記憶を売る本屋さん
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#41 [我輩は匿名である]
やっぱり真っすぐは帰らないんだな。直人はちょっと笑う。
「そっかぁ。送って行こうか?」
「でも…、逆方向じゃない?」
「いいよ、今日何も予定ないし」
「そう?…じゃあ、送ってもらおうかな」
晶はにっこりと笑う。
昨日は暗い表情や不機嫌な表情が多かったため、今日初めて、可愛らしい彼女を見た気がする。
「ここから何分ぐらい?」
「んー、15分ぐらいかな?遠くもないけど、近くもない」
「じゃあまぁ近い方じゃない?30分ぐらいかかるのかと思ってた」
:10/03/22 22:36
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#42 [我輩は匿名である]
「高校はここから歩くとしんどいけどね」
「電車で通ってるのか」
「うん。今日は施設に近い駅の1つ手前で降りて散歩してたの」
「散歩っていっても、何もないよな、この辺」
「そうだね。まぁ、施設に帰っても何も楽しい事ないから」
晶は苦笑する。
「本当に嫌いなんだな」
直人は話を聞いていて思った。
施設の中にはきっと、心を許せる友達が
いないのかもしれない。
「その…施設の中に、同い年の子はいるの?」
:10/03/22 22:38
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#43 [我輩は匿名である]
「1人だけね。ほら、昨日あの人が言ってたでしょ?
『私が急にいなくなった』って言ってたっていう女」
「あぁ、言ってたね。嫌いなのか?」
「嫌い。大っ嫌い」
晶の表情が曇る。
「いっつも私の後ろにくっついてくるの。誰かの反感を買って喧嘩になっても、
いつも私の後ろに隠れて、私が解決しないといけない。迷惑もいいところよ」
「そりゃ迷惑だな。本人には注意しないの?」
「したら必ず泣き出すの。しかもみんなの前でね。
特に施設では、いつも私が悪いみたいに怒られて…もううんざり」
:10/03/22 22:39
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#44 [我輩は匿名である]
晶は道端に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。
不満そうに話す晶を見つめ、要は黙っている。
「…あぁ、ごめんね、暗い話になっちゃったね」
「いいよ、愚痴たまってるんだろ?聞くよ、俺」
要の言葉に、晶は一瞬黙り、小さく笑った。
「長月くん、優しいね」
「そうか?普通じゃない?」
「優しいよ。私だったら、他の人の愚痴なんか聞き流すしか出来ない」
晶は1度話を切って、数メートル歩いてから再度口を開いた。
「…親に捨てられなければ、こんなひねくれた子供にはならなかったのかな」
晶は淋しそうな表情で言う。
:10/03/22 22:41
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#45 [我輩は匿名である]
「そんなの関係ないよ」
要は答える。
「親がいてもいなくても、ひねくれてる奴はひねくれてる。
それに、石川さんはひねくれてない」
「よく言った」。直人は要と同じ気持ちだった。
要よりはひねくれているが、
これくらいひねくれている方が、女は可愛いだろう、と。
「…ありがとう」
晶は少し下を向いて、要に礼を言った。
:10/03/22 22:42
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#46 [我輩は匿名である]
「今でいうツンデレだな」
直人は変に冷静になって、そんな事を考える。
この環境に慣れてきたらしい。
「あっ、晶ちゃーん」
後方で聞こえた声に、晶はハッと動きを止めた。
要が振り向くと、晶と同じ制服を来た少女がこちらを見ている。
「…誰?」
「来て!」
「へ!?」
晶は要の手を掴んで走りだした。
視界がガクガク揺れる。
:10/03/22 22:43
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#47 [我輩は匿名である]
「なっ、何!?」
「あれがさっき言ってた女よ!あの女はねぇ!私の大事な物を全部欲しがるの!泣くとうっとうしいから、欲しがる物はみんなあげてきた!」
走っているからか、語尾が強い。
晶はそこまで言って、要に顔を向けた。
「長月くんは、私だけの友達でいてほしい!」
晶は、要さえも取られてしまうと考えたのだろう。
角を曲がって、2人は走るのを止めた。
膝に手をついて、呼吸を整える。
:10/03/22 22:45
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#48 [我輩は匿名である]
「はぁ…はぁ…ごめん…走らせちゃって…」
「大丈夫…。…すごい走ったね…」
それだけ話して、しばらく会話はなかった。
疲れる事がない直人は、2人の様子をじっと伺う。
視界はなかなか地面から切り替わらない。
2、3分して、要が背筋を伸ばして空を仰ぐ。
そして、晶に向き直した。
「…俺、学校にも何人か友達がいるんだ、男ばっかりだけど」
「…え…?」
晶はまだ息を切らしているが、こちらを見る。
:10/03/22 22:46
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#49 [我輩は匿名である]
「だから、石川さんだけの友達ではいられない」
何を言いだすんだお前は!!直人は愕然とする。
晶もショックを隠せない。
「でも、…女の友達は石川さんだけにする事は出来る」
要はそう、はっきりと断言する。
直人から彼の顔は見えないが、今の要はきっと、
凛々しい顔をしているのだろう。
「…そんな…」
晶は顔を背ける。
:10/03/22 22:47
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#50 [我輩は匿名である]
「なんでそこまで言ってくれるの?
…私なんかに…そこまでしてくれることないのに…」
「…さぁ、わからない」
要は首を傾けて見せる。
「でも、昨日初めて会った時から思ってたんだ。
…どうしたら、あんなに悲しい顔をしなくてすむようになるのかなって」
要の話に、晶も直人も静かに耳を傾ける。
「それで…俺なんかで役に立つなら、何かしたいと思った。…だから」
話の途中で、晶が顔を背けた。
髪が邪魔で、どんな表情をしているのか全然わからない。
しかし、肩が震えているのだけはわかった。
:10/03/22 22:48
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