記憶を売る本屋さん
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#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」

直人は思わず大きな声を出した。

そして、慌てて自分ののどを押さえる。

「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」

久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。

部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。

「お兄ちゃん!うるさい!!」

バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。

かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。

「…恵理だ…」

いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。

やっと戻ってきた。心の底からホッとした。

⏰:10/03/22 16:50 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。

時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。

ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。

「時間が…経ってない…!?」

本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。

それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…

といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。

直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。

左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。

直人は本を手に取り、他のページを見てみる。

他のページは全て、白紙だった。

「…何なんだ…?この本…」

直人は呟き、最初のページに戻る。

⏰:10/03/22 16:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#28 [我輩は匿名である]
  1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
          隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
          話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
          その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
          石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。

縦書きで、これだけ書かれていた。

「…誰かの日記か…?」

しかし、日記にしては文章がかたい。

⏰:10/03/22 17:10 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。

「これ、40年前の今日だ…」

携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。

やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。

どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。

しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。

ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。

⏰:10/03/22 17:15 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#30 [我輩は匿名である]
次の日。

昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。

「…お前、昨日なんかあったのか?」

「…へ?」

薫に聞かれて、直人はふと我に返る。

「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

直人は薫にくってかかる。

いつもの直人に戻った。薫は思った。

…薫に相談してみるべきか、直人は考える。

薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。

とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。

1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。

⏰:10/03/22 17:22 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#31 [我輩は匿名である]
「…本」

直人はドキッとする。

いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。

「…なんで…」

「当たりか」

「お前、何か知ってんのか…!?」

直人は机に手をついて、薫に問いかける。

「……別に何も知らねぇよ」

薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。

「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」

「…うん…」

直人はしぶしぶ頷く。

⏰:10/03/22 17:28 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#32 [我輩は匿名である]
「そんなのいつもらったんだよ?今日?」

「…昨日。お前が弁当箱取りに行ってる間に」

「やっぱりな…。腹痛じゃないな、とは思ってたけど」

薫は呆れたように息をつく。

「で、それどんな本なんだよ?俺見ても大丈夫?」

昨日は興味なさそうな素振りをしていたのに、やっぱり見たいのか。

なんかちょっと不満ながらも、直人はとりあえず鞄に入れて持って来ていた本を取り出し、机に置く。

「…何だ、これ」

「本」

「見りゃ分かる。…何も書いてないな」

表紙を見て、薫は首をひねる。

⏰:10/03/22 17:34 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#33 [我輩は匿名である]
「中身もさぁ…」

直人は本を開こうと手をかける。しかし、ぴたっと動きを止めた。

このまま開けば、薫まで変な時代に飛ばされるのではないか…。

そう思うと、開く気が引けてきてしまった。

「…何だよ、大丈夫だって!本読んだぐらいで死ぬかよ」

直人の心配をよそに、薫は直人の手を払いのけて本を開いてしまった。

「うわっ!ばかやろう!!」

直人は大袈裟に、眩しそうに手でブロックしながら目をつぶった。…が。

「…あれ?」

何も起きない。直人の慌てっぷりに、薫が声をあげて笑っている。

「何!?何だよお前!!本っ当変な奴」

「うるせぇ!!」

言い合いをしながら、2人で本に目をやる。

⏰:10/03/22 17:42 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#34 [我輩は匿名である]
中身は、昨日直人が見た状態そのままだった。

「(はぁ…良かった…)」

直人は、心配して損した、と肩の力を抜いてうなだれる。

「変だろ?そんだけしか…」

とりあえずタイムスリップは後で説明しようと思った直人は、呆れ笑いしながら薫を見る。

そして、自分の目を疑った。

本を読む薫の目が、今までに見た事の無いほど冷たく、影を背負っていたからだ。

眉間にしわを寄せ、口を真一文字に閉め、まるで何かを憎んでいるような表情。

薫のこんな顔は、16年間付き合ってきて初めてだ。

「…おい…」

「…石川…晶…」

薫が小声で呟いた。

⏰:10/03/22 17:52 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#35 [我輩は匿名である]
だんだん恐ろしくなってきた直人は、無理やり本を閉じた。

「…なんだよ?まだ読んでたのに」

目線を上げてそう言う時には、薫の表情はいつもの薫に戻っていた。

「いや…なんか、やっぱ怖くなっちゃってさ」

直人は苦笑して言う。怖いのは本ではなく、薫の方だったが。

「そうかぁ?でもほら、見ても何ともないだろ」

薫は両手を広げてにっこり笑ってみせる。

さっきのは、気のせいだったのだろうか?

「ま、見せたくないなら、無理に見せてくれなくてもいいけどさ。

 その代わり、なんかあったらすぐ言えよ」

「…おう。サンキュ。俺、ちょっとトイレ行って来るわ」

「あぁ」

直人は本を鞄にしまい、席を立った。彼は知らなかった。

背中を見送る薫の顔が、さっきの憎しみのこもった表情に戻っていた事に。

⏰:10/03/22 17:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


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