記憶を売る本屋さん
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#6 [我輩は匿名である]
「え、そんな奴いんの!?」
「俺はそういう話聞いたけど?読んだ人ほとんどが狂うのは本当みたいだけど」
「へぇ〜!じゃあ俺も読んでみてぇ!!」
直人はやっと歩き出しながら、ちょっと興奮したように両手を握りしめる。
薫は笑って何か言おうとしたが、急に真顔で「あ!」と声をあげた。
「教室に弁当箱忘れた」
「何だよもう…。取って来い!」
直人はビシッと階段を指さすが、薫は浮かない顔。
「…何だよ。ついて来いってか?やだね、めんどくせぇ」
「ちっ」
悔しそうに舌打ちして、薫はまた靴を履き替え始めた。
「俺その辺で待ってるからな」
「んー…」
ため息をついている薫を尻目に、直人は校舎の外に出る。
:10/03/22 14:12
:PC
:W0uoRcww
#7 [我輩は匿名である]
>>5さん
ありがとうございますっ(>∀<)!!
長くなりそうな気がしますが、のんびり読んでいただけたら嬉しいです♪
:10/03/22 14:14
:PC
:W0uoRcww
#8 [我輩は匿名である]
この間入学式を迎えたばかりで、今でも校舎や、学校からの景色をみるだけでワクワクする。
好奇心旺盛な直人は、未だに物珍しそうにあたりをきょろきょろする。
しかし、その場で1周した瞬間、ぴたっと動きを止めた。
かろうじて校門が視界に入る角度で。
心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。
「(…今…校門に…)」
周囲には直人以外誰もいない。そう思っていた。
校門を見るまでは。
「(…まさか…な…)」
恐る恐る、ゆっくりと、本当にゆっくりと、校門に目を向ける。
校門周辺には、誰もいなかった。
「気のせいか」と、全身の力が抜け、直人は大きく息をついた。
「気のせいじゃないよぅ〜?」
背後でしゃがれた声がした。
:10/03/22 14:24
:PC
:W0uoRcww
#9 [我輩は匿名である]
顔からサーッと血の気が引いた。自分でそれがわかるほどに。
下駄箱を見ても、まだ薫が戻ってくる気配はない。
足が、全身が小刻みに震えだす。
「なぁ、君、本は好きかぃ?」
声が尋ねてくる。
「…い…いや…きっ、嫌い…」
さっき、「じゃあ俺も読んでみたい!」と言った事を後悔した。
だから『あの老人』が来たんだ、と。
噂は飽きるほど聞いていても、対処法なんて1度も聞いた事がない。
「嫌い」としか言えなかった。
しかし、声は諦めてくれない。
「そんな事言わずにさぁ。君の為の本があるんだよぉ、1冊。
1回読んでみなさいな、ねぇ?」
話の途中に、誰かが後ろから直人の肩に手を置いた。
:10/03/22 14:31
:PC
:W0uoRcww
#10 [我輩は匿名である]
しわしわの、日焼けしたように赤黒い手。
服の袖元は擦り切れたり、破れたりしていて、不潔なイメージしか出てこない。
「お…俺の為の本…?」
呼吸が小さく、多くなっているのに今気付いた。
「そうそう」
肩に置かれていた手が離れる。
背後から聞こえるごそごそという音に、直人はじっと耳を傾ける。
時間がものすごく長く感じられる。本以外のものが出てきたらどうしよう、等と考えてしまうほどに。
「ほれ」
直人の身体の右側から、ひゅっと何かが覗き込んだ。
それは、1冊の本だった。
:10/03/22 14:38
:PC
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#11 [我輩は匿名である]
表紙は折り曲げても簡単には折れなさそうな程頑丈だが、ワインレッドのような色が全体に塗られているだけ。
タイトルも著者名も、何も書かれていない。
直人は左手で、それを受け取ってしまった。それほど分厚くはない。
「きっと君の役に立つと思うよぉ?」
声は笑っているかのようだった。
耐えられず、直人は素早く振り返る。しかし、そこにはもう誰もいなかった。
ただ、風に乗って、老人の笑い声が聞こえた気がした。
怖かった。声に出したつもりだが、息だけが出た。
背中に尋常じゃないぐらい汗をかいている。
直人は深呼吸をして、手に持った本をじっと見つめる。
これに、一体何が書かれているのか。俺は死ぬのか。
捨てたい。けど、何が書かれているのか見てみたい。
直人は息を殺して、本のページに指をかける。
:10/03/22 14:51
:PC
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#12 [我輩は匿名である]
「直人!」
薫の声が、直人を呼ぶ。
その声に、直人はハッとして、なぜか本を急いで鞄の中に放り込んだ。
「ごめん、お待たせ」
「あっ…あぁ…遅かったな…」
無理やり顔を引きつらせて笑顔を作る。
その様子が明らかにおかしいのに気付いたのか、薫は首をかしげた。
「…どうかした?顔真っ青だけど」
「そっ、そうか!?あっ、腹が痛かったからかな!?はは…」
よくとっさに、こんな出任せが出たな。直人は自分でちょっと感心する。
「腹痛?大丈夫か?」
言葉だけ聞けば心配しているようだが、顔は明らかに、呆れたように笑っている。
「…お前、心配してないだろ」
「してるしてる」
:10/03/22 14:58
:PC
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#13 [我輩は匿名である]
嘘付け。とは思ったが、問いただされるよりはマシだ。
直人はホッとして、肩からかけた鞄に手を当てた。
「弁当箱、あったか?」
「無いとおかしいだろ」
「ま、まぁな」
変な事を聞いた。内心「げっ」と思う。
「もう17時半なのに、あの変な金髪女、まだ教室でボーっとしててさぁ。ちょっと気味悪かった」
薫は話を変えた。
彼らのクラスに、1人だけ白に近い金髪で、眉毛を剃りあげた女子がいる。
名前は知らないが、さすがにみんな近寄り難いのか、入学以来誰かと話しているのを誰も見た事が無い。
窓際の1番後ろの席で、いつも外を眺めている。
「あいつ、何しに学校来てるんだろうな。まぁどうでもいいけどさ」
「まぁな」
2人はそんな大した事無い話をしながら、家に帰っていった。
:10/03/22 15:06
:PC
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#14 [我輩は匿名である]
その夜。風呂から上がって一息ついた直人は、イスに座って、机の上に置いたあの本を見つめていた。
結局薫にも家族にも、本の話はしていない。話す気にならなかった。
今でも怖いが、自分で都市伝説を解明してみるのも楽しいかも、という変な探究心があった。
万が一のために遺書でも書いとこうかと思ったが、流石にそれはめんどくさかった。
ごくっと唾を飲む。
「(よし…やるか!)」
自分に気合を入れ、直人は一気に本を開いた。
「うわっ…!」
ありえない事が起こった。本から目を開けられない程の眩しい光があふれ出したのだ。
わけがわからないまま、直人はぎゅっと目を閉じる。
:10/03/22 15:13
:PC
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#15 [我輩は匿名である]
「行ってきまーす」
聞いた事の無い少年の声に、直人は意識を取り戻す。
視界には、知らない玄関が映っていた。
「えっ、どこ!?」
そう言ったつもりだったが、声が出ず、口も動かない。
それどころか、勝手に身体が動き出し、その知らない家を出た。
「…どこだ…?ここ…」
直人は絶句した。見た事も無い場所だった。
立ち並ぶ瓦屋根の大きな木造の家、古そうな街灯。
前からは男性はリーゼント頭で誇らしげに歩いてくる。
服装も明らかに、直人がいる2010年代とは違い、ダサい。
:10/03/22 15:27
:PC
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