記憶を売る本屋さん
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#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」

「変わってんのはお前だろ」

「お前じゃない。カンザキ アスカ」

「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」

「当たり前でしょ。ほら」

目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。

初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。

「…サンキュ、神崎」

「何が」

「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」

「あっそ。じゃ」

飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。

⏰:10/03/23 16:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、

あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。

飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。

「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」

直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。

そして、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/23 16:43 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。

「…久しぶりだな…この感覚」

直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。

公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。

しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。

「どこだ?これ」

そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。

「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」

直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。

⏰:10/03/23 16:51 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。

どうやら晶のようだ。

まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?

「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」

行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。

「こんにちはー」

すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。

要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。

「こいつ、何とか美代って奴!」

晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。

⏰:10/03/23 16:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」

要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。

「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」

「長月くん!!」

晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。

「ちょっと来て!!!」

「へ…」

要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。

美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。

⏰:10/03/23 17:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」

「いやぁ…」

本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。

「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。

 前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」

直人は分かりきったように断言する。

「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」

「…お?」

自分で言った事を、要も言った。

話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。

⏰:10/03/23 17:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。

「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」

「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」

「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」

晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。

「…照れるじゃん」

「やめろよ、照れるから」

直人と要は同時に言った。

「ハモった…」

「でも、元気なんだったら、良かった」

⏰:10/03/23 17:13 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」

「そっか。じゃあちょうど良かったかな」

「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」

晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。

その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。

「今のって…」

「ちょっと待ってて」

晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。

「…やっぱりあんただったの」

晶の声が曇る。

⏰:10/03/23 17:19 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」

直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。

来てみると、美代が後をつけてきていた。

「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」

「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」

「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」

美代は「お願い!」と手を合わせる。

「悪いけど」

要が口を開く。

「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」

要は意外にも、きっぱりとそう断った。

⏰:10/03/23 17:23 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」

「ちぇっ、つまんないの」

美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。

「2度と来んなよ」

直人は美代の背中を睨みつける。

「…これで大丈夫だろ」

「…うん…」

困り果てたように、晶は力なく返事した。

「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」

「…うん、わかった」

晶は笑って、大きく頷いた。

⏰:10/03/23 17:28 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#111 [我輩は匿名である]
「そうだ、あいつに会わなくて済むように、今度いつ会うか決めとこう。場所も」

少し考えてから、要はそう提案した。

晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。

いい考えだと、直人も頷く。

「うん、そうしよう!」

「よし、じゃあ…いつがいいかな?日曜日の方が、長い時間いれるよね」

「うん。じゃあ、次の日曜日にしよう!場所は…あ、初めて会った、あの場所がいい!」

晶は、自分がしゃがんでいた、あの場所を言っていた。

あそこなら、美代も知らないだろう。

「わかった。昼からでいいかな?」

「うん。ご飯食べてから」

⏰:10/03/23 17:35 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ、2時ごろ、2時ぴったりにしよう」

「うん!」

晶は楽しそうに、笑って大きく頷く。

待ち合わせなど、した事がないのかもしれない。

まるでデートの待ち合わせをしているような2人。

それを見ていて、直人も何だか嬉しくなってきた。

「じゃあ、次の日曜日の2時に、あの場所で」

「うん!絶対だよ!」

「うん」

要が頷くのを見てから、晶は手を振りながら帰っていった。

晶が見えなくなってから、直人の視界も暗くなった。

⏰:10/03/23 17:39 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#113 [我輩は匿名である]
次の日曜日、つまり4月21日。2人が初めてデートする日。

「(…この日は、忘れずに読まないとな)」

直人は40年前の今日の話に一通り目を通す。

やはり、読んでいない日の事は書かれていなかった。

「(毎日ちゃんと読めって事か)」

直人は少し反省する。

ただ、話が急激に変わっていない事にはホッとした。

『自分に起きている事のように感じられる』

ネットで見たあの一言が、ふと頭の中をよぎった。

少しだけ、今の自分がそうなりつつある気がした。

⏰:10/03/23 17:53 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#114 [我輩は匿名である]
要と晶の間を見守るのもいいが、直人はもう1つ肝心な事を思い出した。

