記憶を売る本屋さん
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#550 [我輩は匿名である]
「…ごめんね」

飛鳥も、直人の左後ろにしゃがみこむ。

「私が…私があの時、ちゃんと話を聞いてたら…

こんな事にならずに済んだのに…」

直人は黙って手を洗いながら、背後からのすすり泣きを聞く。

「…まぁ、この方が良かったのかもしれねぇけど」

直人はぼそっと、飛鳥に背を向けたまま言った。

⏰:10/04/13 17:29 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#551 [我輩は匿名である]
「だってお前、要がいればそれでいいって思ったままだっただろ?

それってダメなんじゃねぇのって思って。

あいつはどうか知らねぇけど、俺はそう思う」

飛鳥は顔を上げ、直人の背中を見つめる。

「…要は謝られるよりも、友達に囲まれて楽しそうにしてるの見る方が嬉しいんじゃない?

あんなのんきな性格だったし、多分その方が、あいつもホッとするだろ」

「……うん」

飛鳥は涙を拭い、大きく頷いた。

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#552 [我輩は匿名である]
「…帰るか」

蛇口を閉めて、直人は立ち上がる。

それを見て、飛鳥も立って歩きだした。


「…そういえば、要が見た案内してた女の人いるじゃん?

あの人も晶と同じように、養護施設で育ったんだって」

思いもよらない話に、飛鳥は直人を見る。

「そうなの?」

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#553 [我輩は匿名である]
「うん。で、お前にその女の人から伝言」

「伝言?」

「『“施設で育とうが親の元で育とうが、どっちが良い”なんてない。

他の人との間に壁を作らずに、一歩踏み込んでみろ。』……ってな。

ちなみにあの時は、友達の家に遊びに行く途中だったらしい」

「……そっか…」

飛鳥は再び、少し下を向く。

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#554 [我輩は匿名である]
「……やっぱり、怖かったんだ。

誰かを信じようとしても、また捨てられたらどうしようって…。

そう思ったら、なんかすごい怖かったんだよ」

直人の隣で、飛鳥は言う。

「…そりゃ、生みの親に捨てられたんだから、人間不信にもなるだろうな」

「うん…。でも要は何となく…本当に何となく、ずっと友達でいてくれる気がしたし、

一緒にいる時は、嫌な事全部忘れられたぐらい、楽しかった。

…だからその分、要が待ち合わせに来ずに、女の人連れて歩いてるの見たら…

ショックすぎて、もうわけわかんなくなって…」

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#555 [我輩は匿名である]
飛鳥はため息を吐きながら、両手で髪をかきあげた。

「…ま、そんだけ友達の大事さわかってるんなら、大丈夫なんじゃね?

俺達の学年で女子150人ぐらいいるんだし、いい奴みつかるよ、多分」

平然と言う直人を、飛鳥は横目で見つめる。

「……あんた、何でそんな前向きなの?」

そう言われて、直人は「さぁ〜?」と首をかしげる。

「要がそうだったからじゃない?能天気と言うか何と言うか…」

「あー、あんたそんな感じだね。バカっていうかなんというか」

「はぁ?」

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#556 [我輩は匿名である]
「何よ。バカはバカでしょ?」

「お前に言われたくねぇよ」

「ま、横にいる子が頭良いし、運動も出来そうだし、イケメンだもんね。仕方ないか」

「黙ってれば調子に乗りやがって!」

直人は飛鳥に食って掛かる。

「だって本当の事じゃん!!」

飛鳥は言いながら、逃げるように走りだす。

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#557 [我輩は匿名である]
「(あ)」

飛鳥の背中を見て、直人はやっと理解した。

「(オレンジの猫って……プーマの柄の事だったのか…)」

直人は1人、「なるほどね」と呟く。

そして、「待てよこの野郎!」と叫んで、飛鳥の背中を追い掛けていった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#558 [我輩は匿名である]
その日他に何があったかは、直人はほとんど覚えていない。

帰りが遅かった事で母親にこっぴどく説教されたが、その内容も全く頭に入らなかったし、

どうなったのか薫に報告するのも、すっかり忘れていた。

晶が…飛鳥が無事だった事だけで、頭がいっぱいだった。

直人はベッドの上でじっと、あの本を見つめる。

この本をもらってから、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていない。

しかし、もう何ヵ月も経っているような、変な感じがする。

「(薫は、2年以上読んでたんだよな…。よくやるな…あいつも)」

直人はそんな事を考えながら、ベッドに寝転ぶ。

そしてそのまま眠ってしまった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#559 [我輩は匿名である]
しかし次の日、飛鳥は学校に来ていなかった。

右手のひらに包帯を巻いてきた直人は不思議に思い、担任の所に行ってみる。

「なぁ先生。神崎は?」

「あぁ、神崎は体調不良らしいぞ。でも今日はちゃんと自分で電話してきたな。

昨日までは、…なんかわかんないけど。

水無月、お前神崎と仲良いのか?」

「は?あ、まぁ…」

直人は頷く。

⏰:10/04/14 11:30 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#560 [我輩は匿名である]
「ほー。じゃあ大丈夫だな」

「何が?」

「いやぁ、やっぱ友達いないと楽しくないだろ?

