記憶を売る本屋さん
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#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。

「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。

でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」

響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。

「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。

そう思うと、もう涙が止まらない。

⏰:10/04/05 09:26 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#302 [我輩は匿名である]
「お前を見つけて……もう1度…プロポーズして……結婚して…次はちゃんと…あの子を…生んでやらないと…な…。

子どもは……2人が…いいな…。男の子と…女の子…。

男の子には…俺が…野球を…教えて…

女の子は…そうだな……今日子が…料理とか…教えるのも…いいかも…しれないな…。

子どもが大きくな…て……独り立ちしたら……俺達2人……いろんな所に…旅行に行こう……。

新婚旅行しか……どこにも…連れて行って…あげれなかった…から…」

優也の声が、息遣いが、だんだん小さくなってきている。

もうもたない。響子は思った。

息をする度に、ヒューヒューと苦しそうな音が、響子まで聞こえてくる。

何とか出来るなら何とかしてあげたい。響子はやるせなさでいっぱいだった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#303 [我輩は匿名である]
痰が絡んでももう咳をする力も無くなってきたのか、優也は下を向く。

「(…優也…もう息が…)」

さっきまで肩で必死に息をしていたが、今はそうではなくなってきている。

「…今日…子……、…ごめん…ごめん、な……」

優也はそれきり、もう何も話さなかった。

⏰:10/04/05 09:27 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#304 [我輩は匿名である]
「…うー」

不意に、赤ちゃんが声を出した。

目が潤んだまま視線を下ろすと、赤ちゃんはじっと、優也の方を見ている。

普通この小さならまだあまり目が見えないはずだが、赤ちゃんはまっすぐに彼を見ていた。

「…君のお父さんだよ」

響子は小さく笑う。

「次に生まれて来た時は…いっぱい抱っこしてもらおうね」

響子の腕の中の赤ちゃんは、まるでその言葉がわかったかのように、にっこり笑った。

⏰:10/04/05 09:28 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#305 [我輩は匿名である]
響子は静かに目を覚ます。

目の前には、真っ白い天井。家の天井ではない。

「あっ、目、覚めました?ここ病院ですよ」

足元で女性の声がする。

「病院…?」

「大丈夫?どこか痛む?」

声の主は、看護師だった。

「え…?」

「だって、涙出てるよ?」

そう言われて、響子は目の辺りを触る。確かに、両目に一筋の涙のあとがある。

⏰:10/04/05 21:49 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#306 [我輩は匿名である]
それも、まだ出来たばかりの。

「い…痛いんじゃないんです…」

響子は慌てて涙を拭く。

「そ、それより!」

ハッと思い出して、響子は飛び起きる。その拍子にベッドがギイッと音を立てる。

「私、私と一緒に、男の子が運ばれてきませんでしたか!?月城薫っていう子!」

急に声を上げたため、看護師は驚いている。

「…その子なら」

目をぱちくりさせつつ、看護師は響子に背を向け、響子の前のベッドを指差す。

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#307 [我輩は匿名である]
「そこのベッドにいるわよ。あなたより重症だけど、結構早く目を覚ましてたよ」

カーテンで仕切られていて、このベッドの外が見えない。

しかし、カーテンの外が明るいのはわかる。

「…今、何時ですか?」

「今?今ねぇ、朝の9時過ぎ」

「…朝?えっ、朝ですか?」

「えぇ、香月さん、昨日階段から落ちてからずっと寝てたのよ。大丈夫?」

「へ?はぁ、何ともないです」

「そう。ちょっと頭打ってたみたいだから、それでかな。一応今日検査の予定が入ってるから」

「検査…はい、わかりました」

⏰:10/04/05 21:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#308 [我輩は匿名である]
いまいちよくわからないまま、響子は了承する。

看護師はホッとしたように、響子の検温を始めた。

⏰:10/04/05 21:51 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#309 [我輩は匿名である]
検温が終わり、看護師が部屋を出て行った。

血圧も体温も呼吸数も脈拍も、全て問題無い。

怪我も、薫がかばってくれたからか、かすり傷で済んでいる。

「(はっ!月城くんは!?)」

響子はベッドの下に置いてあるスリッパを履き、一応挿してある点滴を引っ張って薫のベッドに向かう。

響子のベッドのカーテンを開けると、薫のベッドのカーテンも閉まっていた。

何だか少し緊張する。

が、今そんな事を言っている場合ではない。

響子はゆっくりと、薫のベッドのカーテンを開ける。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#310 [我輩は匿名である]
「…よぉ」

薫は、意外にも元気そうに挨拶してきた。

が、頭には包帯を巻かれ、左肩はギプスをした上に、腕ごと牽引されている。

ベッドも30度程頭を上げてある。

看護師の「重症」と言う事葉を思い出す。

「…月城くん…」

「…あぁ、何か結構ひどいな、俺」

薫は苦笑しつつ、自分の体を見る。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#311 [我輩は匿名である]
「頭は打撲で、何針か縫ったらしい。

このギプスは…鎖骨骨折って言われたかな。

肋骨も1本ヒビ入ってるらしいし、足もひねってる」

薫は開き直り、まるで自慢のように言う。

他にも、右の頬を覆うように湿布が貼られていたり、右手の指にまとめて包帯が巻かれている。

響子はそれを、じっと見つめる。

彼女の表情を見て、薫は小さくため息をつく。

「…全部思い出したのか、お前の事も、…俺の事も」

響子は黙って頷く。

⏰:10/04/05 21:52 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#312 [我輩は匿名である]
薫はいつものように「そうか」と返事をする。