「(…薫に謝ったほうがいいかなぁ…)」

直人は考えながら、携帯電話を開く。

しかし、誰からもメールはない。

「(…いや、意外と明日はいつも通りかもしれないな)」

直人はそんな変な期待を抱き、携帯電話を閉じた。

⏰:10/03/23 17:57 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#115 [我輩は匿名である]
しかし、それはどうやら甘かったようだ。

朝少し早めに学校に着いたが、すでに薫は鞄だけを残し、教室内にはいなかった。

「はぁ…」

机に座って、何て謝ろうか考える。

すると。

「ねぇねぇ、水無月くん」

隣の席の女子が話しかけてきた。大橋怜奈。そんな名前だった気がする。

「…何か用…?」

「水無月くんって、月城くんと仲良いよね?」

こんな時に。お前は嫌味を言いたいのか。直人はその気持ちを抑えて「まぁ」とだけ返事をする。

⏰:10/03/23 18:02 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#116 [我輩は匿名である]
「月城くんって、彼女いるの?」

何だこの女。直人は答えず、「何で?」と聞き返す。

「なんか、友達が月城くんの事好きらしくて」

「(…モテるんだな、あいつ)」

直人は若干ショックを受けつつ、「いないんじゃない?」と適当に返事をする。

「ふぅん、そっか」

「あ!」

昨日薫が女を連れていたのを、今思い出した。

しかし、すでに怜奈は席を離れ、教室を出てしまっていた。

「あぁ〜やっちまった…」

直人は頭を抱えて、机に突っ伏した。

⏰:10/03/23 18:07 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#117 [我輩は匿名である]
その頃、薫は屋上で響子と一緒に話をしていた。

「あらぁ、喧嘩しちゃったんだ」

「まぁな。昔からよく喧嘩はしてたけど、昨日は珍しく、両方本気だったな」

「2人とも怪我しなかった?」

「あぁ、俺が壁に頭ぶつけたぐらいで」

「えっ!?ダメじゃん!!大丈夫!?」

響子はびっくりしながら大声を出す。

「大丈夫だよ。ちょっとたんこぶ出来てたみたいだけど、治ったみたい」

「そう…。気をつけないとダメだよ」

「…うん」

薫はフッと、小さく笑う。

⏰:10/03/23 18:12 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#118 [我輩は匿名である]
「…なぁ、香月」

「ん?」

「…“霜月優也”って名前に心当たりないか?」

薫は真剣な表情で、響子に尋ねる。

その真剣さに、響子も本気で頭をひねってみるが、どうやらないようだ。

「…知らない、と思う」

「…そうか」

薫は残念そうにため息をついた。

「その人がどうかしたの?」

「…いや、何でもない」

「何それ!?気になるじゃない!!」

「いいよ、忘れて」

「無理!!」

⏰:10/03/23 18:16 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#119 [我輩は匿名である]
響子が問う正そうと必死になっていると、チャイムが鳴った。

「あ、チャイム。かーえろ」

薫はさっさと、逃げるように歩き出す。

「あっ、ちょっと待ってよ!」

響子も慌てて走り出す。

しかし、一昨日よりも少し強い頭痛が、響子を襲った。

「痛っ…!」

響子は頭を抑えてしゃがみこむ。

その声に気付き、薫が急いで駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」

「う…うん…。大丈夫…一瞬だけだったから」

⏰:10/03/23 18:21 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#120 [我輩は匿名である]
響子は弱々しく笑って、顔を上げる。

しかし、薫の心配は晴れない。

「…保健室行くか?」

「いいよ、そこまでしなくても、もう治ったから。…ごめんね、心配かけて」

響子は「行こ」と、歩き出す。

その背中を、薫は止まったまま見つめる。

「…俺に謝るな、…今日子」

薫の独り言が聞こえたのか、響子が振り向く。

「何か言った?」

「……いや、何にも言ってないよ」

薫はそう言って、響子と並んで屋上を後にした。

⏰:10/03/23 18:27 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#121 [我輩は匿名である]
「悪かった!!!」

昼休みになるやいなや、直人は薫の元に謝りに行った。

急に手を合わせて謝ってきたため、薫はきょとんとする。

「…そのぉ〜、昨日は俺ちょっとイライラしてて、おまけに女連れてるし、何かモテるみたいだし?

