記憶を売る本屋さん
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#1 [我輩は匿名である]
初めて小説書きます。

たまに文章おかしいかもですが、頑張ります(*^^*)

荒らしはお断りです!

⏰:10/03/22 13:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#2 [我輩は匿名である]
ある街に、1つの都市伝説が伝えられている。

『道を歩いていると、身体の2倍ぐらいの大きさのリュックを背負って、

 まるで仙人のような顎ひげを伸ばし、サングラスを掛けた

 色黒の老人が、1冊の本を手渡してくる。

 言葉巧みに、半ば強引に。

 本を渡されるのは極少数だが、本を読むと最後。

 突然家を飛び出して捜索願を出される者もいれば、

 最悪の場合、自ら生を投げ出す者もいる。』

 それゆえ、「本をもらった人は殺される」と噂されている…。

⏰:10/03/22 13:48 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#3 [我輩は匿名である]
「最近あの話聞かないな」

下駄箱で靴を履き替えながら、ふと、秋月直人は言った。

「何だよ、突然」

友人の月城薫は、きょとんとして言葉を返す。

「だって、俺達が高校受験に励むぐらいから、1回も聞いてねぇだろ」

「まぁ、言っても半年ぐらいだけどな」

薫は大した事なさそうに笑って、上靴を下駄箱に放り込んだ。

⏰:10/03/22 13:53 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#4 [我輩は匿名である]
確か最後に聞いた話は、19歳の女性が行方不明になり、

1週間後に電車にはねられて亡くなった。

彼女の自室から、タイトルのない、黒い四六版サイズの本が発見さ

れたという話だった。

「いいじゃん、その方が平和で」

「まぁそうだけどよ」

「それに」

薫は身体ごと直人に向ける。

「死なない人だっているんだろ?」

その一言に、直人はぽかんとする。

そんな話、聞いた事がない。

たまたま、今まで耳にしなかっただけかもしれないが。

⏰:10/03/22 14:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#5 [我輩は匿名である]
出だし面白い!
期待してます!

⏰:10/03/22 14:10 📱:P01A 🆔:☆☆☆


#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」

「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」

「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」

直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。

薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。

「教室に弁当箱忘れた」

「何だよもう…。取って来い!」

直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。

「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」

「ちっ」

悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。

「俺その辺で待ってるからな」

「んー…」

ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。

⏰:10/03/22 14:12 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#7 [我輩は匿名である]
>>5さん

ありがとうございますっ(>∀<)!!

長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪

⏰:10/03/22 14:14 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。

好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。

しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。

かろうじて校門が視界に入る角度で。

心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。

「(…今…校門に…)」

周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。

校門を見るまでは。

「(…まさか…な…)」

恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。

校門周辺には、誰もいなかった。

「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。

「気のせいじゃないよぅ〜?」

背後でしゃがれた声がした。

⏰:10/03/22 14:24 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。

下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。

足が、全身が小刻みに震えだす。

「なぁ、君、本は好きかぃ?」

声が尋ねてくる。

「…い…いや…きっ、嫌い…」

さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。

だから『あの老人』が来たんだ、と。

噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。

「嫌い」としか言えなかった。

しかし、声は諦めてくれない。

「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。

 1回読んでみなさいな、ねぇ?」

話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。

⏰:10/03/22 14:31 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。

服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。

「お…俺の為の本…?」

呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。

「そうそう」

肩に置かれていた手が離れる。

背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。

時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。

「ほれ」

直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。

それは、1冊の本だった。

⏰:10/03/22 14:38 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。

タイトルも著者名も、何も書かれていない。

直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。

「きっと君の役に立つと思うよぉ?」

声は笑っているかのようだった。

耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。

ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。

怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。

背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。

直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。

これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。

捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。

直人は息を殺して、本のページに指をかける。

⏰:10/03/22 14:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#12 [我輩は匿名である]
「直人!」

