記憶を売る本屋さん
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#501 [我輩は匿名である]
「…ごめんな、手伝ってもらっちまって…」

「…いいよ。…もうあの女の事考えるのは止めたんだ」

薫は小さく笑う。

「…どうしたんだよ?いきなり」

「…正確には“考えないようにしてる途中”かな。

…“霜月優也”として生きるのは…もう疲れた。

“どうでもいい”ぐらいに思ってないと、ハゲるしな」

薫は大きくため息をつく。

⏰:10/04/10 21:58 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#502 [我輩は匿名である]
「ハゲる…?」

「だから、俺はただ友達の頼みを聞いただけ。他には何とも思ってない。

…そういう事だ」

「…へっ、かっこいい事言いやがって。ハゲちまえよ」

直人何だか悔しくなって、鼻で笑う。

「ありがとな。また何かあったら電話するから!」

そう言って、直人は電話を切った。

⏰:10/04/10 21:59 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#503 [我輩は匿名である]
「………で、結局俺はどうしたらいいんだ?」

これで、ここにいる理由はなくなった。

直人は「んー」と腕を組む。

「…ま、腹が減ってはどーのこーのって言うしな!」

1人でぶつぶつ言って、直人はハンバーガー店に入った。

⏰:10/04/10 22:34 📱:N08A3 🆔:4t4VPhl2


#504 [我輩は匿名である]
30分後、直人は満足そうに腹をさすりながら出て来た。

「さて…もうちょっとで10時半か。どこ行けばいいんだ…?」

直人は腕を組んで考える。

「…もしかしたら、あの交差点…?」

要がはねられた、あの横断歩道。直人は何となく、そこを思い浮かべた。

しかし、要達が住んでいたのは隣の町。歩いていけば2時間近くかかる。

自転車で来なかった事を、直人は今になって後悔した。

「…そんな事言ってる場合じゃねーよなぁ…」

大きくため息をついて、直人はまた走りだす。

⏰:10/04/11 18:35 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#505 [我輩は匿名である]
その頃、飛鳥は直人が向かっている横断歩道の前にいた。

「……要…」

飛鳥はあの日の事を思い出し、呟く。

「(…何で…私なんかかばったんだよ…)」

目の前を行き交う車を、飛鳥はボーッと見つめる。

一歩踏み出せば、きっと楽になれる。

そう考えているが、飛鳥にはどうしても出来ない。

⏰:10/04/11 18:35 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#506 [我輩は匿名である]
あの日、自分が飛び出した事で、トラックの運転手は真っ青な顔で要に駆け寄っていた。

ただ通りかかっただけの人も、救急車を呼んだり助けようとしたりしていたのも見た。

それを思い出すと、自分の気持ちが緩んでしまう。

飛鳥は横断歩道に背を向けて、またどこかへ足を向けた。

⏰:10/04/11 18:36 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#507 [我輩は匿名である]
約1時間半後。

飛鳥が去った後の横断歩道に、今度は直人がたどり着いた。

走ったり歩いたりしたため、かなり汗をかいている。

「はぁ…も…疲れたって…」

しかし、周りに飛鳥らしい女性は見当たらない。

直人は「何なんだよ…」と座り込む。

「だいじょーぶ?」

突然、後ろで可愛らしい声がした。

⏰:10/04/11 18:36 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#508 [我輩は匿名である]
振り返ると、3〜4歳くらいの女の子がいた。

「…俺…お兄ちゃんの事?」

「うん」

女の子は大きく頷く。

「んー…お兄ちゃん…だいぶ疲れたなぁ…」

「つかれちゃったの?」

女の子は大げさに身体を傾ける。

「おチビちゃん…こんな所にいたら…危ないぞ…?」

直人は「よしよし」と頭を撫でる。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#509 [我輩は匿名である]
「でもねー、さっきおんなのひとが、ずーっとここにいたの。

あのひとも、あぶないよー?」

「女の人…?」

直人は目を丸くする。

「その女の人、どんな人!?」

「えー?んーとねぇー、きんぱつでねー、せなかに、おれんじのねこがいたよー」

「オレンジの猫…??」

直人はそれに首をかしげたが、「金髪」となったらほぼ間違いない。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#510 [我輩は匿名である]
「そのねーちゃん、どこ行ったか知ってる?」

「あっちー」

女の子は、直人が来た道を指さす。

「…マジかよ…」

「おにいちゃん、あのおんなのひと、すきなのー?」

女の子はにっこり笑う。

⏰:10/04/11 18:37 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#511 [我輩は匿名である]
こんなに小さい子にそんな事を聞かれると思わず、直人はぽかんとする。

「…お友達だよ。鬼ごっこしてんの」

「そうなのー?がんばれー♪」

女の子は両手を上げる。

「おうっ。車には気をつけて遊べよ。お母さんから離れるんじゃないぞ」

直人は立ち上がって女の子に忠告する。

女の子は「うん!」と大きく頷き、直人に手を振った。

直人も手を振り返し、来た道を戻る。

⏰:10/04/11 18:38 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#512 [(´_ゝ`)]
どうなるの?

わくわく(><)

⏰:10/04/11 21:10 📱:T003 🆔:K19ari/w


#513 [我輩は匿名である]
>>512さん
いつもコメントありがとうございます

ぜひ直人の頑張りを見届けてやって下さい(*´∇`)

⏰:10/04/11 21:16 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#514 [我輩は匿名である]
「(こっちって…何かあったっけ…?