「…あなたが、死ぬところまで知ってる」

声を震わせて、響子は言った。

「…だからか」

薫は何かを納得したように返事をする。

「…嫌いになるわけないじゃない」

涙ぐみながら、響子は言う。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#313 [我輩は匿名である]
「私は、死ぬまでずっと、優也の事大好きだったよ。

…死んだ後も、今も、死ぬ前と同じぐらい大好きだよ。

なのに…何で『俺の事嫌いになったかもしれない』とか言うの?」

言っているうちに、またぼろぼろと涙が出てきた。

前からそうだった。1度泣けば、なかなか泣き止まない。

それを見て、優也はいつも呆れて笑っていた。

そんな事を思い出せば、また余計に涙が止まらなくなる。

⏰:10/04/05 21:53 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#314 [我輩は匿名である]
「それに、私は優也のせいで死んだんじゃないよ。

逆に、私は優也の作る晩ご飯すごく楽しみだったし、買い物中も晩ご飯の事しか考えてなかったし…。

なのに、何で最後の最後まで私に謝って死ぬの?

私が、優也のせいで死んだって思ってると思ってた?」

「…キョウコ」

「『何もしてやれなかった』って、何でそんな事ばっかり言うの?

私は優也と一緒にいて、それだけで良かった。

横にいてくれるだけで良かったの…!

なのに、そんなに謝らないでよバカ…!」

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#315 [我輩は匿名である]
響子は、夢の中で感じた想いを全て薫にぶつける。

薫も黙ったまま、泣いている響子を見つめていた。

「…香月、おいで」

しばらくして、薫は右手で手招きした。

カーテンの所に立ちっぱなしだった響子は、そう言われてやっと、ベッドの傍の椅子に腰を下ろす。

それでもまだ泣き止まない響子に薫は呆れたように笑う。

「…本当によく泣くよな、昔から」

そう言った彼の顔は、優也の呆れ笑いそのものだった。

「…だって…」

それを見て、響子も笑みをこぼす。

⏰:10/04/05 21:54 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#316 [我輩は匿名である]
「1回泣くと止まらないんだもん、…昔から」

大きく息を吐きながら、響子は涙を拭く。

もうすでに、右手の袖がかなり濡れている。

「…悪かったよ。でも俺は…お前に謝らないと、どうしても気が済まなかった」

薫は響子から視線を外して言った。

「今日子がそんな事で怒らない性格も、俺を責めないだろうって事も、ちょっとわかってた。

でもどうしても、『俺があんな事言わなければ』って思っちゃってさ…」

薫は小さくため息をつく。

その後、もう1度視線を響子に戻した。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#317 [我輩は匿名である]
「…おかえり、今日子」

薫の声が震えている。

あの日、仕事を早く終わらせて帰ったが、今日子は家にいなかった。

警察から「奥様と思われる方が亡くなった」と連絡が入ったのは、優也が帰ってきた1時間後の事だった。

優也はそれまでずっと、今日子の帰りを待っていたのだ。

響子はその一言に、思わず椅子から立ち上がって薫を強く抱き締めた。

「…うん、…ただいま」

肩や左胸に痛みが走る。が、薫はそんな事はもうどうでも良かった。

⏰:10/04/05 21:55 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#318 [我輩は匿名である]
薫も右手を響子の背中に添える。

やっと、帰ってきてくれた。

薫の目から、一筋の涙が流れ落ちた。

⏰:10/04/05 21:56 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#319 [我輩は匿名である]
>>001-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:10/04/05 22:05 📱:D905i 🆔:fxbTxKTM


#320 [ま]
よかったのぅ(;_;)

⏰:10/04/05 23:23 📱:P04A 🆔:EQ1YcyFU


#321 [我輩は匿名である]
>>319さん
アンカーありがとうございます

>>320さん
薫ちゃんやっと報われましたね(*´∇`)
薫編(?)はこれで一段落です

⏰:10/04/06 08:15 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#322 [我輩は匿名である]
直人は病室の前で、何となく入りづらくて悩んでいた。

結局あの後、救急車のついでに警察までやってきて、いろいろと状況を説明され、

まるで事件のようになってしまい(まぁ事件は事件なのだが)、

怜奈も警察に連れて行かれて、その後どうなったのか知らない。

今日の朝刊に小さく『女子高生が同級生を階段から突き落とす』と載っていた。

補導なり逮捕なりされたのだろうが、怜奈がどうなったのかはどうでも良かった。

「…何してんの?」

背後で声がした。

振り向くと、一緒に事の始終を目撃したあの女子が立っている。

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#323 [我輩は匿名である]
「な、何って…」

「…はぁー、そりゃ入りにくいよね」

女子はわかりきったような口調で言い、ニヤリとする。

「は?」

「そりゃ今頃抱き合ったりチューしたりしてそうだもんね、感極まって」

「…お前そーゆーの鋭いよな、無駄に」

「無駄はないでしょ、無駄は」

女子はムスッとする。

「ちょっとだけ様子見て帰ろっか」

⏰:10/04/06 11:22 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#324 [我輩は匿名である]
「え、お前も見舞いに来たの?」

「当たり前でしょ!?じゃなきゃ来ないわよ」

そりゃそうだな。直人は「まぁ…」と頷く。

その間に、女子はさっさと部屋に足を踏み入れる。

「(…はやっ)」

女子の行動の速さに直人が呆れていると、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

「はぁ?」

2人はこそこそと小声で話ながら部屋を見渡す。

直人も見てみるが、枕元に「香月響子様」と書かれたベッドが空っぽだ。

⏰:10/04/06 11:23 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#325 [我輩は匿名である]
一方、薫がいるらしいベッドのカーテンは閉めきってある。

「(もしかして、本当に2人であんな事やこんな事まで…?

