記憶を売る本屋さん
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#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。

「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。

でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」

響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。

「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。

そう思うと、もう涙が止まらない。

⏰:10/04/05 09:26 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#302 [我輩は匿名である]
「お前を見つけて……もう1度…プロポーズして……結婚して…次はちゃんと…あの子を…生んでやらないと…な…。

子どもは……2人が…いいな…。男の子と…女の子…。

男の子には…俺が…野球を…教えて…

女の子は…そうだな……今日子が…料理とか…教えるのも…いいかも…しれないな…。

子どもが大きくな…て……独り立ちしたら……俺達2人……いろんな所に…旅行に行こう……。

新婚旅行しか……どこにも…連れて行って…あげれなかった…から…」

優也の声が、息遣いが、だんだん小さくなってきている。

もうもたない。響子は思った。

息をする度に、ヒューヒューと苦しそうな音が、響子まで聞こえてくる。

何とか出来るなら何とかしてあげたい。響子はやるせなさでいっぱいだった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#303 [我輩は匿名である]
痰が絡んでももう咳をする力も無くなってきたのか、優也は下を向く。

「(…優也…もう息が…)」

さっきまで肩で必死に息をしていたが、今はそうではなくなってきている。

「…今日…子……、…ごめん…ごめん、な……」

優也はそれきり、もう何も話さなかった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#304 [我輩は匿名である]
「…うー」

不意に、赤ちゃんが声を出した。

目が潤んだまま視線を下ろすと、赤ちゃんはじっと、優也の方を見ている。

普通この小さならまだあまり目が見えないはずだが、赤ちゃんはまっすぐに彼を見ていた。

「…君のお父さんだよ」

響子は小さく笑う。

「次に生まれて来た時は…いっぱい抱っこしてもらおうね」

響子の腕の中の赤ちゃんは、まるでその言葉がわかったかのように、にっこり笑った。

⏰:10/04/05 09:28 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#305 [我輩は匿名である]
響子は静かに目を覚ます。

目の前には、真っ白い天井。家の天井ではない。

「あっ、目、覚めました?ここ病院ですよ」

足元で女性の声がする。

「病院…?」

「大丈夫?どこか痛む?」

声の主は、看護師だった。

「え…?」

「だって、涙出てるよ?」

そう言われて、響子は目の辺りを触る。確かに、両目に一筋の涙のあとがある。

⏰:10/04/05 21:49 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#306 [我輩は匿名である]
それも、まだ出来たばかりの。

「い…痛いんじゃないんです…」

響子は慌てて涙を拭く。

「そ、それより!」

ハッと思い出して、響子は飛び起きる。その拍子にベッドがギイッと音を立てる。

「私、私と一緒に、男の子が運ばれてきませんでしたか!?月城薫っていう子!」

急に声を上げたため、看護師は驚いている。

「…その子なら」

目をぱちくりさせつつ、看護師は響子に背を向け、響子の前のベッドを指差す。

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#307 [我輩は匿名である]
「そこのベッドにいるわよ。あなたより重症だけど、結構早く目を覚ましてたよ」

カーテンで仕切られていて、このベッドの外が見えない。

しかし、カーテンの外が明るいのはわかる。

「…今、何時ですか?」

「今?今ねぇ、朝の9時過ぎ」

「…朝?えっ、朝ですか?」

「えぇ、香月さん、昨日階段から落ちてからずっと寝てたのよ。大丈夫?」

「へ?はぁ、何ともないです」

「そう。ちょっと頭打ってたみたいだから、それでかな。一応今日検査の予定が入ってるから」

「検査…はい、わかりました」

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#308 [我輩は匿名である]
いまいちよくわからないまま、響子は了承する。

看護師はホッとしたように、響子の検温を始めた。

⏰:10/04/05 21:51 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#309 [我輩は匿名である]
検温が終わり、看護師が部屋を出て行った。

血圧も体温も呼吸数も脈拍も、全て問題無い。

怪我も、薫がかばってくれたからか、かすり傷で済んでいる。

「(はっ!月城くんは!?)」

響子はベッドの下に置いてあるスリッパを履き、一応挿してある点滴を引っ張って薫のベッドに向かう。

響子のベッドのカーテンを開けると、薫のベッドのカーテンも閉まっていた。

何だか少し緊張する。

が、今そんな事を言っている場合ではない。

響子はゆっくりと、薫のベッドのカーテンを開ける。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#310 [我輩は匿名である]
「…よぉ」