なんか余計に腹立ってきて、っていうか今もあんまりスッキリしてないけど」

「謝る気あるのか?お前」

謝っているのか皮肉っているのかわからない直人に、薫も言い返す。

「っていうか、『モテるみたい』ってどこ情報?」

「俺情報」

「はぁ?」

⏰:10/03/23 18:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#122 [我輩は匿名である]
「いや、あの…今日の朝、大橋に『友達が月城くんの事好きらしいんだけど、彼女いるのかなぁ?』って聞かれたから…」

ちょっと困った顔で話し始めた直人に、薫は眉をひそめる。

「で、お前、何て言ったんだ?」

「い…いないんじゃねーの…って、言いました」

謝るように頭を垂れて、直人は答えた。

薫は呆れ笑いしながらため息をつく。

「…まぁ、いないのは事実だしな」

「『今は』だろ?」

直人もおちょくるように言い返す。

「つーか、あの子誰?」

「4組の香月 響子」

⏰:10/03/23 18:42 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#123 [我輩は匿名である]
「いつから仲良くなっちゃったわけ?」

「直人が本をもらった次の次の日」

「何でまた」

「屋上に行ったらいたんだよ。それで」

「屋上?何で屋上なんか」

「何となく、行ってみたかったんだよ」

直人のまるで尋問のような問いかけに、薫は1つ1つ短く答えていく。

「俺からも聞くけどさぁ」

「何?」

今度は薫が、弁当箱を開けながら尋ねる。

「大橋って誰?」

「…お前、それはちょっとひどいだろ」

⏰:10/03/23 18:47 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#124 [我輩は匿名である]
直人はちょっと呆れ返る。

「あいつ。1番こっち向いてる奴」

気付かれないように、直人は女子の1グループを指をさす。

こっそり目をやって、薫は「あぁ」と思い出すように声を漏らした。

「知ってただろ?」

「風紀委員同じだった」

「…それ余計にひどくないか?」

「他の女に興味ないの」

薫のその一言に、直人はあんぐりする。

「調子に乗るなよお前…」

「何だ?またやんのか?次は手ぇ抜かねぇぞ」

真顔で2人はにらみ合う。

が、今度は流石におかしかったのか、2人とも笑い出した。

⏰:10/03/23 18:52 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#125 [我輩は匿名である]
「あーあ、喧嘩なんかするもんじゃないな」

「ホント、つまんねぇ喧嘩だったなぁ」

2人は息をつきながら弁当箱をつつく。

「…ところで、どうしても聞きたい事があるんだけど」

改まって、直人が口を開く。

もうわかっていたのか、薫も堪忍したように笑う。

「『俺が本を持っているのか』、か?」

「うーん、まぁ、そうかな。それが1番聞きたいのかも」

たくさん聞きたい事があったのに、今はそれしか出てこなかった。

しばらく考え、薫は答える。

「あぁ、持ってる」

⏰:10/03/23 18:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#126 [我輩は匿名である]
「…やっぱりそうか」

「内容はまだ言えないけど、直人よりもずっと前にな」

「いつ?」

「中1の時」

「そんな早くから?」

「あぁ。読み終えるのに2年半かかった」

「そんなに…?」

全然知らなかった。ポーカーフェイスもいいところだ。

「死にたくならなかったのか?」

「いや、全然。元々俺には『目的』があったから」

⏰:10/03/23 19:01 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#127 [我輩は匿名である]
目的。直人は聞きたかったが、これはきっと答えないだろう。なぜかそんな気がした。