いやいやいやいや、薫に限ってそんな事はありえない!)」

「こっちかな?」

直人がいやらしい想像をしている間に、女子が薫のカーテンの前に立つ。

「えっ、ちょっ…」

直人が止める前に、女子はカーテンの端を少し開けて中を見た。

中の様子を見て、女子がこっちを向く。

「香月さん、いないよ」

女子はさっきと全く同じ事を言う。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#326 [我輩は匿名である]
「…はぁん?」

直人は「何だそれ」と思いつつ、一緒に中を見る。

そこでは、薫が1人、ベッドですーすーと寝息を立てているだけだった。

「…結構怪我してるね、大丈夫かな?」

「うーん…まぁ寝てるとこ見たら大丈夫なんじゃないか?」

「あなたたち」

2人の後ろで声がする。

恐る恐るそろって振り向くと、怖い顔をした看護師がこっちを睨んでいた。

⏰:10/04/06 12:13 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#327 [我輩は匿名である]
「そこで何してるの?」

「えっ、いや…」

「お見舞いに来たんですけど…」

「そうそう、でも薫寝てるし」

「香月さんもどっか行ってるし…」

2人は慌てて弁解する。

「あぁ、お友達?あんまり怪しかったから、何かと思って」

看護師はきょとんとしている。

「あんたがもたもたしてるからよ」

「俺のせいかよ!」

2人は小声で言い合う。

⏰:10/04/06 16:25 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#328 [我輩は匿名である]
「香月さんなら、今検査に行ってるわよ」

看護師も同じように、こそっと2人に耳打ちする。

「そうなんですか」

「ところでこの2人、やっぱ恋人同士なの?」

看護師が目を輝かせて聞いてきた。

女はみんなこうなのかと、直人は呆れ返る。

「さぁ…どうなのよ、そこんとこ」

「また俺!?ま、まぁ友達未満恋人以上…?」

「逆でしょ、それ」

今度は女子が呆れる。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#329 [我輩は匿名である]
「えー絶対彼氏だと思ってたのに」

「何で?」

「だってさっき…」

看護師が何かを言おうとした時、薫が大きな咳払いをした。

「(起きてる…)」

直人と女子がぎょっとする。

「大丈夫?痰絡んでるから吸引した方がいい?」

「大丈夫です」

看護師の問いに、薫は低い声ではっきりと返事をした。

⏰:10/04/06 16:26 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#330 [我輩は匿名である]
「そう?また何かあったらすぐ言って下さいね」

看護師はそう言って、逃げるように部屋を出ていった。

2人は「どうしよう」と顔を見合わせる。

「…そんな所に突っ立ってないで、入れよ」

薫が少しイラッとしたように言った。

2人は説教される気で、「はい…」と中に入る。

薫の視線が痛い。

「い、いつから起きてたの?」

「『香月さん、いないよ』で目が覚めた」

「お前のせいじゃねーかよ」

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#331 [我輩は匿名である]
「何でそうなるのよー」

「…黙れ。ここ病院だぞ」

「はい…」

少し大きな声がまた言い合う2人に、薫が静かに言い捨てる。

「…怪我、やばそうだな」

「いや、そうでもないよ。じっとしてればほとんど痛くないから」

「そっか、良かったね」

女子がホッとしたようににっこり笑う。

薫はじーっと女子を見つめる。

⏰:10/04/06 18:33 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#332 [我輩は匿名である]
「…昨日から思ってたんだけどさ」

薫が口を開く。

「うん」

「…あんた、誰?」

薫が言って、直人も思い出したように「そうだよ!」と声を上げる。

「お前誰?何で俺のケータイ持ってたの!?ストーカー!?」

「直人、うるさい」

「ストーカーなわけないでしょ!『落としてたから』って言ったじゃん!」

女子は小声で直人に言い返す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#333 [我輩は匿名である]
「私、香月さんの隣のクラスの安斎奏子」

「あんざいかなこ?」

「そうよ、何か文句ある?」
「いや、ないけど」

直人と奏子のやり取りを見て、薫は小さく笑った。

2人はきょとんとする。

「…何だよ」

「いや、何かお似合いだなぁーと思って」

「誰がこんな奴と!」

直人と奏子はそろって互いを指差す。

⏰:10/04/06 18:34 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#334 [我輩は匿名である]
息がピッタリな2人に、薫は声を上げて笑う。

「あー、いたたたた…」

「大丈夫?」

「笑かすな…肋骨に響く…」

薫は左胸をさすりながら呼吸を整える。

「ねぇねぇ、やっぱ香月さんの彼氏さんなの?」

奏子は懲りずに薫の尋ねる。

直人は呆れながら奏子を見下ろす。

⏰:10/04/06 18:38 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#335 [我輩は匿名である]
「彼氏…まぁ彼氏だろうなぁ」

