記憶を売る本屋さん
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#1 [我輩は匿名である]
初めて小説書きます。
たまに文章おかしいかもですが、頑張ります(*^^*)
荒らしはお断りです!
:10/03/22 13:41
:PC
:W0uoRcww
#2 [我輩は匿名である]
ある街に、1つの都市伝説が伝えられている。
『道を歩いていると、身体の2倍ぐらいの大きさのリュックを背負って、
まるで仙人のような顎ひげを伸ばし、サングラスを掛けた
色黒の老人が、1冊の本を手渡してくる。
言葉巧みに、半ば強引に。
本を渡されるのは極少数だが、本を読むと最後。
突然家を飛び出して捜索願を出される者もいれば、
最悪の場合、自ら生を投げ出す者もいる。』
それゆえ、「本をもらった人は殺される」と噂されている…。
:10/03/22 13:48
:PC
:W0uoRcww
#3 [我輩は匿名である]
「最近あの話聞かないな」
下駄箱で靴を履き替えながら、ふと、秋月直人は言った。
「何だよ、突然」
友人の月城薫は、きょとんとして言葉を返す。
「だって、俺達が高校受験に励むぐらいから、1回も聞いてねぇだろ」
「まぁ、言っても半年ぐらいだけどな」
薫は大した事なさそうに笑って、上靴を下駄箱に放り込んだ。
:10/03/22 13:53
:PC
:W0uoRcww
#4 [我輩は匿名である]
確か最後に聞いた話は、19歳の女性が行方不明になり、
1週間後に電車にはねられて亡くなった。
彼女の自室から、タイトルのない、黒い四六版サイズの本が発見さ
れたという話だった。
「いいじゃん、その方が平和で」
「まぁそうだけどよ」
「それに」
薫は身体ごと直人に向ける。
「死なない人だっているんだろ?」
その一言に、直人はぽかんとする。
そんな話、聞いた事がない。
たまたま、今まで耳にしなかっただけかもしれないが。
:10/03/22 14:04
:PC
:W0uoRcww
#5 [我輩は匿名である]
出だし面白い!
期待してます!
:10/03/22 14:10
:P01A
:☆☆☆
#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」
「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」
「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」
直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。
薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。
「教室に弁当箱忘れた」
「何だよもう…。取って来い!」
直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。
「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」
「ちっ」
悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。
「俺その辺で待ってるからな」
「んー…」
ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。
:10/03/22 14:12
:PC
:W0uoRcww
#7 [我輩は匿名である]
>>5さん
ありがとうございますっ(>∀<)!!
長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪
:10/03/22 14:14
:PC
:W0uoRcww
#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。
好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。
しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。
かろうじて校門が視界に入る角度で。
心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。
「(…今…校門に…)」
周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。
校門を見るまでは。
「(…まさか…な…)」
恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。
校門周辺には、誰もいなかった。
「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。
「気のせいじゃないよぅ〜?」
背後でしゃがれた声がした。
:10/03/22 14:24
:PC
:W0uoRcww
#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。
下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。
足が、全身が小刻みに震えだす。
「なぁ、君、本は好きかぃ?」
声が尋ねてくる。
「…い…いや…きっ、嫌い…」
さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。
だから『あの老人』が来たんだ、と。
噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。
「嫌い」としか言えなかった。
しかし、声は諦めてくれない。
「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。
1回読んでみなさいな、ねぇ?」
話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。
:10/03/22 14:31
:PC
:W0uoRcww
#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。
服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。
「お…俺の為の本…?」
呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。
「そうそう」
肩に置かれていた手が離れる。
背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。
時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。
「ほれ」
直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。
それは、1冊の本だった。
:10/03/22 14:38
:PC
:W0uoRcww
#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。
タイトルも著者名も、何も書かれていない。
直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。
「きっと君の役に立つと思うよぉ?」
声は笑っているかのようだった。
耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。
ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。
怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。
