記憶を売る本屋さん
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#51 [我輩は匿名である]
「…私…親にも見捨てられて…
施設でも馴染めなくて…ずっと1人ぼっちだった…。
中学でも友達って呼べる子はいなくて…」
要はずっと黙っている。
「誰かに『優しくしてもらった』と思った事がなくて…、
そんな事言われても…私っ…どうしたらいいのかわからないし…、
そんな子の傍にいても…長月くん、きっと疲れるよ…」
「…そんな事ないよ」
要がやっと、口を開く。
:10/03/22 22:49
:N08A3
:d1RCppyk
#52 [我輩は匿名である]
「昨日と今日しか会ってないし、まだあんまり喋ってもないけど、
横にいて、楽しいと思えた。…今も」
晶は顔を背けたまま聞いている。
「だから友達は、石川さんだけでも、俺には十分だ」
それからしばらくの間、どちらも黙り込んだままだった。
「あーもううっとうしいなぁお前ら!
付き合うのか付き合わないのか、どっちかにしやがれ!
おい長月要!お前ももうちょっと粘れよ!
こいつ完璧にお前に気があるじゃねーか!」
直人にはどうしても耐えられないらしい。
:10/03/22 22:51
:N08A3
:d1RCppyk
#53 [我輩は匿名である]
誰にも聞かれないからといって、大声で好き放題に騒いでいる。
「…もう帰ろう、冷えるよ。近くまで送るから」
要が晶に歩み寄り、そっと手で背中をさすった。
晶は何もいわずに頷く。
彼女の足元に、とても小さな染みが出来ている。
直人がそれに気付いた瞬間、視界が真っ暗になった。
:10/03/22 22:52
:N08A3
:d1RCppyk
#54 [我輩は匿名である]
「…えっ、今ので終わりかよ!」
直人は納得がいかず、飛び起きる。
せっかくいいムードだったのに。
その後あの2人がどうなったのが気になって、
直人は本を見つめる。
前回よりも、少し文章が増えている。
:10/03/23 13:24
:N08A3
:0nKseeu.
#55 [我輩は匿名である]
4月11日 長月要が下校中、石川晶を見つけ、施設まで送る事になった。
その途中、石川晶と同じ施設に住んでいる彼女の同級生の
園田美代が彼らに声をかけた。
石川晶が長月要を連れて、彼女の目の届かない所まで移動。
「私だけの友達でいてほしい」という石川晶の言葉に、
長月要は「俺がいる事で悲しい顔をしなくていいのなら」と返事。
石川晶は静かに涙を流し、2人はそのまま養護施設へ向かった。
「…これで終わりかっ!」
何だか悔しくなって、直人は本を閉じてまた寝転んだ。
:10/03/23 13:25
:N08A3
:0nKseeu.
#56 [我輩は匿名である]
どうしてここまで入れ込んできているのか、わからない。
しかし、あの2人には幸せになってほしい。
そう思った。
「直人ー!ご飯ー!」
ドアの向こうから母親の声がする。
「あーい」
直人は大きく返事をし、再び起き上がって部屋を出た。
:10/03/23 13:25
:N08A3
:0nKseeu.
#57 [我輩は匿名である]
同じ頃、1人の女子生徒が、重い足取りで家路についていた。
直人達のクラスメイトの、あの金髪女である。
「おぅい、お嬢さん」
その声に、金髪女は足を止める。
「お嬢さん、本は読まんかなぁ?」
後ろから、しゃがれた男の声がした。
金髪女は黙って振り返る。
「…別に」
「ほぉう。まま、わしがやる本読んでみないか?」
見るからに怪しげな老人。
さすがに金髪女も不審だと思ったのだろう。
「いらない」と言って背を向けた。
それを見て、老人はニタッと笑う。
:10/03/23 13:27
:N08A3
:0nKseeu.
