記憶を売る本屋さん
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#587 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は素早く、薫と響子はゆっくりと振り向く。

そこには、直人達に本を渡した、あの老人が立っていた。

「…おっさん…」

「死ななかったんだねぇ、君」

驚いて立ち尽くす直人をよそに、老人はニヤッと笑って飛鳥に言った。

「わしはてっきり、後ろの彼に殺されでもすると思ってたがのぉ」

老人は小汚い手で薫を指差す。

飛鳥も「は…?」と薫に目をやる。

「…何だ、俺が誰か知らなかったのか」

薫は不思議そうに答える。

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#588 [我輩は匿名である]
「どういう…」

「止めろ!おっさん!」

直人はとっさに老人に向かって叫び、詰め寄る。

飛鳥も薫も、びっくりして直人を見る。

が、老人は笑顔のまま、口を動かした。

「…君の後ろのお友達、君が巻き込んで死なせた、あの女の人だよぉ?」

「…え…?」

飛鳥はゆっくりと、響子の方を向く。

直人はキッと、老人を睨む。

「…嘘…でしょ…?」

⏰:10/04/16 13:25 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#589 [我輩は匿名である]
茫然としながら、飛鳥はただじっと響子を見つめる。

「本当だよ」

そう答えたのは、薫だった。

「俺はその夫だ」

「薫…!」

直人は思わず、薫に手を伸ばす。

しかし、響子がすぐにそれを止めた。

⏰:10/04/16 13:26 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#590 [我輩は匿名である]
「君、よく我慢できたねぇ?わしゃあ、絶対無理だと思ってたけど」

老人の言葉に、薫は小さく笑い、響子の肩を抱いて引き寄せる。

「俺はなぁ、こいつがいてくれたら、もうどうでもいいんだよ。

後は、あんな“事故”が2度と起こらなければ良いと願うだけだ。

恨み続けるのも疲れたしな。それに、俺は今の生活の方が楽しいし」

直人も飛鳥も、黙って彼を見る。

⏰:10/04/16 13:27 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#591 [我輩は匿名である]
その隣で、響子も静かに笑みを浮かべた。

「この子を憎んだところで、あの日に戻れるわけでもないし、お腹の子も戻らない。

…私、あの子に言ったの。“生まれ変わったら、お父さんにいっぱい抱っこしてもらおうね”って。

だから、そんな事考えても何にもならないと思って」

薫と響子は、凛とした表情をして老人を見返す。

「ほぅ…意外だねぇ。まさかこんなに丸く収まるとは思わなかったなぁ」

老人は「ほっほっほっ」と笑う。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#592 [我輩は匿名である]
「では、本を返してもらおうかの」

そう言いながら、老人はこちらに向かって手を伸ばす。

すると、直人・飛鳥・薫の前に、それぞれ赤・青・深緑色の本が現れた。

「…これ…何で…」

直人達が驚いている間に、本は老人の手に納まった。

「なんだよ、それくれねぇの?」

「やらんよ。他にも本を渡さなんといかん人がおるからなぁ。

使い回しとるんだよ。エコだよ、今流行っとるだろ?エコ。

まあ心配せんでも、綺麗に真っさらにしてから使うんだがねぇ」

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#593 [我輩は匿名である]
老人は言いながら、リュックに本を放り込む。

「それ…あんたに返したら、記憶は無くなるのか?」

薫はあまり動じずに尋ねる。

「そんなこたぁない」

老人は答える。

「あんたらに売った記憶は、死ぬまで消える事はない。

そこまでの力は無いからなぁ」

「“売った”?俺達、買った事になってんのか!?」

直人は「そんな金ねぇよ」と頭を抱える。

⏰:10/04/16 17:40 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#594 [我輩は匿名である]
「心配するな、代金はもうもらっとる」

老人は言いながら、直人達みんなを指差す。

「あんたらの“前世”からのぉ」

「へ…」

直人と飛鳥はきょとんとする。

「…1つ聞きたい事がある」

薫は落ち着いて、再び老人に尋ねる。

「なぜ響子だけ、本を持たずに思い出せたんだ?」

「あーぁ、それはだねぇ」

相変わらずふざけた口調で、老人は答える。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#595 [我輩は匿名である]
「“彼女”はちょっと特別でねぇ、死んだ後もずーっとあんたの傍にいた。

要するに幽霊だったわけだ。それ程想いが強かったんだろうなぁ。

だから、“彼女”は本を渡さなくても、自然に思い出すだろうとみなされたわけ」

話を聞きながら、薫と響子は顔を見合う。

「さぁて、じゃあそろそろおいとましようかの。元気でなぁ〜」

老人は気楽そうにそう言って、姿を消した。

⏰:10/04/16 17:41 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


#596 [我輩は匿名である]
4人は無言でボーッとする。

ふと、飛鳥がもう1度、薫と響子の方に体を向ける。

直人も何も言わず、彼女を見つめる。

しばらく無言のまま時が過ぎた後、飛鳥は2人に向かって頭を下げた。

「すいませんでした」

3人は黙ったまま、ただ飛鳥を見下ろす。

直人は薫と響子の様子をちらちらと伺う。

「……もういいよ、頭上げて」

少し笑って、響子はそっと、飛鳥の肩に手をおく。

⏰:10/04/16 21:23 📱:N08A3 🆔:67c2oJas


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