記憶を売る本屋 2
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#131 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥の表情はまだ晴れない。
「……でも、隠しとくのもモヤモヤするっていうか…」
「…友達だから?」
「…うん」
飛鳥は小さく頷く。
「でも…友達でも、話したくない事はいくらでもあるよ」
あっさり言う響子に、飛鳥は思わず顔を上げる。
「…響子も?」
「そりゃあるよ。私だって、いちいち薫とチューしただの寝ただの、みんなに言いたくないし」
響子は当然のように言い放って、ミルクティーを一口飲む。
:10/05/03 17:36
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:MyOPNZOQ
#132 [我輩は匿名である]
「ま、まぁそうだけど…」
飛鳥はしぶしぶ頷く。
「誰にでもねぇ、自分の中だけに留めておきたい事ってあるのよ。
飛鳥ちゃんが思ってる事、私は普通の事だと思うけどな」
さすが、前世で大人だっただけのことはある。
響子は優しい笑顔で、飛鳥を諭す。
「…そう、かな」
飛鳥もちょっとホッとしたように笑い返す。
:10/05/03 17:44
:N08A3
:MyOPNZOQ
#133 [我輩は匿名である]
「じゃあ私はばれないように、奏子ちゃんの前で本の話はしないように気をつけるわ。
薫にも言っとくし。…まぁ、自分からそんな事話はしないだろうけどね」
「え?ごめんね、なんか気遣ってもらっちゃって…」
「いいよ、そんなの」
響子はまた笑う。
「…前の話を知ってるからかもしれないけど」
そう言いながら、響子はテーブルに両肘をつく。
:10/05/03 17:49
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:MyOPNZOQ
#134 [我輩は匿名である]
「私は、水無月くんには飛鳥ちゃんとくっついてほしいと思ってる。
…確かに見た感じ、奏子ちゃんと水無月くんは息が合ってるようには見えるけど、
飛鳥ちゃんといる時の水無月と奏子ちゃんといる時の水無月くん、明らかに態度が違う。
奏子ちゃんとなら、普通の友達って雰囲気な感じがするの。
…だから、そんなに悩まないで、自信持っていいと思うよ」
「…………うん」
響子の話を聞いて、飛鳥は大きく頷く。
それを見て安心したように、響子はまた笑った。
:10/05/03 17:57
:N08A3
:MyOPNZOQ
#135 [我輩は匿名である]
「頑張ってね。また何かあったら、いつでも聞くから」
「うん、ありがとう」
飛鳥は悩みから吹っ切れたように笑い返す。
「(ただ、相手がちょっと手強いけどね)」
明るくなった飛鳥の表情を見ながら、響子は心の中で呟いた。
:10/05/03 17:59
:N08A3
:MyOPNZOQ
#136 [我輩は匿名である]
直人は眠そうな顔で、目の前にいる奏子を見つめる。
まだ時計は8時10分。
「早く来過ぎたかな」と思っていると、満面の笑顔の奏子がやってきたのだ。
「……何か用…?」
「あんたにお礼持ってきたの♪」
「お礼…?…俺なんかしたっけ…?」
直人は欠伸をしながら聞き返す。
「この間、おばあちゃんの荷物持ってくれたじゃん」
:10/05/05 18:04
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:7fNci.3Y
#137 [我輩は匿名である]
「…………あーぁ!あれか!」
思い出すのに時間がかかったが、直人は「あぁ、そういえば手伝ったなぁ」と頷く。
「はい♪」
奏子は笑って、数枚のクッキーが入った可愛らしい袋を、直人の机に置いた。
「えっ、何これ?わざわざあのお姉…いや、ばあちゃん焼いてくれたのか?」
直人は思いもよらぬプレゼントに目を輝かせる。
「残念ながら、それ私が焼いたの」
奏子はちょっと自慢げに笑う。
「えっ?これお前が焼いたのか!?すげー!」
:10/05/05 18:05
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#138 [我輩は匿名である]
直人は尊敬の眼差しを奏子に送る。
「…今食べても良いかなぁ?」
「いいじゃん、食べちゃいなよ」
「だよな!じゃあ頂きまーす」
直人は袋を開け、丸くて茶色いクッキーを口に放り込む。
ボリボリ言わせて噛んでいる直人を、奏子も少しドキドキして見つめる。
「………どう?」
「…ん!うまい!!」
直人は意外そうに言いながら、右手でOKサインを出す。
「やったー♪私、クッキーだけは得意なんだ〜」
:10/05/05 18:05
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#139 [我輩は匿名である]
奏子も嬉しそうに笑う。
「へぇ!意外と料理とか出来るんだな、お前」
直人は言いながら、なぜかもう袋を閉じる。
「えっ?もう食べないの?」
「もったいないから、昼休みに食う!結構あるし、薫にもちょっとやろうと思って」
直人は満足そうに笑って、袋の口を紐で締め直して、大事そうに鞄に入れる。
「(1人で全部食べてほしかったのになぁ…)」
逆に、奏子は少し残念そうに直人の動作を見る。
「ところでさぁ、何でおばあちゃんの事、『お姉さん』って呼びかけたの?」
:10/05/05 18:05
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#140 [我輩は匿名である]
「え?あぁ…」
言って良いものか、と、直人は目線をそらす。
「もしかして、おばあちゃんの事知ってるの?」
奏子は少し近づく。
「……いや、口が勝手に言っただけ…」
「本当に〜?」
直人は上手く誤魔化せず、しばらく悩んだ末、大きくため息を吐いた。
「…前世の俺が、会ったことがあるんだよ、多分」
そう白状するしかなかった。
:10/05/05 18:06
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