あ、もしかして、姫崎公園か?…2人で行ったことないけど…)」

直人はどこに行けばいいのか悩みながら、ひたすら歩く。

だいぶ疲れたのか、歩く速度が遅くなってきている。

「(…オレンジの猫って何だったんだ…?)」

女の子の言葉が、直人は気になっていた。

「(あいつ、猫なんか飼ってるのか…?でも、オレンジって…)」

そんな猫がいるのだろうか。

直人は考えつつ、携帯電話を見る。

⏰:10/04/11 21:17 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#515 [我輩は匿名である]
もう12時を過ぎている。

「もう昼か…」

さっきいろいろ食べた為、腹は空いていないのだが、時間が経つのは早い。

「やばいよなぁ…」

早く見つけないと、暗くなると探しにくくなる。

直人は「あぁー」と頭を抱える。

困り果てて、携帯電話を開いたり閉じたりしてみる。

⏰:10/04/11 21:17 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#516 [我輩は匿名である]
薫に相談したいが、これは自分と晶の問題だ。

第一、薫に聞いたところで何もわからないだろう。

「…自分でどーにかしろって事だよな」

直人は1人でぶつぶつ言う。

20分ほど歩いて、姫崎公園に到着した。

しかし、ここにも飛鳥らしい人はいない。

子ども達が親に連れられて、楽しそうに遊んでいる。

⏰:10/04/11 21:18 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#517 [我輩は匿名である]
直人は急に虚しくなってきて、傍にあった長椅子に腰を下ろす。

「はぁ…もうマジありえねぇ…。何でめんどくさがりな俺がこんな事…」

少し休もうと思い、直人は足だけ椅子から垂らして寝転がった。

…ほんの少しだけのつもりだったのだが。

⏰:10/04/11 21:18 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#518 [我輩は匿名である]
携帯電話のバイブが鳴り、直人は目を覚ました。

「……あぁ…やべ…寝ちまった…」

まだ寝足りないような顔で起き上がり、携帯電話を開く。

そして、ハッと目を見開いた。

「3時半!?マジで!?」

直人は驚いて辺りをキョロキョロする。

遊んでいるのは、もう幼児ではなく、学校帰りの小学生に変わっている。

「(やってしまった…)」

寝すぎた事にショックを受けながら、直人は電話に出る。

⏰:10/04/11 21:19 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#519 [我輩は匿名である]
「もしもし…?」

「直人!あんたどこにいるの!?」

「(げ…)」

母親だった。

「いや、大丈夫だったついでに散歩してたら、道に迷ったというか…。

もうちょっとしたら帰るから!」

直人はそう言って、強引に電話を切った。

「(やべぇなぁ…早く帰らないと怒られる…)」

ますます直人は頭を抱える。

⏰:10/04/11 21:19 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#520 [我輩は匿名である]
「(…くそー…晶の行きそうな場所…行きそうな場所…)」

腕を組んで考え直す。

「(…晶の…好きな場所…とか…無かったっけ…?)」

晶と行ったといっても、あの喫茶店しか思い浮かばない。

しかし、直人は思い出した。

⏰:10/04/11 21:20 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#521 [我輩は匿名である]
初めてのデートの約束をした時。

『初めて会った、あの場所がいい!』

直人は考えるよりも先に走りだした。

これでダメなら、もう諦めるしかない。

一か八かの賭けだった。

⏰:10/04/11 21:21 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#522 [我輩は匿名である]
疲れて、足が何度ももつれて転びそうになりながら、直人は走り続ける。

まるで、“もう1人の自分”が、直人の身体を動かしているかのように。

ただ無心で走った。

あと1つ、角を曲がれば、昔のあの場所に着く。

もうすっかり様変わりしているが、直人は何故か、全く迷わなかった。

「(晶…!)」

角を曲がる。

⏰:10/04/11 21:21 📱:N08A3 🆔:IZShO6bo


#523 [ま]
(´・ω・`)

⏰:10/04/11 22:06 📱:P04A 🆔:dO8wnHpE


#524 [我輩は匿名である]
コメントのせいで見にくい

⏰:10/04/12 00:18 📱:P01A 🆔:☆☆☆


#525 [我輩は匿名である]
>>524さん
読んで下さってありがとうございます&すみません

という事で(?)感想板建てました
今後の感想・ご意見はこちらへお願いしますm(_ _)m↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/

⏰:10/04/12 08:38 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#526 [我輩は匿名である]
しかし、その通りには、誰もいなかった。

息を切らして、直人は茫然とする。

そして、再び歩きだした。

初めて会った日の事を思い出す。

リーゼント頭の男。オイルショックの話をしたおばさん。全てが懐かしくなった。

直人はあるところまで来て、ゆっくりと足を止める。

⏰:10/04/12 15:10 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#527 [我輩は匿名である]
細い路地にうずくまる1人の女性。

白いワンピースではなく、オレンジのラインが入った紺色のジャージに金髪頭。

「…やっと見つけた…」

直人は小声で呟く。

女性が顔を上げる。思った通り、飛鳥だった。

「…お前…何やってんだよ…」

直人は膝に手をついて呼吸を整える。

飛鳥はあの日のように、座り込んだままうつむく。

⏰:10/04/12 15:10 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#528 [我輩は匿名である]
「…もう疲れた…」

「それは俺のセリフだ!どんだけ捜し回ったと思ってんだよ!?」

直人は汗だくになりながら怒鳴りつける。

「お前…まさか、自殺でもするつもりじゃねぇだろうなぁ…?

そんなの…絶対許さないからな…!」

「……あんたに何がわかんの…」

飛鳥はまた顔を上げ、直人を睨み上げる。

⏰:10/04/12 17:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#529 [我輩は匿名である]
「私には何にもない…。

…あんたは、私の欲しいものをみんな持ってる…。
そんな奴に、私の気持ちなんか…!」

「あぁわかんねぇなぁ、何回も自殺する奴の気持ちなんか!」

直人の「何回も」という言葉に、飛鳥はハッとする。

「…あんた…」

「わかるだろ?俺が誰か…。

…俺は、長月要の生まれ変わりだよ!石川晶!!」

直人は声を上げて、自分の正体を打ち明けた。

飛鳥は言葉を失い、茫然とする。

⏰:10/04/12 20:03 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#530 [我輩は匿名である]
「…嘘だ…あんたが要なわけ…」

「俺が要じゃなかったら、何でここがわかるんだよ?

