記憶を売る本屋さん
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#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。
「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。
でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」
響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。
「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。
そう思うと、もう涙が止まらない。
:10/04/05 09:26
:N08A3
:W6VDeUwI
#302 [我輩は匿名である]
「お前を見つけて……もう1度…プロポーズして……結婚して…次はちゃんと…あの子を…生んでやらないと…な…。
子どもは……2人が…いいな…。男の子と…女の子…。
男の子には…俺が…野球を…教えて…
女の子は…そうだな……今日子が…料理とか…教えるのも…いいかも…しれないな…。
子どもが大きくな…て……独り立ちしたら……俺達2人……いろんな所に…旅行に行こう……。
新婚旅行しか……どこにも…連れて行って…あげれなかった…から…」
優也の声が、息遣いが、だんだん小さくなってきている。
もうもたない。響子は思った。
息をする度に、ヒューヒューと苦しそうな音が、響子まで聞こえてくる。
何とか出来るなら何とかしてあげたい。響子はやるせなさでいっぱいだった。
:10/04/05 09:27
:N08A3
:W6VDeUwI
#303 [我輩は匿名である]
痰が絡んでももう咳をする力も無くなってきたのか、優也は下を向く。
「(…優也…もう息が…)」
さっきまで肩で必死に息をしていたが、今はそうではなくなってきている。
「…今日…子……、…ごめん…ごめん、な……」
優也はそれきり、もう何も話さなかった。
:10/04/05 09:27
:N08A3
:W6VDeUwI
#304 [我輩は匿名である]
「…うー」
不意に、赤ちゃんが声を出した。
目が潤んだまま視線を下ろすと、赤ちゃんはじっと、優也の方を見ている。
普通この小さならまだあまり目が見えないはずだが、赤ちゃんはまっすぐに彼を見ていた。
「…君のお父さんだよ」
響子は小さく笑う。
「次に生まれて来た時は…いっぱい抱っこしてもらおうね」
響子の腕の中の赤ちゃんは、まるでその言葉がわかったかのように、にっこり笑った。
:10/04/05 09:28
:N08A3
:W6VDeUwI
#305 [我輩は匿名である]
響子は静かに目を覚ます。
目の前には、真っ白い天井。家の天井ではない。
「あっ、目、覚めました?ここ病院ですよ」
足元で女性の声がする。
「病院…?」
「大丈夫?どこか痛む?」
声の主は、看護師だった。
「え…?」
「だって、涙出てるよ?」
そう言われて、響子は目の辺りを触る。確かに、両目に一筋の涙のあとがある。
:10/04/05 21:49
:N08A3
:W6VDeUwI
#306 [我輩は匿名である]
それも、まだ出来たばかりの。
「い…痛いんじゃないんです…」
響子は慌てて涙を拭く。
「そ、それより!」
ハッと思い出して、響子は飛び起きる。その拍子にベッドがギイッと音を立てる。
「私、私と一緒に、男の子が運ばれてきませんでしたか!?月城薫っていう子!」
急に声を上げたため、看護師は驚いている。
「…その子なら」
目をぱちくりさせつつ、看護師は響子に背を向け、響子の前のベッドを指差す。
:10/04/05 21:50
:N08A3
:W6VDeUwI
#307 [我輩は匿名である]
「そこのベッドにいるわよ。あなたより重症だけど、結構早く目を覚ましてたよ」
