記憶を売る本屋さん
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#440 [我輩は匿名である]
「残念だけど」
直人の主張を邪魔するように、薫が少し声を大きくして言った。
「あいつは死んだよ」
「…は…?」
断言する薫に、直人は苛立ったようににらみ返す。
「病気か?それとも事故か?」
「違う」
「…じゃあ何だよ!?」
思わず声を上げてしまった。
直人はちらっとドアを見る。
が、誰かが入ってきそうな気配はない。
:10/04/09 18:44
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#441 [我輩は匿名である]
「…お前、あんな奴が幸せに生きていけると思ったのか?」
薫は少し質問を変える。
「…どういう意味だよ…?」
「石川晶には、お前以外に頼れる人間はいなかった。
親には捨てられたみたいだしな。
そんな奴が、お前無しに生きていけると思うか?」
薫はそう言ってグラスに口をつける。
その質問の意図が、直人には理解できない。
:10/04/09 18:45
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#442 [我輩は匿名である]
グラスを傍に起きながら、「どういう事だ」と考える。
「あいつは、お前が思うほど強い人間じゃなかった。
お前に置いていかれて、後を追いたくなるのも無理ないよなぁ…?」
そこまで言われて、直人はハッとした。
「…自殺した…って言いたいのか…?」
薫は何かを感じて、傍にあった机にグラスを置く。
その直後、直人は発作的に、薫の胸ぐらを掴んだ。
:10/04/09 18:45
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#443 [我輩は匿名である]
「ふざけんな…!あいつが自殺なんかするわけないだろ!」
「ふざけてるのはお前だろ。余計な事しやがって…。
あんなやつ、かばう価値があるような女じゃなかった」
「…お前…!」
直人の手に力が入る。
が、薫も右手で直人の手首を掴む。
「だってそうだろう?あいつは自分が楽になれればそれで良かった。
誰かを巻き込もうが、あの女はどうでも良かったんだよ!」
薫も声を荒げて言い返す。
:10/04/09 18:45
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#444 [我輩は匿名である]
その『誰かを巻き込もうが』という言葉に、直人は動きを止めた。
「…え…?」
直人は茫然としている間に、薫は直人の手を振り払う。
無理に体をひねったためか、薫は顔をしかめて左胸をさする。
「…わかっただろ?俺が何を言いたいか」
少し息を切らしながら、薫は直人に言う。
「あいつはビルの屋上から飛び降りた。下も見ずにな。
だから、下の歩道に人が通っていたのに気付かなかった」
:10/04/09 18:46
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#445 [我輩は匿名である]
「……嘘だ…」
「嘘じゃない」
「嘘だ!!」
「嘘じゃない!!」
直人はベッドの傍に突っ立ったまま「嘘だ」と繰り返す。
何を言っても信じようとしない直人を見て、薫はベッドの下を探って、一冊の深緑色の本を出した。
:10/04/09 18:46
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#446 [我輩は匿名である]
タイトルも著者名も、なにも書かれていない。
しかし、直人の本よりもはるかに分厚い。
薫はそれを開き、真ん中に近いページを開いて直人に差し出した。
「読んでみろ」
そう言われて、直人はおずおずとそれを受け取る。
:10/04/09 18:47
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#447 [我輩は匿名である]
『1977年 5月22日
昨日残業したため、今日は早く帰れる。
今日子のお腹も大きくなってきたので、優也は出勤前に「今日は俺が晩ご飯作るよ」と申し出た。
しかし、17時前に帰宅したが、今日子は家にいなかった。
心配しながら待っていると、18時ごろに電話が鳴った。
警察からだった。今日子と思われる女性が亡くなったという。
優也はよくわからないまま、言われた病院に車を走らせた。
:10/04/09 18:47
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#448 [我輩は匿名である]
警察の人間に案内されて入った部屋は、霊安室だった。
目の前に横たわっている人の顔にかかった布を取ると、紛れもなく今日子だった。
隣には、お腹にいたはずの赤ちゃんも寝かされていた。
「せめて赤ちゃんだけはと、医者は助けようとしたそうだが」と、警官は言った。
なぜ、いつ死んだのか。そう尋ねると、
警官は「買い物を終えて帰宅途中、ビルから女性が飛び降り、その下敷きになったようです」と答えた。』
:10/04/09 18:47
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#449 [我輩は匿名である]
『5月24日
今日は友引だったため、今日子らのお通夜は明日になった。
優也が家でボーッとしていると、中年の男女がやって来た。
誰かと尋ねると、彼らは言った。
「ご迷惑をおかけした、石川晶の保護者です」と。
話を聞くと、その石川晶という15歳の少女が、ビルから飛び降り自殺を図ったという事だった。
今日子はそれに巻き込まれたのだ。
その少女は幼い頃親に捨てられ、養護施設で育ったが、いつも1人だった。
高校に入ってすぐに、1人の友人が出来たようだが、その友人が亡くなったらしく、強いショックを受けていたという。』
:10/04/09 18:48
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