「その代わり」

薫が続ける。「初めて人を『殺してやりたい』と思った」

直人はドキッとした。

「なっ、何言い出すんだよ…!?」

「この間まで、ずっと考えてた。『あの女は今、どんな姿をしているのか』ってな」

「女なのか…?」

「あぁ。…でも、そんな事考えてる場合じゃないんだよな、俺」

その言葉の意味が、分からなかった。

聞きたかったが、どうしても聞けない。

薫の表情が、悲しそうに見えた。

⏰:10/03/23 19:06 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#128 [我輩は匿名である]
「…そっか、…悪かったな、いろいろ聞いて」

まだまだ話を聞きたい自分を抑えて、直人は話を終わらせた。

「何だよ、もういいのか?」

「あぁ、またぼちぼち聞いてくよ」

直人はいつも通り笑ってみせる。

「…本、読み続けるのか?」

薫がふと、そんな事を聞いてきた。

「…あぁ、実は一昨日まで怖くて読みたくなくなってたんだけど、読み始めたからには全部読もうと思ってる」

「…そうか」

薫はそれだけ言って、もう何も聞いては来なかった。

⏰:10/03/23 19:11 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#129 [我輩は匿名である]
直人はその日から毎日欠かさず本を読んだが、

特に大きな変化はなく過ぎていった。

薫の様子が気になったが、本人が本について何も語らないため、

直人も無理に聞く事は避けていた。

「…よし」

日曜日、直人は朝からジャージ姿で本を構えていた。

変化がない日々におさらばだ。

直人は鼻からふうっと深く息を吐き、

心を落ち着かせてから、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#130 [我輩は匿名である]
要はすでに、あの場所に着いていた。

デートは初めてなのか、そわそわしている。

「そんなにウロウロしないで、落ち着けよ」

直人はそう言いつつも、自分も少しドキドキしている。

美代がついて来ていないかが不安なところだが。

「…あ」

要が声を漏らす。

晶が走ってきている。

念のため後ろを確認するが、誰もついて来ていないようだ。

⏰:10/03/24 10:46 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#131 [我輩は匿名である]
「お待たせ」

「時間ちょうどだな。どうする?喫茶店でも行こうか」

「うん」

喫茶店。カフェじゃなくてか。直人は時代の変化をふと感じる。

「紅茶が美味しい所があるって聞いたんだ。行ってみよう」

「そうなんだ。私、紅茶大好きだよ」

「そりゃ良かった。…あの子はついて来てないよな?」

「大丈夫。見つからないように出て来たから」

「施設の人にも言ってきた?」

「昨日から言ってた」

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#132 [我輩は匿名である]
「万全だな」

直人と要は同時に言う。

晶はフフンと、誇らしげに笑っている。

「楽しみにしてたんだもん、邪魔されたくないもんね」

「うん。今日はいっぱいいろんな話をしよう」

「うん!」

晶は笑顔で大きく頷く。

「…ねぇ」

「ん?」

「…長月くんって、何かよそよそしいから…呼び方変えてもいい?」

晶はおずおずと申し出る。

⏰:10/03/24 10:47 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#133 [我輩は匿名である]
「いいねぇ、こういうの」

直人は2人が恋人同士に見えて仕方がない。

「本当だな。俺も何か考えていい?」

「うん、喫茶店に着くまでに決めよ」

晶にそう言われて、直人も一緒に考える。

「…やっぱ、呼び捨てかなぁ…でも、要なら“晶ちゃん”とか呼びそうだな」

「…要くん」

「…じゃあ、晶ちゃん」

やっぱりな。直人は予想通りの展開にちょっと笑う。

⏰:10/03/24 10:48 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#134 [我輩は匿名である]
また、2人もちょっと恥ずかしそうに笑い合う。