ここが、要と晶が最初に出会って、初めてデートの待ち合わせ場所にした所だから。

だからここで、あの日みたいに待ってたんだろ?」

飛鳥はそう言われて顔を背ける。

「…今さら来たって…」

「あ?」

飛鳥の声が聞き取りにくくて、直人は首をかしげる。

そして、飛鳥は素早くポケットからカッターナイフを取り出し、刃を出して首に向けた。

⏰:10/04/12 20:03 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#531 [我輩は匿名である]
直人は目を丸くするが、飛鳥の目は本気だ。

「……何で…何でかばったのよ…」

飛鳥は静かに口を開く。

「何であの時死なせてくれなかったのよ!?

1人だけ勝手に死にやがって!

たった1人の友達亡くして、私が生きていけるわけないじゃん!!」

「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」

直人は我慢できず、飛鳥に言い返す。

⏰:10/04/12 21:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#532 [我輩は匿名である]
「“何で死なせてくれなかったか”だ!?ざけんじゃねぇよ!!

要がどんな気持ちでお前を突き飛ばしたか知ってんのかよ!?」

「うるさい!!」

飛鳥は自暴自棄になり、めをつぶって、カッターを持つ手に力を入れる。

直人はとっさに手を伸ばす。

その直後、地面にポタポタと血がしたたり落ちた。

⏰:10/04/12 21:59 📱:N08A3 🆔:RASU4056


#533 [我輩は匿名である]
飛鳥は何が起きたのか理解できず、目を開く。

「…いい加減にしろよ…」

直人は、自分の血で出来た地面の染みを見つめながら飛鳥を見下ろす。

飛鳥はやっとわかった。

直人の手がカッターの刃を握り、飛鳥の首にあたる寸前で止めていたのだ。

飛鳥が動きを止めている隙をみて、直人は飛鳥の手からカッターナイフを奪い取る。

⏰:10/04/13 08:15 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#534 [我輩は匿名である]
「あー、痛ぇ…」

カッターの刃を引っ込め、溝の中に投げ捨てる。

「…あんた、手…」

茫然としている飛鳥。

そんな彼女の胸ぐらを掴み、直人は壁に押さえ付けた。

「お前…いつまでも甘えた事ばっか言ってんじゃねぇぞ…」

直人の怒りは、頂点に達していた。

⏰:10/04/13 08:15 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#535 [我輩は匿名である]
「人の話もまともに聞かねぇで、勝手に勘違いしやがって…。

かばってやったと思えば自分で死んで…。お前…あいつの事舐めてんのか?」

頭の中に、トラックが迫ってくるあの光景が思い浮かぶ。

「あいつだってなぁ、死にたくて死んだんじゃねぇんだよ…!

お前に生きてて欲しかったから…笑って生きて欲しかったから!

だからあいつはお前をかばったんだよ!

晶ならきっと、俺がいなくても幸せになれる。要はそう願って死んでいったんだ!

それをお前は、たった3日で捨てやがって…しかも他の奴まで巻き込んで…!

要がいたら何て言うだろうなぁ!?」

⏰:10/04/13 08:16 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#536 [我輩は匿名である]
直人の話を聞きながら、飛鳥はずっとうつむいていた。

言い終わって、直人はキッと口を閉じる。

その直後。

「…?」

直人の目から、涙が落ちた。

泣きたい気分では無かった。怒りすぎて泣いたことも1度もない。

⏰:10/04/13 08:16 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#537 [我輩は匿名である]
「…何で…」

飛鳥は直人を心配そうに見つめる。

「…あいつだ」

直人は手を離し、まっすぐに飛鳥を見る。

「俺の中の要が泣いてるんだよ。

お前があんまり死にたがるから、“あの時俺が生きていられたら”ってな」

直人は涙を拭う事なく言った。

飛鳥は何も言えず、ただ直人の涙を見つめる。

⏰:10/04/13 08:17 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#538 [我輩は匿名である]
「お前…大好きな要に、こんな事思わせて悲しくないか?

要がくれた命、今度こそ大事にしようって思わないか!?」

直人の言葉の1つ1つが、飛鳥の胸に突き刺さる。

飛鳥は下を向き、肩を震わせる。

「…自分には何もないんだろ?」

しばらくの沈黙の後、直人は涙を拭きつつ、飛鳥に言葉を掛ける。

⏰:10/04/13 08:17 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#539 [我輩は匿名である]
「それって、“無くす物もない”って事だよな?

だったらダメ元でも、頑張って生きてみれば?

“人と接するの苦手”とか言う前に、出来る事全部やってみろよ」

さっきまでとは違う直人の口調に、飛鳥は少しずつ顔を上げる。

「で、どーしても無理だったら俺のとこに来い。

適当に友達になれそうな奴見つけて連れてきてやるから」

「……でも…」

飛鳥は自信がなさそうに、また下を向いてしまった。

⏰:10/04/13 08:18 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#540 [我輩は匿名である]
「言っとくけど、俺は要みたいに甘くないからな」

直人は少し偉そうに、血が出ていない方の手を腰にあてる。

「あいつは“俺がいてやればいい”みたいな考え方だったっぽいけど、

俺は無理だぞ。女の友達はお前だけ、とか耐えらんねぇし」

「な…何様だよ、あんた」

つーんとそっぽを向く直人に、飛鳥はムッとして言い返す。

⏰:10/04/13 08:18 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#541 [我輩は匿名である]
「“何様だ”?直人様だよ!!」

