記憶を売る本屋さん
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#402 [我輩は匿名である]
部屋に入り、ドアを閉めたところで、足の力が抜けてしまった。
ドアにもたれ、茫然とする。
足元に、あの本が落ちている。
直人は這うようにそれに近づき、恐る恐るもう1度手にしてみる。
全身が震えている。まるで「開くな」と言っているように。
しかし、直人はそれを振り切って、それをゆっくりと開いた。
:10/04/08 19:11
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#403 [我輩は匿名である]
『5月19日
長月要は石川晶と話し合う事にした。
2人は互いの言い分をぶつけ合ったが、途中で石川晶が逃げ出した。
長月要は後を追ったが、石川晶が信号を無視し、横断歩道に飛び出した。
走行中だったトラックがブレーキをかけたが間に合わず、
彼女をかばった長月要がはねられ、路面に全身を強打した。
特に強く頭を打ちつけており、約7分後に救急車が到着したが、ほぼ即死だった。』
:10/04/08 19:11
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#404 [我輩は匿名である]
それはもう、最後のページだった。
直人は凍りつく。
「……即死……?」
手から本が滑り落ちる。
長月要は死んだ。晶をかばって。
そんな…。声に出したつもりだが、出なかった。
『即死だった』
その言葉だけが、頭の中でぐるぐる回る。
「う…嘘…だろ…」
直人は無理やり声を押し出す。
:10/04/08 19:12
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#405 [我輩は匿名である]
「俺は…」
違う。直人は考えを振り切るように首を振る。
「(…あれは…俺じゃない…俺じゃない…!
俺は…ちゃんと生きてるだろ…?
死んだのはあいつだ…長月要だろ…)」
何度も自分に言い聞かせる。
しかし、言い聞かせる度に、どんどん複雑な気分になっていく。
:10/04/08 19:12
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#406 [我輩は匿名である]
怖かった。今でも鳥肌がおさまらないほど。
自分に近づいてくる猛スピードのトラック。
耳をつんざくようなブレーキの音。
忘れようと思っても忘れられない。
自分に起こった事にしか思えず、それが余計に直人の頭の中をかき乱す。
「(違う…違う…!
あれは…俺じゃない…!
…俺じゃないのに…)」
直人は1日中、立ち上がる事すらできずに、ただボーッと座り込んでいた。
:10/04/08 19:13
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#407 [我輩は匿名である]
次の日。
昨日の晩は一睡も出来ず、直人の目の下に薄くくまが出来ていた。
1日経っても、まだ何も考えられない。
薫はまだ入院中のため欠席だが、その上飛鳥まで休みだった。
相談できる人が誰もいない。
直人は机で1人、頭を抱える。
朝礼で、金曜日の階段での事故について担任から話があったが、
今の直人の耳に入るはずもない。
時間が経つのが異様に早く、気が付けば下校時刻になっていた。
:10/04/08 22:48
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#408 [我輩は匿名である]
弁当を食べたかどうかも覚えていないが、弁当箱が軽くなっているのを見ると、無意識に食べたのだろう。
直人は暗い顔で、何気なく携帯電話を取り出してみる。
ちょうど、メールが1通届いている。
メールは薫からだった。
『明日退院出来るってヽ(´▽`)/
でもまだ一応自宅安静らしい…。
暇だから時間があったら遊びに来い。』
「(……こんな時にふざけた顔文字送って来やがって…)」
直人は心の底からイラッとした。
:10/04/08 22:49
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#409 [我輩は匿名である]
しかし、退院出来るようになったなら良かった。
薫には、聞きたい事も、聞いてほしい事もたくさんある。
ほんの少しホッとして携帯電話をしまう。
そして教室を出ようとすると、ドアから室内を覗いている響子と奏子の姿があった。
「…あ!いたいた」
直人と目が合い、奏子が声を上げる。
2人は小走りで直人に駆け寄る。
:10/04/08 22:49
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#410 [我輩は匿名である]
「香月…いつ退院したんだよ?」
「昨日ね。私はほとんど無傷だったし、検査でも異常なしだったから」
「…そっか…良かったな」
直人は元気なく笑う。
「で…俺に何か用…?」
いつもとは全く違う直人の様子に、2人は顔を見合わせる。
「今日の朝、学校行ってたらあんた見つけてさ。
でもなーんか元気無かったから、何となく気になって」
そう言ったのは、奏子だった。
否定できず、直人は「あぁ…」とうつむく。
:10/04/08 22:49
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#411 [我輩は匿名である]
何か悪い事を言ってしまったのかと、奏子は少しおどおどする。
「…本を読み終えたの?」
響子はそれだけ直人に尋ねた。
直人はハッと顔を上げる。
「本…?」
事情を知らない奏子は、何の事かと首をかしげる。
「奏子ちゃん、呪いの本の話知ってる?」
「あぁ、変なおっさんが話し掛けてくるっていう、あの話?」
「…まぁ、そう。その呪いの本を、水無月くんが持ってるの」
:10/04/08 22:50
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