薫は、意外にも元気そうに挨拶してきた。

が、頭には包帯を巻かれ、左肩はギプスをした上に、腕ごと牽引されている。

ベッドも30度程頭を上げてある。

看護師の「重症」と言う事葉を思い出す。

「…月城くん…」

「…あぁ、何か結構ひどいな、俺」

薫は苦笑しつつ、自分の体を見る。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#311 [我輩は匿名である]
「頭は打撲で、何針か縫ったらしい。

このギプスは…鎖骨骨折って言われたかな。

肋骨も1本ヒビ入ってるらしいし、足もひねってる」

薫は開き直り、まるで自慢のように言う。

他にも、右の頬を覆うように湿布が貼られていたり、右手の指にまとめて包帯が巻かれている。

響子はそれを、じっと見つめる。

彼女の表情を見て、薫は小さくため息をつく。

「…全部思い出したのか、お前の事も、…俺の事も」

響子は黙って頷く。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#312 [我輩は匿名である]
薫はいつものように「そうか」と返事をする。

「…あなたが、死ぬところまで知ってる」

声を震わせて、響子は言った。

「…だからか」

薫は何かを納得したように返事をする。

「…嫌いになるわけないじゃない」

涙ぐみながら、響子は言う。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#313 [我輩は匿名である]
「私は、死ぬまでずっと、優也の事大好きだったよ。

…死んだ後も、今も、死ぬ前と同じぐらい大好きだよ。

なのに…何で『俺の事嫌いになったかもしれない』とか言うの?」

言っているうちに、またぼろぼろと涙が出てきた。

前からそうだった。1度泣けば、なかなか泣き止まない。

それを見て、優也はいつも呆れて笑っていた。

そんな事を思い出せば、また余計に涙が止まらなくなる。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#314 [我輩は匿名である]
「それに、私は優也のせいで死んだんじゃないよ。

逆に、私は優也の作る晩ご飯すごく楽しみだったし、買い物中も晩ご飯の事しか考えてなかったし…。

なのに、何で最後の最後まで私に謝って死ぬの?

私が、優也のせいで死んだって思ってると思ってた?」

「…キョウコ」

「『何もしてやれなかった』って、何でそんな事ばっかり言うの?

私は優也と一緒にいて、それだけで良かった。

横にいてくれるだけで良かったの…!

なのに、そんなに謝らないでよバカ…!」

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#315 [我輩は匿名である]
響子は、夢の中で感じた想いを全て薫にぶつける。

薫も黙ったまま、泣いている響子を見つめていた。

「…香月、おいで」

しばらくして、薫は右手で手招きした。

カーテンの所に立ちっぱなしだった響子は、そう言われてやっと、ベッドの傍の椅子に腰を下ろす。

それでもまだ泣き止まない響子に薫は呆れたように笑う。

「…本当によく泣くよな、昔から」

そう言った彼の顔は、優也の呆れ笑いそのものだった。

「…だって…」

それを見て、響子も笑みをこぼす。

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#316 [我輩は匿名である]
「1回泣くと止まらないんだもん、…昔から」

大きく息を吐きながら、響子は涙を拭く。

もうすでに、右手の袖がかなり濡れている。

「…悪かったよ。でも俺は…お前に謝らないと、どうしても気が済まなかった」

薫は響子から視線を外して言った。

「今日子がそんな事で怒らない性格も、俺を責めないだろうって事も、ちょっとわかってた。

でもどうしても、『俺があんな事言わなければ』って思っちゃってさ…」

薫は小さくため息をつく。

その後、もう1度視線を響子に戻した。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#317 [我輩は匿名である]
「…おかえり、今日子」

薫の声が震えている。

あの日、仕事を早く終わらせて帰ったが、今日子は家にいなかった。

警察から「奥様と思われる方が亡くなった」と連絡が入ったのは、優也が帰ってきた1時間後の事だった。

優也はそれまでずっと、今日子の帰りを待っていたのだ。

響子はその一言に、思わず椅子から立ち上がって薫を強く抱き締めた。

「…うん、…ただいま」

肩や左胸に痛みが走る。が、薫はそんな事はもうどうでも良かった。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#318 [我輩は匿名である]
薫も右手を響子の背中に添える。

やっと、帰ってきてくれた。

薫の目から、一筋の涙が流れ落ちた。

⏰:10/04/05 21:56 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#319 [我輩は匿名である]
>>001-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:10/04/05 22:05 📱:D905i 🆔:fxbTxKTM


#320 [ま]
よかったのぅ(;_;)