#58 [我輩は匿名である]
「人と付き合うのが怖い」
老人のその一言に、金髪女は再び足を止める。
「何でかわからんがぁ、人と接するのが怖い。君、そうだろうぅ?」
金髪女は何も言わずに振り向く。
そこには、青い本を差し出している小汚い老人がいた。
「この本読んだら、何で人と付き合えない理由、わかるかもねぇ」
金髪女は、話に食い付いたようにハッとする。
そして、ちょっと間考えた後、それを受け取った。
「…命は粗末にしない方がいいよぅ?お嬢さん」
「…は?」
金髪女は睨み付けたが、老人は構わずに背を向け、去っていった。
:10/03/23 13:27
:N08A3
:0nKseeu.
#59 [我輩は匿名である]
昨日はボーッとしていた直人が、
今日は朝っぱらから腕を組んで考え込んでいる。
薫はそれを見ながら、忙しい奴だな、と思った。
「(…ま、邪魔せずにいてやるか)」
朝礼が始まるまで、あと10分ある。
薫は暇つぶしに、あるところへ行ってみようと教室を出た。
この高校では屋上が解放されている。
転落防止のための高い柵が設置されており、
生徒でも入れるようになっているらしいのだ。
たまたまそんな話を耳にした薫は、
1度屋上に上ってみたいと思ったらしい。
:10/03/23 13:28
:N08A3
:0nKseeu.
#60 [我輩は匿名である]
階段を上って、静かにドアを開ける。
同時に、春の暖かい空気が薫を包み込む。
「(…意外と人いないんだな)」
まだ朝だからか、誰もいないようだ。
ちょっとうれしく思いながら、薫は2、3歩進んでみる。
「こんにちは」
突然、女の声がした。
薫はびっくりして周囲を見回すが、誰もいない。
「ははっ。こっちこっち」
よく聞けば、上から聞こえるような気がする。
:10/03/23 13:29
:N08A3
:0nKseeu.
#61 [我輩は匿名である]
薫はドアの屋根になっている所をを見上げる。
そこには、寝転がって肘をついてこっちを見る少女がいた。
薫のネクタイと同じ赤いリボンをしており、同級生のようだ。
薫を見てニコニコ笑っている少女を見て、薫は一瞬の間にいろんな事を思った。
「彼女には会ったことがある」
1番強く感じたのは、それだった。
少女もまた、黙って薫を見下ろしている。
まさか。薫は思った。
「…どこかで会った事ある?」
先にそう切り出したのは、少女の方だった。
:10/03/23 13:30
:N08A3
:0nKseeu.
#62 [我輩は匿名である]
「…ない、はず。でも…俺もそんな気がする」
驚きながらも、薫は答える。
「あんた、名前は?」
「私?私は、カヅキ キョウコ」
少女の名前に、薫はハッと目を見開く。
「キョウコ!?昨日今日の“今日”に、子どもの“子”か!?」
少女もまたびっくりしつつ、「違うよ」と返事をした。
「“響く子”って書いて、“響子”。カヅキは“香る月”」
「…そ、そうか」
落ち着け。薫は自分に言い聞かせる。
「自分も名前が変わっているじゃないか」と。
:10/03/23 13:31
:N08A3
:0nKseeu.
#63 [我輩は匿名である]
「あなたは?」
香月響子が聞き返してくる。
「あぁ…俺は、月城薫。あんたの“月”に、…えー、
シンデレラ城の“城”に、骨董品の“薫”」
言いながら、もっと良い言い方はなかったのか。
「シンデレラ城」と言った後に、薫は自分に呆れた。
響子もそれを聞いて笑っている。
「可愛いね、シンデレラ城って」
「そ、それしか出て来なかったんだよ!」
恥ずかしくなって、薫は少し顔を赤くして言い返す。
:10/03/23 13:31
:N08A3
:0nKseeu.
#64 [我輩は匿名である]
「…月城くん、何組?」
「8組」
「遠いね。私4組」
「あー…遠いな」
もう少し近ければ…。薫は小さくため息をつく。
「なぁ、香月。いつも朝はここにいるか?」
「ん?うん、いるよ」
響子は頷く。
「月城くんも来る?」
「…そうしようかな」
薫は小さく笑って答える。
それを聞いて、響子もまた、嬉しそうに笑い返した。
:10/03/23 13:32
:N08A3
:0nKseeu.