「は、はぁ!?何であんたなんかに“様”なんかつけなきゃなんないわけ!?」

「…それでいいんじゃん」

直人はニッと笑う。

何の事かわからず、飛鳥は「は?」と首をかしげる。

「…何が?」

「お前、他の奴とこうやってしょーもない話した事ないだろ。

友達ってのはなぁ、適当に面白い話して笑っときゃ、自然と出来るんだよ。

ま、とりあえずその頭どうにかした方がいいんじゃね?」

直人は呆れた表情で、飛鳥の金髪を見る。

⏰:10/04/13 08:19 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#542 [我輩は匿名である]
飛鳥もちょっと気にしているのか、自分で髪を見つめる。

「せめて茶髪ぐらいにさぁ…」

「…お金ないし…」

「はぁ?」

直人は「じゃあどうやってその頭にしたんだ」とため息をつく。

「バイトしろ!バイト!」

「えぇ〜…」

「えぇー、じゃねぇよ!

バイトでもしてりゃ、輪が広がっていいぞ?

自分で金稼いで、親でも見返してやれ!」

⏰:10/04/13 08:19 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#543 [我輩は匿名である]
直人はまるで、自分が見返してやるかのようにフン!と鼻から息を吐く。

それを見て、飛鳥は少し笑った。

「なんだよ」

「…変な奴だなぁと思って」

「お前に言われたくねぇよ!」

直人は本気で言い返す。

が、何だかおかしくなって、直人も同じように笑った。

「…はぁー、帰るか」

「…うん…」

頷きはするが、飛鳥は浮かない顔。

⏰:10/04/13 08:20 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#544 [我輩は匿名である]
>>503-550

⏰:10/04/13 10:50 📱:F03B 🆔:8iwuXvoY


#545 [我輩は匿名である]
直人は「…あぁ」と、思い出したように声を出す。

「家に帰りたくないんだったな」

直人はそう言って考える。

「…いや、帰る」

飛鳥は首を振る。

「何、帰んの?」

「うん、…帰る。嫌だ嫌だって言ってても、仕方ないし…」

⏰:10/04/13 12:55 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#546 [我輩は匿名である]
「そっか。…ま、嫌になったらうちでも来れば?」

「…は…?」

あっけらかんとして言う直人を、飛鳥が横目で睨む。

「何、襲われそうとか思ってんの?…誰もお前なんか襲わねーから!」

「違うから!」

飛鳥は顔を赤くして、声を大にして否定する。

それを見て、直人は声を上げて笑う。

2人はそうして、家の方向に歩きだした。

⏰:10/04/13 12:56 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#547 [我輩は匿名である]
「…手、大丈夫?」

帰り道、飛鳥がおずおずと尋ねた。

「あ?あぁ、これ?まぁ大丈夫じゃねーの?わかんねぇけど」

「どっかで洗ったら?…ちょうどそこに公園あるし」

飛鳥が指差した先には、姫崎公園があった。

直人は「あっ」と、ある事を思い出す。

「何?」

「そう、お前に…つーか、本当は要が晶にいうつもりだったんだけど」

飛鳥は首をかしげる。

⏰:10/04/13 17:28 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#548 [我輩は匿名である]
「あれ、本当に道案内だったんだからな。

美代が『来週行けないって言ってた』とかほざいてたけど、要は…」

「美代が?」

飛鳥はムッとして、眉間にしわを寄せる。

「…やっぱり嘘だったのか…」

直人は大きくため息をつく。

「あいつがそう言いに来たの?」

⏰:10/04/13 17:28 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#549 [我輩は匿名である]
「そう。でも“もしかしたら晶は来るかもしれない”と思って、要も行ったんだ。

で、途中で道聞かれて、一旦待ち合わせ場所に晶がいないか、ちゃんと見に行ったんだよ。

でもやっぱりいなかったから、案内しようってなったわけ」

「…そうだったんだ…」

晶は後悔し、肩を落とす。

「ま、美代にまんまと騙されたってわけだ、俺たちは」

公園に着き、水道の前に直人が腰を下ろす。

⏰:10/04/13 17:29 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#550 [我輩は匿名である]
「…ごめんね」

飛鳥も、直人の左後ろにしゃがみこむ。

「私が…私があの時、ちゃんと話を聞いてたら…

こんな事にならずに済んだのに…」

直人は黙って手を洗いながら、背後からのすすり泣きを聞く。

「…まぁ、この方が良かったのかもしれねぇけど」

直人はぼそっと、飛鳥に背を向けたまま言った。

⏰:10/04/13 17:29 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#551 [我輩は匿名である]
「だってお前、要がいればそれでいいって思ったままだっただろ?

それってダメなんじゃねぇのって思って。

あいつはどうか知らねぇけど、俺はそう思う」

飛鳥は顔を上げ、直人の背中を見つめる。

「…要は謝られるよりも、友達に囲まれて楽しそうにしてるの見る方が嬉しいんじゃない?

あんなのんきな性格だったし、多分その方が、あいつもホッとするだろ」

「……うん」

飛鳥は涙を拭い、大きく頷いた。

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#552 [我輩は匿名である]
「…帰るか」

蛇口を閉めて、直人は立ち上がる。

それを見て、飛鳥も立って歩きだした。


「…そういえば、要が見た案内してた女の人いるじゃん?