薫は曖昧な返事をする。

奏子も「何それ?」と首をかしげる。

「何かしっくりこないなぁと思って」

「それ以上の関係そうだもんな、お前ら」

「それ以上!?」

奏子は愕然とする。

同時に、薫は直人を睨み上げる。

⏰:10/04/06 18:39 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#336 [我輩は匿名である]
「えっ、えっ、まさか…」

「言っとくけど、俺まだキスとか手出したりとかしてないからな」

「『まだ』!?」

女子は「真面目そうに見えるのに…」と、哀れみの視線を薫に送る。

「もう帰れ!俺は疲れてるんだ!」

薫は2人を怒鳴り付ける。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#337 [我輩は匿名である]
2人は「失礼しましたー!」と、走って出ていった。

薫は本当に疲れたように、大きくため息をつく。

「ただいまー」

入れ違いに、響子が検査から帰ってきた。

「…どうしたの?怖いよ?顔」

勝手に薫のベッドのカーテンを開けながら、響子が尋ねる。

「いや…大丈夫…」

薫は返事をしながら、大きくため息をついた。

⏰:10/04/06 18:40 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#338 [我輩は匿名である]
「はぁ…疲れた…」

病院を出て、直人と奏子は息を切らせて立ち止まる。

「本当…あんなに怒られると思わなかったね…」

「お前…地雷踏みすぎだろ…」

「そ…そうかな…?」

2人は話ながら、目の前にあった椅子に座る。

「…さっきの看護師…何言い掛けてたんだろうな…?」

「…ほんとだね」

「かなり気になるね」と、奏子は目を光らせる。

その様子に若干呆れながら、直人も考える。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#339 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり…わかるもんなのかな…?)」

薫は高校に入ってすぐ、響子が前世の自分の妻だった人だと見破った。

それは、ただ薫が、勘が冴える奴だからなのか、

それとも本を持つ者はみんなそうなのか…。

もし後者なら、自分にもそんな力があるのか…?

「……そう言えば…大橋さん…どうなったんだろうね…」

奏子がふと、そんな事を言った。

考え込んでいた直人は、「は?」と、ふざけた声を出す。

「……どーでもいいよ…あんなやつ……」

奏子は「まぁね…」と頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#340 [我輩は匿名である]
「…大橋さんさ…小学校の時から、あんな感じだったんだ」

「え、知ってんの?」

「小・中一緒だったもん」

こいつは何でも知ってるな。直人はじーっと奏子を見る。

「ほら…あの子、結構背も高いし、顔も可愛い方だし、スタイルも抜群でしょ?

だから、周りからちやほやされっぱなしで…」

「だから調子にのったのか、あいつ」

奏子は頷く。

⏰:10/04/06 20:27 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#341 [我輩は匿名である]
「自分が欲しいものは絶対手に入れないと気が済まない。

でも、月城くんは香月さんを選んだ。

…だから、許せなかったんじゃない?」

「まぁ香月は結構ちっちゃいしな」

「そうだね、私は香月さんの方が可愛いと思うけど」

「可愛いっていうか、将来美人になりそうな顔だよな」

2人は「うんうん」と頷く。

「…だから『私より劣ってるくせに』とか言ってたのか」

「そういう事。ここまで大事になったのは初めてだよ。

もういい加減懲りて、こんな事しなくなるんじゃない?」

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#342 [我輩は匿名である]
「これ以上やったらもう人間失格だろ」

直人はため息をつきながら笑う。

「…さて、帰るか」

「そうだね」

直人と奏子は椅子から立ち上がり、一緒に家に帰っていった。

⏰:10/04/06 20:28 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#343 [我輩は匿名である]
「さーてさて…お?」

奏子と別れて1人で歩いていた直人は、ふと足を止める。

目の前を、ジャージを着た金髪の女性が歩いている。

飛鳥のようだ。

直人は早足で近づく。

斜め後ろくらいから顔を見ようと、前かがみで歩く。

「(やっぱりな)」

ジャージの女性は、やはり飛鳥だった。

「おい、金髪女」

直人はポンと、彼女の肩をたたく。

⏰:10/04/06 20:42 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#344 [我輩は匿名である]
飛鳥は足を止め、ゆっくりと振り向く。

彼女の顔を見て、直人は少し驚いた。

ひどく疲れたような、暗い表情。

「え、何…どうしたんだよ?…お前、最近元気ないぞ?」

直人は内心焦りながら、おどけて笑ってみせる。

が、飛鳥はにこりともしない。

彼女が笑わないのはいつもの事だが、今日はどう見ても様子がおかしい。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#345 [我輩は匿名である]
「…あんたさぁ…」

飛鳥が静かに口を開く。

「…本読んでて、人間不信になった事ない…?」

「…は…?」

直人は首をかしげる。

「俺は、別に…ないけど…」

「……だろうね、あんたなら。…変な事聞いた、ごめん…忘れて」

飛鳥はそれだけ言って、またフラフラ歩きだす。

⏰:10/04/06 20:43 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#346 [我輩は匿名である]
「ちょ、ちょっと待てよ」

直人はとっさに、飛鳥の手を掴む。

しかし、飛鳥が素早くその手を振り払ってしまった。

「……ほっといて…。誰とも話したくない…」

直人は言葉が出なかった。

一体何があったのだろう…?

