記憶を売る本屋さん
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#22 [我輩は匿名である]
直人は何も考えず、黙って2人のやり取りに聞き入る。

「高校生?」

「…うん、この間入ったばかり」

「じゃあ、俺と同じだ」

要の声は、明るかった。

気持ちが緩んできたのか、少女が少し笑う。

「家、どの辺?」

「…隣の市。家って言っても、養護施設だけど」

少女の話に、要は何も言わなかった。

「私、3歳の時に親に捨てられたの。それ以来、ずっとそこで育ってきた」

⏰:10/03/22 16:29 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#23 [我輩は匿名である]
「晶!!」

突然、要の背後で女性の怒声が聞こえた。

要も直人もびくっとする。

要が振り向くと、そこには30代ぐらいの女性が、息を切らして立っていた。

「こんなところまで来て、何してたの!?みんな心配して…!」

「心配?」

晶が小さく笑って立ち上がる。

「暇だったから散歩に来ただけじゃない。何がいけないの?」

視界が、女性と晶に交互に変わる。要が動揺しているのだろう。

とりあえず、1歩下がって事態を見守る。

「でも、美代は『帰りに急にいなくなった』って」

「またあの子?うっとうしい。だから仲間はずれにされるのよ」

晶はフンとそっぽを向く。

⏰:10/03/22 16:36 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#24 [我輩は匿名である]
「じゃあ、あんたはどうなのよ!?」

女性がますます不機嫌になって怒鳴りつける。

その問いかけに、晶も苛立ったように睨み返す。

「そこにいるじゃない」

晶の言葉に、女性が怖い顔でこちらを見る。

「マジかよ」直人は呆然とする。

要も突然の事に困り果て、言葉も出ない。

しかし、ちょっと経ってから、女性に言った。

「はい、友達です」と。

それを聞いて諦めたのか、女性は大きくため息をつく。

「もういいわ。とりあえず、今日は帰るわよ。風邪ひくから」

さすがにもう疲れたのか、晶も黙って頷いた。

⏰:10/03/22 16:41 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#25 [我輩は匿名である]
女性は要には何も言わず、彼に背中を向けて歩き出す。

「ごめんね、いきなり」

女性に聞こえないような小声で、晶は要に言った。

「いいよ、そんなの。…また遊びに来いよ」

要のその一言に、晶は一瞬きょとんとしたが、笑って大きく頷いた。

「『また来い』って、また『抜け出して来い』って事か?

 まぁそっちの方が、楽しいかも知れねぇけど…」

晶の背中を見ながら、直人がそんな事を考えていた時。

急に視界が真っ暗になった。

⏰:10/03/22 16:45 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#26 [我輩は匿名である]
「えっ、ちょっと!!!」

直人は思わず大きな声を出した。

そして、慌てて自分ののどを押さえる。

「…出た…。出たぁぁぁーー!!!」

久しぶりに聞いたような感じの自分の声に、歓声を上げる。

部屋の中を見渡せば、見慣れたベッド、コンポ、ゲーム機、薄型テレビが、直人を囲んでいる。

「お兄ちゃん!うるさい!!」

バン!とドアが開いて、妹の恵理が文句を言いに来た。

かと、思えば言うだけ言ってドアを閉め、自分の部屋に戻っていった。

「…恵理だ…」

いつもは喧嘩ばかりの小生意気な妹さえも、いとおしく感じられる。

やっと戻ってきた。心の底からホッとした。

⏰:10/03/22 16:50 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#27 [我輩は匿名である]
そしてふと、ベッドに飛び込み、目覚まし時計を掴む。

時計は22時34分を示している。狂っているのだろうか。

ベッドから降りて、今度は携帯電話を開く。結果は同じ。

「時間が…経ってない…!?」

本を開いた時間から、1、2分しか経っていない。

それも、戻ってきて、恵理が文句を言いに来て、部屋の中を見渡して…

といった行動を考えれば、ほぼ±0に近い。

直人は携帯電話を閉じ、机の上に広げられたあの本を、おそるおそる見てみた。

左のページには何も書かれていないが、右のページには文章が書かれている。

直人は本を手に取り、他のページを見てみる。

他のページは全て、白紙だった。

「…何なんだ…?この本…」

直人は呟き、最初のページに戻る。

⏰:10/03/22 16:59 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#28 [我輩は匿名である]
  1977年4月10日 長月要が、買い物の途中に、路地でうずくまる石川晶を見つけた。
          隣の市の養護施設で育ち、住んでいるという。
          話していると、施設の職員が迎えに来、石川晶と口論になった。
          その際、長月要は彼女の事を「友達だ」と断言した。
          石川晶はその後すぐに、職員と一緒に施設に帰っていった。

縦書きで、これだけ書かれていた。

「…誰かの日記か…?」

しかし、日記にしては文章がかたい。

⏰:10/03/22 17:10 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#29 [我輩は匿名である]
直人はもう1つ、ある事に気付いた。

「これ、40年前の今日だ…」

携帯電話を開くと、画面下に 2017/4/10 の文字。

やはり、あの『オイルショックの女性』の話は本当だったのだ。

どうやらこの本は、直接的に人を死に追いやる物ではなく、タイムスリップさせる物のようだ。

しかし何故、都市伝説の老人は、直人にこれを渡したのか。

ベッドに座り込んで、直人はじっと本を見つめていた。

⏰:10/03/22 17:15 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#30 [我輩は匿名である]
次の日。

昼食を食べてもまだボーっとしている直人を前に、薫は眉をひそめる。

「…お前、昨日なんかあったのか?」

「…へ?」

薫に聞かれて、直人はふと我に返る。

「だって絶対今日おかしいだろ。気持ち悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

直人は薫にくってかかる。

いつもの直人に戻った。薫は思った。

…薫に相談してみるべきか、直人は考える。

薫は秘密は絶対ばらさないし、何せ生まれたときからの友達だ。

とは思うのだが、話しても信じてもらえないのでは。という思いも強いのだ。

1人で考え込んでいる直人に、薫が口を開く。

⏰:10/03/22 17:22 📱:PC 🆔:W0uoRcww


#31 [我輩は匿名である]
「…本」

直人はドキッとする。

いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、薫が机に肘をついて、笑みを浮かべていた。

「…なんで…」

「当たりか」

「お前、何か知ってんのか…!?」

直人は机に手をついて、薫に問いかける。

「……別に何も知らねぇよ」

薫はそう言ったが、直人は気付いていた。返事をするまでに、少し間があった事に。

「っていうか、もらったのか?その、『呪いの本』みたいな本」

「…うん…」

直人はしぶしぶ頷く。

⏰:10/03/22 17:28 📱:PC 🆔:W0uoRcww


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