あの人も晶と同じように、養護施設で育ったんだって」

思いもよらない話に、飛鳥は直人を見る。

「そうなの?」

⏰:10/04/13 19:45 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#553 [我輩は匿名である]
「うん。で、お前にその女の人から伝言」

「伝言?」

「『“施設で育とうが親の元で育とうが、どっちが良い”なんてない。

他の人との間に壁を作らずに、一歩踏み込んでみろ。』……ってな。

ちなみにあの時は、友達の家に遊びに行く途中だったらしい」

「……そっか…」

飛鳥は再び、少し下を向く。

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#554 [我輩は匿名である]
「……やっぱり、怖かったんだ。

誰かを信じようとしても、また捨てられたらどうしようって…。

そう思ったら、なんかすごい怖かったんだよ」

直人の隣で、飛鳥は言う。

「…そりゃ、生みの親に捨てられたんだから、人間不信にもなるだろうな」

「うん…。でも要は何となく…本当に何となく、ずっと友達でいてくれる気がしたし、

一緒にいる時は、嫌な事全部忘れられたぐらい、楽しかった。

…だからその分、要が待ち合わせに来ずに、女の人連れて歩いてるの見たら…

ショックすぎて、もうわけわかんなくなって…」

⏰:10/04/13 19:46 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#555 [我輩は匿名である]
飛鳥はため息を吐きながら、両手で髪をかきあげた。

「…ま、そんだけ友達の大事さわかってるんなら、大丈夫なんじゃね?

俺達の学年で女子150人ぐらいいるんだし、いい奴みつかるよ、多分」

平然と言う直人を、飛鳥は横目で見つめる。

「……あんた、何でそんな前向きなの?」

そう言われて、直人は「さぁ〜?」と首をかしげる。

「要がそうだったからじゃない?能天気と言うか何と言うか…」

「あー、あんたそんな感じだね。バカっていうかなんというか」

「はぁ?」

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#556 [我輩は匿名である]
「何よ。バカはバカでしょ?」

「お前に言われたくねぇよ」

「ま、横にいる子が頭良いし、運動も出来そうだし、イケメンだもんね。仕方ないか」

「黙ってれば調子に乗りやがって!」

直人は飛鳥に食って掛かる。

「だって本当の事じゃん!!」

飛鳥は言いながら、逃げるように走りだす。

⏰:10/04/13 19:47 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#557 [我輩は匿名である]
「(あ)」

飛鳥の背中を見て、直人はやっと理解した。

「(オレンジの猫って……プーマの柄の事だったのか…)」

直人は1人、「なるほどね」と呟く。

そして、「待てよこの野郎!」と叫んで、飛鳥の背中を追い掛けていった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#558 [我輩は匿名である]
その日他に何があったかは、直人はほとんど覚えていない。

帰りが遅かった事で母親にこっぴどく説教されたが、その内容も全く頭に入らなかったし、

どうなったのか薫に報告するのも、すっかり忘れていた。

晶が…飛鳥が無事だった事だけで、頭がいっぱいだった。

直人はベッドの上でじっと、あの本を見つめる。

この本をもらってから、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていない。

しかし、もう何ヵ月も経っているような、変な感じがする。

「(薫は、2年以上読んでたんだよな…。よくやるな…あいつも)」

直人はそんな事を考えながら、ベッドに寝転ぶ。

そしてそのまま眠ってしまった。

⏰:10/04/13 19:49 📱:N08A3 🆔:Zq6n1SuI


#559 [我輩は匿名である]
しかし次の日、飛鳥は学校に来ていなかった。

右手のひらに包帯を巻いてきた直人は不思議に思い、担任の所に行ってみる。

「なぁ先生。神崎は?」

「あぁ、神崎は体調不良らしいぞ。でも今日はちゃんと自分で電話してきたな。

昨日までは、…なんかわかんないけど。

水無月、お前神崎と仲良いのか?」

「は?あ、まぁ…」

直人は頷く。

⏰:10/04/14 11:30 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#560 [我輩は匿名である]
「ほー。じゃあ大丈夫だな」

「何が?」

「いやぁ、やっぱ友達いないと楽しくないだろ?

それでちょっと不登校気味になったのかなぁと思ってたんだけどな」

担任は明るく笑う。

直人は「その通りだったんだけどな」と思いながら笑い返した。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#561 [我輩は匿名である]
その放課後、直人は薫の家に行った。

「どうだった?」

部屋に入るなり、薫は直人に尋ねる。

「うん、大丈夫。多分立ち直ったと思う」

「その手はどうしたんだ?」
薫は直人の左手を見る。

「ああ…これは…あいつを止めるのに、ちょっとな」

「ふうん…、大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。オカンが大げさに巻いてるだけ」

直人は平気そうにパタパタと手を振ってみせる。

⏰:10/04/14 11:31 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#562 [我輩は匿名である]
「…あいつも、もう2度とあんな事しないと思うし、一件落着だな」

疲れたようにため息を吐く直人を見ながら、薫は小さく笑う。

「あーぁ、俺も暇だし、学校行きてぇなぁー」

「来れば?」

「無理だろ。歩くだけでも痛いのに」

「そんなに痛いのか?」

「痛いに決まってるだろ。これ取れるのに最低でも2ヶ月ぐらいかかるんだぞ?」

「そんなかかんの!?」

⏰:10/04/14 11:33 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#563 [我輩は匿名である]
「らしいぞ。今痛み止め飲んでるからましだけど、切れたらかなり痛いからな」

「えー…」

「まぁ明日また病院行くから、その時にどう言われるかだな。

痛みが引いて、腕上げなくていいなら学校行けるだろうけど」

「そうなのか…」

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#564 [我輩は匿名である]
直人はそこまで重症だとは思っていなかったため、ぽかんとする。

「ま、ゆっくり休めよな。俺もまた来てやるからよ」

直人は「よっこらしょ」と立ち上がる。

「あぁ。また何かあったら言って来い」

薫は空いている右手を上げる。

直人も「じゃあな」と手を振り、薫の家を出た。

「(2ヶ月か…大変だなぁ、あいつも…)」

直人は少しつまらなそうに家まで歩く。

少し違うが、今までの平凡な日常が戻ってきている気がした。

⏰:10/04/14 11:34 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#565 [我輩は匿名である]
…のだが。

次の日、直人を含むクラスメイト全員が、ただ目を丸くしていた。

その視線の先には、茶色い頭で、スカートの丈もきちんと戻した飛鳥の姿。

「…お前…どしたの?その髪の毛」

直人に聞かれて、飛鳥はだいぶ恥ずかしそうに髪を触る。

「染めたんだよ、見たらわかるだろ」

「じゃなくて!金は?無かったんじゃなかったのかよ?」

「親にもらった」

「はぁ…?」

直人はただきょとんとする。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#566 [我輩は匿名である]
「だって、弟だけ小遣いもらって、私には無かったんだよ?

