い顔で言い返した。
:10/03/29 17:23
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#194 [我輩は匿名である]
放課後。
薫は時間どおりに、風紀委員会に出席していた。
隣には怜奈が座っている。
「…俺の事、いろいろ直人に聞きまくってるらしいな」
周りに聞こえないような声で、薫は怜奈に言う。
「そこまで聞きまくってないよ?朝いつもいないから、どこに行ってるんだろうなぁって」
「悪いけど、俺の事諦めてくれる?大橋と付き合う気はないし、俺には」
「好きな子がいる、でしょ?」
怜奈は少し笑って薫を見る。
:10/03/29 20:30
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#195 [我輩は匿名である]
薫は黙って見返す。
「でも、あの子じゃなくて私に目が行く事があるかも」
「残念だけどそれはない」
「そんなにあの子の事好きなの?」
そう聞かれて、薫は黙る。
そんな一言で済まされる気持ちではない。
「あの子普通の子じゃない。背も大きくないし、胸も私より小さい。スタイルだって」
「俺はそういう事には興味ない」
薫はきっぱりと言い張る。
:10/03/29 20:30
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#196 [我輩は匿名である]
まぁ、そう言っても薫も男なので、全く興味がないわけでもないが。
「俺には、あいつを守る義務がある」
「義務?何それ」
怜奈は笑う。少しバカにしたように。
「お前みたいな軽そうな奴にはわからないよ」
薫はイラついたように言い捨てる。
「…ふぅん、つまんないの」
怜奈も同じようにして、それ以上何も話さなかった。
:10/03/29 20:31
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#197 [我輩は匿名である]
「あ」
下駄箱で、直人はたまたま響子を見つけた。
響子は1人で帰るようだ。
「なぁ」
何となく、直人は響子に声をかける。
「……あ、もしかして月城くんの友達?」
「そうそう、俺、水無月直人。よろしく」
「私は香月響子。こちらこそよろしく」
響子はにこっと笑いかける。
:10/03/29 20:32
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#198 [我輩は匿名である]
「薫、委員会でさ。良かったら一緒に帰ってもいい?」
「うん、一緒に帰ろ」
響子は快く頷いてくれた。
直人と響子は並んで学校を出る。
「水無月くんって、いつから月城くんと仲良いの?」
「俺達は、幼稚園入る前から仲良いよ」
「そんなに前から?」
「親同士が仲良いからなぁ。よくどっちかの家に行って遊んだりしてたから」
「へぇー。じゃあ、幼なじみなんだね」
:10/03/29 20:33
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#199 [我輩は匿名である]
「まぁな」
直人は「へへっ」と笑う。
「香月の家ってどこ?」
「結構近いみたい。月城くんのマンションの前の道をまっすぐ行って、
突き当たりを右に曲がってまたまっすぐ行けば着くよ」
「…薫のマンションの前の道って、突き当たりまで結構距離ないか?」
前に薫と、マンションからそのつきあたりの壁まで競争した事があった。
確か、直人の方が早くて、18秒だった。
50m走で7秒台だから、100m以上あると考えられる。
:10/03/29 20:33
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#200 [我輩は匿名である]
「(そこからまたまっすぐ行くって事は…近いって言えるのか…?)」
「水無月くん?」
考え込んでいると、響子が気にして話し掛けてきた。
「へ?」
「どうしたの?」
「いや、何もない」
どうでもいい事を考えていたため、直人は慌てて断る。
だからあの雨の日、一緒に来ていたのか。
直人はやっと納得した。
:10/03/29 20:34
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