薫の声が、直人を呼ぶ。

その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。

「ごめん、お待たせ」

「あっ…あぁ…遅かったな…」

無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。

その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。

「…どうかした?顔真っ青だけど」

「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」

よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。

「腹痛?大丈夫か?」

言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。

「…お前、心配してないだろ」

「してるしてる」

⏰:10/03/22 14:58 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。

直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。

「弁当箱、あったか?」

「無いとおかしいだろ」

「ま、まぁな」

変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。

「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」

薫は話を変えた。

彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。

名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。

窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。

「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」

「まぁな」

2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。

⏰:10/03/22 15:06 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。

結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。

今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。

万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。

ごくっと唾を飲む。

「(よし…やるか!)」

自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。

「うわっ…!」

ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。

わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。

⏰:10/03/22 15:13 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」

聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。

視界には、知らない玄関が映っていた。

「えっ、どこ!?」

そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。

それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。

「…どこだ…?ここ…」

直人は絶句した。見た事も無い場所だった。

立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。

前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。

服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。

⏰:10/03/22 15:27 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#16 [我輩は匿名である]
「何、あいつ。古っ」

そんな事より、どうやったらこの身体は思うとおりに動いてくれるのか。

喋りたくても喋れない。止まりたくても止まらない。見たい物も見れない。

たださっさと、沈む夕日に向かって歩くだけだ。

「あらぁ、カナメ君。どこ行くの?」

道の少し先にいる、40歳前後のおばさんが、こっちに向かって話しかけてきた。

「なんか、トイレットペーパーがなくなったから、買って来てって」

少年の声がした。さっき「行って来ます」と言った、あの声だ。

驚いたことに、その声を発したのは、この身体だった。

直人は状況が飲み込めず、ただ唖然とする。

「トイレットペーパーねぇ。4年前は買うのも大変だったのに、あれなんだったんだろうねぇ。

オイルショックだか何だか知らないけど、迷惑なもんだよ」

女性は呆れたように苦笑いする。

⏰:10/03/22 15:37 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#17 [我輩は匿名である]
「オイルショック…?」

直人にはその言葉が引っかかった。

歴史は別に得意ではないが、それが40〜50年ほど前に起きた、

という事は、中学の時にテストで出たので覚えている。

そして、オイルショックの際、原油価格がどうこうで、トイレットペーパーが無くなると噂が広まり、

買い求めるために行列ができた程、という話も聞いた。

しかし、女性の話が本当ならば、今ここは、1970年代後半ぐらいという事になる。

なぜ?

直人はただ、家であの赤い本を開いただけなのに、なぜこんなわけの分からない状況になっているのか?

これではまるで、タイムスリップではないか。

本を開けただけで、そんな事が起こるはずが無い!

⏰:10/03/22 15:44 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#18 [我輩は匿名である]
大体この身体は誰だ?言う事を聞かないし、干渉する事もできない。

『彼』は、直人の存在に気付いていない。

それでも『彼』が目にした物は、自分が見ているかのように、直人にも鮮明に見えた。

そして、ある事に気付いた。

誰も携帯電話を持っていない。

今の時代、歩いていれば必ず、携帯電話を使っている人とすれ違う。

電話している人、メールを打っている人、様々だが、ここには誰も、そんな仕草をしている人はいない。

それだけではない。マンションもほとんど見当たらず、何よりコンビニが1件もない。

直人はぞっとした。

⏰:10/03/22 15:51 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#19 [我輩は匿名である]
「何だよこれ…どうやったら元に戻れるんだよ!?」

不安のあまり、叫んだ。心の中で。

本を開いたからここに来た。しかし、今は本を持っていない。戻る方法がわからない。

まさか、一生このままなのか…?

「うわぁ!?」

直人の考え事は、その声にかき消された。

裏道のような細い路地。

人1人通るのがやっとの道に、髪の長い少女がうずくまるようにしてしゃがみこんでいたのだ。

白いワンピースに、赤い靴。

「こわっ。ホラー映画かよ」。直人は思った。

「こ、こんなところで何してるの?」

この身体の主が、少女に尋ねる。

⏰:10/03/22 16:04 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#20 [我輩は匿名である]
声をかけられ、少女はこっちを向く。

人に怯えたような、死んだような瞳だった。

「…どこの子?この辺…じゃ、ないよな?」

この身体の主も、直人と同じように「怖い」と思ったのだろう。

声の調子が少し変わり、緊張しているのが分かる。

「…何も」

少女は小さな声で、それだけ言った。

身体の主は、困ったように「え…」と口ごもる。

それを見てか、少女はこう付け足した。

「帰りたくないから、ここにいるの。…それだけ」

どうやら家出をしてきたようだ。しかも、手ぶらで。

「でも、夜になると冷えるよ?」

「いいの。誰も心配してないし。…親もいないし」

⏰:10/03/22 16:11 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#21 [我輩は匿名である]
少女は顔を背け、膝元に顔をうずめる。