「なんか、友達って感じになったな」

「うん。…嬉しい」

晶は少し頬を赤くして小さく笑う。

「…可愛いな。最初は危なそうな奴だと思ってたけど、普通の女の子じゃん」

「友達って、俺が初めてなんだっけ」

「うん」

「何か嬉しいな。1番乗りだもんな」

「ははっ。喜んでもらえて私も嬉しい」

そんな、聞いている方が照れるようなやりとりをしているうちに、要の言っていた喫茶店に到着した。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#135 [我輩は匿名である]
焦げ茶色のレンガで建てられた、ちょっと洋風の喫茶店。

中には多くの客が入っていたが、運良くまだ席が空いている。

店員に席へ案内され、2人は向かい合って座る。

「何頼む?」

「ミルクティーがいい」

「…それだけ?」

「私、あんまりお金持ってなくて」

「ちょっとぐらいなら、出せるよ」

要は若干不安そうながらも、ちょっとちょっと強めに言い張った。

おお、男前。直人は感心する。

⏰:10/03/24 10:49 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#136 [我輩は匿名である]
「えっ、いいよいいよ。ミルクティーだけで十分」

「でも…」

「さっきお昼食べたばっかりだし、本当に大丈夫」

「そう?まぁ何か食べたくなったら言ってね」

「うん、ありがとう」

「…俺、ちょっとトイレ行って来る。もし注目聞かれたら俺もミルクティー頼んどいてもらっていい?」

「うん、わかった」

要は「ごめんな」と言って、トイレに席を立つ。

⏰:10/03/24 10:50 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#137 [我輩は匿名である]
「…ん?トイレ?」

直人はハッとする。

トイレには鏡がある。と言う事は、要の顔が映る。

『本当の世界の自分と同じ顔』

ネットでの書き込みを思い出した。

「えっ?ちょっと待てよ、俺そんな、まだ覚悟できてねーって!」

「はぁ…緊張してきた…」

直人が喚いている間に、要は息を深く吐きながらトイレに入ってしまっていた。

「ダメだダメだ!しっかりしろっ!」

要は目を閉じて、パチパチと両手で頬をたたく。

そして、鏡の前で目を開いた。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#138 [我輩は匿名である]
「…!?」

直人は息を呑んだ。

やはりあの書き込みは本当だった。

どちらかというと釣り上がった感じの目に、筋の通った鼻。

そして何より、左頬の下の方にあるほくろ。

その全てが、直人と全く同じだ。

髪型は違っても、顔は直人そのものだった。

要が何か独り言を言っているが、全く耳に入ってこない。

あの書き込みが本当だということは、やはり長月要は…。

⏰:10/03/24 10:51 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#139 [我輩は匿名である]
いや、待てよ。直人は精一杯考える。

今は1977年。あっちは2017年。今要は16歳で1961年生まれ。

俺も16歳で、2001年生まれである。

2001-1977=24
24+16=40

つまり、要の寿命は40歳?早死に?

と言うことは、あと24年分も読み続けなければならないのか?

その前に、俺は何でこんな計算をしてるんだ?

あーもうわけがわからない!

でも、顔がここまでそっくりだと、他人とも思えない。

しかし、母親姓は北里だったはずだ。

⏰:10/03/24 10:53 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#140 [我輩は匿名である]
つまり、ご先祖様ではない。

薫か誰かに聞いてみるべきか?

いや、でも聞いてばっかりじゃなく、自分で暴いてみたい気もする。

でも、今はそんな事考えている場合でもない。

せっかくのデートなのに、こんな事は帰ってから考えろ!

しかし、頭がボーッとしてそんな気にもなれない。

自分の体なら、頭をぐちゃぐちゃに掻き乱しているところだ。

⏰:10/03/24 10:57 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#141 [我輩は匿名である]
>>0-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400

⏰:10/03/24 10:59 📱:W52SH 🆔:8y8n9HLE


#142 [我輩は匿名である]
「あーダメだダメだ!集中しろ、俺!

