記憶を売る本屋さん
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#285 [我輩は匿名である]
>>284さん

コメントありがとうございます

薫ちゃんどーなるのやら…

これからもぼちぼち読んで下さいな

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#286 [我輩は匿名である]
響子はゆっくりと目を開ける。

目の前で、スーツを着た1人の男性が、脱力したように座り込んでいる。

辺りを見渡せば、墓。

「(ここは…)」

響子がボーッとしていると、誰かが服の胸元を引っ張った。

いつの間にか、響子は生まれたばかり程の赤ちゃんを抱いていた。

「(この子…お腹の中にいた赤ちゃん…?)」

「…今日子…ごめんな…」

目の前の男性が、静かに口を開く。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#287 [我輩は匿名である]
「俺が…俺があんな事言わなければ…」

下を向いていて顔が見えないが、男性は泣いているように見える。

「(…優也…)」

響子はすぐに気付いた。彼が霜月優也だという事に。

「(そうだ…私は…死んだんだ…)」

響子はあの日の事を思い出す。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#288 [我輩は匿名である]
あの日。

「今日の晩ご飯、俺が作ろうか」

優也は何を思ったのか、急にそんな事を言った。

大きなお腹を気遣って椅子に座っていた今日子は、思わずきょとんとする。

「どうしたの?朝から」

「いや…今日は早く仕事が終わるからさ。お腹も大きくなってきたから、大変かなぁと思って」

優也はこちらに背を向けて、ネクタイを締めながら言う。

「でも、優也料理出来る?」

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#289 [我輩は匿名である]
「…ま、まぁ本とか箱とか見ながらやれば出来るだろ。ハヤシライスぐらいなら」

「ふふっ。私が見ながら教えた方が良さそうね」

今日子は困ったように笑い、大きく重くなったお腹をさする。

「今日はパパがご飯作ってくれるんだって。楽しみだね」

「そうだぞー。楽しみにしてろよ」

「あ、じゃあ材料買って来とかなきゃね」

「あぁ…結局働かせてしまうな」

「いいよ、買い物ぐらい。家にいても退屈だし、適度に運動しないと」

今日子はそう言ってにっこり笑った。

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#290 [我輩は匿名である]
そしてその日の昼頃、今日子はぼちぼち歩きながら買い物に出かけた。

買い物袋を1つぶら下げて、少しウキウキしながら歩道を歩いていた。

あの人はちゃんと作れるかな。少し笑って、そんな事を考える。

周りの人が、傍の建物の屋上を騒めきながら見上げているのに気付かずに。

突然、「きゃあ」「わぁ」と多くの悲鳴が今日子を包んだ。

今日子はそれに驚き、足を止める。止めてしまった。

みんなと同じように空を見上げる。

その時にはすでに、高校生くらいの少女が目の前に迫っていた。

⏰:10/04/04 19:54 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#291 [我輩は匿名である]
響子は視線を落とす。

「(…ごめんね、守ってあげられなくて…)」

腕の中で、赤ちゃんは響子の服を握ったまま寝息を立てている。

もし“私”が、あの時立ち止まらなかったら。あのまま歩き続けていたら。

そう思うと涙が出そうになる。

響子は顔を上げる。

いつの間にか、背景が見慣れた小さな家の中に変わっていた。

優也は1人、こちらに背を向けて座り込み、写真立ての中の今日子を見つめている。

⏰:10/04/04 21:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#292 [我輩は匿名である]
「…お前たちの葬式ぐらいから、ずっと体調が悪くてな。

…2ヶ月経って、やっと一息ついたから、この間病院に行ったんだ」

響子は彼の背中をじっと見つめる。

「そしたら、検査するって言われて…今日結果が出た。

………肺癌だと言われたよ。骨にも転移して…もって半年の、1番予後の悪い癌らしい」

響子は自分の耳を疑った。

そんなはずがない。この間まであんなに元気だったじゃないか。

「…急にあんな事を言ったから、ばちが当たったのかもしれないな」

優也はため息をついた。

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#293 [我輩は匿名である]
「…化学療法とか、いろいろやれって言われたけど、断ってきた。

そんな事にかける金もないし、…そこまでして生きても、俺にはもう何もないから…。

飲み薬だけで抑えてもらえるように、頼んできた」

響子は見ていられなくなって目を逸らす。

几帳面な優也でも、なかなか片付ける暇がないのだろう。

部屋の中は、今日子が生きていた時よりも散らかっているように見える。

響子が部屋を見渡していると、優也は急に激しい咳をし始めた。

「(優也…)」

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#294 [我輩は匿名である]
“私”が生きていれば、「一緒に闘おう」と言えるのに。

今の“私”は、ただ背中をさすってあげる事すら出来ない…。

「(私は…何のために優也と一緒になったの…?

これじゃ優也に悲しい思いをさせて、辛い目に合わせただけじゃない…。

…私は…優也に何もしてあげられなかった…)」

優也は、“私”の事をどう思っているのだろう。

響子の視界が、涙で滲んで見えにくくなる。

涙を拭こうにも、両手が塞がっていて出来ない。

響子は何も考えず、ただ泣かないようにと我慢する。

⏰:10/04/04 21:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


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