記憶を売る本屋さん
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#221 [我輩は匿名である]
女性は優しい笑顔を見せる。

「…昔でもこんな綺麗な人いるんだな」

女性の顔に、直人はしばし見とれる。

「…はっ!何考えてんだ俺!俺には晶がいるだろ!」

自分で言って、直人はまた考える。

晶と付き合っているのは、直人ではなく要である。

しかし時々、今のように、自分が付き合っているような錯覚に陥る事がある。

「…うーん…俺もヤバくなってきてるかな…?」

いろいろあったりなかったりで、本の怖さを忘れていた。

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#222 [我輩は匿名である]
慣れてきたのかもしれないが。

「この辺、結構ごちゃごちゃしてて、分かりにくいんですよね。よく迷う人いるんですよ」

「そうなんですか?良かった、ちょっと安心です」

要と女性は、ただ黙っていくのもつまらないと、仲良く話しながら歩いている。

「私、ここに来たのは初めてなんです。いい町ですね」

「そう…ですね、いい人ばかりだし。何でこの町に?」

「大学の友達の家に遊びに来たんです。地図もらったんですが、どうしてもわからなくて」

女性は恥ずかしそうに笑う。

「車とかで送ってくれる人がいれば楽なんですけどね」

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#223 [我輩は匿名である]
「そうですね。父がいれば、送ってくれたんでしょうけど…」

「お仕事ですか?」

「亡くなったんです、戦争で」

女性は隠しもせずに言った。

直人は呆然とする。

よく考えれば、ここは1977年。戦争が終わって22年しか経っていないのだ。

「…なるほどな…」

「すいません、そんなつもりじゃ…」

「あぁ、いいんです。親がいないのには慣れてますから」

「…え…」

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#224 [我輩は匿名である]
「私、父も母も死んだので、養護施設で育ったんです。

母が亡くなったのは戦後ですけど」

「養護施設?」

直人も要も、その言葉に目を丸くする。

「俺の友達にも、施設で育った子がいるんです」

「そうなんですか?偶然ですね、なかなかいないのに」

「はい。びっくりしました…」

要も驚いているようだった。

「…学校、楽しいですか?」

要はふと、そんな事を尋ねた。

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#225 [我輩は匿名である]
すみません。
>>223
の「22年」は「32年」のミスでした

⏰:10/03/31 10:33 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#226 [我輩は匿名である]
「え?えぇ、楽しいですよ。高校も楽しかったけど、私は大学の方が楽しいかな。…どうして?」

「いやぁ…その友達が、学校は楽しくないって言ってたから…」

「…施設で育った負い目で?」

女性に言われて、要は「多分」と答える。

「そんなの、関係ないですよ」

女性は笑う。

「施設で育った子も親の元で育った子も、どっちが良い、なんて事はありません。

私は施設で育った事を友達に言いましたが、今でもその子は友達のままです。

…その子は、自分から壁を作ってるんじゃないかな」

⏰:10/03/31 10:34 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#227 [我輩は匿名である]
「…壁…かぁ…」

女性に言われて、要は繰り返す。

確かに晶の性格なら、あり得なくはない。

「その子に、『思い切って踏み込んでみて』って言っといて下さい。

『受け入れてくれない子は、その程度の子。他にもいい子はたくさんいるから』って」

女性はにっこり笑って、要に伝えた。

要は「はい!」と大きく頷く。

前方に大きな公園が見える。

「あっ、あれですよ。姫崎公園」

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#228 [我輩は匿名である]
「え?あっ、着いたー!」

女性は胸に手をあて、大きく息をつく。

公園の前で、2人の女性が、こちらに手を振っている。

「良かった、友達もちゃんと待っててくれたみたい。ありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しかったです。また来て下さいね」

要は笑って女性に手を振る。

女性もこちらに手を振って、友達の元へ走っていった。

要もまた、家へと引き返す。

もう一度あの場所に行こうかとも考えたが、

さっきいなかったから今日は来ないだろうと、要はまっすぐ家に帰った。

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#229 [我輩は匿名である]
直人は本を閉じる。

あの女性に会って、何だか元気が出た気がする。

「直接晶を会わせてやりたかったなぁ…」

自分が伝えるよりも、あの女性が直接話をした方が、晶も勇気が出たかもしれない。

「(…あの女の人、元気かなぁ…?)」

直人はそんな事を考えながら、ボーッと窓の外の夜空を眺めた。

⏰:10/04/01 17:03 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#230 [我輩は匿名である]
直人は大きなあくびをして机に突っ伏せる。

大好きなゴールデンウィークも終わってしまった。

外は雨が降っており、廊下を見れば、屋上に行けない薫と響子が窓の方をむいて話している。

「…この間ね、プロポーズされたんだ」

響子は薫だけに聞こえるような声で言った。

「霜月優也に?」

「うん。寒かったから、冬だったと思う」

「12月13日」

薫は開いた窓の桟に両肘を置く。

⏰:10/04/01 18:04 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


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