こういうの、めんどくせぇ。直人はため息をつく。

「…君、名前は?」

身体の主は、不意にそんな事を尋ねた。

思わず、少女が顔を上げる。

「俺、ナガツキ カナメ。“長”い“月”に、必要の“要”。今年で16歳」

長月 要。この身体の主は、そういう名前だそうだ。

「…イシカワ、アキラ」

「え?」

「私の名前。イシカワ アキラ。“石”に“川”に、水晶の“晶”」

少女は短く、それだけ答えた。歳は直人と、つまり要と同じぐらいに見える。

⏰:10/03/22 16:18 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。

「高校生?」

「…うん、この間入ったばかり」

「じゃあ、俺と同じだ」

要の声は、明るかった。

気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。

「家、どの辺?」

「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」

少女の話に、要は何も言わなかった。

「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」

⏰:10/03/22 16:29 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」

突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。

要も直人もびくっとする。

要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。

「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」

「心配?」

晶が小さく笑って立ち上がる。

「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」

視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。

とりあえず、1歩下がって事態を見守る。

「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」

「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」

晶はフンとそっぽを向く。

⏰:10/03/22 16:36 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」

女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。

その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。

「そこにいるじゃない」

晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。

「マジかよ」直人は呆然とする。

要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。

しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。

「はい、友達です」と。

それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。

「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」

さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。

⏰:10/03/22 16:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。

「ごめんね、いきなり」

女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。

「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」

要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。

「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?

 まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」

晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。

急に視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 16:45 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」

直人は思わず大きな声を出した。

そして、慌てて自分ののどを押さえる。

「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」

久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。

部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。

「お兄ちゃん!うるさい!!」

バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。

かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。

「…恵理だ…」

いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。

やっと戻ってきた。心の底からホッとした。

⏰:10/03/22 16:50 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。

時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。

ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。

「時間が…経ってない…!?」

本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。

それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…

といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。

直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。

左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。

直人は本を手に取り、他のページを見てみる。

他のページは全て、白紙だった。

「…何なんだ…?この本…」

直人は呟き、最初のページに戻る。

⏰:10/03/22 16:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#28 [我輩は匿名である]
  1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
          隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
          話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
          その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
          石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。

縦書きで、これだけ書かれていた。

「…誰かの日記か…?」

しかし、日記にしては文章がかたい。

⏰:10/03/22 17:10 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。

「これ、40年前の今日だ…」

携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。

やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。

どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。

しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。

ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。

⏰:10/03/22 17:15 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#30 [我輩は匿名である]
次の日。

昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。

「…お前、昨日なんかあったのか?」

「…へ?」

薫に聞かれて、直人はふと我に返る。

「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

直人は薫にくってかかる。

いつもの直人に戻った。薫は思った。

…薫に相談してみるべきか、直人は考える。

薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。

とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。

1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。

⏰:10/03/22 17:22 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#31 [我輩は匿名である]
「…本」

直人はドキッとする。

いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。

「…なんで…」

「当たりか」

「お前、何か知ってんのか…!?」

直人は机に手をついて、薫に問いかける。

「……別に何も知らねぇよ」

薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。

「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」

「…うん…」

直人はしぶしぶ頷く。

⏰:10/03/22 17:28 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」

「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」

「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」

薫は呆れたように息をつく。

「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」

昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。

なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。

「…何だ、これ」

「本」

「見りゃ分かる。…何も書いてないな」

表紙を見て、薫は首をひねる。

⏰:10/03/22 17:34 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」

直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。

このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。

そう思うと、開く気が引けてきてしまった。

「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」

直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。

「うわっ!ばかやろう!!」

直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。

「…あれ?」

何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。

「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」

「うるせぇ!!」

言い合いをしながら、2人で本に目をやる。

⏰:10/03/22 17:42 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。

「(はぁ…良かった…)」

直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。

「変だろ?そんだけしか…」

とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。

そして、自分の目を疑った。

本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。

眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。

薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。

「…おい…」

「…石川…晶…」

薫が小声で呟いた。

⏰:10/03/22 17:52 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。

「…なんだよ?まだ読んでたのに」

目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。

「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」

直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。

「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」

薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。

さっきのは、気のせいだったのだろうか?