どー考えたって不公平だろ。だから、昨日もらったの、今までの分」

飛鳥は当然の事のように言いながら、自分の席に座る。

「…いくらもらったんだよ?」

「5万」

「一気に!?」

「だから、今までの分だっつっただろ」

飛鳥は言いながら、まだ髪を気にしている。

⏰:10/04/14 21:41 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#567 [我輩は匿名である]
「………変、かな?」

「…いや、今の方が絶対良いと思うけど。ヤンキーみたいだったし」

「ヤンキーって言うな!」

「どー見てもヤンキーだろ!」

「っさいなぁ!」

2人は大きな声で言い合う。

「…ま、いいんじゃねーの?今は普通に見えるし」

「…じゃあ、いい」

2人は目立っているのに気付いたのか、急に大人しくなった。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#568 [我輩は匿名である]
「…そういえば、あんたの相棒は?休み?」

「はぁ?何をいまさら…」

直人はそう言いかけてやめる。

薫達が怪我をした時は、飛鳥は本の内容でそれどころではなかったのだ。

「…あー、ちょっといろいろあってな。ほぼ絶対安静って感じ」

「…何かよくわかんないけど、大変だったって事だね」

飛鳥は言いながらため息を吐く。

⏰:10/04/14 21:42 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#569 [我輩は匿名である]
「水無月くーん」

呼ばれて振り向くと、響子と奏子がいた。

「おぅ、おはよ」

「おはよう…ん?」

2人は「誰?」と言うように飛鳥を見る。

「あぁ…こいつは…」

直人はまた、何か言いかけて、ふと考えた。

「(これ、友達候補にしてもいいのか?

でも、安斎はともかく、香月とは被害者加害者の関係だし…)」

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#570 [我輩は匿名である]
「あ、もしかして神崎さん?」

直人が考えている間に、響子が飛鳥に話し掛けた。

直人はぎょっとしつつ、黙って様子を見る。

「へ?そ、そうだけど…」

いきなり言われて、飛鳥も目を丸くする。

「何で私の事…」

「それは…」

響子は「何て言おうか」と考える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#571 [我輩は匿名である]
「風の噂よ♪」

便乗して、奏子まで割って入った。

「私、安斎奏子。で、こっちの子が香月響子。私5組で、響子が4組」

「(…なんかわかんねぇけど、チャーンス!!)」

なりふり構わず、直人は目を光らせる。

「わ、私は…」

飛鳥は少し緊張しながら顔を上げる。

「私は、神崎、飛鳥。8組」

「うん、8組は知ってる」

奏子は笑顔で答える。

⏰:10/04/14 21:43 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#572 [我輩は匿名である]
「何か、意外だね」

「な…何が?」

「金髪だし、怖そうって噂があったからさ。でも普通の子じゃん」

「そうね」

奏子に言われて、響子も笑って頷く。

「普通?…私、普通に見える?」

飛鳥はちょっと目を輝かせる。

「普通でしょ。え、どっか変なの?」

「いや…別に変じゃない、と思うけど…」

奏子と飛鳥が話している間に、直人は響子の肩を叩く。

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#573 [我輩は匿名である]
「お前、何とも思ってねーの?」

「思ってないわけないでしょ」

響子は笑顔のまま答える。

直人の背筋に寒気が走る。

「え…」

「大丈夫よ、何もしないから。ていうか、よく連れ戻したね」

「当たり前だろ。また死なれてたまるかよ」

「…でも奏子ちゃんが言うように、意外と普通じゃない。

もっと陰キャラかと思ってたけど」

⏰:10/04/14 21:44 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#574 [我輩は匿名である]
「…お前の口から『陰キャラ』なんて言葉が聞けるとは思わなかったな」

直人は「へっ」と少し笑う。

「えっ!?バイト探してんの?じゃあさぁ、ウチんとこ来なよ。ちょうど同期の子が辞めちゃってさ」

「…何のバイト?」

「カフェ。ケーキとか紅茶とか配り回るだけだから、慣れれば楽しいよ」

「カフェ…」

飛鳥はますます目を輝かせる。

「…なんか、あいつのペースに乗せられてない?」

「いいんじゃない?むしろそっちの方が」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#575 [我輩は匿名である]
「まぁな…。あいつ、ちょうど友達探しするって言ってたし」

「そうなの?…あぁ、そっか、“前”の理由がアレだったもんね」

おそらく、薫から聞いたのだろう。

響子は晶の自殺の理由を知っているようだった。

「まぁ、そーゆー事だな。安斎なら、そっからいろいろ繋がりそうな気もするし」

「奏子ちゃん、意外と私といる時が多いよ」

「へ、そうなのか?」

「うん。他の子とも仲は良いけど、浅く広く。

まぁ世渡り上手タイプだから、あの子にとっては勉強になるんじゃないかな?」

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#576 [我輩は匿名である]
「はーん、なるほどね。…つか、お前達何しに来たの?」

