記憶を売る本屋 2
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#231 [我輩は匿名である]
顔を上げて見てみると、1歳年下の弟・巧(たくみ)が、
見下すような笑みを浮かべて立っている。
「巧…」
「何?その顔。いじめられた?」
気取ったように笑う弟に、飛鳥はムッとして睨み返す。
「まっ、出来損ないなんだから、いじめられても仕方ないよね。
家でも全く相手にされてないんだから、当然じゃない?
でも、だからってドアに八つ当たりしないでくれる?迷惑だから」
:10/05/27 22:06
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#232 [我輩は匿名である]
「何…」
「悪いけど、出来損ないの相手してやる暇ないから」
飛鳥が言い返す前に、巧は意地悪い笑みを浮かべて、自分の部屋に入っていった。
飛鳥は黙ったまま、巧が去っていった方向をじっと見つめる。
あんな生意気な弟に言い返す事すら出来ない。
確かに家の中では、空気のような存在でいる自分。
飛鳥は靴を脱ぎ捨て、自分の部屋に足を動かす。
:10/05/27 22:06
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:5.N2WMSE
#233 [我輩は匿名である]
部屋に入ってドアを閉め、その場に座り込む。
誰かと話したくても、携帯電話も持っていない。
自分はどこまでダメな人間なんだろう。
そう思うと涙が出てきて、飛鳥は1人、そこで静かに泣いた。
:10/05/27 22:07
:N08A3
:5.N2WMSE
#234 [我輩は匿名である]
次の日、直人は頬に湿布や絆創膏を貼って登校した。
多分、薫も同じような顔で来るのだろう。
あの後薫と殴り合いになってしまい、仲直りもせずに帰ってきたのだった。
「(…確かにあいつ程頭良くねぇし、ちょーっと空気読めないかもしれねぇけど)」
まだ納得がいかず、直人はムスッとする。
「おはよっ♪」
たまたま後ろにいた奏子が、直人の背中をたたいた。
「…おう」
「えっ、何その顔!?」
直人の顔を見て、奏子が驚いて声を上げる。
:10/05/28 21:53
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#235 [我輩は匿名である]
事情を話すのがめんどくさくて、直人は「別に」と吐き捨てた。
「何なに!?事件!?警察行った!?」
「っせぇな、朝っぱらから。喧嘩だよ喧嘩!薫とやり合っただけ!」
直人はイライラし、口調を強くして答える。
「あらぁー、ドンマイ♪」
奏子は少しつまらなそうな顔をして、また直人の肩をたたいた。
『神崎と安斎を見ていて、何も思わないのか』
薫のあの一言は、今でもわからない。
考えながら、直人はじっと奏子を見てみる。
:10/05/28 21:54
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#236 [我輩は匿名である]
「まぁー、あの子ちょっと気難しそうだもんね。
たまにはいいんじゃないの?喧嘩ぐらい」
奏子は明るく、そんな事を言って笑っている。
「………何?何か嫌な事言った?」
直人に見られているのがわかったのか、奏子が尋ねてくる。
が、構わず直人は奏子を見つめ続ける。
「………………やっぱ何もねぇよなぁ…」
しばらく見た後、直人はため息をついて目を逸らした。
彼が何をしたいのかわからず、奏子も首をかしげる。
お互いいろいろ考えながら校舎に入る。
:10/05/28 21:54
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#237 [我輩は匿名である]
「…あ」
直人は嫌そうに声を上げる。
靴箱では、一足先に着いていた薫たちが靴を履き替えていた。
直人の声を聞いて、薫と響子がこっちを向く。
薫もやはり、直人のように顔に湿布等を貼っている。
しかし薫は、ちらっと直人を見た後、無言で視線を外した。
「さっさと履き替えて行けよ。俺が靴履けないだろ」
「知るか。一生そこで待ってろ」
「何ぃ!?」
顔を見るなり、直人と薫は睨み合う。
:10/05/28 21:54
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#238 [我輩は匿名である]
「あんまり調子乗んなよ、もやしっ子のくせに」
「誰がもやしだ!どうみても人間だろ!」
「もやしじゃねぇかよ!インフルエンザで死にかけた事あるくせに!」
「いつの話だ!!」
「2人ともやめなさい!こんな所でみっともない!!」
2人のくだらない言い合いを見兼ねて、響子がまるで母親のような言い方で割って入った。
響子に叱られて、直人と薫は肩をすくめて黙り込む。
「…響子、行くぞ」
薫は響子を引きつれて、さっさと階段を上がっていった。
:10/05/28 21:55
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#239 [我輩は匿名である]
「おはよう…」
それと同時に、今度は飛鳥がやってきた。
「あっ飛鳥、おはよ」
「…よぉ」
2人も返事を返す。
飛鳥は奏子と同じように、直人を見るなり目をぱちくりさせた。
「…どうしたの、その顔」
「…ちょっとな」
直人はため息をつきながら、それだけ答える。
その間に、奏子は自分の靴を履き替えに行った。
:10/05/28 21:55
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#240 [我輩は匿名である]
「………今日、時間ある?」
飛鳥がぼそっと、直人に声をかける。
直人はスニーカーを持つ手を止めて、きょとんとする。
「どうしたんだよ?」
「………いろいろあってさ。…あんたに聞いてほしくて」
飛鳥の顔は、何だか疲れているように見える。
直人はそれを見ながら、また昨日の薫の話を思い出す。
「(…俺が本の事バラしたからかな…?…説教か…?)」
「…無理そうならいいよ」
飛鳥は少し笑う。
:10/05/28 21:56
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