寂しげに見える飛鳥の背中を、直人はただ心配そうに見つめるしかできなかった。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#347 [我輩は匿名である]
次から次へと問題が起きる。

薫の件がほとんど片付いたと思えば、今度は飛鳥の様子がおかしい。

ベッドの上で、直人はぼーっと考える。

『本を読んでて、人間不信になった事ない?』

あの言葉は一体何だったのだろう。

「(…あいつが…今そうなのかな…?)」

今まで普通に話していたのに、「誰とも話したくない」と言う。

彼女の話からすれば、本のせいでおかしくなったのは明らかだ。

⏰:10/04/06 20:44 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#348 [我輩は匿名である]
「(…あ!そういえば)」

直人は飛び起きて、机にほったらかしになっていた本を手にとる。

昨日は怜奈の一件で、本を見るのを忘れていた。

「あー、くそう…昨日何もなかったよな…?」

直人は何もなかった事を願いながら本を開く。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#349 [我輩は匿名である]
要は直人と同じように、布団の上に寝転がっていた。

「…晶ちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう…?」

部屋の中で1人呟く。

この間会いに行った時の、晶のあの態度。

直人と同じように、要もかなり気にしていた。

「(…そりゃそうだよな…。俺は…)」

こいつの生まれ変わりなんだから。

そう思いかけて、直人はふと、それを止めた。

⏰:10/04/06 20:45 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#350 [我輩は匿名である]
“本の中の自分”は、自分の前世の人間。

先に本を手にし、全て読み終えた薫が認めるのだから、ほぼ間違いない。

それでも、直人はどこか、それを認めたくなかった。

「俺の前世が要だろうが…俺は俺だ…」

心の中でそう呟いた後、変に複雑な気分になった。

「…もし明日も来なかったら、もう1回会いに行ってみよう」

「…この間来なかったんだから、明日も来るわけないだろ…」

要の言葉に、直人は呆れたように言い返す。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#351 [我輩は匿名である]
今日はそこまでだった。

直人は頭を抱える。

「…俺は…俺だよな…」

そう言いながら、直人は携帯電話に手を伸ばす。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#352 [我輩は匿名である]
「なぁ」

部屋の窓から夕日を眺めながら話していた薫は、ふと響子に言う。

「ん?」

「…そろそろ…“月城くん”って呼ぶの、やめないか?」

いきなりの申し出に、響子は隣できょとんとする。

が、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「…私の事、まだ“長谷部今日子”って呼ぶくせに」

⏰:10/04/07 10:42 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#353 [我輩は匿名である]
「…あれは…」

薫は「うーん…」と首をかしげる。

“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”

もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。

そういう思いもあった。


しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。

「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」

響子はぽつりと言った。

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#354 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」

響子は少し淋しそうに下を向く。

「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」

響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。

「…キョウコ…?」

「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」

響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#355 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?

顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。

でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」

響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。

「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。

“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。

…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」

響子の声が震えている。

薫は何も言えなかった。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#356 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。

「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」

響子はうつむいたまま言う。

「でも…」

「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#357 [我輩は匿名である]
何か言おうとするが、響子が先に、ベッドのナースコールを押す。

それに出るより早く、受け持ちの看護師がやってきた。

「どうしました?」

「電話しに行きたいらしいんですけど…」

「あぁ、電話ね。座れる?座れそうなら車椅子持ってくるけど…」

「え、あぁ…はい…」

うわの空のまま薫が答えると、看護師は「じゃあちょっと待っててね」と、車椅子を取りに行ってくれた。

看護師が戻ってくるまで、薫も響子も、何も言わないまま目を逸らしていた。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#358 [我輩は匿名である]
「…あぁ…病院だし、電話すんのはマズかったかなぁ…」

直人は、メールじゃなく電話をかけた事を後悔した。

考え直して、メールを作成し始める。

すると、途中で薫から折り返しの電話がかかってきた。

「もしもし?」

「…ごめん、病室じゃ電話出来ないから、移動してた」

そう言った薫の声が、昼に比べて暗かった。

「もしかして、寝起き?」

「…いや…起きてたけど」

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#359 [我輩は匿名である]
「そうか?なんか暗そうだけど」

「そんな事より、どうした?」

薫は直人の話を遮るように聞き返す。

「え、あぁ…」

何から言えばいいのかわからず、直人は焦る。

「…お前さぁ、本の中の自分の事、すぐ“自分の前世だ”って思えた?」

「…どういう意味?」

薫はまた聞き返す。

思うように伝えられず、直人は頭を抱える。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#360 [我輩は匿名である]
「なんか最近、本読んでたら、変な感じがするんだ。

今までは、要と考える事も、言いたい事も一緒で、『こいつが俺の前世なのかぁ』って思ってたんだけど…

なんか、そう思いたくなくなってきたんだよ。

自分が自分じゃなくなってきそうな気がしてさ…。

どう言えばいいのかわかんねぇけど…“俺はあいつじゃない”っつーか…。

“俺は俺だ”って言い聞かせとかないと…気分悪くなってくるんだよ」

「…“俺は俺”…」

薫はぼそっと、それだけ繰り返した。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#361 [我輩は匿名である]
「薫は、そんな事思った時なかった?」