背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。
直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。
これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。
捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。
直人は息を殺して、本のページに指をかける。
:10/03/22 14:51
:PC
:W0uoRcww
#12 [我輩は匿名である]
「直人!」
薫の声が、直人を呼ぶ。
その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。
「ごめん、お待たせ」
「あっ…あぁ…遅かったな…」
無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。
その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。
「…どうかした?顔真っ青だけど」
「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」
よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。
「腹痛?大丈夫か?」
言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。
「…お前、心配してないだろ」
「してるしてる」
:10/03/22 14:58
:PC
:W0uoRcww
#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。
直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。
「弁当箱、あったか?」
「無いとおかしいだろ」
「ま、まぁな」
変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。
「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」
薫は話を変えた。
彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。
名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。
窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。
「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」
「まぁな」
2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。
:10/03/22 15:06
:PC
:W0uoRcww
#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。
結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。
今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。
万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。
ごくっと唾を飲む。
「(よし…やるか!)」
自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。
「うわっ…!」
ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。
わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。
:10/03/22 15:13
:PC
:W0uoRcww
#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」
聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。
視界には、知らない玄関が映っていた。
「えっ、どこ!?」
そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。
それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。
「…どこだ…?ここ…」
直人は絶句した。見た事も無い場所だった。
立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。
前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。
服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。
:10/03/22 15:27
:PC
:W0uoRcww
#16 [我輩は匿名である]
「何、あいつ。古っ」
そんな事より、どうやったらこの身体は思うとおりに動いてくれるのか。
喋りたくても喋れない。止まりたくても止まらない。見たい物も見れない。
たださっさと、沈む夕日に向かって歩くだけだ。
「あらぁ、カナメ君。どこ行くの?」
道の少し先にいる、40歳前後のおばさんが、こっちに向かって話しかけてきた。
「なんか、トイレットペーパーがなくなったから、買って来てって」
少年の声がした。さっき「行って来ます」と言った、あの声だ。
驚いたことに、その声を発したのは、この身体だった。
直人は状況が飲み込めず、ただ唖然とする。
「トイレットペーパーねぇ。4年前は買うのも大変だったのに、あれなんだったんだろうねぇ。
オイルショックだか何だか知らないけど、迷惑なもんだよ」
女性は呆れたように苦笑いする。
:10/03/22 15:37
:PC
:W0uoRcww
#17 [我輩は匿名である]
「オイルショック…?」
直人にはその言葉が引っかかった。
歴史は別に得意ではないが、それが40〜50年ほど前に起きた、
という事は、中学の時にテストで出たので覚えている。
そして、オイルショックの際、原油価格がどうこうで、トイレットペーパーが無くなると噂が広まり、
買い求めるために行列ができた程、という話も聞いた。
しかし、女性の話が本当ならば、今ここは、1970年代後半ぐらいという事になる。
なぜ?
直人はただ、家であの赤い本を開いただけなのに、なぜこんなわけの分からない状況になっているのか?
これではまるで、タイムスリップではないか。
本を開けただけで、そんな事が起こるはずが無い!
:10/03/22 15:44
:PC
:W0uoRcww
#18 [我輩は匿名である]
大体この身体は誰だ?言う事を聞かないし、干渉する事もできない。
『彼』は、直人の存在に気付いていない。
それでも『彼』が目にした物は、自分が見ているかのように、直人にも鮮明に見えた。
そして、ある事に気付いた。
誰も携帯電話を持っていない。
今の時代、歩いていれば必ず、携帯電話を使っている人とすれ違う。
電話している人、メールを打っている人、様々だが、ここには誰も、そんな仕草をしている人はいない。
それだけではない。マンションもほとんど見当たらず、何よりコンビニが1件もない。
直人はぞっとした。
:10/03/22 15:51
:PC
:W0uoRcww
#19 [我輩は匿名である]
「何だよこれ…どうやったら元に戻れるんだよ!?」
不安のあまり、叫んだ。心の中で。
本を開いたからここに来た。しかし、今は本を持っていない。戻る方法がわからない。
まさか、一生このままなのか…?