カーテンで仕切られていて、このベッドの外が見えない。
しかし、カーテンの外が明るいのはわかる。
「…今、何時ですか?」
「今?今ねぇ、朝の9時過ぎ」
「…朝?えっ、朝ですか?」
「えぇ、香月さん、昨日階段から落ちてからずっと寝てたのよ。大丈夫?」
「へ?はぁ、何ともないです」
「そう。ちょっと頭打ってたみたいだから、それでかな。一応今日検査の予定が入ってるから」
「検査…はい、わかりました」
:10/04/05 21:50
:N08A3
:W6VDeUwI
#308 [我輩は匿名である]
いまいちよくわからないまま、響子は了承する。
看護師はホッとしたように、響子の検温を始めた。
:10/04/05 21:51
:N08A3
:W6VDeUwI
#309 [我輩は匿名である]
検温が終わり、看護師が部屋を出て行った。
血圧も体温も呼吸数も脈拍も、全て問題無い。
怪我も、薫がかばってくれたからか、かすり傷で済んでいる。
「(はっ!月城くんは!?)」
響子はベッドの下に置いてあるスリッパを履き、一応挿してある点滴を引っ張って薫のベッドに向かう。
響子のベッドのカーテンを開けると、薫のベッドのカーテンも閉まっていた。
何だか少し緊張する。
が、今そんな事を言っている場合ではない。
響子はゆっくりと、薫のベッドのカーテンを開ける。
:10/04/05 21:52
:N08A3
:W6VDeUwI
#310 [我輩は匿名である]
「…よぉ」
薫は、意外にも元気そうに挨拶してきた。
が、頭には包帯を巻かれ、左肩はギプスをした上に、腕ごと牽引されている。
ベッドも30度程頭を上げてある。
看護師の「重症」と言う事葉を思い出す。
「…月城くん…」
「…あぁ、何か結構ひどいな、俺」
薫は苦笑しつつ、自分の体を見る。
:10/04/05 21:52
:N08A3
:W6VDeUwI
#311 [我輩は匿名である]
「頭は打撲で、何針か縫ったらしい。
このギプスは…鎖骨骨折って言われたかな。
肋骨も1本ヒビ入ってるらしいし、足もひねってる」
薫は開き直り、まるで自慢のように言う。
他にも、右の頬を覆うように湿布が貼られていたり、右手の指にまとめて包帯が巻かれている。
響子はそれを、じっと見つめる。
彼女の表情を見て、薫は小さくため息をつく。
「…全部思い出したのか、お前の事も、…俺の事も」
響子は黙って頷く。
:10/04/05 21:52
:N08A3
:W6VDeUwI
#312 [我輩は匿名である]
薫はいつものように「そうか」と返事をする。
「…あなたが、死ぬところまで知ってる」
声を震わせて、響子は言った。
「…だからか」
薫は何かを納得したように返事をする。
「…嫌いになるわけないじゃない」
涙ぐみながら、響子は言う。
:10/04/05 21:53
:N08A3
:W6VDeUwI
#313 [我輩は匿名である]
「私は、死ぬまでずっと、優也の事大好きだったよ。
…死んだ後も、今も、死ぬ前と同じぐらい大好きだよ。
なのに…何で『俺の事嫌いになったかもしれない』とか言うの?」
言っているうちに、またぼろぼろと涙が出てきた。
前からそうだった。1度泣けば、なかなか泣き止まない。
それを見て、優也はいつも呆れて笑っていた。
そんな事を思い出せば、また余計に涙が止まらなくなる。
:10/04/05 21:53
:N08A3
:W6VDeUwI
#314 [我輩は匿名である]
「それに、私は優也のせいで死んだんじゃないよ。
逆に、私は優也の作る晩ご飯すごく楽しみだったし、買い物中も晩ご飯の事しか考えてなかったし…。
なのに、何で最後の最後まで私に謝って死ぬの?
私が、優也のせいで死んだって思ってると思ってた?」
「…キョウコ」
「『何もしてやれなかった』って、何でそんな事ばっかり言うの?
私は優也と一緒にいて、それだけで良かった。
横にいてくれるだけで良かったの…!