直人が尋ねるが、薫から返事はない。

「…薫?」

「え?あぁ、ごめん、…もう1回言って」

「だぁかぁらぁ、薫はそう思った事なかったか?って」

直人は少し強めの口調で言い直す。

「…俺は…なかったな…。ただ黙って、何も思わないまま、目の前の事を見てるだけだった…」

薫の言い方が、まるで後悔しているように聞こえる。

いつも何でも知っている薫がこれでは、自分が正しいのか正しくないのかわからない。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#362 [我輩は匿名である]
「なぁ、何かあったのかよ?元気ないだろ?お前」

直人は問いただすように尋ねる。

「…お前は…」

薫はそれだけ言って、また黙ってしまった。

「もう!何なんだよ!?言いたい事あるならさっさと言えよ!」

短気な直人は、イライラしたように声を上げる。

「…何かもう、わからなくなってきた」

薫は弱々しく言った。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#363 [我輩は匿名である]
「何が」

「…さっき、キョウコに…香月に言われたんだ。

“私は月城薫が好きだ。でも月城くんが言うキョウコは、どっちのキョウコなのか”

…って」

直人は、最初は意味がわからなかった。

思わず「は?」と聞き返す。

「…香月は…“霜月優也”じゃなくて、“俺”を見てくれてる。

でも俺は…誰を見てるんだろう…。そう思ったら、もうわからなくなってきてさ…」

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#364 [我輩は匿名である]
直人には、薫の話がバカらしく聞こえて仕方がなかった。

「…お前って、そんな失礼な奴だっけ?」

直人はストレートに言い返す。

「そりゃお前、“お前より前の女の方が好きです”って言ってるようなもんだろ。

しかもあいつは、前の夫より“お前”が好きだって言ってくれてんだろ?

そりゃあ、香月が怒るのも無理ないだろ」

薫は「響子が怒っている」とまでは言わなかったが、直人はそこまで言い切る。

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#365 [我輩は匿名である]
「それに…名前忘れたけど、前の嫁はもう死んだんだぞ?

いつまでもその人ばっか考えてたってしょーがねぇだろ。

その人はその人、香月は香月だろ」

そして、言った自分もハッとする。

「直人…」

「そうだ!やっぱそうだよな!」

直人は自分で納得し、ガッツポーズをする。

「何…」

「わりぃ!自己解決したわ!じゃあな!」

直人は大声で言って、一方的に電話を切った。

⏰:10/04/07 11:05 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#366 [ま]
うっへーい

⏰:10/04/07 16:47 📱:P04A 🆔:tadRV.Mw


#367 [我輩は匿名である]
「あぁ…あれは…」

薫は『どう言えばいいのか』と首をかしげる。

“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”

もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。

そういう思いもあった。


しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。

「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」

響子はぽつりと言った。

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/07 18:24 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#368 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」

響子は少し淋しそうに下を向く。

「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」

響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。

「…キョウコ…?」

「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」

響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#369 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?

顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。

でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」

響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。

「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。

“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。

…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」

響子の声が震えている。

薫は何も言えなかった。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#370 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。

「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」

響子はうつむいたまま言う。

「でも…」

「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。

⏰:10/04/07 18:25 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#371 [我輩は匿名である]
すいません、
>>367-370
はミスです

失礼しました

⏰:10/04/07 18:28 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#372 [我輩は匿名である]
薫は「何だったんだ…」と携帯電話を見つめる。

「(…“そりゃ怒るだろ”…か…。…そうだよな…)」

直人の言った事を、薫はもう1度思い返す。

そして、薫は来たときよりも早く車椅子を走らせて、病室に戻った。

響子は自分のベッドに転がっている。

「香月、ごめん」

帰って来て早々、薫は響子に頭を下げる。

響子は少し驚いたように起き上がる。

「…どうしたの?」

⏰:10/04/07 18:31 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#373 [我輩は匿名である]
「…俺…おかしかった」

響子は黙って、薫を見つめる。

「俺、香月響子と長谷部今日子は同じだと思ってた。
自分の事も、“俺は霜月優也だ”としか思ってなかった…。

だから正直…お前を“香月響子”だと思って接した事はない。

今までずっと、お前を“長谷部今日子”だと思って傍にいたんだ」

薫は、響子に嫌われる事を承知で、全て話した。

⏰:10/04/07 18:32 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#374 [我輩は匿名である]
「お前は…香月は最初から“俺”と“霜月優也”を別にして考えてくれてた…。

……当たり前だよな…。長谷部今日子も霜月優也も、もう死んでこの世にいないのに…。

同じ人間がいるなんて事…あるわけないんだよな…。

…何でそんな簡単な事もわからなかったんだろうな…俺…」

薫はずっと頭を下げたまま話す。

あの体勢では、怪我した左胸が痛んでいるはずだ。

「…月城くん…もういいよ」

響子は止めようとするが、薫は頭を上げようとはしない。

⏰:10/04/07 18:32 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#375 [我輩は匿名である]
今まで、響子は“月城薫”を好きでいてくれた。

“霜月優也”を好きなのは、彼女の記憶の中の、“別の女”だ。

余計にこんがらがりそうな頭の中を、薫は必死に整理する。

今まで自分の隣にいてくれたのは誰?

今まで自分に優しく笑いかけてくれたのは誰?

