記憶を売る本屋さん
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#429 [我輩は匿名である]
「…ねぇ、あの子どーしちゃったかなぁ?」
「お兄ちゃん、昨日変な悲鳴あげてトイレに引きこもってたよ」
「うつ病にでもなっちゃった?」
母の言葉に、2人は顔を見合わせる。
「あの変人お兄に限ってそんな事…」
「…あるわけないわよねぇ〜!」
2人はそう言いながら、大声で笑ってリビングに戻っていった。
:10/04/09 12:33
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#430 [我輩は匿名である]
直人はそんな事も知らず、机に鞄を置く。
その拍子に、机の置いたままの本が目についた。
直人は何気なくそれを手に取る。
そして、ゆっくりと開いてみた。
しかし…もう、何も起こらなかった。
『前世の自分が死んだ時が、本の終わり』
響子の言葉は、本当だった。
「(…本当に…死んじまったのか…あいつ…)」
直人は静かに本を閉じる。
:10/04/09 12:34
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#431 [我輩は匿名である]
今思えば、いつの間にか愛着みたいなものが湧いていたのかもしれない。
晶にも、…要にも。
「(…そういえば、晶はどうなったんだろ…?
何も書いてないって事は…大丈夫だったのか…?)」
本には、晶がどうなったのかは一言も書かれていない。
要の中から見た最後の情景では、晶が向こう側の横断歩道くらいまで弾き飛ばされていた。
「(…あいつは、要にかなり腹を立ててた。
もう会いたくもなさそうだったし…。
……もっといい奴に出会って、今も元気に生きてるはずだ…)」
:10/04/09 12:34
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#432 [我輩は匿名である]
生きていれば、もう60歳近くになっているだろう。
「…もうおばあさんじゃん…」
直人は小さく笑う。
それでも構わない。要の事も忘れていてもいいから、ただ幸せでいてくれたら。
直人はそう、願うように思った。
その日はやっと、4時間ほど眠ることが出来た。
:10/04/09 12:35
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#433 [我輩は匿名である]
次の日の放課後、直人は薫の家を訪れた。
ドアの前で、大きく息を吐く。
そして、覚悟を決めたようにベルを押した。
「はい」
インターホンから、薫の母親の声が聞こえる。
「あっ、水無月直人です」
「あらぁ、ちょっと待ってね」
のんきな声は、そう言って1度途切れた。
ガチャッと、ドアの鍵が開く。
:10/04/09 18:41
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#434 [我輩は匿名である]
「いらっしゃーい」
声と同時に、薫の母が姿を現した。
「こんちわ」
「お見舞いに来てくれたの?」
「ああ、薫元気?」
「暇そうにしてるわ。さ、入って」
小さい頃からよく面倒を見てくれたため、彼女はよく知っている。
直人は気兼ねなく、「お邪魔しまーす」と中に入る。
「お茶持っていくから、先に行ってて」
「うん、ありがと」
:10/04/09 18:42
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#435 [我輩は匿名である]
直人は礼を言って、左側にあるドアを開く。
「…よぉ。いらっしゃい」
薫は、ベッドの上で雑誌を読んでいた。
「元気そうじゃん、早く学校来いよ」
直人はつまらなそうに言いながら、ベッドの横に座り込む。
「無理言うなよ。前かがみになったら痛むんだから、ノートすら取れないんだぞ?」
「お前がいないと暇なんだよ」
「知らねーよ」
薫は呆れたように言い捨てる。
:10/04/09 18:42
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#436 [我輩は匿名である]
「はーい、お茶」
ちょうどよく、薫の母親が2人分の麦茶を持ってきてくれた。
「サンキュー、おばさん」
「どういたしまして。ゆっくりして行ってねー」
彼女はにっこり笑って部屋を出て行った。
「で?俺に何か用か?」
麦茶が入ったグラスを片手に、薫が尋ねる。
:10/04/09 18:42
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#437 [我輩は匿名である]
「純粋なお見舞い」
「お前がそれ事だけでわざわざ来るかよ」
薫は疑わしい目で直人を見る。
ばれたか。直人はチッと舌打ちする。
「…まぁ、いろいろあってさ…」
暗い顔でうつむく直人に、薫は首をかしげつつ、カレンダーに目をやる。
「………死んだのか」
薫は単刀直入に、それだけ言った。
:10/04/09 18:43
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#438 [我輩は匿名である]
「……ホント、お前何でも知ってるな」
直人は顔を上げる。
「……“何で死んだのか”までは知らない」
「へぇ…」
「意外だな」と、直人は思った。
「…事故ってさ。トラックにはねとばされたらしい」
「お前が飛び出したのか?」
「まさか。晶が飛び出して、…かばったんだよ」
直人は手の中のグラスを見つめる。
薫は返事をするより先に、小さく鼻で笑った。
思わず、直人は顔を上げる。
:10/04/09 18:43
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