「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。

 その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」

「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」

「あぁ」

直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。

背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。

⏰:10/03/22 17:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#36 [我輩は匿名である]
続き楽しみにしてます^^

⏰:10/03/22 21:06 📱:W65T 🆔:XgEtkN3Q


#37 [我輩は匿名である]
著者です。パソコン付けるのめんどくさいので、ケータイから失礼します。

>>36さん
ありがとうございます
今からまたちょっと進めます

⏰:10/03/22 22:25 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#38 [我輩は匿名である]
結局、タイムスリップの事は薫には話せなかった。

それどころか、薫にはあの本の話し自体しない方がいいかもしれない、とさえ思った。

制服のままベッドに寝転んで、直人は本を見つめる。
なぜ薫と見た時は何も起きなかったのだろう?

直人は起き上がり、あぐらをかく。

そして、何気なく開いてみた。

「えっ!?」

昨日と同じように、直人はあのまばゆい光に包まれた。

⏰:10/03/22 22:27 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#39 [我輩は匿名である]
「なんでぇーっ!?」

そう言った時には、すでに声が出なくなっていた。

気付けば、後ろの方でチャイムが鳴り、周りは下校中らしい生徒で溢れていた。
「実力試験、どうだった?」
隣にいた友人らしい男子が話しかけてくる。

「全然だめ。勉強しておけば良かったなぁ…」

この声は長月要だ。直人はすぐに気付いた。

「また来たのかよ!?」

覚悟が出来ていなかった直人は、呆然とする。

しかしまぁ、勝手に元に戻れるのならと考えると、昨日よりは気が楽だ。

⏰:10/03/22 22:28 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#40 [我輩は匿名である]
「あ!」

要と直人が声を上げたのは、同時だった。

視線の先には、制服姿で1人で歩く石川晶がいた。

「ちょっと知り合い見つけたから、先帰ってて」

「へ?あぁ…」

要は「ごめんな」と手を合わせて、走りだす。

「石川さん!」

要の声に、晶は振り向く。

要を見て、憂うつそうな顔がパッと明るくなる。

「長月くん!」

「今帰り?」

「うん、ちょっとブラブラしてから帰ろうかと思って」

⏰:10/03/22 22:29 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。

「そっかぁ。送って行こうか?」

「でも…、逆方向じゃない?」

「いいよ、今日何も予定ないし」

「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」

晶はにっこりと笑う。

昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。

「ここから何分ぐらい?」

「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」

「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」

⏰:10/03/22 22:36 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」

「電車で通ってるのか」

「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」

「散歩っていっても、何もないよな、この辺」

「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」

晶は苦笑する。

「本当に嫌いなんだな」

直人は話を聞いていて思った。

施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。

「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」

⏰:10/03/22 22:38 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」

「嫌い。大っ嫌い」

晶の表情が曇る。

「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」

「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」

「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」

⏰:10/03/22 22:39 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。

不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。

「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」

「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」

要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。

「長月くん、優しいね」

「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」

晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。

「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」

晶は淋しそうな表情で言う。

⏰:10/03/22 22:41 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」

要は答える。

「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。

それに、石川さんはひねくれてない」

「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。

要よりはひねくれているが、

これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。

「…ありがとう」

晶は少し下を向いて、要に礼を言った。

⏰:10/03/22 22:42 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」

直人は変に冷静になって、そんな事を考える。

この環境に慣れてきたらしい。

「あっ、晶ちゃーん」

後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。

要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。

「…誰?」

「来て!」

「へ!?」

晶は要の手を掴んで走りだした。

視界がガクガク揺れる。

⏰:10/03/22 22:43 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」

「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」

走っているからか、語尾が強い。

晶はそこまで言って、要に顔を向けた。

「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」

晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。

角を曲がって、2人は走るのを止めた。

膝に手をついて、呼吸を整える。

⏰:10/03/22 22:45 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」

「大丈夫…。…すごい走ったね…」

それだけ話して、しばらく会話はなかった。

疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。

視界はなかなか地面から切り替わらない。

2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。

そして、晶に向き直した。

「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」

「…え…?」

晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。

⏰:10/03/22 22:46 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」

何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。

晶もショックを隠せない。

「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」

要はそう、はっきりと断言する。

直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、

凛々しい顔をしているのだろう。

「…そんな…」

晶は顔を背ける。

⏰:10/03/22 22:47 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?

…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」

「…さぁ、わからない」

要は首を傾けて見せる。

「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。

…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」

要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。

「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」

話の途中で、晶が顔を背けた。

髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。

しかし、肩が震えているのだけはわかった。

⏰:10/03/22 22:48 📱:N08A3 🆔:d1RCppyk


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