⏰:10/04/05 23:23 📱:P04A 🆔:EQ1YcyFU


#321 [我輩は匿名である]
>>319さん
アンカーありがとうございます

>>320さん
薫ちゃんやっと報われましたね(*´∇`)
薫編(?)はこれで一段落です

⏰:10/04/06 08:15 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#322 [我輩は匿名である]
直人は病室の前で、何となく入りづらくて悩んでいた。

結局あの後、救急車のついでに警察までやってきて、いろいろと状況を説明され、

まるで事件のようになってしまい(まぁ事件は事件なのだが)、

怜奈も警察に連れて行かれて、その後どうなったのか知らない。

今日の朝刊に小さく『女子高生が同級生を階段から突き落とす』と載っていた。

補導なり逮捕なりされたのだろうが、怜奈がどうなったのかはどうでも良かった。

「…何してんの?」

背後で声がした。

振り向くと、一緒に事の始終を目撃したあの女子が立っている。

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#323 [我輩は匿名である]
「な、何って…」

「…はぁー、そりゃ入りにくいよね」

女子はわかりきったような口調で言い、ニヤリとする。

「は?」

「そりゃ今頃抱き合ったりチューしたりしてそうだもんね、感極まって」

「…お前そーゆーの鋭いよな、無駄に」

「無駄はないでしょ、無駄は」

女子はムスッとする。

「ちょっとだけ様子見て帰ろっか」

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#324 [我輩は匿名である]
「え、お前も見舞いに来たの?」

「当たり前でしょ!?じゃなきゃ来ないわよ」

そりゃそうだな。直人は「まぁ…」と頷く。

その間に、女子はさっさと部屋に足を踏み入れる。

「(…はやっ)」

女子の行動の速さに直人が呆れていると、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

「はぁ?」

2人はこそこそと小声で話ながら部屋を見渡す。

直人も見てみるが、枕元に「香月響子様」と書かれたベッドが空っぽだ。

⏰:10/04/06 11:23 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#325 [我輩は匿名である]
一方、薫がいるらしいベッドのカーテンは閉めきってある。

「(もしかして、本当に2人であんな事やこんな事まで…?

いやいやいやいや、薫に限ってそんな事はありえない!)」

「こっちかな?」

直人がいやらしい想像をしている間に、女子が薫のカーテンの前に立つ。

「えっ、ちょっ…」

直人が止める前に、女子はカーテンの端を少し開けて中を見た。

中の様子を見て、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

女子はさっきと全く同じ事を言う。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#326 [我輩は匿名である]
「…はぁん?」

直人は「何だそれ」と思いつつ、一緒に中を見る。

そこでは、薫が1人、ベッドですーすーと寝息を立てているだけだった。

「…結構怪我してるね、大丈夫かな?」

「うーん…まぁ寝てるとこ見たら大丈夫なんじゃないか?」

「あなたたち」

2人の後ろで声がする。

恐る恐るそろって振り向くと、怖い顔をした看護師がこっちを睨んでいた。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#327 [我輩は匿名である]
「そこで何してるの?」

「えっ、いや…」

「お見舞いに来たんですけど…」

「そうそう、でも薫寝てるし」

「香月さんもどっか行ってるし…」

2人は慌てて弁解する。

「あぁ、お友達?あんまり怪しかったから、何かと思って」

看護師はきょとんとしている。

「あんたがもたもたしてるからよ」

「俺のせいかよ!」

2人は小声で言い合う。

⏰:10/04/06 16:25 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#328 [我輩は匿名である]
「香月さんなら、今検査に行ってるわよ」

看護師も同じように、こそっと2人に耳打ちする。

「そうなんですか」

「ところでこの2人、やっぱ恋人同士なの?」

看護師が目を輝かせて聞いてきた。

女はみんなこうなのかと、直人は呆れ返る。

「さぁ…どうなのよ、そこんとこ」

「また俺!?ま、まぁ友達未満恋人以上…?」

「逆でしょ、それ」

今度は女子が呆れる。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#329 [我輩は匿名である]
「えー絶対彼氏だと思ってたのに」

「何で?」

「だってさっき…」

看護師が何かを言おうとした時、薫が大きな咳払いをした。

「(起きてる…)」

直人と女子がぎょっとする。

「大丈夫?痰絡んでるから吸引した方がいい?」

「大丈夫です」

看護師の問いに、薫は低い声ではっきりと返事をした。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#330 [我輩は匿名である]
「そう?また何かあったらすぐ言って下さいね」

