記憶を売る本屋 2
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#281 [我輩は匿名である]
「よっしゃあ!行くぜ!」

直人は気合いを入れるように声を出す。

飛鳥と試合時間がかぶってしまい、残りの3人は両方が見える位置に腰を下ろす。

「……あぁ!?」

相手チームの1人を見て、直人は目を丸くした。

相手は1年5組。良介のクラスだったのだ。

「はっ!君は!あの負け犬の友達!」

「だぁかぁら!君って言うな!負け犬って言うな!!」

直人はムカッとしながら大声で言い返す。

「今日は絶対!お前を負かしてやるからな!」

⏰:10/05/28 22:17 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#282 [我輩は匿名である]
「で、出来るならやってみろっ!」

整列しながら、直人と良介は睨み合う。

「…相手にしなきゃいいのに…」

薫はあぐらをかいて、膝の上に肘をついてため息を吐く。

「できないんでしょ、水無月くんはあなたと違って、そんなタイプじゃないもの」

「まぁな…」

響子と薫は呆れたように少し笑う。

直人達は礼をし、コートに散らばる。

1番背が高いチームメイトが、ジャンプボールでボールを取り合う。

と同時に、試合開始のブザーが鳴った。

⏰:10/05/28 22:18 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#283 [我輩は匿名である]
直人は飛んできたボールを掴み取り、勢い良く良介目がけて投げつける。

「…あんなに目の敵にしなくても…」

投げるボールが全て良介に向けられているのに気付いた薫が、呆れたように呟く。

「私は逆に、何であいつを気にしないでいれるのかが不思議なんだけど」

奏子が薫に言った。

「……考えたくねぇんだよ、ああいう奴の事は」

薫は少しムスッとして言う。

「何も知らないくせに出しゃばって来やがって…。目障りなんだよ…」

直人の攻撃を交わしている良介をイライラした表情で見ながら、

薫が声を低くしてボソッと言ったのを聞いて、響子は不安そうに彼を見つめる。

⏰:10/05/28 22:19 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#284 [我輩は匿名である]
「あーっ!ムカつく!!さっさと当たって外野行けよ!」

「うるさい!僕ばっかり狙うな!!」

「黙れ!一発ぐらい当てとかないと気が済まねぇんだ!!」

直人と良介は、言い合いながら必死に攻防を続ける。

クラスメイト達も何人かは動くのを止め、笑いながらその様子を眺めている。

「…なんか、引き分けで終わりそうだね」

奏子が響子に話し掛ける。

しかし、響子は暗い顔で「うん」と頷くだけだった。

⏰:10/05/28 22:19 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#285 [我輩は匿名である]
「どうかした?」

「…ううん、何でもない」

響子は笑って首を振る。

薫もじっと、響子を見つめる。

「大丈夫か?なんか元気ないけど」

「ん?うん、大丈夫だよ。眠たくなってきただけ」

響子はそう言って試合に目をやる。

しかし、薫は知っていた。

『眠くなってきた』というのは、長谷部今日子が悩んでいる時、

それを隠そうと誤魔化すのに使っていた決まり文句だという事を。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#286 [我輩は匿名である]
時間が経つのは早かった。

結局直人は良介にボールをぶつける事が出来ず、引き分けとなってしまった。

引き分けの場合、ジャンケンで勝敗を決める事になっている。

「水無月、お前責任とって勝ってこいよ」

クラスメイト達は口をそろえて直人に言う。

「負けても文句言うなよ」

「言うに決まってんだろ!!」

早くも逃げ腰な直人に、クラスメイトが怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#287 [我輩は匿名である]
一方4組も同じ状況だった。

「なんで僕なんだ!」

「お前がさっさと当たってやらねぇからだろ!

お前が当てられてりゃ、事が運んで勝ってたかもしれねぇのに!」

4組のクラスメイトは良介に詰め寄る。

良介は嫌そうにしているが、クラスメイトが「早く行け!」と背中を押した。

その先には直人が待っている。

「またてめぇかよ!」

ジャンケンの相手まで良介。

自分でまいた種ながら、直人はうんざりして怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#288 [我輩は匿名である]
「君が僕を当てるのにこだわるからだろ!本当、いい迷惑だよ!」

「こっちはお前の存在が迷惑なんだよ!!」

「お前達!さっさとしろ!」

係の教師に怒られ、2人はしぶしぶ黙る。

「…しょうもない…」

先に試合を黒星で終えていた飛鳥が、奏子の横で呆れたように呟く。

「応援してあげなよー、同じクラスじゃん」

「どっちでもいいよ、私球技大会好きじゃないし」

飛鳥は「早く終わらないか」と、それしか考えていないらしい。

奏子は少し怪訝そうに飛鳥を見つめる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#289 [我輩は匿名である]
「……何か悩んでるだろ」

その横で、薫がぼそっと響子に声をかける。

「え?」

「お前の『眠たいだけ』ほど信用できないものはないからな」

薫は小さく笑う。

それを見てホッとしたのか、響子も安堵の笑みを浮かべる。

「…悩んでたけど、どうでも良くなった」

「そうか?まぁ、何かあったら言えよ」

「うん」

響子は頷いて、薫の肩にもたれ掛かる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#290 [我輩は匿名である]
「あいつ…僕の前で響子ちゃんといちゃつきやがって…!」

「いいからジャンケンするぞ!終わんねぇだろ!」

悔しそうに薫を見る良介に、直人はまた声を荒げる。

「じゃーんけーん」

直人の声に合わせて、2人は手を出す。

直人はパー、良介はチョキ。

一瞬、コート内がしーんと静まり返った。

「水無月ー!!!」

8組の男子たちが、一斉に直人に殴りかかる。

逆に、4組の男子達は両手を上げて喜びの声を上げる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


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