記憶を売る本屋 2
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#205 [我輩は匿名である]
「忘れたの?まぁ気にならないっちゃ気にならないけど…。

私はちょっと気になってたんだ」

「まぁ…代金ってぐらいだし、金なんじゃねーの?」

直人はあまり考えずに返事をする。

「それじゃおかしい気がするんだ。

だって、私や要は高校生で、月城はサラリーマンだったし、響子も大人だった。

でも、私達みんな本をもらって、同じように前世を思い出した。

本当にお金が代金なら、月城と私達、どう考えても差があるはずでしょ?

私なんか、お小遣いとかほとんどもらってなかったんだから、お金なんてなかった。

だから…お金が代償じゃない気が…」

⏰:10/05/16 12:37 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#206 [我輩は匿名である]
「……お前、たまに難しい話するよな」

「意味わかってる?」

「半分ぐらい…」

頭を抱えてうなだれる直人に、飛鳥は後ろの黒板に何かを書き始めた。

「霜月優也というサラリーマンがいました。

彼は愛する妻の為に、汗水流して働いていました」

そんな話をしながら、飛鳥は黒板に、棒人間を2つ書く。

「で、こっちには長月要と石川晶という高校生がいました。

この2人は、ほとんどお金を持っていませんでした」

飛鳥は少し離れたところに、もう2つ棒人間を書く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#207 [我輩は匿名である]
直人は近寄り、それを見つめる。

「ある時、この4人は死にました」

「…展開早いな」

「そこはまぁ…。ここから仮説だけど…。

4人は『生まれ変わりたかったら、100万出せ』とおっさんに言われました」

「払えるわけねぇだろ!薫はともかく、俺高校生だぞ!?」

直人は思わず声を荒げる。

「そういう事だよ」

飛鳥は若干呆れたようにチョークを置く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#208 [我輩は匿名である]
「同じ条件なら、同じ程の代償がないといけない。だからきっと、お金じゃない。

お金なら必ず、月城と私たちの間に差が出来るはずだからね。

だとしたら、私達はみんな、何を渡したんだろうって思って」

「…よくそんな事まで考えたな。そんな事サッパリだったぞ」

直人は感心したように頷く。

「俺は覚えてるぞ」

2人の所に、薫がやって来た。

「あいつは?」

「適当に追い返した」

見ると、もう教室内に良介の姿はない。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#209 [我輩は匿名である]
「…それより、結局代金って何だったの?」

飛鳥は薫に尋ねる。

薫はチョークを手に取り、1人の棒人間の所に書き加える。

「“俺”は、ガンになるまでは風邪1つ引いたことがなかった。

大きな怪我をした事もない。言ってみれば、健康そのものだった」

薫は棒人間の口元に棒を1本加え、そこから緩やかな線を2本引っ張る。

煙草を吸っているように見える。

「…死んでから、“俺”は真っ白い世界で、ある女と会った。

長い銀髪をなびかせた、綺麗な女性だった…」

薫はその時の事を思い出しながら、4人の棒人間の上に、1人の女性の絵を描いた。

⏰:10/05/16 12:39 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#210 [我輩は匿名である]
優也が目を覚ました時、目の前には1人の女性がいた。

ドレスのような真っ白い服に身を包み、穏やかにたたずんでいる銀髪の女性。

「…あなたは…?」

優也は静かに尋ねる。

女性はゆっくりと、口を開いた。

「霜月優也…肺がんに伴う呼吸不全により死去…享年27歳」

女性はそれだけ言って、1度口を閉じた。

優也は眉間にしわを寄せ、女性を見つめる。

「…何故僕の事を?」

⏰:10/05/17 09:20 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#211 [我輩は匿名である]
「…あなたは、生まれ変わりたいと思いますか?」

女性は優也の質問には答えず、逆に問い掛けてくる。

「生まれ変わる…?そんな事…」

「出来ますよ。…それなりの代償を払っていただければ」

「代償…」

優也はその言葉を繰り返す。

「………でも…僕には“代償”に出来る程の物はありません」

少し考えて、優也は弱々しい笑みを見せる。

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#212 [我輩は匿名である]
「僕は…自分の一言で、僕のたった一言のせいで妻を死に追いやってしまった…。

大事な人も守れないような男に、そんな資格はありませんよ」

優也の言葉に、しばらく女性は口を閉じていた。

「……その奥様は、あなたをずっと待っていますよ」

女性ははっきりとそう言った。

いつの間にか下向いていた頭を、優也はハッと上げる。

「…今日子が…?」

女性は頷く。

「彼女はもう1度、あなたと会う事を強く望んでいます。あなたとの約束を果たすために」

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#213 [我輩は匿名である]
優也は何も言わず、うつむく。

「(今日子…こんな俺でも、まだ傍にいてくれるのか…?)」

今日子を思いながらぎゅっと、体の横で両手を握り締める。

「……僕は…何を差し出せば良いんですか?」

しばらく考えて、優也は顔を上げる。

そう言った彼の瞳に、迷いはなかった。

女性はそれを見て、また少し笑みを浮かべる。

「……では、あなたが自慢に思っている事は何ですか?」

そう聞き返されて、優也は1度目を逸らして考え込む。

⏰:10/05/17 09:22 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#214 [我輩は匿名である]
「……ガンになるまで、1度も病気も怪我もしなかった事、かな?」

「ふふ…そのようですね」

女性はまるで、何もかも分かっているかのように答える。

「…あなたはとても真っ直ぐで、人を恨む事も憎む事もほとんどしない。

私は、あなたのその汚れのない心が欲しい」

女性は言いながら、優也の胸部を指差した。

「(だったら最初からそい言えば良いのに)」

優也は真顔で思った。

⏰:10/05/17 09:23 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


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