「うわぁ!?」
直人の考え事は、その声にかき消された。
裏道のような細い路地。
人1人通るのがやっとの道に、髪の長い少女がうずくまるようにしてしゃがみこんでいたのだ。
白いワンピースに、赤い靴。
「こわっ。ホラー映画かよ」。直人は思った。
「こ、こんなところで何してるの?」
この身体の主が、少女に尋ねる。
:10/03/22 16:04
:PC
:W0uoRcww
#20 [我輩は匿名である]
声をかけられ、少女はこっちを向く。
人に怯えたような、死んだような瞳だった。
「…どこの子?この辺…じゃ、ないよな?」
この身体の主も、直人と同じように「怖い」と思ったのだろう。
声の調子が少し変わり、緊張しているのが分かる。
「…何も」
少女は小さな声で、それだけ言った。
身体の主は、困ったように「え…」と口ごもる。
それを見てか、少女はこう付け足した。
「帰りたくないから、ここにいるの。…それだけ」
どうやら家出をしてきたようだ。しかも、手ぶらで。
「でも、夜になると冷えるよ?」
「いいの。誰も心配してないし。…親もいないし」
:10/03/22 16:11
:PC
:W0uoRcww
#21 [我輩は匿名である]
少女は顔を背け、膝元に顔をうずめる。
こういうの、めんどくせぇ。直人はため息をつく。
「…君、名前は?」
身体の主は、不意にそんな事を尋ねた。
思わず、少女が顔を上げる。
「俺、ナガツキ カナメ。“長”い“月”に、必要の“要”。今年で16歳」
長月 要。この身体の主は、そういう名前だそうだ。
「…イシカワ、アキラ」
「え?」
「私の名前。イシカワ アキラ。“石”に“川”に、水晶の“晶”」
少女は短く、それだけ答えた。歳は直人と、つまり要と同じぐらいに見える。
:10/03/22 16:18
:PC
:W0uoRcww
#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。
「高校生?」
「…うん、この間入ったばかり」
「じゃあ、俺と同じだ」
要の声は、明るかった。
気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。
「家、どの辺?」
「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」
少女の話に、要は何も言わなかった。
「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」
:10/03/22 16:29
:PC
:W0uoRcww
#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」
突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。
要も直人もびくっとする。
要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。
「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」
「心配?」
晶が小さく笑って立ち上がる。
「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」
視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。
とりあえず、1歩下がって事態を見守る。
「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」
「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」
晶はフンとそっぽを向く。
:10/03/22 16:36
:PC
:W0uoRcww
#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」
女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。
その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。
「そこにいるじゃない」
晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。
「マジかよ」直人は呆然とする。
要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。
しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。
「はい、友達です」と。
それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。
「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」
さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。
:10/03/22 16:41
:PC
:W0uoRcww
#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。
「ごめんね、いきなり」
女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。
「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」
要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。
「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?
まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」
晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。
急に視界が真っ暗になった。
:10/03/22 16:45
:PC
:W0uoRcww
#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」
直人は思わず大きな声を出した。
そして、慌てて自分ののどを押さえる。
「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」
久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。
部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。
「お兄ちゃん!うるさい!!」
バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。
かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。
「…恵理だ…」
いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。
やっと戻ってきた。心の底からホッとした。
:10/03/22 16:50
:PC
:W0uoRcww
#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。
時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。
ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。
「時間が…経ってない…!?」
本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。
それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…
といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。
直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。
左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。
直人は本を手に取り、他のページを見てみる。
他のページは全て、白紙だった。
「…何なんだ…?この本…」
直人は呟き、最初のページに戻る。
:10/03/22 16:59
:PC
:W0uoRcww
#28 [我輩は匿名である]
1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。
縦書きで、これだけ書かれていた。
「…誰かの日記か…?」
しかし、日記にしては文章がかたい。
:10/03/22 17:10
:PC
:W0uoRcww
#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。
「これ、40年前の今日だ…」
携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。
やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。
どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。
しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。
ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。
:10/03/22 17:15
:PC
:W0uoRcww
#30 [我輩は匿名である]
次の日。
昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。
「…お前、昨日なんかあったのか?」
「…へ?」
薫に聞かれて、直人はふと我に返る。
「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって言うな!」
直人は薫にくってかかる。
いつもの直人に戻った。薫は思った。
…薫に相談してみるべきか、直人は考える。
薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。
とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。
1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。
:10/03/22 17:22
:PC
:W0uoRcww
#31 [我輩は匿名である]
「…本」
直人はドキッとする。
いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。
「…なんで…」
「当たりか」
「お前、何か知ってんのか…!?」
直人は机に手をついて、薫に問いかける。
「……別に何も知らねぇよ」
薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。
「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」
「…うん…」
直人はしぶしぶ頷く。
:10/03/22 17:28
:PC
:W0uoRcww
#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」
「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」
「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」
薫は呆れたように息をつく。
「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」
昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。
なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。
「…何だ、これ」
「本」
「見りゃ分かる。…何も書いてないな」
表紙を見て、薫は首をひねる。
:10/03/22 17:34
:PC
:W0uoRcww
#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」
直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。
このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。
そう思うと、開く気が引けてきてしまった。
「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」
直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。
「うわっ!ばかやろう!!」
直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。
「…あれ?」
何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。
「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」
「うるせぇ!!」
言い合いをしながら、2人で本に目をやる。
:10/03/22 17:42
:PC
:W0uoRcww
#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。
「(はぁ…良かった…)」
直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。
「変だろ?そんだけしか…」
とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。
そして、自分の目を疑った。
本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。
眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。
薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。
「…おい…」
「…石川…晶…」
薫が小声で呟いた。
:10/03/22 17:52
:PC
:W0uoRcww
#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。
「…なんだよ?まだ読んでたのに」
目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。
「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」
直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。
「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」
薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。
さっきのは、気のせいだったのだろうか?
