記憶を売る本屋さん
最新 最初 🆕
#96 [我輩は匿名である]
自分以外に本を持っている人を見たのは初めてだ。

もしかしたら、自分とは違う事を知っているかもしれない。

「水無月…」

他の男子に呼ばれて、直人はハッと、教室を見回す。

同じ掃除当番のクラスメイト達が、「そうだったのか」という目で2人を見ている。

「とりあえず、離してくれる?勘違いされるから」

金髪女も、余計に不快そうに直人を見ている。

恥ずかしくなって、直人は自分の鞄を机からひったくる様に取って、教室を出た。

ドアの傍に腰を下ろす。絶対に勘違いされた。どうしよう…。

そう思っていると、金髪女も教室を出て、直人の傍までやって来た。

⏰:10/03/23 16:08 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#97 [我輩は匿名である]
「…話って何」

「うぁ!?びっくりした…」

直人は慌てて立ち上がる。金髪女は意外と背が高いようで、目線があまり変わらない。

「わ、悪かったな、何か。…ごめん」

とりあえず、勘違いされたかもしれない事を謝る。

「…それはいいから。何。あの本の事?」

「あ、あぁ、そう。…ちょっと、場所変えよ」

直人はうろたえながら、トイレの方に誘導する。

トイレの掃除はもう終わっているらしく、周りには誰もいない。

「…私、まだもらって1週間も経ってないんだけど」

「そうなんだ、俺も、それぐらい」

直人の言葉に、金髪女が反応した。

⏰:10/03/23 16:15 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#98 [我輩は匿名である]
「…あんたも持ってんの?」

「うん、まぁ…。最近読むのやめたけど」

「やめた…?何で」

「…なんつーか…怖くなったんだよ、あの本が」

情けないな、と、直人は自分で思った。

「怖い?」

「なんか、あれ読んだら死ぬってのは聞いた事あったけど、

 今日ニュースで、本を読んだ奴が、人殺したって、逮捕されててさ…

 あのまま読み進めたら、俺、どうなっちまうんだろうって思って…」

⏰:10/03/23 16:18 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#99 [我輩は匿名である]
金髪女は、黙っている。

「つまらない」と思われているかもしれない。直人は下を向く。

しばらくの間、沈黙が続いた。

「…私は」

沈黙を破ったのは、金髪女だった。直人は驚いて顔を上げる。

「小さい時から、人付き合いが苦手。嫌いと思うぐらい」

「…はぁ」

「でも、あのおっさんが私に言った。『人付き合いが嫌いな理由が分かるかも知れないよ』って。

 だから私は読んでんの。最後まで読むつもり。死にたくなったら、死ねばいいし」

「…そんな…」

「でも、おっさんは『命を粗末にするな』とも言われた。そんなの、人の勝手でしょ」

⏰:10/03/23 16:25 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#100 [我輩は匿名である]
確かに、そう言ってしまえばそうかもしれない。

直人は黙り込む。

「…あんたは、何で今まで本読んでたの」

「何でって…。…わからない、ただ渡されたから読んでただけで」

直人は話しながら首を振る。金髪女は「ふぅん」と返事を返す。

「あんたの本の内容なんか知らないけど、気にならないの?続き」

「…なる」

「じゃあ読めばいいじゃん。死ぬとか死なないとか、その後に決めれば?」

「…そうだけど…」

「それにあんた、自殺しそうな顔も、人殺しそうな顔もしてないじゃん」

そういう問題か。

⏰:10/03/23 16:30 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#101 [我輩は匿名である]
「あんたちょっと変わってそうだし、気軽に読めばいいんじゃないの?」

「変わってんのはお前だろ」

「お前じゃない。カンザキ アスカ」

「カンザキ アスカ?それ、お前の名前?」

「当たり前でしょ。ほら」

目の前に生徒手帳を突き出される。確かに、“神崎飛鳥”と書かれている。

初めて名前を知った。直人は元気が出たように笑い返す。

「…サンキュ、神崎」

「何が」

「いや、別に。帰ってちょっと読んでみるわ」

「あっそ。じゃ」

飛鳥はにこりともせずに、さっさと歩いてどこかへ行ってしまった。

⏰:10/03/23 16:37 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#102 [我輩は匿名である]
飛鳥と話して、少し気が晴れた直人は、帰って一息ついてから、

あの本を引き出しから出して、ベッドの上で見つめていた。

飛鳥とは違って、本を読み進める目的ははっきりとはないが、強いて言えば、要と晶がどうなったのかが気になる。

「(…そうだよな、こんな俺が、死にたくなるわけがない)」

直人は自分に言い聞かせて、大きく息を吐く。

そして、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/23 16:43 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#103 [我輩は匿名である]
目の前では、子ども達がわいわい言って走り回っている。

「…久しぶりだな…この感覚」

直人はそんな事を思いながら、ここがどこか考える。

公園かと思ったが、奥で先生らしきおばさんやおじさんが笑顔で子ども達を見ている。

しかし、小学生ぐらいの子どもも混じって遊んでおり、保育園でもなさそうだ。

「どこだ?これ」

そう言った直後、少し離れたところに、何日か前に晶を連れ戻しに来た、あの女性がいるのを見つけた。

「そうか、ここは、晶がいる養護施設か」

直人が気付くと同時に、要は右手を大きく上げた。

⏰:10/03/23 16:51 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#104 [我輩は匿名である]
視線のはるか先で、誰かがこちらに手を振っている。

どうやら晶のようだ。

まさかこの間の続きで、ちょうど要が晶に会いに来ている、という事なのか?

「マジかよ…ちょうど良いっちゃ、ちょうどいいけど…」

行動を起こすのが遅くないか?直人は少し呆れる。

「こんにちはー」

すぐ横で声がした。しかし、晶の声ではない。

要がそっちに視線をやると、あの時見かけた、あの少女がいた。

「こいつ、何とか美代って奴!」

晶の物を欲しがっては奪っていく、あの女だ。

⏰:10/03/23 16:56 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


#105 [我輩は匿名である]
「…こんにちは」

要の声が弱くなる。彼もわかっているのだろう。

「何か用ですか?あっ、あなた、この間晶ちゃんと一緒にいた…」

「長月くん!!」

晶が猛ダッシュで要の所に走ってきた。

「ちょっと来て!!!」

「へ…」

要が返事をする前に、晶が要の腕を掴んで施設を出る。

美代から見えないよう、角を1つ曲がったところで2人は止まった。

⏰:10/03/23 17:00 📱:PC 🆔:pMFPl9Gs


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194