なのに、そんなに謝らないでよバカ…!」
:10/04/05 21:54
:N08A3
:W6VDeUwI
#315 [我輩は匿名である]
響子は、夢の中で感じた想いを全て薫にぶつける。
薫も黙ったまま、泣いている響子を見つめていた。
「…香月、おいで」
しばらくして、薫は右手で手招きした。
カーテンの所に立ちっぱなしだった響子は、そう言われてやっと、ベッドの傍の椅子に腰を下ろす。
それでもまだ泣き止まない響子に薫は呆れたように笑う。
「…本当によく泣くよな、昔から」
そう言った彼の顔は、優也の呆れ笑いそのものだった。
「…だって…」
それを見て、響子も笑みをこぼす。
:10/04/05 21:54
:N08A3
:W6VDeUwI
#316 [我輩は匿名である]
「1回泣くと止まらないんだもん、…昔から」
大きく息を吐きながら、響子は涙を拭く。
もうすでに、右手の袖がかなり濡れている。
「…悪かったよ。でも俺は…お前に謝らないと、どうしても気が済まなかった」
薫は響子から視線を外して言った。
「今日子がそんな事で怒らない性格も、俺を責めないだろうって事も、ちょっとわかってた。
でもどうしても、『俺があんな事言わなければ』って思っちゃってさ…」
薫は小さくため息をつく。
その後、もう1度視線を響子に戻した。
:10/04/05 21:55
:N08A3
:W6VDeUwI
#317 [我輩は匿名である]
「…おかえり、今日子」
薫の声が震えている。
あの日、仕事を早く終わらせて帰ったが、今日子は家にいなかった。
警察から「奥様と思われる方が亡くなった」と連絡が入ったのは、優也が帰ってきた1時間後の事だった。
優也はそれまでずっと、今日子の帰りを待っていたのだ。
響子はその一言に、思わず椅子から立ち上がって薫を強く抱き締めた。
「…うん、…ただいま」
肩や左胸に痛みが走る。が、薫はそんな事はもうどうでも良かった。
:10/04/05 21:55
:N08A3
:W6VDeUwI
#318 [我輩は匿名である]
薫も右手を響子の背中に添える。
やっと、帰ってきてくれた。
薫の目から、一筋の涙が流れ落ちた。
:10/04/05 21:56
:N08A3
:W6VDeUwI
#319 [我輩は匿名である]
:10/04/05 22:05
:D905i
:fxbTxKTM
#320 [ま]
よかったのぅ(;_;)

:10/04/05 23:23
:P04A
:EQ1YcyFU
#321 [我輩は匿名である]
>>319さん
アンカーありがとうございます

>>320さん
薫ちゃんやっと報われましたね(*´∇`)
薫編(?)はこれで一段落です


:10/04/06 08:15
:N08A3
:Q2X/nrjY
#322 [我輩は匿名である]
直人は病室の前で、何となく入りづらくて悩んでいた。
結局あの後、救急車のついでに警察までやってきて、いろいろと状況を説明され、
まるで事件のようになってしまい(まぁ事件は事件なのだが)、
怜奈も警察に連れて行かれて、その後どうなったのか知らない。
今日の朝刊に小さく『女子高生が同級生を階段から突き落とす』と載っていた。
補導なり逮捕なりされたのだろうが、怜奈がどうなったのかはどうでも良かった。
「…何してんの?」
背後で声がした。
振り向くと、一緒に事の始終を目撃したあの女子が立っている。
:10/04/06 11:22
:N08A3
:Q2X/nrjY
#323 [我輩は匿名である]
「な、何って…」
「…はぁー、そりゃ入りにくいよね」
女子はわかりきったような口調で言い、ニヤリとする。
「は?」
「そりゃ今頃抱き合ったりチューしたりしてそうだもんね、感極まって」
「…お前そーゆーの鋭いよな、無駄に」
「無駄はないでしょ、無駄は」
女子はムスッとする。
「ちょっとだけ様子見て帰ろっか」
:10/04/06 11:22
:N08A3
:Q2X/nrjY
#324 [我輩は匿名である]
「え、お前も見舞いに来たの?」
「当たり前でしょ!?じゃなきゃ来ないわよ」
そりゃそうだな。直人は「まぁ…」と頷く。
その間に、女子はさっさと部屋に足を踏み入れる。
「(…はやっ)」
女子の行動の速さに直人が呆れていると、女子がこっちを向く。
「香月さん、いないよ」
「はぁ?」
2人はこそこそと小声で話ながら部屋を見渡す。
直人も見てみるが、枕元に「香月響子様」と書かれたベッドが空っぽだ。
:10/04/06 11:23
:N08A3
:Q2X/nrjY
#325 [我輩は匿名である]
一方、薫がいるらしいベッドのカーテンは閉めきってある。
「(もしかして、本当に2人であんな事やこんな事まで…?