看護師はそう言って、逃げるように部屋を出ていった。

2人は「どうしよう」と顔を見合わせる。

「…そんな所に突っ立ってないで、入れよ」

薫が少しイラッとしたように言った。

2人は説教される気で、「はい…」と中に入る。

薫の視線が痛い。

「い、いつから起きてたの?」

「『香月さん、いないよ』で目が覚めた」

「お前のせいじゃねーかよ」

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#331 [我輩は匿名である]
「何でそうなるのよー」

「…黙れ。ここ病院だぞ」

「はい…」

少し大きな声がまた言い合う2人に、薫が静かに言い捨てる。

「…怪我、やばそうだな」

「いや、そうでもないよ。じっとしてればほとんど痛くないから」

「そっか、良かったね」

女子がホッとしたようににっこり笑う。

薫はじーっと女子を見つめる。

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#332 [我輩は匿名である]
「…昨日から思ってたんだけどさ」

薫が口を開く。

「うん」

「…あんた、誰?」

薫が言って、直人も思い出したように「そうだよ!」と声を上げる。

「お前誰?何で俺のケータイ持ってたの!?ストーカー!?」

「直人、うるさい」

「ストーカーなわけないでしょ!『落としてたから』って言ったじゃん!」

女子は小声で直人に言い返す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#333 [我輩は匿名である]
「私、香月さんの隣のクラスの安斎奏子」

「あんざいかなこ?」

「そうよ、何か文句ある?」
「いや、ないけど」

直人と奏子のやり取りを見て、薫は小さく笑った。

2人はきょとんとする。

「…何だよ」

「いや、何かお似合いだなぁーと思って」

「誰がこんな奴と!」

直人と奏子はそろって互いを指差す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#334 [我輩は匿名である]
息がピッタリな2人に、薫は声を上げて笑う。

「あー、いたたたた…」

「大丈夫?」

「笑かすな…肋骨に響く…」

薫は左胸をさすりながら呼吸を整える。

「ねぇねぇ、やっぱ香月さんの彼氏さんなの?」

奏子は懲りずに薫の尋ねる。

直人は呆れながら奏子を見下ろす。

⏰:10/04/06 18:38 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#335 [我輩は匿名である]
「彼氏…まぁ彼氏だろうなぁ」

薫は曖昧な返事をする。

奏子も「何それ?」と首をかしげる。

「何かしっくりこないなぁと思って」

「それ以上の関係そうだもんな、お前ら」

「それ以上!?」

奏子は愕然とする。

同時に、薫は直人を睨み上げる。

⏰:10/04/06 18:39 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#336 [我輩は匿名である]
「えっ、えっ、まさか…」

「言っとくけど、俺まだキスとか手出したりとかしてないからな」

「『まだ』!?」

女子は「真面目そうに見えるのに…」と、哀れみの視線を薫に送る。

「もう帰れ!俺は疲れてるんだ!」

薫は2人を怒鳴り付ける。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#337 [我輩は匿名である]
2人は「失礼しましたー!」と、走って出ていった。

薫は本当に疲れたように、大きくため息をつく。

「ただいまー」

入れ違いに、響子が検査から帰ってきた。

「…どうしたの?怖いよ?顔」

勝手に薫のベッドのカーテンを開けながら、響子が尋ねる。

「いや…大丈夫…」

薫は返事をしながら、大きくため息をついた。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#338 [我輩は匿名である]
「はぁ…疲れた…」

病院を出て、直人と奏子は息を切らせて立ち止まる。

「本当…あんなに怒られると思わなかったね…」

「お前…地雷踏みすぎだろ…」

「そ…そうかな…?」

2人は話ながら、目の前にあった椅子に座る。

「…さっきの看護師…何言い掛けてたんだろうな…?」

「…ほんとだね」

「かなり気になるね」と、奏子は目を光らせる。

その様子に若干呆れながら、直人も考える。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#339 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり…わかるもんなのかな…?)」

薫は高校に入ってすぐ、響子が前世の自分の妻だった人だと見破った。

それは、ただ薫が、勘が冴える奴だからなのか、

それとも本を持つ者はみんなそうなのか…。

もし後者なら、自分にもそんな力があるのか…?

「……そう言えば…大橋さん…どうなったんだろうね…」

奏子がふと、そんな事を言った。

考え込んでいた直人は、「は?」と、ふざけた声を出す。

「……どーでもいいよ…あんなやつ……」

奏子は「まぁね…」と頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#340 [我輩は匿名である]
「…大橋さんさ…小学校の時から、あんな感じだったんだ」

「え、知ってんの?」

「小・中一緒だったもん」

こいつは何でも知ってるな。直人はじーっと奏子を見る。

「ほら…あの子、結構背も高いし、顔も可愛い方だし、スタイルも抜群でしょ?