それでちょっと不登校気味になったのかなぁと思ってたんだけどな」

担任は明るく笑う。

直人は「その通りだったんだけどな」と思いながら笑い返した。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#561 [我輩は匿名である]
その放課後、直人は薫の家に行った。

「どうだった?」

部屋に入るなり、薫は直人に尋ねる。

「うん、大丈夫。多分立ち直ったと思う」

「その手はどうしたんだ?」
薫は直人の左手を見る。

「ああ…これは…あいつを止めるのに、ちょっとな」

「ふうん…、大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。オカンが大げさに巻いてるだけ」

直人は平気そうにパタパタと手を振ってみせる。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#562 [我輩は匿名である]
「…あいつも、もう2度とあんな事しないと思うし、一件落着だな」

疲れたようにため息を吐く直人を見ながら、薫は小さく笑う。

「あーぁ、俺も暇だし、学校行きてぇなぁー」

「来れば?」

「無理だろ。歩くだけでも痛いのに」

「そんなに痛いのか?」

「痛いに決まってるだろ。これ取れるのに最低でも2ヶ月ぐらいかかるんだぞ?」

「そんなかかんの!?」

⏰:10/04/14 11:33 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#563 [我輩は匿名である]
「らしいぞ。今痛み止め飲んでるからましだけど、切れたらかなり痛いからな」

「えー…」

「まぁ明日また病院行くから、その時にどう言われるかだな。

痛みが引いて、腕上げなくていいなら学校行けるだろうけど」

「そうなのか…」

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#564 [我輩は匿名である]
直人はそこまで重症だとは思っていなかったため、ぽかんとする。

「ま、ゆっくり休めよな。俺もまた来てやるからよ」

直人は「よっこらしょ」と立ち上がる。

「あぁ。また何かあったら言って来い」

薫は空いている右手を上げる。

直人も「じゃあな」と手を振り、薫の家を出た。

「(2ヶ月か…大変だなぁ、あいつも…)」

直人は少しつまらなそうに家まで歩く。

少し違うが、今までの平凡な日常が戻ってきている気がした。

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#565 [我輩は匿名である]
…のだが。

次の日、直人を含むクラスメイト全員が、ただ目を丸くしていた。

その視線の先には、茶色い頭で、スカートの丈もきちんと戻した飛鳥の姿。

「…お前…どしたの?その髪の毛」

直人に聞かれて、飛鳥はだいぶ恥ずかしそうに髪を触る。

「染めたんだよ、見たらわかるだろ」

「じゃなくて!金は?無かったんじゃなかったのかよ?」

「親にもらった」

「はぁ…?」

直人はただきょとんとする。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#566 [我輩は匿名である]
「だって、弟だけ小遣いもらって、私には無かったんだよ?

どー考えたって不公平だろ。だから、昨日もらったの、今までの分」

飛鳥は当然の事のように言いながら、自分の席に座る。

「…いくらもらったんだよ?」

「5万」

「一気に!?」

「だから、今までの分だっつっただろ」

飛鳥は言いながら、まだ髪を気にしている。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#567 [我輩は匿名である]
「………変、かな?」

「…いや、今の方が絶対良いと思うけど。ヤンキーみたいだったし」

「ヤンキーって言うな!」

「どー見てもヤンキーだろ!」

「っさいなぁ!」

2人は大きな声で言い合う。

「…ま、いいんじゃねーの?今は普通に見えるし」

「…じゃあ、いい」

2人は目立っているのに気付いたのか、急に大人しくなった。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#568 [我輩は匿名である]
「…そういえば、あんたの相棒は?休み?」

「はぁ?何をいまさら…」

直人はそう言いかけてやめる。

薫達が怪我をした時は、飛鳥は本の内容でそれどころではなかったのだ。

「…あー、ちょっといろいろあってな。ほぼ絶対安静って感じ」

「…何かよくわかんないけど、大変だったって事だね」

飛鳥は言いながらため息を吐く。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#569 [我輩は匿名である]
「水無月くーん」

呼ばれて振り向くと、響子と奏子がいた。

「おぅ、おはよ」

「おはよう…ん?」

2人は「誰?」と言うように飛鳥を見る。

「あぁ…こいつは…」

直人はまた、何か言いかけて、ふと考えた。

「(これ、友達候補にしてもいいのか?