#65 [我輩は匿名である]
タイミングを見計らったかのように、学校中に予鈴が鳴り響く。
「あ。教室に帰らないと」
そう言うと、響子は後ろにある梯子を降りて、薫の横に来た。
「行くか」
「うん」
2人は一緒に歩きだしたが、1歩踏み出した所で響子が足を止めた。
振り返って見ると、響子は眉間にしわを寄せて、頭の側面を押さえている。
「どうした?大丈夫か?」
「うん…ちょっと、急に頭痛くなって。でも、大丈夫。行こ」
今度は先に響子が歩きだした。
薫は心配に思いながらも、彼女について階段を降りていった。
:10/03/23 13:33
:N08A3
:0nKseeu.
#66 [我輩は匿名である]
直人はある事を考えていた。
一昨日、昨日と、1日に1度しか“あっち”に行けなかった。
1日に2回本を開けば、2日分進む事が出来るのだろうか、と。
その方が早く話を進められるのだが。
担任の話そっちのけで、直人はずーっと本の事を考えていた。
「おい」
すぐ横で薫の声がして、直人はやっと顔を上げた。
クラスメイト達がぞろぞろと教室を出て行っている。
:10/03/23 13:33
:N08A3
:0nKseeu.
#67 [我輩は匿名である]
「次、生物室だろ」
「はっ!忘れてた!」
「早くしろ」
ちょっと苛立ったように薫に言われて、慌てて生物の用意をする。
そして、教科書とノートの間に、あの本を忍ばせて教室を飛び出した。
「まだ何か考えてんのか」
呆れたように薫が言う。
「んー…あの本の事で、ちょっとさ。
あれ、開いたら急に、昔の世界に飛ばされんだよ」
他の生徒に聞こえないように、直人は小声で言った。
言ってしまった。とも思った。
:10/03/23 13:34
:N08A3
:0nKseeu.
#68 [我輩は匿名である]
「…昔の世界?」
薫は聞き返す。
「んー、しかも、知らない男の中から、そいつの目で見える物を見て、…見てるだけなんだけど」
どう言えばちゃんと伝わるのかわからず、
直人は「あー!」と、もどかしそうに頭をかく。
「落ち着け」
「なんつーかなぁ…、タイムスリップだよ、タイムスリップ。
そんな簡単なもんかわかんねえけど、とりあえず1977年に飛んじゃうわけ!」
「1977年…?」
「そう!1977年!」
:10/03/23 13:35
:N08A3
:0nKseeu.
#69 [我輩は匿名である]
つい直人は声を大きくしてしまい、薫に「しーっ!」と注意されてしまった。
「おかしいだろ?何でそれで自殺とかに行き着くのか、意味わかんねぇんだよなぁ…」
「まぁなぁ…」
直人の話が何となくわかったのか、薫も首をひねる。
前方に「生物室」と札が出ているのが見える。
「まだ話終わってないのに」と、直人は舌打ちする。
「後で続き聞かせてくれよ。気になるから」
「当たり前だろ。こんな中途半端で終われるか」
2人はそんな事を言いながら、生物室に入ってそれぞれの席に着いた。
:10/03/23 13:36
:N08A3
:0nKseeu.
#70 [我輩は匿名である]
先生に起立、礼をしてから、直人は本をスタンバイする。
今から開く気らしい。
教科書の適当なページとノートを広げ、
あの本だけは机のすぐ下に持って、誰にも見えないように隠す。
光った時に、大っぴらに光が漏れないようにするためだ。
同じ長机についている他のクラスメイトの様子を伺い、直人はゆっくり開く。
身体と机の僅かな隙間から光が漏れる…。
:10/03/23 13:36
:N08A3
:0nKseeu.
#71 [我輩は匿名である]
目の前に広がっていたのは、木の木目のようなものだった。
なんだこれ。直人はつまらなそうに呟く。
「石川さん、昨日あんだけ泣いてたけど、大丈夫だったかなぁ…」
要が小さく独り言を言う。
視線が木目から窓に移る。
木目はどうやら、要の部屋の天井だったらしい。
細い三日月が見えた。もう夜のようだ。
「今度、行ってみようかな」
「どこに」
直人が思わず言った瞬間、周りが真っ暗になった。
:10/03/23 13:37
:N08A3
:0nKseeu.