いやいやいやいや、薫に限ってそんな事はありえない!)」
「こっちかな?」
直人がいやらしい想像をしている間に、女子が薫のカーテンの前に立つ。
「えっ、ちょっ…」
直人が止める前に、女子はカーテンの端を少し開けて中を見た。
中の様子を見て、女子がこっちを向く。
「香月さん、いないよ」
女子はさっきと全く同じ事を言う。
:10/04/06 12:13
:N08A3
:Q2X/nrjY
#326 [我輩は匿名である]
「…はぁん?」
直人は「何だそれ」と思いつつ、一緒に中を見る。
そこでは、薫が1人、ベッドですーすーと寝息を立てているだけだった。
「…結構怪我してるね、大丈夫かな?」
「うーん…まぁ寝てるとこ見たら大丈夫なんじゃないか?」
「あなたたち」
2人の後ろで声がする。
恐る恐るそろって振り向くと、怖い顔をした看護師がこっちを睨んでいた。
:10/04/06 12:13
:N08A3
:Q2X/nrjY
#327 [我輩は匿名である]
「そこで何してるの?」
「えっ、いや…」
「お見舞いに来たんですけど…」
「そうそう、でも薫寝てるし」
「香月さんもどっか行ってるし…」
2人は慌てて弁解する。
「あぁ、お友達?あんまり怪しかったから、何かと思って」
看護師はきょとんとしている。
「あんたがもたもたしてるからよ」
「俺のせいかよ!」
2人は小声で言い合う。
:10/04/06 16:25
:N08A3
:Q2X/nrjY
#328 [我輩は匿名である]
「香月さんなら、今検査に行ってるわよ」
看護師も同じように、こそっと2人に耳打ちする。
「そうなんですか」
「ところでこの2人、やっぱ恋人同士なの?」
看護師が目を輝かせて聞いてきた。
女はみんなこうなのかと、直人は呆れ返る。
「さぁ…どうなのよ、そこんとこ」
「また俺!?ま、まぁ友達未満恋人以上…?」
「逆でしょ、それ」
今度は女子が呆れる。
:10/04/06 16:26
:N08A3
:Q2X/nrjY
#329 [我輩は匿名である]
「えー絶対彼氏だと思ってたのに」
「何で?」
「だってさっき…」
看護師が何かを言おうとした時、薫が大きな咳払いをした。
「(起きてる…)」
直人と女子がぎょっとする。
「大丈夫?痰絡んでるから吸引した方がいい?」
「大丈夫です」
看護師の問いに、薫は低い声ではっきりと返事をした。
:10/04/06 16:26
:N08A3
:Q2X/nrjY
#330 [我輩は匿名である]
「そう?また何かあったらすぐ言って下さいね」
看護師はそう言って、逃げるように部屋を出ていった。
2人は「どうしよう」と顔を見合わせる。
「…そんな所に突っ立ってないで、入れよ」
薫が少しイラッとしたように言った。
2人は説教される気で、「はい…」と中に入る。
薫の視線が痛い。
「い、いつから起きてたの?」
「『香月さん、いないよ』で目が覚めた」
「お前のせいじゃねーかよ」
:10/04/06 18:33
:N08A3
:Q2X/nrjY
#331 [我輩は匿名である]
「何でそうなるのよー」
「…黙れ。ここ病院だぞ」
「はい…」
少し大きな声がまた言い合う2人に、薫が静かに言い捨てる。
「…怪我、やばそうだな」
「いや、そうでもないよ。じっとしてればほとんど痛くないから」
「そっか、良かったね」
女子がホッとしたようににっこり笑う。
薫はじーっと女子を見つめる。
:10/04/06 18:33
:N08A3
:Q2X/nrjY
#332 [我輩は匿名である]
「…昨日から思ってたんだけどさ」
薫が口を開く。
「うん」
「…あんた、誰?」
薫が言って、直人も思い出したように「そうだよ!」と声を上げる。
「お前誰?何で俺のケータイ持ってたの!?ストーカー!?」
「直人、うるさい」
「ストーカーなわけないでしょ!『落としてたから』って言ったじゃん!」