「あーっ、そうそう!」

直人の声が聞こえたのか、奏子がいきなり振り向いて返事をした。

彼女のペースに追い付けず、飛鳥はただぽかーんとする。

「今日ライティングある?教科書貸してほしくて」

奏子はぱちんと手を合わせる。

直人は一瞬考えて、とっさに「あ、俺も忘れた」と嘘をついた。

「えー」

奏子は「何それー」と肩を落とす。

⏰:10/04/14 21:45 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#577 [我輩は匿名である]
それと同時に、直人が飛鳥に目で合図を送る。

飛鳥は最初は「は?」と首をかしげていたが、「あぁ!」と声を上げた。

「わ、私持ってるよ!」

飛鳥の声に、響子と奏子が振り向く。

「本当っ?」

「うん…」

飛鳥はちょっと焦りながら、机の中をあさる。

「………あ、はい」

「ありがとー!1時間目終わったら、すぐ返しに来るからね!」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#578 [我輩は匿名である]
「うん」

飛鳥はホッとしたように少し笑った。

「じゃあね!」

奏子と響子は、飛鳥と直人に手を振って、教室を出て行った。

「…第一歩って感じ?」

直人はニッと笑って飛鳥を見る。

しかし、飛鳥はまるで埴輪のように呆然とする。

「なんか…びっくりした…」

「嵐みたいな奴だからな、あいつ」

「…でもなんか…面白かったかも…」

⏰:10/04/14 21:46 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#579 [我輩は匿名である]
「言っとくけど、楽しいばっかりじゃないからな?

喧嘩とかする時もあるんだからな?」

「…そうだね、忘れてた」

飛鳥が意識を全部戻してきたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

「じゃ、まぁ何かあったら言ってこいよ」

直人はそう言って、自分の席についた。

⏰:10/04/14 21:47 📱:N08A3 🆔:OramDDpE


#580 [我輩は匿名である]
1時間目が終わるチャイムが鳴り、奏子が教科書を返しにやって来た。

「神崎さん、だっけ。ありがとう」

奏子は笑って、飛鳥に教科書を手渡す。

「…ねぇ、…安斎さん」

飛鳥は思い切って、自分から話し掛ける。

「ん?」

「…昼ご飯、誰と食べてる?」

「お昼ご飯?響子と食べてるよ。一緒に食べる?」

奏子は、飛鳥が頼むより先に昼食に誘った。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#581 [我輩は匿名である]
「えっ…いいの?」

「いいよ?おいでおいで」

「…うん…!」

飛鳥は大きく頷く。

直人は気付かれないように、その様子を見ながらホッとしていた。

⏰:10/04/15 11:04 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#582 [我輩は匿名である]
>>550-581

⏰:10/04/15 19:13 📱:F03B 🆔:92JHW.eU


#583 [我輩は匿名である]
次の月曜日。

直人は登校して来てすぐに、目を丸くして足を止める。

下駄箱で、ジャージ姿の薫が、響子に付き添われて靴を履いていたのだ。

「薫!?」

「ん?よぉ」

「よぉ。じゃねーよ!来れるようになったんなら言えよ!!」

「びっくりさせてやろうと思って」

「いらねぇよ!!」

直人はテンションがおかしくなって、朝から大声を上げる。

⏰:10/04/15 20:23 📱:N08A3 🆔:oE0S7Qqw


#584 [我輩は匿名である]
「一応登校は許可されたからさ。まだこっちの腕使えないけど」

薫は左腕を見ながら直人に言う。

「折れた骨があんまりズレてないらしいし、だいぶ痛みも引いたからさ。

もちろん体育とかは出来ないけど、休みすぎるとダブるし」

「そっかぁ…。ま、マシになって良かったな!俺も何かホッとしたわ!」

直人は満面の笑みを見せる。

⏰:10/04/16 09:13 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#585 [我輩は匿名である]
「おはよー」

3人が下駄箱で立ち止まっていると、奏子と飛鳥も登校してきた。

「おう。珍しいな、一緒に来るなんて」

「…ちょうどそこで会ったからさ」

飛鳥はそう言いながら校門を指差す。

「あー、それでか」

「あっ、月城くんだっけ?あんた学校来れるようになったんだね」

「あぁ、まぁ…」

薫はすぐに誰だったか思い出せず、少しぽかんとする。

⏰:10/04/16 09:14 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#586 [我輩は匿名である]
「…奏子、日直って言ってなかったっけ」

「へ?あぁっ、そうそう!じゃあまたお昼休みね」

奏子はそう言って、さっさと靴を履きかえて走っていった。

4人はボーッと、奏子の走っていく背中を見る。

「忙しい子だねぇ」

4人の背後で、老人のしゃがれた声がした。

⏰:10/04/16 09:14 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#587 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は素早く、薫と響子はゆっくりと振り向く。

そこには、直人達に本を渡した、あの老人が立っていた。

「…おっさん…」

「死ななかったんだねぇ、君」

驚いて立ち尽くす直人をよそに、老人はニヤッと笑って飛鳥に言った。

「わしはてっきり、後ろの彼に殺されでもすると思ってたがのぉ」

老人は小汚い手で薫を指差す。

飛鳥も「は…?」と薫に目をやる。

「…何だ、俺が誰か知らなかったのか」

薫は不思議そうに答える。

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#588 [我輩は匿名である]
「どういう…」

「止めろ!おっさん!」

直人はとっさに老人に向かって叫び、詰め寄る。

飛鳥も薫も、びっくりして直人を見る。

が、老人は笑顔のまま、口を動かした。

「…君の後ろのお友達、君が巻き込んで死なせた、あの女の人だよぉ?」

「…え…?」

飛鳥はゆっくりと、響子の方を向く。

直人はキッと、老人を睨む。

「…嘘…でしょ…?」

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#589 [我輩は匿名である]
茫然としながら、飛鳥はただじっと響子を見つめる。