#72 [我輩は匿名である]
「もう終わりかよ!」
直人は大声で突っ込んで、その勢いで立ち上がる。
授業中だった事も忘れて。
クラスメイトが一斉にこっちを向く。
「…2回目の授業から爆睡とは、良い度胸だなぁ?水無月直人」
先生の顔が引きつっている。
クラスメイト達が笑いだす。
「…は…はは…。す、すいません…」
直人は無理やり笑って誤魔化して、静かに椅子に座った。
あの本は授業中に読むものではない。
直人はため息をついて、気付かれないように教科書の下に本を滑り込ませた。
:10/03/23 13:37
:N08A3
:0nKseeu.
#73 [我輩は匿名である]
昼休みになってもまだ、薫は笑いをこらえていた。
生物が終わってからずっとこうだ。
直人もいい加減腹が立ってきた。
「お前、いい加減にしろよ」
「無理無理。お前の顔見る度に思い出して仕方ねぇよ」
この野郎…。殴りたくなってきた。
「で?今日のタイムスリップはどうだった?」
ナメようにニヤつきながら、薫は直人に尋ねる。
「どうもこうもねーよ!見てみろよこれ!!」
他の目を気にせずに騒ぎながら、本を開いて見せてみる。
:10/03/23 13:38
:N08A3
:0nKseeu.
#74 [我輩は匿名である]
4月12日 今日は何もなかった。
長月要は昨日の石川晶の様子が心配らしく、
会いに行ってみようかと考えていた。
「こんだけだぜ!?」
「わかったから、もうちょっと静かに喋れ。
他の奴に気付かれたらめんどくさいだろ」
:10/03/23 13:39
:N08A3
:0nKseeu.
#75 [我輩は匿名である]
確かにそうだ。
直人はちょっとムスッとして頷く。
「…この、長月要ってのは?」
「タイムスリップしたら、必ずこいつの身体の中に入り込む。
で、俺はそっから見てるだけで、何も出来ねぇんだよ。」
「ふぅん…」
薫は本を見つめながら、何かを考えている。
「何で長月要なんだろうな?」
ふと、薫が言った。
:10/03/23 13:40
:N08A3
:0nKseeu.
#76 [我輩は匿名である]
「へ?」
「いやぁ…何で入り込むのが、その長月要って奴の身体なのかって」
「…あぁ…」
今まで考えた事はなかった。
「誰だ?」とか「何でタイムスリップ?」とか思った事はあっても、
何故その先がいつも彼の中なのか?
薫に言われて初めて疑問に思った。
「何だ、今まで考えた事なかったのか?」
「うん…。そうだな、何でいつもあいつの中なんだろ?」
直人は腕を組んで考える。
:10/03/23 14:03
:PC
:pMFPl9Gs
#77 [我輩は匿名である]
「まぁ、とりあえず食べようぜ」
薫は話を変えて、机の上に弁当箱を出した。
直人も「そうだな」と、弁当箱を出す。
「ところで、お前委員会どうするんだ?」
「委員会?」
卵焼きを口に頬張りながら、直人は聞き返す。
「今日の6時間目のホームルームで、委員会決めるって、
今日先生言ってただろ」
「マジで…」
何せ今日の朝礼の時間は上の空だった直人は、
そんな話全く聞いていなかった。
:10/03/23 14:04
:PC
:pMFPl9Gs
#78 [我輩は匿名である]
「か、薫は?」
「風紀委員」
「即答かよ」
確かに、規則等をきっちり守る薫にはぴったりだ。
「めんどくせぇなぁ…。俺は後半でいいや」
「言うと思った」
基本めんどくさがりな直人に、薫は笑った。
:10/03/23 14:09
:PC
:pMFPl9Gs
#79 [我輩は匿名である]
家に帰って、直人はまた、自分の部屋で本と睨めっこしていた。
今日考えていた事。1日に何回タイムスリップできるのか。
それを実行する時がきた。
ベッドの上で、ふぅっと息をつく。
「…せぇの!!」
変に掛け声を出しながら、素早く本を開く。
・・・・・・。
何も起こらない。
「…ちぇっ、やっぱダメか」
ちょっとドキドキして損した。直人はふてくされたように寝転んだ。
:10/03/23 14:15
:PC