「(でも俺は…今まで今日子しか…)」

「その人はその人」

直人の言葉が頭に浮かぶ。
響子は、下を向いたまま考え込んでしまった薫を気にして、立ち上がって隣にやって来た。

⏰:10/04/07 18:33 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#376 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?」

「なんかもう…わからなくなってきた…」

薫は深刻そうな顔で考える。

響子はため息をつき、こんな事を言いだした。

「どうしても長谷部今日子の事しか考えられないなら、私が越えてやるわ。

月城くんが他に何にも考えられないぐらいの女になってやる。

そうすれば、月城くんもスッキリするでしょ?」

何を言いだすのかと、薫思わず顔を上げる。

響子は自信満々に笑っている。

それががおかしくて、薫も呆れたように笑い返した。

⏰:10/04/07 18:43 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#377 [我輩は匿名である]
「出来んのか?お前に」

「私が『会いたくない』ってメールしただけで淋しがる男が何言ってるの?」

響子は怯むことなく言い返してくる。

「わからせてあげるわ。私は長谷部今日子とは違うって事」

「…まぁ、身長は伸びたもんなぁ。それでもまだまだチビだけど」

薫は意地悪そうに笑い返す。

「チビって言わないで!一応155cmあるんだから!」

「俺の中では160cmないヤツはみんなチビなんだよ」

「な…」

響子は悔しそうに腕を組んで、言い返す言葉を考える。

⏰:10/04/07 18:43 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#378 [我輩は匿名である]
それを見て、薫は少し下を向いて笑った。

長谷部今日子は、こんなに言い返してくる性格ではなかった。

霜月優也は、そんなおしとやかな彼女が好きだった。

こんなくだらない言い合いをした事などない。

「(…確かに、あいつとは違うな…)」

「…何笑ってんの?」

少し顔を上げると、さっきまで怒っていた響子が、しゃがみこんでこちらを見上げている。

⏰:10/04/07 18:44 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#379 [我輩は匿名である]
「…別に。何か面白くなっただけ」


薫はすました表情で言う。
響子も「…確かに」と返事をして笑う。

いつもの笑顔に、薫も何だかホッとして小さく笑い返した。

⏰:10/04/07 18:44 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#380 [我輩は匿名である]
「そうだよな、要は要、俺は俺だよな!」

その頃、直人は清々しい気分でいっぱいになっていた。

携帯電話を枕元に放り投げ、寝転がる。

「(初めて薫に勝った気がするぞ…)」

今まで勉強でも運動でも薫に負けてきた直人は、大の字に寝転がってニヤける。

何だか自分に自信が湧いてきた。

さっきまでの不安も吹き飛ばして、早く明日にならないかと、直人は窓の外を見上げていた。

⏰:10/04/07 22:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#381 [我輩は匿名である]
次の日。

直人はドキドキしながら本を見つめている。

果たして、晶との関係はどうなるのか。

深呼吸を1回して、直人は一気に本を開く。

⏰:10/04/07 22:53 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#382 [我輩は匿名である]
要は早足でどこかへ向かっていた。

太陽はもうだいぶ高く上っている。

「えっ、何だよいきなり?どこ行ってんの?」

珍しく速く過ぎていく景色に、少し酔いそうになる。

「やっぱりおかしいよな…。何か怒ってたし…今日も結局来なかったし…」

要は小さく独り言を言いながら歩いていく。

「やっぱり来なかったのか…」

直人はため息をつく。

という事は、今は施設に向かっている途中なのだろう。

⏰:10/04/07 22:54 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#383 [我輩は匿名である]
晶を説得しに行くのか、別れを告げるのか。

どうやら今日が正念場のようだ。

直人は思わず力む。

あの角を曲がれば、晶のいる養護施設だ。

要も直人も、ただ黙って突き進む。

そして。

「(いたいた…)」

晶は、今日は門の傍にボーッと座っていた。

⏰:10/04/07 22:54 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#384 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん」

いつになく、要は何の躊躇いもなく話し掛ける。

晶はそれに気付き、また背を向けようとする。

「逃げないでよ!」

要は思わず声を上げる。

晶はピタッと足を止める。

「俺、ちゃんと話がしたいんだ!だから、逃げないで!」

要は必死に晶を引き止める。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#385 [我輩は匿名である]
晶は突っ立ったまま何も言わない。

沈黙のまま、ただ時間が過ぎていく。

その間ずっと、要は晶の返事を待ち続ける。

「………ちょっと待ってて」

要の粘りに負け、晶はそう言って建物に入っていった。

しばらくして、晶が戻ってきた。

「…来て」

門から出るなり、晶は要の手を引っ張って連れ出す。

要も何も言わずに、言われた通りについていく。

しばらく歩いて、2人はあまり人通りの多くない通りに入った。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#386 [我輩は匿名である]
「…何?」

晶は視線も合わせずに尋ねる。

「…何でいきなり来なくなったの?俺ずっと待ってたのに」

要は少し苛立ったように聞き返す。

「『待ってた』?…うそ言わないでよ」

晶は笑う。

「あんたがそんな嘘つきだったなんて…最低」

「嘘なんかついてないよ!俺毎週…」

「知らない女の人と、楽しそうに歩いてたじゃない!!」

晶は声を荒げながら振り向く。

⏰:10/04/07 22:55 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#387 [我輩は匿名である]
「…何の事?」

要は首をかしげる。

しかし、直人は「あ…!」と声を上げた。

晶が言っているのは、きっと道案内を頼まれたあの日の事だ。

「あれは…!」

要も直人と同時に気付き、事情を説明しようとする。

しかし晶は冷たい視線を送ってそれを止める。

「そりゃ、私みたいな子といるよりも、あんな美人な人といる方が楽しいよね」

「違うよ!あの人は…」

⏰:10/04/07 22:56 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#388 [我輩は匿名である]
「私、ずっとあそこで待ってたのに!」

晶は「見損なった」という目で要を見る。

今度は逆に、要と直人がその言葉を疑った。

「待ってた?だって、2時になっても来なかったじゃないか!」

「あの日は、小さい子のお世話してたらちょっと遅れて…。

でも、遅れたって言っても2、3分だけよ!

