記憶を売る本屋さん
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#91 [我輩は匿名である]
直人は「もうめんどくさくなったから」と付け足した。
ポケットに手を入れて壁にもたれかかる直人を、薫はじっと見つめる。
「…じゃあ、お前にはわからないよ」
「…何が」
「さっきの、『約束』の意味」
「それが、本とどう関係あんだよ」
「まぁ、めんどくさがりなお前なら、読むのやめてもどうって事ないんだろうけど」
薫の遠まわしな言い方の連続に、直人のイライラは頂点に達した。
直人は薫の胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。
周りにいた女子が、小さく悲鳴を上げる。
:10/03/23 15:37
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#92 [我輩は匿名である]
「何するんだよてめぇ!!」
「さっきからスカした顔しやがって!調子こいてんじゃねぇぞ!!」
「おい!何してるんだ!!」
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、担任の教師達がぞろぞろと廊下に来始めていた。
他の生徒達は慌てて教室に戻る。
直人たちの担任が、2人の間に割って入り、引き離す。
「何やってんだ!朝っぱらから!」
「…すいません」
2人は一応頭を下げ、教室に入った。
「(…何なんだよ…あいつ…!)」
席についても、直人の苛立ちはおさまらない。
ただ腕を組んで、窓の方をじっと見ていた。
:10/03/23 15:45
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#93 [我輩は匿名である]
その日、2人はそれ以上口をきかなかった。
今週は放課後の掃除当番に当たっている直人は、憂うつな気持ちで机を運んでいた。
さっさと家に帰ろうと思い、誰とも喋らずに、ただひたすら。
そして、1番後ろの机を運び終わった時、足の上に1冊の本が落ちてきた。
「痛っ!何だよ…」
今日はツイてない。そう思いながら、足元の本を見下ろす。
そこには、直人が封印したあの赤い本とそっくりの青い本が、ぽつんと落ちていた。
「…これ…」
拾い上げてよく見てみる。著者も、タイトルも何も書かれていない本。
これは間違いなく、あの『呪いの本』だ。
:10/03/23 15:52
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#94 [我輩は匿名である]
しかし、一体誰の…?
「(まさか、薫…?)」
しかし、薫の席は真ん中の列の前から2番目。ここは窓際の1番後ろ。
どう考えても、薫の机から落ちたものではない。
「…それ、返して」
後ろで声がした。
振り向くと、あの金髪女が不機嫌そうに立っている。
「…これ、お前の?」
「そう。だから返して」
この青い本は、金髪女の物だった。直人はぽかんとする。
:10/03/23 15:56
:PC
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#95 [我輩は匿名である]
本を返さずに突っ立っている直人に、金髪女は無理やり本を奪い取る。
「…中、見た?」
「いや、見てないけど…」
「あっそ」
終始むすっとした表情で言って、金髪女は背を向ける。
「なぁ!」
直人は反射的に、金髪女の腕を掴む。
「…何」
金髪女が、迷惑そうに振り向く。
「ちょっと、話があるんだけど」
「…私に?」
「うん、お前に!」
:10/03/23 16:00
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#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。
もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。
「水無月…」
他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。
同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。
「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」
金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。
恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。
ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。
そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。
:10/03/23 16:08
:PC
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#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」
「うぁ!?びっくりした…」
直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。
「わ、悪かったな、何か。…ごめん」
とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。
「…それはいいから。何。あの本の事?」
「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」
直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。
トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。
「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」
「そうなんだ、俺も、それぐらい」
直人の言葉に、金髪女が反応した。
:10/03/23 16:15
:PC
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#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」
「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」
「やめた…?何で」
「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」
情けないな、と、直人は自分で思った。
「怖い?」
「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、
今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…
あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」
:10/03/23 16:18
:PC
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#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。
「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。
しばらくの間、沈黙が続いた。
「…私は」
沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。
「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」
「…はぁ」
「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。
だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」
「…そんな…」
「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」
:10/03/23 16:25
:PC
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#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。
直人は黙り込む。
「…あんたは、何で今まで本読んでたの」
「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」
直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。
「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」
「…なる」
「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」
「…そうだけど…」
「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」
そういう問題か。
:10/03/23 16:30
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