:pMFPl9Gs
#80 [我輩は匿名である]
次の日。土曜日である今日、直人は朝からパソコンにへばりついていた。
すでに午前中に本を開いて、昨日と同様何もなかったことに落胆し、ネットで調べてみる事にしたのだ。
『都市伝説 本』で調べると、すぐに多くのサイトがヒットした。
中でも『都市伝説ネット』なるサイトがあり、直人はそれをクリックする。
そんな名前なのだから、きっといろんな情報が載っているに違いない。
「…ビンゴ」
縦に並べられた数多くの都市伝説の中に、『読むと死ぬ!?呪いの本』という項目があった。
内容を見てみると、直人が今まで、耳にたこができるほど聞いてきた噂話が最初に載せられていた。
その下には、情報交換をするための掲示板が用意されている。
直人は掲示板の入り口をクリックする。
:10/03/23 14:27
:PC
:pMFPl9Gs
#81 [我輩は匿名である]
どうやらあの都市伝説は、直人達が住むこの町以外でもあるらしく、
イニシャルではあるがいろんな市の名前が書かれている。
「…ん?」
まず、直人はあるスレッド名を見て、マウスを動かす手を止める。
『例の本はいつの間にか消えるらしい』
何のことだ?直人はそのスレッドを開いた。
『A市で、本をもらったという少年が、2ヵ月後に行方不明になった。
クラスメイトに、例の老人から本をもらったと少年は言いふらしていたそうだが、
行方不明後、警察が男子の部屋を捜索した際、不審な本は見当たらなかったという』
これが本題だった。
:10/03/23 14:33
:PC
:pMFPl9Gs
#82 [我輩は匿名である]
これに対し、『警察が見つけられなかっただけでは?』『本を持って行方をくらましたのでは?』など、
いろんな意見が載せられていたが、同じような話を聞いた、というレスの方が圧倒的に多い。
「…ふぅん…」
直人は掲示板に戻り、他の記事を探す。
そして、また違うスレッド名を見て、「あ…」と声を漏らした。
『本の中身は自分の前世?』
直人は信じられず、なかなか指を動かせない。
しかし、文の最後に『?』が付いている事から、
本当の話ではないかもしれないと自分に言い聞かせて、スレッドを開いた。
:10/03/23 14:40
:PC
:pMFPl9Gs
#83 [我輩は匿名である]
『自分はあの老人に本をもらい、最後まで読みました。
途中から、急に本の中の話に入れ込むようになり、
最終的に、自分に起きている事だと感じられました。
ある時、身体の持ち主の顔が、鏡で見えました。
本当の世界の自分と、同じ顔をしていました。
だから、もしかしてこの人は、僕の前世の事では、と思ったのです。
僕の話はこれで終わりです。
今から僕は、人を殺しに行きます。』
そう書かれていた。
決定的な事はないようだが、『自分と同じ顔』それが引っかかる。
長月要は、俺と同じ顔をしているのだろうか。
:10/03/23 14:44
:PC
:pMFPl9Gs
#84 [我輩は匿名である]
そしてもう1つ。『今から僕は、人を殺しに行きます。』
よくこんな書き込みが、削除されずに残っているな。
そうも思ったが、直人は違う事を考えていた。
もしかしたら、本は自分を死に駆り立てるだけでなく、
人を狂わせることもできるのではないか、と。
もしそうであれば、自分はどうなってしまうのだろう…。
あの本の、本当の恐怖を知った気がした。
もしかして、薫が言っていた『死なない人もいる』とは、
こういう人の事だったのかもしれない。
「(薫は…ここを見てたのか…?)」
薫はオカルトには興味がないため、こんなサイトを見ているとは思えない。
ただ誰かに聞いただけかもしれない。
:10/03/23 14:52
:PC
:pMFPl9Gs
#85 [我輩は匿名である]
しかし、直人には一昨日の、薫の怖い顔が忘れられずにいた。
「石川晶」と呟いた事も。
気のせいかと思おうとしても、どうしても思えないのだ。
「(…あいつ…やっぱり何か知ってるんじゃないか…?
