Traumerei‐トロイメライ‐
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#11 [moeco◆eedZl7e0Rw]
かれこれ黒木は六年ものあいだ昏睡状態からさめていない。
回復は絶望的。
しかし生かし続ける。
この一年、わたしは黒木さんの治療費を払っている人が見舞いにきたのを見たことがない。
金だけ払ってあとはほったらかしなんて……ひどい。
あんまりだ。
:10/03/31 20:23 :N03A :MBZotWpg
#12 [moeco◆eedZl7e0Rw]
そんな残酷な人よりも親身にわたしは黒木さんのことを想ってる。
でも……黒木さんはわたしを知らない。
さびしいな……。
谷川は黒木の頬に手をそえた。
温かい。
黒木の無造作に伸びた黒く艶のある髪が、谷川の手に当たった。
髪を軽くすくと指のあいだを冷たい髪が擦り抜けて、谷川の胸を締めつけるような感情が込み上げてきた。
:10/03/31 20:26 :N03A :MBZotWpg
#13 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「髪……伸びましたね。また近いうちに切らなくちゃ」
その時、谷川の言葉にこたえるように黒木の唇がかすかに動いた。
谷川はきつく唇を噛んだ。
どうしようもなく高鳴る胸をおさえることができなかった。
「黒木さん……ごめんなさい……。……好きなんです」
:10/03/31 21:48 :N03A :MBZotWpg
#14 [moeco◆eedZl7e0Rw]
黒木のどこか冷たさを感じる整った顔が近づいていく。
黒木の小さな吐息を頬に受けて、谷川は身震いをした。
谷川はそっと目を閉じた。
二人の唇がもう少しで重なる直前に、病室のドアがばぁん、と勢いよくスライドされて開いた。
開けたのは青いパジャマ姿の少年だった。
:10/03/31 21:50 :N03A :MBZotWpg
#15 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「タニタニみーつけたー!」
「ふぎゃぁぁっ」
谷川は素早く黒木から離れると、勢いに乗って椅子から転がり落ちて派手にしりもちをついた。
少年はそれをみて笑った。
:10/03/31 21:53 :N03A :MBZotWpg
#16 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「やっぱりクロキさんのとこにいたねータニタニ。他の看護師さんが探してたよ」
谷川はお尻をはたきながら照れくさそうにため息をついた。
「ユータ君さー、そのタニタニっていうあだ名いい加減止めてよねー。もっとプリティーでキュートなのにして」
「えー。タニタニはタニタニだよ。タニタニタニタニタニタニ」
「わーっ止めてよ! そう感情込めずに連呼するとなんだか呪われてる気分になるからぁ!」
:10/03/31 23:22 :N03A :MBZotWpg
#17 [moeco◆eedZl7e0Rw]
悠太は黒木に近づき、ベッドに乗って顔を覗き込んだ。
「クロキさん起きないかなー」
「ちょ……ユータ君!」
あわてて谷川は悠太を抱えてベッドから下ろした。
とたんに悠太は不機嫌そうに口をとがらせて谷川を睨んだ。
「ベッドに乗っちゃダメでしょーユータ君。失礼よ」
悠太はきょとんとしていたが、しばらくするとニヤニヤと笑いながら谷川を見上げた。
:10/03/31 23:23 :N03A :MBZotWpg
#18 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ぼくは勝手にチューしようとするほーが失礼だと思うなー」
谷川は目にも止まらぬ速さで悠太の両肩を鷹のように力強くがっしり掴んだ。
や、ヤバイ。
まさかバレたなんてぇ……!
スーッと背中に嫌な汗が伝った。
「やっぱり見てたのね……」
「誰にも言わないからそのかわり……」
:10/03/31 23:25 :N03A :MBZotWpg
#19 [moeco◆eedZl7e0Rw]
谷川はいったいどんな恐ろしい交換条件がでるかと固唾をのんだ。
悠太は指を二本、谷川に向けて立ててみせた。
「アイス二本買ってね!」
谷川は無表情のまま病室の隅に行くと、……壁に向かって渾身のガッツポーズをした。
:10/03/31 23:26 :N03A :MBZotWpg
#20 [moeco◆eedZl7e0Rw]
よし、よし、よぉぉし!
しょせんはお子さま!
かわいいもんよー。
あードキドキしたー。
もしオッパイ揉ませてとか体重教えてとか言いだしたらどーしようかと思った……!
谷川は内心のほくそ笑みを隠しながら悠太と指切りをした。
:10/03/31 23:27 :N03A :MBZotWpg
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