女子は小声で直人に言い返す。
:10/04/06 18:34
:N08A3
:Q2X/nrjY
#333 [我輩は匿名である]
「私、香月さんの隣のクラスの安斎奏子」
「あんざいかなこ?」
「そうよ、何か文句ある?」
「いや、ないけど」
直人と奏子のやり取りを見て、薫は小さく笑った。
2人はきょとんとする。
「…何だよ」
「いや、何かお似合いだなぁーと思って」
「誰がこんな奴と!」
直人と奏子はそろって互いを指差す。
:10/04/06 18:34
:N08A3
:Q2X/nrjY
#334 [我輩は匿名である]
息がピッタリな2人に、薫は声を上げて笑う。
「あー、いたたたた…」
「大丈夫?」
「笑かすな…肋骨に響く…」
薫は左胸をさすりながら呼吸を整える。
「ねぇねぇ、やっぱ香月さんの彼氏さんなの?」
奏子は懲りずに薫の尋ねる。
直人は呆れながら奏子を見下ろす。
:10/04/06 18:38
:N08A3
:Q2X/nrjY
#335 [我輩は匿名である]
「彼氏…まぁ彼氏だろうなぁ」
薫は曖昧な返事をする。
奏子も「何それ?」と首をかしげる。
「何かしっくりこないなぁと思って」
「それ以上の関係そうだもんな、お前ら」
「それ以上!?」
奏子は愕然とする。
同時に、薫は直人を睨み上げる。
:10/04/06 18:39
:N08A3
:Q2X/nrjY
#336 [我輩は匿名である]
「えっ、えっ、まさか…」
「言っとくけど、俺まだキスとか手出したりとかしてないからな」
「『まだ』!?」
女子は「真面目そうに見えるのに…」と、哀れみの視線を薫に送る。
「もう帰れ!俺は疲れてるんだ!」
薫は2人を怒鳴り付ける。
:10/04/06 18:40
:N08A3
:Q2X/nrjY
#337 [我輩は匿名である]
2人は「失礼しましたー!」と、走って出ていった。
薫は本当に疲れたように、大きくため息をつく。
「ただいまー」
入れ違いに、響子が検査から帰ってきた。
「…どうしたの?怖いよ?顔」
勝手に薫のベッドのカーテンを開けながら、響子が尋ねる。
「いや…大丈夫…」
薫は返事をしながら、大きくため息をついた。
:10/04/06 18:40
:N08A3
:Q2X/nrjY
#338 [我輩は匿名である]
「はぁ…疲れた…」
病院を出て、直人と奏子は息を切らせて立ち止まる。
「本当…あんなに怒られると思わなかったね…」
「お前…地雷踏みすぎだろ…」
「そ…そうかな…?」
2人は話ながら、目の前にあった椅子に座る。
「…さっきの看護師…何言い掛けてたんだろうな…?」
「…ほんとだね」
「かなり気になるね」と、奏子は目を光らせる。
その様子に若干呆れながら、直人も考える。
:10/04/06 20:27
:N08A3
:Q2X/nrjY
#339 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり…わかるもんなのかな…?)」
薫は高校に入ってすぐ、響子が前世の自分の妻だった人だと見破った。
それは、ただ薫が、勘が冴える奴だからなのか、
それとも本を持つ者はみんなそうなのか…。
もし後者なら、自分にもそんな力があるのか…?
「……そう言えば…大橋さん…どうなったんだろうね…」
奏子がふと、そんな事を言った。
考え込んでいた直人は、「は?」と、ふざけた声を出す。
「……どーでもいいよ…あんなやつ……」
奏子は「まぁね…」と頷く。
:10/04/06 20:27
:N08A3
:Q2X/nrjY
#340 [我輩は匿名である]
「…大橋さんさ…小学校の時から、あんな感じだったんだ」
「え、知ってんの?」
「小・中一緒だったもん」
こいつは何でも知ってるな。直人はじーっと奏子を見る。
「ほら…あの子、結構背も高いし、顔も可愛い方だし、スタイルも抜群でしょ?