私、走って行ったのに…」

「だ…だって、あの日は来れないって…」

「いい加減な事ばっかり言わないでよ!!

いつ私がそんな事言った!?」

⏰:10/04/07 22:56 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#389 [我輩は匿名である]
「…え…?」

2人ともわけがわからない。

しかし、少し考えて、直人は理解した。

「…あいつ…俺達をはめたって事か…?」

美代が「伝言だ」と要のところに来た、あの日。

理由がない事しか気にしていなかった要と直人。

それが、美代が勝手に作り出した嘘だったとしたら…。

「…あの人は、そんなんじゃないよ」

要は先に、あの女性の話をするつもりのようだ。

⏰:10/04/07 22:57 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#390 [我輩は匿名である]
「あの人は、俺に道を聞いてきたんだ。姫崎公園に行きたいって。

説明するだけにしようかと思ってたけど、ややこしいし…。

晶ちゃんも来なかったから、案内した方が早いと思ったんだ」

「…道案内だけであんなに楽しそうに喋れる?」

晶は全く信じてくれない。

「…さっきから思ってたんだけど…」

さすがに要も腹が立ってきたのか、不機嫌そうに言い返す。

「晶ちゃん、何で俺達が一緒に歩いてたの知ってるの?」

要が女性を案内した道は、待ち合わせ場所から角を曲がらないと見えない。

要はそれがひっかかっていたらしい。

⏰:10/04/07 22:57 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#391 [我輩は匿名である]
晶はなぜか、うつむいて黙り込む。

「………後をつけてきてたの?」

そう聞いても、晶はまだ返事をしない。

否定しないという事は、そうなのだろう。

「…もう意味わかんねぇよ…」

直人はモヤモヤして仕方がない。

晶も要も、ただ黙り込む。

「…もう信じないよ、…何言われても」

晶は言った。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#392 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん…!」

「やっと信じられる人を見つけたのに…その人にまで裏切られたら、

何も信じられなくなるに決まってるじゃない!

大っ嫌いよ!あんたなんか!!二度と来ないで!!」

晶は叫ぶようにそう言って、逃げるように走りだす。

要も反射的にそれを追う。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#393 [我輩は匿名である]
「…要…何で気付かねぇんだよ…!」

素直な要は、美代が疑わしいという考えには、まだ行き着いていないのだろう。

美代が勝手に言いに来たという事を話せれば、晶も話を聞くかもしれないのに。

「こいつが…俺だったら…!」

直人は悔しくて仕方がなかった。

ここにいるのが自分なら、晶に全て話せるのに。

⏰:10/04/07 22:58 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#394 [我輩は匿名である]
あと少しで追いつく。

ちょうど、目の前にある信号は、赤。

ラッキー。直人は思った。
しかし、晶の走る速さは緩まない。

あとほんの4〜5m。

「信号ぐらい守れよ…あのバカ女…!」

直人はそう願ったが、晶には信号など見ている余裕はなかった。

⏰:10/04/07 22:59 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#395 [我輩は匿名である]
晶が飛び出すと同時に、大きなクラクションの音が鳴り響く。

そのまま走り抜けてくれれば良いのに…。

晶は直人の願いをことごとく無視し、車線のど真ん中でびっくりして足を止めてしまった。

あれでは「はねて下さい」と言っているようなものだ。
飛び込むように、要は思いっきり地面を蹴る。

⏰:10/04/07 22:59 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#396 [我輩は匿名である]
「まさか…」

そう、そのまさかだった。

要が両手で思いっきり、晶を突き飛ばした。

晶はその勢いで、向こうの歩道近くまで弾き飛ばされる。

要はそれを見て、少し笑う。

視界の端には、急ブレーキをかけつつも突っ込んでくるトラックが見える。

もうだめだ。2人がそう感じた直後、言い表わせないような大きな衝突音が、辺りに響き渡った。

⏰:10/04/07 23:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#397 [ま]
うおー(´・ω・`)
気になる終わり方(´・ω・`)!

⏰:10/04/08 00:14 📱:P04A 🆔:D8BvOrpE


#398 [(´_ゝ`)]
気になる!

⏰:10/04/08 00:25 📱:T003 🆔:W0eBz97A


#399 [我輩は匿名である]
>>397さん
いつもコメントありがとうございます
存分に気になって下さい

>>398さん
初コメントありがとうございます
続きは少々お待ち下さい

⏰:10/04/08 09:47 📱:N08A3 🆔:SlgCFoG2


#400 [我輩は匿名である]


⏰:10/04/08 12:30 📱:SH904i 🆔:☆☆☆


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