だから、周りからちやほやされっぱなしで…」

「だから調子にのったのか、あいつ」

奏子は頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#341 [我輩は匿名である]
「自分が欲しいものは絶対手に入れないと気が済まない。

でも、月城くんは香月さんを選んだ。

…だから、許せなかったんじゃない?」

「まぁ香月は結構ちっちゃいしな」

「そうだね、私は香月さんの方が可愛いと思うけど」

「可愛いっていうか、将来美人になりそうな顔だよな」

2人は「うんうん」と頷く。

「…だから『私より劣ってるくせに』とか言ってたのか」

「そういう事。ここまで大事になったのは初めてだよ。

もういい加減懲りて、こんな事しなくなるんじゃない?」

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#342 [我輩は匿名である]
「これ以上やったらもう人間失格だろ」

直人はため息をつきながら笑う。

「…さて、帰るか」

「そうだね」

直人と奏子は椅子から立ち上がり、一緒に家に帰っていった。

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#343 [我輩は匿名である]
「さーてさて…お?」

奏子と別れて1人で歩いていた直人は、ふと足を止める。

目の前を、ジャージを着た金髪の女性が歩いている。

飛鳥のようだ。

直人は早足で近づく。

斜め後ろくらいから顔を見ようと、前かがみで歩く。

「(やっぱりな)」

ジャージの女性は、やはり飛鳥だった。

「おい、金髪女」

直人はポンと、彼女の肩をたたく。

⏰:10/04/06 20:42 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#344 [我輩は匿名である]
飛鳥は足を止め、ゆっくりと振り向く。

彼女の顔を見て、直人は少し驚いた。

ひどく疲れたような、暗い表情。

「え、何…どうしたんだよ?…お前、最近元気ないぞ?」

直人は内心焦りながら、おどけて笑ってみせる。

が、飛鳥はにこりともしない。

彼女が笑わないのはいつもの事だが、今日はどう見ても様子がおかしい。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#345 [我輩は匿名である]
「…あんたさぁ…」

飛鳥が静かに口を開く。

「…本読んでて、人間不信になった事ない…?」

「…は…?」

直人は首をかしげる。

「俺は、別に…ないけど…」

「……だろうね、あんたなら。…変な事聞いた、ごめん…忘れて」

飛鳥はそれだけ言って、またフラフラ歩きだす。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#346 [我輩は匿名である]
「ちょ、ちょっと待てよ」

直人はとっさに、飛鳥の手を掴む。

しかし、飛鳥が素早くその手を振り払ってしまった。

「……ほっといて…。誰とも話したくない…」

直人は言葉が出なかった。

一体何があったのだろう…?

寂しげに見える飛鳥の背中を、直人はただ心配そうに見つめるしかできなかった。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#347 [我輩は匿名である]
次から次へと問題が起きる。

薫の件がほとんど片付いたと思えば、今度は飛鳥の様子がおかしい。

ベッドの上で、直人はぼーっと考える。

『本を読んでて、人間不信になった事ない?』

あの言葉は一体何だったのだろう。

「(…あいつが…今そうなのかな…?)」

今まで普通に話していたのに、「誰とも話したくない」と言う。

彼女の話からすれば、本のせいでおかしくなったのは明らかだ。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#348 [我輩は匿名である]
「(…あ!そういえば)」

直人は飛び起きて、机にほったらかしになっていた本を手にとる。

昨日は怜奈の一件で、本を見るのを忘れていた。

「あー、くそう…昨日何もなかったよな…?」

直人は何もなかった事を願いながら本を開く。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#349 [我輩は匿名である]
要は直人と同じように、布団の上に寝転がっていた。

「…晶ちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう…?」

部屋の中で1人呟く。

この間会いに行った時の、晶のあの態度。

直人と同じように、要もかなり気にしていた。

「(…そりゃそうだよな…。俺は…)」

こいつの生まれ変わりなんだから。

そう思いかけて、直人はふと、それを止めた。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#350 [我輩は匿名である]
“本の中の自分”は、自分の前世の人間。

先に本を手にし、全て読み終えた薫が認めるのだから、ほぼ間違いない。

それでも、直人はどこか、それを認めたくなかった。

「俺の前世が要だろうが…俺は俺だ…」

心の中でそう呟いた後、変に複雑な気分になった。

「…もし明日も来なかったら、もう1回会いに行ってみよう」

「…この間来なかったんだから、明日も来るわけないだろ…」

要の言葉に、直人は呆れたように言い返す。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


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