…とりあえず、あの2人はどうなったんだ…?」

直人は考えるのを無理に止めて、集中する。

目の前では、晶が笑っている。

考えて込んでいる間に、だいぶ時間が経っていたようだ。

何の話なのかわからないが、2人は楽しそうだ。

「だったら、結構楽しいんじゃない?学校」

「まぁ…ね。でも、やっぱり要くんといる時が1番楽しいよ」

「晶ちゃん…」

⏰:10/03/24 10:59 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#143 [我輩は匿名である]
「私には、…要くんだけだから」

晶はそう言って、ミルクティーのカップに口をつける。

「…俺なんかでいいのか?俺、弱虫だし…頭も良くないし、

何にも役に立たないと思う」

「そんな事関係ないよ」

晶はそっと、要に笑いかける。

「弱虫でも、頭が良くなくてもいい。私は…今の要くんが好き」

晶の突然の告白。

要も直人も、信じられずにぽかんとする。

⏰:10/03/24 11:00 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#144 [我輩は匿名である]
>>141さん

すみません、ありがとうございます

⏰:10/03/24 11:01 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#145 [我輩は匿名である]
「あ…はは、ごめんね、急に変な事言って」

晶は冗談っぽく笑って、何気なく店内の時計に目をやる。

直人の気付かない間に結構話していたらしく、

もう時計の針が4時を回っていた。

「…ここから帰ったら、何分くらいかかるかな?」

「えっ…うーん、30分か、40分くらいかな?どうかした?」

「5時には帰って来いって言われてたの、忘れてた」

「え!?じゃあそろそろ行かないと」

「うん、ごめんね。早く言っとけば良かったね」

⏰:10/03/24 11:02 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#146 [我輩は匿名である]
「ううん。じゃあ行こっか」

伝票を手に、要が先にレジへ向かう。

晶は慌てて鞄を持って後を追う。

「待って、財布が…」

「いいよ、俺出すから」

「え、でも…」

晶が財布を探している間に、会計は終わってしまった。

要は「行くよ」と言って喫茶店を出る。

⏰:10/03/24 11:03 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#147 [我輩は匿名である]
晶が何か言いたそうだが、要はなぜか晶の顔を見ないで、黙って歩いている。

「…さっきの告白で、困ってるんだな」

直人はぼそっと呟く。

結構大口をたたいてきたが、自分が彼の立場に立ったら、

きっと同じように、すぐには返事出来ないんだろうな、と。

待ち合わせ場所に戻るまで、2人は何も話さなかった。

今までの直人なら、気まず過ぎてあーしろこーしろと騒ぐところだが、

そんな気にもなれない。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#148 [我輩は匿名である]
30分程の間黙って歩くと、あの場所に着いてしまった。

「着いちゃったね」

「うん」

到着してやっと、2人は言葉を交わす。

「今日はありがとう。楽しかった」

「…うん、俺も」

「…じゃあね」

晶は元気なく笑い返して、要に背中を向け、歩きだす。

「…このままで良いのかよ」

心の底からモヤモヤして、直人は要に言う。

⏰:10/03/24 11:04 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#149 [我輩は匿名である]
要もまた、悩んでいるように両手を握りしめていた。

しかし、その間にも晶はどんどん離れていく。

直人はもう、我慢できなくなった。

「待てよ!!」

「待って!!」

直人と要が叫んだのは、同時だった。

晶が驚いたように振り向く。

「さっき、急に『好きだ』って言われて…

俺、びっくりして…信じられなくて、何にも言えなかったんだ」

要の声が少し震えている。

⏰:10/03/24 11:05 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


#150 [我輩は匿名である]
晶は体ごとこちらに向き直る。

「でも俺…っ、俺も…」

要はなかなか言いだせない。

直人はある事気付いた。

これが本当なら…。

直人もちょっとドキドキしながら叫ぶ。

「俺も、晶ちゃんが好きだ!」

それは、要の声となって晶に伝えられた。

やっぱり。直人は思った。

⏰:10/03/24 11:06 📱:N08A3 🆔:vv1d3OC.


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