でも、安斎はともかく、香月とは被害者加害者の関係だし…)」

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#570 [我輩は匿名である]
「あ、もしかして神崎さん?」

直人が考えている間に、響子が飛鳥に話し掛けた。

直人はぎょっとしつつ、黙って様子を見る。

「へ?そ、そうだけど…」

いきなり言われて、飛鳥も目を丸くする。

「何で私の事…」

「それは…」

響子は「何て言おうか」と考える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#571 [我輩は匿名である]
「風の噂よ♪」

便乗して、奏子まで割って入った。

「私、安斎奏子。で、こっちの子が香月響子。私5組で、響子が4組」

「(…なんかわかんねぇけど、チャーンス!!)」

なりふり構わず、直人は目を光らせる。

「わ、私は…」

飛鳥は少し緊張しながら顔を上げる。

「私は、神崎、飛鳥。8組」

「うん、8組は知ってる」

奏子は笑顔で答える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#572 [我輩は匿名である]
「何か、意外だね」

「な…何が?」

「金髪だし、怖そうって噂があったからさ。でも普通の子じゃん」

「そうね」

奏子に言われて、響子も笑って頷く。

「普通?…私、普通に見える?」

飛鳥はちょっと目を輝かせる。

「普通でしょ。え、どっか変なの?」

「いや…別に変じゃない、と思うけど…」

奏子と飛鳥が話している間に、直人は響子の肩を叩く。

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#573 [我輩は匿名である]
「お前、何とも思ってねーの?」

「思ってないわけないでしょ」

響子は笑顔のまま答える。

直人の背筋に寒気が走る。

「え…」

「大丈夫よ、何もしないから。ていうか、よく連れ戻したね」

「当たり前だろ。また死なれてたまるかよ」

「…でも奏子ちゃんが言うように、意外と普通じゃない。

もっと陰キャラかと思ってたけど」

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#574 [我輩は匿名である]
「…お前の口から『陰キャラ』なんて言葉が聞けるとは思わなかったな」

直人は「へっ」と少し笑う。

「えっ!?バイト探してんの?じゃあさぁ、ウチんとこ来なよ。ちょうど同期の子が辞めちゃってさ」

「…何のバイト?」

「カフェ。ケーキとか紅茶とか配り回るだけだから、慣れれば楽しいよ」

「カフェ…」

飛鳥はますます目を輝かせる。

「…なんか、あいつのペースに乗せられてない?」

「いいんじゃない?むしろそっちの方が」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#575 [我輩は匿名である]
「まぁな…。あいつ、ちょうど友達探しするって言ってたし」

「そうなの?…あぁ、そっか、“前”の理由がアレだったもんね」

おそらく、薫から聞いたのだろう。

響子は晶の自殺の理由を知っているようだった。

「まぁ、そーゆー事だな。安斎なら、そっからいろいろ繋がりそうな気もするし」

「奏子ちゃん、意外と私といる時が多いよ」

「へ、そうなのか?」

「うん。他の子とも仲は良いけど、浅く広く。

まぁ世渡り上手タイプだから、あの子にとっては勉強になるんじゃないかな?」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#576 [我輩は匿名である]
「はーん、なるほどね。…つか、お前達何しに来たの?」

「あーっ、そうそう!」

直人の声が聞こえたのか、奏子がいきなり振り向いて返事をした。

彼女のペースに追い付けず、飛鳥はただぽかーんとする。

「今日ライティングある?教科書貸してほしくて」

奏子はぱちんと手を合わせる。

直人は一瞬考えて、とっさに「あ、俺も忘れた」と嘘をついた。

「えー」

奏子は「何それー」と肩を落とす。

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#577 [我輩は匿名である]
それと同時に、直人が飛鳥に目で合図を送る。

飛鳥は最初は「は?」と首をかしげていたが、「あぁ!」と声を上げた。

「わ、私持ってるよ!」

飛鳥の声に、響子と奏子が振り向く。

「本当っ?」

「うん…」

飛鳥はちょっと焦りながら、机の中をあさる。

「………あ、はい」

「ありがとー!1時間目終わったら、すぐ返しに来るからね!」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#578 [我輩は匿名である]
「うん」

飛鳥はホッとしたように少し笑った。

「じゃあね!」

奏子と響子は、飛鳥と直人に手を振って、教室を出て行った。

「…第一歩って感じ?」

直人はニッと笑って飛鳥を見る。

しかし、飛鳥はまるで埴輪のように呆然とする。

「なんか…びっくりした…」

「嵐みたいな奴だからな、あいつ」

「…でもなんか…面白かったかも…」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#579 [我輩は匿名である]
「言っとくけど、楽しいばっかりじゃないからな?

喧嘩とかする時もあるんだからな?」

「…そうだね、忘れてた」

飛鳥が意識を全部戻してきたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

「じゃ、まぁ何かあったら言ってこいよ」

直人はそう言って、自分の席についた。

⏰:10/04/14 21:47 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#580 [我輩は匿名である]
1時間目が終わるチャイムが鳴り、奏子が教科書を返しにやって来た。

「神崎さん、だっけ。ありがとう」

奏子は笑って、飛鳥に教科書を手渡す。

「…ねぇ、…安斎さん」

飛鳥は思い切って、自分から話し掛ける。

「ん?」

「…昼ご飯、誰と食べてる?」

「お昼ご飯?響子と食べてるよ。一緒に食べる?」

奏子は、飛鳥が頼むより先に昼食に誘った。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#581 [我輩は匿名である]
「えっ…いいの?」

「いいよ?おいでおいで」

「…うん…!」

飛鳥は大きく頷く。

直人は気付かれないように、その様子を見ながらホッとしていた。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


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