記憶を売る本屋 2
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#275 [我輩は匿名である]
「さっき何喋ってたの?」
体育館に移動している間に、奏子が直人に尋ねてきた。
試合時間が迫っていたため、響子は先に体育館に入って準備をしている。
飛鳥と薫が、無言で顔を見合わせる。
「…本の話か?」
薫が小声で、奏子に聞こえないように飛鳥に尋ねる。
飛鳥は無言で頷く。
「何喋ってたって…」
直人は首をかしげながら考える。
「(…要とかの話だったな…。本の話はしない方がいいって言ってたし…)」
:10/05/28 22:15
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#276 [我輩は匿名である]
奏子は「聞いてるー?」と、顔を覗き込んでくる。
飛鳥と薫は、奏子に気付かれないように横目で直人を見つめる。
「…何だったか忘れたわ」
直人は笑って奏子に答えた。
その答えに、飛鳥と薫がホッとして、再び目を見合わせる。
「えー、結構楽しそうに喋ってたじゃなーい」
「まぁ、忘れるぐらいのしょーもない話だったんだろ」
「ま、直人の話はいつもしょーもないからな」
薫は直人を見ながら小さく笑う。
しかし、奏子はどこか不満そうな顔で黙り込んだ。
:10/05/28 22:15
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#277 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し困ったように、奏子の表情を見る。
「おっ、いたいた」
直人は響子を見付け、指差す。
4人は響子の近くに腰を下ろす。
「ケガするなよ」
「大丈夫だって」
外野だから、と、響子はにっこり笑う。
「心配性だなぁ、お前」
「仕方ないだろ、心配なものは心配なんだ」
薫は開き直ったように言い返す。
:10/05/28 22:15
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#278 [我輩は匿名である]
すると、ブザーが鳴って試合が始まった。
響子のクラスが、ジャンプボールでボールを取る。
いかにもスポーツ好きそうな女子が、大きく腕を回してボールを投げた。
しかし、誰にも当たる事なく、外野の響子に向かって一直線に飛んでいく。
薫達が『危ない』と思うと同時に、バチーンという大きな音がした。
4人はハラハラして響子を見つめる。
響子は顔の目の前で、飛んできたボールをキャッチしていた。
ニヤリと口元に笑みを浮かべ、ボールを構える。
そして、同じように足を開いて、思いっきりボールを投げた。
:10/05/28 22:16
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#279 [我輩は匿名である]
ボコン!と音がして、相手チームの1人の女子が倒れこむ。
「(あ…当てた…)」
予想外の事に、直人と飛鳥は呆然とする。
「か…薫、お前の嫁ってあんな強かったか!?」
「みたいだな」
薫は何だか嬉しそうに笑って返事をする。
「薫!今の見た!?」
響子は試合そっちのけで薫に声をかける。
「あぁ、見たよ。格好良かった」
:10/05/28 22:16
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#280 [我輩は匿名である]
「(いや、怖かった…)」
「(絶対この夫婦おかしいよ…)」
ボールを投げる時の響子の顔を思い出し、直人と飛鳥は視線を落とす。
しかし結局、響子のクラスは1回戦敗退となった。
:10/05/28 22:17
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#281 [我輩は匿名である]
「よっしゃあ!行くぜ!」
直人は気合いを入れるように声を出す。
飛鳥と試合時間がかぶってしまい、残りの3人は両方が見える位置に腰を下ろす。
「……あぁ!?」
相手チームの1人を見て、直人は目を丸くした。
相手は1年5組。良介のクラスだったのだ。
「はっ!君は!あの負け犬の友達!」
「だぁかぁら!君って言うな!負け犬って言うな!!」
直人はムカッとしながら大声で言い返す。
「今日は絶対!お前を負かしてやるからな!」
:10/05/28 22:17
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#282 [我輩は匿名である]
「で、出来るならやってみろっ!」
整列しながら、直人と良介は睨み合う。
「…相手にしなきゃいいのに…」
薫はあぐらをかいて、膝の上に肘をついてため息を吐く。
「できないんでしょ、水無月くんはあなたと違って、そんなタイプじゃないもの」
「まぁな…」
響子と薫は呆れたように少し笑う。
直人達は礼をし、コートに散らばる。
1番背が高いチームメイトが、ジャンプボールでボールを取り合う。
と同時に、試合開始のブザーが鳴った。
:10/05/28 22:18
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#283 [我輩は匿名である]
直人は飛んできたボールを掴み取り、勢い良く良介目がけて投げつける。
「…あんなに目の敵にしなくても…」
投げるボールが全て良介に向けられているのに気付いた薫が、呆れたように呟く。
「私は逆に、何であいつを気にしないでいれるのかが不思議なんだけど」
奏子が薫に言った。
「……考えたくねぇんだよ、ああいう奴の事は」
薫は少しムスッとして言う。
「何も知らないくせに出しゃばって来やがって…。目障りなんだよ…」
直人の攻撃を交わしている良介をイライラした表情で見ながら、
薫が声を低くしてボソッと言ったのを聞いて、響子は不安そうに彼を見つめる。
:10/05/28 22:19
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#284 [我輩は匿名である]
「あーっ!ムカつく!!さっさと当たって外野行けよ!」
「うるさい!僕ばっかり狙うな!!」
「黙れ!一発ぐらい当てとかないと気が済まねぇんだ!!」
直人と良介は、言い合いながら必死に攻防を続ける。
クラスメイト達も何人かは動くのを止め、笑いながらその様子を眺めている。
「…なんか、引き分けで終わりそうだね」
奏子が響子に話し掛ける。
しかし、響子は暗い顔で「うん」と頷くだけだった。
:10/05/28 22:19
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