だから、周りからちやほやされっぱなしで…」
「だから調子にのったのか、あいつ」
奏子は頷く。
:10/04/06 20:27
:N08A3
:Q2X/nrjY
#341 [我輩は匿名である]
「自分が欲しいものは絶対手に入れないと気が済まない。
でも、月城くんは香月さんを選んだ。
…だから、許せなかったんじゃない?」
「まぁ香月は結構ちっちゃいしな」
「そうだね、私は香月さんの方が可愛いと思うけど」
「可愛いっていうか、将来美人になりそうな顔だよな」
2人は「うんうん」と頷く。
「…だから『私より劣ってるくせに』とか言ってたのか」
「そういう事。ここまで大事になったのは初めてだよ。
もういい加減懲りて、こんな事しなくなるんじゃない?」
:10/04/06 20:28
:N08A3
:Q2X/nrjY
#342 [我輩は匿名である]
「これ以上やったらもう人間失格だろ」
直人はため息をつきながら笑う。
「…さて、帰るか」
「そうだね」
直人と奏子は椅子から立ち上がり、一緒に家に帰っていった。
:10/04/06 20:28
:N08A3
:Q2X/nrjY
#343 [我輩は匿名である]
「さーてさて…お?」
奏子と別れて1人で歩いていた直人は、ふと足を止める。
目の前を、ジャージを着た金髪の女性が歩いている。
飛鳥のようだ。
直人は早足で近づく。
斜め後ろくらいから顔を見ようと、前かがみで歩く。
「(やっぱりな)」
ジャージの女性は、やはり飛鳥だった。
「おい、金髪女」
直人はポンと、彼女の肩をたたく。
:10/04/06 20:42
:N08A3
:Q2X/nrjY
#344 [我輩は匿名である]
飛鳥は足を止め、ゆっくりと振り向く。
彼女の顔を見て、直人は少し驚いた。
ひどく疲れたような、暗い表情。
「え、何…どうしたんだよ?…お前、最近元気ないぞ?」
直人は内心焦りながら、おどけて笑ってみせる。
が、飛鳥はにこりともしない。
彼女が笑わないのはいつもの事だが、今日はどう見ても様子がおかしい。
:10/04/06 20:43
:N08A3
:Q2X/nrjY
#345 [我輩は匿名である]
「…あんたさぁ…」
飛鳥が静かに口を開く。
「…本読んでて、人間不信になった事ない…?」
「…は…?」
直人は首をかしげる。
「俺は、別に…ないけど…」
「……だろうね、あんたなら。…変な事聞いた、ごめん…忘れて」
飛鳥はそれだけ言って、またフラフラ歩きだす。
:10/04/06 20:43
:N08A3
:Q2X/nrjY
#346 [我輩は匿名である]
「ちょ、ちょっと待てよ」
直人はとっさに、飛鳥の手を掴む。
しかし、飛鳥が素早くその手を振り払ってしまった。
「……ほっといて…。誰とも話したくない…」
直人は言葉が出なかった。
一体何があったのだろう…?
寂しげに見える飛鳥の背中を、直人はただ心配そうに見つめるしかできなかった。
:10/04/06 20:44
:N08A3
:Q2X/nrjY
#347 [我輩は匿名である]
次から次へと問題が起きる。
薫の件がほとんど片付いたと思えば、今度は飛鳥の様子がおかしい。
ベッドの上で、直人はぼーっと考える。
『本を読んでて、人間不信になった事ない?』
あの言葉は一体何だったのだろう。
「(…あいつが…今そうなのかな…?)」
今まで普通に話していたのに、「誰とも話したくない」と言う。
彼女の話からすれば、本のせいでおかしくなったのは明らかだ。
:10/04/06 20:44
:N08A3
:Q2X/nrjY
#348 [我輩は匿名である]
「(…あ!そういえば)」
直人は飛び起きて、机にほったらかしになっていた本を手にとる。
昨日は怜奈の一件で、本を見るのを忘れていた。
「あー、くそう…昨日何もなかったよな…?」
直人は何もなかった事を願いながら本を開く。
:10/04/06 20:45
:N08A3
:Q2X/nrjY
#349 [我輩は匿名である]
要は直人と同じように、布団の上に寝転がっていた。
「…晶ちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう…?」
部屋の中で1人呟く。
この間会いに行った時の、晶のあの態度。
直人と同じように、要もかなり気にしていた。
「(…そりゃそうだよな…。俺は…)」
こいつの生まれ変わりなんだから。
そう思いかけて、直人はふと、それを止めた。
:10/04/06 20:45
:N08A3
:Q2X/nrjY
#350 [我輩は匿名である]
“本の中の自分”は、自分の前世の人間。
先に本を手にし、全て読み終えた薫が認めるのだから、ほぼ間違いない。
それでも、直人はどこか、それを認めたくなかった。
「俺の前世が要だろうが…俺は俺だ…」
心の中でそう呟いた後、変に複雑な気分になった。
「…もし明日も来なかったら、もう1回会いに行ってみよう」
「…この間来なかったんだから、明日も来るわけないだろ…」
要の言葉に、直人は呆れたように言い返す。
:10/04/06 20:46
:N08A3
:Q2X/nrjY
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