「本当だよ」

そう答えたのは、薫だった。

「俺はその夫だ」

「薫…!」

直人は思わず、薫に手を伸ばす。

しかし、響子がすぐにそれを止めた。

⏰:10/04/16 13:26 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#590 [我輩は匿名である]
「君、よく我慢できたねぇ?わしゃあ、絶対無理だと思ってたけど」

老人の言葉に、薫は小さく笑い、響子の肩を抱いて引き寄せる。

「俺はなぁ、こいつがいてくれたら、もうどうでもいいんだよ。

後は、あんな“事故”が2度と起こらなければ良いと願うだけだ。

恨み続けるのも疲れたしな。それに、俺は今の生活の方が楽しいし」

直人も飛鳥も、黙って彼を見る。

⏰:10/04/16 13:27 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#591 [我輩は匿名である]
その隣で、響子も静かに笑みを浮かべた。

「この子を憎んだところで、あの日に戻れるわけでもないし、お腹の子も戻らない。

…私、あの子に言ったの。“生まれ変わったら、お父さんにいっぱい抱っこしてもらおうね”って。

だから、そんな事考えても何にもならないと思って」

薫と響子は、凛とした表情をして老人を見返す。

「ほぅ…意外だねぇ。まさかこんなに丸く収まるとは思わなかったなぁ」

老人は「ほっほっほっ」と笑う。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#592 [我輩は匿名である]
「では、本を返してもらおうかの」

そう言いながら、老人はこちらに向かって手を伸ばす。

すると、直人・飛鳥・薫の前に、それぞれ赤・青・深緑色の本が現れた。

「…これ…何で…」

直人達が驚いている間に、本は老人の手に納まった。

「なんだよ、それくれねぇの?」

「やらんよ。他にも本を渡さなんといかん人がおるからなぁ。

使い回しとるんだよ。エコだよ、今流行っとるだろ?エコ。

まあ心配せんでも、綺麗に真っさらにしてから使うんだがねぇ」

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#593 [我輩は匿名である]
老人は言いながら、リュックに本を放り込む。

「それ…あんたに返したら、記憶は無くなるのか?」

薫はあまり動じずに尋ねる。

「そんなこたぁない」

老人は答える。

「あんたらに売った記憶は、死ぬまで消える事はない。

そこまでの力は無いからなぁ」

「“売った”?俺達、買った事になってんのか!?」

直人は「そんな金ねぇよ」と頭を抱える。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#594 [我輩は匿名である]
「心配するな、代金はもうもらっとる」

老人は言いながら、直人達みんなを指差す。

「あんたらの“前世”からのぉ」

「へ…」

直人と飛鳥はきょとんとする。

「…1つ聞きたい事がある」

薫は落ち着いて、再び老人に尋ねる。

「なぜ響子だけ、本を持たずに思い出せたんだ?」

「あーぁ、それはだねぇ」

相変わらずふざけた口調で、老人は答える。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#595 [我輩は匿名である]
「“彼女”はちょっと特別でねぇ、死んだ後もずーっとあんたの傍にいた。

要するに幽霊だったわけだ。それ程想いが強かったんだろうなぁ。

だから、“彼女”は本を渡さなくても、自然に思い出すだろうとみなされたわけ」

話を聞きながら、薫と響子は顔を見合う。

「さぁて、じゃあそろそろおいとましようかの。元気でなぁ〜」

老人は気楽そうにそう言って、姿を消した。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#596 [我輩は匿名である]
4人は無言でボーッとする。

ふと、飛鳥がもう1度、薫と響子の方に体を向ける。

直人も何も言わず、彼女を見つめる。

しばらく無言のまま時が過ぎた後、飛鳥は2人に向かって頭を下げた。

「すいませんでした」

3人は黙ったまま、ただ飛鳥を見下ろす。

直人は薫と響子の様子をちらちらと伺う。

「……もういいよ、頭上げて」

少し笑って、響子はそっと、飛鳥の肩に手をおく。

⏰:10/04/16 21:23 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#597 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥は頭を上げようとしない。

「おい」

今度は薫が、呆れたように飛鳥に言う。

その声が怖く聞こえたのか、飛鳥は恐る恐る頭を上げる。

「次あんな事しようとしたら、死ぬより辛い目に遭わせてやるからな」

「(…こえぇ…)」

薫の表情と言葉に、直人は寒気を感じる。

しかし薫はそれだけ言うと、響子を引きつれて、その場を離れようと背中を向ける。

「あ、待てよ」

何か思いついたのか、薫は再び振り向く。

⏰:10/04/16 21:24 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#598 [我輩は匿名である]
「お前、響子の代わりに鞄持って」

「…は?」

飛鳥は眉間にしわを寄せて首をかしげる。

その態度が、薫の気に障ってしまった。

「…俺にケンカ売ってるのか…?」

「う、売ってないです!持ちます!鞄!」

飛鳥は怖くなって、さっさと靴を履き替えて、響子から薫の黒いエナメルの鞄を受け取った。

⏰:10/04/17 09:38 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#599 [我輩は匿名である]
「重っ…」

「横向けるな、弁当が偏る」

「はい…」

あれこれ文句をつけられながら、飛鳥はそれを持って教室に向かう。

その様子を見て、直人と響子は笑っている。

「そういえば」

響子は思い出したように直人に話し掛ける。

「水無月くんって、やっぱりあの子の事好きなの?」

⏰:10/04/17 09:38 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


#600 [我輩は匿名である]
「へ?」

何の話かわからず、直人はきょとんとする。

「飛鳥ちゃんよ。やっぱり気があるのかなぁーって」

響子は笑っている。

「えっ…え?いや、別に…」

直人はそう言うが、響子は「鈍感ねぇ」と呆れている。

「…本当に、わかんねぇんだよ」

直人は少し口を尖らせる。

⏰:10/04/17 09:39 📱:N08A3 🆔:kvTVgZXw


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