記憶を売る本屋さん
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#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」
「変わってんのはお前だろ」
「お前じゃない。カンザキ アスカ」
「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」
「当たり前でしょ。ほら」
目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。
初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。
「…サンキュ、神崎」
「何が」
「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」
「あっそ。じゃ」
飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。
:10/03/23 16:37
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#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、
あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。
飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。
「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」
直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。
そして、ゆっくりと本を開いた。
:10/03/23 16:43
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#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。
「…久しぶりだな…この感覚」
直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。
公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。
しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。
「どこだ?これ」
そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。
「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」
直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。
:10/03/23 16:51
:PC
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#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。
どうやら晶のようだ。
まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?
「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」
行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。
「こんにちはー」
すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。
要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。
「こいつ、何とか美代って奴!」
晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。
:10/03/23 16:56
:PC
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#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」
要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。
「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」
「長月くん!!」
晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。
「ちょっと来て!!!」
「へ…」
要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。
美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。
:10/03/23 17:00
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#106 [我輩は匿名である]
「どうしたの?こんな所まで」
「いやぁ…」
本当の事を言うのが恥ずかしいのか、要は言葉を濁す。
「恥ずかしいのも分かるけど、さっさと言えよ。
前は泣いてたから、元気になったかどうか心配だったんだろ」
直人は分かりきったように断言する。
「…心配になって。この間あった時、石川さん…ずっと泣いてたから。元気になったかなぁって」
「…お?」
自分で言った事を、要も言った。
話の流れからして分かることなのかもしれないが、何だか不思議な感じがした。
:10/03/23 17:07
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#107 [我輩は匿名である]
要の話を聞いて、晶は小さく笑う。
「やだなぁ、悲しくて泣いてたんじゃないよ?」
「わかってるけどさぁ、帰るまでずっと泣いてたから、どうしても心配になって」
「ありがとう。…私、最近前より元気だよ。長月くんのお陰で」
晶は嬉しそうに笑う。可愛らしい笑顔。
「…照れるじゃん」
「やめろよ、照れるから」
直人と要は同時に言った。
「ハモった…」
「でも、元気なんだったら、良かった」
:10/03/23 17:13
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#108 [我輩は匿名である]
「最近雨だったでしょ?だから、散歩できなくて。また会いに行きたいなぁとは、思ってたんだけど」
「そっか。じゃあちょうど良かったかな」
「うん。本当にちょうど良かったよ。…門にあいつがいたのは、ちょっと具合悪かったけど」
晶はちょっと苦笑いして、ふと後ろを向く。
その瞬間、曲がり角の影に誰かが隠れた。
「今のって…」
「ちょっと待ってて」
晶がそう言って、そこまで様子を見に行く。
「…やっぱりあんただったの」
晶の声が曇る。
:10/03/23 17:19
:PC
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#109 [我輩は匿名である]
「やっぱあいつか。おい、早く追い返しに行けよ」
直人の指示が聞こえたように、要が歩き出す。
来てみると、美代が後をつけてきていた。
「晶ちゃん、いいなぁ…。私も男のお友達欲しいな」
「知らないわよ、自分で作ればいいでしょ。さっさと帰りなさい」
「えー、いいじゃない。ちょっとだけ」
美代は「お願い!」と手を合わせる。
「悪いけど」
要が口を開く。
「後をつけて来るような人と、友達になる気はないから」
要は意外にも、きっぱりとそう断った。
:10/03/23 17:23
:PC
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#110 [我輩は匿名である]
「長月くん…」
「ちぇっ、つまんないの」
美代は怒ったように頬を膨らませて、プイッと背を向けて帰っていった。
「2度と来んなよ」
直人は美代の背中を睨みつける。
「…これで大丈夫だろ」
「…うん…」
困り果てたように、晶は力なく返事した。
「そんなに気にしなくても、あんな子相手にしないから、心配するなよ」
「…うん、わかった」
晶は笑って、大きく頷いた。
:10/03/23 17:28
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