「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。
その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」
「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」
「あぁ」
直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。
背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。
:10/03/22 17:59
:PC
:W0uoRcww
#36 [我輩は匿名である]
続き楽しみにしてます^^
:10/03/22 21:06
:W65T
:XgEtkN3Q
#37 [我輩は匿名である]
著者です。パソコン付けるのめんどくさいので、ケータイから失礼します。
>>36さん
ありがとうございます


今からまたちょっと進めます


:10/03/22 22:25
:N08A3
:d1RCppyk
#38 [我輩は匿名である]
結局、タイムスリップの事は薫には話せなかった。
それどころか、薫にはあの本の話し自体しない方がいいかもしれない、とさえ思った。
制服のままベッドに寝転んで、直人は本を見つめる。
なぜ薫と見た時は何も起きなかったのだろう?
直人は起き上がり、あぐらをかく。
そして、何気なく開いてみた。
「えっ!?」
昨日と同じように、直人はあのまばゆい光に包まれた。
:10/03/22 22:27
:N08A3
:d1RCppyk
#39 [我輩は匿名である]
「なんでぇーっ!?」
そう言った時には、すでに声が出なくなっていた。
気付けば、後ろの方でチャイムが鳴り、周りは下校中らしい生徒で溢れていた。
「実力試験、どうだった?」
隣にいた友人らしい男子が話しかけてくる。
「全然だめ。勉強しておけば良かったなぁ…」
この声は長月要だ。直人はすぐに気付いた。
「また来たのかよ!?」
覚悟が出来ていなかった直人は、呆然とする。
しかしまぁ、勝手に元に戻れるのならと考えると、昨日よりは気が楽だ。
:10/03/22 22:28
:N08A3
:d1RCppyk
#40 [我輩は匿名である]
「あ!」
要と直人が声を上げたのは、同時だった。
視線の先には、制服姿で1人で歩く石川晶がいた。
「ちょっと知り合い見つけたから、先帰ってて」
「へ?あぁ…」
要は「ごめんな」と手を合わせて、走りだす。
「石川さん!」
要の声に、晶は振り向く。
要を見て、憂うつそうな顔がパッと明るくなる。
「長月くん!」
「今帰り?」
「うん、ちょっとブラブラしてから帰ろうかと思って」
:10/03/22 22:29
:N08A3
:d1RCppyk
#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。
「そっかぁ。送って行こうか?」
「でも…、逆方向じゃない?」
「いいよ、今日何も予定ないし」
「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」
晶はにっこりと笑う。
昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。
「ここから何分ぐらい?」
「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」
「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」
:10/03/22 22:36
:N08A3
:d1RCppyk
#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」
「電車で通ってるのか」
「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」
「散歩っていっても、何もないよな、この辺」
「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」
晶は苦笑する。
「本当に嫌いなんだな」
直人は話を聞いていて思った。
施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。
「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」
:10/03/22 22:38
:N08A3
:d1RCppyk
#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」
「嫌い。大っ嫌い」
晶の表情が曇る。
「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」
「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」
「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」
:10/03/22 22:39
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#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。
不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。
「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」
「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」
要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。
「長月くん、優しいね」
「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」
晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。
「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」
晶は淋しそうな表情で言う。
:10/03/22 22:41
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#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」
要は答える。
「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。
それに、石川さんはひねくれてない」
「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。
要よりはひねくれているが、
これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。
「…ありがとう」
晶は少し下を向いて、要に礼を言った。
:10/03/22 22:42
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#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」
直人は変に冷静になって、そんな事を考える。
この環境に慣れてきたらしい。
「あっ、晶ちゃーん」
後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。
要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。
「…誰?」
「来て!」
「へ!?」
晶は要の手を掴んで走りだした。
視界がガクガク揺れる。
:10/03/22 22:43
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#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」
「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」
走っているからか、語尾が強い。
晶はそこまで言って、要に顔を向けた。
「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」
晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。
角を曲がって、2人は走るのを止めた。
膝に手をついて、呼吸を整える。
:10/03/22 22:45
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#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」
「大丈夫…。…すごい走ったね…」
それだけ話して、しばらく会話はなかった。
疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。
視界はなかなか地面から切り替わらない。
2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。
そして、晶に向き直した。
「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」
「…え…?」
晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。
:10/03/22 22:46
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#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」
何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。
晶もショックを隠せない。
「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」
要はそう、はっきりと断言する。
直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、
凛々しい顔をしているのだろう。
「…そんな…」
晶は顔を背ける。
:10/03/22 22:47
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#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?
…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」
「…さぁ、わからない」
要は首を傾けて見せる。
「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。
…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」
要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。
「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」
話の途中で、晶が顔を背けた。
髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。
しかし、肩が震えているのだけはわかった。
:10/03/22 22:48
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