一昨日俺が悩んでた時も、本をもらったって話す前から分かってたみたいだったし…。
それにあの時…薫は笑ってた…。いつもの感じじゃなくて…何か変だった)」
いつもの笑顔ではなかった、あの時の薫の顔。
直人はブンブンと、大きく頭を振る。
「(待て待て!今までずっと仲良くやって来たあいつだぞ!?
隠し事なんか、1つもした事なかったじゃねーか!)」
「今までは」。直人は少しうつむく。
:10/03/23 15:00
:PC
:pMFPl9Gs
#86 [我輩は匿名である]
もう何が何なのか、分からなくなってきた。
出きる事なら、あの老人に本を返したい、とさえ思った。
親友を疑うのは、初めてだったのだ。
それだけじゃない。自分は、本をもらった事を隠していた。たった1日でも。
直人は大きくため息をつく。
もう、本を読むのはやめよう。『いつの間にか消える』んだろう?
前世の事なんか、どうでもいい。俺には関係ない。
直人はパソコンの電源を切り、本を引き出しにしまいこんだ。
:10/03/23 15:05
:PC
:pMFPl9Gs
#87 [我輩は匿名である]
本を引き出しに封印してから3日。
朝たまたまニュースが映っていた為、歯を磨きながらボーっと聞いていた。
そして、ぎょっとした。
少年が1歳年上の男性を刺し殺したという。そこまではよくあるニュースである。
しかし、直人が驚いたのは、その後の話だった。
その少年は、少し前に『都市伝説に関する掲示板に、殺人予告をしていた』というのだ。
この間の土曜日に見た、あの書き込みだ。
呆然として、歯ブラシを落としそうになる。
「そんな…」
あの書き込みは、本当だったのか。
直人はしばらく、テレビから目を離す事が出来なかった。
:10/03/23 15:14
:PC
:pMFPl9Gs
#88 [我輩は匿名である]
テレビを見すぎて、遅刻ぎりぎりに学校に滑り込んだ直人は、教室に入ってすぐに薫を探す。
しかし、鞄はあるのに、姿が見当たらない。
「(どこ行ったんだよ…こんな時に…)」
トイレだろうか?そう思って教室を出る。
すると、薫がちょうど、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。
「(いた!…ん?)」
彼の隣に、見知らぬ女子生徒がいる。しかも、2人で楽しそうに話しているではないか。
もしや。直人は確信した。「彼女だ!!」と。
「(先越された…)」
ドアの影から、恨めしそうに薫に視線を送る。
それに気付いたのか、薫がこっちを向いて、顔を引きつらせる。
:10/03/23 15:20
:PC
:pMFPl9Gs
#89 [我輩は匿名である]
「また明日」とドアの近くで言葉を交わし、女子生徒は自分のクラスへ歩いていった。
「よぉ。おはよ」
「よぉ。じゃない!!彼女か、彼女ができたんだな!」
「ちょっと待て、まだ彼女じゃない」
「まだって何だ!考えがいやらしいぞ、お前!!」
「どこがいやらしいんだ!?普通だろ!!」
「そのうち彼女にするつもりなんだろうが!!」
「約束したんだよ!!ずっと前に!!」
薫はそう言ってから、「しまった」というように口に手を当てる。
直人はそれを見逃さなかった。
:10/03/23 15:25
:PC
:pMFPl9Gs
#90 [我輩は匿名である]
「…ずっと前って、いつだ?」
直人の問いに、薫は目をそらして黙り込む。
おかしい。これは絶対に何かある。直人は思った。
「…お前、本は読んでるか?」
「話変えんなよ」
「変わってねぇよ」
どう考えても変わっただろ。直人は言い返したかったが、我慢して飲み込んだ。
「やめたよ、読むの」
「やめた?」
「あぁ」
:10/03/23 15:29
:PC
:pMFPl9Gs
#91 [我輩は匿名である]
直人は「もうめんどくさくなったから」と付け足した。
ポケットに手を入れて壁にもたれかかる直人を、薫はじっと見つめる。
「…じゃあ、お前にはわからないよ」
「…何が」
「さっきの、『約束』の意味」
「それが、本とどう関係あんだよ」
「まぁ、めんどくさがりなお前なら、読むのやめてもどうって事ないんだろうけど」
薫の遠まわしな言い方の連続に、直人のイライラは頂点に達した。
直人は薫の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。
周りにいた女子が、小さく悲鳴を上げる。
:10/03/23 15:37
:PC
:pMFPl9Gs
#92 [我輩は匿名である]
「何するんだよてめぇ!!」
「さっきからスカした顔しやがって!調子こいてんじゃねぇぞ!!」
「おい!何してるんだ!!」
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、担任の教師達がぞろぞろと廊下に来始めていた。
他の生徒達は慌てて教室に戻る。
直人たちの担任が、2人の間に割って入り、引き離す。
「何やってんだ!朝っぱらから!」
「…すいません」
2人は一応頭を下げ、教室に入った。
「(…何なんだよ…あいつ…!)」
席についても、直人の苛立ちはおさまらない。
ただ腕を組んで、窓の方をじっと見ていた。
:10/03/23 15:45
:PC
:pMFPl9Gs
#93 [我輩は匿名である]
その日、2人はそれ以上口をきかなかった。
今週は放課後の掃除当番に当たっている直人は、憂うつな気持ちで机を運んでいた。
さっさと家に帰ろうと思い、誰とも喋らずに、ただひたすら。
そして、1番後ろの机を運び終わった時、足の上に1冊の本が落ちてきた。
「痛っ!何だよ…」
今日はツイてない。そう思いながら、足元の本を見下ろす。
そこには、直人が封印したあの赤い本とそっくりの青い本が、ぽつんと落ちていた。
「…これ…」
拾い上げてよく見てみる。著者も、タイトルも何も書かれていない本。
これは間違いなく、あの『呪いの本』だ。
:10/03/23 15:52
:PC
:pMFPl9Gs
#94 [我輩は匿名である]
しかし、一体誰の…?
「(まさか、薫…?)」
しかし、薫の席は真ん中の列の前から2番目。ここは窓際の1番後ろ。
どう考えても、薫の机から落ちたものではない。
「…それ、返して」
後ろで声がした。
振り向くと、あの金髪女が不機嫌そうに立っている。
「…これ、お前の?」
「そう。だから返して」
この青い本は、金髪女の物だった。直人はぽかんとする。
:10/03/23 15:56
:PC
:pMFPl9Gs
#95 [我輩は匿名である]
本を返さずに突っ立っている直人に、金髪女は無理やり本を奪い取る。
「…中、見た?」
「いや、見てないけど…」
「あっそ」
終始むすっとした表情で言って、金髪女は背を向ける。
「なぁ!」
直人は反射的に、金髪女の腕を掴む。
「…何」
金髪女が、迷惑そうに振り向く。
「ちょっと、話があるんだけど」
「…私に?」
「うん、お前に!」
:10/03/23 16:00
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#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。
もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。
「水無月…」
他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。
同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。
「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」
金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。
恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。
ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。
そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。
:10/03/23 16:08
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#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」
「うぁ!?びっくりした…」
直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。
「わ、悪かったな、何か。…ごめん」
とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。
「…それはいいから。何。あの本の事?」
「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」
直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。
トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。
「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」
「そうなんだ、俺も、それぐらい」
直人の言葉に、金髪女が反応した。
:10/03/23 16:15
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#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」
「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」
「やめた…?何で」
「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」
情けないな、と、直人は自分で思った。
「怖い?」
「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、
今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…
あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」
:10/03/23 16:18
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#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。
「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。
しばらくの間、沈黙が続いた。
「…私は」
沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。
「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」
「…はぁ」
「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。
だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」
「…そんな…」
「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」
:10/03/23 16:25
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#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。
直人は黙り込む。
「…あんたは、何で今まで本読んでたの」
「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」
直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。
「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」
「…なる」
「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」
「…そうだけど…」
「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」
そういう問題か。
:10/03/23 16:30
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